最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
デサフィナード事件(控訴審)
★大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)735著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 久保田浩史
裁判所サイト9/25公表
--------------------
■事案
ジャスラック管理楽曲について無許諾で演奏をしていた
レストラン店舗経営者に対して演奏の差止などを求めた
事案の控訴審
原告(控訴人・被控訴人):ジャスラック(日本音楽著作権協会)
被告(被控訴人・控訴人):レストランカフェ店舗経営者
--------------------
■結論
一部変更
--------------------
■争点
条文 著作権法22条、112条、38条
1 請求の特定の有無
2 店舗における演奏の態様、状況
3 管理著作物の利用主体性
4 法38条1項の適否
5 差止の必要性
6 消滅時効の成否
7 損害額・不当利得額
--------------------
■判決内容
<争点>
1 請求の特定の有無
一審被告(店舗側)は、差止請求の趣旨があいまいで第三者の
演奏活動の自由を不当に侵害するおそれがある、として請求の
特定性を争点としていました。
しかし、原審同様、請求の趣旨として特定に欠けるところはない
と判断されています。
(14頁以下)
----------------------------------------
2 店舗における演奏の態様、状況
ピアノ演奏、ライブ演奏、貸切営業の演奏態様と楽曲の演奏状
況について検討が加えられています。
(15頁以下)
----------------------------------------
3 管理著作物の利用主体性
控訴審はクラブキャッツアイ事件上告審で示されたいわゆる
「カラオケ法理」
『上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである』
(最高裁昭和63.3.15昭和59(オ)1204音楽著作権侵害差止等)
について本件でも参酌すべきであるとしています。
そのうえで、(1)ピアノ演奏と(2)ライブ演奏のうち店舗主催の
ライブについては、管理性と利益性の2つの要件を充足し演奏
の主体を本件店舗の経営者である一審被告と判断しています。
これに対して、(3)ライブ演奏のうち第三者が主催するライブ
と(4)貸切営業における演奏については、管理性、利益性のい
ずれの要件も充足しないとして一審被告の管理著作物に関する
利用主体性を否定しています。
(34頁以下)
原審では、(3)第三者が主催するライブ演奏について、店舗と
演奏者との共同侵害行為を肯定していましたが、控訴審では
一転して店舗経営者による侵害性を否定しています。
----------------------------------------
4 法38条1項の適否
被告店舗側は、ピアノ演奏やライブ演奏での管理楽曲の利用は
営利を目的としたものではない(著作権法38条1項)として、
権利制限規定の適用を争点としていましたが、原審同様認めら
れていません。
(39頁以下)
被告店舗側は38条1項にいう営利行為は金銭の授受を伴う有償
行為であると解釈しましたが、裁判所は本条項の文理解釈上、
『演奏に営利目的があれば,聴衆から料金を受けず,又は実演家に報酬が支われない場合でも,同項の対象外であることは文言上明らかである。そうすると,営利を目的」とするとは,演奏が直接的に対価(金銭の授受等)を伴わず,間接的営利を目指している場合をも含むと解するほかない。』
として被告店舗側の主張を退けています(41頁)。
----------------------------------------
5 差止の必要性
本件店舗でのピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM形態
での演奏と本件店舗主催のライブにおける演奏についてピアノ
等の楽器演奏や歌唱によるジャスラック管理楽曲の使用差止の
必要が認められています。
また、ピアノの撤去、搬入禁止(著作権法112条2項)も認められ
ています。
(41頁以下)
----------------------------------------
6 消滅時効の成否
時効中断効が生じた平成14年7月13日以降の損害賠償請求権
は時効にかかっていないと判断されています。
平成13年5月30日から14年7月12日までの著作権侵害行為
に基づく使用料相当額の損害賠償請求権については、消滅
時効にかかるものの、この部分については不当利得返還義務
を被告店舗側は負うことになると判断されています。
(46頁以下)
----------------------------------------
7 損害額・不当利得額
結論として使用料相当損害額165万円余り、弁護士費用25万円
それに利息が認められています。
(48頁以下)
--------------------
■コメント
和歌山にあるライブハウス/フレンチイタリアンレストランでの
音楽著作物使用料をめぐって争われた、ジャスラック対デサ
フィナード事件の控訴審です。
原審と異なり、控訴審では、第三者主催のライブ演奏につい
ては、店舗側の侵害主体性が認められませんでしたが、ライ
ブハウスでのカラオケ法理の適用場面のリーディングケース
として重要なものとなりそうです。
なお、本判決と同日に出された店舗側がジャスラックの調査
方法の不法行為性を争った別訴の控訴審判決も公表されて
います。
大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)2557損害賠償請求控訴事件PDF
こちらも店舗側の請求は退けられています。
ところで先日、ジャスラック録音2課のかたのご講演を聴く
機会がありましたが、最近の傾向として地方公共団体など
の公共施設での不払事例が散見されるようです(カラオケ教
室など)。ジャスラックとの契約、和解交渉では、弁護士さん
の腕の見せ所かもしれません。
--------------------
■過去のブログ記事
2007年2月10日
「ジャスラック対デサフィナード」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決
--------------------
■参考サイト
企業法務戦士の雑感(2007/2/5記事)
■[企業法務][知財] JASRAC叩けばメディアが儲かる?
BENLI(2007/2/17記事)
デサフィナード事件
デサフィナードサイト(デサフィナード日記、JASRACについて考える掲示板)
Desafinado
--------------------
■参考文献
田村善之「検索サイトをめぐる著作権法の諸問題-寄与侵害、
間接侵害、フェア・ユース、引用等(2)-」
『知的財産法政策学研究』17号(2007)83頁以下
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」田村善之編著
『新世代知的財産法政策学の創成』(2008)253頁以下
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論についてー
私的利用領域の拡大と差止範囲画定の視点から」
野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法』(2008)228頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体ー不法行為法および
私的複製・公衆送信権の視点から」同上書197頁以下
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」
同上書261頁以下
JASRAC判決での損害額の算定、使用料相当額、弁護士費用
について、
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編
『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)
273頁以下
--------------------
■参考判例
バレエ「アダージェット」事件
東京地裁平成10.11.20平成8(ワ)19539損害賠償等請求事件
歌謡ショープロモーター事件
東京地裁平成14.6.28平成13(ワ)15881著作権侵害差止等請求事件PDF
東京高裁平成15.1.16平成14(ネ)4053著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
社交ダンス教室事件
名古屋高裁平成平成16.3.4平成15(ネ)233著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
名古屋地裁平成15.2.7平成14(ワ)2148著作権侵害差止等請求事件PDF
--------------------
■追記(08/10/06)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]消えたピアノ、消えない灯。
----------------------------------------
■追記(09/1/26)
参考文献
今西頼太「デサフィナード事件」『著作権研究』35号(2008)256頁以下
--------------------
■追記(09/6/12)
本山雅弘「飲食店舗における楽曲演奏の諸態様と著作権侵害の成否」『コピライト』578号(2009)34頁以下
デサフィナード事件(控訴審)
★大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)735著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 久保田浩史
裁判所サイト9/25公表
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■事案
ジャスラック管理楽曲について無許諾で演奏をしていた
レストラン店舗経営者に対して演奏の差止などを求めた
事案の控訴審
原告(控訴人・被控訴人):ジャスラック(日本音楽著作権協会)
被告(被控訴人・控訴人):レストランカフェ店舗経営者
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■結論
一部変更
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■争点
条文 著作権法22条、112条、38条
1 請求の特定の有無
2 店舗における演奏の態様、状況
3 管理著作物の利用主体性
4 法38条1項の適否
5 差止の必要性
6 消滅時効の成否
7 損害額・不当利得額
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■判決内容
<争点>
1 請求の特定の有無
一審被告(店舗側)は、差止請求の趣旨があいまいで第三者の
演奏活動の自由を不当に侵害するおそれがある、として請求の
特定性を争点としていました。
しかし、原審同様、請求の趣旨として特定に欠けるところはない
と判断されています。
(14頁以下)
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2 店舗における演奏の態様、状況
ピアノ演奏、ライブ演奏、貸切営業の演奏態様と楽曲の演奏状
況について検討が加えられています。
(15頁以下)
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3 管理著作物の利用主体性
控訴審はクラブキャッツアイ事件上告審で示されたいわゆる
「カラオケ法理」
『上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである』
(最高裁昭和63.3.15昭和59(オ)1204音楽著作権侵害差止等)
について本件でも参酌すべきであるとしています。
そのうえで、(1)ピアノ演奏と(2)ライブ演奏のうち店舗主催の
ライブについては、管理性と利益性の2つの要件を充足し演奏
の主体を本件店舗の経営者である一審被告と判断しています。
これに対して、(3)ライブ演奏のうち第三者が主催するライブ
と(4)貸切営業における演奏については、管理性、利益性のい
ずれの要件も充足しないとして一審被告の管理著作物に関する
利用主体性を否定しています。
(34頁以下)
原審では、(3)第三者が主催するライブ演奏について、店舗と
演奏者との共同侵害行為を肯定していましたが、控訴審では
一転して店舗経営者による侵害性を否定しています。
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4 法38条1項の適否
被告店舗側は、ピアノ演奏やライブ演奏での管理楽曲の利用は
営利を目的としたものではない(著作権法38条1項)として、
権利制限規定の適用を争点としていましたが、原審同様認めら
れていません。
(39頁以下)
被告店舗側は38条1項にいう営利行為は金銭の授受を伴う有償
行為であると解釈しましたが、裁判所は本条項の文理解釈上、
『演奏に営利目的があれば,聴衆から料金を受けず,又は実演家に報酬が支われない場合でも,同項の対象外であることは文言上明らかである。そうすると,営利を目的」とするとは,演奏が直接的に対価(金銭の授受等)を伴わず,間接的営利を目指している場合をも含むと解するほかない。』
として被告店舗側の主張を退けています(41頁)。
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5 差止の必要性
本件店舗でのピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM形態
での演奏と本件店舗主催のライブにおける演奏についてピアノ
等の楽器演奏や歌唱によるジャスラック管理楽曲の使用差止の
必要が認められています。
また、ピアノの撤去、搬入禁止(著作権法112条2項)も認められ
ています。
(41頁以下)
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6 消滅時効の成否
時効中断効が生じた平成14年7月13日以降の損害賠償請求権
は時効にかかっていないと判断されています。
平成13年5月30日から14年7月12日までの著作権侵害行為
に基づく使用料相当額の損害賠償請求権については、消滅
時効にかかるものの、この部分については不当利得返還義務
を被告店舗側は負うことになると判断されています。
(46頁以下)
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7 損害額・不当利得額
結論として使用料相当損害額165万円余り、弁護士費用25万円
それに利息が認められています。
(48頁以下)
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■コメント
和歌山にあるライブハウス/フレンチイタリアンレストランでの
音楽著作物使用料をめぐって争われた、ジャスラック対デサ
フィナード事件の控訴審です。
原審と異なり、控訴審では、第三者主催のライブ演奏につい
ては、店舗側の侵害主体性が認められませんでしたが、ライ
ブハウスでのカラオケ法理の適用場面のリーディングケース
として重要なものとなりそうです。
なお、本判決と同日に出された店舗側がジャスラックの調査
方法の不法行為性を争った別訴の控訴審判決も公表されて
います。
大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)2557損害賠償請求控訴事件PDF
こちらも店舗側の請求は退けられています。
ところで先日、ジャスラック録音2課のかたのご講演を聴く
機会がありましたが、最近の傾向として地方公共団体など
の公共施設での不払事例が散見されるようです(カラオケ教
室など)。ジャスラックとの契約、和解交渉では、弁護士さん
の腕の見せ所かもしれません。
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■過去のブログ記事
2007年2月10日
「ジャスラック対デサフィナード」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決
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■参考サイト
企業法務戦士の雑感(2007/2/5記事)
■[企業法務][知財] JASRAC叩けばメディアが儲かる?
BENLI(2007/2/17記事)
デサフィナード事件
デサフィナードサイト(デサフィナード日記、JASRACについて考える掲示板)
Desafinado
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■参考文献
田村善之「検索サイトをめぐる著作権法の諸問題-寄与侵害、
間接侵害、フェア・ユース、引用等(2)-」
『知的財産法政策学研究』17号(2007)83頁以下
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」田村善之編著
『新世代知的財産法政策学の創成』(2008)253頁以下
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論についてー
私的利用領域の拡大と差止範囲画定の視点から」
野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法』(2008)228頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体ー不法行為法および
私的複製・公衆送信権の視点から」同上書197頁以下
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」
同上書261頁以下
JASRAC判決での損害額の算定、使用料相当額、弁護士費用
について、
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編
『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)
273頁以下
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■参考判例
バレエ「アダージェット」事件
東京地裁平成10.11.20平成8(ワ)19539損害賠償等請求事件
歌謡ショープロモーター事件
東京地裁平成14.6.28平成13(ワ)15881著作権侵害差止等請求事件PDF
東京高裁平成15.1.16平成14(ネ)4053著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
社交ダンス教室事件
名古屋高裁平成平成16.3.4平成15(ネ)233著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
名古屋地裁平成15.2.7平成14(ワ)2148著作権侵害差止等請求事件PDF
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■追記(08/10/06)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]消えたピアノ、消えない灯。
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■追記(09/1/26)
参考文献
今西頼太「デサフィナード事件」『著作権研究』35号(2008)256頁以下
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■追記(09/6/12)
本山雅弘「飲食店舗における楽曲演奏の諸態様と著作権侵害の成否」『コピライト』578号(2009)34頁以下