最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
映画「久高島」事件
★東京地裁平成20.7.16平成19(ワ)11418著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 佐野信
裁判官 国分隆文
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■事案
沖縄県にある久高島の年中行事や祭りを題材としたドキュメンタリー映画
の取扱いについて取り交わされた覚書の内容をめぐって争われた事案
原告:映画製作者(甲)
被告:映画製作者(乙)
映像制作会社
--------------------
■結論
請求棄却
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■争点
条文 ----
1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否
2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否
3 被告会社に対する請求の可否
--------------------
■判決内容
<経緯>
S53.1 甲乙らが沖縄県久高島での行事や祭り「イザイホー」を撮影
〜54.1
S54.2.26 被告会社設立 甲が代表取締役就任、乙が取締役就任
甲乙間で紛争発生
S54.11.30 原告甲が代表取締役を退任
S56.10.29 被告乙が代表取締役に就任
S57.12.30 甲乙間で本件覚書締結
S59.7 2編の本件映画が完成
被告会社が本件映画のビデオ、DVDを取扱い
--------------------
<争点>
1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否
甲乙らが映像を撮影後、甲乙間で紛争が生じたことから
映画の編集作業が中断していました。
このドキュメンタリー映画の取扱いについてその後、仲介
者を得たうえで覚書を甲乙間で取り交わし、映画は完成。
本訴提起の時点で被告会社のHPで本件映画のビデオや
DVDの宣伝広告がされていました。
こうした経緯を踏まえ原告甲は、被告乙に対して本件覚書
を根拠として本件映画のプリント、ネガ原版、素材(残ネガ、
音素材など)の使用差止を請求しました。
この点について、裁判所は、
『本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,「本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。」というものであり,この記載に基づいて,被告乙が,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を使用しないという具体的な義務を負わされたものと解釈することは困難であり,他にこの解釈を首肯し得るに足る証拠もない』
(12頁以下)
として、被告乙に対する原告甲の請求を否定しました。
ところで、そもそも覚書(契約)を根拠にして差止請求
を立てることはできませんし、著作権の不行使を合意し
ている覚書を前提としている以上、著作権侵害に基づく
差止請求を主張するのも困難なところです。
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2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否
原告甲は、本件覚書を根拠として被告乙に対して本件映
画のプリント、ネガ原版、素材を久高島の地域住民の自治
組織である久高区に交付するよう求めました。
この点について、裁判所は、
『「完成した映画プリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」というものであり,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先としては,久高島の自治組織である久高区又は適切な公的機関と例示するのみで,具体的な提供先を規定せず,具体的な提供先は,本件映画実行委員会,原告及び被告乙の協議によって決定するという内容であることが明らかである』
(13頁)
そして、提供先については甲乙間で争いがあること、関
係者間で協議ももたれていないことから、提供先が久高
区に特定されていないとして、被告乙が久高区に交付す
べき義務を負っていないと判断。
結論として、原告甲の請求を否定しました。
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3 被告会社に対する請求の可否
原告甲は、本件映画の管理先として設立された被告会社
に対して、本件映画のプリント、ネガ原版、素材の使用差止、
本件映画のDVD原版、DVD製品の廃棄を求めました。
しかし、被告会社は本件覚書の契約当事者ではないこと、
また、被告乙は被告会社の代表取締役でしたが、法人格
濫用、信義則違反などの理由もないとして原告甲の請求
は否定されています。
(14頁)
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■コメント
本件覚書の内容は、9頁以下に詳しく掲載されています。
覚書はドキュメンタリー映画の民俗資料としての社会的
価値を確認していて、つまるところ合意者間では、無名の、
しかもパブリックドメインの著作物のようにして取扱おう、
と取り決めた感じの内容になっています。
話合いの経緯からすれば、この内容がぎりぎりの覚書だっ
たのかもしれませんが、仲介者に下駄を預けるあっせん
規定(規定(コ)11頁)も実効性がなかったようで、なんの
ための覚書取り交わしだったのか、わからなくなってしま
いました。
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ところで、久高島のホームページによると、平成14年に撮
影開始、18年に完成された映画「久高オデッセイ」(監督
大重潤一郎)が公開されています(68分)。
30年近くまえに撮影された素材で2編合計で4時間のボリ
ュームを持つ本件ドキュメンタリー映画がこの「久高オデッ
セイ」の影に埋もれてしまわないと良いのですが。
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映画「久高島」事件
★東京地裁平成20.7.16平成19(ワ)11418著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 佐野信
裁判官 国分隆文
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■事案
沖縄県にある久高島の年中行事や祭りを題材としたドキュメンタリー映画
の取扱いについて取り交わされた覚書の内容をめぐって争われた事案
原告:映画製作者(甲)
被告:映画製作者(乙)
映像制作会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 ----
1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否
2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否
3 被告会社に対する請求の可否
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■判決内容
<経緯>
S53.1 甲乙らが沖縄県久高島での行事や祭り「イザイホー」を撮影
〜54.1
S54.2.26 被告会社設立 甲が代表取締役就任、乙が取締役就任
甲乙間で紛争発生
S54.11.30 原告甲が代表取締役を退任
S56.10.29 被告乙が代表取締役に就任
S57.12.30 甲乙間で本件覚書締結
S59.7 2編の本件映画が完成
被告会社が本件映画のビデオ、DVDを取扱い
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<争点>
1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否
甲乙らが映像を撮影後、甲乙間で紛争が生じたことから
映画の編集作業が中断していました。
このドキュメンタリー映画の取扱いについてその後、仲介
者を得たうえで覚書を甲乙間で取り交わし、映画は完成。
本訴提起の時点で被告会社のHPで本件映画のビデオや
DVDの宣伝広告がされていました。
こうした経緯を踏まえ原告甲は、被告乙に対して本件覚書
を根拠として本件映画のプリント、ネガ原版、素材(残ネガ、
音素材など)の使用差止を請求しました。
この点について、裁判所は、
『本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,「本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。」というものであり,この記載に基づいて,被告乙が,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を使用しないという具体的な義務を負わされたものと解釈することは困難であり,他にこの解釈を首肯し得るに足る証拠もない』
(12頁以下)
として、被告乙に対する原告甲の請求を否定しました。
ところで、そもそも覚書(契約)を根拠にして差止請求
を立てることはできませんし、著作権の不行使を合意し
ている覚書を前提としている以上、著作権侵害に基づく
差止請求を主張するのも困難なところです。
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2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否
原告甲は、本件覚書を根拠として被告乙に対して本件映
画のプリント、ネガ原版、素材を久高島の地域住民の自治
組織である久高区に交付するよう求めました。
この点について、裁判所は、
『「完成した映画プリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」というものであり,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先としては,久高島の自治組織である久高区又は適切な公的機関と例示するのみで,具体的な提供先を規定せず,具体的な提供先は,本件映画実行委員会,原告及び被告乙の協議によって決定するという内容であることが明らかである』
(13頁)
そして、提供先については甲乙間で争いがあること、関
係者間で協議ももたれていないことから、提供先が久高
区に特定されていないとして、被告乙が久高区に交付す
べき義務を負っていないと判断。
結論として、原告甲の請求を否定しました。
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3 被告会社に対する請求の可否
原告甲は、本件映画の管理先として設立された被告会社
に対して、本件映画のプリント、ネガ原版、素材の使用差止、
本件映画のDVD原版、DVD製品の廃棄を求めました。
しかし、被告会社は本件覚書の契約当事者ではないこと、
また、被告乙は被告会社の代表取締役でしたが、法人格
濫用、信義則違反などの理由もないとして原告甲の請求
は否定されています。
(14頁)
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■コメント
本件覚書の内容は、9頁以下に詳しく掲載されています。
覚書はドキュメンタリー映画の民俗資料としての社会的
価値を確認していて、つまるところ合意者間では、無名の、
しかもパブリックドメインの著作物のようにして取扱おう、
と取り決めた感じの内容になっています。
話合いの経緯からすれば、この内容がぎりぎりの覚書だっ
たのかもしれませんが、仲介者に下駄を預けるあっせん
規定(規定(コ)11頁)も実効性がなかったようで、なんの
ための覚書取り交わしだったのか、わからなくなってしま
いました。
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ところで、久高島のホームページによると、平成14年に撮
影開始、18年に完成された映画「久高オデッセイ」(監督
大重潤一郎)が公開されています(68分)。
30年近くまえに撮影された素材で2編合計で4時間のボリ
ュームを持つ本件ドキュメンタリー映画がこの「久高オデッ
セイ」の影に埋もれてしまわないと良いのですが。
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