最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

産業用ロボット営業秘密事件

名古屋地裁平成20.3.13平成17(ワ)3846不正競争防止法に基づく差止等請求事件PDF
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 松並重雄
裁判官      前田郁勝
裁判官      片山博仁


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■事案
「産業用ロボットシステムの製造販売等を目的とするX社の管理する設計図面,設計CADデータ等が営業秘密に当たるとされた上,X社と同種の産業用ロボットを取り扱う会社Y1,Y2においてX社を退社したY3,Y4の設計等に係る産業用ロボットを製造,販売した行為が不正競争防止法2条1項7号,8号の不正競争行為に当たるとされた事例」
(判示事項の要旨より)

原告:産業用ロボットシステム製造販売会社(X)
被告:ダイカスト生産設備用離型剤販売会社(Y1)
    ダイカスト生産設備販売商社(Y2)
    原告元従業員(Y3、Y4)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項7号、8号

1 プライスリストに関する不正競争行為性
2 設計図等に関する不正競争行為性
3 損害論

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■判決内容

<経緯>

S42.2    被告Y1設立
S47.12   原告会社設立
H8.11    被告Y2がY1子会社として設立される
H17.1.31  被告Y3、Y4が原告会社を退職
H17.4.1   Y3が株式会社C設立、Y3が代表取締役に、Y4が取締役に就任
         Y1の常務取締役D、Y2の常務取締役EがC社の取締役に就任
         (C社はその後Y2に吸収合併)


<争点>

1 プライスリストに関する不正競争行為性

1.営業秘密性の有無

(1)有用性

原告の過去に受注したロボットシステムの部品構成や仕入額等が
記載された明細(本件プライスリスト)の営業秘密性について、
まず有用性の要件に関して、裁判所は、

これらの情報は,ロボットシステムを設計,製造,販売する同業他社にとって,汎用部品及びその仕入先,外注部品の外注先を選択する上において,また,当該仕入先,外注先との価格交渉をする上において,有益な情報である
(31頁以下)

として、有用性を肯定しています。

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(2)秘密管理性

次に、秘密管理性について、

「秘密として管理されている」とは,当該営業秘密について,従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密としての管理状態を維持していることをいい,具体的には,当該情報にアクセスできる者が制限されていること,当該情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていることなどが必要と解され,要求される情報管理の程度や態様は,秘密として管理される情報の性質,保有形態,企業の規模等に応じて決せられるものというべきである。
(33頁)

との一般論を示したうえで、諸事情を検討しています。

後掲書「座談会」の末吉亙先生にならって「プラス事実」と
「マイナス事実」に諸事情を分けてみると、

(プラス事実)
 ・プライスリストデータは、限定された者のみがアクセス
 ・パスワードを設定していた
 ・印刷する際は、許可が必要
 ・朝礼で時々注意していた

(マイナス事実)
 ・共通のパスワードを入力
 ・パスワードの更新はされていない
 ・PCにパスワードを記載した付箋を貼っている
 ・管理方法のマニュアルはない
 ・「社外秘」などの取決めがない
 ・印刷されたものが廃棄されない


こうした事情のうえで、本件プライスリストの秘密管理性を
裁判所は肯定しています。
(32頁以下)

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(3)非公知性

本件プライスリストについて、刊行物に記載されていたなどの
事実がないとして、非公知性が肯定されています。
(34頁)

以上から、本件プライスリストの営業秘密性が肯定されました。

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2.不正使用行為の有無

Y3、Y4の退職の経緯やメールのやりとりなどを踏まえた上で
Y3らに原告の営業上の秘密を不正に利用する意図(「図利加害目的」)
があったと判断されましたが、結論的には、本件プライスリスト
をY1側に開示した事実や使用した事実が認定されませんでした。
(35頁以下)

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2 設計図等に関する不正競争行為性

1.営業秘密性の有無

バリ取りツール(円形状のヤスリ刃具)の図面や設計CADデータ
など(あわせて本件設計図等)の営業秘密性についてさらに争点
となっています。

(1)有用性

競業者が本件設計図等をみれば、同等のものを製作することが
できるとして、本件設計図等の有用性を肯定しています。
(40頁)

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(2)秘密管理性

(A)図面について

(プラス事実)
 ・設計図は鍵付きキャビネットで保管
 ・設計部門の者にアクセスが制限
 ・設計部門以外の者は管理台帳への記入を要求
 ・外注先との秘密保持念書締結
 ・仕入先15社との取引基本覚書締結

(マイナス事実)
 ・キャビネットが施錠されていない
 ・「部外秘」表示無し
 ・終業後机上に放置
 ・キャビネットに返却されず紛失もあった
 ・外注先に交付した図面のコピーの回収の不徹底
 ・外注先との秘密保持念書締結は5社のみ

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(B)CADデータについて

(プラス事実)
 ・技術部門のコンピュータ端末12台のみでアクセス可能

(マイナス事実)
 ・パスワード設定なし
 ・「部外秘」表示無し
 ・データをコンピュータ端末にコピーして利用
 ・営業部門の者にデータをメールで送信、注意喚起なし
 ・取引先にデータを提供、注意喚起なし
 ・顧客向けデータ印刷物添付の取扱説明書交付、注意喚起なし


こうした事実を前提としたうえで、本件設計図等の営業
秘密性を裁判所は肯定しています。
(40頁以下)

ところで、外注先や仕入れ先との秘密保持念書などがここ
でプラス事実として判断されていますが、本来、誰にとっ
て「客観的」かということで原告会社と従業員との間での
就業規則(13頁)の適否や秘密保持契約の有無が検討され
るべきところですが、説示部分に言及がありません。

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(3)非公知性

結論として、非公知性を肯定しています。
(45頁)

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2.不正使用行為の有無

原告システムと被告システムの類似性などから、不正目的
を肯定、そのうえで本件設計図等の不正使用の事実につい
て、Y3らのデータ等の持ち出し、使用したうえでの被告シ
ステムの設計が認められています(不正競争防止法2条1項7号)。

また、Y2ら被告会社については、Y3らから営業秘密の開示
を受けて被告システムを販売しているとして、不正競争防
止法2条1項8号の不正競争行為にあたるとされています。
(45頁以下)

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3 損害論

被告システムのバリ取りロボット2台販売の粗利合計325万
円余りが損害額として認定されています。
(51頁以下)

結論として、類似図面や本件CADデータ等の使用によるロボ
ットシステムの設計製造の差止、類似図面・CADデータ等の
廃棄、損害賠償が肯定されました。

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■コメント

産業用ロボットシステムに関して退職従業員による営業秘密
の持ち出しが争われた事案です。

上司の対応等に不満を抱いた(35頁)従業員が退職後、競業
する会社を設立。ライバル会社もこの新会社立ち上げに関与
していました。

結論としては、緩やかに秘密管理性を肯定しています。
従業員の退職前後の経緯やCADデータの持ち出しを推認でき
る事実の存在などもあって、不正取得の要件なども含め
「全体的に勘案」された事例かと思われます(後掲書小松343頁
以下参照)。

もっとも、原告会社(資本金4500万円、売上高86億円、正社員
290名)が、「アルミダイカスト分野で自動化にかかせない産
業用ロボットシステムでの国内シェアNo.1」(「中部地域のニッ
チトップ中小企業」経産省中部経済産業局中小企業課HPより)
であるとすると、政策的価値判断として、「この分野でのリーデ
ィングカンパニーであれば、技術部門の社員と誓約書の取り交わ
しもないこの程度の情報管理では、不正競争防止法上の秘密管
理性をクリアさせるべきではない」(秘密情報保有事業者に相応
の自助努力を促す不正競争防止法の趣旨が骨抜きになる)という
判断もあるかな、というのが第一印象です。

なお、「事前の紛争予防機能の発揮という趣旨を秘密管理要件に
読み込む発想」に言及するものとして、後掲田村・津幡193頁参照。

控訴審の判断に注目したいところです。

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■参考文献

田村善之『不正競争法概説第二版』(2003)328頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)332頁以下
牧野利秋監修『座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論
         (2005)154頁以下
末吉 亙「営業秘密の侵害について」第二東京弁護士会知的財産権法研究会編  『不正競争防止法の新論点』(2006)103頁以下
小野昌延編『新注解不正競争防止法新版』(下)(2007)760頁以下
川瀬幹夫「企業における営業秘密の保護」日本弁理士会中央知的財産研究所編  『不正競争防止法研究』(2007)249頁以下
田村善之、津幡笑「秘密管理性」『商標・意匠・不正競争判例百選
         (2007)192頁以下
永野周志、砂田太士、播磨洋平『営業秘密と競業避止義務の法務
         (2008)50頁以下

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■指針

「最低限必要な管理水準」(裁判例の集積)と「望ましい管理水準」
について、
経産省「営業秘密管理指針平成15年1月30日、平成17年10月12日改訂」参照

営業秘密管理指針PDF


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