最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

リース建機管理プログラム事件

大阪地裁平成20.5.20平成16(ワ)1091等損害賠償等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      高松宏之

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■事案

建機・仮設レンタル業向けのソフトウェアを巡って、営業誹謗行為性、
営業秘密性、著作権侵害性などが争われた事案


第1事件:損害賠償等請求事件(営業誹謗事件)
第2事件:著作権侵害差止等請求事件
第3事件:著作権侵害差止等請求事件

第1事件原告、第2事件被告:建機等レンタル・リース管理ソフト制作販売会社(RBC社)
第1事件被告、第2事件原告、第3事件原告:建機等レンタル・リース管理ソフト制作販売会社(KCS社)
第1事件被告:KCS取締役Y1
第2、第3事件被告:KCS元従業員Xら


RBC社ソフト:「Mr.レンタル」「Team S」など
KCS社ソフト:「貸出君」「貸出君for win廉価版」「貸出君ASP新版」

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■結論

第1事件   :請求一部認容
第2、第3事件:請求棄却


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■争点

条文 著作権法21条、
   不正競争防止法2条1項14号、7号、8号、6項


1 「貸出君新版」に対する著作権侵害性
2 「貸出君」に対する著作権侵害性
3 「開発方針」書類等の営業秘密性
4 本件文書送付の営業誹謗行為性
5 損害論
6 信用回復措置の要否

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■判決内容

<経緯>

S54.9   KCS社設立
S56.7   X2が内田洋行からKCS社に出向
H14.9.20  Y1が取締役就任
H14.12.6  X2が取締役不再任
H15.1.6  KCS社のシステム開発責任者X3が退職
        X6〜8がKCSを退職
H15.3.6  KCS社元従業員によってRBC社が設立
        X1が代表取締役に就任、X3〜5が取締役就任
H15.3.29  KCS社が取引先に文書1送付
H15.3.31  KCS社がX1、X4、X5を懲戒解雇
H15.10   KCS社が取引先に文書2送付
H15.12.4  KCS社が取引先に文書3送付

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<争点>

1 「貸出君新版」に対する著作権侵害性

RBC社のプログラムが、KCS社のプログラム「貸出君新版」を複製
あるいは翻案して作成されたものかどうかがまず検討されています。

結論としては、プログラムの開発時期、オペレーションマニュアル
に関する証拠のねつ造の疑い、盗難届の内容、元従業員によるKCS社
プログラム関連成果物の持ち出し事実が認められないこと、などから、
RBC社のプログラムの「貸出君新版」に対する著作権侵害性は否定さ
れています。
(185頁以下)

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2 「貸出君」に対する著作権侵害性

RBC社のプログラムとKCS社のプログラム「貸出君」のソースコード
などの対比から複製あるいは翻案の可能性をKCS社は主張していま
した(236頁以下)。

この点、たとえばソースコードの対比検討については、

Win版について,KCSらが同一であると指摘する部分の割合はRBCプログラム全体の30%ないし10%であるところ,その大半が創作性のない命令,関数又は文法であり,それ以外の部分は,項目名称であって,同一業界ないし同一業種で用いられるビジネスソフトでは,項目名称自体が近似する上,プログラムを開発した企業では,項目名称のプログラム表現にもよく似た略語を統一的に用いるのが一般であることに照らせば,乙第84号証及び乙第86号証における対比対象プログラムにおいて,RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものとは到底認を認めるに足りる証拠はない。

ビジネスサーバ版については,そもそもKCSらが同一であると指摘する部分の割合がRBCプログラム全体の1%にも満たず,同一であると指摘する部分の記載内容もCOBOL言語における命令にすぎず創作性が認められないものであるから,乙第87号証及び乙第88号証における対比対象プログラムにおいて,RBCプログラムが貸出君プログラムに依拠して作成されたものとは到底認められず,他にRBCプログラムが貸出君プログラムに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はない。

などの点から、RBC社のプログラムに「貸出君」に対する依拠性が
ないとしています。
(240頁)

結論としては、RBC社のプログラムは、貸出君プログラムとは異な
る新しいプログラムであって両者に同一性はなく、著作権侵害性は
認められないとしています。

なお、上記プログラムのほかに開発用書類やオペレーションマニ
ュアルなどの著作物の著作権侵害性も争点となっていますが、い
ずれも侵害性が否定されています。
(248頁以下)

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3 「開発方針」書類等の営業秘密性

新製品の開発方針などが記載された書類等の営業秘密性が争点と
なっています(不正競争防止法2条6項)。

結論としては、従業員に営業秘密であると認識させるような措置
がとられていないなどとして秘密管理性を欠くものと判断。
営業秘密性が否定されています。
(251頁以下)

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4 本件文書送付の営業誹謗行為性

KCS社による文書1〜3の取引先への送付行為やY1、KCS社従業員の
取引先に対する発言について、虚偽事実告知として営業誹謗行為性
(不正競争防止法2条1項14号)が肯定されています。
(254頁以下)

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5 損害論

RBC社の被った損害として、信用毀損(無形損害)部分として200万
円、弁護士費用相当額として20万円が認められています。
(266頁以下)

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6 信用回復措置の要否

虚偽事実告知によってRBC社の信用が毀損されたわけですが、損害
賠償のほかに不正競争防止法14条に基づく信用回復措置(謝罪文送
付)の要否が検討されていますが、謝罪文送付の必要性が認められ
ています。
(268頁以下)


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■コメント

不正経理問題などもあって幹部社員と経営者が対立、
幹部社員らが新会社を設立し、競合するソフトを開発
・販売したことから、営業秘密の持ち出しなどが争わ
れる事態となりました(176頁)。

裁判では、経営者側の主張がことごとく退けられる
(しかも、取引先への通知書が14号に該当してしまう)
結果となっています。


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■参考サイト

株式会社 アールビィシィ RBC -Regional Business Contribution co.ltd-

株式会社 ケイシィエス 貸出君 建機 仮設 レンタルシステム 修理システム ケイシイエス