裁判所HP 知的財産裁判例集より
ヴォンダッチ二重譲渡事件(控訴審)
★知財高裁平成20.3.27平成19(ネ)10095著作権譲渡登録抹消請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀
★原審
東京地裁平成19.10.26平成18(ワ)7424著作権譲渡登録抹消請求事件PDF
■事案
ヴォンダッチ(フォン・ダッチ/Von Dutch ケネス・ハワード)の
著作物の著作権譲渡の際の二重譲渡と対抗要件充足性が争点と
なった事案の控訴審
原告(控訴人) :被服等製造販売会社(アメリカ法人)
被告(被控訴人):被服等輸入販売者(韓国法人代表取締役)
■結論
原判決一部変更
■争点
条文 著作権法第77条
1 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
2 真正な登録名義の回復を原因とする登録手続請求の可否
■判決内容
<争点>
1 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
(1)被告の著作権譲渡契約の成否
著作権の二重譲渡状況において、契約関係としては
時間的には原告に劣後する被告人が、著作権の登録
については原告よりも先に受けていた本事案でしたが、
原審では原告と被告は対抗関係に立つものとして、
先に登録を受けていた被告が原告に優先するものと
判断されていました。
しかし、控訴審では、被告の著作権譲渡契約自体が
不成立、あるいは虚偽表示無効(民法94条1項)と
判断されて、原告と被告は著作権の二重譲渡の関係に
そもそも立たないものとされました。
(23頁以下)
(2)被告は背信的悪意者にあたるか
なお、「念のため、」として原告と被告が著作権の
二重譲渡の関係にあったと仮定した場合に、被告が
背信的悪意者に該当するかどうかも検討されています。
この点について、裁判所は、被告による著作権取得の
際の対価の支払がないこと、譲渡の意思が認められない
ことや原告取引先に高額な対価での売却を提案している
点などから、
『被控訴人は,控訴人が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら,控訴人の円滑な事業の遂行を妨げ,又は,控訴人に対して本件著作権を高額で売却する等,加害又は利益を図る目的で,A及びBに働きかけて本件譲渡証明書及び単独申請承諾書に署名させ,本件譲渡登録を経由したものと推認することができ,したがって,被控訴人は背信的悪意者に該当するものと認めるのが相当である。』
(31頁)
被告は背信的悪意者に該当すると判断されています。
結論として、被告は、原告への本件著作権の移転に
つき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係
を有する第三者ではないこととなりました。
2 真正な登録名義の回復を原因とする登録手続請求の可否
原告は、主位的に本件著作物について原告に対する
真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録
手続をすることを求め、予備的に本件譲渡登録の
抹消登録手続をすることを求めていました。
この主位的請求の点について、控訴審は、
『なお,控訴人は,著作権譲渡登録に関する主位的請求として,真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続を求めているが,実体的な権利変動の過程と異なる登録を請求する権利は当然には発生しないところ,控訴人は,A及びB,並びに上野商会の承諾があることについて主張立証しないから,同請求は主張自体失当である。』
(15頁)
として、債権的(中間省略特約)さらには
実体的な権利の効力としての準物権的な
請求権(妨害排除請求)の可否などについて
踏み込んだ争点とはなっていません。
----------
■コメント
一審(請求棄却)とは反対に、原告の実質勝訴と
なりました。
一審では、著作権の二重譲渡を前提に、
対抗問題(著作権法77条)として処理されて
いましたが、控訴審ではそもそも対抗問題に
ならないこと、仮になったとしても、
被告は背信的悪意者として保護されないとして、
原告の著作権の確認、著作権譲渡登録の
抹消手続請求が認められました。
一審と控訴審の判断を比べてみると、
控訴審ではカネの流れなどをより詳細に検討
した上で(23頁以下)、被告の譲渡契約が
譲渡の実質を伴わないものであると判断して
いることがわかります。
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■過去のブログ記事
ヴォンダッチ二重譲渡事件〜著作権 著作権譲渡登録抹消請求事件判決(知的財産裁判例集)〜
----------
■参考文献
足立謙三「著作権の移転と登録」
『裁判実務大系27』(1997)260頁以下
*本事案とは逸れますが、著作権の登録に関連して、
岡邦俊「著作権の登録と第三者-「あゝ玉杯に花うけて」事件」
『著作権判例百選』(1987)150頁以下
塩澤一洋「著作者以外の者による著作者実名登録抹消請求の可否」
『著作権研究』25号(1999)191頁以下
同 「実名登録抹消請求-フジサンケイグループ事件」
『著作権判例百選第三版』(2001)190頁以下
菱沼剛「著作権の登録による権利の帰属に関わる一応の推定」
『知的財産法政策学研究』14号(2007)257頁以下
----------
■参考判例
実名登録抹消請求について
智恵子抄事件(一審)
東京地裁昭和63.12.23昭和41(ワ)12563PDF
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■追記08/10/24
TKCローライブラリー速報判例解説(2008/8/5掲載)
駒田泰土「米国人著作者の著作物に係る著作権の譲渡契約およびその移転の準拠法は日本法であるとし、当該著作権の譲渡登録名義人は、当該著作権を有しておらず、または少なくとも背信的悪意者であって、当該著作権の移転につき、わが著作権法77条所定の対抗要件の欠缺を主張しうる正当な利益を有する第三者に該当しないとした事例(知的財産高等裁判所平成20年3月27日判決)」
PDF
ヴォンダッチ二重譲渡事件(控訴審)
★知財高裁平成20.3.27平成19(ネ)10095著作権譲渡登録抹消請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀
★原審
東京地裁平成19.10.26平成18(ワ)7424著作権譲渡登録抹消請求事件PDF
■事案
ヴォンダッチ(フォン・ダッチ/Von Dutch ケネス・ハワード)の
著作物の著作権譲渡の際の二重譲渡と対抗要件充足性が争点と
なった事案の控訴審
原告(控訴人) :被服等製造販売会社(アメリカ法人)
被告(被控訴人):被服等輸入販売者(韓国法人代表取締役)
■結論
原判決一部変更
■争点
条文 著作権法第77条
1 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
2 真正な登録名義の回復を原因とする登録手続請求の可否
■判決内容
<争点>
1 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
(1)被告の著作権譲渡契約の成否
著作権の二重譲渡状況において、契約関係としては
時間的には原告に劣後する被告人が、著作権の登録
については原告よりも先に受けていた本事案でしたが、
原審では原告と被告は対抗関係に立つものとして、
先に登録を受けていた被告が原告に優先するものと
判断されていました。
しかし、控訴審では、被告の著作権譲渡契約自体が
不成立、あるいは虚偽表示無効(民法94条1項)と
判断されて、原告と被告は著作権の二重譲渡の関係に
そもそも立たないものとされました。
(23頁以下)
(2)被告は背信的悪意者にあたるか
なお、「念のため、」として原告と被告が著作権の
二重譲渡の関係にあったと仮定した場合に、被告が
背信的悪意者に該当するかどうかも検討されています。
この点について、裁判所は、被告による著作権取得の
際の対価の支払がないこと、譲渡の意思が認められない
ことや原告取引先に高額な対価での売却を提案している
点などから、
『被控訴人は,控訴人が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら,控訴人の円滑な事業の遂行を妨げ,又は,控訴人に対して本件著作権を高額で売却する等,加害又は利益を図る目的で,A及びBに働きかけて本件譲渡証明書及び単独申請承諾書に署名させ,本件譲渡登録を経由したものと推認することができ,したがって,被控訴人は背信的悪意者に該当するものと認めるのが相当である。』
(31頁)
被告は背信的悪意者に該当すると判断されています。
結論として、被告は、原告への本件著作権の移転に
つき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係
を有する第三者ではないこととなりました。
2 真正な登録名義の回復を原因とする登録手続請求の可否
原告は、主位的に本件著作物について原告に対する
真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録
手続をすることを求め、予備的に本件譲渡登録の
抹消登録手続をすることを求めていました。
この主位的請求の点について、控訴審は、
『なお,控訴人は,著作権譲渡登録に関する主位的請求として,真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続を求めているが,実体的な権利変動の過程と異なる登録を請求する権利は当然には発生しないところ,控訴人は,A及びB,並びに上野商会の承諾があることについて主張立証しないから,同請求は主張自体失当である。』
(15頁)
として、債権的(中間省略特約)さらには
実体的な権利の効力としての準物権的な
請求権(妨害排除請求)の可否などについて
踏み込んだ争点とはなっていません。
----------
■コメント
一審(請求棄却)とは反対に、原告の実質勝訴と
なりました。
一審では、著作権の二重譲渡を前提に、
対抗問題(著作権法77条)として処理されて
いましたが、控訴審ではそもそも対抗問題に
ならないこと、仮になったとしても、
被告は背信的悪意者として保護されないとして、
原告の著作権の確認、著作権譲渡登録の
抹消手続請求が認められました。
一審と控訴審の判断を比べてみると、
控訴審ではカネの流れなどをより詳細に検討
した上で(23頁以下)、被告の譲渡契約が
譲渡の実質を伴わないものであると判断して
いることがわかります。
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■過去のブログ記事
ヴォンダッチ二重譲渡事件〜著作権 著作権譲渡登録抹消請求事件判決(知的財産裁判例集)〜
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■参考文献
足立謙三「著作権の移転と登録」
『裁判実務大系27』(1997)260頁以下
*本事案とは逸れますが、著作権の登録に関連して、
岡邦俊「著作権の登録と第三者-「あゝ玉杯に花うけて」事件」
『著作権判例百選』(1987)150頁以下
塩澤一洋「著作者以外の者による著作者実名登録抹消請求の可否」
『著作権研究』25号(1999)191頁以下
同 「実名登録抹消請求-フジサンケイグループ事件」
『著作権判例百選第三版』(2001)190頁以下
菱沼剛「著作権の登録による権利の帰属に関わる一応の推定」
『知的財産法政策学研究』14号(2007)257頁以下
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■参考判例
実名登録抹消請求について
智恵子抄事件(一審)
東京地裁昭和63.12.23昭和41(ワ)12563PDF
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■追記08/10/24
TKCローライブラリー速報判例解説(2008/8/5掲載)
駒田泰土「米国人著作者の著作物に係る著作権の譲渡契約およびその移転の準拠法は日本法であるとし、当該著作権の譲渡登録名義人は、当該著作権を有しておらず、または少なくとも背信的悪意者であって、当該著作権の移転につき、わが著作権法77条所定の対抗要件の欠缺を主張しうる正当な利益を有する第三者に該当しないとした事例(知的財産高等裁判所平成20年3月27日判決)」