裁判所HP 知的財産裁判例集より

「メンタリングトレーニング職務著作」事件

知財高裁平成19.12.28平成18年(ネ)第10049号控訴事件

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官     宍戸充
裁判官     柴田義明

*裁判所サイト未掲載


★原審
東京地方裁判所平成18年4月27日平成15年(ワ)第12130号不正競争行為差止等請求事件

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官     古河謙一
裁判官     吉川泉

*裁判所サイト未掲載


■事案

メンターによる指導方法(メンタリングトレーニングプログラム)のテキストの
著作物性や営業秘密性が争点となった事案の控訴審

原告:企業経営コンサルティング会社
被告:企業経営コンサルティング会社、役員ら


■結論

控訴棄却、一部認容


■争点

条文 著作権法2条1項1号、15条、不正競争防止法2条1項4号、7号、8号

1 原告各テキストの著作権が原告に帰属するか
2 原告と被告のテキストの類似性
3 著作者人格権侵害性
4 損害論
5 不正競争防止法に基づく請求
6 不当利得ないし競業避止義務違反性(略)
7 相殺の肯否(略)


■判決内容

<経緯>

S57      被告Y1が(株)日本能率協会コンサルティング入社
H11      被告Y1らがメンタリングプログラムを開発
H12.10   被告Y1が原告会社に従業員兼取締役として入社
H12.12   原告会社において「著作権の手引き」を作成
H14.07〜   原告各テキストの作成
H14      原告会社の就業規程改訂
H14.09    (社)日本能率協会が原告に研修業務を委託
H14.12.27   被告Y1が原告会社を解任される
H15.01    被告Y1らが被告テキストを作成
H15.02    被告Y1らが被告会社(米国法人)を設立


<争点>

1 原告各テキストの著作権が原告に帰属するか

1.各テキストの関係性

被告Y1は、原告会社に入社する以前にメンタリングトレーニングプロ
グラムに関するテキストを作成していました。
そこで、原告会社入社後に作成された原告各テキストとの関係性、
および被告会社作成のテキストとの関係性が問題となりますが、
原告会社入社前に作成したテキストが一次的著作物として位置づけられ、
被告テキストと原告各テキストが二次的著作物という位置づけと
判断されています。
(44頁以下)


2.原告テキストの著作物性

原告各テキストの一部分について著作物性が肯定されています。
(64頁以下)


3.職務著作物性

被告が原告会社に在職中作成したテキストの職務著作物性について検討
がされています。
結論的に、原告テキストの著作権は、職務著作として原告に帰属すると
判断されています。
(68頁以下)


2 原告と被告のテキストの類似性

原告テキストと被告テキストは実質的に同一あるいは同一であるとして
類似性を肯定、依拠性も認定したうえで著作権侵害性を認めています。
(71頁以下)


3 著作者人格権侵害性

被告テキストは、原告の意に反して原告テキスト部分を変更しており
原告の同一性保持権を侵害していると判断しています。
(77頁以下)


以上から、著作権侵害ならびに著作者人格権侵害が肯定され、被告テキ
ストの印刷、出版等の差止、損害賠償請求が認められています。


4 損害論

114条3項に基づいて使用料相当額が損害額として算定されています。
また、人格権侵害部分についても損害額が認定されています。
(78頁以下)


5 不正競争防止法に基づく請求

原審が原告テキストの秘密管理性を否定した判断を控訴審も維持して
います。
(83頁)


■コメント

原審判決文同様、裁判所サイトから消された判例です。

私がチェックしたときは最高裁判所サイトにすでに無かったことから
控訴審判決文はたぶん数時間のうちに消されてしまったものと思われます。
裁判所判例Watchからは、ほぼ半日でウエブサイト上の表示が
抹消されてしまっています(2008年1月10日表示確認)。

裁判所判例Watchの自動収集プログラムのおかげで判決文のhtmlと
テキストベースの内容はかろうじて確認、保存ができましたが、
企業向け研修教材の企画制作において、著作物の著作権譲渡や
法人著作が認められると、その後の講師ら著作者の執筆活動が
大きく制限される可能性があるという、いまどきの著作権事案の
知財高裁の判断であり、今回もウエブ上での公表が控えられて
しまってきわめて残念です。


■参考ブログ記事

2007年02月03日記事
消された判例


■参考書籍

マーゴ マリー(原著)「メンタリングの奇跡」PHP研究所