裁判所HP 知的財産裁判例集より
「北朝鮮映画」事件(対フジテレビ)
★東京地裁平成19.12.14平成18(ワ)6062著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
対日本テレビ事件
東京地裁平成19.12.14平成18(ワ)5640著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
■事案
我が国が国家として承認していない北朝鮮国民の著作物の
著作権が我が国の著作権法上でも保護されるかどうかが
争われた事案
原告:北朝鮮行政機関
映像企画制作仲介会社
被告:フジテレビ
■結論
請求棄却
■争点
条文 著作権法第6条3号
1 北朝鮮行政機関の当事者能力の有無
2 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
■判決内容
<争点>
1 北朝鮮行政機関の当事者能力の有無
原告の朝鮮映画輸出入社は北朝鮮文化省傘下の行政機関でした。
こうした外国の行政機関の訴訟における当事者能力性について
その準拠法がまず問題となっています。
裁判所は、法性決定として当事者能力は手続法上の概念であって、
手続については法廷地法によることとなり、法廷地であるわが国
の民事訴訟法が適用されることになる。
そのうえで行政機関の権利能力の準拠法に関しては、法適用通
則法(法の適用に関する通則法)等に直接の定めがないので条
理により当該行政機関と最も密接な関係がある国である当該行
政機関が設立された国の法律(本国法)によるべきである。
そこで北朝鮮の法律によることとなるが、北朝鮮法上行政機関
についても権利能力が付与されていることから我が国民事訴訟
法28条により原告の朝鮮映画輸出入社も当事者能力を有するこ
とになると判断しています。
(13頁以下)
2 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
1.準拠法について
(1)差止請求
差止請求の準拠法については、著作物の著作権に基づく請求で
あり渉外的要素を含むとの法性決定のうえで、
ベルヌ条約第5条(2)
「・・・保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に
保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、
保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」
とあることから、わが国の著作権法が適用されると判断して
います。(16頁)
(2)損害賠償請求
被侵害利益が著作物の著作権ないしその利用許諾権であり渉外的
要素を含むとしたうえで不法行為との法性決定のうえで、法例11条
(法適用通則法附則3条4項)により民法709条が適用されると判断
しています。
(16頁以下)
2.著作権法6条3号の著作物にあたるか
我が国が国家として承認していない北朝鮮がベルヌ条約に加入
(H15.01.28)したことにより、我が国と北朝鮮との間でベルヌ
条約上の権利義務関係が生じるか否かが争点となりました。
裁判所は、
『現在の国際法秩序の下では,国は,国家として承認されることにより,承認をした国家との関係において,国際法上の主体である国家,すなわち国際法上の権利義務が直接帰属する国家と認められる。逆に,国家として承認されていない国は,国際法上一定の権利を有することは否定されないものの,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないものと解される。』
としたうえで、
『我が国は,北朝鮮を国家として承認しておらず,我が国と北朝鮮との間に国際法上の主体である国家間の権利義務関係が存在することを認めていない。したがって,北朝鮮が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,我が国と北朝鮮との間に当該条約に基づく権利義務関係は基本的に生じないから,多数国間条約であるベルヌ条約についても,同様に解することになる。』
ただ、
『もっとも,未承認国であっても,国際社会において実体として存在していることは否定されないから,国際法上の主体である国家間の権利義務関係が認められないからといって,未承認国との関係において条約上の条項が一切適用されないと解することが妥当でない場合があり得る。』
(25頁以下)
として、ジェノサイド条約のような普遍的な国際公益の実現を目的
とした条約もあり、こうした普遍的な価値は未承認かどうかという
問題から離れて保護の対象となりうるが、著作権については、
『著作権の保護は,国際社会において,擁護されるべき重要な価値を有しており,我が国も,可能な限り著作権を保護すべきであるということはできるものの,ベルヌ条約の解釈上,国際社会全体において,国家の枠組みを超えた普遍的に尊重される価値を有するものとして位置付けることは困難であるものというほかない。』
としています。
結論として我が国と北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係が
生じず、北朝鮮著作物は我が国著作権法上保護されないと判断しました。
■コメント
日テレやフジテレビがニュース番組のなかで北朝鮮映画の一部を
番組で利用したことについて、北朝鮮側からクレームがついたわ
けですが、裁判所はわが国の著作権法上北朝鮮の著作物が当然に
は保護されないとの判断を下しました。
北朝鮮外務省は、相互遵守が出来ないのであれば北朝鮮でも日本
の著作権を保護しないとの見解を表明しているので(22頁以下)、
北朝鮮経由での日本のコンテンツの海賊版などの広がりが今後
どう生じるか注意が必要です。
「北朝鮮映画」事件(対フジテレビ)
★東京地裁平成19.12.14平成18(ワ)6062著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
対日本テレビ事件
東京地裁平成19.12.14平成18(ワ)5640著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
■事案
我が国が国家として承認していない北朝鮮国民の著作物の
著作権が我が国の著作権法上でも保護されるかどうかが
争われた事案
原告:北朝鮮行政機関
映像企画制作仲介会社
被告:フジテレビ
■結論
請求棄却
■争点
条文 著作権法第6条3号
1 北朝鮮行政機関の当事者能力の有無
2 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
■判決内容
<争点>
1 北朝鮮行政機関の当事者能力の有無
原告の朝鮮映画輸出入社は北朝鮮文化省傘下の行政機関でした。
こうした外国の行政機関の訴訟における当事者能力性について
その準拠法がまず問題となっています。
裁判所は、法性決定として当事者能力は手続法上の概念であって、
手続については法廷地法によることとなり、法廷地であるわが国
の民事訴訟法が適用されることになる。
そのうえで行政機関の権利能力の準拠法に関しては、法適用通
則法(法の適用に関する通則法)等に直接の定めがないので条
理により当該行政機関と最も密接な関係がある国である当該行
政機関が設立された国の法律(本国法)によるべきである。
そこで北朝鮮の法律によることとなるが、北朝鮮法上行政機関
についても権利能力が付与されていることから我が国民事訴訟
法28条により原告の朝鮮映画輸出入社も当事者能力を有するこ
とになると判断しています。
(13頁以下)
2 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
1.準拠法について
(1)差止請求
差止請求の準拠法については、著作物の著作権に基づく請求で
あり渉外的要素を含むとの法性決定のうえで、
ベルヌ条約第5条(2)
「・・・保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に
保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、
保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」
とあることから、わが国の著作権法が適用されると判断して
います。(16頁)
(2)損害賠償請求
被侵害利益が著作物の著作権ないしその利用許諾権であり渉外的
要素を含むとしたうえで不法行為との法性決定のうえで、法例11条
(法適用通則法附則3条4項)により民法709条が適用されると判断
しています。
(16頁以下)
2.著作権法6条3号の著作物にあたるか
我が国が国家として承認していない北朝鮮がベルヌ条約に加入
(H15.01.28)したことにより、我が国と北朝鮮との間でベルヌ
条約上の権利義務関係が生じるか否かが争点となりました。
裁判所は、
『現在の国際法秩序の下では,国は,国家として承認されることにより,承認をした国家との関係において,国際法上の主体である国家,すなわち国際法上の権利義務が直接帰属する国家と認められる。逆に,国家として承認されていない国は,国際法上一定の権利を有することは否定されないものの,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないものと解される。』
としたうえで、
『我が国は,北朝鮮を国家として承認しておらず,我が国と北朝鮮との間に国際法上の主体である国家間の権利義務関係が存在することを認めていない。したがって,北朝鮮が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,我が国と北朝鮮との間に当該条約に基づく権利義務関係は基本的に生じないから,多数国間条約であるベルヌ条約についても,同様に解することになる。』
ただ、
『もっとも,未承認国であっても,国際社会において実体として存在していることは否定されないから,国際法上の主体である国家間の権利義務関係が認められないからといって,未承認国との関係において条約上の条項が一切適用されないと解することが妥当でない場合があり得る。』
(25頁以下)
として、ジェノサイド条約のような普遍的な国際公益の実現を目的
とした条約もあり、こうした普遍的な価値は未承認かどうかという
問題から離れて保護の対象となりうるが、著作権については、
『著作権の保護は,国際社会において,擁護されるべき重要な価値を有しており,我が国も,可能な限り著作権を保護すべきであるということはできるものの,ベルヌ条約の解釈上,国際社会全体において,国家の枠組みを超えた普遍的に尊重される価値を有するものとして位置付けることは困難であるものというほかない。』
としています。
結論として我が国と北朝鮮との間でベルヌ条約上の権利義務関係が
生じず、北朝鮮著作物は我が国著作権法上保護されないと判断しました。
■コメント
日テレやフジテレビがニュース番組のなかで北朝鮮映画の一部を
番組で利用したことについて、北朝鮮側からクレームがついたわ
けですが、裁判所はわが国の著作権法上北朝鮮の著作物が当然に
は保護されないとの判断を下しました。
北朝鮮外務省は、相互遵守が出来ないのであれば北朝鮮でも日本
の著作権を保護しないとの見解を表明しているので(22頁以下)、
北朝鮮経由での日本のコンテンツの海賊版などの広がりが今後
どう生じるか注意が必要です。