裁判所HP 最高裁判所判例集より
「『シェーン』著作権保護期間満了」事件(上告審)
★最高裁判所第三小法廷平成19.12.18平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件PDF
★原審
知財高裁平成19.3.29平成18(ネ)10078著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
■事案
パブリックドメインとなった映画を格安DVDとして製造・販売していた
業者に対して、映画会社が、著作権保護期間はいまだ満了していない
として著作権侵害などを理由に損害賠償、差止を請求した事案の上告審
原告(上告人) :映画会社ら
被告(被上告人):格安DVD販売会社ら
■結論
上告棄却
■裁判要旨
「シェーン」を含め,昭和28年に公表された映画は,平成16年1月1日から施行された著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)による保護期間の延長措置の対象とならず,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了した
■争点
条文 著作権法第54条1項、附則2条1項
1 附則経過規定は文言の一般的用法によっているか
■判決内容
<争点>
1 附則経過規定は文言の一般的用法によっているか
上告人らの『本件経過規定中の「この法律の施行の際現に」という文言は,当該法律の施行の直前の状態を指すものと解すべきであるのに,これを「この法律の施行の日において」と同義に理解し,本件改正後の著作権法54条1項の適用を否定した原審の判断には,本件経過規定の解釈適用を誤った法令違反がある』との主張に対し、第三小法廷は、
『本件経過規定中の「・・・の際」という文言は,一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることもあり,「・・・の際」という文言だけに着目すれば,「この法律の施行の際」という法文の文言が本件改正法の施行日である平成16年1月1日を指すものと断定することはできない。しかし,一般に,法令の経過規定において,「この法律の施行の際現に」という本件経過規定と同様の文言(以下「本件文言」という。)が用いられているのは,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするためであるから,そのような本件文言の一般的な用いられ方(以下「本件文言の一般用法」という。)を前提とする限り,本件文言が新法令の施行の直前の状態を指すものと解することはできない。所論引用の立法例も,本件文言の一般用法によっているものと理解できるのであり,上告人らの主張を基礎付けるものとはいえない。
したがって,本件文言の一般用法においては,「この法律の施行の際」とは,当該法律の施行日を指すものと解するほかなく,「・・・の際」という文言が一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることがあるからといって,当該法律の施行の直前の時点を含むものと解することはできない。』
『 本件経過規定における本件文言についても,本件文言の一般用法と異なる用いられ方をしたものと解すべき理由はなく,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」とあるのは,本件改正前の著作権法に基づく映画の著作物の保護期間が,本件改正法の施行日においても現に継続中である場合を指し,その場合は当該映画の著作物の保護期間については本件改正後の著作権法54条1項が適用されて原則として公表後70年を経過するまでとなることを明らかにしたのが本件経過規定であると解すべきである。そして,本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。』
『したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。』
(4頁以下)
と判示しています。
■コメント
第三小法廷全員一致の判断です。
これで附則経過規定に関する解釈論にかかわる昭和28年問題については
一応の決着をみることになりました。
■過去のブログ記事
2007年03月30日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
■追記(07.12.19)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]さらばシェーン。
池田信夫 blog
民主党は著作権政策を示せ
■追記(08.03.08)
2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2006年07月12日記事
「ローマの休日」保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜
■参考文献
岡邦俊「1953年公表の映画の著作権保護期間は延長されたか-1 『ローマの休日』DVD事件」
「1953年公表の映画の著作権保護期間は延長されたか-2 『シェーン』DVD事件」
『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)214、219頁以下
作花文雄「「シェーン」事件最高裁判決の残した課題」
『コピライト』(2008.2)562号40頁以下
--------------------
■追記(08/6/14)
今村哲也「昭和28 年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅するとされた事例」LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース速報判例解説
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「『シェーン』著作権保護期間満了」事件(上告審)
★最高裁判所第三小法廷平成19.12.18平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件PDF
★原審
知財高裁平成19.3.29平成18(ネ)10078著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
■事案
パブリックドメインとなった映画を格安DVDとして製造・販売していた
業者に対して、映画会社が、著作権保護期間はいまだ満了していない
として著作権侵害などを理由に損害賠償、差止を請求した事案の上告審
原告(上告人) :映画会社ら
被告(被上告人):格安DVD販売会社ら
■結論
上告棄却
■裁判要旨
「シェーン」を含め,昭和28年に公表された映画は,平成16年1月1日から施行された著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)による保護期間の延長措置の対象とならず,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了した
■争点
条文 著作権法第54条1項、附則2条1項
1 附則経過規定は文言の一般的用法によっているか
■判決内容
<争点>
1 附則経過規定は文言の一般的用法によっているか
上告人らの『本件経過規定中の「この法律の施行の際現に」という文言は,当該法律の施行の直前の状態を指すものと解すべきであるのに,これを「この法律の施行の日において」と同義に理解し,本件改正後の著作権法54条1項の適用を否定した原審の判断には,本件経過規定の解釈適用を誤った法令違反がある』との主張に対し、第三小法廷は、
『本件経過規定中の「・・・の際」という文言は,一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることもあり,「・・・の際」という文言だけに着目すれば,「この法律の施行の際」という法文の文言が本件改正法の施行日である平成16年1月1日を指すものと断定することはできない。しかし,一般に,法令の経過規定において,「この法律の施行の際現に」という本件経過規定と同様の文言(以下「本件文言」という。)が用いられているのは,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするためであるから,そのような本件文言の一般的な用いられ方(以下「本件文言の一般用法」という。)を前提とする限り,本件文言が新法令の施行の直前の状態を指すものと解することはできない。所論引用の立法例も,本件文言の一般用法によっているものと理解できるのであり,上告人らの主張を基礎付けるものとはいえない。
したがって,本件文言の一般用法においては,「この法律の施行の際」とは,当該法律の施行日を指すものと解するほかなく,「・・・の際」という文言が一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることがあるからといって,当該法律の施行の直前の時点を含むものと解することはできない。』
『 本件経過規定における本件文言についても,本件文言の一般用法と異なる用いられ方をしたものと解すべき理由はなく,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」とあるのは,本件改正前の著作権法に基づく映画の著作物の保護期間が,本件改正法の施行日においても現に継続中である場合を指し,その場合は当該映画の著作物の保護期間については本件改正後の著作権法54条1項が適用されて原則として公表後70年を経過するまでとなることを明らかにしたのが本件経過規定であると解すべきである。そして,本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。』
『したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。』
(4頁以下)
と判示しています。
■コメント
第三小法廷全員一致の判断です。
これで附則経過規定に関する解釈論にかかわる昭和28年問題については
一応の決着をみることになりました。
■過去のブログ記事
2007年03月30日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
■追記(07.12.19)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]さらばシェーン。
池田信夫 blog
民主党は著作権政策を示せ
■追記(08.03.08)
2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2006年07月12日記事
「ローマの休日」保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜
■参考文献
岡邦俊「1953年公表の映画の著作権保護期間は延長されたか-1 『ローマの休日』DVD事件」
「1953年公表の映画の著作権保護期間は延長されたか-2 『シェーン』DVD事件」
『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)214、219頁以下
作花文雄「「シェーン」事件最高裁判決の残した課題」
『コピライト』(2008.2)562号40頁以下
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■追記(08/6/14)
今村哲也「昭和28 年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅するとされた事例」LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース速報判例解説