裁判所HP 知的財産裁判例集より
「ヴォンダッチ二重譲渡」事件
★東京地裁平成19.10.26平成18(ワ)7424著作権譲渡登録抹消請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 柵木澄子
■事案
ヴォンダッチ(Von Dutch ケネス・ハワード)の著作物の著作権譲渡の
際の二重譲渡と対抗要件充足性が争点となった事案
原告:被服等製造販売会社(アメリカ法人)
被告:被服等輸入販売者(韓国法人代表取締役)
■結論
請求棄却
■争点
条文 著作権法第77条
1 準拠法
2 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
■判決内容
<経緯>
H4 ケネス・ハワード死亡
B、Cがケネス・ハワードの子として知的財産権を共同相続
H08.10.08 B、Cがダークホース社とライセンス契約
H11.04 ダークホース社がEに実施権を譲渡
Eが原告会社を設立
H12.01.14 Eが被告とパートナーシップ契約締結
H12.03.31 上野商会がB、Cと全知的財産譲渡契約締結
H14.05.15 上野商会が原告会社と全知的財産譲渡契約締結
H16.08.05 Eと原告会社間で紛争、和解
H17.01.27 B、Cと被告がライセンス契約締結
H17.06.08 B、Cと被告が全知的財産譲渡契約締結
H17.11.25 被告が譲渡登録を受ける
<争点>
1 準拠法
裁判所は、本件の準拠法について、
『本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は,相続の準拠法ではない。
そして,著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。』
(18頁)
としたうえで、後掲東京高裁の判例に沿って、
(1)著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力に
ついて適用されるべき準拠法
改正前法例7条1項の規定から当事者意思、その他諸般の事情を
斟酌したうえで、結論的には日本法が準拠法とされています。
(2)著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき
準拠法
法例10条、ベルヌ条約3条、著作権法6条3項などの規定から本件著作物
の保護国である日本法が準拠法となるとしています。
(19頁)
2 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
(1)二重譲渡の関係に立つか
B、Cが上野商会に対してした著作権譲渡契約が有効であること、また
B、Cが被告に対してした著作権譲渡契約も有効であることから、
二重譲渡の関係にあり、上野商会・その転得者と被告とは対抗関係
に立つと判断。
被告が、原告への本件著作権の移転につき、対抗要件の欠缺を主張し
得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)に該当する
として、原告は対抗し得ないとされました。
(21頁)
(2)背信的悪意者排除論
被告はB、Cと上野商会間の譲渡契約について認識していた(単純悪意者)
ものの、背信的悪意者ではないとして、「第三者」から排除されて
いません。
(21頁以下)
■コメント
著作権の二重譲渡が争点となった事案です。
田村先生は著作権の二重譲渡の場面について、民法177条の
伝統的理解が適用される場面ではないとして悪意者排除論に
立たれておいでです(後掲田村510頁)。
著作権の登録制度の問題点については、後掲コンメンタール
11頁以下(中山代志子)参照。
ケネスハワードという作家はまったく知らなかったのですが、
下書き無し、フリーハンドでアメ車にペインティングしたりする
「ピンストライピング」技法の確立者であったようです。
■参考判例
準拠法の争点について
キューピー事件
東京高裁平成13年05月30日平成12(ネ)7著作権侵害差止等請求、独立当事者参加控訴事件PDF
東京高裁平成13年05月30日平成11(ネ)6345著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
「第三者」の争点について
複製許諾とジャスラック信託契約
東京地裁平成12年06月30日平成11(ワ)3101損害賠償請求事件PDF
■参考文献
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)510頁以下
金井重彦、小倉秀夫編著「著作権法コンメンタール下巻」(2002)11頁以下
「ヴォンダッチ二重譲渡」事件
★東京地裁平成19.10.26平成18(ワ)7424著作権譲渡登録抹消請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 柵木澄子
■事案
ヴォンダッチ(Von Dutch ケネス・ハワード)の著作物の著作権譲渡の
際の二重譲渡と対抗要件充足性が争点となった事案
原告:被服等製造販売会社(アメリカ法人)
被告:被服等輸入販売者(韓国法人代表取締役)
■結論
請求棄却
■争点
条文 著作権法第77条
1 準拠法
2 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
■判決内容
<経緯>
H4 ケネス・ハワード死亡
B、Cがケネス・ハワードの子として知的財産権を共同相続
H08.10.08 B、Cがダークホース社とライセンス契約
H11.04 ダークホース社がEに実施権を譲渡
Eが原告会社を設立
H12.01.14 Eが被告とパートナーシップ契約締結
H12.03.31 上野商会がB、Cと全知的財産譲渡契約締結
H14.05.15 上野商会が原告会社と全知的財産譲渡契約締結
H16.08.05 Eと原告会社間で紛争、和解
H17.01.27 B、Cと被告がライセンス契約締結
H17.06.08 B、Cと被告が全知的財産譲渡契約締結
H17.11.25 被告が譲渡登録を受ける
<争点>
1 準拠法
裁判所は、本件の準拠法について、
『本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は,相続の準拠法ではない。
そして,著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。』
(18頁)
としたうえで、後掲東京高裁の判例に沿って、
(1)著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力に
ついて適用されるべき準拠法
改正前法例7条1項の規定から当事者意思、その他諸般の事情を
斟酌したうえで、結論的には日本法が準拠法とされています。
(2)著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき
準拠法
法例10条、ベルヌ条約3条、著作権法6条3項などの規定から本件著作物
の保護国である日本法が準拠法となるとしています。
(19頁)
2 被告が原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を
主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か
(1)二重譲渡の関係に立つか
B、Cが上野商会に対してした著作権譲渡契約が有効であること、また
B、Cが被告に対してした著作権譲渡契約も有効であることから、
二重譲渡の関係にあり、上野商会・その転得者と被告とは対抗関係
に立つと判断。
被告が、原告への本件著作権の移転につき、対抗要件の欠缺を主張し
得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)に該当する
として、原告は対抗し得ないとされました。
(21頁)
(2)背信的悪意者排除論
被告はB、Cと上野商会間の譲渡契約について認識していた(単純悪意者)
ものの、背信的悪意者ではないとして、「第三者」から排除されて
いません。
(21頁以下)
■コメント
著作権の二重譲渡が争点となった事案です。
田村先生は著作権の二重譲渡の場面について、民法177条の
伝統的理解が適用される場面ではないとして悪意者排除論に
立たれておいでです(後掲田村510頁)。
著作権の登録制度の問題点については、後掲コンメンタール
11頁以下(中山代志子)参照。
ケネスハワードという作家はまったく知らなかったのですが、
下書き無し、フリーハンドでアメ車にペインティングしたりする
「ピンストライピング」技法の確立者であったようです。
■参考判例
準拠法の争点について
キューピー事件
東京高裁平成13年05月30日平成12(ネ)7著作権侵害差止等請求、独立当事者参加控訴事件PDF
東京高裁平成13年05月30日平成11(ネ)6345著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
「第三者」の争点について
複製許諾とジャスラック信託契約
東京地裁平成12年06月30日平成11(ワ)3101損害賠償請求事件PDF
■参考文献
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)510頁以下
金井重彦、小倉秀夫編著「著作権法コンメンタール下巻」(2002)11頁以下