裁判所HP 下級裁判所判例集より

「たこ焼きフランチャイズ契約」事件

千葉地裁平成19.8.30平成16(ワ)1744損害賠償請求事件,違約金等請求事件PDF

千葉地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官 仲戸川人
裁判官     三村義幸
裁判官     天野研司


■事案

たこ焼き店のフランチャイズ契約の締結に際して,フランチャイザーが,自営業を営んだことのない主婦のフランチャイジー候補者に対し,その自己資金だけでは開業することが困難となるであろうことを告げず,初期投資総額の見込額等を記載した文書を交付せずに,加入金等を入金させた後にその不返還を定めた契約書に署名押印させたことが,同候補者に対し同契約を締結してフランチャイジーになるか否かを判断するに足りる必要かつ十分な情報を適時かつ正確に提供・開示すべき信義則上の義務を尽くしたとはいえないとされた事例
(下級裁判所判例集判示事項の要旨より)

原告:A主婦(フランチャイジー)
   B夫(連帯保証人)
被告:Cたこ焼きフランチャイザー
   E建設工事会社


■結論

請求一部認容


■争点

条文 民法415条

1 契約締結上の義務違反の有無
2 営業指導義務違反の有無
3 業者選定義務違反の有無
4 店舗工事の瑕疵の有無
5 共同不法行為性
6 損害論
7 違約金請求の可否


■判決内容

<経緯>

H09.11   被告が屋台でたこ焼きを始める
H11.05   たこ焼き事業の法人化(フランチャイズ)

H14     原告Aが被告Cに問い合せ
H15.02     AがCと面接
H15.04.02 Aは加入申込金52万円を支払う
H15.05.05 Aは加入申込書に署名押印
H15.10.03 契約金268万円を支払う
H15.10.14 研修を受ける(〜11.17)
H15.10.15 基本契約書・個別契約書締結
H15.11.11 Eが店舗改装工事見積書提示
H15.11.15 Eが店舗改装工事着手
H15.11下旬 店舗の修補工事
H15.12.06 開店
        夫Bが連帯保証契約締結
H15.12.26 Aは改装工事費を支払う
H16.03.18 AがCに対して嘆願書を通知(第1通知書)
H16.04.09 Aが契約解除を通知(第2通知書)
H16.04.09 店舗閉鎖
H16.04.28 改装後別屋号で新店舗開店


<争点>

1 契約締結上の義務違反の有無

まず、Cの契約締結に向けた勧誘方法が詐欺的であったとまでは
評価できないとし、次に、契約締結上の義務違反性の有無について
検討しています。

AC間の基本契約および個別契約をフランチャイズ契約と性質決定
したうえで、

フランチャイザーとしては,契約締結に向けた段階においても,既に,フランチャイジー候補者に対し,契約を締結してフランチャイジーになるか否かを判断するに足りる必要かつ十分な情報を適時かつ正確に提供・開示し,同候補者に不測の損害を与えないように配慮すべき義務を信義則上負っているものというべきであり,さらに,上記の義務は,フランチャイジー候補者の判断過程に何ら不当または不適切な影響を与えるなどしていない状況のもとで履行されることが求められるものと解するのが相当である。
(31頁)

として、契約締結段階での信義則上の義務に言及。

そして、改装費用についての説明不足やAが自営業を営んだこと
がない主婦であること、契約調印前に入金をさせている点など
から、Cは適時かつ正確に情報を開示・提供すべき義務を尽くし
たものとは評価できないと認定しました。


2 営業指導義務違反の有無

研修内容の不十分性や店舗での漏水事故へのCの対応の無さから、
Cはフランチャイズ契約により課せられた営業指導義務を適切に
果たしたものとはいえないと判断されています。
(32頁以下)


3 業者選定義務違反の有無

基本契約の規定振りや業者選定までのAC間のやりとりの経緯から、
Cは適切な業者を選定する義務を契約上負うものであるとしたうえ
で、Cに義務違反があったと判断しています。
(35頁以下)


4 店舗工事の瑕疵の有無

店舗改修工事にあたって生じた漏水事故などについて、瑕疵があった
と認められています。
(36頁)


5 共同不法行為性

Eの過大な工事代金請求行為が不法行為となるとする主張については、
認められませんでした。
(36頁以下)


6 損害論

AがCに支払った加入金、開業準備金、販売促進費、設備費用、店舗
改装費用の合計566万円余がCの義務違反と相当因果関係のある損害
であるとしたうえで、Aに過失相殺7割と判断されています(169万円余)。
(37頁以下)

なお、過失相殺が認められた過去の事案では、かなりの高率になっ
ている現実があります(金井後掲書159頁以下、203頁以下)。


7 違約金請求の可否

Cが請求していた違約金の請求ですが、Aに契約条項上の違反は認め
られず請求は容れられませんでした。
(39頁以下)


■コメント

サティに出物の店舗候補地があったことなどから、Aがフランチャイズ
契約締結を急いだことも揉め事が生じる一因でした。
何事もタイミングは大切で、500万円にのぼる出費を伴う新規事業を
思い切る決断は(親族の反対もあったりして)いつでも難しいもので
しょう。

店舗改装工事が100万円で済むのか、200〜400万円掛かるのかで
双方に認識の相違が生じてしまっています。

とはいえ、加盟者に金を払わせてから契約書を交付しているところは、
フランチャイズに関するガイドラインにも抵触するもので看過できない
ところです。


■参考文献

川越憲治「フランチャイズ・システムの判例分析旧版」(1994)48頁以下
川越憲治「フランチャイズ・システムの法理論」(2001)104頁以下
金井高志「フランチャイズ契約裁判例の理論分析」(2005)29頁以下
小塚荘一郎「フランチャイズ契約論」(2006)145頁以下
日本フランチャイズチェーン協会「フランチャイズハンドブック」(2003)202頁以下
金光秀文「フランチャイズ・トラブル」(2006)34頁以下


■契約書関係(判旨5頁以下参照)

【共栄店加入申込書】

(ア)原告Aは,被告Cの共栄店に参加する意思を表示する (前文)。

(イ)原告Aは,店舗となる物件を探し,被告Cの承諾を得なければならない (2項)。

(ウ)原告Aは,共栄店加入申込みに際し,被告Cに加入準備金として52万5000円(税込)を支払う。加入準備金は,正式に契約締結に至った場合は加入金に充当する。(4項,5項)

(エ)加入準備金は,店舗となる物件を被告Cが承諾したにもかかわらず,原告Aの事情により契約締結に至らなかった場合は,一切返還しない。(7項)


【本件基本契約】

(ア)被告Cは,原告Aに対し,本件個別契約に定める場所において 「C運営システム」及び被告Cの商標等を使用した店舗(以下,単に「店舗」という )を営業することを許諾する。(1条,2条)

(イ)原告Aは,被告Cに対し,本件個別契約で定める額の加入金,開業準備費,設備費,販売促進費等を支払うものとし,うち加入金及び開業準備費は,本件基本契約の終了事由の如何を問わず一切返還しない。(4条)

(ウ)原告Aは,被告Cに対し,ロイヤリティ料月額3万円を,毎月20日限り翌月分として支払う。(5条)

(エ)店舗及び付属設備の設計・配置,店舗の建築・改築,改装及び備品等の取付けについては,原告Aは,被告C又は被告Cの指定する第三者をして行わせる。原告Aは,店舗に被告Cが指定する全ての備品及び造作を取り付け,また,被告Cが指定した以外の備品及び造作を取り付けてはならない。(6条,8条,10条)

(オ)店舗で用いられる食材,紙,樹脂製品,サービス用品,副資材,包装資材等については,原告Aは,被告C又は被告Cより斡旋を受けた業者から購入する。(16条)

(カ)被告Cは,店舗の営業に必要なマニュアルを作成している場合は,これを原告Aに提供して指導し,原告Aもこれに従わなければならない。(17条)

(キ)本件基本契約は平成15年12月6日から平成20年12月5日までの5年間,その効力を有し,2年ごとに自動更新される。当事者の一方が,他方の当事者に,有効期間もしくは更新期間満了の6か月前までに書面で契約更新拒絶の意思を表示した場合,本件基本契約は当該期間の満了により終了する。(44条,45条)

(ク)原告Aは,6か月以上の予告期間をおき,文書で解約の意思表示をすることにより,本件基本契約を解除することができる。この場合,原告Aは,違約金として,本件基本契約の残期間に対応するロイヤリティ料相当額を被告Cに支払う。(46条)

(ケ)以下の場合,被告Cは本件基本契約を解除することができる。(47条,48条)
a 原告Aが支払を停止した場合
b 原告Aが通算して1か年以内に3回以上本件基本契約及び関連する契約に基づく債務不履行の催告を受けるなど,債務不履行を繰り返した場合
c 本件基本契約及び関連する契約に基づく債務につき,被告Cが原告Aに対して履行を催告し,原告Aが正当な理由なくして20日以上当該債務を履行しない場合

(コ)原告Aは,被告Cの事前の承諾がない限り,店舗内外で,他の飲食事業に係る一切の宣伝広告を行ってはならない。(52条)

(サ) 原告Aが上記(エ),(オ)及び(コ)の定めに違反した場合,原告Aは被告Cに対して違約金として500万円を支払う。(59条)


【本件個別契約】

(ア)店舗の設置場所を千葉市a区bc−d−eとし,店名呼称を「Cbサティ店 (以下「本件店舗」という )とする (1項,2項)」 。

(イ)原告Aが被告Cに支払う加入金,開業準備費,設備費及び販売促進費の金額(消費税を含む )をそれぞれ以下のとおり定める (3項)。 。
a 加 入 金 105万円
b 開業準備費 21万円
c 設 備 費 157万5000円
d 販売促進費 31万5000円