裁判所HP 下級裁判所判例集より

「釣り具商標権使用許諾契約」事件

山形地裁鶴岡支部平成19.5.25平成15(ワ)14損害賠償等請求事件PDF

裁判長裁判官 横山巌
裁判官     武宮英子
裁判官     藤原典子


■事案

釣りの仕掛けについて「クロスピーズ」という商標権を持つ原告が、「クロスピーズ」という標章を付して釣りの仕掛けを販売した被告の行為が、商標権の侵害であるとして、商標権に基づき、商標法36条による販売行為等の差し止め及び不法行為による損害賠償(商標使用許諾料相当損害金等)の支払を求め、また、原告Aから独占的通常使用権の設定を受けたとする原告会社が、被告の前記行為により、販売減少等の損害を受けたとして、独占的通常使用権に基づき、主位的に不法行為による損害賠償(販売減少損害金等)を、予備的に前記損害に加え、原告Aの上記商標使用許諾料相当損害金の請求が認容されなかった場合の商標使用許諾料相当損害金の支払を求めた事案
(下級裁判所判例集判示事項の要旨より一部修正)


原告:A(商標権者)
   釣り具製造販売会社(代表取締役A)
被告:釣り具製造販売会社


■結論

請求一部認容


■争点

条文 商標法31条、民法709条

1 商標使用許諾契約上の使用権限の性質
2 通常使用権と損害賠償請求
3 原告会社の損害論
    (以下略)
4 被告は,本件商標の指定商品に被告標章を商標として
  使用しているか

5 被告の過失の有無
6 原告Aの差止請求の可否
7 原告Aの被った損害の内容及び額
8 損害の填補の有無
9 消滅時効の成否


■判決内容

<経緯>

S63    Cがビーズを開発、実用新案登録申請
H01    AはCの許諾を得てビーズを独占的に製造販売        
      AはBに北海道での独占的販売権を付与
H08.9   Aが「クロスビーズ」商標登録申請
H10.7   Cが被告に侵害警告通知
H11.2.19 「クロスビーズ」商標登録完了
H11.4.30 Aを代表取締役とする原告会社に法人成り
H11.5.01 Aと原告会社間で商標使用許諾契約締結

H11.2.19〜H14.8
      被告が被告標章を付した被告商品を販売


 【使用許諾契約

私が権利を有する特許庁登録の商標登録書登録第4241276号の『クロスビーズ』及び商標登録書登録第4241277号の『クロスビーズの標章』に関し平成11年5月1日より,その実施を許諾する。
許諾期間は2年間とするが相互に異議なき場合は自動更新により継続するものとする。
許諾料とその支払い方法については別途定めるものとし,本日許諾書を作成する。


<争点>

1 商標使用許諾契約上の使用権限の性質

原告会社(ライセンシー)が商標使用許諾契約上、使用権限
として独占的通常使用権を持つものか、通常使用権に過ぎな
いのかが争点となりました。
裁判所は、A(ライセンサー)が北海道地域での商標使用を
他者に許諾していたことなどから、通常使用権にすぎないと
認定しています。
(28頁)


2 通常使用権と損害賠償請求

裁判所は、通常使用権の侵害の場合のライセンシーの損害
賠償請求の可否について、

原告ディバイスの本件商標についての使用権原は,通常使用権であるところ,通常使用権の法的性格は,物権ではなく,債権である。しかし,債権侵害についても,民法709条の不法行為は成立するのであるから,損害が生じた場合には当然に損害賠償請求権は発生する。

と判示しています(29頁)。


3 原告会社の損害論

被告商品の販売により原告会社の売上げに影響があったと
したうえで、原告会社の販売減少金額は被告の売上げ金額
を基準に判断するべきであるとしています。
(40頁)
結論的に、被告商品の売上げ金額の20%相当額を販売減少
損害金として認定しています。


このように、非独占的通常使用権と商標権侵害者との関係
について、民法709条の成立を認め、ライセンシーの損害を
肯定しています。


■コメント

通常使用権の侵害論(損害賠償請求、差止請求の可否)に
ついては、判例学説が多岐に分かれているようです
(小野昌延編「注解商標法新版」(上)(2006)780頁以下
(南川博茂)参照)。

独占的通常使用権の侵害については損害賠償請求権はほぼ認
められているようですが(前掲書780頁)、本判決が非独占的
通常使用権について(具体的妥当性はともかく)あっさり
損害賠償請求権を認めているところが、民法の債権侵害論や
無体財産権侵害と不法行為の成否の問題とも関連して今後の
議論を呼ぶところとなりそうです。


■参考文献

田村善之「商標法概説第二版」(2000)408頁以下、411頁注2参照
渋谷達紀「知的財産法講義3」(2005)315頁
大阪弁護士会知的財産実務研究会編
     「知的財産契約の理論と実務」(2007)525頁以下
牧野利秋飯村敏明ほか編
     「知的財産法の理論と実務3」(2007)210頁以下(島田康男)
椙山敬士ほか「ライセンス契約」(2007)117頁以下(三村量一)