裁判所HP 知的財産裁判例集より
「『モダンタイムス』格安DVD」事件
★東京地裁平成19.8.29平成18(ワ)15552著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 佐野信
■事案
チャップリン『モダンタイムス』『独裁者』などの映画作品の保護期間をめぐり
映画の著作者がチャップリンなのか映画会社であるのかが争われた事案
原告:チャップリン映画管理会社
被告:映像ソフト企画製造販売会社ら
■結論
請求一部認容
■争点
条文 著作権法第2条1項2号、21条、26条
1 著作権存続期間満了の有無
2 損害論
■判決内容
<経緯>
1.対象9作品公開年
サニーサイド(1919)
偽牧師(1923)
巴里の女性(1923)
黄金狂時代(1925)
街の灯(1931)
モダン・タイムス(1936)
独裁者(1940)
殺人狂時代(1947)
ライムライト(1952)
2.チャップリン(1977.12.25没)
3.映画の保護期間の変遷
(1)旧法3条、52条1項
著作者の生存中+死後38年間
(2)平成15年改正前 著作権法54条1項
公表後50年
(3)平成15年改正(附則2条、3条)
公表後70年
<争点>
1 著作権存続期間満了の有無
1.映画の著作者は誰か
映画作品の著作名義が映画会社やプロダクションであるのか
チャップリン個人名義であるのか、旧法の規定を前提に検討
されています。
チャップリン作品について、裁判所は、
『本件9作品についてみると,本件9作品のクレジットには,「Written and Produced by CHARLES CHAPLIN」,「 Written and Directed by CHARLES CHAPLIN 」,「WRITTEN AND DIRECTED BY CHARLES CHAPLIN」,「Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があるところ(甲35,乙3,検甲1〜9),上記各表示は,いずれも,チャップリンが著作者であることを示すものと解されるから,本件9作品は,いずれも,その著作者である個人が表示されているということができ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。』
(17頁)
として、団体の著作名義で発行又は興行された著作物ではない
(旧法6条の団体著作物の規定は適用されない)と判断しました。
その上で旧法3条(著作者の死亡時期を起算点とする)の適用を
肯定しています。
『本件9作品については,いずれも,上記(イ)のとおり,チャップリンが著作者であることを示す表示がされているのであり,チャップリンが監督等を務め,著作者の1人であることは争いがなく,また,チャップリンの生前に公表されたものであるから,旧法3条によって,その著作権の存続期間が定められることになる(なお,旧法においても,映画の著作物の著作者は,映画の製作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者をいうものと解されるところ,本件9作品については,「製作・監督・脚本・音楽:チャールズ・チャップリン」との説明がされており(甲33),「街の灯」,「モダン・タイムス」,「独裁者」,「殺人狂時代」及び「ライムライト」の影像上には,チャップリンの表示が認められる(甲35,乙3,検甲1 〜 9 ) から,チャップリンが著作者であることは明らかである。)。』
(18頁)
2.保護期間
9作品はいずれも保護期間が満了していない(18頁以下)。
サニーサイド(1919)
偽牧師(1923)
巴里の女性(1923)
黄金狂時代(1925)
街の灯(1931)
モダン・タイムス(1936)
独裁者(1940)
上記作品についてはチャップリン没後38年間保護(旧法3条、52条)
2015年12月31日まで
殺人狂時代(1947) 2017年12月31日まで
ライムライト(1952) 2022年12月31日まで
上記作品は、公表後70年保護
2 損害論
1.過失について
『被告らは,パブリックドメインとなった映画の複製,頒布を業として行っていることが認められるが(乙8,弁論の全趣旨),このような事業を行う者としては,自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるかについて,十分調査する義務を負っているものと解するのが相当であるところ,弁論の全趣旨からすれば,被告らは,そのような調査をせず,本件9作品の著作権の存続期間が満了したものと軽信し,本件商品及DVDび本件レンタル商品の複製及び頒布を行ったものと認められ,被告らDVDには,上記侵害について過失があったというべきである。』
(22頁)
2.損害額の算定
裁判所は、販売価格の25パーセント相当額をライセンス料率
(正規品でのDVDその他のビデオグラム化ライセンス料率)として
考えた上で1万本頒布されたとして損害額1000万円弱を認定しました。
(22頁以下)
■コメント
著作権保護期間の切れた(パブリックドメイン)映画作品の格安DVD販売
をめぐる争いとしては、「ローマの休日」事件、「シェーン」事件などが
ありますが、争点が異なります。
格安DVD販売業者の過失の部分で「軽信」と指摘されているように、単に
古い作品だからといって映画作品を商品化するのはリスクが大きいところ
です。(「ローマの休日」「シェーン」などのPD作品についても著作者と
の関係でのリスクは有り得ます。後掲参考文献参照。)
■過去のブログ
2007年03月30日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2006年07月12日記事
『ローマの休日』保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜
■参考文献
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)276頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)346頁以下
■追記(07.09.15)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]著作権狂時代
■追記(08.03.08)
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)
★知財高裁平成20年02月28日平成19(ネ)10073著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜
「『モダンタイムス』格安DVD」事件
★東京地裁平成19.8.29平成18(ワ)15552著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 佐野信
■事案
チャップリン『モダンタイムス』『独裁者』などの映画作品の保護期間をめぐり
映画の著作者がチャップリンなのか映画会社であるのかが争われた事案
原告:チャップリン映画管理会社
被告:映像ソフト企画製造販売会社ら
■結論
請求一部認容
■争点
条文 著作権法第2条1項2号、21条、26条
1 著作権存続期間満了の有無
2 損害論
■判決内容
<経緯>
1.対象9作品公開年
サニーサイド(1919)
偽牧師(1923)
巴里の女性(1923)
黄金狂時代(1925)
街の灯(1931)
モダン・タイムス(1936)
独裁者(1940)
殺人狂時代(1947)
ライムライト(1952)
2.チャップリン(1977.12.25没)
3.映画の保護期間の変遷
(1)旧法3条、52条1項
著作者の生存中+死後38年間
(2)平成15年改正前 著作権法54条1項
公表後50年
(3)平成15年改正(附則2条、3条)
公表後70年
<争点>
1 著作権存続期間満了の有無
1.映画の著作者は誰か
映画作品の著作名義が映画会社やプロダクションであるのか
チャップリン個人名義であるのか、旧法の規定を前提に検討
されています。
チャップリン作品について、裁判所は、
『本件9作品についてみると,本件9作品のクレジットには,「Written and Produced by CHARLES CHAPLIN」,「 Written and Directed by CHARLES CHAPLIN 」,「WRITTEN AND DIRECTED BY CHARLES CHAPLIN」,「Directed by CHARLES CHAPLIN」との表示があるところ(甲35,乙3,検甲1〜9),上記各表示は,いずれも,チャップリンが著作者であることを示すものと解されるから,本件9作品は,いずれも,その著作者である個人が表示されているということができ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。』
(17頁)
として、団体の著作名義で発行又は興行された著作物ではない
(旧法6条の団体著作物の規定は適用されない)と判断しました。
その上で旧法3条(著作者の死亡時期を起算点とする)の適用を
肯定しています。
『本件9作品については,いずれも,上記(イ)のとおり,チャップリンが著作者であることを示す表示がされているのであり,チャップリンが監督等を務め,著作者の1人であることは争いがなく,また,チャップリンの生前に公表されたものであるから,旧法3条によって,その著作権の存続期間が定められることになる(なお,旧法においても,映画の著作物の著作者は,映画の製作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者をいうものと解されるところ,本件9作品については,「製作・監督・脚本・音楽:チャールズ・チャップリン」との説明がされており(甲33),「街の灯」,「モダン・タイムス」,「独裁者」,「殺人狂時代」及び「ライムライト」の影像上には,チャップリンの表示が認められる(甲35,乙3,検甲1 〜 9 ) から,チャップリンが著作者であることは明らかである。)。』
(18頁)
2.保護期間
9作品はいずれも保護期間が満了していない(18頁以下)。
サニーサイド(1919)
偽牧師(1923)
巴里の女性(1923)
黄金狂時代(1925)
街の灯(1931)
モダン・タイムス(1936)
独裁者(1940)
上記作品についてはチャップリン没後38年間保護(旧法3条、52条)
2015年12月31日まで
殺人狂時代(1947) 2017年12月31日まで
ライムライト(1952) 2022年12月31日まで
上記作品は、公表後70年保護
2 損害論
1.過失について
『被告らは,パブリックドメインとなった映画の複製,頒布を業として行っていることが認められるが(乙8,弁論の全趣旨),このような事業を行う者としては,自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるかについて,十分調査する義務を負っているものと解するのが相当であるところ,弁論の全趣旨からすれば,被告らは,そのような調査をせず,本件9作品の著作権の存続期間が満了したものと軽信し,本件商品及DVDび本件レンタル商品の複製及び頒布を行ったものと認められ,被告らDVDには,上記侵害について過失があったというべきである。』
(22頁)
2.損害額の算定
裁判所は、販売価格の25パーセント相当額をライセンス料率
(正規品でのDVDその他のビデオグラム化ライセンス料率)として
考えた上で1万本頒布されたとして損害額1000万円弱を認定しました。
(22頁以下)
■コメント
著作権保護期間の切れた(パブリックドメイン)映画作品の格安DVD販売
をめぐる争いとしては、「ローマの休日」事件、「シェーン」事件などが
ありますが、争点が異なります。
格安DVD販売業者の過失の部分で「軽信」と指摘されているように、単に
古い作品だからといって映画作品を商品化するのはリスクが大きいところ
です。(「ローマの休日」「シェーン」などのPD作品についても著作者と
の関係でのリスクは有り得ます。後掲参考文献参照。)
■過去のブログ
2007年03月30日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2006年07月12日記事
『ローマの休日』保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜
■参考文献
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)276頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)346頁以下
■追記(07.09.15)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]著作権狂時代
■追記(08.03.08)
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)
★知財高裁平成20年02月28日平成19(ネ)10073著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜
2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜