裁判所HP 知的財産裁判例集より
「ダイニングサービスマニュアル営業秘密」事件
★東京地裁平成19.6.29平成18(ワ)14527-2,15947等損害賠償等請求事件、マニュアル使用差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 中村恭
■事案
ダイニングサービス(ケータリングサービス)に関する
マニュアルの営業秘密性をめぐって争われた事案
原告:労働者派遣会社
被告:証券会社(第一事件:損害賠償等請求事件)
ファシリティマネジメント会社
(第二事件:マニュアル使用差止請求事件)
■結論
請求棄却(両事件とも)
■争点
条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、9号
1 7号関連(秘密開示行為性)
2 8号関連(不正開示悪意者使用行為性)
3 9号関連(知情後使用行為性)
■判決内容
経緯
被告証券会社は原告会社とダイニングサービス労働者派遣
契約(ダイニングにかかわる給茶、食事運搬、洗浄、備品
管理などの業務委託契約)を締結。
そのうえで被告証券会社向けサービスマニュアルに従って
ダイニングサービスを提供。
しかし、被告がダイニングサービスに関する社内担当者を
変更して外部の被告ファシリティマネジメント会社に委託
したことから原告と関係が悪化。
原告は信頼関係破壊を理由に解除権を行使。被告証券会社
もダイニングサービス提供停止について債務不履行を理由
に解除の意思表示を行っていました。
争点
1 7号関連(秘密開示行為性)
(1)「示された」ものか
最初の業務委託契約が締結された後に原告と被告証券会社の
合意の下に本件マニュアルが作成されたという経緯がありま
した。
裁判所は、原告と被告証券会社は本件マニュアルという情報
が成立した時に本件マニュアルの情報をお互いに原始的に
保有することになったものであって、被告は原告から原告が保
有していた本件マニュアルの情報を相手に「示された」(7号)関係
にはなかった、と判断しました。
(29頁)
なお、「示された」争点に関する近時の判例として、下記原価
セール第二事件参照。
(2)「図利加害目的」があったか
原告をダイニングサービスから排除する意図はなく、被告証
券会社に加害目的などは無かったと判断されました。
(29頁)
以上から、被告証券会社の7号該当性は否定されました。
2 8号関連(不正開示悪意者使用行為性)
守秘義務違反性の有無
(1)営業秘密の帰属性
本件業務委託契約書添付別紙には、ワークプロダクツ(知的財
産権の全ての資料・形態)の所有権は単独で被告証券会社に帰
属する旨の規定があったことから、原告の情報も被告に帰属す
ることになり、本件マニュアルの営業秘密もワークプロダクツ
として被告に帰属することになる、と裁判所は判断しました。
(29頁以下)
(2)公序良俗違反性
本件契約書別紙「行動基準(Standard of Conduct)」では、業
務上の成果物の権利・法的利益について、一切合切を被告側に
帰属させる体裁となっていました(7頁以下参照)。
この別紙規定には著作者人格権の譲渡性に触れた部分があること、
また、優越的地位の濫用(独禁法)の点から原告は本規定の公序
良俗違反性(民法90条)を主張しましたが、裁判所は容れません
でした。(30頁)
(3)解除による復帰の有無
原告は契約解除による効果としての遡及的無効を理由に営業秘密
の帰属について復帰的関係を主張していました。
しかし、裁判所は本件契約が継続的契約であることから解除の
効果は将来効であり、被告証券会社へのワークプロダクツの帰
属について復帰する関係にはならないと判断しました。
(30頁)
以上から被告証券会社による不正開示行為はなく(7号不該当)、
また守秘義務違反性もないことから、被告ファシリティマネジ
メント会社の不正使用行為性も否定されました(8号不該当)。
3 9号関連(知情後使用行為性)
被告ファシリティマネジメント会社による、不正開示行為を事後
的に知った者としての9号行為性も否定されました。(31頁)
■コメント
今回の事案で問題となったマニュアルは、
『(原告代表者の)ダイニングサービスに対する独自の考え方に基づいて,様々な資料,過去の経験及び知識を結集して,テーブルセッティング,食器の取扱方法,サービスの手順,歩き方などの立ち居振る舞いなどサービスを受ける人に心地良さを与えるダイニングサービスのやり方を具体的状況を示して詳細に示した』
ものでした(13頁参照)。
原告のダイニングサービスに関する独自の考え方が表現されたマ
ニュアルは、いわば原告の涙と汗の結晶だったのでしょう。
しかし、このマニュアルは被告証券会社向けに特化したのもので
両当事者で打ち合わせを重ねながら作成していった経緯がありま
した。
また、契約書別紙「行動基準(Standard of Conduct)」では、契
約期間中の成果物の権利・法的利益について、一切合切を被告証券
会社側に帰属させる体裁となっていて(7頁以下参照)、下請法や
独禁法にでも抵触しない限り原告には不利な規定となっています。
こうした経緯と別紙規定の存在が重視された結果、もともと原告が
持っていたノウハウ部分が結果として顧慮されないこととなっしま
っています。
それにしても、さすが一流証券会社の役員などへの配膳サービス
だけあって、そうした部分はホテル並み?のマニュアルであった
であろうとの想像に難くないところです。
■参考判例等
原価セール第二事件
知財高裁H18.02.27平成17(ネ)10007 PDF
「原価セール第二訴訟」事件〜商品供給契約上の地位確認等請求事件判決(知財判決速報)
■参考文献
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)
(2007)509頁以下
■追記(07.07.30)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 対決・東京vs大阪〜営業秘密編
「ダイニングサービスマニュアル営業秘密」事件
★東京地裁平成19.6.29平成18(ワ)14527-2,15947等損害賠償等請求事件、マニュアル使用差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 中村恭
■事案
ダイニングサービス(ケータリングサービス)に関する
マニュアルの営業秘密性をめぐって争われた事案
原告:労働者派遣会社
被告:証券会社(第一事件:損害賠償等請求事件)
ファシリティマネジメント会社
(第二事件:マニュアル使用差止請求事件)
■結論
請求棄却(両事件とも)
■争点
条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、9号
1 7号関連(秘密開示行為性)
2 8号関連(不正開示悪意者使用行為性)
3 9号関連(知情後使用行為性)
■判決内容
経緯
被告証券会社は原告会社とダイニングサービス労働者派遣
契約(ダイニングにかかわる給茶、食事運搬、洗浄、備品
管理などの業務委託契約)を締結。
そのうえで被告証券会社向けサービスマニュアルに従って
ダイニングサービスを提供。
しかし、被告がダイニングサービスに関する社内担当者を
変更して外部の被告ファシリティマネジメント会社に委託
したことから原告と関係が悪化。
原告は信頼関係破壊を理由に解除権を行使。被告証券会社
もダイニングサービス提供停止について債務不履行を理由
に解除の意思表示を行っていました。
争点
1 7号関連(秘密開示行為性)
(1)「示された」ものか
最初の業務委託契約が締結された後に原告と被告証券会社の
合意の下に本件マニュアルが作成されたという経緯がありま
した。
裁判所は、原告と被告証券会社は本件マニュアルという情報
が成立した時に本件マニュアルの情報をお互いに原始的に
保有することになったものであって、被告は原告から原告が保
有していた本件マニュアルの情報を相手に「示された」(7号)関係
にはなかった、と判断しました。
(29頁)
なお、「示された」争点に関する近時の判例として、下記原価
セール第二事件参照。
(2)「図利加害目的」があったか
原告をダイニングサービスから排除する意図はなく、被告証
券会社に加害目的などは無かったと判断されました。
(29頁)
以上から、被告証券会社の7号該当性は否定されました。
2 8号関連(不正開示悪意者使用行為性)
守秘義務違反性の有無
(1)営業秘密の帰属性
本件業務委託契約書添付別紙には、ワークプロダクツ(知的財
産権の全ての資料・形態)の所有権は単独で被告証券会社に帰
属する旨の規定があったことから、原告の情報も被告に帰属す
ることになり、本件マニュアルの営業秘密もワークプロダクツ
として被告に帰属することになる、と裁判所は判断しました。
(29頁以下)
(2)公序良俗違反性
本件契約書別紙「行動基準(Standard of Conduct)」では、業
務上の成果物の権利・法的利益について、一切合切を被告側に
帰属させる体裁となっていました(7頁以下参照)。
この別紙規定には著作者人格権の譲渡性に触れた部分があること、
また、優越的地位の濫用(独禁法)の点から原告は本規定の公序
良俗違反性(民法90条)を主張しましたが、裁判所は容れません
でした。(30頁)
(3)解除による復帰の有無
原告は契約解除による効果としての遡及的無効を理由に営業秘密
の帰属について復帰的関係を主張していました。
しかし、裁判所は本件契約が継続的契約であることから解除の
効果は将来効であり、被告証券会社へのワークプロダクツの帰
属について復帰する関係にはならないと判断しました。
(30頁)
以上から被告証券会社による不正開示行為はなく(7号不該当)、
また守秘義務違反性もないことから、被告ファシリティマネジ
メント会社の不正使用行為性も否定されました(8号不該当)。
3 9号関連(知情後使用行為性)
被告ファシリティマネジメント会社による、不正開示行為を事後
的に知った者としての9号行為性も否定されました。(31頁)
■コメント
今回の事案で問題となったマニュアルは、
『(原告代表者の)ダイニングサービスに対する独自の考え方に基づいて,様々な資料,過去の経験及び知識を結集して,テーブルセッティング,食器の取扱方法,サービスの手順,歩き方などの立ち居振る舞いなどサービスを受ける人に心地良さを与えるダイニングサービスのやり方を具体的状況を示して詳細に示した』
ものでした(13頁参照)。
原告のダイニングサービスに関する独自の考え方が表現されたマ
ニュアルは、いわば原告の涙と汗の結晶だったのでしょう。
しかし、このマニュアルは被告証券会社向けに特化したのもので
両当事者で打ち合わせを重ねながら作成していった経緯がありま
した。
また、契約書別紙「行動基準(Standard of Conduct)」では、契
約期間中の成果物の権利・法的利益について、一切合切を被告証券
会社側に帰属させる体裁となっていて(7頁以下参照)、下請法や
独禁法にでも抵触しない限り原告には不利な規定となっています。
こうした経緯と別紙規定の存在が重視された結果、もともと原告が
持っていたノウハウ部分が結果として顧慮されないこととなっしま
っています。
それにしても、さすが一流証券会社の役員などへの配膳サービス
だけあって、そうした部分はホテル並み?のマニュアルであった
であろうとの想像に難くないところです。
■参考判例等
原価セール第二事件
知財高裁H18.02.27平成17(ネ)10007 PDF
「原価セール第二訴訟」事件〜商品供給契約上の地位確認等請求事件判決(知財判決速報)
■参考文献
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)
(2007)509頁以下
■追記(07.07.30)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 対決・東京vs大阪〜営業秘密編