裁判所HP 知的財産裁判例集より

「選撮見録」事件(控訴審)

大阪高裁平成19.6.14平成17(ネ)3258等著作権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件,反訴請求事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官     小野洋一
裁判官     菊地浩明



★原審
大阪地裁平成17.10.24平成17(ワ)488著作権民事訴訟事件PDF



■事案

集合住宅向けにテレビ放送を対象としたハードディスクビデオレコーダーシステム(商品名「選撮見録(よりどりみどり)」)の販売を行っていた被告会社に対し、民放5社が放送番組制作者としての著作権(複製権及び公衆送信権)、放送事業者としての著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害を理由として上記商品の使用と販売の差止、廃棄を求めたものの控訴審


控訴人 :ソフトウエア開発販売業者
被控訴人:テレビ局5社



■結論

一部変更(業者側敗訴)



■争点

条文 著作権法第2条1項7号の2、2条1項9号の5、112条1項

1 請求の特定性
2 商品の構成(略)
3 単独行使性(略)
4 複製権侵害性
5 公衆送信・送信可能化性
6 侵害主体性
7 差止の内容(略)
8 反訴請求(略)



■判決内容

争点

1 請求の特定性

商品名などでは差止対象となる物件の特定性としては不十分
との業者側の主張に対して、裁判所は『請求の特定の観点か
らは問題とならない
』としています。
(31頁以下)


4 複製権侵害性

サーバーのハードディスクへの録音・録画が「複製」にあたり、
この複製主体あるいは公衆送信・送信可能化する主体は、録画
を指示する各居室の入居者である。
録画ファイルが入居者によって共用されていることから私的使
(30条)にもあたらないとされ、複製権侵害性が認められて
います。(35頁以下)


5 公衆送信・送信可能化性

サーバーから各居宅のビューワーへの情報伝達が「送信」性、
公衆送信」性(2条1項7号の2、23条)を有するかどうか、また
サーバーへの情報記録が「送信可能化」(2条1項9号の5、
99条の2)にあたるかどうかが争点となっています。

結論的には、いずれの要件にも該当すると判断されています。
(37頁以下)


6 侵害主体性

指示信号を発する入居者が実際に複製行為,公衆送信・送信可能化行為をするものであり,したがって,少なくとも,その主体はいずれも,現実にコントローラーを操作する各居室の入居者ということができる。
 しかし,現実の複製,公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても,その過程を管理・支配し,かつ,これによって利益を受けている等の場合には,その者も,複製行為,公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ,その結果,複製行為,公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。



実際の録画使用者である入居者に侵害主体性を認めつつ、業者
の管理支配性・利益性の観点から侵害行為主体性について検討。

システムの安定的な運用のために保守管理の必要性があったこ
と、販売・保守管理による利益享受を認めて業者の侵害主体性
を肯定しています。
(41頁以下)


なお、裁判所は続けて

控訴人商品における著作権,著作隣接権の侵害は,控訴人が敢えて採用した(乙21)放送番組に係る単一のファイルを複数の入居者が使用するという控訴人商品の構成自体に由来するものであり,そのことは使用者には知りようもないことがらであり,使用者の複製等についての関与も著しく乏しいから,その意味で,控訴人は,控訴人商品の販売後も,使用者による複製等(著作権,著作隣接権の侵害)の過程を技術的に決定・支配しているものということができる。
自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,規範的な意味において,独立して著作権,著作隣接権の侵害主体となると認めるのが相当である。
(46頁以下)


入居者もあずかり知らないところでシステム的に入居者が著作
権侵害をしてしまう機器の構成にこそ問題があって、著作権侵
害行為に密接な関わりがあるのは業者であるから、業者は直接
侵害主体であると判断。
ファイルローグ事件控訴審判決と同じ侵害擬制説にたつものと
いえます。

結局、従来の判例の流れにたって業者と使用者の管理・支配
の程度の利益較量という観点から行為主体性を判断したもの
となっています。
(下記潮海論文372頁以下参照。)



ファイルローグ事件(控訴審)
東京高裁平成17年03月31日平成16(ネ)405著作権民事訴訟PDF
(対ジャスラック)
東京高裁平成17年03月31日平成16(ネ)446著作権民事訴訟PDF
(対レコード会社)


単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての控訴人会社の管理があり,控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。
(対ジャスラック判決PDF10頁、対レコード会社判決PDF11頁)


■コメント

原審では業者の侵害主体性を否定しながらも112条1項の類推
適用
という理論構成によって業者の販売行為に対する差止を
認めていましたが、控訴審では業者に侵害主体性を正面から
認めて同様の結論に至っています。

同一ファイルの使用など30条の判断も微妙なところですが、
原審に較べても業者の侵害行為に対する関与が強く認められると
いう結果に終わってしまいました。


■参考文献

潮海久雄「著作権侵害の主体責任に関するわが国判例法理の比較法上の位置づけ-テレビ視聴サービスの事例を中心に-」『知財管理』57巻3号(No675)2007 357頁以下

岡邦俊「集合住宅用録画装置の販売会社は権利侵害の主体である」
    『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)309頁以下、300頁以下


■参考ブログ

benli
選撮見録事件高裁判決

Matimulog
arret:選撮見録控訴審判決


■過去のブログ

2005年10月30日
「選撮見録」クロムサイズ社著作権侵害差止等請求事件(知財判決速報)


■追記(07.06.23)

侵害主体性を否定しつつ112条の類推解釈による
処理のほうが妥当性があるとの見解について、
北村行夫「応用段階に入った著作権」
     『コピライト』552号(2007.4)15頁以下参照。
なお、
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」
     『知的財産法政策学研究』14号(2007.3)157頁以下参照。
知的財産法政策学研究14号吉田論文PDF 21世紀COEプログラム:「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」研究プロジェクト


■追記(07.06.24)

録画サービスを巡る事件の横断的検討について、

佐藤豊「「テレビ放送をインターネット回線を経由して試聴するシステム」を使用するための設備提供の是非-まねきTV事件-」
     『知的財産法政策学研究』15号(2007.6)241頁以下参照。


追記(08.02.15)

LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.4
平嶋竜太 「集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムの販売差止めと著作権法112条1項(大阪高等裁判所平成19年6月14日判決) 」
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