裁判所HP 知的財産裁判例集より
「サライ写真著作権」事件
★東京地裁平成19.5.30平成17(ワ)24929損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 国分隆文
■事案
出版社が無断で写真家のポジ写真をデジタルデータ化した行為の
著作権侵害性が争われた事案
原告:写真家
被告:出版社
■結論
請求一部認容
■争点
条文 著作権法第23条、21条
1 ポジ写真の送信可能化権・複製権侵害性
2 ポジフィルムの所有権の帰属
3 営業妨害行為の有無(略)
4 損害額
■判決内容
経緯
写真家が平成10年〜15年にかけて雑誌「サライ」のために撮影・提
供したポジフィルムを出版社である小学館は自社のデータベースシ
ステムであるSVD(小学館ビジュアル・データベース)での利用目
的のためにデジタルデータ化していました。
SVDシステムでのポジ写真の管理を含め、その二次利用を規定する
契約書の雛型(「写真使用契約書」)が平成14年頃には制作されて
いましたが、写真家はこれにサインをしていませんでした。
その後、写真家からの抗議をうけて平成17年にデジタルデータを
被告は削除しています。
1 ポジ写真の送信可能化権・複製権侵害性
(1)送信可能化権侵害性(「公衆」性該当性)
ポジ写真をフィルムスキャナーで取り込んだ後、サーバーに蓄積
保存していました。
このサーバーへの蓄積保存行為の送信可能化行為性について、
そもそも「公衆性」があったかどうかが問題とされました。
結論的には、デジタルデータベース化担当者が4名と特定かつ少数
であったことから、「公衆」(著作権法2条5項)の要件を充足しな
いと判断され侵害性が否定されました。
(22頁以下)
(2)複製権侵害性
ポジ写真デジタルデータをハードディスクやCD-ROMに保存していた
ことが認定されており、複製権侵害が認められています。
(24頁)
2 ポジフィルムの所有権の帰属
『著作物についての著作権と所有権とは,別個に帰属し得るものであるが,著作権者は,当該著作物の所有権を有しない場合,保有する著作権の行使において,事実上,大幅な制約を受けることになるのであるから,当該著作物が,二次使用等が予想される写真の著作物である場合,上記制約を受ける著作権者に対する対価,報酬等の有無なども,所有権の帰属に関する当事者の意思を検討する際の考慮要素になると考えられる。原告と被告間の合意においては,経費としての支払と,上記のとおり,掲載された場合の許諾料の支払があるものの,それ以上に,ポジフィルムの所有権が被告に帰属することを考慮した,対価,報酬等の金員の支払がされたとは認められず,上記の各支払が当該趣旨を含むことをうかがわせる事情も認められない。』
(30頁)
上記の点も含め、ポジ写真の雑誌掲載に至る経緯、取引関係、交付
したポジフィルムの返還要求、契約書雛型の内容などの諸事情から
ポジフィルムの所有権は原告写真家に帰属すると判断されています。
(26頁以下)
4 損害額
(1)複製権侵害についての損害額
一枚あたり2000円〜5000円の損害額が認定されています。
407枚分合計で82万円となっています。
(34頁以下)
(2)所有権侵害についての損害額
紛失ポジフィルムの損害額として、一枚あたり2万円〜
5万円として117枚分合計で246万円が認定されています。
(35頁以下)
■コメント
出版社側のコンプライアンス意識の欠如、内部管理業務上の不手
際の被害を端的に写真家が被ってしまったという事案です。
裁判の経緯については、原告の写真家加藤雅昭さんのサイトに詳
しいので(下記URL参照)、そちらを参照して戴くと事案理解が
深まると思います。
出版社としては、ほかの写真家のかたとの関係もあって、安易に
複製権侵害、所有権の帰属を認める和解案には応じられなかった
のでしょう。
ポジ所有権の争点を含め、知人の雑誌編集者に今回の事案について
感想を聞いてみました。
知人曰く、ポジの取扱については、企画依頼撮影の場合、ポジの返
却を求められること自体が皆無だということで(消耗品なみの扱い・
二次利用の際の使用料支払いは編集者の善意でやってるだけ)、そ
れが現場の一般的な感覚だとすると出版社側の主張にも一分の理が
あることになります。
また、ひとくちに写真家の撮影行為といっても、撮影に対する
スタンスの違い、作家としての創作活動なのか、商業写真家として
の製作で二次利用にこだわらないか等によって今回の事案の受け
止め方もあるいは人さまざまで違うのかもしれません。
出版社側主導でポジの二次利用をシステム化する・写真使用契約
書雛型を画一的に適用するということは、クリエイター意識の強い
写真家側にとっては自己の創作物に対するコントロール権に及ぼす
影響がきわめて大きいことから、今回反発(JPSも含め)も強かっ
たと思います。
小学館の写真使用契約書雛型に写真家がサインをしない場合、その
写真家は小学館が発行する多くの雑誌と事実上取引ができなくなる
わけで事態は重大です。
この雛型では覚書など個別契約の取り交わしが認められていますの
で(第1条2項)、契約書の弾力的な運用を小学館には期待したいと
ころです。
■参考サイト
原告サイト
小学館著作権侵害裁判報告
本件写真使用契約書
契約書PDF
■参考ブログ(07.06.11/06.20)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] ポジフィルムはどこに消えた?
ブログ
写真家の独り言
小学館は6月12日付で控訴したようです。
「サライ写真著作権」事件
★東京地裁平成19.5.30平成17(ワ)24929損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 国分隆文
■事案
出版社が無断で写真家のポジ写真をデジタルデータ化した行為の
著作権侵害性が争われた事案
原告:写真家
被告:出版社
■結論
請求一部認容
■争点
条文 著作権法第23条、21条
1 ポジ写真の送信可能化権・複製権侵害性
2 ポジフィルムの所有権の帰属
3 営業妨害行為の有無(略)
4 損害額
■判決内容
経緯
写真家が平成10年〜15年にかけて雑誌「サライ」のために撮影・提
供したポジフィルムを出版社である小学館は自社のデータベースシ
ステムであるSVD(小学館ビジュアル・データベース)での利用目
的のためにデジタルデータ化していました。
SVDシステムでのポジ写真の管理を含め、その二次利用を規定する
契約書の雛型(「写真使用契約書」)が平成14年頃には制作されて
いましたが、写真家はこれにサインをしていませんでした。
その後、写真家からの抗議をうけて平成17年にデジタルデータを
被告は削除しています。
1 ポジ写真の送信可能化権・複製権侵害性
(1)送信可能化権侵害性(「公衆」性該当性)
ポジ写真をフィルムスキャナーで取り込んだ後、サーバーに蓄積
保存していました。
このサーバーへの蓄積保存行為の送信可能化行為性について、
そもそも「公衆性」があったかどうかが問題とされました。
結論的には、デジタルデータベース化担当者が4名と特定かつ少数
であったことから、「公衆」(著作権法2条5項)の要件を充足しな
いと判断され侵害性が否定されました。
(22頁以下)
(2)複製権侵害性
ポジ写真デジタルデータをハードディスクやCD-ROMに保存していた
ことが認定されており、複製権侵害が認められています。
(24頁)
2 ポジフィルムの所有権の帰属
『著作物についての著作権と所有権とは,別個に帰属し得るものであるが,著作権者は,当該著作物の所有権を有しない場合,保有する著作権の行使において,事実上,大幅な制約を受けることになるのであるから,当該著作物が,二次使用等が予想される写真の著作物である場合,上記制約を受ける著作権者に対する対価,報酬等の有無なども,所有権の帰属に関する当事者の意思を検討する際の考慮要素になると考えられる。原告と被告間の合意においては,経費としての支払と,上記のとおり,掲載された場合の許諾料の支払があるものの,それ以上に,ポジフィルムの所有権が被告に帰属することを考慮した,対価,報酬等の金員の支払がされたとは認められず,上記の各支払が当該趣旨を含むことをうかがわせる事情も認められない。』
(30頁)
上記の点も含め、ポジ写真の雑誌掲載に至る経緯、取引関係、交付
したポジフィルムの返還要求、契約書雛型の内容などの諸事情から
ポジフィルムの所有権は原告写真家に帰属すると判断されています。
(26頁以下)
4 損害額
(1)複製権侵害についての損害額
一枚あたり2000円〜5000円の損害額が認定されています。
407枚分合計で82万円となっています。
(34頁以下)
(2)所有権侵害についての損害額
紛失ポジフィルムの損害額として、一枚あたり2万円〜
5万円として117枚分合計で246万円が認定されています。
(35頁以下)
■コメント
出版社側のコンプライアンス意識の欠如、内部管理業務上の不手
際の被害を端的に写真家が被ってしまったという事案です。
裁判の経緯については、原告の写真家加藤雅昭さんのサイトに詳
しいので(下記URL参照)、そちらを参照して戴くと事案理解が
深まると思います。
出版社としては、ほかの写真家のかたとの関係もあって、安易に
複製権侵害、所有権の帰属を認める和解案には応じられなかった
のでしょう。
ポジ所有権の争点を含め、知人の雑誌編集者に今回の事案について
感想を聞いてみました。
知人曰く、ポジの取扱については、企画依頼撮影の場合、ポジの返
却を求められること自体が皆無だということで(消耗品なみの扱い・
二次利用の際の使用料支払いは編集者の善意でやってるだけ)、そ
れが現場の一般的な感覚だとすると出版社側の主張にも一分の理が
あることになります。
また、ひとくちに写真家の撮影行為といっても、撮影に対する
スタンスの違い、作家としての創作活動なのか、商業写真家として
の製作で二次利用にこだわらないか等によって今回の事案の受け
止め方もあるいは人さまざまで違うのかもしれません。
出版社側主導でポジの二次利用をシステム化する・写真使用契約
書雛型を画一的に適用するということは、クリエイター意識の強い
写真家側にとっては自己の創作物に対するコントロール権に及ぼす
影響がきわめて大きいことから、今回反発(JPSも含め)も強かっ
たと思います。
小学館の写真使用契約書雛型に写真家がサインをしない場合、その
写真家は小学館が発行する多くの雑誌と事実上取引ができなくなる
わけで事態は重大です。
この雛型では覚書など個別契約の取り交わしが認められていますの
で(第1条2項)、契約書の弾力的な運用を小学館には期待したいと
ころです。
■参考サイト
原告サイト
小学館著作権侵害裁判報告
本件写真使用契約書
契約書PDF
■参考ブログ(07.06.11/06.20)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] ポジフィルムはどこに消えた?
ブログ
写真家の独り言
小学館は6月12日付で控訴したようです。