裁判所HP 知的財産裁判例集より

「MYUTA著作権侵害」事件

東京地裁平成19.5.25平成18(ワ)10166著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部真規子
裁判官     平田直人
裁判官     田辺実


■事案

音楽CD収録楽曲を携帯電話で聞くことができるようにする
ストレージサービス「MYUTA」が著作権侵害とならないか
どうかが争われた事案

原告:携帯電話向けストレージサービス提供業者
被告:ジャスラック


■結論

請求棄却


■争点

条文 著作権法第21条、23条

1 複製権侵害の有無
2 公衆送信権侵害の有無


■判決内容

・サービスの概要

原告との間で会員登録を済ませたユーザは,原告の提供する本件ユーザソフトをパソコンにインストールし,これを用いて楽曲の音源データを携帯電話で利用できるファイル形式に変換して本件サーバにアップロードし,これを携帯電話にダウンロードする。
このように,本件サービスは,楽曲の音源データを本件サーバから携帯電話にインターネット回線を経由してダウンロードし,ユーザが携帯電話でいつでもどこでも音楽を楽しめることを目的


としたものです。(18頁)


・サービスの先進性

本件サービスは,ユーザにおける音源データや携帯電話等の技術的側面の理解にかかわらず,本件サーバを経由する仕組みを通じて,携帯電話での音楽再生を容易に実現することに意味がある。
(18頁)

手軽にユーザーの手元にある音楽CD楽曲を自分の携帯電話に取り込める
サービスとしてアドバンスがあるものでした。


・ユーザーのみの限定利用

本件サービスでは,ユーザが会員登録時に本件サービスで使用するパソコン及び携帯電話を特定してメールアドレス,パスワード等を登録し,原告から発行されたアクセスキーとユーザの携帯電話固有のサブスクライバーID(加入者ID)を用いて識別がされることにより,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続は許可されない。
(18頁以下)

ユーザー以外の第三者がアップロードした楽曲を利用できるような
余地がないサービスでした。


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1 複製権侵害の有無

サーバーでの音源データの複製行為の主体性について裁判所は、

1 サーバーへの複製行為はサービス提供上重要なプロセスである
2 サーバー、システムは事業者が所有し支配・管理している
3 ユーザへの提供ソフトは本件サービスのための特別仕様
4 ユーザが個人レベルでリッピングするのは技術的に相当程度困難



こうした点から、サーバーにおける複製行為の主体はユーザではなく
原告である事業者と認定しました。
(27頁以下)


「銀行の貸金庫業務と同じではないか?」という原告の主張に対して
サービス提供における『原告の全面的な関与』(32頁参照)
があるということを裁判所は強調しています。


結論として、複製行為の主体が事業者と判断されたため、本件サー
ビスの提供がジャスラック管理著作物の複製権を侵害するおそれが
あると認定されました。


2 公衆送信権侵害の有無

(1)送信行為の主体性

サーバーからユーザーの携帯電話への楽曲データのダウンロード行為
について、その送信行為の主体性が問題となっています。

結論的には、前記1にあげた根拠に基づいて事業者が送信行為の主体
であるとされました。
(33頁以下)


(2)自動公衆送信行為該当性

ユーザのPC→サーバー→ユーザの携帯電話という1対1の紐付けサー
ビスですが、こうしたサービスにおける送信行為の「公衆」性について
さらに争点となっています。

インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面はau WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。
(34頁)

また、
本件サーバから音源データを送信しているのは,前記(1)のとおり,本件サーバを所有し管理している原告である。そして,公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的とする(著作権法2条1項7号の2)から,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,公衆に対する送信に当たることになる。
(35頁)

裁判所は、送信行為の「公衆」性を肯定してます。

送信行為の主体が事業者であるとの判断を前提にすれば、送信行為に
「公衆」性があるとの判断に傾くのは容易かもしれません。

結論として、自動公衆送信行為の行為主体は事業者であり
本件サービスの提供によってジャスラック管理著作物の
自動公衆送信権を侵害するおそれがあると認定しました。


以上から、サービス提供事業者はジャスラックの許諾を得ない
限り本件サービスの提供によって管理楽曲の著作権を侵害する
おそれがあり、ジャスラックは差止請求権を有すると判断され
ました。



■コメント

パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザー
(au WIN端末のユーザー対象)を対象に「MYUTA」の名称
により、CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことのできるストレ
ージサービス。
事業者はジャスラックとの紛争を避け司法の判断を仰ぐために現在
はサービスを一時休止しています。

ところで、「タイムシフティング」サービスが問題となった
TV番組ネット配信サービス「まねきTV」事件の原審も民事47部の高部
コートが担当しています。
そのときは「1対1」送信として業者の「主体性」、送信行為の
「公衆性」を否定していますが、今回のリッピングサービスでは
「主体性」、「公衆」性をともに肯定。

「まねきTV」事件原審判決と比較して結論の明暗を分けることとなった
部分がどこなのかという検討がもっとも重要になると思います。
ざっくりいえば、

1 本件サービスを利用しないと携帯へのリッピングが困難
   (まねきTV原審PDF35頁参照)

2 事業者の関与の度合い
 
というところでしょうか。

事業者の関与の度合いについては、「まねきTV」サービスではソニー
社製ロケーションフリー機器自体はユーザ所有であること、システム上
そのほかは汎用品が利用され特別なソフトも使用していないということ
が重視されています。
またこの機器が社会的に見ても有用な装置であるということも認定され
ていました。

これに対して今回の事案では、サービスの社会的有用性についての言及
はなく、また特別なソフトやシステムが必要であることが判断の前提と
なっています。


サービスの代替可能性については、万人向けに容易に携帯へリッピング
できるサービスがない、というのが今日の状況であることはたしかに
そうなのかもしれません。
もっとも、リッピングの技術的なものとしては、「Where is a limit」サイトを
書かれているTontonさんから教えて戴いた「SD-Jukebox」(下記URL参照)
などもあることから、本件サービスの利用は、個人的な使用目的で
CD→携帯へのリッピングの際にネットを経由しただけの話ではないかと
価値判断的に単純には思うところです。


原告側代理人には、金井重彦先生のお名前を見ることができますので
ストレージサービス事業の将来のためにも、なんとか控訴審では
事業展開の可能性が見いだせる判決をもらって戴きたいところです。


■参考サイト

・本件サービス開始時のプレスリリース
infocom_プレスリリース

・イメージシティ社サービス終了の告知(2006年4月20日)
ImageCity

・ジャスラックプレスリリース(2007.5.25)
携帯電話向け音楽データのストレージ・サービス音楽著作物の利用許諾が必要と判断−東京地裁が「MYUTA」運営会社の請求を棄却−

・P902iでSD-Audio、SD-Video、Bluetoothを徹底活用
SD-Jukeboxの使い方を完全理解!- P902iでSD-Audio(音楽)を徹底活用

・ムークスプレーヤー
「MOOCS PLAYER」ダウンロード:WHAT IS MOOCS


■参考判例

「まねきTV」事件原審(まねきTVプレスリリースより)
東京地裁平成18年08月04日決定H18(ヨ)22022著作隣接権仮処分命令申立事件PDF

「まねきTV」事件控訴審
知財高裁平成18年12月22日平成18(ラ)10009著作権民事仮処分決定PDF(対フジテレビ)


■追記(07.05.30/31)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] ダビング屋か、それとも貸金庫か。

池田信夫 blog
サーバは複製の「主体」か
著作権がイノベーションを阻害する

benli
イメージシティ事件について(続)
「法制問題小委員会報告書(案)に対する意見」 on Sep. 2006

追記(08.02.15)

LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.6
今村哲也「CD等の楽曲を自己の携帯電話にダウンロードできるようにすること等を内容としたストレージサービスの提供が著作権者の複製権および自動公衆送信権を侵害するとされた事例(東京地方裁判所平成19年5月25日判決) 」
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