裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ELLE対ELLEGARDEN」事件

東京地裁平成19.5.16平成18(ワ)4029商標権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官  市川正巳
裁判官      杉浦正樹
裁判官      頼晋一


■事案

ロックバンド「ELLEGARDEN」関連商品の標章使用が「ELLE」の
商標権を侵害するかどうか、また不正競争防止法上の不正競争
行為となるかどうかが争われた事案


原告:雑誌「ELLE」発行会社
被告:音楽事務所(ロックバンド所属事務所)


■結論


請求一部認容


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号

1 商標権侵害性(略)
2 不正競争行為性


■判決内容

1 商標権侵害性(略)

ロックバンド「ELLEGARDEN」標章等を付したグッズとなる
Tシャツ、タオル、帽子の一部とリストバンド、ステッカーの全部
について商標権侵害性が肯定されています。
(44頁以下)


2 不正競争行為性

(1)商品・営業主体誤認混同行為性(不正競争防止法2条1項1号)

商標権侵害性が認めらなかったTシャツとタオル、帽子の一部、
及びスコアブック、それに音楽CDのパッケージデザインについては
さらに不正競争行為性が争点となっています。

そのうちのほとんどすべてが誤認混同惹起性がないとされましたが、
唯一、音楽CDのパッケージデザインについては1号請求が肯定されました。

なお、ここで問題となったパッケージデザインというのは、
被告標章(10)で、『「ELLE」と「GARDEN」が二段書きにされ,かつ,
「ELLE」が「GARDEN」よりも大きい字体で,本件ELLE商標の字体に似た
字体で表示されている
』というものもので、
本件のパッケージ表面の左上部及び右下部で使用されて
いたものです。


  (a)商品等表示としての使用の有無

まず、音楽CDのパッケージデザインについて商品等表示として
被告標章を使用していたかどうかが検討されています。

本件CDは,カタカナで大きく「エルレガーデン」と表示された帯を左側に重ねて販売されていること,本件CDのパッケージ裏面には,「Dynamord Label」,「DISCUS CO.,LTD」などと,通常の音楽用コンパクトディスクにおけるものと同程度の表示の大きさで,製造・販売元としての商品等表示が示されていること,被告標章(10) は,「ELLEGARDEN」を「ELLE」と「GARDEN」の二段に重ね,「ELLE」を大きく「GARDEN」をその3分の1程度の大きさで表示し,しかも「ELLE」につき本件ELLE商標に極めて類似したデザインの字体を採用したため,容易に原告を想起させるものであること,パッケージ表面の右下部の被告標章(10)は,風景の一部として描かれているが,上記のとおり被告標章(10)は容易に原告を想起させるデザインであるため,音楽CDの需要者によって,風景の一部ではなく,商標として使用されていると理解されること,同左上部の被告標章(10)も,容易に原告を想起させるCD デザインであるため,帯に大きく書かれた「エルレガーデン」とは異なり,音楽の需要者によって,商標として使用されていると理解されることが認められ,このような被告標章(10)の使用態様によると,被告標章(10)は,使用態様(10)において,商品等表示として使用されていると認められる。
(65頁)

結論的には、商品等表示使用性が肯定されています。


  (b)周知性、類似性、混同のおそれの有無

裁判所は、続けてELLE商標等の周知性を肯定した上で類似性及び
混同のおそれについて判断しています。


a 前記1(ア)に述べたことに加え,被告標章(10)が本件ELLE商標に極めて類似したデザインを採用していることからすると,被告標章(10)の要部は「ELLE」の部分であると認められる。
 このため,前記1(3)イ〜エで述べたと同様に,本件ELLE商標と被告標章(10)とは,外観,称呼及び観念において類似する。


b 前記1(3)オで述べたとおり,原告はファッション関係の事業を行うものであり,音楽関連事業その他のエンタテインメント関連事業を行っていないが,弁論の全趣旨によれば,音楽はファッションに関心のある人々が現代における生活の一部として関心を持つ分野であると認められるから,ファッションと音楽とは,商品又は役務の類似性の観点から見ても,類似性のある分野であると認められる。

c しかも,前記(1)セ(ア)のとおり,その使用態様及び本件ELLE商標に極めて類似した本件標章(10)の字体等から,使用態様(10)に接した需要者が被告標章(10)から本件CDのミュージシャンを想起するものではない。

d よって,被告標章(10)を使用態様(10)で使用した被告商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認混同されるおそれがあると認められる。
(67頁以下)


結論的として、音楽CDのパッケージデザインに関して商品・営業主体
誤認混同行為性(1号)を肯定、そのデザインの使用差止、音楽CD
からの抹消が認められました。


(2)著名表示冒用行為性(同2号)

商標権侵害性と1号の商品・営業主体誤認混同行為性にあたらない
商品について、さらに著名表示冒用行為性の点から検討が加えられて
います。

結論的には、2号請求が認められたものはありませんでした。
(69頁以下)



■コメント

音楽事務所からプレスリリース(下記URL参照)が出ていますが、
事務所代表者は問題を過小評価しているのではないでしょうか。

音楽CDのパッケージデザインが「音楽活動との関係が明確でない商品」
に関するものなのか。

CDジャケット本体のデザインなら言うに及ばず、仮にCDのシュリンク
包装部分のデザインだとしてもアーティストの表現活動・イメージの
一部を形成する重要なものだと思うのですが。

被告標章(10)を誰がデザインしたのかわかりませんが、仮に事務所側が
企画制作したのであれば、不用意だったし、あるいはアーティストが制作
したのであれば適切な助言をすべきであったところであって、アーティス
トさんに対する事務所の責任は重大です。

音楽事務所は、「ELLEGARDEN」「エルレガーデン」で商標を取得していて
(第4582074号)自己の権利保全には配慮があるのであればなおさら
他者の権利侵害にも敏感であるべきでしょう。

アーティストに対するわび・反省の弁もない、釈然としない事務所代表の
コメントです。


■関連サイト

ELLEGARDEN 公式サイト
ELLEGARDEN Official Site

プレスリリース
訴訟報道について

ELLEGARDENファンサイト
ELLEGARDEN NEWS

■追記(07.05.24/28)

名古屋の商標亭
ELLEとELLEGARDEN(ちょっと時期外しました?)

企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財] さりげなく大胆に・・・

追記(08.02.15)

LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.7
宮脇正晴 「ロックバンド関連商品における「商標としての使用」(東京地方裁判所平成19年5月16日判決) 」
PDF

■追記(08.03.24)

控訴審
「ELLE対ELLEGARDEN」事件(控訴審)〜不正競争防止法 商標権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜