裁判所HP 知的財産裁判例集より

「百貨店顧客管理システム」事件

東京地裁平成19.4.25平成17(ワ)8240著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官     山田真紀
裁判官     佐野信


■事案

百貨店等流通業者向け顧客購買動向分析・管理プログラムの
制作委託契約上のロイヤリティ支払をめぐって争われた事案


原告:プログラム開発受託会社(破産管財人)
被告:プログラム開発委託会社ら


■結論

請求棄却


■争点

1 主位的請求は別訴と重複する訴えの提起となるか
2 ロイヤリティ支払合意の有無


■判決内容

1 主位的請求は重複する訴えの提起となるか

原告は、ソフト開発業者として被告から百貨店等の流通業者
向けの顧客購買動向分析・管理プログラムの再開発を受託し
これを納入。
その後、さらに被告からの委託でこのプログラムをカスタマイズ
することで百貨店のほかにスーパーや生協向け、ASPシステム化
して納品されました。

なお原告は、かつて別訴で平成13年1月から14年2月までの
委託業務料の支払いを被告に求めていました。

H14.11  別訴である委託業務料支払等請求事件を提起
H18.9.25 控訴審にて和解成立


そこで被告は、本件訴訟における主位的請求(ロイヤリティ
支払請求)は別訴(委託業務料支払請求)と重複する旨主張
していました。


この点について裁判所は、

カスタマイズ作業等の委託に係る契約(カスタマイズ作業等とその対価に関する契約)と,当該カスタマイズ作業の成果である対象物をカスタマイズ先に納品したことに関するロイヤリティの支払に係る契約(当該対象物の譲渡又は貸与の許諾と,その対価としてのロイヤリティに関する契約)とは,密接に関連するものではあるが,別個に観念することができ,異なる時期に成立することもあり得るのであるから,同一の訴訟物であるとは認められず,社会通念に照らして1個の契約とまで認めることもできない。また,本件においても,原告は,両者を別個の契約として請求しており,両者を1個の契約と解すべき事情も認められない。
(25頁以下)

本件における主位的請求が、別訴と重複する不適法な訴えで
あるとはいえないとしました。


2 ロイヤリティ支払い合意の有無

被告が平成8年から12年の間に原告に委託した業務内容としては、

1 被告が開発したシステムの再開発業務
2 システムの修正・改修業務
3 パッケージ化されたシステムの導入業務
4 スーパー・生協向けシステムのための改修業務
5 システムのASPシステム化のための開発業務

と、多岐に亘り業務委託費はその都度支払われていましたが、
これらの契約書はありませんでした(25頁以下)。

その後、「業務委託基本契約書案」が被告から提示されましたが、
「成果物の帰属」規定などがネックとなり合意締結に至って
いません(29頁以下)。

ロイヤリティ支払合意の有無について、結論的には
合意の存在を裁判所は認めませんでした。
(30頁以下)

(主な理由)

1 ロイヤリティについての具体的な交渉の経緯が認められない
2 合意書面が作成されていない
3 本件訴訟に至るまでロイヤリティ支払の請求がなかった



*そのほかの争点

・本件システムの著作物性の有無
・著作権の帰属
・本件各システムの各取引先への導入は、本件各システム
 (又はそれらの複製物)の譲渡か又は貸与か
・本件各システム(又はそれらの複製物)の譲渡又は貸与に
 ついてのバディの許諾は錯誤により無効となるか
・本件各システム(又はそれらの複製物)についての譲渡権は
 消尽しているか
・主位的請求に係るロイヤリティ額等及び予備的請求に係る
 原告の損害及びその額


主位的請求と予備的請求にかかわりいくつかの争点が提起されて
いましたが、ロイヤリティ支払いについての合意の存在が認定され
なかったこともあって、争点らしい争点とはなりませんでした。
(34頁以下)


■コメント

支払済み部分でも合計で8000万円近い取引がありましたが、
作業と平行して、あるいは作業後に業務委託費の交渉が
行われるという取引状態でした。

その都度打ち合わせがもたれているわけですが、その内容が
書面化されるはずもなく(請求書だけ)、ロイヤリティ支払い
については「言った・言わない」の水掛け論に終わってしまっ
ています。


納品したシステムに開発受託業者側が権利を保持しておきたい
と考える(今後のメシの種になる)モジュールが含まれていたり
する場合、やはりその取扱については事前に取り決めておかない
と後々面倒です。

契約書がないからといって著作権法上から創作物が創作した開発
受託業者に常に帰属しているとは限りませんので、モジュールの
著作権が譲渡されずに留保されていると考えるのであれば、受託
業者は開発業務委託契約のほかに利用許諾契約のことも視野に入
れておかなければならないでしょう。

プログラム開発業務委託取引契約では、開発業務基本契約書とあ
わせて保守管理契約書、利用許諾契約書の3点セットを念頭に置
く必要があるわけです。


■関連情報

本件提訴に関するIR情報(株式会社ハドソン)

訴訟の提起に関するお知らせPDF