裁判所HP 知的財産裁判例集より
「キースヘリング・ユニクロ著作権侵害」事件(控訴審)
★知財高裁平成19.4.5平成18(ネ)10036著作権差止等・著作権損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一
★原審
裁判所サイトに不掲載
■事案
キースヘリング作品の商品化権に関するライセンス契約を巡って
契約違反性、継続的契約上の解除原因の有無が争われた事案
原告(控訴人) :キースヘリング著作権管理会社
被告(被控訴人):ファーストリテイリング、ユニクロ
■結論
控訴棄却
(第3事件については予備的請求について一部認容)
■争点
条文 民法415条、533条
1 訴えの適法性
2 継続的取引契約における解除原因の存否
3 不安の抗弁権の肯否
■判決内容
経緯
平成14年12月23日原告とキース財団がマスターライセンス契約締結
14年12月31日原告と被告がサブライセンス契約締結
17年02月04日原告は被告に対してサブライセンス契約解除の
意思表示(第一次解除)
04月28日被告は契約更新の意思表示
10月01日さらに原告は解除の意思表示(第二解除)
11月01日ユニクロがファーストリテの営業一部承継により
ライセンス上の権利義務を承継
12月31日従前の契約期間満了(3年間)
18年01月01月契約更新により被告は販売継続(〜05月07日)
・第1事件 平成17年(ワ)第3646号事件
著作物使用差止事件
・第2事件 平成17年(ワ)第7908号事件
営業誹謗行為事件(不正競争防止法2条1項14号等)
・第3事件 平成17年(ワ)第20463号事件
不法行為・ロイヤリティ支払請求事件
原審では、いずれも棄却判断。
なお、
第1事件については、訴えの交換的変更
第2事件については、控訴されず
本控訴審では、第1事件新請求と第3事件の判断となります。
1 訴えの適法性
第1事件の訴えの交換的変更にかかる変更後の訴えの適法性について、
裁判所は結論的には適法と判断しました(87頁以下)。
2 継続的取引契約における解除原因の存否
原告がサブライセンス契約を解除するに至った経緯としては、
中国での許諾違反問題(ポロシャツ販売、ポロシャツHP、
T SHOW震撼上市HP、店内タペストリー、地下鉄コルトン、
テレビコマーシャルを巡る紛争)、100円販売問題、B品販売問題、
無承認チラシ問題、商品見本提供問題等がありました。
(1)ロゴ釦付きポロシャツ販売(サブライセンス契約第1条関連)
・認定された事実
「KEITH HARING」という文字が円、環状に刻印された
釦が付されたポロシャツを中国で販売したか、という点について、
結論的には被告が販売したと認定されました。(90頁以下)
・契約違反性
しかし、販売行為の契約違反性の点については、マスターライセンス契約
およびサブライセンス契約の規定ぶりから「KEITH HARING」
という文字自体はそもそも使用許諾契約の対象とはなっていないとして
契約違反性を否定しています。
(93頁以下)
・解除原因の存否
さらに、仮に契約違反があった場合、ライセンス契約などの継続的
取引契約では債務不履行の際の解除原因の存否の判断においては
信義則違反など重大な違反行為性が求められます。
裁判所は、この点について
『継続的取引契約である本件サブライセンス契約の解除の可否の判断に当たっては,契約違反に該当する行為があったことが直ちに解除原因になると認められるものとはいえず,違反に至った経緯や違反の程度を踏まえて実質的に判断すべきである』とし、
(97頁以下)
そして、
『釦付きポロシャツの販売は,仕様書等における削除・訂正漏れの記載に基づいて誤って製造された商品に係るものとみるのが合理的である』
(93頁以下)
との事実認定から、仮に契約違反事実があったとしてもその違反の
程度は解除原因に該当するほどの強いものと評価することはできない、
と判断しました。
(98頁)
(2)その他の中国問題(第5条、13条関連)
販売地域は日本に限定されていましたが、広告宣伝行為が中国でも
行われていて、これら宣伝広告に原告著作物が利用されていました。
広告宣伝地域の解釈について、
『確かに,本件サブライセンス契約5条は,その販売地域について「本商品の販売地域は日本国内のみに限定する。…」とのみ規定し,広告については文言として規定していない。しかし,広告宣伝は販売行為に密接に関連し,これと有機的一体性を有する行為と位置づけられるものであって,原判決も説示するとおり,本件サブライセンス契約5条は,個別商品についての広告か企業イメージの広告かを問わず,宣伝広告の実施地域を日本国内のみに限定する趣旨を含んでいるものと解するのが相当であるから,ポロシャツHP,TSHOW震撼上市HP,店内タペストリー,地下鉄コルトン,テレビコマーシャルの使用は本件サブライセンス契約5条に違反するというべきである。』
(105頁以下)
として、契約違反性を肯定。
しかし、解除原因の有無については、いずれも違反性の程度が低いため
すべて否定されています。
(3)100円販売問題(第3条関連)
在庫整理の一環として正価1000〜1900円の商品が100円で販売され、
不当廉売性が争点の一つとなっていましたが、サブライセンス契約
規定上価格に関する制限行為は予定しないところであるとして
契約違反性が否定されています。
(116頁以下)
(4)B品販売問題(第4条関連)
糸のほつれやキズなどの縫製不良、キースへリングプロパティの
ワッペン内の汚れ,ミシンのダブりなどいわゆるB品が販売されて
いた点について、意図的な販売ではなかったとしています。
(119頁以下)
(5)無承認チラシ問題(第8条関連)
販売価格を実質的に拘束する結果となるおそれのある販売価格のみを
理由とするチラシ不承諾の権限はそもそも原告にはない、として
無承諾チラシの契約違反性を否定してます。
(121頁以下)
(6)商品見本提供問題(第9条関連)
被告による見本提供義務の懈怠についても、契約違反性を否定して
います。(123頁以下)
3 不安の抗弁権の肯否(第3条関連)
被告側の不安の抗弁権を理由としたミニマムロイヤリティ不払いに
ついて原告は債務不履行を理由に契約解除の意思表示をしていました
(第二次解除)。
この第二次解除の肯否について、裁判所は被告側の不安の抗弁権には
理由があり支払義務不履行はないとして、第二次解除の有効性を
否定しています。
(125頁)
なお、第3事件については、第一次解除、第二次解除ともに
理由がなく、サブライセンス契約は継続しており、その後被告は
契約更新の意思表示をしたうえで活動を継続しており、その行為に
不法行為性はない(主位的請求)。
また、予備的請求については契約更新後の平成18年1月1日から5月7日
までの売り上げの3%は第3条の規定に基づいて支払う必要がある
(ミニマムロイヤリティ1億円については不安の抗弁権によりその
支払いを拒める)、と判示しました。
(126頁以下)
■コメント
キースヘリングの著作物のライセンス契約を巡る紛争で
細かい事実認定が行われていて、実に示唆に富む事案です。
ブランドイメージ保護のため、ライセンサーはどういった制限を
契約上加えられるか、公取委のガイドライン(「特許・ノウハウ
ライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」など)を遵守しつつ
検討して行かなければならないところです。
また、基となるマスターライセンスとの関係も検討課題で、
マスターのほうが契約期間満了してしまった場合の規定などにも
配慮が必要です(128頁)。
仕様書の取扱いや不良品が混じって販売してしまったとか、
ファーストリテ側にも落ち度はあったわけですが、
避けては通れない中国との取引関係でもう少し、著作物の取扱いを
どの範囲で許諾すべきか関係者間で詰めておくべきだったのでは
ないかと思われるところです。
話はずれますが、今回の事件に絡めてファーストリテ社のCSR活動を
CSRの専門家と話題にしました。
CSRレポート FAST RETAILING CO., LTD.
その専門家曰く、会社代表者の言葉(「トップメッセージ」)が重要だが
ライターが書いているのではないか(会社代表者としての生のコトバに
なっていない、署名(自署)も入っていない)、中国語版レポートが作成
されていない等々・・・
いずれにしても、今回の事案がこれからのCSR活動にどのように
反映されるのか、ファーストリテ社の今後の取り組みが注目されます。
■追記(07.05.09)
企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財] 商品化ライセンスと独禁法(前編)
[企業法務][知財] 商品化ライセンスと独禁法(後編・完)
「キースヘリング・ユニクロ著作権侵害」事件(控訴審)
★知財高裁平成19.4.5平成18(ネ)10036著作権差止等・著作権損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一
★原審
裁判所サイトに不掲載
■事案
キースヘリング作品の商品化権に関するライセンス契約を巡って
契約違反性、継続的契約上の解除原因の有無が争われた事案
原告(控訴人) :キースヘリング著作権管理会社
被告(被控訴人):ファーストリテイリング、ユニクロ
■結論
控訴棄却
(第3事件については予備的請求について一部認容)
■争点
条文 民法415条、533条
1 訴えの適法性
2 継続的取引契約における解除原因の存否
3 不安の抗弁権の肯否
■判決内容
経緯
平成14年12月23日原告とキース財団がマスターライセンス契約締結
14年12月31日原告と被告がサブライセンス契約締結
17年02月04日原告は被告に対してサブライセンス契約解除の
意思表示(第一次解除)
04月28日被告は契約更新の意思表示
10月01日さらに原告は解除の意思表示(第二解除)
11月01日ユニクロがファーストリテの営業一部承継により
ライセンス上の権利義務を承継
12月31日従前の契約期間満了(3年間)
18年01月01月契約更新により被告は販売継続(〜05月07日)
・第1事件 平成17年(ワ)第3646号事件
著作物使用差止事件
・第2事件 平成17年(ワ)第7908号事件
営業誹謗行為事件(不正競争防止法2条1項14号等)
・第3事件 平成17年(ワ)第20463号事件
不法行為・ロイヤリティ支払請求事件
原審では、いずれも棄却判断。
なお、
第1事件については、訴えの交換的変更
第2事件については、控訴されず
本控訴審では、第1事件新請求と第3事件の判断となります。
1 訴えの適法性
第1事件の訴えの交換的変更にかかる変更後の訴えの適法性について、
裁判所は結論的には適法と判断しました(87頁以下)。
2 継続的取引契約における解除原因の存否
原告がサブライセンス契約を解除するに至った経緯としては、
中国での許諾違反問題(ポロシャツ販売、ポロシャツHP、
T SHOW震撼上市HP、店内タペストリー、地下鉄コルトン、
テレビコマーシャルを巡る紛争)、100円販売問題、B品販売問題、
無承認チラシ問題、商品見本提供問題等がありました。
(1)ロゴ釦付きポロシャツ販売(サブライセンス契約第1条関連)
・認定された事実
「KEITH HARING」という文字が円、環状に刻印された
釦が付されたポロシャツを中国で販売したか、という点について、
結論的には被告が販売したと認定されました。(90頁以下)
・契約違反性
しかし、販売行為の契約違反性の点については、マスターライセンス契約
およびサブライセンス契約の規定ぶりから「KEITH HARING」
という文字自体はそもそも使用許諾契約の対象とはなっていないとして
契約違反性を否定しています。
(93頁以下)
・解除原因の存否
さらに、仮に契約違反があった場合、ライセンス契約などの継続的
取引契約では債務不履行の際の解除原因の存否の判断においては
信義則違反など重大な違反行為性が求められます。
裁判所は、この点について
『継続的取引契約である本件サブライセンス契約の解除の可否の判断に当たっては,契約違反に該当する行為があったことが直ちに解除原因になると認められるものとはいえず,違反に至った経緯や違反の程度を踏まえて実質的に判断すべきである』とし、
(97頁以下)
そして、
『釦付きポロシャツの販売は,仕様書等における削除・訂正漏れの記載に基づいて誤って製造された商品に係るものとみるのが合理的である』
(93頁以下)
との事実認定から、仮に契約違反事実があったとしてもその違反の
程度は解除原因に該当するほどの強いものと評価することはできない、
と判断しました。
(98頁)
(2)その他の中国問題(第5条、13条関連)
販売地域は日本に限定されていましたが、広告宣伝行為が中国でも
行われていて、これら宣伝広告に原告著作物が利用されていました。
広告宣伝地域の解釈について、
『確かに,本件サブライセンス契約5条は,その販売地域について「本商品の販売地域は日本国内のみに限定する。…」とのみ規定し,広告については文言として規定していない。しかし,広告宣伝は販売行為に密接に関連し,これと有機的一体性を有する行為と位置づけられるものであって,原判決も説示するとおり,本件サブライセンス契約5条は,個別商品についての広告か企業イメージの広告かを問わず,宣伝広告の実施地域を日本国内のみに限定する趣旨を含んでいるものと解するのが相当であるから,ポロシャツHP,TSHOW震撼上市HP,店内タペストリー,地下鉄コルトン,テレビコマーシャルの使用は本件サブライセンス契約5条に違反するというべきである。』
(105頁以下)
として、契約違反性を肯定。
しかし、解除原因の有無については、いずれも違反性の程度が低いため
すべて否定されています。
(3)100円販売問題(第3条関連)
在庫整理の一環として正価1000〜1900円の商品が100円で販売され、
不当廉売性が争点の一つとなっていましたが、サブライセンス契約
規定上価格に関する制限行為は予定しないところであるとして
契約違反性が否定されています。
(116頁以下)
(4)B品販売問題(第4条関連)
糸のほつれやキズなどの縫製不良、キースへリングプロパティの
ワッペン内の汚れ,ミシンのダブりなどいわゆるB品が販売されて
いた点について、意図的な販売ではなかったとしています。
(119頁以下)
(5)無承認チラシ問題(第8条関連)
販売価格を実質的に拘束する結果となるおそれのある販売価格のみを
理由とするチラシ不承諾の権限はそもそも原告にはない、として
無承諾チラシの契約違反性を否定してます。
(121頁以下)
(6)商品見本提供問題(第9条関連)
被告による見本提供義務の懈怠についても、契約違反性を否定して
います。(123頁以下)
3 不安の抗弁権の肯否(第3条関連)
被告側の不安の抗弁権を理由としたミニマムロイヤリティ不払いに
ついて原告は債務不履行を理由に契約解除の意思表示をしていました
(第二次解除)。
この第二次解除の肯否について、裁判所は被告側の不安の抗弁権には
理由があり支払義務不履行はないとして、第二次解除の有効性を
否定しています。
(125頁)
なお、第3事件については、第一次解除、第二次解除ともに
理由がなく、サブライセンス契約は継続しており、その後被告は
契約更新の意思表示をしたうえで活動を継続しており、その行為に
不法行為性はない(主位的請求)。
また、予備的請求については契約更新後の平成18年1月1日から5月7日
までの売り上げの3%は第3条の規定に基づいて支払う必要がある
(ミニマムロイヤリティ1億円については不安の抗弁権によりその
支払いを拒める)、と判示しました。
(126頁以下)
■コメント
キースヘリングの著作物のライセンス契約を巡る紛争で
細かい事実認定が行われていて、実に示唆に富む事案です。
ブランドイメージ保護のため、ライセンサーはどういった制限を
契約上加えられるか、公取委のガイドライン(「特許・ノウハウ
ライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」など)を遵守しつつ
検討して行かなければならないところです。
また、基となるマスターライセンスとの関係も検討課題で、
マスターのほうが契約期間満了してしまった場合の規定などにも
配慮が必要です(128頁)。
仕様書の取扱いや不良品が混じって販売してしまったとか、
ファーストリテ側にも落ち度はあったわけですが、
避けては通れない中国との取引関係でもう少し、著作物の取扱いを
どの範囲で許諾すべきか関係者間で詰めておくべきだったのでは
ないかと思われるところです。
話はずれますが、今回の事件に絡めてファーストリテ社のCSR活動を
CSRの専門家と話題にしました。
CSRレポート FAST RETAILING CO., LTD.
その専門家曰く、会社代表者の言葉(「トップメッセージ」)が重要だが
ライターが書いているのではないか(会社代表者としての生のコトバに
なっていない、署名(自署)も入っていない)、中国語版レポートが作成
されていない等々・・・
いずれにしても、今回の事案がこれからのCSR活動にどのように
反映されるのか、ファーストリテ社の今後の取り組みが注目されます。
■追記(07.05.09)
企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財] 商品化ライセンスと独禁法(前編)
[企業法務][知財] 商品化ライセンスと独禁法(後編・完)