裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ロクラク」事件

東京地裁平成19.3.30平成18(ヨ)22046著作隣接権等侵害差止請求仮処分命令申立事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官     山田真紀
裁判官     片山信


■事案

国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービスが
テレビ局の著作権、著作隣接権を侵害しないかどうかが争われた事案

債権者:東京放送、静岡放送
債務者:デジタル情報家電製造販売会社


■結論

申立認容(テレビ番組の複製行為の禁止)


■争点

条文 著作権法第21条、98条

1 複製行為性
2 保全の必要性


■判決内容

【認定事実】

・平成16年初め〜17年2月
無料モニタサービス提供
親機は債務者の事業所内に設置され保管

・平成17年3月〜
有料レンタルサービス提供
17年夏頃 賃貸による設置場所を別途提供

・現在は、債務者事業所内等に機器は存在しない
(38頁〜45頁)


1 複製行為性

裁判所は、複製行為主体性判断についてまず、

著作権法上の侵害行為者を決するについては,カラオケ装置を設置したスナック等の経営者について,客の歌唱についての管理及びそれによる営業上の利益という観点から,演奏の主体として,演奏権侵害の不法行為責任があると認めた最高裁判例(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決)等も踏まえ,行為(提供されるサービス)の性質,支配管理性,利益の帰属等の諸点を総合考慮して判断すべきである。
(46頁)

として、カラオケ法理の採用を説示。

そのうえで、

1 サービスの目的

国内テレビ番組の海外視聴サービスである。
(46頁)


2 設置場所およびその状況

当初債務者事業所内に設置されていたときは、親機の機能を発揮しうる
ように債務者によってシステムが一体として管理されていた。
(47頁以下)

無料モニタサービス終了後についても、債務者事業所内には当該機器が
存在しないものの、
機器販売代理店(取扱業者)が設置場所の紹介等を行っており、
債務者が機器自体の整備等のために設置場所や環境状況を把握する
必要があったことなどから、親機の設置場所の選定、維持、環境整備等に
債務者が関与している、と判断されました。
(48頁以下)


3 録画可能なテレビ番組

設置場所は債務者の管理する場所がほとんどであることからすると
設置場所において受信できるアナログ地上波放送(静岡県地域)に
限定される。
(52頁)


4 利益の帰属

「初期登録料」「レンタル料」を取得している。
(53頁)


以上から、債務者が本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の
複製行為を管理し、それによる利益を得ていると認められ、
結論的には、複製権・著作隣接権侵害性を肯定しています。
(53頁)


2 保全の必要性

親機を事業所内に設置していた場合と同様、その管理を継続している
状況性が認定されて(51頁以下)、結論的には保全の必要も肯定されて
います(53頁以下)。


■コメント

国内テレビ番組の海外視聴サービスなどテレビ番組の配信ビジネス
を巡る近時の訴訟としては、

「選撮見録事件」(クロムサイズ社
「録画ネット事件」(エフエービジョン社
「まねきTV事件」(永野商店

と、あって本件で4件目となりますが、
本事案では、販売代理店が関与していて、機器の設置や保管に
第三者が関与している形態となっています。

エフエービジョン社(録画ネット)が自社サイトで見解を
述べているように、ネット視聴事業でのハウジングやホスティング
サービスの肯否について裁判の行方は、業者の関与の程度が
ポイントとなります。

エフエービジョン
まねきTVと録画ネットとの違い 当社の見方

ここで検討された要素に沿って本事案をみてみると、

 1 機器の調達・製造を債務者がやっていた
 2 親機の所有権は債務者にあり、機器の交換・メンテナンスも実施
 3 機器の販売・レンタルは債務者とともに代理店が行っていた
 4 お客には機器をレンタル。親機は販売していない
 5 設置場所選定に適合性判定があり、ハウジングサービス利用の必要は
   無いわけではない


と、いうところとなります。

認定された事実を前提とする限り、少なくともソニー製の
機器「ロケーションフリー」を利用した「まねきTV事件」よりも
業者の関与の度合いが強いものといえます。

親機機器のメンテナンスのために月に5日もの整備日を予定しており、
技術的に改良の余地がある点、また、現状の技術レベルでの保守管理
契約を考えた場合、販売代理店との契約関係の際に代理店が
ハウジングサービスを行う余地を債務者がビジネスモデルとして
認めるかどうか、さらにレンタル形式に固執するかが債務者にとって
今後の事業展開のポイントとなってきそうです。


■債務者サイト

日本デジタル家電(NYX)

プレスリリース(ロクラク伝言板)
「放送局による仮処分申立てに関する地裁・3月30日決定について」
同社サイト


■参考文献


吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求
      『知的財産法政策学研究』14号(2007)143頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体に関するわが国判例法理の
     比較法上の位置づけ−テレビ視聴サービスの事例を中心に−

      『知財管理』57巻3号(2007.3)357頁以下

岡邦俊「ハードディスクレコーダーにテレビ番組を録画できるサービスは違法」
    『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)319頁以下


■過去のブログ記事

・2006年12月23日付
「まねきTV」事件(抗告審)〜著作権 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(知的財産裁判例集)〜
・2005年12月01日付
「録画ネット」サービス保全抗告事件決定(知財判決速報より)
・2005年10月30日付
「選撮見録」クロムサイズ社著作権侵害差止等請求事件(知財判決速報)
・2006年02月21日付
著作権侵害主体性と差止請求(間接侵害論)(ジュリスト2006.2.15号)


■参考ブログ(07.04.09)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 何が明暗を分けたのか。