裁判所HP 知的財産裁判例集より

「THE BOOM音楽事務所対SME」事件

東京地裁平成19.1.19平成18(ワ)1769等著作権民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    平田直人
裁判官    田邉実

添付書類


■事案

アーティスト「THE BOOM」の実演に係る音源に関する
レコード製作者の送信可能化権について
音楽事務所が、立法による権利創設前に締結された
共同制作原盤譲渡契約によってこの権利が譲渡されることは
ないなどと主張して、
レコード製作会社にその持分の確認を求めた事案


原告(反訴被告):音楽事務所
被告(反訴原告):レコード製作会社


■結論

本訴請求棄却


■争点

条文 著作権法第96条の2

1 法定化されていない支分権と契約条項の解釈


■判決内容

1 法定化されていない支分権と契約条項の解釈

問題となったCD原盤は2枚。1枚は音楽事務所が制作費を半分
出しており、もう1枚は全額事務所が支出していました。
この原盤に関する権利の一切をレコード製作会社に譲渡する
内容の契約書(共同制作原盤譲渡契約)を双方で締結しています。

平成9年法律第86号によりレコード製作者の送信可能化権が
著作権法に規定されましたが(平成10年1月1日施行)、
それ以前に締結された本件各共同制作原盤譲渡契約に
おける原盤に関する無制限かつ独占的な権利譲渡条項が
はたしてこの送信可能化権も含むのかという契約の解釈論が
問題となりました。


裁判所は、共同制作原盤譲渡契約の当事者意思解釈、
文理解釈、業界慣行などを勘案の上、契約締結当時はまだ
法定化されていなかった送信可能化権も含めて
本件各契約によって原盤に関する音楽事務所の有する
一切の権利が何らの制約もなくレコード製作会社に
譲渡されていると判断しました。
(51頁以下)


この点について、被告側から学者の意見書が提出されていて、
土肥一史教授、池田眞朗教授、田村善之教授と3名の
研究者が譲渡契約の対象に送信可能化権も含まれている
との見解を表明されています。
(11頁以下、19頁以下)


■コメント

今回の紛争は、音楽事務所側が音楽配信の利益配分に関する
新たな算出方法を協議しようとしたところが発端のようです
(42頁)。

平成13年7月から17年12月までの音楽事務所側への
音楽配信印税支払い額は合計で143万円あまりとなっています。

これに不満を持った音楽事務所側は、自社での送信可能化権保持を
前提として交渉しようとしたわけですが、
レコード製作会社(ソニーミュージックグループ)は
音源配信中断という措置によってこれに応えました。

本件音楽事務所の問題意識、つまり音楽配信サービスでも
CDパッケージ販売と同じような容器代(販売価格の20%
控除の計算方法を原盤印税算定で採用している点は、
多くの音楽事務所がもっている疑問点ではないでしょうか。

この点については、
安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編第三版
(2005)280頁以下にくわしいところです。


判決文20頁以下では、音楽配信の歴史、原盤制作の過程、
各種契約書のことが述べられていて
音楽業界の契約関係の現状について概観できます。

送信可能化権を音楽事務所側に留保することに
この提訴の意味があるというよりはむしろ
(他の音楽配信システムを事務所の判断で併用することが
収益拡大に繋がるかどうかわかりませんが)
音楽事務所側の真意はあくまで原盤印税率の適正化に
あることからすれば、今回の訴訟も問題提起としての
意義は充分あったのではないでしょうか。


■参考判例

・特撮映画「怪傑ライオン丸」等の放送権譲渡契約をめぐり、
地上波放送のほかに衛星放送、有線放送の権利も譲渡対象と
なっていたかどうかが争われた事案

ライオン丸事件
東京高裁平成15.8.7平成14(ネ)5907著作権民事訴訟

■追記(07.02.11/07.06.10)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 天国でも楽園でもない浮世の哀しさ

■[企業法務][知財] 送信可能化権譲渡をめぐる判決の“違い”

■追記(08.03.29)

藤野忠「著作隣接権譲渡契約の締結後に法定された支分権の帰属-レコード原盤音源送信可能化権確認請求事件」
     『知的財産法政策学研究』19号(2008)313頁以下