裁判所HP 知的財産裁判例集より

「東京アウトサイダーズ」事件

東京地裁平成18.12.21平成18(ワ)5007 出版差止等請求事件 著作権 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      古河謙一
裁判官      吉川泉

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■事案

家族のスナップ写真の書籍無断掲載をめぐってその写真の創作性や著作権侵害性が争われた事案

原告:撮影者
被告:書籍執筆者
    出版会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法第2条1項1号

1 スナップ写真の著作物性
2 「薄い著作権(thin copyright)」理論の適否
3 写真の著作物としての利用性
4 書籍全体の差止、廃棄の必要性
5 出版社らの過失の有無
6 損害額の算定

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■判決内容

1 スナップ写真の著作物性

被告側は無断掲載された写真は家族のスナップ写真で創作性が欠けると主張しました。

しかし裁判所は、

写真を撮影する場合には,家族の写真であっても,被写体の構図やシャッターチャンスの捉え方において撮影者の創作性を認めることができ,著作物性を有するものというべきである。

本件写真は,父子の姿を捉えたその構図やシャッターチャンスにおいて,創作性が認められ,その著作物性を肯定することができ,撮影者である原告がその著作権を取得する。
(10頁)

として、被告側の主張を退けました。

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2 「薄い著作権(thin copyright)」理論の適否

被告らは,スナップ写真のように「薄い著作権( thin copyright)」しか認められない写真については,被写体であり,かつ,現像された写真現物を所持していたCに著作権が承継されていたと考えるのが自然であると主張する。しかし,原告が本件写真のネガを所持していること(甲1,6,弁論の全趣旨)からすれば,原告は,本件写真の複製を行い得る立場にあったのであるから,写真の複製物の所有権をCないしは訴外亡Dに譲渡したとはいえても,写真の著作権自体を譲渡したことを認めることはできないというべきである。
(11頁)

裁判所は、原告が写真の著作権を他者に譲渡したとは認めませんでした。

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3 写真の著作物としての利用性

被告側は、問題となった書籍での当該写真の掲載目的、態様、効果などからすると、写真の掲載はその創作性のある部分の利用にあたらず、したがって「写真の著作物」としての利用にあたらないと主張しました。

しかし裁判所は、以下のように判断しまて被告の主張を容れていません。

被告らは,本件書籍においては,本件写真の著作物性を基礎付ける露光その他の撮影上の創意工夫といった著作物としての要素を鑑賞させる目的が一切ないことから,写真の著作物として利用するものではないと主張する。

しかし,本件書籍の口絵に掲載されている写真が本件写真であることは,被写体の構図やその背景から明らかであるから,本件写真の撮影に際してなされた被写体の構図等の創意工夫は,一部とはいえそのまま本件書籍に再現されているのである。したがって被告らが,創作的表現である本件写真をその一部において複製使用しているのは明らかであり,被告らの主張は採用することができない。
(11頁以下)

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4 書籍全体の差止、廃棄の必要性

2点の写真が2冊の書籍に各一箇所ずつ無断掲載されていました。
判決では、印刷・出版発行の差止とともに、写真掲載部分の廃棄を認めています。
(12頁)

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5 出版社らの過失の有無

出版活動に携わる被告らとしては,取材に応じた者から写真の提供があったとしても,その者がその写真のネガなどを管理しており,その写真を撮影したことを窺わせる事情がない限り,写真の撮影者が別にいて,著作権を有しているという事態を容易に想定し得るところである。被告らは,単に,訴外亡Dから本件写真の使用許可を得ている旨の主張をしているだけであり,かかる主張を前提としても著作権者に対する確認作業は何ら行われていないのであるから,写真使用時に問題となり得る著作権処理について十分な措置を講じたとは言い難く,著作権侵害につき過失があるものといわざるを得ない。
(13頁)

裁判所は、出版会社にも過失を認めています。

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6 損害額の算定

写真使用料相当額の賠償額として5万円(2点分)、慰謝料として30万円、
弁護士費用として10万円の合計45万円の損害額が認定されています。
(14頁以下)

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■コメント

本判決で実務上重要となるのは、出版会社に写真著作物を書籍に掲載する際の過失を認定した部分ではないかと思われます。

写真の提供を受けて出版物に写真を使う場合、提供者がその写真の著作権者かどうかの判断については
いろいろな場合があるとは思いますが、編集者は役割分担上執筆者に委ねることが多いと思います。

判決では本件書籍での編集者の役割についての検討がなく(もともと被告出版社側の反論が薄いのですが)
裁判所説示部分の事実認定だけでは出版社に厳しい判断ではなかったかとの印象を持つところです。

なお、「thin copyright」の法理が、「著作権の保護対象とはするものの、被告作品が原告作品のデッドコピーであるか又はそれと同程度のものである場合以外は、侵害が認定されないとする考え方」(作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)219頁)であるとしても、ダイレクトにこの法理から著作物にかかわる権利の承継関係が結論付けられるわけではない以上、被告側の主張も根拠が薄いところです。

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■参考判例

ぐうたら健康法事件
東京地裁平成7.5.31判決

ホテルジャンキーズ事件
東京地裁平成14.4.15判決

「予備校教材」事件
東京地裁平成18.11.15平成18(ワ)4824等

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■追記

控訴審関連記事(平成19.5.31)
「東京アウトサイダーズ」事件(控訴審)〜著作権 出版差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜