裁判所HP 知的財産裁判例集より

ロッテVSグリコ キシリトールガム比較広告」事件(控訴審)

知財高裁平成18.10.18平成17(ネ)10059 広告差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    石原直樹
裁判官    高野輝久


★原審
東京地裁平成16.10.20平成15(ワ)15674不正競争民事訴訟PDF


■事案

グリコがキシリトール入りガム製品「ポスカム」の
宣伝広告で行った比較広告の内容について
虚偽事実の陳述流布行為などの不正競争行為に
あたるかどうかが争われた事案

原告(控訴人) :ロッテ
被告(被控訴人):江崎グリコ


■結論

一部変更(原告ロッテ実質勝訴)

比較広告の使用差止が認められました。
謝罪広告、損害賠償は認めず。


■争点

条文 不正競争防止法第2条1項13号、14号

1 虚偽事実の陳述流布の有無(14号)
2 品質誤認表示の有無(13号)


■判決内容

1 虚偽事実の陳述流布の有無(14号)

「ポスカム<クリアドライ>は,一般的なキシリトールガムに比べ
約5倍の再石灰化効果を実現」


といった内容の比較広告が新聞やサイトに掲載されました。

こうした比較広告が、キシリトールガム製品企画・販売で先行する
ロッテ(「一般的なキシリトールガム」=ロッテ製品)に対する
虚偽事実の陳述、流布といった不正競争行為となるかどうかが
争われました。

原審では、比較広告の基礎資料となった科学実験の方法、
条件、結果の合理性を肯定したうえで
比較広告表示の虚偽事実性が否定されました。

この点をもって原告ロッテ側の敗訴。

ところが、控訴審では判断が覆りました。


控訴審では再現実験の鑑定実施に関する人選について
意見が折り合わず、最終的には
実験の合理性判断について被告側は立証を放棄したものと
裁判所は考え、結論的に実験の合理性自体が否定されて
しまいました。
(43頁)

実験の方法や条件については不合理な点はないとされたのですが
被告側が行った再現実験については第三者による客観的、
公正な実験が行われておらず
被告側再現実験「結果」についての正確性や信頼性の点に
問題があるとされています。
(36頁以下)

実験の合理性が否定された以上、このデータを基礎とした
比較広告は虚偽事実を含む表示と判断されました。

比較広告の表示が、虚偽の事実を含み競争関係にある
他社の営業上の信用を害するものであるとして
14号該当性が肯定されました。
(47頁)


2 品質誤認表示の有無(13号)

原告側は、仮に比較広告が虚偽事実にあたらないとしても
特定の一部の情報のみを提示するものなので品質に誤認を
与えるものであると主張しました。

原審では、この点について誤認的表示にはあたらないと
判断されました。

控訴審では一転、実験結果の合理性が否定されたことから
比較広告に虚偽事実を含み品質に誤認を生じさせるものとして
13号該当性が肯定されています。
(47頁)


■コメント

原審では原告ロッテ敗訴でしたが、控訴審では逆転して
比較広告の使用差止が認められてロッテの実質勝訴の結果と
なりました。

争点は、再現実験の際の鑑定人の人選にあったようです。

当裁判所は,本件において, D-2-3実験の再現実験の実施に関して,これを必要であると考え,本件比較広告の虚偽性について立証責任を負う控訴人の申出に基づいて,鑑定として採用実施したいとして,当事者双方に対しその具体的な実施方法について検討を求めた際,控訴人が鑑定実施に関する諸条件を提案したのに対し,被控訴人は,鑑定人について上記条件に固執し,そうでない限り,鑑定として実施する意義はないと主張して譲らなかったため,裁判所としては,やむなく鑑定の採用実施を断念するに至ったものである。この問題は,当審の審理の中で最も重大なものであり,口頭弁論期日等において,当事者双方が最も力を注いで弁論した点であり,裁判所も最も重視し,慎重に審理決断した点であった。
そうすると,被控訴人は, D-2-3実験の合理性について,必要な立証を自ら放棄したものと同視すべきものであり, D-2-3実験の合理性はないものといわざるを得ない。

(43頁)


グリコが再現実験の鑑定条件設定に固執したため裁判所をして
立証放棄」とまで言わしめさせてしまいました。

不正競争行為に関する故意・過失がグリコ側に認められず
損害賠償責任は否定されたものの(50頁)、
グリコ側の思惑が大きく外れてしまった結果となりました。


グリコのプレスリリースを読むとその意図するところが
よくわかります。

お知らせ(取引所公開リリーズ)江崎グリコIR情報

平成18年10月18日付
「訴訟の判決に関するお知らせ」PDF参照



実験の正確な再現が世界中で4人にしかできない、
というのが
果たして科学における客観性でいうところの
再現可能性」を担保していると言えるのかどうか。

裁判所はこの点を否定的に捉えたわけですが、
さて、どうなんでしょう。


なお、争点整理に関する原審への言及として、
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)91頁参照。