裁判所HP 知的財産裁判例集より
★東京地裁平成18.7.25平成16(ワ)25672営業行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉
■事案
在宅介護サービス提供事業者の従業員が独立起業した際の
介護情報の取り扱い、ヘルパー引き抜き行為などが
不正競争防止法、民法上の不法行為の観点から
問題となった事案。
■結論
請求棄却(原告在宅介護サービス提供事業者側敗訴)
■争点
条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、6項、民法709条
1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)
2 元従業員による営業活動の不法行為性
■判決内容
1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)
原告会社保有の介護利用者名簿や訪問介護計画書、
ケアマネージャー作成のサービス提供票などの
一連の情報(紙媒体、電磁的記録)についての
「営業秘密性」、そのうちの「秘密管理性」の有無が
争点となりました。
この点について判例は、
『不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らし,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。』
(20頁以下)
1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
2 アクセスの制限性
を要件としてあげています。
そのうえで、
1 「部外秘」などの表示が無かった
2 事務所の扉の施錠しかない
3 PC上のパスワードも簡易
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能
以上の点から、2つの要件を具備せず、
「秘密管理性」が欠けると判断しました。
(21頁以下)
なお、原告は、被告が秘密保持に関して雇用契約上の
義務を負担している旨主張しました。
しかし、この点は、プライバシー保護の観点からの
義務であって、不正競争防止法上の営業秘密性とは
直接関連するものではない、として退けられています。
「秘密管理性」に関する最近発表の判例分析としては、
弁護士末吉亙先生によるものがあります。
牧野利秋監修「座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」
(2005)154頁以下、
「不正競争防止法の新論点」(2006)111頁以下参照
2 被告ら元従業員による営業活動の不法行為性
被告らは、原告の介護サービス提供会社に在籍中から
原告の事業と同一地域での競業する事業の立ち上げを計画、
原告会社に登録しているヘルパーなどに働きかけを行うなど
していました。
この点について、原告は不法行為の成立(民法709条)を
主張しましたが、結論的には容れられませんでした。
裁判所は、被告らの行為は「問題性のある行為」と
評価しつつも、ヘルパーに重複登録を依頼したことなどは
「正当な競争秩序の枠を超えるものとまではいえない」と
判断しました。
(30頁)
■コメント
判決文2頁以下に訪問介護サービス事業の概要が
掲載されていて事業の仕組みがよくわかります。
被告両名は原告会社でサービス提供責任者として
重要な役割を担っており、それらの者が新たに
在宅介護サービスを同一地域で立ち上げるとなれば
原告としても黙ってはおけなかったのでしょう。
とくに、在職中から新規事業について営業活動を
しており、原告側には事前の連絡はしてありませんでした。
ただ、それでも事が露見してからは
双方話し合いの場を設けて被告側も歩み寄れるところは
歩み寄っています(15頁以下)。
訴訟で白黒つける、
徹底的にやりたければ、やればいいわけですが、
敗訴によって(勝訴したとしても)原告側の
サービス事業者としてのイメージ、社会的信用性の低下の
可能性など、訴訟提起自体に伴うリスクも充分考えて、
本当のところの「実」(経営者としての寛容さ、
間に入った部下への思いやり、介護サービス利用者の不安の払拭)を
とってもらいたかったところです。
■追伸(06.8.2)
介護ヘルパーを利用している知人と
今回の事件について話をしました。
その知人が利用している事業所でも
同じような騒動があって、そのときは
独立した側に人望がなくて、事業者側が
「独立した人たちとは関係がない」旨の
通知書を関係者に送付しただけで
事が済んだそうです。
今回の事案についても
「まずは、独立するなら新規顧客の開拓が先でしょう」
とは知人の弁。
競争が激しい分野ですから今後も
同様の事案が増えそうです。
★東京地裁平成18.7.25平成16(ワ)25672営業行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉
■事案
在宅介護サービス提供事業者の従業員が独立起業した際の
介護情報の取り扱い、ヘルパー引き抜き行為などが
不正競争防止法、民法上の不法行為の観点から
問題となった事案。
■結論
請求棄却(原告在宅介護サービス提供事業者側敗訴)
■争点
条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、6項、民法709条
1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)
2 元従業員による営業活動の不法行為性
■判決内容
1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)
原告会社保有の介護利用者名簿や訪問介護計画書、
ケアマネージャー作成のサービス提供票などの
一連の情報(紙媒体、電磁的記録)についての
「営業秘密性」、そのうちの「秘密管理性」の有無が
争点となりました。
この点について判例は、
『不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らし,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。』
(20頁以下)
1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
2 アクセスの制限性
を要件としてあげています。
そのうえで、
1 「部外秘」などの表示が無かった
2 事務所の扉の施錠しかない
3 PC上のパスワードも簡易
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能
以上の点から、2つの要件を具備せず、
「秘密管理性」が欠けると判断しました。
(21頁以下)
なお、原告は、被告が秘密保持に関して雇用契約上の
義務を負担している旨主張しました。
しかし、この点は、プライバシー保護の観点からの
義務であって、不正競争防止法上の営業秘密性とは
直接関連するものではない、として退けられています。
「秘密管理性」に関する最近発表の判例分析としては、
弁護士末吉亙先生によるものがあります。
牧野利秋監修「座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」
(2005)154頁以下、
「不正競争防止法の新論点」(2006)111頁以下参照
2 被告ら元従業員による営業活動の不法行為性
被告らは、原告の介護サービス提供会社に在籍中から
原告の事業と同一地域での競業する事業の立ち上げを計画、
原告会社に登録しているヘルパーなどに働きかけを行うなど
していました。
この点について、原告は不法行為の成立(民法709条)を
主張しましたが、結論的には容れられませんでした。
裁判所は、被告らの行為は「問題性のある行為」と
評価しつつも、ヘルパーに重複登録を依頼したことなどは
「正当な競争秩序の枠を超えるものとまではいえない」と
判断しました。
(30頁)
■コメント
判決文2頁以下に訪問介護サービス事業の概要が
掲載されていて事業の仕組みがよくわかります。
被告両名は原告会社でサービス提供責任者として
重要な役割を担っており、それらの者が新たに
在宅介護サービスを同一地域で立ち上げるとなれば
原告としても黙ってはおけなかったのでしょう。
とくに、在職中から新規事業について営業活動を
しており、原告側には事前の連絡はしてありませんでした。
ただ、それでも事が露見してからは
双方話し合いの場を設けて被告側も歩み寄れるところは
歩み寄っています(15頁以下)。
訴訟で白黒つける、
徹底的にやりたければ、やればいいわけですが、
敗訴によって(勝訴したとしても)原告側の
サービス事業者としてのイメージ、社会的信用性の低下の
可能性など、訴訟提起自体に伴うリスクも充分考えて、
本当のところの「実」(経営者としての寛容さ、
間に入った部下への思いやり、介護サービス利用者の不安の払拭)を
とってもらいたかったところです。
■追伸(06.8.2)
介護ヘルパーを利用している知人と
今回の事件について話をしました。
その知人が利用している事業所でも
同じような騒動があって、そのときは
独立した側に人望がなくて、事業者側が
「独立した人たちとは関係がない」旨の
通知書を関係者に送付しただけで
事が済んだそうです。
今回の事案についても
「まずは、独立するなら新規顧客の開拓が先でしょう」
とは知人の弁。
競争が激しい分野ですから今後も
同様の事案が増えそうです。