裁判所HP 知的財産裁判例集より
★東京地裁平成18.7.6平成17(ワ)10073 損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 間史恵
裁判官 荒井章光
■事案
特許権無効審決が出ていたにもかかわらず
飼料添加物に関する特許権の侵害を警告する文書を
関係取引先に送付し、また特許権侵害行為差止仮処分
申立について新聞、雑誌、ネット等で公表した
被告の行為について、
不正競争防止法2条1項14号「虚偽の事実の告知」、
民法709条の不法行為に該当するかどうかが
争われた事案です。
■結論
請求一部認容
■争点
条文 不正競争防止法2条1項14号、5条2項、民法709条
1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか
2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか
3 損害額の算定
■判決内容
1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか
(1)警告文書送付行為について
不正競争防止法2条1項14号(営業誹謗行為)
1 他人の営業上の信用の侵害
2 虚偽の事実の告知
3 故意又は過失
結論として、いずれの要件充足も肯定しています。
なお、違法性阻却論(権利行使論)の点についてですが、
『特許権者が,競業者の取引先を相手方として,その行為が特許権を侵害するものであるとして,仮処分を申し立てたり,特許権侵害訴訟を提起したりすることは,特許権の行使であり,裁判を受ける権利の行使であるから,特許権者が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,特許権者として,特許権侵害訴訟の提起,あるいは,仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて訴訟等を提起し,あるいは,仮処分を申し立てた場合には違法となるが,そうでない場合には,特許権者としての裁判を受ける権利の行使であり,正当行為として違法性を阻却されるものと解すべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。そして,訴訟に要する費用,労力等,事前の話合いによる解決の可能性を考慮すると,いきなり訴えを提起するのは望ましくはなく,まずは,相手方に対し,特許権を侵害しているとの警告等を行うべきであることは一般に考えられているところである。したがって,特許権者が侵害行為を行う者に対し,特許権侵害の警告書を送付する行為は,これを訴えを提起する行為と同一視することはできないとしても,それとの比較からいっても,その行為が,警告書送付行為時においては,相応の事実的,法律的根拠に基づいてなされ,かつ,警告書の内容,配布先の範囲,枚数等の送付行為の態様などから,特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には,当該行為について,故意はもちろん過失も否定されるべきであると解すべきである。』
(38頁)
設楽コートでは、違法性阻却の問題を故意・過失の要件論として
処理しています。
(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について
この点について裁判所は、被告による取引先に対する
特許権侵害行為差止の仮処分申立は、不正競争行為に
形式的には該当しても違法性が阻却される訴訟活動である。
また、申立事実の公表行為も事実をそのまま伝える行為なので
「虚偽の事実」の告知、流布には当たらない、と判断しています。
(54頁)
2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか
(1)警告文書送付行為について
不正競争行為として不正競争防止法違反が認められた
送付行為以外の部分では、一般不法行為は認定されませんでした。
(54頁以下)
(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について
いずれの行為も違法性がないと判断されました。
(58頁)
3 損害額の算定
不正競争防止法5条2項「不正競争行為による利益の額」について
結論的には、同条項での利益の額は認定することができず
不正競争防止法9条、民訴法248条により
信用毀損として700万円等の損害賠償を認めています。
(65頁以下)
■コメント
先日も判例(「動く歩道手すり事件」控訴審判決)が出ていましたが
営業誹謗行為に関連する論点についての判断です。
特許権侵害警告文書の送付行為がはたして
不正競争行為にあたるのか、あたるとしても
特許権の正当な権利行使の一環として正当化されるのか
争われました。
判決では、警告文書送付行為に前後して行われた
特許権無効審決などでの被告側の対応を詳細に検討して、
被告側において特許権の有効性が審判で認められると
判断できるだけの合理的根拠がない、としました。
■参考判例
「動く歩道手すり事件」
知財高裁平成18年06月26日平成18(ネ)10005 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
・訴えの提起が違法な行為となる場合
最高裁昭和63年01月26日昭和60(オ)122損害賠償事件
■参考文献
「不正競争防止法の新論点」(2006)361頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)384頁以下
土肥一史「取引先に対する権利侵害警告と不正競争防止法」
『知的財産法の理論と現代的課題ー中山信弘先生還暦記念論文集』
(2005)436頁以下
田村善之「不正競争防止法概説第二版」(2003)446頁以下
■過去のブログ
「権利侵害の通知と不正競争防止法(営業誹謗行為)」
★東京地裁平成18.7.6平成17(ワ)10073 損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 間史恵
裁判官 荒井章光
■事案
特許権無効審決が出ていたにもかかわらず
飼料添加物に関する特許権の侵害を警告する文書を
関係取引先に送付し、また特許権侵害行為差止仮処分
申立について新聞、雑誌、ネット等で公表した
被告の行為について、
不正競争防止法2条1項14号「虚偽の事実の告知」、
民法709条の不法行為に該当するかどうかが
争われた事案です。
■結論
請求一部認容
■争点
条文 不正競争防止法2条1項14号、5条2項、民法709条
1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか
2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか
3 損害額の算定
■判決内容
1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか
(1)警告文書送付行為について
不正競争防止法2条1項14号(営業誹謗行為)
1 他人の営業上の信用の侵害
2 虚偽の事実の告知
3 故意又は過失
結論として、いずれの要件充足も肯定しています。
なお、違法性阻却論(権利行使論)の点についてですが、
『特許権者が,競業者の取引先を相手方として,その行為が特許権を侵害するものであるとして,仮処分を申し立てたり,特許権侵害訴訟を提起したりすることは,特許権の行使であり,裁判を受ける権利の行使であるから,特許権者が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,特許権者として,特許権侵害訴訟の提起,あるいは,仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて訴訟等を提起し,あるいは,仮処分を申し立てた場合には違法となるが,そうでない場合には,特許権者としての裁判を受ける権利の行使であり,正当行為として違法性を阻却されるものと解すべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。そして,訴訟に要する費用,労力等,事前の話合いによる解決の可能性を考慮すると,いきなり訴えを提起するのは望ましくはなく,まずは,相手方に対し,特許権を侵害しているとの警告等を行うべきであることは一般に考えられているところである。したがって,特許権者が侵害行為を行う者に対し,特許権侵害の警告書を送付する行為は,これを訴えを提起する行為と同一視することはできないとしても,それとの比較からいっても,その行為が,警告書送付行為時においては,相応の事実的,法律的根拠に基づいてなされ,かつ,警告書の内容,配布先の範囲,枚数等の送付行為の態様などから,特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には,当該行為について,故意はもちろん過失も否定されるべきであると解すべきである。』
(38頁)
設楽コートでは、違法性阻却の問題を故意・過失の要件論として
処理しています。
(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について
この点について裁判所は、被告による取引先に対する
特許権侵害行為差止の仮処分申立は、不正競争行為に
形式的には該当しても違法性が阻却される訴訟活動である。
また、申立事実の公表行為も事実をそのまま伝える行為なので
「虚偽の事実」の告知、流布には当たらない、と判断しています。
(54頁)
2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか
(1)警告文書送付行為について
不正競争行為として不正競争防止法違反が認められた
送付行為以外の部分では、一般不法行為は認定されませんでした。
(54頁以下)
(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について
いずれの行為も違法性がないと判断されました。
(58頁)
3 損害額の算定
不正競争防止法5条2項「不正競争行為による利益の額」について
結論的には、同条項での利益の額は認定することができず
不正競争防止法9条、民訴法248条により
信用毀損として700万円等の損害賠償を認めています。
(65頁以下)
■コメント
先日も判例(「動く歩道手すり事件」控訴審判決)が出ていましたが
営業誹謗行為に関連する論点についての判断です。
特許権侵害警告文書の送付行為がはたして
不正競争行為にあたるのか、あたるとしても
特許権の正当な権利行使の一環として正当化されるのか
争われました。
判決では、警告文書送付行為に前後して行われた
特許権無効審決などでの被告側の対応を詳細に検討して、
被告側において特許権の有効性が審判で認められると
判断できるだけの合理的根拠がない、としました。
■参考判例
「動く歩道手すり事件」
知財高裁平成18年06月26日平成18(ネ)10005 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
・訴えの提起が違法な行為となる場合
最高裁昭和63年01月26日昭和60(オ)122損害賠償事件
■参考文献
「不正競争防止法の新論点」(2006)361頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)384頁以下
土肥一史「取引先に対する権利侵害警告と不正競争防止法」
『知的財産法の理論と現代的課題ー中山信弘先生還暦記念論文集』
(2005)436頁以下
田村善之「不正競争防止法概説第二版」(2003)446頁以下
■過去のブログ
「権利侵害の通知と不正競争防止法(営業誹謗行為)」