裁判所HP 知的財産裁判例集より
★東京地裁平成18.6.30著作権損害賠償請求事件平成17(ワ)11680PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 頼晋一
■事案
CD発売契約締結の際のアドバンス(著作権使用料の前払金)
支払いの取扱いをめぐって紛糾。
契約交渉が決裂したことからアーティストがCD販売差止、
音源を録音したCD-Rの引渡などを請求した事案。
原告側がアーテスト、被告側が大手レコード会社。
■結論
請求棄却(原告アーティスト側敗訴)
■争点
1 契約交渉内容の解釈
2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条
3 CD販売差止と損害賠償
■判決内容
1 契約交渉内容の解釈
原告側は、アドバンスの支払いを要求していたにもかかわらず
被告側は支払うつもりがなく、そうした重要な事項を
隠して交渉を進めていたとして詐欺と主張していました。
この点について裁判所は、
『結局,アドバンスの支払に関しては,交渉がされたものの条件が折り合わず,契約成立に至らなかったという以上に,丁らがアドバンスを支払うつもりがないのに,甲を誤信させて交渉を進めたことを認めるに足りる証拠はないといわなければならない。』
(14頁)
交渉経緯の検討から原告が言うような
詐欺的な事実はないと判断しました。
2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条
音源については原告側が制作、製品化の為の音質調整
(マスタリング)について被告が費用を負担して
原盤が制作されました。
マスタリング後の音源(原盤)についても原告は
著作権、原盤権を保有しており、ブランクCD-Rより
はるかに高い価値がCD−Rに付加されたことにより
本件CD−Rの所有権は民法243条(または類推解釈)に
よって原告に帰属することとなったと主張。
そこで、原告はこの所有権に基づいて本件CD−Rの引渡しを
求めたわけです。
この点についても裁判所は、
『原告は,本件CD−Rはマスタリングされた音源が記録されることにより,記録前のCD−Rよりはるかに高い付加価値を有するに至ったから,その所有権は民法243条又はその類推適用により,主要な価値の権利者である原告に帰属する旨主張する。
しかし,所有権は,有体物を目的とする権利であるのに対し,著作権は無体物たる著作物を目的とするものである。その結果,有体物の所有権者と有体物上に表現された著作物の著作権者が異なることがあり得ることは,制度上予定されたことである。したがって,民法243条の適用又は類推適用により本件CD−Rの所有権が原告に帰属するに至った旨の原告の主張は,理由がない。』
(16頁)
『なお,原告が著作権法112条2項の規定に基づき,本件CD−Rの引渡しを求めるものだとしても,同項は,権利侵害の停止又は予防に必要な限度で著作物が記録された有体物の廃棄等を請求することができるに止まり,著作権者にその引渡請求権を認めたものではないから,同項に基づく請求も理由がない。』
(16頁)
結論として、本件CD−Rの所有権に基づく
本件CD−Rの引渡し請求を認めませんでした。
(なお、本件CD−R自体は被告提供のものでした)
3 CD販売差止と損害賠償
交渉決裂を受けてレコード会社は全国レコード店に対して
CD発売中止を告知、また新譜案内書などでも
発売中止の告知をしました。
決裂後のレコード会社の一連の対応を受けて
裁判所はCD販売差止の必要を認めませんでした。
また、損害賠償についても不法行為がないとして
認めませんでした。
■コメント
ジャマイカレゲエCD発売契約に先行して携帯電話
音楽配信サービス契約が締結されており、
そこには一部アドバンス支払取決めもありました。
CD発売契約については幾度か交渉を重ねたものの、
アドバンスの取扱いについて双方の溝が埋まらず
結局交渉は決裂。CD発売は中止となりました。
契約書が締結されてから原盤制作作業に入るほうが
むしろ稀でしょうから、こうした状況はよくあること
(訴訟まで至るかどうかは別として)かもしれません。
また、先行する音楽配信サービスで支払われた
アドバンスについて、充分ペイするほどのものではなくて
レコード会社はCD発売については、アドバンス支払いに
慎重になっていたのかもしれません。
本人訴訟ということもあるせいか、
民法243条の観点からの主張はおもしろいとの
印象の事案です。
★東京地裁平成18.6.30著作権損害賠償請求事件平成17(ワ)11680PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 頼晋一
■事案
CD発売契約締結の際のアドバンス(著作権使用料の前払金)
支払いの取扱いをめぐって紛糾。
契約交渉が決裂したことからアーティストがCD販売差止、
音源を録音したCD-Rの引渡などを請求した事案。
原告側がアーテスト、被告側が大手レコード会社。
■結論
請求棄却(原告アーティスト側敗訴)
■争点
1 契約交渉内容の解釈
2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条
3 CD販売差止と損害賠償
■判決内容
1 契約交渉内容の解釈
原告側は、アドバンスの支払いを要求していたにもかかわらず
被告側は支払うつもりがなく、そうした重要な事項を
隠して交渉を進めていたとして詐欺と主張していました。
この点について裁判所は、
『結局,アドバンスの支払に関しては,交渉がされたものの条件が折り合わず,契約成立に至らなかったという以上に,丁らがアドバンスを支払うつもりがないのに,甲を誤信させて交渉を進めたことを認めるに足りる証拠はないといわなければならない。』
(14頁)
交渉経緯の検討から原告が言うような
詐欺的な事実はないと判断しました。
2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条
音源については原告側が制作、製品化の為の音質調整
(マスタリング)について被告が費用を負担して
原盤が制作されました。
マスタリング後の音源(原盤)についても原告は
著作権、原盤権を保有しており、ブランクCD-Rより
はるかに高い価値がCD−Rに付加されたことにより
本件CD−Rの所有権は民法243条(または類推解釈)に
よって原告に帰属することとなったと主張。
そこで、原告はこの所有権に基づいて本件CD−Rの引渡しを
求めたわけです。
この点についても裁判所は、
『原告は,本件CD−Rはマスタリングされた音源が記録されることにより,記録前のCD−Rよりはるかに高い付加価値を有するに至ったから,その所有権は民法243条又はその類推適用により,主要な価値の権利者である原告に帰属する旨主張する。
しかし,所有権は,有体物を目的とする権利であるのに対し,著作権は無体物たる著作物を目的とするものである。その結果,有体物の所有権者と有体物上に表現された著作物の著作権者が異なることがあり得ることは,制度上予定されたことである。したがって,民法243条の適用又は類推適用により本件CD−Rの所有権が原告に帰属するに至った旨の原告の主張は,理由がない。』
(16頁)
『なお,原告が著作権法112条2項の規定に基づき,本件CD−Rの引渡しを求めるものだとしても,同項は,権利侵害の停止又は予防に必要な限度で著作物が記録された有体物の廃棄等を請求することができるに止まり,著作権者にその引渡請求権を認めたものではないから,同項に基づく請求も理由がない。』
(16頁)
結論として、本件CD−Rの所有権に基づく
本件CD−Rの引渡し請求を認めませんでした。
(なお、本件CD−R自体は被告提供のものでした)
3 CD販売差止と損害賠償
交渉決裂を受けてレコード会社は全国レコード店に対して
CD発売中止を告知、また新譜案内書などでも
発売中止の告知をしました。
決裂後のレコード会社の一連の対応を受けて
裁判所はCD販売差止の必要を認めませんでした。
また、損害賠償についても不法行為がないとして
認めませんでした。
■コメント
ジャマイカレゲエCD発売契約に先行して携帯電話
音楽配信サービス契約が締結されており、
そこには一部アドバンス支払取決めもありました。
CD発売契約については幾度か交渉を重ねたものの、
アドバンスの取扱いについて双方の溝が埋まらず
結局交渉は決裂。CD発売は中止となりました。
契約書が締結されてから原盤制作作業に入るほうが
むしろ稀でしょうから、こうした状況はよくあること
(訴訟まで至るかどうかは別として)かもしれません。
また、先行する音楽配信サービスで支払われた
アドバンスについて、充分ペイするほどのものではなくて
レコード会社はCD発売については、アドバンス支払いに
慎重になっていたのかもしれません。
本人訴訟ということもあるせいか、
民法243条の観点からの主張はおもしろいとの
印象の事案です。