最高裁判所HP 知財判決速報より
★H18.2.27 知財高裁 平成17(ネ)10007 不正競争 民事訴訟事件
★原審
H16.2.13 東京地裁 平成14(ワ)5603 不正競争 民事訴訟事件
(第一訴訟・先行事件)
「不正競争防止法に基づく損害賠償等請求事件」
★控訴審
H16.9.29 東京高裁 平成14(ネ)1413 不正競争 民事訴訟事件
★原審
H14.2.5 東京地裁 平成13(ワ)10472 不正競争 民事訴訟事件
■事案
ドラッグストアが商品の仕入れ価格を開示して
「原価セール」を行ったことが供給元の
製薬会社との間の継続的商品供給契約の
解除事由となるかどうかが争われた事案
■結論
控訴棄却(原告側製薬会社 敗訴)
■争点
条文 民法415条、541条、不正競争防止法2条1項7号、
独占禁止法(一般指定4,6,8,9項)、景品表示法4条1項2号
1 期限の定めのない継続的供給契約の解除事由
2 仕入れ価格の開示が「営業秘密」の「開示」となるか(不正競争防止法2条1項7号)
3 商慣習違反、差別的公表にあたるか(略)
4 独占禁止法違反、景品表示法違反にあたるか(略)
■判決内容
大衆薬最大手の製薬会社が、仕入れ価格を広告で表示する方法で
廉価販売(「原価セール」)を行ったドラッグストア量販店に対して、
商品供給に関する基本契約の解除を通知。
これに対して、ドラッグストア側は契約上の地位の確認を求めて
提訴しました。
なお、本件訴訟に先行して、製薬会社はドラッグストアを
不正競争防止法違反等に基づく損害賠償請求を訴求していましたが
(先行事件)、製薬会社敗訴が最高裁で確定しています。
1 期限の定めのない継続的供給契約の解除事由について
『控訴人は,本件取引基本契約は期限の定めのない契約であり,期限の定めのない契約は当事者の一方がいつでも将来に向かって解約告知することができるから,控訴人による解約(解除)は有効であると主張する。
しかし,本件取引基本契約には,相手方当事者が契約に違反した場合等に催告なしに契約を解除することができる旨の規定(本件取引基本契約5条)があるだけであって,当事者が任意に契約を解約することを認めた条項はないから,本件取引基本契約を一方当事者が任意に解約することができると解すべき根拠はない。本件取引基本契約の内容及び運用状況並びに控訴人と被控訴人との間の取引の経緯等に照らし,控訴人が解約告知により契約関係を将来に向かって終了させることができるのは取引を継続し難いやむを得ない事由が存在する場合に限られるとした原判決の判断は正当であって,この点に関する控訴人の主張は採用することができない。』
継続的契約の解除の場合、
取引当事者間の信頼関係の観点から
一定の縛りがかかることがあります
(東京高判H6.9.14 H5(ネ)4019 資生堂東京販売事件、なお
最高裁H10.12.18)。
特に本件のように13年間にわたって正常な
取引関係が続いていればなおさら
一方的に契約を打ち切ることは
権利の濫用、信義則違反という評価を
受け得ることになります。
本件では、期限の定めのない契約の解除事由としては
「取引を継続し難いやむを得ない事由が存在する場合」
でなければならないと判示しています。
2 仕入れ価格の開示が「営業秘密」の「開示」となるか
(不正競争防止法2条1項7号)
不正競争防止法2条1項7号に該当する競争行為の
要件としては、
� ̄超犯詭�性
�∧殕�者からの開示
��図利・加害目的
�せ藩僉Τ�示行為
があり、これらを充足する必要があります。
この点について、判例は、
『控訴人商品の仕入価格は,売買契約の当事者(売主である控訴人と買主である被控訴人)の合意によって形成されるものであるから,これが控訴人から被控訴人に「示された」とみることは適切でない。したがって,控訴人商品の仕入価格が上記�,留超犯詭�に当たるとしても,上記�△陵弖錣魴腓�といわざるを得ない。これに対し,控訴人は,本件における仕入価格は控訴人があらかじめ定めて,被控訴人に示したものであって,被控訴人との間で価格を折衝する余地はないから,上記�△陵弖錣鯔�たす旨を主張する。しかし,控訴人があらかじめ一方的に定めたものであっても,被控訴人がこれに同意しなければ売買契約は成立しないのであり,被控訴人は自らが購入した商品の仕入価格としてその情報を保有することとなるのであるから,控訴人の主張は上記判断の妨げとなるものではない。
また,そのほか,被控訴人が控訴人商品の仕入価格をチラシにより開示するに当たり,不正の利益を得る目的又は控訴人に損害を加える目的を有していたと認めるに足りる証拠はないから,上記��の要件の充足性も認め難い。』
�∧殕�者からの開示による営業秘密の取得行為がない、
また��図利加害目的もない、
として不正競争行為性を否定しました。
「仕入れ価格」が売買契約では当事者の合意によって
形成されるものであって、その価格については
小売業者も「固有の情報として保有」(原審判示部分)
する類のものであり、製薬会社から営業秘密として
「示された」ものではないと判断したわけです。
ところで、先行事件の控訴審判決も
� ̄超犯詭�性の検討をひとまず置いて
他の要件である��開示性の有無を判断する
思考方法をとっており、本判決でも
「なお」書きとして右控訴審判決の結論を
引用しています。
これに対して本件及び先行事件の原審は、
� ̄超犯詭�性に関する検討を加えたうえで、
本事例での「仕入れ価格」情報が営業秘密に
該当しうるとし、そのうえで
��開示性について判断をしています。
この相違は、二審としての思考経済からと
いうことになると思います。
なお、営業秘密の取得行為にかかわる論点について、
田村善之「不正競争防止法概説第二版」
(2003)342頁以下、
牧野利秋監修「座談会 不正競争防止法をめぐる
実務的課題と理論」(2005)173頁以下参照。
結論として、前記の不正競争防止法違反の点、
その他の法令違反に関する争点についても
取引を継続し難いやむを得ない事由が存する
場合とまではいえないとして製薬会社による
商品供給契約の解除の有効性を認めませんでした。
■コメント
この製薬会社は卸業者を介さず直接小売業者と
供給契約を締結する販売方式を採用しています。
量販店としては大衆医薬品最大手のメーカーの製品を
取扱えなくなればそれこそ死活問題でしょうし、
一方メーカーとしても企業、商品のブランドイメージを
出来る限り維持したいと考えるところです。
先行事件では量販店が勝訴しましたが、
その控訴審裁判所は判決文の最後の部分で
とくに「付言」をしています。
大手メーカーと量販店との対立という「特異な」状況、
また、先行事件では大手メーカー側が敗訴したにも
かかわらず仮処分、別訴が提起されている点で
「無用な紛争の再発拡大」が懸念される。
そのうえであくまで「事例判決」であることを
強調し、その旨表明しています
(先行事件の控訴審判決「6 おわりに」判示部分参照)。
ここからは量販店のとった「原価セール」という
販売手法が独禁法の観点(一般指定6項:コスト割れ販売)
からは微妙なものであったことが伺われます。
いずれにしても、営業秘密の取扱いについて
不正競争防止法での対応を考える前にまずは
契約で縛りを掛ける方策の検討が必要になります。
本件では、付随的な契約であるネットを利用した
販売支援システム利用契約(サポートVAN契約)には
機密保持規定が備えられていました。
しかし、裁判所は仕入れ価格の公表は、
システム契約上の秘密保持規定違反行為には
あたらないと判断しています。
とはいえ、本件のように国内最大手の製薬会社との
直販方式の契約関係では独禁法などもあるので
そうそう細かい縛りを契約書で小売店に掛けるのも
難しいのかもしれません。
ただ、それにしてもたった8条しか規定がない
基本取引契約書というのは、そのシェア、取引量を
考えるとなんとも腑に落ちないところです。
あるいはメーカー側は小売店には細かいことは
とやかく言わず売上があれば良い、と考えていたのか、
はたまた問題があったらばっさり切っていたのか
その辺の事情は判然としませんが。
(まさしく「商慣習」の話かもしれません。)
■参考文献
竹田稔「知的財産権侵害要論不正競業編改訂版」(2003)158頁以下
山本庸幸「要説不正競争防止法第三版」(2002)180頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)347頁以下
青山紘一「不正競争防止法第二版」(2005)92頁以下
「実務家のための知的財産権判例70選2003年度版」(2003)254頁以下
小林覚ほか「独占禁止法の法律相談」(2005)402頁以下
白石忠志「独禁法講義第二版補訂版」(2002)71頁以下
■追記(06.3.31)
「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] 五度目の正直(その3)
★H18.2.27 知財高裁 平成17(ネ)10007 不正競争 民事訴訟事件
★原審
H16.2.13 東京地裁 平成14(ワ)5603 不正競争 民事訴訟事件
(第一訴訟・先行事件)
「不正競争防止法に基づく損害賠償等請求事件」
★控訴審
H16.9.29 東京高裁 平成14(ネ)1413 不正競争 民事訴訟事件
★原審
H14.2.5 東京地裁 平成13(ワ)10472 不正競争 民事訴訟事件
■事案
ドラッグストアが商品の仕入れ価格を開示して
「原価セール」を行ったことが供給元の
製薬会社との間の継続的商品供給契約の
解除事由となるかどうかが争われた事案
■結論
控訴棄却(原告側製薬会社 敗訴)
■争点
条文 民法415条、541条、不正競争防止法2条1項7号、
独占禁止法(一般指定4,6,8,9項)、景品表示法4条1項2号
1 期限の定めのない継続的供給契約の解除事由
2 仕入れ価格の開示が「営業秘密」の「開示」となるか(不正競争防止法2条1項7号)
3 商慣習違反、差別的公表にあたるか(略)
4 独占禁止法違反、景品表示法違反にあたるか(略)
■判決内容
大衆薬最大手の製薬会社が、仕入れ価格を広告で表示する方法で
廉価販売(「原価セール」)を行ったドラッグストア量販店に対して、
商品供給に関する基本契約の解除を通知。
これに対して、ドラッグストア側は契約上の地位の確認を求めて
提訴しました。
なお、本件訴訟に先行して、製薬会社はドラッグストアを
不正競争防止法違反等に基づく損害賠償請求を訴求していましたが
(先行事件)、製薬会社敗訴が最高裁で確定しています。
1 期限の定めのない継続的供給契約の解除事由について
『控訴人は,本件取引基本契約は期限の定めのない契約であり,期限の定めのない契約は当事者の一方がいつでも将来に向かって解約告知することができるから,控訴人による解約(解除)は有効であると主張する。
しかし,本件取引基本契約には,相手方当事者が契約に違反した場合等に催告なしに契約を解除することができる旨の規定(本件取引基本契約5条)があるだけであって,当事者が任意に契約を解約することを認めた条項はないから,本件取引基本契約を一方当事者が任意に解約することができると解すべき根拠はない。本件取引基本契約の内容及び運用状況並びに控訴人と被控訴人との間の取引の経緯等に照らし,控訴人が解約告知により契約関係を将来に向かって終了させることができるのは取引を継続し難いやむを得ない事由が存在する場合に限られるとした原判決の判断は正当であって,この点に関する控訴人の主張は採用することができない。』
継続的契約の解除の場合、
取引当事者間の信頼関係の観点から
一定の縛りがかかることがあります
(東京高判H6.9.14 H5(ネ)4019 資生堂東京販売事件、なお
最高裁H10.12.18)。
特に本件のように13年間にわたって正常な
取引関係が続いていればなおさら
一方的に契約を打ち切ることは
権利の濫用、信義則違反という評価を
受け得ることになります。
本件では、期限の定めのない契約の解除事由としては
「取引を継続し難いやむを得ない事由が存在する場合」
でなければならないと判示しています。
2 仕入れ価格の開示が「営業秘密」の「開示」となるか
(不正競争防止法2条1項7号)
不正競争防止法2条1項7号に該当する競争行為の
要件としては、
� ̄超犯詭�性
�∧殕�者からの開示
��図利・加害目的
�せ藩僉Τ�示行為
があり、これらを充足する必要があります。
この点について、判例は、
『控訴人商品の仕入価格は,売買契約の当事者(売主である控訴人と買主である被控訴人)の合意によって形成されるものであるから,これが控訴人から被控訴人に「示された」とみることは適切でない。したがって,控訴人商品の仕入価格が上記�,留超犯詭�に当たるとしても,上記�△陵弖錣魴腓�といわざるを得ない。これに対し,控訴人は,本件における仕入価格は控訴人があらかじめ定めて,被控訴人に示したものであって,被控訴人との間で価格を折衝する余地はないから,上記�△陵弖錣鯔�たす旨を主張する。しかし,控訴人があらかじめ一方的に定めたものであっても,被控訴人がこれに同意しなければ売買契約は成立しないのであり,被控訴人は自らが購入した商品の仕入価格としてその情報を保有することとなるのであるから,控訴人の主張は上記判断の妨げとなるものではない。
また,そのほか,被控訴人が控訴人商品の仕入価格をチラシにより開示するに当たり,不正の利益を得る目的又は控訴人に損害を加える目的を有していたと認めるに足りる証拠はないから,上記��の要件の充足性も認め難い。』
�∧殕�者からの開示による営業秘密の取得行為がない、
また��図利加害目的もない、
として不正競争行為性を否定しました。
「仕入れ価格」が売買契約では当事者の合意によって
形成されるものであって、その価格については
小売業者も「固有の情報として保有」(原審判示部分)
する類のものであり、製薬会社から営業秘密として
「示された」ものではないと判断したわけです。
ところで、先行事件の控訴審判決も
� ̄超犯詭�性の検討をひとまず置いて
他の要件である��開示性の有無を判断する
思考方法をとっており、本判決でも
「なお」書きとして右控訴審判決の結論を
引用しています。
これに対して本件及び先行事件の原審は、
� ̄超犯詭�性に関する検討を加えたうえで、
本事例での「仕入れ価格」情報が営業秘密に
該当しうるとし、そのうえで
��開示性について判断をしています。
この相違は、二審としての思考経済からと
いうことになると思います。
なお、営業秘密の取得行為にかかわる論点について、
田村善之「不正競争防止法概説第二版」
(2003)342頁以下、
牧野利秋監修「座談会 不正競争防止法をめぐる
実務的課題と理論」(2005)173頁以下参照。
結論として、前記の不正競争防止法違反の点、
その他の法令違反に関する争点についても
取引を継続し難いやむを得ない事由が存する
場合とまではいえないとして製薬会社による
商品供給契約の解除の有効性を認めませんでした。
■コメント
この製薬会社は卸業者を介さず直接小売業者と
供給契約を締結する販売方式を採用しています。
量販店としては大衆医薬品最大手のメーカーの製品を
取扱えなくなればそれこそ死活問題でしょうし、
一方メーカーとしても企業、商品のブランドイメージを
出来る限り維持したいと考えるところです。
先行事件では量販店が勝訴しましたが、
その控訴審裁判所は判決文の最後の部分で
とくに「付言」をしています。
大手メーカーと量販店との対立という「特異な」状況、
また、先行事件では大手メーカー側が敗訴したにも
かかわらず仮処分、別訴が提起されている点で
「無用な紛争の再発拡大」が懸念される。
そのうえであくまで「事例判決」であることを
強調し、その旨表明しています
(先行事件の控訴審判決「6 おわりに」判示部分参照)。
ここからは量販店のとった「原価セール」という
販売手法が独禁法の観点(一般指定6項:コスト割れ販売)
からは微妙なものであったことが伺われます。
いずれにしても、営業秘密の取扱いについて
不正競争防止法での対応を考える前にまずは
契約で縛りを掛ける方策の検討が必要になります。
本件では、付随的な契約であるネットを利用した
販売支援システム利用契約(サポートVAN契約)には
機密保持規定が備えられていました。
しかし、裁判所は仕入れ価格の公表は、
システム契約上の秘密保持規定違反行為には
あたらないと判断しています。
とはいえ、本件のように国内最大手の製薬会社との
直販方式の契約関係では独禁法などもあるので
そうそう細かい縛りを契約書で小売店に掛けるのも
難しいのかもしれません。
ただ、それにしてもたった8条しか規定がない
基本取引契約書というのは、そのシェア、取引量を
考えるとなんとも腑に落ちないところです。
あるいはメーカー側は小売店には細かいことは
とやかく言わず売上があれば良い、と考えていたのか、
はたまた問題があったらばっさり切っていたのか
その辺の事情は判然としませんが。
(まさしく「商慣習」の話かもしれません。)
■参考文献
竹田稔「知的財産権侵害要論不正競業編改訂版」(2003)158頁以下
山本庸幸「要説不正競争防止法第三版」(2002)180頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)347頁以下
青山紘一「不正競争防止法第二版」(2005)92頁以下
「実務家のための知的財産権判例70選2003年度版」(2003)254頁以下
小林覚ほか「独占禁止法の法律相談」(2005)402頁以下
白石忠志「独禁法講義第二版補訂版」(2002)71頁以下
■追記(06.3.31)
「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] 五度目の正直(その3)