最高裁判所HP 知財判決速報より
★H18.2.21 東京地裁 平成16(ワ)11265 商標権 民事訴訟事件
■事案
アニメ「ポケットモンスター」のキャラクターを使った
シールの商品化許諾契約の成否を巡る事案
■結論
請求認容(原告トミー側勝訴)
■争点
条文 商標法39条(特許法106条)、38条2項
1 商品化許諾契約の成否
2 商標権侵害についての過失の推定(商標法39条、特許法103条)
3 損害額の算定(商標法38条2項)
4 謝罪広告の要否(商標法39条、特許法106条)
■判決内容
1 商品化許諾契約の成否
本件では、玩具販売大手のトミーが原告、
商品化された商品を小売する100円ショップ大手の
ダイソーとキャラクターシールを製造・販売して
ダイソーにその商品を卸した企業が被告となりました。
ポケットモンスター(ポケモン)にかかわる著作権、
商標権は小学館プロダクション、任天堂などにありトミーにはなく、
トミーもキャラクターの商品化の窓口のひとつ
という位置付けです。
原告は、商品化許諾契約は成立しておらず、
「トミー」標章の商品への使用、販売行為が
商標権侵害に当たるとして損害賠償請求、差止、
謝罪広告掲載を被告らに対して求めました。
契約の成否について結論的には、
商品化許諾契約が書面ですら行われていないこと、
商品化にあたって監修等が原告側で一切行われていない、
商品に証紙も貼付されていない、などの事実から
商品化許諾契約は成立していないと認定されました。
2 商標権侵害についての過失の推定
商標権侵害については過失が推定されます(商標法39条、特許法103条)。
被告シール製造販売会社、ダイソーいずれの過失の推定も
覆されませんでした。
ところでダイソーは小売業者ですが、その注意義務の内容について
本判決では、
『a) キャラクター商品ビジネスについては,キャラクターを使用する商品については,当該キャラクターの権利者と商品化許諾契約書を交わし,権利者から製造数量相当の証紙を発行をしてもらい,商品に証紙を貼ることは通常の方法である(その方法は,商品1点ごとに一つ貼る方法と代表証紙としてインナーカートンに一つ貼る方法があることは前記のとおりである。)。したがって,被告大創が,本件商品に証紙が貼られていないことを認識した段階で,その発売元と記載されている原告に対し,本件商品の発売元かどうかを確認するなどすべきだったのであり,このような確認をすることが容易であったのに,これをしなかった被告大創については,通常の取引者として有すべき十分な注意義務を尽くしたものということはできない。』
『b) 被告大創は,被告プロテックスとのこれまでの取引において,キャラクターの使用について,何か問題になったことはなく,また,キャラクター商品については,小売店がメーカー等に問い合わせても,守秘義務を理由として契約内容の開示を断られるのが通常であり,さらに,被告大創が原告と取引した商品においても証紙のないものが存していた,と主張する。
しかし,被告大創は,100円均一ショップなどの名称で商品を販売する全国的にも有名な小売店であり,本件のようなキャラクター商品の販売について,どのような手続が必要であるかは,十分知り得る立場にある。被告大創が主張しているように,メーカー等が契約上の守秘義務の関係から,著作権等の契約内容を小売店に開示することはできないとしても,本件のように証紙の貼付のない商品について,許諾契約の内容ではなく,その契約の存否自体の問合せや,少なくとも発売元と記載されている原告が本件商品の発売元かどうかを確認するための問合せについて,発売元である原告がその回答を留保する理由はない。本件においては,被告大創が,発売元である原告に対しこのような問い合わせをすれば,本件紛争が生じることを未然に防げたのであり,被告大創が,本件の権利関係を確認しないで本件商品を販売したことは,通常の取引における注意義務を欠いたものであるといわざるを得ない。』
として小売業者の過失を認めています。
3 損害額の算定
1 ダイソーとの関係
卸売り(ダイソーとフランチャイズ店間)と
小売り(フランチャイズ店と一般消費者間)のいずれの
販売行為も商標権侵害行為であり、
ダイソーとフランチャイズ店との共同不法行為が成立。
販売利益額算定の基礎としては販売価格である100円を
前提とすると判断。
そして商標法38条2項の「利益」の額の算定にあたって
控除される経費の内容を検討。
ところで「利益」の意義については、
粗利益説(売上高ー製造原価)、
純利益説(粗利益ー営業経費)、
限界利益説(粗利益ー変動費)
などがありますが
(田村善之「商標法概説第二版」(2004)342頁以下
小野昌延ほか「注解商標法新版下巻」(2005)937頁以下)、
この点について判決は、
『商標法38条2項にいう「利益」の額は,侵害品の売上高から,その販売に直接要する費用(仕入れ高,当該製品に関する包装費・運送費等)を控除した額と解すべきであり,侵害品の売上げによって直接に変動しない経費(人件費,店舗の賃借料,その他)などは控除すべきではない。』
と判示しており、
限界利益説に立つものと考えられます。
もっとも、100円ショップという形態の特殊性もあって、
結論的には変動費すら控除することを認めませんでした。
結局、被告製造販売会社からの仕入れ価格が50円で
店頭販売価格が100円でしたので、
単純に50円が一個あたりの利益額とされました。
そのうえで、「トミー」標章が本件商品の売上に
影響を与える度合い(寄与率)を検討。
ポケモンにかかわる著作権や商標権が8割、
原告トミーの登録商標が2割の寄与率であると判断されました。
以上から、50円×販売個数×0.2が損害額と
推定されました(商標法38条2項)。
2 シール製造会社との関係
製造原価は30.69円でした。経費等の控除は認められず、
(50円ー30.69円)×販売個数×0.2
が「利益」の額であり、損害額であると判断されました。
4 謝罪広告の要否
侵害商品が肌に直接貼り付けるシールであるため
安全性が特に要求されるものであること、
大量に販売されていること等から
トミーの業務上の信用回復のため全国紙への謝罪広告の
掲載の必要性が認められました。
■コメント
シール製造販売会社と関係が深かった人物が
ライセンスビジネス会社を経営しており(訴外)、
この人物を中心に商品化企画話が進行していました。
結局、この人物はシール製造販売会社から詐欺罪で
刑事告発されており、事案としては契約関係が
成立しているとは到底思われないものでした。
本来和解で早期解決が可能であったと思われます。
事実、ポケモンの商標権を持つ任天堂等と被告らは
別件で損害賠償請求訴訟がありましたが、
和解が成立しています。
ただ、この和解では100万円という少額の支払いと
謝罪広告の掲載という内容の、いわば「実」をとったもの
でしたので、
本件では損害額などで折り合いがつかず
契約関係の成否も含めて争点となったものと思われます。
本件は、キャラクター商品化ビジネスの仕組みに関する概論、
企業におけるライセンスビジネスでのキャラクターデータ管理の
様子が伺えるものとして参考になります。
■参考判例
商標法38条2項「利益」の意義について
S63. 4.27 東京地裁 昭和61(ワ)6408 商標権 民事訴訟事件
H12. 4.25 東京高裁 平成11(ネ)836 商標権 民事訴訟事件
■参考文献
小野昌延ほか「商標の法律相談改訂版」(2002)484頁以下
寒河江孝允ほか「商標の法律相談」(2004)66頁
牧野利秋ほか「新裁判実務大系 知的財産関係訴訟法」(2004)311頁以下
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)480頁以下、490頁以下
小松一雄ほか「不正競業訴訟の実務」(2005)101頁以下
なお、商品化許諾契約書の例として、
牛木理一「キャラクター戦略と商品化権」(2000)353頁以下
土井輝生「キャラクター・マーチャンダイジング
ー法的基礎と契約実務ー」(1989)319頁以下
★H18.2.21 東京地裁 平成16(ワ)11265 商標権 民事訴訟事件
■事案
アニメ「ポケットモンスター」のキャラクターを使った
シールの商品化許諾契約の成否を巡る事案
■結論
請求認容(原告トミー側勝訴)
■争点
条文 商標法39条(特許法106条)、38条2項
1 商品化許諾契約の成否
2 商標権侵害についての過失の推定(商標法39条、特許法103条)
3 損害額の算定(商標法38条2項)
4 謝罪広告の要否(商標法39条、特許法106条)
■判決内容
1 商品化許諾契約の成否
本件では、玩具販売大手のトミーが原告、
商品化された商品を小売する100円ショップ大手の
ダイソーとキャラクターシールを製造・販売して
ダイソーにその商品を卸した企業が被告となりました。
ポケットモンスター(ポケモン)にかかわる著作権、
商標権は小学館プロダクション、任天堂などにありトミーにはなく、
トミーもキャラクターの商品化の窓口のひとつ
という位置付けです。
原告は、商品化許諾契約は成立しておらず、
「トミー」標章の商品への使用、販売行為が
商標権侵害に当たるとして損害賠償請求、差止、
謝罪広告掲載を被告らに対して求めました。
契約の成否について結論的には、
商品化許諾契約が書面ですら行われていないこと、
商品化にあたって監修等が原告側で一切行われていない、
商品に証紙も貼付されていない、などの事実から
商品化許諾契約は成立していないと認定されました。
2 商標権侵害についての過失の推定
商標権侵害については過失が推定されます(商標法39条、特許法103条)。
被告シール製造販売会社、ダイソーいずれの過失の推定も
覆されませんでした。
ところでダイソーは小売業者ですが、その注意義務の内容について
本判決では、
『a) キャラクター商品ビジネスについては,キャラクターを使用する商品については,当該キャラクターの権利者と商品化許諾契約書を交わし,権利者から製造数量相当の証紙を発行をしてもらい,商品に証紙を貼ることは通常の方法である(その方法は,商品1点ごとに一つ貼る方法と代表証紙としてインナーカートンに一つ貼る方法があることは前記のとおりである。)。したがって,被告大創が,本件商品に証紙が貼られていないことを認識した段階で,その発売元と記載されている原告に対し,本件商品の発売元かどうかを確認するなどすべきだったのであり,このような確認をすることが容易であったのに,これをしなかった被告大創については,通常の取引者として有すべき十分な注意義務を尽くしたものということはできない。』
『b) 被告大創は,被告プロテックスとのこれまでの取引において,キャラクターの使用について,何か問題になったことはなく,また,キャラクター商品については,小売店がメーカー等に問い合わせても,守秘義務を理由として契約内容の開示を断られるのが通常であり,さらに,被告大創が原告と取引した商品においても証紙のないものが存していた,と主張する。
しかし,被告大創は,100円均一ショップなどの名称で商品を販売する全国的にも有名な小売店であり,本件のようなキャラクター商品の販売について,どのような手続が必要であるかは,十分知り得る立場にある。被告大創が主張しているように,メーカー等が契約上の守秘義務の関係から,著作権等の契約内容を小売店に開示することはできないとしても,本件のように証紙の貼付のない商品について,許諾契約の内容ではなく,その契約の存否自体の問合せや,少なくとも発売元と記載されている原告が本件商品の発売元かどうかを確認するための問合せについて,発売元である原告がその回答を留保する理由はない。本件においては,被告大創が,発売元である原告に対しこのような問い合わせをすれば,本件紛争が生じることを未然に防げたのであり,被告大創が,本件の権利関係を確認しないで本件商品を販売したことは,通常の取引における注意義務を欠いたものであるといわざるを得ない。』
として小売業者の過失を認めています。
3 損害額の算定
1 ダイソーとの関係
卸売り(ダイソーとフランチャイズ店間)と
小売り(フランチャイズ店と一般消費者間)のいずれの
販売行為も商標権侵害行為であり、
ダイソーとフランチャイズ店との共同不法行為が成立。
販売利益額算定の基礎としては販売価格である100円を
前提とすると判断。
そして商標法38条2項の「利益」の額の算定にあたって
控除される経費の内容を検討。
ところで「利益」の意義については、
粗利益説(売上高ー製造原価)、
純利益説(粗利益ー営業経費)、
限界利益説(粗利益ー変動費)
などがありますが
(田村善之「商標法概説第二版」(2004)342頁以下
小野昌延ほか「注解商標法新版下巻」(2005)937頁以下)、
この点について判決は、
『商標法38条2項にいう「利益」の額は,侵害品の売上高から,その販売に直接要する費用(仕入れ高,当該製品に関する包装費・運送費等)を控除した額と解すべきであり,侵害品の売上げによって直接に変動しない経費(人件費,店舗の賃借料,その他)などは控除すべきではない。』
と判示しており、
限界利益説に立つものと考えられます。
もっとも、100円ショップという形態の特殊性もあって、
結論的には変動費すら控除することを認めませんでした。
結局、被告製造販売会社からの仕入れ価格が50円で
店頭販売価格が100円でしたので、
単純に50円が一個あたりの利益額とされました。
そのうえで、「トミー」標章が本件商品の売上に
影響を与える度合い(寄与率)を検討。
ポケモンにかかわる著作権や商標権が8割、
原告トミーの登録商標が2割の寄与率であると判断されました。
以上から、50円×販売個数×0.2が損害額と
推定されました(商標法38条2項)。
2 シール製造会社との関係
製造原価は30.69円でした。経費等の控除は認められず、
(50円ー30.69円)×販売個数×0.2
が「利益」の額であり、損害額であると判断されました。
4 謝罪広告の要否
侵害商品が肌に直接貼り付けるシールであるため
安全性が特に要求されるものであること、
大量に販売されていること等から
トミーの業務上の信用回復のため全国紙への謝罪広告の
掲載の必要性が認められました。
■コメント
シール製造販売会社と関係が深かった人物が
ライセンスビジネス会社を経営しており(訴外)、
この人物を中心に商品化企画話が進行していました。
結局、この人物はシール製造販売会社から詐欺罪で
刑事告発されており、事案としては契約関係が
成立しているとは到底思われないものでした。
本来和解で早期解決が可能であったと思われます。
事実、ポケモンの商標権を持つ任天堂等と被告らは
別件で損害賠償請求訴訟がありましたが、
和解が成立しています。
ただ、この和解では100万円という少額の支払いと
謝罪広告の掲載という内容の、いわば「実」をとったもの
でしたので、
本件では損害額などで折り合いがつかず
契約関係の成否も含めて争点となったものと思われます。
本件は、キャラクター商品化ビジネスの仕組みに関する概論、
企業におけるライセンスビジネスでのキャラクターデータ管理の
様子が伺えるものとして参考になります。
■参考判例
商標法38条2項「利益」の意義について
S63. 4.27 東京地裁 昭和61(ワ)6408 商標権 民事訴訟事件
H12. 4.25 東京高裁 平成11(ネ)836 商標権 民事訴訟事件
■参考文献
小野昌延ほか「商標の法律相談改訂版」(2002)484頁以下
寒河江孝允ほか「商標の法律相談」(2004)66頁
牧野利秋ほか「新裁判実務大系 知的財産関係訴訟法」(2004)311頁以下
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)480頁以下、490頁以下
小松一雄ほか「不正競業訴訟の実務」(2005)101頁以下
なお、商品化許諾契約書の例として、
牛木理一「キャラクター戦略と商品化権」(2000)353頁以下
土井輝生「キャラクター・マーチャンダイジング
ー法的基礎と契約実務ー」(1989)319頁以下