知財判決速報より
★H17.12.12 東京地裁 平成12(ワ)27552 著作権 民事訴訟事件
■事案
宇宙開発事業団(現在は、宇宙航空研究開発機構に改編)の職員が、
ロケットや人工衛星の制御データ解析プログラムについて著作権、
著作者人格権が自分にあることの確認を求めた事案。
■結論
請求棄却(原告側敗訴)
■争点
条文 著作権法第2条1項1号、15条、28条
1 プログラム著作物における「創作者」性
2 職務著作の肯否
■判決内容
1 プログラム著作物における「創作者」性
『ある表現物を創作したというためには,当該表現物の形成に当たって,自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行ったことが必要である。したがって,当該表現物の形成に当たって,必要な資料の収集・整理をしたり,助言・助力をしたり,一応完成された表現物について,加除・訂正をしたりすることによって,何らかの関与を行ったと認められる場合であっても,その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行っていない者は,創作した者ということができない。
この点は,当該表現物がプログラムである場合であっても何ら異なるところはないが,法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,その機能やアイディアを保護するものではないし,また,プログラムにおける「アルゴリズム」は,法10条3項3号の「解法」に当たり,プログラムの著作権の対象として保護されるものではない。そこで,プログラムを創作した者であるかどうかを判断するに当たっては,プログラムの具体的記述に関して自己の思想又は感情を創作的に表現した者であるかどうかという観点から検討する必要がある。』
との一般論を前提とした上で、裁判所は原告主張の11本のプログラムに
ついて検討。
あるものについては他の技術者との共同創作を肯定。
またあるプログラムでは単独創作を肯定、
あるいは原告が創作者ではないと否定されたプログラムもありました。
2 職務著作の肯否
法15条(職務上作成する著作物の著作者)の認定について、裁判所は
「法人等の業務に従事する者が作成したものであること」
「職務上の作成」
「法人等の発意」
「公表名義」
の各要件について検討。
結論として職務著作を肯定し、プログラムの著作者は事業団であると
判断しました。
(原告に創作者性がないとされたプログラムについても仮定的に
判断されています。)
なお、「法人等の発意」要件について、
『職務著作が成立するためには,当該著作物が,法人等の発意に基づいて作成されたことが必要である。法人等の発意に基づくとは,著作物の創作についての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることであると解されるところ,職務著作の規定が,業務従事者の職務上の著作物に関し,法人等及び業務従事者の双方の意思を推測し,一般に,法人等がその著作物に関する責任を負い,対外的信頼を得ることが多いことから,一定の場合に法人等に著作者としての地位を認めるものであることに照らせば,法人等の発意に基づくことと業務従事者が職務上作成したこととは,相関的な関係にあり,法人等と業務従事者との間に正式な雇用契約が締結され,業務従事者の職務の範囲が明確であってその範囲内で行為が行われた場合には,そうでない場合に比して,法人等の発意を広く認める余地があるというべきであり,その発意は,前記のとおり,間接的であってもよいものである。そして,そのように職務の範囲が明確で,その中での創作行為の対象も限定されている場合であれば,そこでの創作行為は職務上当然に期待されているということができ,この場合,特段の事情のない限り,当該職務行為を行わせることにおいて,当該業務従事者の創作行為についての意思決定が法人等の判断に係らしめられていると評価することができ,間接的な法人等の発意が認められると解するのが相当である。』
との一般論を述べています。
原告は15条を厳格に捉える斉藤博教授の見解(「著作権法第二版」(2004)123頁)
を主張するなどしていましたが、結論的には容れられませんでした。
■コメント
プログラム制作当時、職員作成プログラムの著作権の取り扱いについて
職員を著作者とする就業規則や契約など特段の定めはなかった状況で
職務著作(法人著作)性、創作者性が争われたものです。
裁判所はプログラム制作に至る経緯や目的、事業団の業務、
原告の担当業務について詳細な検討を加えた上で
上記のような判断をしています。
(なお、本事案で問題となったプログラムのほとんどは法15条2項の
プログラム特則規定施行(昭和60年改正61年1月1日施行)以前の
制作のものなので公表名義要件も検討対象となりました。)
今回の提訴の動機の底辺には、
事業団に対するプログラム制作業務についての
原告の提案が反対を受けていたこと、
あるいは原告の経歴をみると20年近く「副主任」開発部員という
地位にあったことから待遇上の不満があったのではと
推察されるところです。
もっとも、プログラム著作者としての権利主張は事実関係を
見る限り本事案では難しかったかと思われます。
本判決では、創作者性の事実認定部分と職務著作性における
「法人等の発意」の規範部分、事実認定部分が参考になると
思います。
特にフランス留学を契機として作成されたプログラム(プログラム12)
については原告単独での創作者性が肯定されていますが、
結論的には職務著作が肯定されています。
海外出張として取扱われた留学に際して作成されたプログラム
著作物の取り扱いについての先例になると思います。
■参考文献
牧野利秋ほか編『著作権関係訴訟法』(2004)
上野達弘「著作者の認定」217頁以下
森 義之「職務著作」 237頁以下参照
職務著作について
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)193頁
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)379頁以下
■追記(05.12.31)
創作者主義の原則の見直し、著作者人格権の本質論等を
職務著作制度の観点から考察するものとして
潮海久雄「職務著作制度の基礎理論」(2005)参照。
なお、公表名義要件について、同書20頁以下、225頁以下参照。
■追記(06.1.4)
千野直邦「法人著作の概念ー世界の著作権法にみられる二つの思潮」
『民法と著作権法の諸問題ー半田正夫教授還暦記念論集』
(1993)499頁以下
★H17.12.12 東京地裁 平成12(ワ)27552 著作権 民事訴訟事件
■事案
宇宙開発事業団(現在は、宇宙航空研究開発機構に改編)の職員が、
ロケットや人工衛星の制御データ解析プログラムについて著作権、
著作者人格権が自分にあることの確認を求めた事案。
■結論
請求棄却(原告側敗訴)
■争点
条文 著作権法第2条1項1号、15条、28条
1 プログラム著作物における「創作者」性
2 職務著作の肯否
■判決内容
1 プログラム著作物における「創作者」性
『ある表現物を創作したというためには,当該表現物の形成に当たって,自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行ったことが必要である。したがって,当該表現物の形成に当たって,必要な資料の収集・整理をしたり,助言・助力をしたり,一応完成された表現物について,加除・訂正をしたりすることによって,何らかの関与を行ったと認められる場合であっても,その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行っていない者は,創作した者ということができない。
この点は,当該表現物がプログラムである場合であっても何ら異なるところはないが,法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,その機能やアイディアを保護するものではないし,また,プログラムにおける「アルゴリズム」は,法10条3項3号の「解法」に当たり,プログラムの著作権の対象として保護されるものではない。そこで,プログラムを創作した者であるかどうかを判断するに当たっては,プログラムの具体的記述に関して自己の思想又は感情を創作的に表現した者であるかどうかという観点から検討する必要がある。』
との一般論を前提とした上で、裁判所は原告主張の11本のプログラムに
ついて検討。
あるものについては他の技術者との共同創作を肯定。
またあるプログラムでは単独創作を肯定、
あるいは原告が創作者ではないと否定されたプログラムもありました。
2 職務著作の肯否
法15条(職務上作成する著作物の著作者)の認定について、裁判所は
「法人等の業務に従事する者が作成したものであること」
「職務上の作成」
「法人等の発意」
「公表名義」
の各要件について検討。
結論として職務著作を肯定し、プログラムの著作者は事業団であると
判断しました。
(原告に創作者性がないとされたプログラムについても仮定的に
判断されています。)
なお、「法人等の発意」要件について、
『職務著作が成立するためには,当該著作物が,法人等の発意に基づいて作成されたことが必要である。法人等の発意に基づくとは,著作物の創作についての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることであると解されるところ,職務著作の規定が,業務従事者の職務上の著作物に関し,法人等及び業務従事者の双方の意思を推測し,一般に,法人等がその著作物に関する責任を負い,対外的信頼を得ることが多いことから,一定の場合に法人等に著作者としての地位を認めるものであることに照らせば,法人等の発意に基づくことと業務従事者が職務上作成したこととは,相関的な関係にあり,法人等と業務従事者との間に正式な雇用契約が締結され,業務従事者の職務の範囲が明確であってその範囲内で行為が行われた場合には,そうでない場合に比して,法人等の発意を広く認める余地があるというべきであり,その発意は,前記のとおり,間接的であってもよいものである。そして,そのように職務の範囲が明確で,その中での創作行為の対象も限定されている場合であれば,そこでの創作行為は職務上当然に期待されているということができ,この場合,特段の事情のない限り,当該職務行為を行わせることにおいて,当該業務従事者の創作行為についての意思決定が法人等の判断に係らしめられていると評価することができ,間接的な法人等の発意が認められると解するのが相当である。』
との一般論を述べています。
原告は15条を厳格に捉える斉藤博教授の見解(「著作権法第二版」(2004)123頁)
を主張するなどしていましたが、結論的には容れられませんでした。
■コメント
プログラム制作当時、職員作成プログラムの著作権の取り扱いについて
職員を著作者とする就業規則や契約など特段の定めはなかった状況で
職務著作(法人著作)性、創作者性が争われたものです。
裁判所はプログラム制作に至る経緯や目的、事業団の業務、
原告の担当業務について詳細な検討を加えた上で
上記のような判断をしています。
(なお、本事案で問題となったプログラムのほとんどは法15条2項の
プログラム特則規定施行(昭和60年改正61年1月1日施行)以前の
制作のものなので公表名義要件も検討対象となりました。)
今回の提訴の動機の底辺には、
事業団に対するプログラム制作業務についての
原告の提案が反対を受けていたこと、
あるいは原告の経歴をみると20年近く「副主任」開発部員という
地位にあったことから待遇上の不満があったのではと
推察されるところです。
もっとも、プログラム著作者としての権利主張は事実関係を
見る限り本事案では難しかったかと思われます。
本判決では、創作者性の事実認定部分と職務著作性における
「法人等の発意」の規範部分、事実認定部分が参考になると
思います。
特にフランス留学を契機として作成されたプログラム(プログラム12)
については原告単独での創作者性が肯定されていますが、
結論的には職務著作が肯定されています。
海外出張として取扱われた留学に際して作成されたプログラム
著作物の取り扱いについての先例になると思います。
■参考文献
牧野利秋ほか編『著作権関係訴訟法』(2004)
上野達弘「著作者の認定」217頁以下
森 義之「職務著作」 237頁以下参照
職務著作について
作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)193頁
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)379頁以下
■追記(05.12.31)
創作者主義の原則の見直し、著作者人格権の本質論等を
職務著作制度の観点から考察するものとして
潮海久雄「職務著作制度の基礎理論」(2005)参照。
なお、公表名義要件について、同書20頁以下、225頁以下参照。
■追記(06.1.4)
千野直邦「法人著作の概念ー世界の著作権法にみられる二つの思潮」
『民法と著作権法の諸問題ー半田正夫教授還暦記念論集』
(1993)499頁以下
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