知財判決速報より
★H17.12.8 大阪地裁 平成17(ワ)1311 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/68cc456c8440bc20492570d50009a2cc?OpenDocument
■事案
広告業者とのあいだで写真の著作権使用について原告は委託契約を締結していたが、
契約合意解除後に無断で写真が使用されてしまったという事案。
デュープポジが回収されずに残されていました。
■結論
原告勝訴(ただし、損害額300万円を請求したが、3万円だけ認容)
■争点
条文 著作権法第112条、第114条3項等
1 契約合意解除後の裁判管轄
2 顧客(レンタルポジ利用者)の注意義務
3 損害額の算定
■判決内容
1 レンタルポジ受委託契約書には契約に関して紛争が生じた場合の裁判管轄として、
東京地裁が専属的合意管轄裁判所とされていました。
そこで被告側は本件紛争も契約解除後とはいえ契約に関するものであり、東京地裁に管轄があるから
大阪地裁への提訴は却下されるべきであると主張しました。
しかし、裁判所は、
『被告JALブランドに対する本件訴えは、本件契約の終了後に生じた著作権侵害の不法行為による損害賠償の請求である。
そして、本件契約の第18条は、「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合に東京裁判所のみを管轄裁判所とします。」との条項となっている。
そこで検討するに、確かに、本件契約の合意解除により、本件契約による上記管轄合意の効力が失われるとは解されないものの、本件訴えに係る著作権侵害の不法行為は、本件契約の終了後に生じたものである。
したがって、このような紛争についてまで、上記「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合」に該当すると解することはできず、上記管轄合意の効力は本件訴えには及ばないものと解するのが相当である。』
『ここで、原告の住所地は肩書地である大阪市である。したがって、各被告に対する損害賠償請求に係る、不法行為による損害賠償債務の履行地はいずれも大阪市となり、民事訴訟法5条1号により、それぞれ当裁判所が土地管轄権を有するものである。』
として、結論としては大阪地裁への提訴は問題なしとしています。
2 写真の著作権を保有する原告は、広告業者とのあいだで写真著作権の使用について受託契約を締結していますが、
貸出業務についてはレンタルポジ業者である代理店に委託しています。
パンフレットなどで写真を使う顧客に対してこの代理店が現実には貸し出し業務を行っています。
その末端の顧客の注意義務、過失の有無が問題となりました。
『被告ドトールは、コーヒーの焙煎加工及び販売その他を目的とする株式会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。
このような会社が、少なくとも、顧客として、パンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼して、完成したパンフレットの納入を受けてこれを頒布するにあたっては、そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
なぜならば、一般に、パンフレット製作会社がパンフレットの製作にあたって使用した写真が、誰の撮影に係るものであるか、顧客には直ちに知り得ないものであり、その著作権についても、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであって、これも顧客には直ちに知り得ないものであるからである。
したがって、特段の事情のない限り、顧客としては、パンフレットに使用される写真の著作権については、パンフレット製作会社において適切な対応がされていると信じ、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えたとしても、注意義務に違反するものとはいえない。』
この事案での顧客(パンフレット広告製作委託主)はドトールでしたが、
結論としてドトールに過失はないと判断されました。
3 損害額の算定
損害額の算定について、原告は無断使用の場合は、(社)日本写真家協会の例にならい
通常使用料の10倍の損害金となる等主張しましたが認められませんでした。
原告提出の証拠だけではそのような業界慣行が認められるものではないと判断されました。
この点は商業写真と作品性の高い写真との差異も事実認定上あるいは影響したかもしれません。
財産的損害について、ほぼ使用料額相当額の損害金の認定にとどまりました。
慰藉料請求は認められませんでした。
■コメント
損害額で折り合いが付かず提訴となったのでしょうが、
先例をみても損害額算定では一般的に低くなってしまいます。
それでも提訴したのですから原告は、被告らの対応によほど不信、不満を
持っていたのでしょう。
訴訟になることで被告側の社会的な信用、ブランドイメージがどうなるか。
そのあたりも含めて被告側は対応を迫られることになります。
今回の事件はドトールにとってはいい迷惑でした。
★H17.12.8 大阪地裁 平成17(ワ)1311 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/68cc456c8440bc20492570d50009a2cc?OpenDocument
■事案
広告業者とのあいだで写真の著作権使用について原告は委託契約を締結していたが、
契約合意解除後に無断で写真が使用されてしまったという事案。
デュープポジが回収されずに残されていました。
■結論
原告勝訴(ただし、損害額300万円を請求したが、3万円だけ認容)
■争点
条文 著作権法第112条、第114条3項等
1 契約合意解除後の裁判管轄
2 顧客(レンタルポジ利用者)の注意義務
3 損害額の算定
■判決内容
1 レンタルポジ受委託契約書には契約に関して紛争が生じた場合の裁判管轄として、
東京地裁が専属的合意管轄裁判所とされていました。
そこで被告側は本件紛争も契約解除後とはいえ契約に関するものであり、東京地裁に管轄があるから
大阪地裁への提訴は却下されるべきであると主張しました。
しかし、裁判所は、
『被告JALブランドに対する本件訴えは、本件契約の終了後に生じた著作権侵害の不法行為による損害賠償の請求である。
そして、本件契約の第18条は、「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合に東京裁判所のみを管轄裁判所とします。」との条項となっている。
そこで検討するに、確かに、本件契約の合意解除により、本件契約による上記管轄合意の効力が失われるとは解されないものの、本件訴えに係る著作権侵害の不法行為は、本件契約の終了後に生じたものである。
したがって、このような紛争についてまで、上記「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合」に該当すると解することはできず、上記管轄合意の効力は本件訴えには及ばないものと解するのが相当である。』
『ここで、原告の住所地は肩書地である大阪市である。したがって、各被告に対する損害賠償請求に係る、不法行為による損害賠償債務の履行地はいずれも大阪市となり、民事訴訟法5条1号により、それぞれ当裁判所が土地管轄権を有するものである。』
として、結論としては大阪地裁への提訴は問題なしとしています。
2 写真の著作権を保有する原告は、広告業者とのあいだで写真著作権の使用について受託契約を締結していますが、
貸出業務についてはレンタルポジ業者である代理店に委託しています。
パンフレットなどで写真を使う顧客に対してこの代理店が現実には貸し出し業務を行っています。
その末端の顧客の注意義務、過失の有無が問題となりました。
『被告ドトールは、コーヒーの焙煎加工及び販売その他を目的とする株式会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。
このような会社が、少なくとも、顧客として、パンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼して、完成したパンフレットの納入を受けてこれを頒布するにあたっては、そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
なぜならば、一般に、パンフレット製作会社がパンフレットの製作にあたって使用した写真が、誰の撮影に係るものであるか、顧客には直ちに知り得ないものであり、その著作権についても、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであって、これも顧客には直ちに知り得ないものであるからである。
したがって、特段の事情のない限り、顧客としては、パンフレットに使用される写真の著作権については、パンフレット製作会社において適切な対応がされていると信じ、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えたとしても、注意義務に違反するものとはいえない。』
この事案での顧客(パンフレット広告製作委託主)はドトールでしたが、
結論としてドトールに過失はないと判断されました。
3 損害額の算定
損害額の算定について、原告は無断使用の場合は、(社)日本写真家協会の例にならい
通常使用料の10倍の損害金となる等主張しましたが認められませんでした。
原告提出の証拠だけではそのような業界慣行が認められるものではないと判断されました。
この点は商業写真と作品性の高い写真との差異も事実認定上あるいは影響したかもしれません。
財産的損害について、ほぼ使用料額相当額の損害金の認定にとどまりました。
慰藉料請求は認められませんでした。
■コメント
損害額で折り合いが付かず提訴となったのでしょうが、
先例をみても損害額算定では一般的に低くなってしまいます。
それでも提訴したのですから原告は、被告らの対応によほど不信、不満を
持っていたのでしょう。
訴訟になることで被告側の社会的な信用、ブランドイメージがどうなるか。
そのあたりも含めて被告側は対応を迫られることになります。
今回の事件はドトールにとってはいい迷惑でした。
コメント
コメント一覧
レンタルポジ業者の「過失」が
認定されましたが
いずれにしろ写真一枚の取扱いのミスで
広告パンフレットの回収・廃棄、
営業上の信用も失墜するのですから
たいへんな事態です。
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