控訴審
H17.12.5 知財高裁 平成17(ネ)10083 不正競争 民事訴訟事件

原審
H17.3.30 東京地裁 平成16(ワ)12793 不正競争 民事訴訟事件



■事案

丸首ネック、4段フリル、ノースリーブ型カットソーの服飾デザインについて、
商品を模倣したかどうかが争われた事案。


■結論

原審一部変更(原告側逆転勝訴)


■争点

不正競争防止法第2条1項3号

形態模倣性の有無
通常有する形態かどうか


■控訴審内容

1 「形態の実質的同一性ならびに模倣性
   肯定

2 「通常有する形態」か
   否定

以下では「通常有する形態」かどうかの判示部分について触れたいと思います。


(1) 上記2記載のA”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態は,ノースリーブ型のカットソーであることから必然的に導かれる形態ということはできないし,何らかの特定の効果を奏するために必須の技術的形態ということもできない。
そして,原告商品と同様の,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソーで,原告商品の販売以前において市場で販売されていたものについて見ても,丸首ネック(A”)とホルターネック(B”)を組み合わせた商品は見当たらないのであって,この点からも,A”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態が個性を有しないものということはできない。
したがって,原告商品の形態は,「同種の商品が通常有する形態」であるとは認められない。



なお、形態判断について全体判断か個別判断かという点について、

被控訴人は,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形状は,その一つ又はいくつかの形状を備えたノースリーブ型のカットソーが原告商品販売以前から存在するのであって,いずれも極めてありふれたものであり,A”ないしJ”のすべてを組み合わせることは極めて容易に想到することができるから,原告商品の形態は,全体としてもありふれたものであり,「同種の商品が通常有する形態」に該当すると主張する。
しかし,不正競争防止法2条1項3号は,商品形態についての先行者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であるところ,同号の規定によって保護される商品の形態とは,商品全体の形態であり,また,必ずしも独創的な形態である必要はない。そうすると,商品の形態が同号の規定にいう「同種の商品が通常有する形態」に該当するかどうかは,商品を全体として観察して判断すべきであって,被控訴人の主張するように,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうかを判断した上で,各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にするというような手法により判断すべきものではない。
したがって,本件において,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形状につき,これを個別に見た場合に,これらのうち一つ又はいくつかの形状を備えたノースリーブ型のカットソーが原告商品販売以前から存在したとしても,そのことから,原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に該当するということはできず,被控訴人の上記主張は,採用することができない。


と、判示しています。



■コメント

ここのところ服飾デザインにかかわる裁判例が目に付く印象です。

本判決の前にもノースリーブ型ワンピースなどのデザインの模倣性に関する判断が
出ています。

H17.11.10 知財高裁 平成17(ネ)10088 不正競争 民事訴訟事件

原審
H17. 4.27 東京地裁 平成16(ワ)12723 不正競争 民事訴訟事件


日本繊維新聞社編「ファッション業界と知的財産権」(2005.8.31刊)を読むと
アパレル産業における知財保護の現状が垣間見えます。

短命のアパレルデザインを意匠登録することはほとんどなく、また大量生産する
工業製品として著作権法の保護の外にある以上、アパレルデザインの模倣に対しては
不正競争防止法による擬律が必要となります。


ところで本件カットソー事件では原審と控訴審とで判断が分かれました。

原審では
既に市場に存在するありふれた形態であるA”ないしJ”を単に組み合わせたにすぎない原告商品は,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソーとしてありふれた形態であって,原告商品の形態は,同種商品が通常有する形態であるといわなければならない。

と判断され原告敗訴となっていました。

ところが控訴審では一転して上記のように機能・効用の不可避的形態性を否定、
さらに新規性・個性があるものとして結論的にありふれた形態ではないと
しています。

判断の相違は事実認定上の違いで微妙なものと思われます。


■平成17年改正について

なお、平成17年不正競争防止法改正(平成17年11月1日施行)で第2条1項3号「通常有する形態」との
法文が、「機能を確保するために不可欠な形態」と改められました。
3年間の権利行使制限の文言は適用除外規定の19条1項5項イに移動しています。

そして「商品の形態」「模倣する」の定義規定の新設(法第2条4項5項)によって
形態模倣行為は外観と内部構造の組み合わせにから判断されうることとなります。

たとえば、外観上はありふれた形態であっても、内部構造が実質的に同一であれば
商品形態模倣行為となり得ます(詳しくは下記PDF15ページ図表参照)。

「知的財産政策/不正競争防止」経済産業政策局 知的財産政策室

不正競争防止法改正の概要PDF

■参考文献

弁理士クラブ知財判決研究会編「実務家のための知的財産権判例70選(2005年度版)
282頁以下(カットソー事件一審判決)

大渕哲也ほか編「知的財産法判例集」(2005)228頁以下
(ピアス孔保護具事件:東京地判H9.3.7)



■追記(05.12.15)

いつも拝見させていただいている「企業法務戦士の雑感」さんのブログ記事。
攻守ところを代えた仁義なきアパレル業界での戦い。


■[企業法務][知財] アパレル業界の“仁義なき戦い(知財編)