今年7月10日にブログ記事で取り上げた事件の控訴審判決が出ました。
2005.7.10「岩波新書出版差止等請求事件判決=知財判決速報=」
7月1日の原審判決に対して、控訴審判決が11月21日ですから5ヶ月あまりで二審判決が出たことになります。
H17.11.21 知財高裁 平成17(ネ)10102 著作権 民事訴訟事件
原審
H17.7.1 東京地裁 平成16(ワ)12242 著作権 民事訴訟事件
事案は文集(「鉄石と千草 京城三坂小学校記念文集」)を取り上げた岩波新書「植民地朝鮮の日本人」が編集著作物としての文集著作者の著作者人格権を侵害する、名誉を毀損するとして文集編集者らが差止、損害賠償請求等を行ったものです。
原審では、著作権侵害、名誉毀損いずれも認めず原告敗訴でした。
控訴審でも、控訴棄却。控訴人の主張は容れられませんでした。
■編集著作物の著作者の権利について、控訴人は
『もともと編集著作物において保護の対象となる「素材の選択又は配列の創作性」は,「具体的な素材についての具体的な編集者の特定の思想・目的に基づく選択・配列の独自性」である。すなわち,具体的な編集物における具体的な選択・配列等に,当該編集者の特定の思想・目的に基づく創作活動が表れているからこそ保護されるのであり,保護の対象はその「当該編集者の独特の思想・目的」にこそある。そして,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,当該編集者の独特の思想・目的に起因するものであることも明らかである。
したがって,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の上記「独特の思想・目的」に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集著作物の著作者自身がその侵害を排除できることはむしろ当然である。』
と、控訴審で主張しました。
しかし、この点について控訴審裁判所は
『控訴人X1は,編集著作物においては,編集者の特定の思想・目的に基づく素材の選択・配列の独自性が保護されるのであり,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,編集者の独特の思想・目的に起因するものであるから,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の独特の思想・目的に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集者自身が著作者人格権に基づいて侵害を排除できる旨を主張する。
しかしながら,編集著作物は,素材の選択又は配列に創作性を有することを理由に,著作物として著作権法上の保護の対象とされるものであるから,編集者の思想・目的も素材の選択・配列に表れた限りにおいて保護されるものというべきである。したがって,編集著作物を構成する素材たる個別の著作物が利用されたにとどまる場合には,いまだ素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的が害されたとはいえないから,編集著作物の著作者が著作者人格権に基づいて当該利用行為を差し止めることはできない。
本件においては,被告書籍中における本件文集の利用態様は,あくまで本件文集を構成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであるから,素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的を侵害するものとはいえない。したがって,控訴人X1の主張するその余の点につき判断するまでもなく,同控訴人の編集著作物の著作者の権利に基づく請求は,理由がない。』(知財判決速報より)
として、認めませんでした。
■不法行為責任の成立(名誉毀損、名誉感情侵害)についても結論的には認めませんでした。
原告の著作権法上の主張については、原審でもそうでしたが、なかなか難しい立論で結論的には裁判所の判断が是認できるところです。
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■追記08.11.23
参考文献
松川実「『植民地朝鮮の日本人』編集著作物事件」『著作権研究33号』
(2008)157頁以下
2005.7.10「岩波新書出版差止等請求事件判決=知財判決速報=」
7月1日の原審判決に対して、控訴審判決が11月21日ですから5ヶ月あまりで二審判決が出たことになります。
H17.11.21 知財高裁 平成17(ネ)10102 著作権 民事訴訟事件
原審
H17.7.1 東京地裁 平成16(ワ)12242 著作権 民事訴訟事件
事案は文集(「鉄石と千草 京城三坂小学校記念文集」)を取り上げた岩波新書「植民地朝鮮の日本人」が編集著作物としての文集著作者の著作者人格権を侵害する、名誉を毀損するとして文集編集者らが差止、損害賠償請求等を行ったものです。
原審では、著作権侵害、名誉毀損いずれも認めず原告敗訴でした。
控訴審でも、控訴棄却。控訴人の主張は容れられませんでした。
■編集著作物の著作者の権利について、控訴人は
『もともと編集著作物において保護の対象となる「素材の選択又は配列の創作性」は,「具体的な素材についての具体的な編集者の特定の思想・目的に基づく選択・配列の独自性」である。すなわち,具体的な編集物における具体的な選択・配列等に,当該編集者の特定の思想・目的に基づく創作活動が表れているからこそ保護されるのであり,保護の対象はその「当該編集者の独特の思想・目的」にこそある。そして,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,当該編集者の独特の思想・目的に起因するものであることも明らかである。
したがって,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の上記「独特の思想・目的」に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集著作物の著作者自身がその侵害を排除できることはむしろ当然である。』
と、控訴審で主張しました。
しかし、この点について控訴審裁判所は
『控訴人X1は,編集著作物においては,編集者の特定の思想・目的に基づく素材の選択・配列の独自性が保護されるのであり,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,編集者の独特の思想・目的に起因するものであるから,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の独特の思想・目的に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集者自身が著作者人格権に基づいて侵害を排除できる旨を主張する。
しかしながら,編集著作物は,素材の選択又は配列に創作性を有することを理由に,著作物として著作権法上の保護の対象とされるものであるから,編集者の思想・目的も素材の選択・配列に表れた限りにおいて保護されるものというべきである。したがって,編集著作物を構成する素材たる個別の著作物が利用されたにとどまる場合には,いまだ素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的が害されたとはいえないから,編集著作物の著作者が著作者人格権に基づいて当該利用行為を差し止めることはできない。
本件においては,被告書籍中における本件文集の利用態様は,あくまで本件文集を構成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであるから,素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的を侵害するものとはいえない。したがって,控訴人X1の主張するその余の点につき判断するまでもなく,同控訴人の編集著作物の著作者の権利に基づく請求は,理由がない。』(知財判決速報より)
として、認めませんでした。
■不法行為責任の成立(名誉毀損、名誉感情侵害)についても結論的には認めませんでした。
原告の著作権法上の主張については、原審でもそうでしたが、なかなか難しい立論で結論的には裁判所の判断が是認できるところです。
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■追記08.11.23
参考文献
松川実「『植民地朝鮮の日本人』編集著作物事件」『著作権研究33号』
(2008)157頁以下
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