先日、松岡千帆氏(東京地方裁判所民事46部裁判官)によるここ1年(H16年10月からH17年10月まで)の著作権判例に関する講演会に出席してきました((社)著作権情報センター主催)。

著作権法上重要な争点に関するもの、また原審と控訴審とで判断が分かれる裁判例の中から8つをピックアップ。解説と質疑応答が行われました。


1 海洋堂(チョコエッグ)フィギア事件
  大阪高裁H17.7.28判決(確定)

→原審はモノの性質(大量生産品であること、表現の幅が狭いこと)を重視したのに対して、控訴審では作者の独創性を重視した。


2 積水ハイム広告写真事件
  大阪地裁H17.1.17判決(確定)

→著作権使用許諾契約の解釈として、「類似の媒体」への使用も範囲内となるかという点についての判断が先例として重要。
 なお、利用許諾の範囲の問題について(CDロム→雑誌への転用事例)、東京地裁H11.3.26損害賠償等請求事件(判例時報1694号142頁以下 2000)参照。


3 グッバイキャロル事件
  東京地裁H17.3.15判決(控訴中)

→利用許諾の範囲の問題。
契約内容の合理的意思解釈として、新しいメディアでの販売方法が契約内容となっているかという点での判断。

なお、近時ジャスラックVSケーブルテレビ事業者事件(知財高裁H17.8.30)では、CS放送が5団体契約の内容に含まれるかどうかという点について、原審と控訴審で異なる判断をしています。


4 七人の侍(「武蔵」)事件
  知財高裁H17.6.14判決(上告棄却:確定)

→「アイデアと表現の区別は実際には難しい」、「表現の自由と著作権者保護の調整」という利益考量の中で松岡判事を含め現場の裁判官は苦労されているようです。


5 2ちゃんねるVS小学館事件
  東京高裁H17.3.3判決(確定)

→侵害主体性の問題。間接侵害での差止請求の肯否の論点が示されている事案。
 原審と控訴審とで結論が異なったのは事実認定上の違いではないか、とのこと。


6 選撮見録(よりどりみどり)録画サービス事件
  大阪地裁H17.10.24判決(控訴中)

→侵害主体性を否定しつつ、なお権利者を保護するために差止請求を肯定しようと苦心している判決。
 ただ、利益考量的価値判断から差止を肯定しつつ論理構成としては法112条1項を「類推」適用としている点は、物権的請求権に類推適用が認められるのかということも含めて、今後評価が分かれるところであろうとのこと。


7 デンバー元総領事写真事件
  東京高裁H17.3.24判決(確定)

→TV番組放送での侵害行為の回数論と損害額の算定方法についてのリーディングケース。
 質問に立った弁護士と松岡判事との間の質疑応答は興味深いものでした。

8 ヨミウリオンライン事件
  知財高裁H17.10.6判決(確定)

→知的財産権(排他的権利)として保護されない情報等は原則自由に利用できると判断し、情報等の無断利用について不法行為の成立を認めなかった原審に対して、控訴審は法的利益として保護されうるとして不法行為の成立を肯定。
 「原審、控訴審ともに保護される場面は限定的である点では判断に異なるところがない。」

 
なお、今回の講演録は著作権情報センター刊行の「コピライト」誌に追って掲載されると思います。詳しくはそちらをご覧いただければと思います。