先日の読売オンライン記事見出しの著作物性を争った控訴審判決について。

「企業法務戦士の雑感」さんの16日付のブログ記事、「marinesはチャンネル?」さんの14日付ブログ記事に触発されて不法行為の成否に関する争点について、私的補足・備忘録として参考となる判決をここに掲示しておきたいと思います。

企業法務戦士の雑感

marinesはチャンネル?

*そのほかのブログ記事として、弁護士壇先生の記事参照。

壇弁護士の事務室


H13.5.25 東京地裁 平成08(ワ)10047等 著作権 民事訴訟事件中間判決


3 争点(3)について
民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は,必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず,法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして,人が費用や労力をかけて情報を収集,整理することで,データベースを作成し,そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において,そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを,その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成する場合があるというべきである。
 これを本件についてみると,上記1認定のとおり,本件データベースは,自動車整備業を営む者に対し,実在の自動車に関する情報を提供する目的で,官報,年製別型式早見表,車検証等の種々の資料をもとに,原告が実在の自動車と判断した自動車のデータを収録したものであるが,証拠(甲25)と弁論の全趣旨によると,このような実在の自動車のデータの収集及び管理には多大な費用や労力を要し,原告は,本件データベースの開発に5億円以上,維持管理に年間4000万円もの費用を支出していることが認められる。
 また,弁論の全趣旨によると,原告と被告は,共に自動車整備業用システムを開発し,これを全国的に販売していたことが認められるから,自動車整備業用システムの販売につき競業関係にあり,証拠(証人B)によると,実際に,富士モータースにおいて,従前は原告システムを導入していたものの,その後,被告システムに変更したことが認められる。
 また,被告は,上記認定のとおり,本件データベースの相当多数のデータをそのまま複製し,これを被告の車両データベースに組み込み,顧客に販売していたものである。
 以上の事実によると,被告が本件データベースのデータを被告データベースに組み込んだ上,販売した行為は,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し,法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。
 したがって,被告は,原告に対し,上記不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れない。
』(最高裁HPより)


自動車データベース事件」として有名。
データベースの著作物性が争点となりこの点は否定されましたが、不法行為は成立するとされた判例です。



H16.2.13最高裁第二小法廷判決 平成13(受)866、867 製作販売差止等請求事件


(2) 現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 【要旨】上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。
 (3) なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。
 (4) 以上によれば,1審原告らは,1審被告に対し,差止請求権はもとより,損害賠償請求権を有するものということはできない。
』(最高裁HPより)


ギャロップレーサー事件
競走馬にパブリシティ権が認められるか、物のパブリシティ権が争点となった判例です。
結論的には物のパブリシティ権を否定。さらに原審では認められていた不法行為についても否定しました。
下級審レベル(名古屋事件、東京事件)では物のパブリシティ権の成否、不法行為の成否について判断が分かれていました。

なお、本最高裁判決の不法行為論、射程については議論があります(作花文雄「詳解著作権法第三版」174頁以下、本橋光一郎ほか「要約著作権判例212」277頁参照)。
不法行為論における違法性判断、権利侵害性判断について、より詳細な検討が加えられることが求められています。