新聞記事見出しの著作物性が争点となった訴訟の控訴審判決が
知財判決速報に掲載されました。
H17.10.6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権 民事訴訟事件PDF
原審 H16.3.24 東京地裁 平成14(ワ)28035 著作権 民事訴訟事件PDF
ITmediaニュース:新聞見出し無断ネット利用に賠償命令 著作物性は再び否定 記事2005/10/06 20:00
原審では新聞記事見出しは、著作権法第10条2項の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」にあたるとして著作物性を否定。
被告会社の電光掲示板方式による記事見出し配信行為の不法行為性も否定して、読売新聞東京本社側全面敗訴の結果となっていました。
控訴審では、一部変更。
審理で取り上げられた具体的な記事見出しの著作物性については否定しましたが、配信サービスについて不法行為責任は肯定しました。
原審では争点は
1記事見出しの著作物性
2配信サービスの不法行為性(違法性、損害の有無)
でした。
控訴審では、読売側は上記に追加して
3記事自体の著作権侵害性
4不正競争防止法第2条1項3号の不正競争行為性
などを主張しました。
控訴審では、次のような判断を下しています。
1 記事見出しの著作物性について
原審のように20字程度でまとめられる新聞記事見出しがただちに著作権法第10条2項に当たるものとはせず、あくまで個別具体的にその創作性の判断をしなければならない、として個別具体的に検討した上でそのすべてについて著作物性を否定しています。
『(2) 一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。』(知財判決速報より規範定立部分)
2 不法行為性(違法性、損害の有無)について
原審と異なり配信サービスの違法性を認めました。
『(2) 不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。』(知財判決速報より)
としたうえで、読売新聞記事見出しも法的保護に値する利益となりうるものであると認定。
そして、
『前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。』(知財判決速報より)
として違法性を肯定しました。
損害については、立証の困難性等から民訴法248条趣旨に照らして月1万円の損害額としました。
3 記事自体の著作権侵害(複製権侵害)の成否について
読売側は控訴審において、記事自体の著作権に関連した主張もしていますが、本気で争うつもりもなくこの点の審理は尽くされていません。
ここではキャッシュデータと「複製」、リンク行為と著作権侵害性に係わる重要な問題を孕んでいますが、結果的には争点化されませんでした。
4不正競争防止法第2条1項3号の不正競争行為の成否について
不正競争防止法第2条1項3号の不正競争というためには、「商品の形態」にかかわる不正競争行為でなければなりませんが、新聞記事見出しの模倣行為は「商品の形態」にかかわる模倣ではないとして否定されています。
以上簡単に述べてきましたが、結論について言えば原審に較べると控訴審判決はバランスのとれたものだと思います。
電光掲示板のようなカタチで記事見出しの配信サービスをしている同業他社(判決文によれば楽天の「インフォシーク・ティッカー」)がありますし、利用許諾契約をした上で記事見出しを利用し自社サイトの販促ツールとして役立てているビジネスモデルがある以上、まったくタダで記事見出しを利用するのは困難だと思えるからです。
判決では読売側の主張を受けて「情報の鮮度が高い時期での利用行為」であることにも特に言及していますから、記事見出し無断利用行為が広範に違法と判断されないとも考えられますが、実際問題として販促ツールとして利用価値の高い記事見出しは鮮度の高い最新のものとなるはずです。
現在新聞記事見出しを自社サイトの販促ツールあるいは記事配信事業の一環として利用している事業者は利用許諾契約を締結する、あるいは最新ニュースについては独自見出しを作るなど、対応を迫られることになると思います。
デジタルアライアンス ライントピックス
読売新聞社サイトポリシー
追記:
「企業法務戦士の雑感」さんのブログ記事『「読売新聞記事見出しフリーライド事件」判決の衝撃』参照(05.10.17)
企業法務戦士の雑感
追記:10月25日までに双方上告せず控訴審判決が確定。(05.10.31)
知財判決速報に掲載されました。
H17.10.6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権 民事訴訟事件PDF
原審 H16.3.24 東京地裁 平成14(ワ)28035 著作権 民事訴訟事件PDF
ITmediaニュース:新聞見出し無断ネット利用に賠償命令 著作物性は再び否定 記事2005/10/06 20:00
原審では新聞記事見出しは、著作権法第10条2項の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」にあたるとして著作物性を否定。
被告会社の電光掲示板方式による記事見出し配信行為の不法行為性も否定して、読売新聞東京本社側全面敗訴の結果となっていました。
控訴審では、一部変更。
審理で取り上げられた具体的な記事見出しの著作物性については否定しましたが、配信サービスについて不法行為責任は肯定しました。
原審では争点は
1記事見出しの著作物性
2配信サービスの不法行為性(違法性、損害の有無)
でした。
控訴審では、読売側は上記に追加して
3記事自体の著作権侵害性
4不正競争防止法第2条1項3号の不正競争行為性
などを主張しました。
控訴審では、次のような判断を下しています。
1 記事見出しの著作物性について
原審のように20字程度でまとめられる新聞記事見出しがただちに著作権法第10条2項に当たるものとはせず、あくまで個別具体的にその創作性の判断をしなければならない、として個別具体的に検討した上でそのすべてについて著作物性を否定しています。
『(2) 一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。』(知財判決速報より規範定立部分)
2 不法行為性(違法性、損害の有無)について
原審と異なり配信サービスの違法性を認めました。
『(2) 不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。』(知財判決速報より)
としたうえで、読売新聞記事見出しも法的保護に値する利益となりうるものであると認定。
そして、
『前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。』(知財判決速報より)
として違法性を肯定しました。
損害については、立証の困難性等から民訴法248条趣旨に照らして月1万円の損害額としました。
3 記事自体の著作権侵害(複製権侵害)の成否について
読売側は控訴審において、記事自体の著作権に関連した主張もしていますが、本気で争うつもりもなくこの点の審理は尽くされていません。
ここではキャッシュデータと「複製」、リンク行為と著作権侵害性に係わる重要な問題を孕んでいますが、結果的には争点化されませんでした。
4不正競争防止法第2条1項3号の不正競争行為の成否について
不正競争防止法第2条1項3号の不正競争というためには、「商品の形態」にかかわる不正競争行為でなければなりませんが、新聞記事見出しの模倣行為は「商品の形態」にかかわる模倣ではないとして否定されています。
以上簡単に述べてきましたが、結論について言えば原審に較べると控訴審判決はバランスのとれたものだと思います。
電光掲示板のようなカタチで記事見出しの配信サービスをしている同業他社(判決文によれば楽天の「インフォシーク・ティッカー」)がありますし、利用許諾契約をした上で記事見出しを利用し自社サイトの販促ツールとして役立てているビジネスモデルがある以上、まったくタダで記事見出しを利用するのは困難だと思えるからです。
判決では読売側の主張を受けて「情報の鮮度が高い時期での利用行為」であることにも特に言及していますから、記事見出し無断利用行為が広範に違法と判断されないとも考えられますが、実際問題として販促ツールとして利用価値の高い記事見出しは鮮度の高い最新のものとなるはずです。
現在新聞記事見出しを自社サイトの販促ツールあるいは記事配信事業の一環として利用している事業者は利用許諾契約を締結する、あるいは最新ニュースについては独自見出しを作るなど、対応を迫られることになると思います。
デジタルアライアンス ライントピックス
読売新聞社サイトポリシー
追記:
「企業法務戦士の雑感」さんのブログ記事『「読売新聞記事見出しフリーライド事件」判決の衝撃』参照(05.10.17)
企業法務戦士の雑感
追記:10月25日までに双方上告せず控訴審判決が確定。(05.10.31)
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