CATV(ケーブルテレビ)事業者によるCS再送信やBS、地上波再送信での著作物利用関係にかかわる紛争について控訴審判決が出ています。

訴訟は大きく分けて
1 ジャスラック Vs CATV事業者3社
2 ジャスラック、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本芸能実演家団体協議会、日本文芸家協会 Vs CATV事業者3社

という二つに分けられます。

1について
H16. 5.21 東京地裁 平成13(ワ)20747等 著作権 民事訴訟事件

H17.8.30 知財高裁 平成17(ネ)10012 著作権 民事訴訟事件


2について
H16.5.21 東京地裁 平成13(ワ)8592等 著作権 民事訴訟事件など

H17.8.30 知財高裁 平成17(ネ)10009等 著作権 民事訴訟事件


ケーブルテレビ事業者は、NHKや民放などの放送会社から有線放送での同時再送信による番組使用許諾を得たうえで番組を配信します。この場合の著作権使用料は放送会社との間で処理されるのではなく、ジャスラックなど著作権管理団体と行われます。その際の契約書は(社)日本ケーブルテレビ連盟とジャスラックなどとの間で合意された包括的な契約書(5団体契約)が利用されています。

本件で被告となったケーブルテレビ事業者は前記ケーブルテレビ連盟加盟の会員ですが、この使用許諾契約書の解釈、取扱いについて疑義が生じたことから紛争が訴訟にまで及んだものです。


結果的にはCATV事業者側の主張は控訴審ではことごとく容れられませんでした。


1について

従前の使用許諾契約(5団体契約)に新しい放送形態であるCS放送(平成元年4月サービス開始)が含まれるかどうかという事実認定が主な争点となりました。
原審ではCS放送についても5団体契約の内容に含まれるとして、原告ジャスラック側が主張していたCS放送についての別個の契約締結の必要性を認めませんでした。
ところが、控訴審では逆にCS放送は5団体契約の内容には含まれず、したがって不当利得請求や使用料請求が可能であると判断しました。

実はCS放送の取扱いについては、当初ケーブルテレビ連盟は被告側と同様のスタンスに立っていました。ただ現在ではジャスラックとは利用料率などについて毎年暫定的合意をしてその都度確認書取り交わしている状況です。
なお、ジャスラック以外の4団体はCS放送に関してケーブルテレビ事業者に対して5団体契約とは別に権利行使していません


2について

被告となったCATV事業者は5団体契約を締結していたので、5団体は被告に対してこの契約に基づき著作権使用料の支払いを請求しました。

(1)これに対してCATV事業者(有線放送事業者)は、地上波、BS放送に関する同時再送信行為が放送事業者の著作物の利用の範囲に含まれ、ジャスラックなど5団体とそもそも契約を結ぶ必要はなかったと反論していました。
この点に関しては、原審、控訴審ともに被告CATV事業者の主張は容れられませんでした。

著作権法上、公衆送信において放送事業者と有線放送事業者は別個の存在であるというのが主な理由です。両者は放送主体も放送態様も違う別個のものであるということです。

(2)なお、再送信についてワンチャンス主義から著作隣接権を持たない実演家(日本芸能実演家団体協議会)との契約関係について契約の有効性が争われていましたが、金銭の支払いは「補償金」名目のもので契約自由の原則から有効である、として控訴審では原審とは逆に契約は有効と判断されました。

著作隣接権者のワンチャンス主義を規定した著作権法の規定(第92条2項1号)の意義と契約法理にかかわる判断で興味深い点です。



二つの裁判の判決文を読むと、ケーブルテレビ事業と衛星放送の発展史(地上波からBSアナログ、CSアナログさらにBSデジタル、CSデジタルへ)、それに伴う著作権権利者団体との交渉の経緯(昭和40年代からもたれていた)が良く分かります。

それぞれの思惑があってCS放送の取扱いや使用料率など未確定な部分がありましたが、今回の判決でCS放送の取扱いに関する未確定な部分についてはある程度「白黒」がついたことになり、ジャスラック以外の権利者団体にとっても意味のある判決になると思われます。

追記:被告CATV3社が9月8日上告しました。
(05.9.10)


■追記(06.10.11)

日経11日付記事より

10日、上告棄却の決定。

■追記(07.02.15)

ジャスラックプレスリリース
「2007年2月14日
知財高裁の判決を無視するCATV事業者に対し間接強制の申立て
−JASRACと利用許諾契約を締結せずにケーブルテレビ放送を継続−」

プレスリリース