H17.8.25 東京地裁 平成16(ワ)26420 著作権 民事訴訟事件

事案は、昭和55年に発生した埼玉県宮代町での強盗殺人、放火事件の死刑囚(最高裁で平成10年死刑確定)が、自己の執筆した著作物の著作権等を侵害されたとしてテレビ朝日の番組ディレクター並びにキャスターに対して損害賠償等を請求したものです。

結論的には原告敗訴。


この強殺事件については、こちらのサイトに経緯が掲載されています。

事件史探求「埼玉・宮代町、母子殺人事件」

嫌疑をかけられた兄弟のうち死刑、弟が無期懲役の判決を受けています(いずれも確定)。この兄が今回の民事訴訟の原告。


死刑囚の無実(冤罪事件)の主張をきっかけとしてテレビ朝日は取材を始めて番組を制作、放送した(H4年放送)。その後この事件を番組ディレクターら被告が書籍化したのですが(H6年出版)、その際死刑囚が執筆した本(H3年発行)の内容などを引用しました。
ところで、番組や番組書籍は冤罪事件の可能性を示唆する内容となっていて死刑囚の主張と対立するものではなかった。また、死刑囚は取材活動に対して協力もしていました。それにもかかわらず死刑囚は、自己の許諾なくして番組や書籍に自分が執筆した本などが利用されたと主張、提訴に及んだのです。
なお、書籍が出版されたことを原告が知って(H6年認識)から提訴まで(H16年12月)すでに10年が経過していますが、それまで一度も抗議を申し立てたことはありませんでした。

判決は、こうした経緯を踏まえて死刑囚の執筆による著作物の利用等について死刑囚の事後的な黙示の承諾があったと認定、著作権侵害はないと判断しています。


なお、今回の民事訴訟事件の原告となった死刑囚は、弁護士を付けない本人訴訟を行っているため主張内容が精査されておらず、また損害賠償の額が200億円(そのうちの1000万円の一部請求)と主張していたりしています。
こうしたこともあって、請求のいくつかは訴訟要件を欠き不適法であるとして「却下」と、あっさり退けられています。

判決文を読む限りいったいこの死刑囚はなにが不満だったのか、判然としません。
こんな訴訟を受けざるを得なかった被告側の労苦については同情を禁じ得ません。

■追記(06.3.12)
H18.2.28 知財高裁 平成17(ネ)10110 著作権 民事訴訟事件

控訴棄却(原告死刑囚側敗訴)