2003年初版、今月に全訂版が刊行されたインターネット、IT関係にかかわる知的財産権ビジネス法務関連の法律書です。

学陽書房から出版されている「法律相談シリーズ」のうちの一冊。
初出は社団法人 日本商事仲裁協会(旧名称:社団法人 国際商事仲裁協会)から出ている「月刊JCAジャーナル」連載記事です。

社団法人 日本商事仲裁協会


本書で契約書に触れたものとしては、ソフトウエアライセンス契約書(シュリンクラップ)に関するものがあります。
著作権にかかわるものは無論、商標権、ビジネスモデル特許など今日的なトピックスが網羅的に取り上げられていて平易な文体とあいまって気軽に読むことができます。

ところで、本書で考えさせられたのは消費者(クレーマー)対策。クレーマーがネット上で企業のクレーム情報(不具合情報や不当修理情報)を公開することが営業秘密の開示行為にあたり、不正競争防止法に抵触する可能性があると指摘している点です(38頁、90頁)。


そもそも不正競争防止法で保護される「営業秘密」ですが、

要件(不正競争防止法第2条4項)

1 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2 公然と知られていないこと(非公知性)
3 事業活動に有益な技術または営業上の情報であること(有用性)


の各要件を具備する必要があります。
(なお、判例上脱税情報など反社会的な行為についての情報は公序良俗に反し保護しないとされています。)

こうした「営業秘密」について以下のような一定の行為(「不正競争」)があった場合が規制の対象となります(不正競争防止法第2条1項4号乃至9号)。

不正競争行為(一例)

4号 不正取得情報の開示
5号 開示された不正取得情報の悪意取得後開示
6号 開示された不正取得情報の善意取得後知情開示
7号 加害目的開示
8号 加害目的開示情報の悪意取得後開示
9号 加害目的開示情報の善意取得後知情開示


効果(不正競争防止法第3条、第4条、第7条)

1 差止請求
2 損害賠償
3 信用回復措置



通常でしたら不具合商品不当修理の情報は「営業秘密」には当たらず(有用性あるいは秘密管理性の要件を欠く)、かりに「営業秘密」に該当するとしても「加害目的」(不正競争防止法第2条1項7号)を欠くとして、ネットでのクレーム内容の開示行為について不正競争防止法の適用を考えるのは困難です。

とはいえ、悪質クレーマーの対処が企業にとって今日的な課題であることも事実ですから、信用毀損、名誉毀損などについての民事、刑事のほか諸法令の適用の余地を常日頃から考えておくことは企業にとって重要であることは間違いありません。

なお、株主が会社の不正を正すために取得した取締役会議事録をネット上で公開した点が不正競争防止法違反に当たるかどうか争点の一つとなったいわゆるダスキンオンブズマン事件について、

H17. 3.17 大阪地裁 平成16(ワ)6804 著作権 民事訴訟事件参照。

結論的には秘密管理性の要件を欠き違反はないと判断しました。



ところで、「不正競争防止法」絡みでブログ検索をすると掲示板「2ちゃんねる」にかかわる記事がありました。

視聴率調査会社代理人弁護士が掲示板「2ちゃんねる」管理人に対して不正競争防止法を根拠に掲示板への書き込みの削除を要請しているというものです。
掲示板への書き込み行為が不正競争防止法第2条1項4号不正取得情報開示行為、7号加害目的開示行為などにあたり、管理人の管理行為がこれらとともに9号情報取得後知情開示行為などにもあたるという内容。

営業秘密(不正競争防止法第2条4項)の内容が分からないのでなんともいえませんが、営業秘密の要件を充足する可能性がある企業の情報をネットに掲示する際は掲載者はこうした警告を受けるリスクを負担することになります。

不正競争防止法については、経済産業省知的財産政策室編著「逐条解説 不正競争防止法〈平成15年改正版〉」(2003)29頁以下、寒河江孝允編著「不正競争の法律相談」(2005.7)102頁以下参照。


情報ネットワーク関連判例については、弁護士の岡村久道先生のこちらのサイトを参照。

岡村久道「わが国における情報ネットワーク関連判例の動向」



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