戦時中の朝鮮半島にいた日本人たちを描いた著作を巡る紛争について、知財判決速報に判決が掲載されています。
H17.7.1 東京地裁 平成16(ワ)12242 著作権 民事訴訟事件
原告は韓半島にあった小学校の卒業生たち。卒業生たちは戦後になって小学校記念文集を編集しましたが、その文集が朝鮮近代史等研究者である大学教授の著作(岩波新書刊)において引用されました。その引用のされ方、文集への論評が問題となりました。
事案を簡単に言いますと、原告らは文集を当時を懐かしむ、戦争の悲惨さを後世に残す、異文化への敬愛というコンセプトで編集したつもりでしたが、被告の大学教授は植民地支配における「草の根の侵略」の代表例として引用・論評しており、このことが原告らの感情を害することになったというものです。
請求内容としては、販売差止、損害賠償、謝罪広告の掲載。
結論的には、請求棄却。原告の敗訴となりました。
論点の一つに編集にかかわった人が、個々の記述の引用の当否について編集著作権を理由として主張することができるかというものがありました。
この点判例は、
「編集著作物は,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものをいい(著作権法12条1項),編集著作物の著作者の権利は,当該編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(同条2項)。同条は,既存の著作物を編集して完成させたにすぎない場合でも,素材の選択方法や配列方法に創作性が見られる場合には,かかる編集を行った者に編集物を構成する個々の著作物の著作権者の権利とは独立して著作権法上の保護を与えようとする趣旨に出たものである。
そうすると,編集著作物の著作者の権利が及ぶのは,あくまで編集著作物として利用された場合に限るのであって,編集物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合には,編集著作物の著作者の権利はこれに及ばないと解すべきである。
この点につき,原告らは,編集著作物を構成する個々の著作物が編集著作物の著作者の特定の思想,目的に反して第三者に利用された場合に,上記著作者が何らの手立てを取ることもできないのは不当であるなどと主張する。しかし,編集著作物はその素材の選択又は配列の創作性ゆえに著作物と認められるものであり,その著作権は著作物を一定のまとまりとして利用する場合に機能する権利にすぎず,個々の著作物の利用について問題が生じた場合には,個々の著作物の権利者が権利行使をすれば足りる。また,編集物の一部分を構成する個々の著作物の利用に際しても編集著作物の著作者の権利行使を許したのでは,個々の著作物の著作者の権利を制限することにもなりかねず,著作権法12条2項の趣旨に反することになるといわざるを得ない。」
と、判示しました。
著作権を根拠とする主張は、本事案では理論的に難しいところがあるように思われます。
被告著作における記述が原告らの名誉を毀損するかどうか、また名誉感情を侵害するかどうかという民法上の不法行為の成否が主たる争点となるわけですが、この点も判決において認められませんでした。
H17.7.1 東京地裁 平成16(ワ)12242 著作権 民事訴訟事件
原告は韓半島にあった小学校の卒業生たち。卒業生たちは戦後になって小学校記念文集を編集しましたが、その文集が朝鮮近代史等研究者である大学教授の著作(岩波新書刊)において引用されました。その引用のされ方、文集への論評が問題となりました。
事案を簡単に言いますと、原告らは文集を当時を懐かしむ、戦争の悲惨さを後世に残す、異文化への敬愛というコンセプトで編集したつもりでしたが、被告の大学教授は植民地支配における「草の根の侵略」の代表例として引用・論評しており、このことが原告らの感情を害することになったというものです。
請求内容としては、販売差止、損害賠償、謝罪広告の掲載。
結論的には、請求棄却。原告の敗訴となりました。
論点の一つに編集にかかわった人が、個々の記述の引用の当否について編集著作権を理由として主張することができるかというものがありました。
この点判例は、
「編集著作物は,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものをいい(著作権法12条1項),編集著作物の著作者の権利は,当該編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(同条2項)。同条は,既存の著作物を編集して完成させたにすぎない場合でも,素材の選択方法や配列方法に創作性が見られる場合には,かかる編集を行った者に編集物を構成する個々の著作物の著作権者の権利とは独立して著作権法上の保護を与えようとする趣旨に出たものである。
そうすると,編集著作物の著作者の権利が及ぶのは,あくまで編集著作物として利用された場合に限るのであって,編集物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合には,編集著作物の著作者の権利はこれに及ばないと解すべきである。
この点につき,原告らは,編集著作物を構成する個々の著作物が編集著作物の著作者の特定の思想,目的に反して第三者に利用された場合に,上記著作者が何らの手立てを取ることもできないのは不当であるなどと主張する。しかし,編集著作物はその素材の選択又は配列の創作性ゆえに著作物と認められるものであり,その著作権は著作物を一定のまとまりとして利用する場合に機能する権利にすぎず,個々の著作物の利用について問題が生じた場合には,個々の著作物の権利者が権利行使をすれば足りる。また,編集物の一部分を構成する個々の著作物の利用に際しても編集著作物の著作者の権利行使を許したのでは,個々の著作物の著作者の権利を制限することにもなりかねず,著作権法12条2項の趣旨に反することになるといわざるを得ない。」
と、判示しました。
著作権を根拠とする主張は、本事案では理論的に難しいところがあるように思われます。
被告著作における記述が原告らの名誉を毀損するかどうか、また名誉感情を侵害するかどうかという民法上の不法行為の成否が主たる争点となるわけですが、この点も判決において認められませんでした。
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