土佐清水市に建立されているジョン万次郎銅像と、銀行頭取の銅像の創作者を巡る事件の判決が知財判決速報に掲載されています。
H17.6.23 東京地裁 平成15(ワ)13385 著作権 民事訴訟事件
原告は銅像の台座などに表示されている製作者の氏名が被告の通称名であることから、著作者人格権(氏名表示権)が自己に有することの確認等を求めました。
争点としては、
(1) 原告が本件各銅像について著作者人格権(氏名表示権)を有することの確認請求について確認の利益はあるのか。
(2) ジョン万次郎像の著作者は原告か被告のいずれか。
(3) 銀行頭取像の著作者は原告か被告のいずれか。
(4) 本件各銅像についての著作者名の通知訂正請求の可否
(5) 謝罪広告請求の適否
(6) 著作者人格権に基づく上記各請求について,消滅時効が成立しているか,あるいは,権利失効の原則が適用されるか。
というものでした。
結論としては、一部認容。確認の利益、当事者適格が原告にあるとした上で原告が各銅像の創作者であることが認められ、被告に対する関係者への訂正通知を内容とする請求も認められました(著作権法115条)。
もっとも、謝罪広告は認められませんでした。
原告被告ともに彫刻家で、各銅像の製作経緯にあたってはいずれも密接に係わっていて、また彫刻「業界」のしがらみ(師弟関係など)、金銭問題、身内の問題などもあって揉めに揉めてしまい30年を経てついには訴訟となってしまった事案です。
1 今回の判決では、ブロンズ像製作における創作者の認定について言及しているところが参考になると思われます。
「著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,著作者とは,著作物を創作する者をいうのであるから(著作権法2条1項1号,2号),本件各銅像についても,本件各銅像を創作した者をその著作者と認めるべきである。
ジョン万次郎像は,ブロンズ像であり,ブロンズ像は,塑像の作成,石膏取り,鋳造という工程を経て製作されるものである。そして,ブロンズ像の顔の表情,全体の構成,体格やポーズなどにおける表現が確定するのは塑像の段階であるから,塑像を制作した者,すなわち,塑像における創作的表現を行った者が当該銅像の著作者であることは明らかである。」
今回の銅像製作でもその完成までに多くの人がかかわっていて石膏取りや鋳造は別の人が担当していますが、創作者はあくまで塑像を製作した人であるということです。
ところで、原告と被告のどちらが創作者かという点の事実認定については、鑑定意見書が6名の彫刻家から6通提出されていてそれが裁判所の創作者認定に当たってきわめて重要な判断材料となったものと思われます。
裁判所が採用した鑑定書では、ジョン万次郎像と銀行頭取像の各銅像には顕著な彫刻的同一性があること、原告、被告の過去の作品の作風との対比などから本件各銅像が原告の創作によるものであるとされていました。
2 また、著作権法115条の「適当な措置」として通知請求する点についての裁判所の判断も実務上参考になると思われます。
『原告は,著作権法115条に基づき,被告が,本件各銅像の所有者等である土佐清水市及び駿河銀行に対し,別紙「通知目録(3)」及び同「通知目録(4)」の内容に記載のとおり,本件各銅像について,その制作者が被告ではなく原告であるとの通知をすること,及び,その制作者として原告の氏名を表示することを申し入れをすること(以下「本件通知請求」という。)を求めている。
前記認定の事実によれば,本件各銅像の所有者等は,本件各銅像の著作者は被告であると認識しているはずである。しかし,本件各銅像の著作者は,前記認定のとおり,原告である。このことと前記に認定した本件の経緯を考慮すれば,原告は,著作権法115条の「著作者・・・であることを確保・・・するために適当な措置」として,本件各銅像にその制作者であると表示されている被告に対し,本件各銅像の所有者等宛に,本件各銅像の著作者が原告であることを通知させることを請求することができるというべきである。すなわち,このような通知は,本件においては,原告が本件各銅像の著作者であることを確保し,原告と本件各銅像の所有者との紛争を未然に防止することにもつながることであり,同条にいう「適当な措置」に当たると認められる。』
3 消滅時効の成否あるいは権利失効原則の適否について、判例は氏名表示権(19条)には真実に即した著作者氏名を表示するという公益上の要請があること等を理由として被告の主張を認めませんでした。
ところで、今回の裁判のことを知人の彫刻家に話してみました。
「なんで原告はサインを入れなかったのか?」
「原告はエスキースをどうして作らなかったのか??」
「30年も経ってから名前を消すことにどうしてそんなにこだわるのか???」
と疑問だらけのようでした。
なかなか事案の細かい経緯や原告の主張を説明しきれなかったので、裁判例を読んで感想を聞かせてくれるよう勧めてみましたが、「判旨は小さいフォントでプリントしてもA4判で18ページあるけどね」と言ったら、読むのを嫌がってました(笑)。
彫刻では粘土のような可塑材を使う場合と木材のような実材を使う場合があって、今回のようなブロンズ像の製作では、粘土→石膏→ロウ→ブロンズと4種の素材に変化するからそれだけ手を加える人の人数が増える可能性がある、ということが現場の人間の話を聞いてよくわかりました。
H17.6.23 東京地裁 平成15(ワ)13385 著作権 民事訴訟事件
原告は銅像の台座などに表示されている製作者の氏名が被告の通称名であることから、著作者人格権(氏名表示権)が自己に有することの確認等を求めました。
争点としては、
(1) 原告が本件各銅像について著作者人格権(氏名表示権)を有することの確認請求について確認の利益はあるのか。
(2) ジョン万次郎像の著作者は原告か被告のいずれか。
(3) 銀行頭取像の著作者は原告か被告のいずれか。
(4) 本件各銅像についての著作者名の通知訂正請求の可否
(5) 謝罪広告請求の適否
(6) 著作者人格権に基づく上記各請求について,消滅時効が成立しているか,あるいは,権利失効の原則が適用されるか。
というものでした。
結論としては、一部認容。確認の利益、当事者適格が原告にあるとした上で原告が各銅像の創作者であることが認められ、被告に対する関係者への訂正通知を内容とする請求も認められました(著作権法115条)。
もっとも、謝罪広告は認められませんでした。
原告被告ともに彫刻家で、各銅像の製作経緯にあたってはいずれも密接に係わっていて、また彫刻「業界」のしがらみ(師弟関係など)、金銭問題、身内の問題などもあって揉めに揉めてしまい30年を経てついには訴訟となってしまった事案です。
1 今回の判決では、ブロンズ像製作における創作者の認定について言及しているところが参考になると思われます。
「著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,著作者とは,著作物を創作する者をいうのであるから(著作権法2条1項1号,2号),本件各銅像についても,本件各銅像を創作した者をその著作者と認めるべきである。
ジョン万次郎像は,ブロンズ像であり,ブロンズ像は,塑像の作成,石膏取り,鋳造という工程を経て製作されるものである。そして,ブロンズ像の顔の表情,全体の構成,体格やポーズなどにおける表現が確定するのは塑像の段階であるから,塑像を制作した者,すなわち,塑像における創作的表現を行った者が当該銅像の著作者であることは明らかである。」
今回の銅像製作でもその完成までに多くの人がかかわっていて石膏取りや鋳造は別の人が担当していますが、創作者はあくまで塑像を製作した人であるということです。
ところで、原告と被告のどちらが創作者かという点の事実認定については、鑑定意見書が6名の彫刻家から6通提出されていてそれが裁判所の創作者認定に当たってきわめて重要な判断材料となったものと思われます。
裁判所が採用した鑑定書では、ジョン万次郎像と銀行頭取像の各銅像には顕著な彫刻的同一性があること、原告、被告の過去の作品の作風との対比などから本件各銅像が原告の創作によるものであるとされていました。
2 また、著作権法115条の「適当な措置」として通知請求する点についての裁判所の判断も実務上参考になると思われます。
『原告は,著作権法115条に基づき,被告が,本件各銅像の所有者等である土佐清水市及び駿河銀行に対し,別紙「通知目録(3)」及び同「通知目録(4)」の内容に記載のとおり,本件各銅像について,その制作者が被告ではなく原告であるとの通知をすること,及び,その制作者として原告の氏名を表示することを申し入れをすること(以下「本件通知請求」という。)を求めている。
前記認定の事実によれば,本件各銅像の所有者等は,本件各銅像の著作者は被告であると認識しているはずである。しかし,本件各銅像の著作者は,前記認定のとおり,原告である。このことと前記に認定した本件の経緯を考慮すれば,原告は,著作権法115条の「著作者・・・であることを確保・・・するために適当な措置」として,本件各銅像にその制作者であると表示されている被告に対し,本件各銅像の所有者等宛に,本件各銅像の著作者が原告であることを通知させることを請求することができるというべきである。すなわち,このような通知は,本件においては,原告が本件各銅像の著作者であることを確保し,原告と本件各銅像の所有者との紛争を未然に防止することにもつながることであり,同条にいう「適当な措置」に当たると認められる。』
3 消滅時効の成否あるいは権利失効原則の適否について、判例は氏名表示権(19条)には真実に即した著作者氏名を表示するという公益上の要請があること等を理由として被告の主張を認めませんでした。
ところで、今回の裁判のことを知人の彫刻家に話してみました。
「なんで原告はサインを入れなかったのか?」
「原告はエスキースをどうして作らなかったのか??」
「30年も経ってから名前を消すことにどうしてそんなにこだわるのか???」
と疑問だらけのようでした。
なかなか事案の細かい経緯や原告の主張を説明しきれなかったので、裁判例を読んで感想を聞かせてくれるよう勧めてみましたが、「判旨は小さいフォントでプリントしてもA4判で18ページあるけどね」と言ったら、読むのを嫌がってました(笑)。
彫刻では粘土のような可塑材を使う場合と木材のような実材を使う場合があって、今回のようなブロンズ像の製作では、粘土→石膏→ロウ→ブロンズと4種の素材に変化するからそれだけ手を加える人の人数が増える可能性がある、ということが現場の人間の話を聞いてよくわかりました。
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