氷室京介さんのライブを隠し撮りした映像CD-R、DVDをネットオークションで販売したとして著作権法違反で逮捕者が出たそうです。

記事によると著作隣接権侵害を理由とするもののようですから、実演家としての権利である録音権録画権著作権法91条)侵害が根拠となるのでしょう。
直接の容疑は6万円余の販売分ですが、どうやら被疑者らは数年にわたり2000万円を売り上げていたようです。

記事


今回の事件とは話が逸れてしまいますが、隠し撮りと著作権法の関係について。

ライブ会場では、一般に主催者により録音や録画、写真撮影が禁止されています。実演家らのパブリシティ権著作権(著作隣接権)保護が主な理由です。
もっとも、仮に隠し撮りして録画したとしても、それが販売などではなくて自宅で自分だけで楽しむ目的のものである限り著作権法上は私的使用目的複製として適法であると考えられます(30条、102条第1項)。

同様に、書店でのカメラ付携帯電話での書籍内容の情報盗用や映画館での上映画面の盗撮行為なども私的使用目的複製である限りは著作権法上は適法であると考えます。(なお、複製物の目的外使用については49条により複製権侵害となります。)

この点、30条ベルヌ条約第9条2項そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする」に根拠があること、また法第1条の「文化的所産の公正な利用に留意しつつ」という立法趣旨からすれば、たとえ私的使用目的であっても「隠し撮り」という行為態様による複製は30条で権利制限される場合であるとはいえない(著作権侵害となる)と解釈する余地があるようにも考えられます。

しかしながら、講学上の議論になってしまいますが、現行規定のままで複製行為態様まで問題にするとなれば逆に「隠し撮り」ではなくて、堂々と三脚を立てて撮影すればいいのか、ということも問題となりそうです。
肖像権の問題やコンサート鑑賞契約上の規約違反などはもちろん別です。契約上あるいは会場施設管理権限(所有権)から撮影行為を制限することは可能です。)

また、刑罰権発動の契機となる著作権侵害というものを考えた場合、違法性阻却事由としての本条の機能を勘案すると直ちに上記解釈論を採用することに躊躇を感じないわけではありません。

さらに、平成11年改正では技術的保護手段回避を伴う複製については私的使用であっても認めない旨の規定が置かれました(30条1項2号新設)。
WIPO著作権条約11条を受けての新設ですが、30条適用除外場面の明確化のための法改正といえます。

したがって、現行規定の解釈としてはあくまで適法であると考えるべきではないでしょうか。契約上あるいは施設管理権を根拠とした盗撮制限による対応が現状では求められることになります。

なお、アメリカでは4月下旬、映画館での上映画面の盗撮行為が犯罪となる法律が成立しました(「Family Entertainment and Copyright Act」)。
著作物の盗撮行為自体の刑罰による取締りについて、今後の日本の立法動向が注目されるところです。


著作物の盗撮とその取締りに関して、映画館での隠し撮りの議論ですが文化審議会著作権分科会(第15回)議事録参照。

文化審議会著作権分科会(第15回)議事録

30条の制定経緯について、平成3年文化庁第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書参照。