知財判決速報に掲載された事件で、すでにネット記事にも掲載されていたのでご存知の方も多いと思います(H17. 5.17 東京地裁判決)。

事案は、弁護士執筆の複数の書籍にそれぞれ類似した内容・体裁の書籍が別の出版社、執筆者(税理士ら)から出版されたもので、原告は複製権・翻案権侵害、著作者人格権侵害を理由として販売等の差止、損害賠償、謝罪広告掲載を請求しました。

結論としては、複製権侵害・著作者人格権侵害を認め差止、損害賠償などに関し一部認容。謝罪広告は認めませんでした。

争点としては「執筆者は誰なのか」「依拠性」「法律問題の表現の著作物性」「監修者の責任」「謝罪広告の要否」などがありました。


この事案での特徴は、法律問題を扱う法律書籍における創作性の幅表現上の制約の程度というものが問題となったところでしょう。

この点、判例は
ある法律問題について,関連する法令の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのゆえに,これらの事項について,条文の順序にとらわれず,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,法令の内容等を法令の規定の順序に従い,簡潔に要約し,法令の文言又は一般の法律書等に記載されているような,それを説明する上で普通に用いられる法律用語の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。」としています。


後発の一般向け法律書籍の出版では通常既刊本を参考にするところです。取扱う対象によってはどうしても似通った表現にならざるを得ない場合がありますが、そこは創意工夫、執筆者・編集者もその点に十分留意して本作りをしなければならないところです。

H17.5.17 東京地裁 平成15(ワ)12551等 著作権 民事訴訟事件