著作権は権利の束、本体的な複製権をはじめとして上演権・演奏権・上映権・公衆送信権・口述権・・・と支分権の束で構成されています。

著作権も財産的な権利ですからその側面の権利については自由に譲渡(売買・贈与・遺贈など)することができます。ここにあげた支分権の一部分であっても、全部であっても可能です(著作権法61条1項)。

ところで、普通の権利でしたら「全部譲渡する」と契約書に書けばそれで権利は全部移転します。ところが、著作権では多少扱いが異なります。

著作権法61条2項では著作物を変形したり脚色したりと手を加える権利(翻案権)と二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利の二つについては、契約書に

「この二つの権利も移転する」

旨特に記載しなければこれらの権利については原権利者に留保されたものと「推定」されてしまいます(特掲事項の記載)。

翻案権と二次的著作物利用に関する権利については原著作物と異なる新たな著作物の利用による経済的利益をその権利者が得る可能性があります。そこで全部譲渡の場合であってもこの点についての契約当事者の意思を明確にさせるため特に記載を要求したというのが法の趣旨です(「明解になる著作権201答」吉田大輔2001年249頁参照)。

先日知財判決速報にこの点もかかわる事案が掲載されていました。
事案はプログラム開発にかかわる取引で翻案権の譲渡があったかどうか等が争われたものです。契約書に特掲事項の記載はありませんでしたが、判決は証拠等から翻案権を含めた全部譲渡があったことを認めています。

この事案では特掲事項の記載があれば紛争が未然に防げたとは必ずしもいえないようです。しかし特掲事項記載の重要性が改めて認識させられます。少なくとも特掲事項不掲載となると翻案権も含めて著作権の譲渡を受けた旨主張する側が立証しなければならないからです(立証責任の負担)。

著作権全部譲渡契約書作成の際には常に気をつけたい部分です。

H17. 3.23 東京地裁 平成16(ワ)16747 著作権 民事訴訟事件


明解になる著作権201答