知財判決速報2017

2017年03月27日

「柴田是真 下絵・写生集」書籍印刷用データ流用事件−損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「柴田是真 下絵・写生集」書籍印刷用データ流用事件

大阪地裁平成29.1.12平成27(ワ)718損害賠償等請求事件PDF
別紙

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    田原美奈子
裁判官    林啓治郎

*裁判所サイト公表 2017.3.21
*キーワード:所有権、無体物、データ、黙示の合意、信義則

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■事案

印刷会社保有の書籍印刷用データの無断流用が債務不履行などに該当するかどうかが争点となった事案

原告:出版社
被告:印刷会社、出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法85条、著作権法32条1項

1 被告ニューカラー写真印刷が本件絵画データを使用したか
2 原告が本件印刷用データを所有しているか
3 原告と被告ニューカラー写真印刷が原告書籍の出版の際本件合意をしたか
4 原告は本件写真データの使用を許諾したか
5 本件写真データの使用について著作権法32条1項が類推適用されるか
6 損害額又は本件印刷用データの使用料
7 不法行為責任の成否
8 被告光村推古書院の本件合意違反による不法行為責任の成否

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■事案の概要

『原告は,被告らが,原告が「柴田是真 下絵・写生集」との題名の書籍(以下「原告書籍」という。)を出版した際に製作された印刷用のデータ(以下「本件印刷用データ」という。ただし,その具体的な内容は,当事者間に争いがある。)を使用して,「柴田是真の植物図」との題名の書籍(以下「被告書籍」という。)を印刷・製本し,出版したと主張して,被告らに対し,以下の請求をした。(以下、略)』(2頁以下)

<経緯>

H16.08 原告と東京芸大美術館が刊行申合せ
H17.02 原告被告ニューカラー間見積書(962万1200円)
       原告が被告ニューカラーに840万円支払
H25.07 被告光村推古書院と東京芸大美術館が被告書籍合意
H25.08 被告光村推古書院が東京芸大美術館に62万6850円支払
       被告光村推古書院が被告ニューカラーに252万円支払
H27.12 原告が日本書籍出版協会会員420社へ照会実施

原告書籍:「柴田是真 下絵・写生集」(平成17年4月11日初版発行)
被告書籍:「柴田是真の植物図」(平成25年9月20日初版発行)

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■判決内容

<争点>

1 被告ニューカラー写真印刷が本件絵画データを使用したか

本件絵画データは、原告書籍の出版の際に原告が東京芸大美術館の許可を得て撮影・製作させた柴田是真の絵画のリバーサルフィルム(反転フィルム。現像の過程において露光・第一現像後、反転現像によってポジ画像(陽画)を得る構造を持つ写真フィルム)に基づいて被告ニューカラー写真印刷が製作当初から印刷に至る最終過程までの間に製作したすべての印刷用データでした。

裁判所は、
(1)被告光村推古書院は被告書籍を発行するに当たって東京芸大美術館から原板使用許可を受けて62万6850円を支払っている
(2)東京芸大美術館は原板使用許可の際には画像データを送付しており、被告光村推古書院に対しても写真原板ではなく画像データを送付したものと考えられ本件の提訴後に原告が東京芸大美術館から送付を受けた画像データはRGBデータであったことからすると、被告光村推古書院が送付を受けた画像データはRGBデータであったと推認される
(3)RGBデータをCMYKデータに変換して被告書籍の掲載形態とすることは可能である
(4)原告書籍と被告書籍の間には掲載した絵画や掲載形態に相違があることが認められる

といった点から、被告ニューカラー写真印刷は、東京芸大美術館から送付を受けた画像データを用いて被告書籍を制作した可能性があると認定。
結論として、被告ニューカラー写真印刷が被告書籍の出版に当たって、本件絵画データを使用したと認めることはできないと判断。本件の被告ニューカラー写真印刷に対する原告の各請求を認めていません(20頁以下)。

次に、宮内庁所蔵に係る明治宮殿「千種の間」の室内写真2葉(本件写真)のデータについて、被告ニューカラー写真印刷が被告書籍の出版の際に本件写真データ(本件印刷用データのうち、本件写真に係るデータ)を使用したことは当事者間に争いがないため、以下、本件写真データの使用との関係で原告の被告ニューカラー写真印刷に対する各請求が検討されています。

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2 原告が本件印刷用データを所有しているか

原告が本件印刷用データを所有しているかどうかについて、裁判所は、被告ニューカラー写真印刷は、本件印刷用データが保存された記録媒体を所持しているところ、民法上の所有権の客体である「物」は「有体物」に限定されており(民法85条)、本件印刷用データそれ自体はデジタル化された情報であって無体物であるため所有権の客体たり得ず、原告が同データを所有する旨の原告の主張は採用することができないと判断しています(27頁以下)。

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3 原告と被告ニューカラー写真印刷が原告書籍の出版の際本件合意をしたか

原告は、原告書籍の出版の際に被告ニューカラー写真印刷との間で本件印刷用データを原告以外の出版社の出版物の印刷・製本に使用する場合は原告の許諾を得た上で当該出版社が原告に使用料を支払うこととする旨の合意が成立している旨主張しました(28頁以下)。

この点について、裁判所は、原告書籍の出版の際に原告は被告ニューカラー写真印刷に対して原告書籍の印刷・製本の対価を支払っており、その前提として原告と被告ニューカラー写真印刷は契約書は作成していないものの、原告書籍に関する印刷・製本契約を締結したと認定。
原告書籍の印刷・製本契約における本件合意の有無については、日本書籍出版協会会員などへのアンケート調査結果などから、一般に、印刷・製本契約を締結した出版社と印刷業者との間では印刷業者は出版社の許諾を得ない限り、印刷用データの再利用をすることができないとの商慣行が存在していると認めるのが相当であると判断。
本件において、原告と被告ニューカラー写真印刷との間の原告書籍に関する印刷・製本契約において、上記の商慣行にのっとり、被告ニューカラー印刷は原告の許諾を得ない限り本件印刷用データの再利用をすることができないとの黙示の合意がされたと認めるのが相当であり、そうでないとしても被告ニューカラー印刷は印刷・製本契約に付随して原告の許諾を得ない限り本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を信義則上負うと解するのが相当であると判断しています。

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4 原告は本件写真データの使用を許諾したか

結論として、原告が本件写真データの使用を許諾したと認めることはできないと判断されています(35頁以下)。

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5 本件写真データの使用について著作権法32条1項が類推適用されるか

被告らは、原告書籍からの転載が宮内庁による許可の条件とされていたため、被告らは被告書籍に原告書籍からの転載である旨を明示したものであり、著作権法32条1項「引用」の類推適用により原告の許諾がなくとも本件写真データを使用できる旨主張しましたが、裁判所は、「本件写真データの使用につき原告の許諾を要するか否かは,被告書籍を出版する際に,原告書籍に掲載された本件写真を転載する方法に関わる事項であるにすぎず,本件写真を転載するに当たり,原告書籍のために作成された本件写真データを利用する内容上の必要性があるというわけではないから,同項の類推適用の基礎を欠くというべきである」として、被告らの主張を認めていません(38頁以下)。

結論として、被告ニューカラー写真印刷は、原告に無断で本件写真データを使用したことにつき、原告に対して債務不履行による損害賠償責任を負う(予備的請求1)と判断されています。

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6 損害額又は本件印刷用データの使用料

原告は、原告書籍の出版の際に本件写真の撮影を株式会社エスエス東京に依頼して同社に6万9300円を支払っていたこと、また、原告は他社から原告が出版した書籍に掲載された写真3枚を紹介映像に使用したい旨の依頼を受けた際に1枚当たり3万円(税別)の使用料の支払を条件として使用を許可していました。
こうした点から、裁判所は、原告は被告ニューカラー写真印刷に本件写真データの再利用を許諾する際には相当額の使用料を徴収していたと考えられ、その際の使用料相当額が被告ニューカラー写真印刷による債務不履行に係る損害額となると判断。
被告ニューカラー写真印刷について、本件写真データの使用料は写真1枚につき3万円と認めるのが相当であり、原告は2枚の写真から成る本件写真データの使用料相当額の損害を被っている損害額は6万円と認定しています(39頁以下)。

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7 不法行為責任の成否

被告ニューカラー写真印刷又は被告光村推古書院が、被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の慣習法上・条理上の義務又は不文律違反の不法行為責任を負うかについて、裁判所は、本争点は予備的請求2に係るものであるものの、仮に本争点について被告ニューカラー写真印刷の責任が認められるとしても、それによる損害額が争点6で認定した額を超えるとは認められないとして、本争点について検討するまでもなく、予備的請求1に係る後記認容額を超える部分に係る予備的請求2は理由がないと判断しています(40頁)。

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8 被告光村推古書院の本件合意違反による不法行為責任の成否

被告光村推古書院について、被告ニューカラー写真印刷による債務不履行に加担したことが原告が被告ニューカラー写真印刷に対して有する債権侵害としての不法行為を構成するかどうかについて、裁判所は、結論として不法行為の成立を肯定。本件写真データの使用料相当額として6万円を損害額(不真正連帯債務関係)として認定しています(40頁以下)。

結論としては、原告の請求の趣旨に鑑みて、各被告について3万円の損害賠償及びその遅延損害金の限度で認容されています。

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■コメント

原告書籍は、1800年代に活躍した江戸蒔絵を継承する蒔絵師、柴田是真の天井図下絵や写生帖から成る絵画を内容とするもので、絵画は東京藝術大学大学美術館が所蔵していました(書籍の価格は1万5000円)。
印刷用データの取扱いについて、原告側が印刷業者への詳細なアンケート調査を実施することで、印刷業者による印刷用データの無断流用(二次使用)が商慣習上認められていない点を裁判所に認めさせた部分は、近時の印刷業界におけるデータの権利関係に関する意識調査としてもたいへん参考になるかと思われます。
本件では、著作権の保護期間が切れている著作物が対象で著作権が中心の争点にはなりませんでしたが、無体物であるデータと所有権の関係、印刷用データの取扱いにおける契約上留意する点など(データ保存期間や流用禁止期間、契約期間なども併せて)について、示唆に富んだ事例といえます。


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■参考資料

東京都印刷工業組合「組合ガイド」(平成14年3月20日発行)
『「印刷版」・「印刷データ」の権利帰属』
PDF(ダウンロード)


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2017年03月21日

サプリ会員登録サイトHTML制作事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

サプリ会員登録サイトHTML制作事件(控訴審)

知財高裁平成29.3.14平成28(ネ)10102損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    古河謙一
裁判官    鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2017.3.15
*キーワード:サイト制作、HTML、創作性

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■事案

連鎖販売取引に関する通販管理システムのサイトのHTML部分の創作性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (1審原告):ソフト開発会社
被控訴人(1審被告):サプリ製造販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号

1 本件プログラムの著作物性及び著作者

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■事案の概要

『(1)本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人は,控訴人が被控訴人との契約(本件契約)に基づいて作成し,被控訴人に使用させていた通販管理システム(本件システム)を機能させるためのプログラム(本件プログラム)を,本件契約終了後に違法に複製し,本件プログラムの著作権(複製権)を侵害したとして,不法行為(民法709条)に基づき,本件契約終了日の翌日である平成25年11月1日から平成26年12月31日までの著作権法114条3項による損害の賠償等及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2)原判決は,本件プログラムに含まれるHTML(本件HTML)についても本件プログラムについても,控訴人の従業員が創作的表現を作成したと認めるに足りず,したがって,仮に本件HTMLや本件プログラムの一部に創作的表現が含まれるとしても,控訴人が本件HTMLや本件プログラムの著作者であるとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。
 控訴人は,原判決を不服として控訴した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件プログラムの著作物性及び著作者

プログラムの著作物性について、控訴審は、

『著作物性が認められるためには,創作性(著作権法2条1項1号)を要するところ,創作性は,表現に作者の個性が表れていることを指すものと解される。プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同条1項10号の2)であり,コンピュータに対する指令の組合せであるから,正確かつ論理的なものでなければならないとともに,著作権法の保護が及ばないプログラム言語,規約及び解法(同法10条3項)の制約を受ける。そうすると,プログラムの作成者の個性は,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,指令の表現をどのように組み合わせるか,どのような表現順序とするかなどといったところに表れることとなる。したがって,プログラムの著作物性が認められるためには,指令の表現自体,同表現の組合せ,同表現の順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するということができる。プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地がなくなり,著作物性は認められなくなる。
 前記1のとおり,本件HTMLは,被控訴人が決定した内容を,被控訴人が指示した文字の大きさや配列等の形式に従って表現するものであり,そもそも,表現の選択の幅は著しく狭いものということができる。』(15頁)

と説示した上で、本件HTML及び本件プログラムの著作物性を検討しています。

(1)本件HTMLの著作物性について

控訴人においてAによる創作的表現と主張している部分について、控訴審は、いずれも作成者の個性が表れているということはできないと判断。
そして、本件HTMLにおいて、控訴人がAによる創作的表現である旨を主張している部分に著作物性が認められない以上、本件HTMLの著作物性は認められないと判断しています。

(2)本件プログラムの著作物性について

控訴人は、本件HTML以外、本件プログラムのどの部分に作成者の個性が表れているかを具体的に主張立証しておらず、本件PHPプログラムも含め本件プログラムの本件HTML以外の部分に著作物性を認めるに足りる証拠はないと判断。本件プログラムの著作物性を否定しています(25頁)。

結論として、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において正当と判断、控訴を棄却しています。

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■コメント

控訴審でも原審の結論を維持しています。

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■過去のブログ記事

2016年10月20日 原審記事

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2017年03月09日

綿麻刺繍アンサンブルデザイン事件−著作権 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

綿麻刺繍アンサンブルデザイン事件

大阪地裁平成29.1.19平成27(ワ)9648等不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官    田原美奈子
裁判官    大川潤子

*裁判所サイト公表 2017.03.06
*キーワード:形態模倣、応用美術、一般不法行為論

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■事案

婦人用被服のデザインの形態模倣性、著作権侵害性などが争点となった事案

原告:婦人用高級服飾品製造販売会社
被告:婦人服等製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項3号、著作権法2条1項1号、2条2項、民法709条

1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか
2 著作権侵害の成否
3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか
4 損害論

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■事案の概要

『本件のうち甲事件は,別紙原告商品目録記載1,同2の各商品(以下「原告商品1」,「原告商品2」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載1,同2の各商品(以下「被告商品1」,「被告商品2」という。)を製造販売する被告に対し,下記1,2の請求をした事案であり,乙事件は,別紙原告商品目録記載3の商品(以下「原告商品3」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載3の商品(以下「被告商品3」という。)を製造販売する被告に対し,下記3の請求をした事案である。
 記 (略)』(2頁以下)

<経緯>

H26 原告が原告商品1、2、3を販売
H27 被告が被告商品1、2、3を販売

原告商品1:丸首刺繍レース生地使用七部袖ブラウス
原告商品2:丸首オリジナル刺繍レース使いランニング
原告商品3:胸部リンゴモチ−フ付きボーダー柄長袖チュニックTシャツ

被告商品1:綿麻刺繍アンサンブルのうちのブラウス
被告商品2:綿麻刺繍アンサンブルのうちのランニングシャツ
被告商品3:半袖Tシャツ

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■判決内容

<争点>

1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか

(1)被告商品1

裁判所は、原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点、相違点を検討。

『両商品は,(1)丸首襟の形状をしていること,(2)前身頃のボタン部の左右部分に,縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること,(3)その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという,両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして,両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。』(16頁)

として、依拠性の点も含め、結論として被告商品1は原告商品1を模倣した商品と判断しています。

(2)被告商品2

裁判所は、原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点、相違点を検討。

『原告商品2と被告商品2の正面視した形態は,いずれもノースリーブであり,その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており,とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが,商品正面の目立つ場所に集中している,ネックラインの形状,前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方,さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。
 そして,これらの相違点は,ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており,およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから,両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても,被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず,両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。』(17頁以下)

として、模倣性を否定しています。

(3)被告商品3

裁判所は、原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点、相違点を検討。

『原告商品3と被告商品3は,(1)商品全体に黒色と白色の横縞が繰り返されているだけでなく,第1横縞部分,第2横縞部分,第3横縞部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点,(2)前身頃に類似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点,(3)そのりんご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態が共通しており,これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして,両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる』

として、被告商品3は原告商品3を模倣した商品であると判断しています(18頁以下)。

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2 著作権侵害の成否

原告は、原告商品2の花柄刺繍部分及び同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作物であり、被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるとして、著作権(複製権ないし翻案権)侵害が認められると主張しました(21頁以下)。

この点について、裁判所は、

『原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。』

とした上で、応用美術の意義について言及。そして、

『原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない』

『また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。』

としてデザインの著作物性(著作権法2条1項1号、2条2項)を否定。原告の主張を認めていません。

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3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか

一般不法行為論(民法709条)の肯否について、裁判所は、原告は、被告が原告商品2のデザインをコピーして酷似した商品を製造販売したことを主張するものの、不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないとして、原告の主張を認めていません(22頁以下)。

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4 損害論

(1)被告商品1の販売による損害(24頁以下)

原告の受ける利益額5834円×販売1232着=718万7488円(不正競争防止法5条1項)
弁護士費用相当額損害 71万円
合計789万7488円

(2)被告商品3の販売による損害

原告の受ける利益額6901円×販売389枚=268万4489円
弁護士費用相当額損害 26万円
合計294万4489円

結論として、被告商品1、同3の製造販売行為の差止め、これら商品の廃棄及び損害賠償として合計1084万1977円が認定されています。

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■コメント

別紙に商品画像が掲載されているため、どのような商品かよくわかります。
過去の婦人服デザインの裁判例としては、丸首ネック、4段フリル、ノースリーブ型カットソーの服飾デザインについて、商品を模倣したかどうかが争われた事案がありました(知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083、東京地裁平成17.3.30平成16(ワ)12793。)また、ノースリーブ型ワンピースについては、知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088、東京地裁平成17. 4.27平成16(ワ)12723参照。

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■参考判例

カットソー事件
知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083
ノースリーブワンピース事件
知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088
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2017年02月04日

雑誌「プレジデント」記事翻案事件(控訴審)−著作権 著作権侵害および名誉侵害行為に対する損害賠償控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

雑誌「プレジデント」記事翻案事件(控訴審)

知財高裁平成29.1.24平成28(ネ)10091著作権侵害および名誉侵害行為に対する損害賠償控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    片岡早苗
裁判官    古庄 研

*裁判所サイト公表 2017.1.27
*キーワード:翻案権、同一性保持権、名誉・声望権

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■事案

雑誌に掲載された記事を要約してウェブサイトに転用されたとして著作権侵害性などが争点となった事案の控訴審

控訴人 (1審原告):映画プロデューサー
被控訴人(1審被告):新聞社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、27条、113条6項

1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 名誉・声望権侵害の成否
4 社会的評価の低下の有無
5 真実性の抗弁ないし公正な論評の抗弁の成否


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■事案の概要

『本件は,控訴人記事(甲2)の著作者であり,著作権者である控訴人が,被控訴人が運営するウェブサイトに掲載された被控訴人記事(甲1)により,著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,名誉・声望権)を侵害され,名誉を毀損されたと主張して,被控訴人に対し,(1)著作権侵害,著作者人格権侵害ないし名誉毀損の不法行為に基づき,損害合計340万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成28年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)著作権法115条ないし民法723条に基づき,被控訴人のウェブサイトへの謝罪文の掲載を求めた事案である。
 原審は,(a)被控訴人各表現は,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,控訴人各表現と同一性を有するにすぎないから,控訴人各表現を翻案したものではない,(b)被控訴人記事は,控訴人記事を改変したものではないから,同一性保持権の侵害はない,(c)控訴人指摘の被控訴人記事中の表現部分は,被控訴人記事の著者の控訴人記事に対する意見ないし論評又は控訴人記事から受けた印象を記載したものにすぎず,控訴人又は控訴人記事を誹謗中傷するものとは認められないから,名誉・声望権の侵害はない,(d)被控訴人記事が控訴人の社会的評価を低下させる理由として控訴人が主張する点は,控訴人の社会的評価を低下させることの理由とはなり得ないし,被控訴人記事の記載が控訴人の社会的評価を低下させるものとも認められないから,名誉毀損は成立しないなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 控訴人が,これを不服として控訴した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 名誉・声望権侵害の成否
4 社会的評価の低下の有無
5 真実性の抗弁ないし公正な論評の抗弁の成否


控訴審での控訴人の補充主張について、控訴審は認めていません。
結論として、原審の判断が控訴審でも維持されています。

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■コメント

原審の判断が控訴審でも維持されています。
最高裁サイトに公表された平成29年判断の著作権判例として最初の判決となります。

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■過去のブログ記事

2016年09月15日 原審記事
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