知財判決速報2016

2016年03月16日

Yahoo!知恵袋投稿写真事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

Yahoo!知恵袋投稿写真事件

東京地裁平成28.3.4平成27(ワ)37302損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      広瀬 孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2016.3.14
*キーワード:擬制自白、写真、無断掲載、損害論

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■事案

創価学会池田名誉会長の肖像画像などが無断でネット掲示板に投稿されたことから掲載者に対して損害賠償を請求した事案

原告:宗教法人
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法20条、21条、23条、27条、114条3項

1 侵害論
2 損害論

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■事案の概要

『本件は,別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)の著作者であると主張する原告が,別紙投稿記事目録記載1ないし29の各記事(以下,同目録の番号に従って「被告記事1」などといい,各記事を併せて「被告各記事」という。)をインターネット上の電子掲示板に投稿した被告に対し,本件各記事に掲載された写真は,原告が本件写真について有する著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるとして,不法行為に基づく損害賠償として350万円及びこれに対する平成28年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H19.12 原告職員Bが本件写真を撮影

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■判決内容

<争点>

1 侵害論

被告は、電子掲示板「Yahoo!知恵袋」に原告の許諾を得ることなく29件の被告各記事を投稿していました。
被告記事1ないし14においては、本件写真の被写体の額に目を1個ないし3個書き入れたものを掲載し、被告記事19、22、23及び27においては、本件写真の被写体の目の周囲を茶色に塗り、頬の皺を赤く塗ったものを掲載し、被告記事21、25及び28においては、本件写真の被写体の顔の周囲を切り取ったものを掲載していました。
さらに、被告は、被告記事15ないし18、20、24,26及び29において、本件写真の複製を掲載していました。

被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかったことから、原告の主張する請求原因事実についてこれを自白したものとみなされ、被告は、被告各記事を作成して投稿したことにより原告の本件写真に係る著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと裁判所は認定しています(4頁以下)。

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2 損害論

(1)使用料相当額損害

一般的な写真の使用料金(1件1か月1万円)を参考に(29件×3か月=87万円)、また、名誉会長を揶揄する目的で本件写真を著作者である原告の制作意図に著しく反する態様で掲載したことなどを勘案して100万円が認定されています(5頁以下)。

なお、原告は、被告の行為について原告が受けるべき損害額は、通常の許諾の場合の約2倍に相当する額と考えるべきである旨主張しましたが、著作権法114条3項による賠償額があくまで填補賠償であることを考慮すれば、裏付けとなる事実が何ら提出されていない本件においては、損害額を通常の許諾の場合の2倍に相当する額と認定すべき根拠はないというべきであるとして、裁判所はこの点の原告の主張を認めていません。

(2)非財産的損害

著作者人格権(同一性保持権)侵害による原告の非財産的損害は50万円と認定されています。

(3)弁護士費用相当額損害

30万円が認定されています。   以上、合計180万円

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■コメント

昨年のプロバイダに対する発信者情報開示請求事件の案件となります。無断投稿者が特定されたものの、被告は裁判を無視していて損害賠償請求訴訟で擬制自白が成立しています。

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■過去のブログ記事

東京地裁平成27.4.27平成26(ワ)26974発信者情報開示請求事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/093/085093_hanrei.pdf
2015年05月22日記事
Yahoo!知恵袋投稿記事発信者情報開示事件
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2016年03月14日

萌酒ラベルイラスト契約事件−著作権 著作権侵害行為差止等請求事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

萌酒ラベルイラスト契約事件

東京地裁平成28.2.29平成25(ワ)28071等著作権侵害行為差止等請求事件等PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      天野研司

*裁判所サイト公表 2016.3.9
*キーワード:イラスト、譲渡契約、現状回復、信義則上の付随義務違反、相殺

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■事案

果実酒のラベルのイラストに関する著作権譲渡契約の成否などが争点となった事案

原告(反訴被告):イラストレーター
被告(反訴原告):インターネット通信販売事業社

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■結論

本訴一部認容、反訴棄却

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■争点

条文 民法415条、545条1項、著作権法112条

1 原告と被告との間に本件著作権譲渡契約が締結されたか
2 本件著作権譲渡契約について解除原因が認められるか
3 本件著作権譲渡契約の解除に伴う原告の金銭請求は認められるか
4 被告は本件特典クリアファイルの印刷代金相当額を法律上の原因なく利得しているか
5 本件各イラストの複製等の差止請求が認められるか
6 本件ウェブサイトに掲載されている本件各イラストの削除、本件各イラストの原画の返還、並びにその複製物及び原画のデータの廃棄請求が認められるか
7 原告と被告との間に本件基本合意が成立したか等
8 原告の不法行為

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■事案の概要

『(1)本訴請求は,イラストレーターである原告が,被告との間で締結したとする別紙イラスト目録各記載のイラスト(いずれも被告の依頼により原告が制作したもの。以下,同目録の番号に従い「本件イラスト1」などといい,本件イラスト1ないし同15の2を併せて「本件各イラスト」という。)の各著作権(以下「本件各著作権」という。)及び被告の依頼により原告が色紙に直接書いて被告に渡したイラスト(以下「特典色紙イラスト」といい,本件各イラストと併せて「本件イラスト」という。)の著作権(以下「本件各著作権」と併せて「本件著作権」という。)を原告が被告に有償で譲渡することなどを内容とする契約(以下「本件著作権譲渡契約」という。)を被告の債務不履行(本件著作権の譲渡の対価の不払)により解除した上で,被告に対し,(1)本件各著作権に基づく差止請求権(著作権法112条1項)を主張して,本件各イラストの複製,公衆送信,展示,譲渡及び翻案(以下「複製等」という。)の差止めを求め,(2)本件各著作権に基づく廃棄等請求権(同条2項)を主張して,インターネット上のウェブサイト「夢萌.com」ホームページ(URL:http:// 以下省略)(被告の管理に係るウェブサイト。以下「本件ウェブサイト」という。)に掲載されている本件各イラストの削除,被告の住所地又は営業所に存する被告所有の本件各イラストの原画の返還,並びにその複製物及び原画のデータの廃棄を求め,(3)本件著作権譲渡契約の債務不履行及び同契約の解除による損害賠償請求権(民法415条,545条3項)又は同解除に伴う原状回復請求権(民法545条1項)を主張して,損害賠償金又は使用利益相当額150万5000円及びこれに対する本訴請求に係る訴状(以下「本件訴状」という。)送達の日の翌日である平成25年11月9日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに(なお,上記損害賠償請求と使用利益請求とは選択的請求の関係にあると解される。),(4)被告が,本件イラスト13が印刷されたクリアファイル(以下「本件特典クリアファイル」という。)を取得し,本件特典クリアファイルの印刷のため原告が印刷業者に支払った印刷代金相当額を法律上の原因なく利得していると主張して,不当利得返還請求権(民法703条)に基づき,不当利得金3万2288円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成25年11月9日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『(2)反訴請求は,株式会社である被告が,原告に対し,(1)原告との間で共同事業に関する基本合意(以下「本件基本合意」という。)を締結していたところ,原告が本訴請求に係る訴えを提起して本件基本合意を一方的に破棄したことは,本件基本合意に付随する信義則上の義務に違反するものであると主張して,債務不履行による損害賠償請求権(民法415条)に基づき,損害賠償金179万5000円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成26年7月5日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)原告が,被告が小売店に販売した商品を販売しないよう同小売店に求めたことが被告に対する不法行為を構成すると主張して,同不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 なお,被告は,平成27年12月16日の本件第4回口頭弁論期日において,原告に対し,反訴請求に係る上記(2)の(1)及び(2)の各損害賠償請求権を自働債権とし,本訴請求に係る上記(1)の(3)及び(4)の各債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,本訴請求について相殺の抗弁を提出した(相殺の充当につき当事者の意思表示はされていないので,これが問題となるときは,民法512条により準用される同法489条及び491条の規定に従うことになる。)。これにより,反訴請求のうち,本訴請求の審理において反訴請求に係る上記各損害賠償請求権について相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合には,その限りにおいてその部分を反訴請求としない旨の予備的反訴に変更された(最高裁平成16年(受)第519号同18年4月14日第二小法廷判決・民集60巻4号1497頁参照)。』(2頁以下)

<経緯>

H24.12 原被告感で打ち合わせ。原告が本件各イラストを制作
H25.01 原告が本件イラスト1等を制作し、被告に交付
H25.02 被告が本件果実酒をウェブサイトで販売
H25.06 原告がクリアファイル制作
H25.09 原告が被告に支払通知書送付
H25.11 原告が本件著作権譲渡契約解除の意思表示
H26.01 本件果実酒の販売中止、店頭から撤去
H27.12 被告が本件第4回口頭弁論期日に相殺の抗弁

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■判決内容

<争点>

1 原告と被告との間に本件著作権譲渡契約が締結されたか

原告と被告との間に本件著作権譲渡契約が締結されたかどうかについて、裁判所は、原告と被告との間には、平成24年12月11日の本件打合せにおいて、原告が本件果実酒のラベル等に使用するためのイラストを制作し、その著作権を被告に有償で譲渡する旨の契約が成立したものと推認されるというべきであると判断。

もっとも、被告が、本件果実酒の販売促進のために制作するグッズ等に使用するイラストについてまでも、ラベルイラストと別個に著作権譲渡の対価を支払うべきものと認識していたかは疑わしく、当事者間の合理的意思としては、被告が原告に支払うべき対価は、イラスト1点ごとに幾らというのではなく、本件果実酒のシリーズ(温州みかん、こい梅、ぶどう、こいあんずの各シリーズ)1点ごとに、それぞれ少なくとも10万円を支払うべきものであったと推認されると判断。

原告と被告との間には、平成24年12月11日、原告が本件果実酒の包装や広告宣伝に使用するためのイラストを制作し、その著作権を、本件果実酒の1シリーズ(温州みかん、こい梅、ぶどう、こいあんずの各シリーズ)につき10万円で被告に譲渡する旨の合意が成立し、その後、原告が被告の依頼に応じて本件イラストを制作して、被告に提供し、被告が本件イラストを包装や広告宣伝に使用して飲料を販売するなどしたことから、上記合意に従って本件著作権を原告が被告に有償で譲渡する旨の本件著作権譲渡契約が成立したものと認めるのが相当であると判断しています(19頁以下)。

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2 本件著作権譲渡契約について解除原因が認められるか

被告は、原告の制作した本件イラストを用いて、本件果実酒を合計4シリーズ(温州みかん、こい梅、ぶどう、こいあんず)販売したと認められるから、被告は、本件著作権譲渡契約に基づき、原告に対し、40万円を支払う義務を負っていたところ、被告は、原告による本件イラストの対価の支払を求める平成25年9月24日付け通知書の受領を拒絶し、原告に対して金銭の支払を行っていないことから、被告には、本件著作権譲渡契約につき、債務不履行が認められると裁判所は判断。
結論として、原告が、催告の上、相当期間が経過した後に、本件訴状によってした本件著作権譲渡契約の解除の意思表示により、本件著作権譲渡契約は有効に解除されたと判断しています(21頁以下)。

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3 本件著作権譲渡契約の解除に伴う原告の金銭請求は認められるか

原告は、被告の債務不履行により、本件イラストの対価(本件著作権の譲渡対価)に相当する金額の損害を受けたと主張しました(22頁以下)。

この点について、裁判所は、本件著作権譲渡契約が解除されたことにより、原告は、本件著作権を復帰的に取得するに至ったものであって、これを行使しうる地位にある以上、原告が本件著作権の譲渡対価相当額の損害を受けたと直ちに認めることは困難であり、このことは、原告が本件イラストを本件果実酒の包装等に使用するためにオーダーメイドで制作したものであったとしても変わることはないと判断。

もっとも、被告は、本件著作権譲渡契約が解除されたことにより原状回復義務を負うところ(民法545条1項)、被告は、同義務の内容として、解除までの間、本件著作権を利用したことによる利益(本件著作権譲渡契約の目的の使用利益)を返還する必要がある(最高裁昭和49年(オ)第1152号同51年2月13日第二小法廷判決・民集30巻1号1頁参照)と説示。

被告は、原告に対し、本件果実酒の売上高の3パーセントに相当する額を支払う旨の契約を提案しているのであるから、少なくとも同3パーセントに相当する額については、本件著作権を利用することによる利益と認めるのが相当であると判断。

果実酒販売実績合計391本、売上高にして合計57万5100円の3パーセントに相当する1万7253円の損害額を認定しています。

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4 被告は本件特典クリアファイルの印刷代金相当額を法律上の原因なく利得しているか

原告は、平成25年6月頃、本件果実酒の販促グッズのうち、本件特典クリアファイルの印刷代金3万2288円を、被告に代わって立替払する趣旨で印刷業者に支払っているところ、本件特典クリアファイルは、被告が本件果実酒を販売するに際し、販売促進物として制作されたものと認められることから、その印刷代金は本来被告が支払うべきものと裁判所は認定。

被告は、本件特典クリアファイルの印刷代金相当額である3万2288円について、法律上の原因なく利得しており、これにより原告が損失を受けているものといえるとして、被告の原告に対する不当利得金3万2288円の支払義務を肯定しています(24頁)。

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5 本件各イラストの複製等の差止請求が認められるか

本件各イラストのうち、本件イラスト6の1、同6の2、同7の1、同7の2及び同13の複製物の譲渡を差し止める必要性が認められ、その限りにおいて理由があると裁判所は判断しています(25頁以下)。

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6 本件ウェブサイトに掲載されている本件各イラストの削除、本件各イラストの原画の返還、並びにその複製物及び原画のデータの廃棄請求が認められるか

本件ラベル及び本件特典クリアファイルを廃棄させる必要があるといえ、その限りにおいて理由があると裁判所は判断しています。

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7 原告と被告との間に本件基本合意が成立したか等

被告は、原告と被告との間に、原告がイラストを作成し、被告が同イラストを使用した飲料を販売して、その売上金額の3パーセントを原告に分配することを内容とする本件基本合意が成立していたことを前提に、原告は、本件基本合意に付随する信義則上の義務として、被告にとって不利な時期に本件基本合意を解消してはならない義務を負っていたと主張し、同義務違反による損害賠償請求権を自働債権とし、本件請求に係る各債権を受働債権として対当額で相殺する旨の相殺の抗弁を提出しました。

この点について、裁判所は、原告と被告との間に本件基本合意が成立したことを認めることはできないとして、同義務違反による損害賠償請求権の存在を前提とする相殺の抗弁は成り立たないと判断しています。

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8 原告の不法行為

被告は、原告が平成26年3月頃、ドンキホーテ秋葉原店において、同店の店員に対し、本件果実酒を店頭から撤去して販売しないよう求めたことが、被告に対する不法行為を構成するとして、同不法行為による損害賠償請求権を自働債権とし、本件請求に係る各債権を受働債権として対当額で相殺する旨の相殺の抗弁を提出しました(26頁)。

この点について、裁判所は、現に本件果実酒が量販店の店頭で販売されていることを発見した原告において、代理人弁護士を介することなくその場で販売の中止を同店に申し入れたとしても、なお被告に対する不法行為を構成するとまでは認め難いと判断。被告の抗弁を認めていません。

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■コメント

お酒と「萌え」で「萌酒サミット」というのも開催されているようです。
萌酒サミット2015ブース紹介
萌え系キャラクターをラベルに使用したり、瓶の意匠に凝ったりと、酒類メーカーも商品開発にあの手この手という印象です。

新規事業でだれがどれだけリスクを負うかという判断のなかで、ある程度のリスク分担内容は事前に詰めておかないと、ボタンの掛け違いが大きくなるということが良く分かる事案でした。

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■参考判例

最判昭和51年2月13日昭和49(オ)1152損害賠償請求事件

(裁判要旨)
売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法五六一条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならない。
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2016年03月11日

カタログ雑誌編集委託契約事件−損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

カタログ雑誌編集委託契約事件

東京地裁平成28.2.29平成26(ワ)25479損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      笹本哲朗
裁判官      天野研司

*裁判所サイト公表 2016.3.8
*キーワード:編集委託契約、継続的取引契約、黙示の合意

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■事案

カタログ雑誌の継続的な編集業務委託契約が黙示的に締結されていたかどうかが争点となった事案。

原告:編集者
被告:婦人服企画製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法641条

1 本件契約の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,株式会社である被告に対し,季刊誌『マダムトモコ』(以下「本件雑誌」という。)の編集,デザイン,レイアウト等に関する請負契約ないし継続的取引契約(以下「本件契約」という。)を平成26年2月21日に一方的に解除された旨主張して,民法641条などに基づく損害賠償請求として,270万7635円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年10月17日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁)

<経緯>

H20.07 原被告間で2008年秋号の編集等業務委託契約締結
H23.04 2011年母の日号を被告が原告に業務委託せずに制作
H25.11 被告が原告に年間計画書を交付
H26.01 原告が2014年春号の編集、デザイン等の業務実施
H26.02 被告が原告に取引終了を通告
H26  夏 2014年夏号を被告が原告に業務委託せずに制作
H26.09 原告が本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 本件契約の成否

原告は、被告が発行する雑誌について、平成20年7月に、以後の本件雑誌の編集等に関する包括的な請負契約ないし継続的取引契約として本件契約が成立し、平成25年11月の本件年間計画書の交付によって、本件契約が2014年冬号まで延長された、あるいは、平成25年11月に、2014年の本件雑誌の編集等に関する包括的な請負契約ないし継続的取引契約として本件契約が成立した旨主張しました(9頁以下)。

この点について、裁判所は、本件においては原被告間で本件雑誌の編集等業務の委託に関し契約書等による明示の意思表示がされなかったことは争いがないことから、本件契約が成立したといえるためには、これと同等の効果意思を内容とする黙示の意思表示の合致があったと認められることが必要になると説示。
その上で、原被告間での黙示の意思表示の合致の有無を検討しています。

(1)原被告間において平成20年7月の本件雑誌2008年秋号の業務委託の前後で本件雑誌の2008年冬号以降の編集等業務を原告に委託することについて話が交わされることすらなかった
(2)本件年間計画書はあくまでも単なる予定を記載したものであった
(3)平成20年7月以降も2011年母の日号のように現に原告に全く業務を委託せずに制作されたものが存在した。また、その際、原告は自己に業務委託されなかったことについて異議を述べなかった
(4)原告に委託される業務の具体的な内容及びこれに対する報酬額については各号ごとに決定されており、契約の要素である委託業務の具体的な内容やこれに応じた対価の金額は決まっていなかった

といった諸事情から、平成25年11月時点において、原告がそれまで5年以上にわたり被告との間で本件雑誌の編集等業務委託取引を継続してきた上で、本件年間計画書の交付を受けて平成26年の本件雑誌の制作に関するスケジュールの見通しを告げられたからといって、原告自身が当該取引の継続を事実上期待するようになっていたとはいえても、契約に必要な要素(具体的な業務内容等)に関する効果意思を内容とする黙示の意思表示の合致があったとは認めることができないと判断。

裁判所は、原被告間で平成25年11月までに原告の主張するような継続的ないし包括的な契約としての本件契約が成立したことを否定しています。

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■コメント

本件では、結論として、受注者側の発注への期待が、契約で保護される程度のものとまでは認められませんでした。

一般論ですが、数年に亘って雑誌や印刷物の編集業務を任されていて、発注側から年間計画を示されていたとしても、個々の作業の報酬は、都度協議で取り決められていて、また、1社独占受託業務でもなかった場合、仮に、基本取引契約が(黙示的にでも)締結されていたとしても、個別契約で都度、号の頁の分量や作業内容が確定するというものであれば、具体的な発注がない限り、個別発注を抽象的に期待してもそれを発注側が保証するわけにはいかない、また、手を動かしていないのに(先行して、受注者側で仕込んだものがあれば別段)どうして報酬を期待するのか、ということにもなります。
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2016年03月07日

「生命の實相」収録論文事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「生命の實相」収録論文事件(控訴審)

知財高裁平成28.2.24平成27(ネ)10062著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      柵木澄子
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.3.4
*キーワード:出版許諾、信頼関係破壊、出版権

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■事案

聖典「生命の實相」等に関連する出版許諾契約関係の解消にあたって信頼関係が破壊されているかどうかなどが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審被告):出版社
控訴人兼附帯被控訴人(1審被告):宗教法人
被控訴人兼附帯控訴人(1審原告):公益財団法人、出版社

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■結論

原判決一部変更、附帯控訴棄却

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■争点

条文 民法540条

1 本件著作物1の素材である論文の著作権の帰属
2 控訴人書籍の出版に関する許諾の終了
3 被控訴人事業団の損害額
4 控訴人経本に関する本件覚書に係る合意の終了

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■事案の概要

『1 本件は,(1)被控訴人事業団が,言語の著作物である「生命の實相」(本件著作物1)及び「聖経 甘露の法雨」(本件著作物2)につき,著作権を有するところ,控訴人教文社による原判決別紙書籍目録1記載の書籍(以下「控訴人書籍」という。)の出版及び控訴人生長の家による同目録2記載の経本(以下「控訴人経本」という。)の出版は,上記各著作物に係る被控訴人事業団の著作権(複製権,譲渡権)を侵害する旨主張して,(1)控訴人教文社に対し,本件著作物1の著作権に基づき,控訴人書籍の複製,頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄,(2)控訴人教文社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,(3)控訴人生長の家に対し,本件著作物2の著作権に基づき,控訴人経本の複製又は頒布の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被控訴人光明思想社が,本件著作物1及び2につき,出版権を有するところ,控訴人教文社による控訴人書籍の出版及び控訴人生長の家による控訴人経本の出版は,上記各著作物に係る被控訴人光明思想社の出版権を侵害する旨主張して,(1)控訴人教文社に対し,本件著作物1の出版権に基づき,控訴人書籍の複製の差止め,(2)控訴人教文社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,(3)控訴人生長の家に対し,本件著作物2の出版権に基づき,控訴人経本の複製の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『2 原判決は,(1)被控訴人事業団は,素材である論文の著作権を含む本件著作物1の著作権を取得したものと解されるところ,本件著作物1に含まれる論文を素材とし,これを選択及び配列した編集著作物である控訴人書籍に係る被控訴人事業団と控訴人教文社との間の著作物使用許諾契約(本件許諾)は,被控訴人事業団の解約により,平成26年7月24日終了したから,控訴人書籍の出版は,被控訴人事業団の本件著作物1に係る著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であり,また,昭和34年11月22日付け「聖経 甘露の法雨の複製承認に関する覚書」(本件覚書)に係る合意による本件著作物2の使用許諾は,被控訴人事業団の解約により,平成24年3月31日限り終了したから,控訴人経本の出版は,被控訴人事業団の本件著作物2に係る著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であるなどとして,被控訴人事業団の控訴人らに対する請求を,(1)控訴人教文社に対し,控訴人書籍の複製,頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄,(2)控訴人教文社に対し,20万円及びこれに対する平成26年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払,(3)控訴人生長の家に対し,控訴人経本の複製又は頒布の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,20万円及びこれに対する平成25年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余をいずれも棄却した。(2)また,被控訴人光明思想社が控訴人書籍に係る出版権を取得したとは認められないが,本件著作物2の出版権を有するところ,控訴人生長の家による控訴人経本の出版は,被控訴人光明思想社の出版権を侵害するなどとして,被控訴人光明思想社の請求を,(1)控訴人生長の家に対し,控訴人経本の複製の差止め,(2)控訴人生長の家に対し,20万円及びこれに対する平成25年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余の控訴人生長の家に対する請求及び控訴人教文社に対する請求をいずれも棄却した。』

『3 そこで,控訴人らが,原判決中の敗訴部分の取消しを求めて本件控訴を提起した。
 また,(1)被控訴人事業団が,控訴人生長の家を附帯被控訴人として附帯控訴して,控訴人生長の家に対する不法行為による損害賠償請求に係る部分について請求を拡張し,2281万2000円(著作権法114条3項に基づく損害額2031万2000円,弁護士費用相当額250万円の合計額)及びうち50万円に対する平成25年11月25日から,うち2231万2000円に対する平成27年7月11日(附帯控訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被控訴人光明思想社が,控訴人生長の家を附帯被控訴人として附帯控訴して,控訴人生長の家に対する不法行為による損害賠償請求に係る部分について請求を拡張し,5030万3560円(同条1項に基づく損害額4580万3560円,弁護士費用相当額450万円の合計額)及びうち50万円に対する平成25年11月25日から,うち4980万3560円に対する平成27年7月11日(附帯控訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件著作物1の素材である論文の著作権の帰属

原審同様、控訴審も被控訴人事業団が昭和21年1月8日以降、本件著作物1を構成する各論文の著作権を有しているものと判断しています(20頁以下)。

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2 控訴人書籍の出版に関する許諾の終了

原審同様、控訴審も控訴人書籍の出版に関する許諾は、被控訴人事業団の解約により平成26年7月24日終了し、控訴人教文社が控訴人書籍を複製、頒布をする行為は被控訴人事業団の本件著作物1の素材である論文に係る著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであると判断しています(26頁以下)。

また、控訴人教文社は、情を知って控訴人書籍の販売の申出をしているとして、この行為は著作権を侵害するものとみなされ(著作権法113条1項2号)、被控訴人事業団の控訴人教文社に対する控訴人書籍の複製、頒布及び販売の申出の差止め並びに廃棄請求は理由があると判断されています。

なお、一般財団法人世界聖典普及協会が控訴人書籍を保管しているとしても、これが控訴人教文社の所有及び占有に係るものと認めるに足りる証拠はないとして、一般財団法人世界聖典普及協会において保管する控訴人書籍の廃棄請求については、理由がないと判断されています。

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3 被控訴人事業団の損害額

控訴人教文社の不法行為について、原審同様、その不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と判断されています(31頁以下)。

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4 控訴人経本に関する本件覚書に係る合意の終了

原審の判断に反し、控訴審は、控訴人長の家が別件訴訟を提起したことは、著作権者である被控訴人事業団と同人から使用許諾を受けた控訴人生長の家との間の信頼関係に影響を与えるものであったといえるものの、本件覚書に係る合意を締結するに至る経緯、本件覚書の内容、本件覚書に係る合意に基づき控訴人生長の家が頒布するのは、肌守り用や霊牌用としてのものに限られ、被控訴人事業団はこれらとは別に本件著作物2を出版することが可能であり、実際にも従前は控訴人教文社との間で現在は被控訴人光明思想社との間で本件著作物2に係る出版使用許諾契約や出版契約を締結してきたこと等を総合考慮すると、被控訴人事業団と控訴人生長の家との間の信頼関係が破壊されたものということはできないと判断。

そうすると、被控訴人事業団が行った本件解約通知による解約には正当な理由があるということはできないとして、本件覚書に係る合意が解約により終了したということはできないと認定。

結論として、控訴人生長の家が控訴人経本を複製又は頒布する行為は、本件覚書に係る合意に基づくものであって、被控訴人事業団の本件著作物2に係る著作権(複製権、譲渡権)を侵害する行為ではないとして、被控訴人事業団の控訴人生長の家に対する請求を認めていません。

また、控訴人生長の家が控訴人経本を複製する行為も、同様に出版権を侵害する行為であるとはいえないことから、被控訴人光明思想社の控訴人生長の家に対する請求についても理由がないと判断されています(32頁以下)。

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■コメント

1審被告宗教法人に対する1審原告らの請求については、原審の判断が覆って合意の効力が維持されて出版について著作権侵害性否定の判断となりました。

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■過去のブログ記事

2015年04月06日
原審記事
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2016年03月03日

キッチン製品カタログ事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

キッチン製品カタログ事件

東京地裁平成28.2.16平成26(ワ)22603損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      藤原典子
裁判官      萩原孝基

*裁判所サイト公表 2016.2.29
*キーワード:製品カタログ、著作物性、編集著作物性、損害論

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■事案

バス、キッチン製品のカタログの無断流用が問題となった事案

原告:米国コーラー社製品日本正規代理店
被告:鉄鋼製造加工関連設備販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、12条1項、19条、20条、21条、114条の5

1 原告表現の著作物性
2 損害論

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■事案の概要

『本件は,別紙カタログ目録記載1のカタログ(以下「原告カタログ」という。)の著作権者である原告が,同目録記載3のカタログ(以下「被告カタログ」という。)を被告が作成,配布した行為が原告の著作権(編集著作物である原告カタログ全体並びにこれに掲載された文章及び図表に係る複製権又は翻案権及び譲渡権)並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害に当たると主張して,被告に対し,民法709条及び著作権法114条2項,3項に基づき,損害賠償金の一部である1000万円及びこれに対する不法行為の後である平成25年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H23.04 原告旧カタログ制作
H25.01 原告カタログ制作
H25.10 被告カタログ制作、発行

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■判決内容

<争点>

1 原告表現の著作物性

被告は、被告カタログの作成に当たり原告カタログを参考にしたことを認めており、また、原告の著作権・著作者人格権侵害の主張に対して原告表現1〜18の著作物性以外の点は具体的に争っていません。

(1)編集物(原告表現1〜3)について

原告カタログは、USカタログの各題号を大分類とした上で日本の住宅事情、生活習慣、原告担当者の経験に基づく米国コーラー社らしさに関する認識その他の事情を考慮してUSカタログにおける中分類の一部を選択した上でこれと異なる順に配列し、各中分類に含まれる製品及び小分類の一部を選択して配列したものであり、ページごとの構成は製品を2列及び5行に配列する構成その他の基本的な構成を決めた上で適宜写真を挿入するなどしてこれを変化させた構成を設けたものと裁判所は認定。
原告カタログに掲載する製品の分類、選択及び配列に作成者の個性が表現されているということができるとして、これら選択及び配列は思想又は感情を創作的に表現したものと認めるのが相当であると裁判所は判断しています(9頁以下)。

その上で、原告表現1〜3と被告表現1〜3を対比すると、被告表現1及び2は小分類名、品番及び製品名の選択配列のうち一部を除き、原告表現1及び2と同一であると認められる。また、被告表現3は、赤枠で囲まれた部分以外は写真や文字のフォント等に一部異なる点があるが、概ね原告表現3に一致している。
そして、被告カタログの作成に当たり被告が原告カタログを参考にしたことを認めていることに照らすと、被告表現1〜3は、原告カタログに依拠して作成されたものであって、上記原告表現1〜3の複製に当たると判断しています。

(2)文章(原告表現4〜12)について

原告表現4:米国コーラー社の歴史の概要とアメリカや日本における顧客、製品の種類等の説明
原告表現5:原告カタログに掲載された製品の素材についての説明
原告表現6〜12:原告カタログに掲載された製品のうち特定のシリーズの特徴を紹介

これらについて、裁判所は、いずれもその言葉の選択及び表現方法に工夫がみられるとして、これらの各表現は作成者の思想又は感情を創作的に表現したものと判断。
原告表現4〜12と被告表現4〜12を対比すると、被告表現4は原告表現4と大きく異なるが、被告表現5〜12はわずかに別紙言語表現対比目録の下線部が異なるほかは、いずれも原告表現5〜12と同一であるとして、被告表現5〜12は原告表現5〜12の複製に当たると判断しています。

(3)図表(原告表現13〜18)について

品番の読み方などを説明する頁等について、結論として、被告表現13、17及び18は、原告表現13、17及び18の複製に当たると判断しています。

以上から、被告表現1〜3、5〜13、17及び18を含む被告カタログを作成した行為は、原告表現1〜3(一部を除く)、5〜13、17及び18に係る原告の複製権の侵害に当たり、被告カタログを配布した行為は譲渡権の侵害に当たると裁判所は判断。
また、その一部を改変した点において原告の同一性保持権を、さらに、被告カタログに原告の名称を表示しなかった点において氏名表示権を侵害すると裁判所は判断しています。

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2 損害論

(1)著作権侵害に基づく損害

原告カタログ及び被告カタログはいずれも顧客に無償で配布されるもので、そのような製品カタログの使用料等を算定する基準が明らかでないことから、損害額を立証するために必要な事実を立証することはその性質上極めて困難であるとして、裁判所は著作権法114条の5に基づき相当な損害額を検討しています(12頁以下)。

原告は無償配布する原告カタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたが、被告カタログの配布期間中これを妨げられたこと、被告カタログの作成部数及び原価(1冊当たり約927円)などを勘案して、原告の損害額は120万円と認定されています。

(2)著作者人格権侵害に基づく損害

氏名表示権及び同一性保持権の侵害によって生じた損害の額は、それぞれ15万円(合計30万円)と認定されています。

(3)弁護士費用相当損害

弁護士費用のうち30万円が損害として認定されています。

以上の合計として180万円が認定されています。

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■コメント

米国コーラー社の浴室、トイレ、キッチン回りの製品の日本正規販売代理店が制作したカタログをほかの国内販売代理店が無断流用した事案です。

原告カタログ THE BOLD LOOK OF KOHLER 2013−2014

2013年1月発行の電子カタログを見ますと、総108頁のカタログでビジュアルが中心のものです。
米国版カタログや侵害部分対照表の具体的な内容が添付されていないため、正確な対比部分が分かりませんが、製品カタログの構成や説明文章、図表などについて編集著作物性や著作物性が検討されている点で参考になる事案です。
たとえば、電子カタログ6頁が、原告表現13(図表1)に当たる部分と思われますが、こうしたレイアウトはありふれているともいえ、著作物性の判断としては微妙なところです。

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2016年02月29日

学習教材販売ライセンス契約解除事件−著作権 商標権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学習教材販売ライセンス契約解除事件

大阪地裁平成28.2.8平成26(ワ)6310商標権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官      田原美奈子
裁判官      大川潤子

*裁判所サイト公表 2016.2.26
*キーワード:解除、信頼関係破壊、権利失効の原則

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■事案

学習教材の販売ライセンス契約の解除の成否などが争点となった事案

原告:教育教材企画制作会社、会社代表者
被告:教材企画制作会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法114条2項、商標法38条2項

1 本件許諾契約の解除の成否
2 権利失効の原則の適用の有無
3 損害論

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■事案の概要

『本件は,算数・数学のプリント教材を開発・作成してその著作権を有する原告株式会社システムラーニングインステイテユート(以下「原告会社」という。)と別紙商標権目録記載の商標(以下「原告商標」という。)の商標権者である原告P1が,従前,被告代表者P2との間で,同人に対して学習塾向けに同教材の販売を委託する契約を締結するとともに,同教材を複製し,原告商標と同一又は類似の商標を付して一般家庭に販売することを許諾する内容の契約を締結していたが,P2による債務不履行行為又は信頼関係破壊行為を理由として,P2との間で締結した契約をいずれも解除したことから,これら契約解除後のP2及びP2の事業を承継した被告による同教材の複製販売行為は,原告らの著作権侵害及び商標権侵害に当たると主張して,被告に対し,これら侵害行為の差止め,被告の教材の廃棄等並びに著作権侵害及び商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,上記の解除後である平成16年8月1日から本件訴訟提起日である平成26年7月8日までの間に原告らに生じた831万円の損害賠償金及びこれに対する上記不法行為期間後の平成26年7月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金について,連帯債権として支払請求した事案である。』(2頁以下)

<経緯>

S62.09 原告会社とP2が学習塾向け教材販売に関する契約締結
H03    P2が原告らから許諾を受け一般家庭向けに販売開始
H08.02 でき太の会(P2)とアルタック(被告代表者P2)が覚書締結
H11.09 原告代表者が被告に販売禁止を通知
H16.08 被告学習材作成
H25.10 原告らが被告に通知書送付
H26.07 本件訴訟提起

登録商標:1866363「でき太くん Cultivate Ability Now!」

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■判決内容

<争点>

1 本件許諾契約の解除の成否

でき太の会(P2)とアルタック(被告代表者P2)が学習教材の利用に関する覚書を締結したことが、原被告間の原告学習教材に関する許諾契約の解除原因となるかが争点となっています。
この点について、裁判所は、原告学習材の本件塾向け契約及び本件許諾契約では、その継続的契約としての性質上、P2は、原告らに対して原告学習材に化体された原告らの著作権及び商標権を保護すべき信義則上の義務を負うとともに、その保持は、契約の基礎となる信頼関係の中核をなすものと解するべきところ、上記のP2の行為は、原告商標及び原告学習材の使用・改変を無断で許諾して自己の収益を得ようとするものであり、この信義則上の義務に違反するとともに、継続的契約の基礎にある信頼関係を著しく破壊するものというべきであって、それらの契約の無催告による解除原因となると解するのが相当であると判断しています。

そして、原告会社の代表者である原告P1は、平成11年9月8日に送付された通知において、原告会社の承諾なく原告学習材のセット販売及び「自宅学習会」という形での学習材の普及販売を禁止する旨通知しており、「自宅学習会」とは、P2が一般家庭用に被告学習材を販売する際に使用する名称であることからすれば、原告らとしては、P2による信頼関係破壊行為を理由に、本件塾向け契約及び本件許諾契約を解除する意思表示をしたものと認めるのが相当であると裁判所は判断。

本件塾向け契約及び本件許諾契約は、同通知書がP2に到達した平成11年9月8日頃に解除されたと認定しています(10頁以下)。

   --------------------

2 権利失効の原則の適用の有無

被告は、平成11年9月に原告らとの本件塾向け契約及び一般家庭向けの本件許諾契約が解除されたのだとしても、その後、長期間にわたって原告らが権利行使をしなかったとして、権利失効の原則の適用を主張しました(16頁以下)。

この点について、裁判所は、原告らは平成11年9月に被告に対する本件塾向け契約及び本件許諾契約解除の意思表示をした後、平成16年にP2による著作権及び商標権侵害行為があったことを前提として、本件解決についてP2との間で交渉をしていること、また、原告らは、平成16年10月に交渉が打ち切られた後、平成25年10月に至るまで、9年間にわたって、P2及び被告に対し何らの請求もしなかったものの、従前、原告らがP2の行為を問題視し、それを具体的に指摘しながら交渉を続けていた経緯や、交渉決裂時に原告らにおいてP2の言い分を認めるとか、P2に対して今後何らの請求もしないといった意向を示したような事情が認められないことに照らせば、本件においては、P2及び被告が原告らから本件請求を受けることはないと正当な信頼を有するに至る特段の事情は認められないと判断。
結論として、本件に権利失効の原則の適用を認めていません。

以上から、平成11年9月8日頃以降、P2又は被告が、原告学習材を複製した上で被告標章を付した被告学習材を販売した行為は、原告らの著作権侵害及び商標権侵害となり、また、被告学習材の販売等の差止めに加え、これら教材の廃棄及びホームページ上の被告標章目録記載の標章の削除を命じる必要性も認められると裁判所は判断しています。

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3 損害論

(1)著作権侵害による原告会社の損害について(17頁以下)

・114条2項:144万円(年額/月額12万)×(9年+342日/365日)×0.7(利益率)=1001万6482円

・弁護士費用相当額損害:75万円

(2)商標権侵害による原告P1の損害について

・商標法38条2項:適用否定

・弁護士費用相当額損害:30万円

そして、原告らの請求は、両者併せて831万円及びこれに対する遅延損害金の額の限度で支払を求めるものであることから、結論として、原告会社については808万4725円、原告P1については22万5275円の限度で請求が認容されています。

(計算式)
原告会社の損害
831万円×1076万6482円/(1076万 6482円+30万円)=808万4725円
原告P1の損害
831万円×30万円/(1076万6482円+30万円)=22万5275円

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■コメント

算数・数学の学習教材に関するライセンス契約の消長が争点となった事案となります。
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2016年02月26日

「トムとジェリー」格安DVD事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「トムとジェリー」格安DVD事件(控訴審)

知財高裁平成28.2.17平成27(ネ)10115著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      田中芳樹
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.2.23
*キーワード:共同事業契約、合意、損害論

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■事案

保護期間が満了したアニメ映画「トムとジェリー」に日本語吹き替え音声を付したDVDの制作を巡って共同事業契約の成否が争われた事案の控訴審

控訴人兼附帯被控訴人、附帯被控訴人(1審被告ら):記録媒体企画製造販売会社、同社代表取締役
被控訴人兼附帯控訴人(1審原告)        :映像ソフト企画制作会社

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■結論

控訴棄却、附帯控訴却下、棄却

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■争点

条文 著作権法114条2項

1 共同事業の合意の成否
2 附帯被控訴人に対する請求の可否
3 被控訴人の損害額

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■事案の概要

『(1)本件は,被控訴人が,控訴人及び附帯被控訴人は,原判決別紙被告商品目録記載の各DVD商品(以下「控訴人商品」という。)を輸入,複製及び頒布し,被控訴人の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,控訴人及び附帯被控訴人に対し,著作権法112条1項に基づき,控訴人商品の輸入,複製及び頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づき,連帯して,前記著作権侵害に係る著作権法114条2項による損害賠償金405万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年3月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2)原判決は,控訴人による控訴人商品の輸入,複製,頒布行為は,被控訴人の著作権の侵害行為に該当するとして,被控訴人の控訴人に対する請求のうち,控訴人商品の輸入,複製及び頒布の差止めを認めるとともに,15万3000円及びこれに対する遅延損害金の限度で損害賠償金の支払を認め,その余の請求をいずれも棄却した。
 また,原判決は,附帯被控訴人自身が控訴人商品を輸入,複製,頒布した事実はこれを認めるに足りず,控訴人の法人格を否認すべき事情も見当たらないとして,被控訴人の附帯被控訴人に対する請求を,全て棄却した。
(3)控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
 被控訴人は,控訴人及び附帯被控訴人に対し,附帯控訴を提起した。』(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 共同事業の合意の成否

1審原告(被控訴人兼附帯控訴人)は、著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「トムとジェリー」30作品について、日本語音声を収録し直してDVD商品を製作販売していました。1審被告会社(控訴人兼附帯被控訴人)は、1審原告商品と同一の日本語音声が収録されているDVD商品を販売していました。

控訴人は、共同事業合意書に記載された共同事業のうち、本件各作品に係る共同事業の合意が成立しており、控訴人商品の製造、販売は、同合意に基づくものであるとして、控訴人による控訴人商品の輸入、複製、頒布行為は被控訴人の著作権の侵害行為には当たらない旨主張しました。

結論としては、控訴審も原審と同様、被控訴人と控訴人との間において、本件各作品に係る共同事業の合意の成立を認めることはできないと判断しています(14頁以下)。

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2 附帯被控訴人に対する請求の可否

本件においては控訴人(1審被告会社)のみが控訴を提起しており、共同訴訟人独立の原則(民訴法39条)によって上記控訴によって被控訴人(1審原告)の控訴人(1審被告会社)に対する請求のみが移審して控訴審の審判対象となっている。
そして、附帯被控訴人(1審被告会社代表)に対する請求が全て棄却された被控訴人(1審原告)は、原判決の送達を受けた平成27年8月28日から2週間の控訴期間が満了するまでの間に控訴を提起しなかったことから、被控訴人(1審原告)の附帯被控訴人(1審被告会社代表)に対する請求は移審せず、前記控訴期間の満了をもって確定したとして、被控訴人(1審原告)の附帯被控訴人(1審被告会社代表)に対する請求は、そもそも控訴審における審判の対象となり得ないものであるとして被控訴人の附帯控訴のうち、附帯被控訴人(1審被告会社代表)に対する部分は不適法であると判断しています(28頁以下)。

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3 被控訴人の損害額

本件著作権侵害に係る著作権法114条2項による損害の算定に当たっては、被控訴人において本件著作権侵害によって得た利益の額及び販売数量を立証すべきであるところ、控訴人において自認する控訴人商品1枚当たりの利益額17円及び販売数量合計9000枚という以上の立証はないとして、原審同様、その利益の総額は15万3000円(17円×9000枚)と認定されています(29頁)。

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■コメント

控訴審でも原審と同様の結論となっています。

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■過去のブログ記事

原審記事(2015年09月15日)
「トムとジェリー」格安DVD事件
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2016年02月25日

システム開発職務著作事件(控訴審)−著作権 文書返還請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

システム開発職務著作事件(控訴審)

知財高裁平成28.2.10平成27(ネ)10086文書返還請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2016.2.23
*キーワード:職務著作、相当の対価

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■事案

従業員が在職中に作成した研究開発に関する文書などの権利関係が争点となった事案

原告:退職従業員
被告:ソフト開発会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、特許法35条3項

1 本件各文書に係る控訴人の著作権及び著作者人格権の有無
2 本件各発明について控訴人の特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利の有無
3 控訴人による本件各文書の売渡請求の可否

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■事案の概要

『本件は,被控訴人の従業員であった控訴人が,被控訴人に対し,(1)本件各文書に係る著作権,著作者人格権及び付帯する全ての知的財産法に定められた権利を有することの確認,(2)所有権に基づく本件各文書の返還を求めた事案である。
 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人は,原判決を不服として控訴するとともに,上記請求のうち,本件各文書について著作権及び著作者人格権を有することの確認請求以外の請求に係る部分を,本件各発明について相当の対価の支払を受ける権利を有することの確認の請求及び本件各文書の一部売渡しの請求に,交換的に変更したものである。』(2頁)

<経緯>

H14.04 控訴人が被控訴人に入社
H26.07 控訴人が退職

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■判決内容

<争点>

1 本件各文書に係る控訴人の著作権及び著作者人格権の有無

控訴人は、被控訴人に在職中に研究開発に関する文書ないしプログラムをその職務上作成しましたが、本件各文書は控訴人の発明を記録したものであるとして、控訴人は本件各文書に係る著作権及び著作者人格権を有する旨主張しました(8頁以下)。
この点について、裁判所は、職務著作(著作権法15条1項)の成立を肯定し、控訴人の主張を認めていません。

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2 本件各発明について控訴人の特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利の有無

控訴人が「ビジネスモデル」「データ分析システム開発プロセス・フレームワーク」などの発明をしたことを認めるに足りる証拠はないとして、控訴人が被控訴人に対して本件各発明について特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利を有するということはできないと裁判所は判断しています(9頁以下)。

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3 控訴人による本件各文書の売渡請求の可否

控訴人は、被控訴人に対して本件各文書の印刷物と本件各文書を収録したCD−ROMを一部売り渡すことを求めました。
この点について、裁判所は、控訴人は本件各文書の売渡請求権を基礎付ける請求原因事実を何ら主張しないとして、控訴人の被控訴人に対する本件各文書の売渡請求は主張自体失当であると判断しています(15頁)。

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■コメント

研究者が在職中に作成した研究開発に関する文書などの権利関係が争点となった事案ですが、本人訴訟ということもあって主張内容が整理されていません。

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2016年02月22日

風水ブログ記事発信者情報開示請求事件−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

風水ブログ記事発信者情報開示請求事件

東京地裁平成28.1.29平成27(ワ)21233発信者情報開示請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      広瀬 孝

*裁判所サイト公表 2016.2.16
*キーワード:著作物性、翻案、引用、同一性保持権、名誉権

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■事案

「風水」や「五術」に関するブログ記事が改変されて「2ちゃんねる」に無断掲載されたとして、プロバイダに対して発信者情報開示請求した事案

原告:風水コンサルタント
被告:プロバイダ

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、27条、19条、20条、32条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 本件各記事の著作権者
2 著作権侵害の成否
3 「引用による利用」該当性
4 本件各記事の著作者
5 著作者人格権侵害の成否
6 「やむを得ない改変」該当性
7 名誉権・名誉感情侵害の成否
8 正当理由の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,本件各情報によって著作権(複製権,翻案権,公衆送信権),著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権,名誉・声望権),名誉権ないし名誉感情を侵害されたことは明らかであると主張して,被告に対し,法4条1項に基づき,本件発信者の氏名又は名称(以下「氏名等」という。)及び住所の開示を求める事案である。』(1頁以下)

原告記事目録:

1 風水とは,何なのかを述べるにあたり,一言で述べるならば「自然科学」だということです。自然科学の定義とは,自然に属する諸対象を取り扱い,その法則性を明らかにする学問のことです。

2 これまで台湾における五術文化の学術発表にかかわってきて,とても不愉快な文化の冒涜・歪曲にしか思えない独創と捏造による江湖派理論や,悪質な宗教による術数を利用した洗脳と金儲けを目撃する度に胸くそが悪かったのですが,こういった国家規模での認定試験ができたことで時代は着実に変わり始めました。

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■判決内容

<争点>

1 本件各記事の著作権者

本件各記事はいずれも「A」の作成したブログ上の記事であるが、同ブログは原告Aが管理するものであって、本件各記事はいずれも原告が自らの知見に基づいて作成したものであることが認められると裁判所は認定。本件各記事の著作権者は原告であると裁判所は認めています(8頁)。

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2 著作権侵害の成否

次に、「2ちゃんねる」に掲載された本件情報1ないし18が、原告記事1、2の著作権(翻案権、公衆送信権)侵害性が検討されています(8頁以下)。
裁判所は、まず、翻案権(著作権法27条)の意義について言及した上で、本件について、「風水」に関する本件記事1は、ひとかたまりの文章に個性が表れていると認定。そして、本件情報1ないし13の本文の表現は本件記事1の表現とほぼ一致しており、本件情報1ないし13は、本件記事1に依拠した上で、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して異なる表現を用いたものといえると判断。
本件記事1と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであり、本件記事1の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるとして、翻案権侵害性を肯定しています。
さらに、台湾における「五術」に関する本件記事2についても、結論として、本件情報14ないし17による翻案権侵害性が肯定されています。
併せて、本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為について、公衆送信権(23条)侵害性が肯定されています。

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3 「引用による利用」該当性

被告は、本件情報1ないし17はいずれも「風水」や「五術」について議論することを目的としており、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるとして、32条1項「引用」に当たると主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、本件情報1ないし17は、本件各記事に依拠した上で、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して本件記事1の「自然科学」を「妖怪学」に変更したり、本件記事2の「学術発表」を「詐欺発表」に変更したりしたものであって、引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上でそれをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであるとして、これが議論を目的としたものであるとはにわかに窺われないと判断。被告の主張を認めていません。

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4 本件各記事の著作者

本件各記事の著作者は原告であると認定されています(12頁)。

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5 著作者人格権侵害の成否

本件情報1ないし17について、翻案権侵害が認められ、これらの表現において原告の意に反する改変がされており、かつ、原告の氏名が表示され(本件情報1)又は表示されていない(本件情報2ないし17)ことから、本件情報1ないし17については、原告の同一性保持権及び氏名表示権侵害性が肯定されています(12頁以下)。

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6 「やむを得ない改変」該当性

被告は、本件情報1ないし17は、「風水」や「五術」について議論することを目的とするものであって、引用分量も少なく、しかも本件発信者の見解を述べているだけで原告への人格攻撃でもないとして、本件情報1ないし17は、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変(20条2項4号)が行われているにすぎず、同一性保持権の侵害が明らかであるとはいえないと主張しました。
しかし、裁判所は、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変が行われたものということはできない、と判断しています(13頁)。

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7 名誉権・名誉感情侵害の成否

原告は、本件各情報によって原告の社会的評価を低下させ原告の名誉権を侵害することが明らかである、また、原告の人格権に基づく名誉感情は大きく侵害されている旨主張しました。
この点について、裁判所は、本件情報18は、原告の名誉権及び名誉感情を侵害することが明らかであると判断しています(13頁以下)。

【本件情報18】
痛風の為、今年中に風水業は廃業します。
風水本は、在庫限りです。
長い間、風水山師を支持頂きありがとうございました。
風水本は在庫が無くなり次第、廃刊となります。 区切りのいいとこ
ろで断酒、療養に専念のため廃業いたします。
長らく風水山師をご愛顧いただき、ありがとうございました。

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8 正当理由の有無

プロバイダ責任制限法4条1項2号の「正当な理由」の有無について、少なくとも、本件情報1ないし17によって原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、また、本件情報18によって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことは明らかであり、原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求するためにはその氏名等及び住所の開示が必要であり、開示を受けるべき正当理由があると裁判所は判断しています(15頁)。

結論として、権利侵害性が明らかであり(法4条1項1号)、かつ、発信者情報開示を受けるべき正当理由がある(同2号)として、プロバイダである被告に対する発信者情報目録記載の情報開示請求が認容されています。

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■コメント

名誉毀損的言辞があるので、結論としては情報開示請求認容の結論に賛成ですが、原告記事1に著作物性があるかどうかについては、微妙な判断かと思われます。

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2016年02月18日

催眠術DVD事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

催眠術DVD事件

東京地裁平成28.1.22平成27(ワ)9469損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      広瀬  孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2016.2.16
*キーワード:損害論、みなし侵害行為

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■事案

催眠術DVDを無断複製してヤフオクで販売してた個人に対する損害額が争点となった事案

原告:グラフィックデザイン会社、会社代表者
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法113条6項

1 原告会社の損害の発生及びその額
2 被告の行為が原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか

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■事案の概要

『本件は,原告らが,被告に対し,原告Aが創作し,原告会社が著作権を有する著作物(DVD)について,被告が無断で複製・販売して,原告会社の著作権(複製権,頒布権)を侵害し,また,原告Aの名誉・声望を害する方法で利用したことを理由に著作者人格権を侵害したとみなされると主張して,不法行為に基づく損害賠償金(原告会社につき103万0448円,原告Aにつき60万円)及びこれらに対する不法行為の後の日である平成27年4月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,併せて,原告Aが被告に対し,著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H16.08 原告会社が原告著作物を販売
H26.03 原告らが被告が販売している無断複製品を調査購入
H26.04 原告会社が告訴
H26.12 被告不起訴処分、被告が原告側に謝罪
H27.01 被告が20万円の和解案提示

原告著作物:「催眠術の掛け方〔専門版〕自己催眠編」DVD

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■判決内容

<争点>

1 原告会社の損害の発生及びその額

原告会社は、被告が許可なく複製した原告著作物の複製物を入手するために3万0448円を支払っており、被告が著作権侵害行為をしたことを原告会社が認識し、また、原告会社が被告に対して損害賠償請求をするための証拠を入手するために必要な出費であったということができるとして、裁判所は、3万0448円は被告の不法行為と相当因果関係がある原告会社の損失であると認定しています(8頁)。

   --------------------

2 被告の行為が原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか

原告著作物を作成した原告会社代表者は、被告が原告著作物を許可なく複製し、オークションサイトに『★☆オマケとしてご希望の方には 精神工学研究所の【DB法】のPDFファイルとAさんの【催眠術の掛け方〔専門版〕自己催眠編】のデータをお付けします。』などと記載して、原告著作物を「オマケ」として頒布したことが著作者である原告会社代表者の名誉や声望が毀損したとして、被告の上記行為は著作権法113条6項の著作者人格権のみなし侵害行為に当たる旨主張しました(8頁以下)。

この点について、裁判所は、同条項の「著作者の名誉又は声望」の意義について、「著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである」として、パロディモンタージュ写真事件最高裁判決に言及(最高裁判所昭和61年5月30日第二小法廷判決 民集40巻4号725頁参照)。

その上で、本件について、原告会社代表者が、原告著作物を「オマケとして」「お付けします」などと記述されたことによって名誉感情を害されたことは理解できるものの、上記記述を付して原告著作物の複製の頒布が一度申し出されたことによって、それを見た通常人が原告著作物の内容が上記第三者の発行したDVDに付加価値を与えるものであると考えることはあっても、原告著作物には価値がないと認識することが通常であるとまではいえないと判断。
被告が、上記記述をしたことや無断で原告著作物を複製、頒布をした行為が原告会社代表者の社会的評価を低下させる行為であるということはできず、被告が原告Aの名誉又は声望を害する方法により原告著作物を利用したと認めることはできないと判断しています。

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■コメント

刑事事件として公訴提起にまでは至らなかったものの、著作権侵害については争いが無く、専ら損害論が争点となった事案です。
1点のみの複製・販売しか確認されておらず、調査のために侵害品を購入した代金だけが実損害として認定されたにとどまり、被告側が提示していた和解案の20万円にも及ばない結果となっています。

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■参考判例

パロディモンタージュ写真事件
最高裁昭和61年5月30日昭和58(オ)516判決

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2016年02月12日

「ツェッペリン飛行船と黙想」事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ツェッペリン飛行船と黙想」事件(控訴審)

知財高裁平成28.1.27平成27(ネ)10022損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      柵木澄子
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.02.04
*キーワード:編集著作物、編集著作者、編集契約

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■事案

故人の作品125編などを収録した書籍の編集著作者性などが争点となった事案

控訴人 :私小説作家の遺族(故人作家の長女の子)
被控訴人:出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項

1 控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か
2 本件書籍が編集著作物ではない場合における差止請求等の可否

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■事案の概要

『1 本件は,控訴人が,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)は編集著作物であり,控訴人がその編集著作者であるところ,被控訴人による本件書籍の複製及び販売は,控訴人の有する編集著作物に係る著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為である旨主張して,被控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,本件書籍の複製及び販売の差止め,(2)同条2項に基づき,本件書籍の廃棄及びその版下データの消去,(3)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金238万円(印税相当額の損害38万円及び慰謝料200万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年9月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(4)同法115条に基づき,編集著作者としての名誉及び声望の回復措置として謝罪広告等の掲載を求めた事案である。
2 原判決は,控訴人が本件書籍の編集著作者であるとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。』(2頁以下)

<経緯>

S55.08 作家死亡、長女と次女が著作権を取得
H22.06 被控訴人が本件書籍の刊行を企画
H23.06 被控訴人が保存会と連絡
H24.05 被控訴人が控訴人と打ち合わせ開始
H24.12 被控訴人が本件書籍を刊行
H25.03 被控訴人が長女らに印税、また、控訴人に原稿料を支払

本件書籍:「ツェッペリン飛行船と黙想」

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■判決内容

<争点>

1 控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か

本件書籍は、題号「ツェッペリン飛行船と黙想」とするもので、目次、故人作家の作品合計125編、控訴人が著述した「解題」、作家略年譜、著作目録及び初出一覧から構成されているものでした。

(1)本件書籍が編集著作物か否か

まず、本件書籍の編集著作物性(著作権法12条1項)について検討が加えられています(20頁以下)。
作品125編の選択については、判読不能なもの、未完成のもの、一部しかなく完全でないもの、全集と重複するものや対談等の記事を除くという基準によるものであり、作品の収録及び除外基準はありふれたものであるとして、素材の選択に編者の個性が表れているとまでいうことはできないと裁判所は判断しています。
もっとも、6つの分類項目に従って配列した点には編者の個性が表れているとして、本件書籍は、素材の配列において創作性を有する編集著作物に該当すると判断しています。

(2)控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か

次に、本件書籍における素材の配列に関して、創作性を有する行為を行った者が控訴人であるか否かについて、裁判所は、結論としては、分類項目を設けるなどして、選択された作品をこれらの分類項目に従って配列することを決定したのは被控訴人であると認定。控訴人の本件書籍の編集著作者性を否定しています(22頁以下)。

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2 本件書籍が編集著作物ではない場合における差止請求等の可否

控訴人は、本件書籍が編集著作物ではないとされた場合に備えて予備的に、(1)編集契約違反、(2)著作物利用許諾契約の錯誤無効を主張しました(25頁以下)。
しかし、裁判所は、編集契約が締結された事実が認定できないこと、また、控訴人が故人作家の著作権承継者ではないことから著作物利用許諾契約に関する錯誤無効の主張も理由がないとして、控訴人の主張を認めていません。

結論として、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却しています。

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■コメント

作品は、上林曉のもので、ウィキペディアによると、上林曉は尾崎一雄と並び戦後期を代表する私小説作家。本件書籍の内容紹介には、「同人誌時代の創作から晩年の随筆まで、新たに発見された未発表原稿を含む、貴重な全集未収録作品125篇を、初めて一冊に」とあります。
遺族代表として本件書籍の刊行に尽力した控訴人としては、解説を寄せただけではなく、編集についても多くの労力を提供しており、編集著作者としての氏名表示がないことに不満をもったことが判決文から伺えます。
原被告間でのメールでのやりとりなどが残っており、控訴人が希望や意見を積極的に提供していたことが分かりますが、控訴人が作品の配列に関する最終的な決定に深く関与したとの裁判所の心証を得ることはできませんでした。

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■追記(2016.03.01)

控訴人のかたからメールを頂きまして、以下の文章を寄せて頂きました。
転載させていただきます。

「 二審判決は、本件書籍が編集著作物であることを否定している、つまり自らの編集行為の創作性を否定している被控訴人を編集著作者と認めています。これは弁論主義違反です。一審判決では創作性の有無について判断が示されませんでした。そのため控訴人は争点整理をやり直し、「本件書籍は編集著作物である、
従って控訴人が編集著作者である」と主張しました。被控訴人から異論は出されず、創作性の有無のみが二審の争点となりました。高裁は本件書籍を編集著作物と認めた以上、控訴人を編集著作者としなければならなかったのに、誰が編集したかという無用な争点を付け加えました。そして一審判決と同様の理由で控訴人を敗訴させました。これは不意打ちと言うべき行為です。
 編集著作者とは選択と配列を行なった者です。他人のなした選択と配列を決定することに創作性はありません。従って裁判所の解釈は誤っています。しかもゲラの目次等を作成した者が決定者である、著作権者の親族の決定はなかったものとするという特別ルールを、つまり事実がどうあれ絶対に出版社が勝訴し、著作権者の親族が敗訴するルールを使っています。
 また、「控訴人は希望や意見を述べたのみである」と言っていますが、高村光太郎は希望や意見を述べたのみで『智惠子抄』の編集著作者と認められました。
龍星閣は第一次案から第三次案まですべて作成した上、被控訴人と同様、相手方の決定を受け入れる決定をしましたが敗訴しました。
 二審判決が日本国憲法に違反しているか否か、最高裁判例に違反しているか否か、専門家の間で活発に議論が交わされることを期待します。
 なお、控訴人の専門が西洋史であるので自由詩を巻頭に配置したこと、控訴人の趣味が将棋であるので観戦記を巻末に配置したこと、被控訴人が故甲気瞭記を不適法に収集し出版しようとしたこと、控訴人が甲犬鯤埆原力者と見て「解題」で謝辞を贈っていること、乙19の●が未決定であることを示すこと、被控訴人が再校ゲラの目次作成を怠ったこと、及び再校ゲラを提出せよとの文書提出命令を被控訴人が遵守しなかったことが判決に書かれていませんので付け加えます。」


原審:
東京地裁平成27.1.22平成25(ワ)22541損害賠償等請求事件
民事47部
裁判長 高野輝久
裁判官 三井大有
裁判官 藤田 壮

(原審判決文PDFは2016.3.16公開)
平成25年(ワ)第22541号 損害賠償等請求事件PDF
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2016年02月10日

「旅行業システムSP」データベース事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「旅行業システムSP」データベース事件(控訴審)

知財高裁平成28.1.19平成26(ネ)10038著作権侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2016.2.2
*キーワード:データベース、複製、翻案、一般不法行為、限界利益

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■事案

退職従業員による旅行業者向けシステムのデータベースの複製、翻案などが争点になった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告):コンピュータソフトウェア開発会社
被控訴人兼控訴人(1審被告):コンピュータシステム開発会社、被告会社代表取締役、退職従業員ら

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法21条、27条、114条1項、民法709条

1 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
2 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否
3 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額
4 一般不法行為に基づく損害賠償請求の成否
5 1審原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無

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■事案の概要

『本件は,翼システム株式会社(以下「翼システム」という。)が制作した旅行業者向けシステム「旅行業システムSP」(旧製品名「スーパーフロントマン 旅行業システム」。以下「原告システム」という。)に含まれる検索及び行程作成業務用データベース(以下「原告CDDB」という。)に係る著作権を同社から譲り受けた株式会社ブロードリーフ(旧商号「アイ・ティー・エックス翼ネット株式会社」。以下「旧原告会社」という場合がある。)を吸収合併し,訴訟承継した1審原告(旧商号「シー・ビー・ホールディングス株式会社」)が,1審被告アゼスタ,1審被告アゼスタの代表取締役である1審被告Y1,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの取締役である1審被告Y2及び1審被告Y3,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの従業員である1審被告Y4及び1審被告Y6,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの元従業員である1審被告Y5(以下,1審被告アゼスタを除くその余の1審被告らを併せて,「個人の1審被告ら」という。)に対し,1審被告らが,別紙物件目録1ないし22記載の各データベース(以下,これらを総称して「被告CDDB」といい,同目録1記載のデーターベースを「当初版」,同目録2記載のデーターベースを「2006年版」,同目録3ないし21記載の各データーベースを「現行版」,同目録22記載のデーターベースを「新版」という。)を含む旅行業者向けシステム「旅 nesPro」(以下「被告システム」という。)を製造,販売する行為が,原告CDDBについて1審原告が有する著作権(複製権,翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)の侵害に当たるなどと主張して,著作権法112条1項に基づき,被告CDDBの複製,翻案等の差止めを,同条2項に基づき,被告CDDBを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄等を求めるとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償又は一般不法行為に基づく損害賠償として9億1037万0978円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
 原判決は,1審原告の請求のうち,差止請求及び廃棄等請求に関する部分は,1審被告アゼスタに対し,被告CDDBの当初版,2006年版及び現行版の複製,頒布又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め及びこれらを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄等(原判決主文第1項及び第2項)を求める限度で認容し,損害賠償請求に関する部分は,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4に対し,連帯して1億1215万1000円及び遅延損害金の支払(原判決主文第3項)を,1審被告Y6に対し,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4と連帯して1億0548万円及び遅延損害金の支払(原判決主文第4項)を,1審被告Y5に対し,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4と連帯して5561万2000円及び遅延損害金の支払(原判決主文第5項。なお,1審被告Y6と1審被告Y5は,4944万1000円及び遅延損害金の限度で連帯支払)をそれぞれ求める限度で認容し,1審原告の1審被告らに対するその余の請求をいずれも棄却した。
 これに対し1審原告は,原判決のうち,1審原告敗訴部分全部を不服として控訴を提起し,1審被告らは,原判決のうち,損害賠償請求に関する1審被告ら敗訴部分(原判決主文第3項ないし第5項)のみを不服として控訴を提起した。』(4頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか

リレーショナルデータベースである原告CDDBの複製ないし翻案について、裁判所は、まず、著作権法12条の2第1項のデータベースの著作物性の意義、また、リレーショナルデータベースの著作物性について言及しています。そして、複製(21条)及び翻案(27条)の意義を述べた上で、被告CDDBが原告CDDBを複製ないし翻案したものといえるかどうかについて検討を加えています(37頁以下)。

被告CDDB(当初版・2006年版)、(現行版)、(新版)が原告CDDBの複製物ないし翻案物といえるかについて、裁判所は、これらは原告CDDBに依拠して制作されたものであって、被告CDDB各版において原告CDDBの共通部分の体系的構成及び情報の選択の本質的な特徴を直接感得することができるとして、原告CDDBの共通部分の複製物であると認めるのが相当であると判断しています。

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2 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否

(1)1審被告らによる著作権侵害の有無について

1審被告アゼスタの行為は、原告CDDBについて1審原告が有する著作権(複製権、翻案権、譲渡権、貸与権、公衆送信権)の侵害行為に該当すると裁判所は判断。
また、個人の1審被告らは、いずれも1審被告アゼスタによる1審原告が有する著作権の侵害行為に関与したものであり、1審被告アゼスタ及び個人の1審被告らは共同して上記著作権の侵害行為を行ったものと認められると判断しています(77頁以下)。

(2)共同不法行為の成否について

1審被告らは、共同して原告CDDB(被告CDDBとの共通部分)について1審原告が有する著作権の侵害行為を行っており、被告らには少なくとも過失があったものと認められるとして、1審被告らにおいて著作権の侵害行為について共同不法行為が成立すると裁判所は判断しています。

(3)差止請求等について

1審原告の請求のうち、差止請求及び廃棄等請求に関する部分は、1審被告アゼスタに対し、被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)及び被告CDDB(新版)の複製、頒布又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め及びこれらを格納したCDROM等の記憶媒体の廃棄等を裁判所は認めています。

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3 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額


(1)1審被告らの損害賠償責任について

被告CDDB(当初版・2006年版)及び(現行版)は、原告CDDBの共通部分の複製物であり、1審被告らによる被告CDDB(当初版・2006年版)及び(現行版)の複製、これらの複製物のいずれかを含む被告システムの販売等は、原告CDDBについて1審原告が有する著作権の侵害行為に当たり、共同不法行為が成立するとして、1審被告らは1審原告が著作権の侵害により被った損害について連帯して賠償する責任を負うと裁判所は判断しています(86頁以下)。

(2)著作権法114条1項に基づく損害額(1億8222万3000円)

著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額(単位数量当たりの利益額)は45万9000円と認定しています。

計算式
91万8000円(原告システムの販売価格153万円×1審原告利益率0.6)×0.5(寄与率)=45万9000円
45万9000円×397本=1億8222万3000円

(3)データメンテナンス契約に係る損害(1251万円)

1審被告らによる被告CDDBを含む被告システムの販売に係る著作権の侵害行為とその販売数量に対応する1審原告のデータメンテナンス契約に係る1年分の利益額に相当する損害との間には相当因果関係が認められるとして、1審原告は上記損害を被ったものと認定されています。

(4)弁護士費用(2000万円)

(5)1審被告らが損害賠償責任を負う範囲

1審被告アゼスタ、1審被告Y1、Y2、Y3及びY4の損害賠償責任については、合計2億1473万3000円と判断されています。

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4 一般不法行為に基づく損害賠償請求の成否

一般不法行為に基づく損害額が、著作権法114条1項に基づく損害額を超えることを認めるに足りる証拠はないとして、裁判所は1審原告の一般不法行為に基づく損害賠償請求を認めていません(104頁以下)。

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5 1審原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無

1審被告らは、1審原告は独占禁止法2条5項、3条に違反している可能性があり、1審原告の請求はこの点から速やかに棄却されるべきものである旨主張しましたが、控訴審もこれを認めていません(105頁)。

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■コメント

国内旅行の旅行行程表、見積書作成のために必要な観光施設、宿泊施設、道路、時刻表などの各種データをデータベース化し、パソコンを用いて効率よく行程表、見積書等を作成することを可能とする旅行業者用システムの検索及び行程作成業務用データベースの著作物性や複製性などが争点となった事案の控訴審です。
原審では、著作権侵害が否定された被告CDDB(新版)について、控訴審では、侵害性が肯定されています。

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■過去のブログ記事

原審記事
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2016年02月01日

カラー版怪獣ウルトラ図鑑復刻版事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

カラー版怪獣ウルトラ図鑑復刻版事件

東京地裁平成28.1.21平成27(ワ)15005著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      藤原典子
裁判官      萩原孝基

*裁判所サイト公表 2016.1.29
*キーワード:契約、動機の錯誤、氏名表示権

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■事案

復刻版の書籍に掲載されたイラストの許諾の有無などが争点となった事案

原告:イラストレーター
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法19条、民法95条

1 本件書籍発行についての原告の許諾の有無及び原告の許諾についての錯誤の有無
2 本件書籍における氏名表示権侵害の有無

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■事案の概要

『本件は,別紙イラスト目録記載のイラスト(以下「本件イラスト」と総称する。)の著作者であると主張する原告が,被告に対し,被告による本件書籍の複製等が本件イラストに係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき本件書籍の複製の差止め及び廃棄等を,同法114条3項,民法709条に基づき損害賠償金737万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達日の翌日)である平成27年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟である。』(2頁)

<経緯>

S43.05 原書籍刊行
H24.01 被告編集長Bが原告に本件書籍刊行を通知
H24.02 Bが原告に電子メールで許諾を求め、原告がこれを受諾
H24.03 本件書籍刊行
H24.05 被告が原告に復刻使用料1万円を振込
H26.06 原告がBに対して説明要求

原書籍:「写真で見る世界シリーズ カラー版 怪獣ウルトラ図鑑」
本件書籍:「カラー版怪獣ウルトラ図鑑[復刻版]」
本件イラスト:「ウルトラセブンの必殺わざ総まくり」など13点

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■判決内容

<争点>

1 本件書籍発行についての原告の許諾の有無及び原告の許諾についての錯誤の有無

本件書籍発行に関する原告の許諾の有無について、裁判所は、被告会社の編集長Bがイラストの使用料の支払を原告に申し出たのに対して、原告はその振込先を伝えており、さらに、本件書籍の発行を承諾したことをその2年後にも認識していたと認定。原告は遅くとも振込先を伝えた時までに本件書籍の内容とこれに本件イラストが掲載されていることを理解した上で本件書籍の発行を承諾する意思表示をしたものと判断しています(6頁以下)。

また、原告は、仮に許諾があったと認められるとしても、錯誤がある旨主張しました。しかし、裁判所は、本件イラストの掲載に当たり原告名が表示されていないことが分かっていれば許諾をしなかった、という原告の主張は、意思表示の動機に錯誤があった旨の主張と解されるところ、本件の関係各証拠上、動機が表示されていたことは窺われないとして、錯誤に関する原告の主張を認めていません(7頁)。

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2 本件書籍における氏名表示権侵害の有無

原告は、目次の左側に原告名が記載されているものの、イラストごとに著作者名の表示がないとして、イラストの付近に原告名が表示されていないことが氏名表示における公正な慣行に従っておらず、氏名表示権を侵害する旨主張しました(7頁以下)。
しかし、裁判所は、
・本件書籍には、目次のページの「さし絵」欄に原告を含む6名の氏名が列記されているが、本件イラスト及びその他のイラストのいずれについても、イラストが掲載されたページ内又はその付近に当該イラストの作成者の氏名が記載されたものはない。
・本件書籍は、昭和43年5月30日に初版が発行された原書籍をほぼそのまま復刻したものであり、本件書籍におけるイラスト作成者の表示方法は、原書籍におけるものと同一である。

といった点から、本件イラストは、原告以外の者が作成したイラスト及び記述した文書と共に本件書籍の一部を構成するにとどまるのであって、復刻版である本件書籍の元となった原書籍の作成に当たり、その素材として、既に雑誌に発表されていた原告作成のイラストが使用されたものとみることができると認定。
この場合、本件書籍のような複数の者のイラストが掲載されている書籍においては、その作成者の氏名をイラストごとに個別に表示することを省略し、これを特定のページにおいてまとめて表示することが公正な慣行に反するということはできないとして、氏名表示権を侵害することはないと判断しています。

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■コメント

原告は、復刻版刊行後2年してから、原書籍を見た記憶がないとか、原書籍の発行元である株式会社秋田書店の担当者に対して疑問や不満を抱いている旨を伝える電子メールを被告に送信しており、あるいは、原書籍刊行当時の不満が今に至るまで尾を引いたものだったのかもしれません。
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2016年01月29日

芸能プロダクション専属契約事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

芸能プロダクション専属契約事件(控訴審)

知財高裁平成28.1.26平成27(ネ)10106損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      大寄麻代
裁判官      岡田慎吾

*裁判所サイト公表 2016.1.27
*キーワード:芸能プロダクション、専属契約、移籍金

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■事案

芸能プロダクションからタレントが独立する際の移籍金の支払いの要否や衣装の所有権の帰属などが争点となった事案の控訴審

控訴人 (1審原告):芸能プロダクション
被控訴人(1審被告):芸能人、芸能プロダクション

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法415条

1 債務不履行の有無
2 本件衣装及び本件譜面の所有権侵害の有無
3 本件衣装の著作権侵害に基づく差止請求の可否
4 本件譜面に係る音楽著作権に基づく差止請求の可否
5 被控訴人Y1への貸付け及び立替金の有無
6 被控訴人会社に対する貸付けの有無
7 被控訴人会社への立替金の有無


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■事案の概要

『本件は,芸能プロダクションである控訴人が,(1)芸能人である被控訴人Y1と専属的所属契約を締結していたところ,被控訴人Y1が同契約を一方的に破棄して独立し,被控訴人会社も被控訴人Y1と共同して上記独立を敢行したとして,被控訴人らに対し,債務不履行に基づく損害賠償金(移籍金相当額)1億3554万8125円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の連帯支払,(2)被控訴人らが上記独立に当たり控訴人の所有する本件衣装及び本件譜面を無断で持ち出して控訴人の所有権を侵害したとして,被控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償金(各製作費相当額)合計5170万1928円及びこれに対する不法行為の後の日である平成24年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,(3)控訴人は本件衣装の著作権者であり,上記無断持出し等の後も被控訴人Y1は芸能活動を継続しており被控訴人らによる著作権侵害のおそれが生じているとして,被控訴人らに対し,著作権に基づく侵害予防請求として,本件衣装の複製,展示,譲渡,貸与及び変形の差止め,(4)控訴人は本件譜面に係る音楽の著作権者であり,上記無断持出し等の後も被控訴人Y1は芸能活動を継続しており被控訴人らによる著作権侵害のおそれが生じているとして,被控訴人らに対し,著作権に基づく侵害予防請求として,本件譜面の複製,演奏,展示,譲渡,貸与及び編曲の差止め,(5)被控訴人Y1に金員を貸し付け,また,被控訴人Y1が支払うべき債務を立替払したとして,被控訴人Y1に対し,貸金返還請求として300万円及び立替金返還請求として324万5050円並びにこれらに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(6)被控訴人会社に金員を貸し付けたとして,被控訴人会社に対し,貸金返還請求として1000万円及びこれに対する貸付けの日である平成14年2月27日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払,(7)被控訴人会社が支払うべき債務を立替払したとして,被控訴人会社に対し,立替金返還請求として776万2361円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。 原審は控訴人の請求をいずれも棄却したため,原判決を不服として,控訴人(原審原告)が本件控訴をした。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 債務不履行の有無
2 本件衣装及び本件譜面の所有権侵害の有無
3 本件衣装の著作権侵害に基づく差止請求の可否
4 本件譜面に係る音楽著作権に基づく差止請求の可否
5 被控訴人Y1への貸付け及び立替金の有無
6 被控訴人会社に対する貸付けの有無
7 被控訴人会社への立替金の有無


裁判所は、各争点について、結論として原審の判断を維持しています(4頁以下)。

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■コメント
美川憲一さんの所属事務所変更に伴う移籍金の支払いの要否などが争点となった事案の控訴審となります。
移籍金の支払合意の成立を裏付ける事情の検討がさらに加えられているなどしていますが、控訴審でも原審の判断が維持されています。

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■過去のブログ記事

2015年08月13日記事
芸能プロダクション専属契約事件

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2016年01月25日

スティック型加湿器形態模倣事件−著作権 不正競争差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スティック型加湿器形態模倣事件

東京地裁平成28.1.14平成27(ワ)7033不正競争差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      藤原典子
裁判官      中嶋邦人

*裁判所サイト公表 2016.1.22
*キーワード:商品形態模倣行為性、応用美術、著作物性

被告商品:スティック加湿器

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■事案

スティック型加湿器のデザインの著作物性などが争点となった事案

原告:プロダクトデザイナーら
被告:家電輸入卸会社、雑貨店

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項3号

1 原告加湿器1及び2の「商品」該当性
2 原告加湿器1及び2の著作物性

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■事案の概要

『本件は,別紙原告加湿器目録記載1〜3の加湿器(以下,それぞれを同目録記載の番号により「原告加湿器1」などという。)の開発者である原告らが,被告らに対し,被告商品の形態は原告加湿器1及び2の形態に依拠し,これらを模倣したものであって,被告らによる被告商品の輸入及び販売は上記加湿器に係る原告らの著作権(譲渡権又は二次的著作物の譲渡権)を侵害するとともに,不正競争(不正競争防止法2条1項3号)に当たると主張して,(1)同法3条1項及び2項又は著作権法112条1項及び2項(選択的請求)に基づき,被告商品の輸入等の差止め及び廃棄,(2)民法709条,719条1項及び不正競争防止法5条3項2号又は著作権法114条3項(選択的請求)に基づき,被告らにつき損害賠償金120万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成27年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,被告セラヴィにつき損害賠償金120万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)

<経緯>

H23.11 原告が原告加湿器1を展示会に出展
H24.06 原告が原告加湿器2を展示会に出展
H25    被告らが被告製品を輸入、販売
H27.01 原告が原告加湿器3を販売

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■判決内容

<争点>

1 原告加湿器1及び2の「商品」該当性

原告加湿器1及び2の「商品」該当性(不正競争防止法2条1項3号)について、裁判所は、

「同号が他人の「商品」の形態の模倣に係る不正競争を規定した趣旨は,市場において商品化するために資金,労力等を投下した当該他人を保護することにあると解される。そして,事業者間の公正な競争を確保するという同法の目的(1条参照)に照らせば,上記「商品」に当たるというためには,市場における流通の対象となる物(現に流通し,又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいうと解するのが相当である。」と説示した上で、本件について「商品」該当性について検討を加えています。
裁判所は、原告加湿器1及び2は、各展示会の当時の構成では一般の家庭等において容易に使用し得ないものであって、開発途中の試作品というべきものであったこと、被告製品の輸入及び販売が開始された平成25年秋頃の時点でも原告らにおいて原告加湿器1及び2のような形態の加湿器を製品化して販売する具体的な予定はなかったことから、原告加湿器1及び2は、市場における流通の対象となる物とは認められないとして、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらないと判断しています(11頁以下)。

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2 原告加湿器1及び2の著作物性

原告加湿器1及び2の著作物性(著作権法2条1項1号)について、裁判所は、著作物性の意義や応用美術に関して言及した上で、

「原告加湿器1及び2は,試験管様のスティック形状の加湿器であって,本体の円筒状部の下端に内部に水を取り込むための吸水口が,本体の上部に取り付けられたキャップの上端に噴霧口がそれぞれ取り付けられており,この吸水口から内部に取り込んだ水を蒸気にして噴霧口から噴出される構造となっていることが認められる。そして,以上の点で原告加湿器1及び2が従来の加湿器にない外観上の特徴を有しているとしても,これらは加湿器としての機能を実現するための構造と解されるのであって,その実用的な機能を離れて見た場合には,原告加湿器1及び2は細長い試験管形状の構造物であるにとどまり,美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていると認めることはできない。」(13頁)
として、その著作物性を否定しています。

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■コメント

水を入れたコップに差し込むような小型の試験管型加湿器のデザインの模倣性が問題となりました。
不正競争防止法の点で、試作品として展示会で出展された機器は、そもそも不正競争防止法上の「商品」とはいえない、という判断の点は参考になります。

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