知財判決速報2015

2015年09月19日

「つくる会」歴史教科書翻案事件(控訴審)−著作権 書籍出版差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「つくる会」歴史教科書翻案事件(控訴審)

知財高裁平成27.9.10平成27(ネ)10009書籍出版差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官      中村 恭
裁判官      中武由紀

*裁判所サイト公表 2015.9.15
*キーワード:歴史教科書、著作物性、複製、翻案、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

中学校用歴史教科書の記述を流用して複製・翻案したかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)元会長
被控訴人(1審被告):出版社、執筆者ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条、民法709条

1 被控訴人各記述が控訴人各記述を「翻案」したものか否か
2 被控訴人各記述が控訴人各記述を「複製」したものか否か
3 被控訴人書籍の単元構成が控訴人書籍の単元構成を「翻案」又は「複製」したものか
4 控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害の有無
5 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『(1)本件請求の要旨
本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,(1)被控訴人らにおいて共同して制作して出版した被控訴人書籍中の個別の記述が,控訴人において制作した控訴人書籍中の個別の記述に係る著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するとして,[1]著作権法112条1項及び2項に基づき,〈1〉被控訴人らに対して被控訴人書籍1(市販本)の出版等の差止めを,〈2〉被控訴人書籍1の発行者である被控訴人育鵬社及び被控訴人扶桑社に対して被控訴人書籍1の廃棄をそれぞれ求めるとともに,[2]著作権及び著作者人格権侵害に係る共同不法行為に基づき,被控訴人らに対し,著作権侵害に係る損害賠償金5131万5750円,著作者人格権侵害に係る慰謝料300万円及び弁護士費用600万円の合計6031万5750円とこれに対する被控訴人書籍2(教科書)の教科書検定の合格日である平成23年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,さらに,予備的に,(2)一般不法行為に基づき,慰謝料300万円と上記(1)[2]と同旨の遅延損害金の支払を求める事案である。

(2)原審の判断等
原審請求は,翻案権侵害と著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の不法行為に基づく差止め,廃棄及び損害賠償請求のみであったところ,原判決は,控訴人書籍中の控訴人各記述とこれに対応する被控訴人書籍の被控訴人各記述とで記述内容が共通する部分について,控訴人各記述には創作性が認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,これを不服とし控訴したが,当審において,翻案権並びに同一性保持権及び氏名表示権の侵害と主張する記述を,被控訴人記述1,2,9,10,15,17,19,20,24,26,27〜29,33〜36,43〜45及び47に限定する一方で,上記記述(21か所)に係る複製権侵害と,被控訴人各記述(47か所)すべてに係る一般不法行為に基づく損害賠償請求を,請求原因に追加した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人各記述が控訴人各記述を「翻案」したものか否か

歴史教科書の個々の記述に関する翻案権侵害性判断について、控訴審は、中学校用歴史教科書であっても教科書としてだけ用いられるわけではなく、簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものとして一般の歴史書と同様に創作性があるか否かを問題とすべきであると示した上で、
「簡潔な歴史書における歴史事項の選択の創作性は,主として,いかに記述すべき歴史的事項を限定するかにあるのであり,選択される歴史的事項は一定範囲の歴史的事実としての広がりをもって画されている。したがって,同等の分量の他書に一見すると同一の記述がなかったとしても,それが,他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や,当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充,付加するにすぎないものである場合には,歴史書の著述として創意を要するようなものとはいえない。控訴人の創作性基準に関する主張は,上記説示に反する限り,採用することができない。」(16頁)
と説示。
他社の歴史教科書に同様の表現があるか否かの点を中心に控訴人各記述の創作性を検討しています。
結論として、被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(著作権法2条1項1号)には該当しないとして、その翻案も認めらていません。

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2 被控訴人各記述が控訴人各記述を「複製」したものか否か

被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(2条1項1号)には該当しないことから、その複製も認められていません(65頁)。

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3 被控訴人書籍の単元構成が控訴人書籍の単元構成を「翻案」又は「複製」したものか

単元構成について、ごくありふれた構成にすぎないとして、控訴人の単元構成に係る翻案権又は複製権侵害に基づく請求は認められていません(65頁以下)。

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4 控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害の有無

被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(2条1項1号)には該当しないことから、その著作者人格権の侵害も認められないと判断されています(69頁)。

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5 一般不法行為の成否

控訴人は、仮に、被控訴人らに著作権侵害・著作者人格権侵害が成立しないとしても被控訴人らは控訴人各記述に係る控訴人の執筆者利益を害したものであるとして不法行為が成立する旨を主張しました(69頁以下)。
しかし、裁判所は、ただ単に被控訴人各記述に控訴人各記述に似たところ又は共通するところがあるというだけでは、被控訴人各記述を用いることが公正な競争として社会的に許容する限度を超えるということはできないとして、結論として一般不法行為論の成立を否定しています。

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■コメント

原審の判断が控訴審でも基本的に維持されています。控訴審では複製権侵害性の点と一般不法行為論を新たな争点としましたが、棄却の結論は変わっていません。

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■過去のブログ記事

2015年01月13日記事
「つくる会」歴史教科書翻案事件(原審)
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2015年09月17日

「白雪姫」格安DVD事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「白雪姫」格安DVD事件

東京地裁平成27.8.28平成26(ワ)4972著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      廣瀬 孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2015.9.11
*キーワード:許諾、損害論

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■事案

保護期間が満了したアニメ映画「白雪姫」などに日本語吹き替え音声、日本語字幕を付したDVDの複製、販売を巡って許諾の有無が争われた事案

原告:映像ソフト企画制作会社ら
被告:記録媒体企画製造販売会社、同社代表取締役

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法22条、114条2項

1 複製及び販売の許諾の有無
2 被告Aに対する請求の可否
3 原告らの損害額
4 相殺の可否

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■事案の概要

『本件は,原告らが,被告らは被告商品を輸入,複製及び頒布し,もって原告らの有する著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告商品の輸入,複製及び頒布の差止めを求めるとともに,民法709条又は703条に基づき,連帯して損害金又は不当利得金405万円及びこれに対する被告Aにつき平成26年5月19日(訴状送達の日の翌日)から,被告会社につき同月20日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
被告らは,原告アートステーションの代表者であるB(以下「B」という。)から複製及び販売の許諾を受けていたなどと主張して,これを争っている。』(3頁)

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■判決内容

<争点>

1 複製及び販売の許諾の有無

被告らは、平成22年に原告アートステーション代表者Bから被告商品10作品(被告商品には原告商品と同一の日本語音声及び日本語字幕が収録されている)の複製及び販売の許諾を数量限定なく受けており、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は原告らの著作権の侵害行為に該当しないと主張しました。
しかし、裁判所は、本件証拠上、被告らが数量限定のない許諾を受けていたことを直接裏付ける契約書、合意書その他B作成の書面は見当たらないとして、被告の主張を認めていません(5頁以下)。

結論として、Bが8作品・各1300枚のプレスについては許可していたものと認められるものの、これを超えて何らの限定を設けずに被告商品10作品の複製及び販売の許諾をしていたとまでは認められないと認定。被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為のうち8作品・各1300枚を超える部分については、原告らの著作権の侵害行為に該当すると判断されています。

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2 被告Aに対する請求の可否

原告らは、本件の首謀者は被告会社代表取締役の被告Aであり、被告会社は会社としての資産もないなどとして被告Aに対しても差止め及び損害賠償の請求をしました。
しかし、裁判所は、本件証拠上、被告A自身が被告商品を輸入、複製、頒布した事実はこれを認めるに足りず、被告会社の法人格を否認すべきほどの事情も見当たらないとして、原告らの被告Aに対する請求を認めていません(8頁)。

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3 原告らの損害額

原告らは、被告商品1枚当たりの利益額を270円とし、被告会社による販売数量は合計3万枚と主張しました。
しかし、裁判所は、原告らはこれを裏付ける客観的資料を何ら提出しておらず、本件証拠上も被告会社の具体的な利益額及び販売数量を認めるに足りる客観的証拠は見当たらないとして、被告会社の自認する利益額及び販売数量を採用。
被告商品1枚当たりの利益額は17円、販売数量は合計2万枚で、このうち1万0400枚については許諾を得ていたとして、著作権の侵害によって被告会社が得た利益額の総額は16万3200円となり(17円×(2万枚−1万0400枚))、著作権法114条2項によって原告らそれぞれが被告会社に請求することのできる損害賠償の額は、各持分2分の1に相当する8万1600円ずつとなると判断しています(8頁)。

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4 相殺の可否

被告らは相殺を主張しましたが、その自働債権は被告会社の原告アートステーション代表者個人のBに対する貸金債権であり、原告らに対する債権ではないとして、被告らの相殺の主張は認められていません(8頁以下)。

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■コメント

パブリックドメインとなった「トムとジェリー」作品に続き、「白雪姫」など10作品に関する制作販売許諾内容についての紛争事案となります。
なお、最高裁判所サイトに同日公表された関連事件として、10作品に関するDVD販売を取り扱った出版社に対する判決があります。

対コスミック出版事件
東京地裁平成27.8.28平成25(ワ)32465著作権侵害差止等請求事件PDF

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2015年09月15日

「トムとジェリー」格安DVD事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「トムとジェリー」格安DVD事件

東京地裁平成27.8.28平成26(ワ)3539著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      廣瀬 孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2015.9.11
*キーワード:共同事業契約、合意、損害論

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■事案

保護期間が満了したアニメ映画「トムとジェリー」に日本語吹き替え音声を付したDVDの制作を巡って共同事業契約の成否が争われた事案

原告:映像ソフト企画制作会社
被告:記録媒体企画製造販売会社、同社代表取締役

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条2項

1 共同事業の合意の成否
2 被告Aに対する請求の可否
3 原告の損害額

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らは被告商品を輸入,複製及び頒布し,もって原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告商品の輸入,複製及び頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づき,連帯して損害金405万円及びこれに対する平成26年3月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
被告らは,原告と被告会社との間では「トムとジェリー」30作品に関する共同事業の合意が成立しており,本件著作物の著作権は両者の共有となっているなどと主張して,これを争っている。』(3頁)

<経緯>

H22.08 原告が被告に共同事業を提案

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■判決内容

<争点>

1 共同事業の合意の成否

原告は、著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「トムとジェリー」30作品について、日本語音声を収録し直してDVD商品(原告商品)を製作販売していました。被告会社は、原告商品と同一の日本語音声が収録されているDVD商品(被告商品)を販売していました。

被告は、原告会社代表者Bが被告会社代表者Aに対して「ミッキーマウス」16作品及び「トムとジェリー」30作品に関する共同事業への出資を求め、原告と被告会社との間で本件共同事業のうち「トムとジェリー」30作品に関する部分について合意が成立し、また、原告商品に収録されている日本語音声の台詞(本件著作物)の著作権は被告会社も共有しており、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は原告の著作権の侵害行為には当たらない旨、主張しました。

この点について、裁判所は、本件合意書には原告と被告会社の共同事業についての記載があるものの、原告及び被告会社のいずれも本件合意書に押印していないこと、また、本件証拠上、他に本件共同事業の合意が原告と被告会社との間でされたことを直接裏付ける契約書、合意書その他の書面は提出されていないことを認定。原告から被告会社への支払金額90万5000円もおよそ本件共同事業の合意の成立を推認させるに足りないなどとして、共同事業の合意の成立を否定しています(5頁以下)。

結論として、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は、原告の著作権の侵害行為に該当すると判断されています。

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2 被告Aに対する請求の可否

原告は、本件の首謀者は被告Aであり、被告会社は税務対策上の名義会社にすぎないのであって被告A個人の責任を追及するのは当然であるとして、被告Aに対しても差止め及び損害賠償の請求を求めましたが、裁判所は、本件証拠上、被告A自身が被告商品を輸入、複製、頒布した事実はこれを認めるに足りず、被告会社の法人格を否認すべきほどの事情も見当たらないとして原告の主張を認めていません(8頁以下)。

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3 原告の損害額

原告は、被告らが被告商品を計1万5000枚販売し、小売販売価格1枚500円、卸価格325円(小売販売価格の65%)、製造・販売に要する経費額55円(1枚あたり)として、被告商品1枚あたりの利益額は270円と算定。
被告らの著作権侵害行為により原告の被った損害の額は、405万円(270円×1万5000枚)を下回らないと主張しました(著作権法114条2項)。
この点について、裁判所は、原告は主張を裏付ける客観的資料を何ら提出しておらず、本件証拠上も被告会社の具体的な利益額及び販売数量をうかがわせる証拠は見当たらないとして、被告会社の自認する利益額及び販売数量から15万3000円(利益額17円×販売数量9000枚)と認定しています(9頁)。

結論として、被告会社に対する112条1項に基づく被告商品の複製及び販売の差止めと民法709条に基づく15万3000円の限度で認容されています。

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■コメント

原告と被告会社との間では、「三人の騎士」作品についても判決が出ていています(後掲ブログ記事参照)。また、本件と同日に裁判所サイトで公開された「白雪姫」作品に関する事案(平成26(ワ)4972、平成25(ワ)32465 )も両社が関連するものです。

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■過去のブログ記事

2015年03月30日記事
アニメ映画「三人の騎士」DVD事件

2015年04月13日記事
アニメ「三人の騎士」DVD事件(対コスミック出版)
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2015年09月10日

カラオケ装置リース業者破産免責事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

カラオケ装置リース業者破産免責事件

大阪地裁平成27.8.27平成24(ワ)9838著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      田原美奈子
裁判官      大川潤子

*裁判所サイト公表 2015.9.8
*キーワード:カラオケ、リース、ジャスラック、破産、免責、悪意、非免責債権

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■事案

破産により免責が確定したカラオケ装置リース業者の元代表者の行為が破産法上の悪意で加えた不法行為にあたり、非免責債権に該当するかどうかが争点となった事案

原告:日本音楽著作権協会
被告:カラオケ装置リース業者元代表者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 破産法253条1項2号

1 破産法253条1項2号の「悪意」

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■事案の概要

『本件は,音楽著作物(歌詞・楽曲)の著作権者から信託を受けて,音楽著作物を管理している原告が,カラオケ装置のリース業者(以下「リース業者」という。)である株式会社ミューティアル(以下「訴外会社」という。)の代表者であった被告に対し,著作権(演奏権,上映権)侵害を理由として,民法709条に基づき4012万2390円(著作物使用料相当額3647万4900円及び弁護士費用相当額364万7490円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお,本件訴訟では,当初,訴外会社も被告とされていたが,その後両者ともに破産手続が開始したことから,原告は,訴外会社に対する訴えを取り下げるとともに,免責が確定した被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を,悪意で加えた不法行為(破産法253条1項2号)に基づく損害賠償請求であると主張するようになった。』
(1頁以下)

<経緯>

H14 被告が訴外会社設立
H23 原告が訴外会社に警告
H24 本件訴訟
H26 訴外会社、被告が破産手続開始決定を受ける
    破産手続廃止決定及び免責許可決定、確定
    原告が訴外会社に対する訴えを取り下げ

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■判決内容

<争点>

1 破産法253条1項2号の「悪意」

原告は、被告はリース業者の負うべき注意義務を熟知しながら故意に無視しており、また、その行為態様は道義的に非難されるべき悪質なものであり、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、破産法253条1項2号にいう被告が「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」というべきであると主張しました(9頁以下)。

この点について裁判所は、破産法253条1項3号に、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」とあることに鑑みると、同項2号の「悪意」が「故意」と異なる内容を含むことは明らかであって、したがって「悪意」は単なる「故意」を超えた、権利侵害に向けた積極的な害意を意味するものと解するのが相当であると説示した上で、本件について検討。
故意により注意義務を怠る経営をし、リース先の無許諾店舗でなされる著作権侵害に加功していたとみるのが相当であるとしつつも、
「確かに被告の一連の対応が,いずれもリース会社としての対応如何で避けられ得る著作権侵害がなされることを全く意に介していないとして非難されるべきことは否定できないが,訴外会社ひいては被告にとっては,リース先との契約を増やして利益を増大させることに意味があるのであって,それ以外に原告の管理する著作物の著作権を侵害することそのもの自体に意味があるとは考え難いところである。」として、自らの利益増大の目的を超えて原告に対する害意があったとまでは認めがたいと判断。
本件において被告に成立が認められ得る不法行為をもって「悪意で加えた不法行為」というには足りないとして、原告の主張を認めていません。

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■コメント

カラオケ機器リース先無許諾店舗が116店舗にも及ぶ悪質なリース会社よる著作権侵害事案ですが、単純な故意にすぎないとして破産免責で逃げられる(非免責債権にあたらない)という点で、破産法の解釈論としてはともかく、具体的なあてはめとしては、たいへん残念な結果の判断となっています。

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■参照条文

破産法
(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
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2015年08月19日

化粧品タレントコラボ企画契約事件−著作権 名誉回復措置並びに損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

化粧品タレントコラボ企画契約事件

東京地裁平成27.6.25平成26(ワ)19866名誉回復措置並びに損害賠償請求事件PDF
別紙PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      藤原典子

*裁判所サイト公表 2015.08.13
*キーワード:写真、著作物性、著作者、複製、送信可能化、同一性保持権、謝罪広告

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■事案

化粧品販売会社とタレントのコラボ企画契約終了後の写真やコラムの利用について紛争となった事案

原告:タレント
被告:化粧品企画販売会社代表者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、20条、21条、23条、115条

1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者
2 同一性保持権侵害性
3 損害論
4 謝罪広告の要否

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■事案の概要

『本件は,別紙原告著作物目録記載1〜17の各写真(以下,これらを「本件各写真」と総称し,各写真を目録記載の番号により「本件写真1」などという。)及び同18〜25の各コラム(以下「本件各コラム」と総称する。)の著作者であると主張する原告が,被告に対し,(1)被告が本件各写真をパンフレット及びウェブサイトに掲載したことが原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(使用料相当額)80万円の支払を求め,(2)被告が本件各コラムに付されていたタイトルを変更したことが原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(慰謝料)100万円の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求めた事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H24.09 原告が本件会社の女性用ローション(本件商品)販促写真を撮影
H24.11 原告と本件会社が顧問契約
H25.02 原告がイベントを撮影
H26.05 原告が顧問契約解除通知
H26.06 被告が本件各コラムのタイトルを変更

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■判決内容

<争点>

1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者

(1)本件写真(5ないし17)の著作物性

タレントである原告は、メンタル心理カウンセラーの知識経験を活かして被告が代表を務める本件会社が展開する事業の商品開発やPR業務における助言、支援及びこれに付随する業務を行うことを内容とする顧問契約(顧問料月額20万円)を本件会社と締結していました。
この業務のなかで原告は、本件会社が主催あるいは出店するイベントの会場を写真撮影していました(本件写真5ないし17)。
被告は、本件写真5ないし17はスナップ写真にすぎず著作物とは認められないと反論しましたが、裁判所は、

「原告は,本件写真5〜17の撮影に当たり,写真を撮影する目的を踏まえて撮影対象を選び,背景,構図,撮影のタイミング等に工夫を加えて撮影しており,その画面上に原告の個性が表現されているということができる。したがって,これら各写真は原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有すると認めるのが相当である。」(10頁)

として各写真の著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています。

(2)本件写真(5ないし17)の著作者

被告は、これらの写真は原告が本件会社の業務として被告の補助者的立場で撮影したものであるから原告が著作者であるとはいえないと反論しましたが、裁判所は、原告がこれらを撮影しているとして、被告の主張を認めていません(10頁以下)。

結論として、本件写真1ないし4を含め、本件顧問契約終了後の被告による本件各写真のパンフレット及びウェブサイトへの掲載は、原告の複製権及び送信可能化権を侵害すると判断されています。

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2 同一性保持権侵害性

本件各コラムは、原告と被告が本件各コラムの各回のテーマに沿うアンケートの内容を打ち合わせ、原告の提案を一部被告が修正したアンケート項目について、本件会社がインターネットを利用してアンケートを実施し、原告は、被告から提供を受けたアンケート結果を踏まえてメンタル心理カウンセラーとしての知識経験を生かしながら文章部分を作成していました。
本件各コラムは、文章部分とアンケート結果を示すグラフ部分から構成されており、タイトルが付されていて、文章部分にはプロローグ、心理テスト(アンケート項目)、アンケート結果の紹介、心理分析等が含まれていました。
本件各コラムのタイトル変更について、裁判所は、本件各コラムは、文章部分を主、グラフ部分を従とするウェブサイト上の記事であり、文章部分を執筆した原告が著作者であり、被告によるタイトル変更は原告の意に反していることは明らかであると判断。
被告の行為は、著作物の題号を著作者の意に反して改変したものとして、原告の同一性保持権侵害(20条1項)に当たると判断しています(11頁以下)。

   --------------------

3 損害論

(1)著作権侵害による損害額

本件顧問契約終了後の被告による本件各写真の複製権及び送信可能化権侵害に関わる使用料相当額の損害金について、裁判所は、本件写真1ないし4(原告の著作物であることについて争いはない)については、パンフレット利用といった用途、画質等に照らして1枚当たり1万円と認定。これに対して、本件写真5ないし17については、撮影目的及び被写体の性質上、本件会社のウェブサイトへの掲載以外の使途がない等の事情に鑑みて1枚当たり5000円と認定しています(13頁以下)。
結論として、著作権侵害による原告の損害は、合計10万5000円(1万円×4枚+5000円×13枚)と判断されています。

(2)著作者人格権侵害による損害額

被告による本件各コラムのタイトル変更に関わる著作者人格権(同一性保持権)侵害による慰謝料について、裁判所は、被告がタイトルを変更したのは本件顧問契約が被告による顧問料不払等を理由に解約され、原告から本件各コラムを削除するよう要求された後のことであり、被告の行為は軽率かつ不適切とのそしりを免れないものの、変更の具体的内容は変更後の各タイトルは特段不適切な表現ではない上、従前のタイトルと全く異なっているというものではないこと、さらに、変更前のタイトルも原告の提案に被告の修正が取り入れられていたといった作成の経緯も勘案して、慰謝料として10万円が認定されています(14頁以下)。

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4 謝罪広告の要否

原告は、名誉回復措置として謝罪広告掲載を求めましたが、裁判所は、本件において原告が主張する著作者人格権侵害は本件各コラムのタイトルを変更した行為のみであり、変更の程度が小さなものであること、そして、こうした変更により原告の社会的な評価ないし声望が害されていることをうかがわせる証拠もないとして、原告の謝罪広告の掲載を求める請求は理由がないと判断されています(15頁)。

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■コメント

タレントと化粧品販売会社との間のコラボ企画について、業務委託契約が終了したあとの写真やコラムの取扱いが争点となった事案です。
通常、商品販促目的のタレントコラボ企画の契約では、契約終了に伴ってタレントのパブリシティは一切使用できなくなるため、別段の取り決めがない限り、タレント提供の画像や文章の使用は契約後は困難となります。
なお、どのような企画だったのか知りたいところですが、別紙にコラムのタイトル一覧が掲載されているためネット検索をしてみましたが、問題となったコラムにたどり着くことができませんでした(原告は法人を相手に提訴しておらず、その点からも情報不足でした。もしかしたら、ですが、原告画像にユリが入っていること、女性用ローションが対象商品であることから、「女性のためのラブローション」商品に関する企画だったかもしれません)。
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2015年08月17日

字幕制作ソフト事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

字幕制作ソフト事件

東京地裁平成27.6.25平成25(ワ)18110損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官      廣瀬達人
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2015.8.12
*キーワード:退職従業員、プログラム、複製、翻案

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■事案

退職従業員による字幕制作用ソフトウェアの複製、翻案が争点となった事案

原告:字幕システム開発会社
被告:字幕制作ソフト開発会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条

1 被告プログラムは原告プログラムを複製又は翻案したものであるか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告の製造,販売する「Babel」という名称の字幕制作用ソフトウェア(以下「被告プログラム」という。)は,被告が原告の著作物であるプログラムを複製又は翻案したものであるから,被告が被告プログラムを製造,販売することは原告の著作権(具体的には,複製権,翻案権ないし譲渡権と解される。)を侵害する旨主張して,被告に対し,著作権法112条に基づき,被告プログラムの複製や販売等の差止め及び同プログラムの廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償金4844万1393円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(平成25年7月20日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H14.04 Softradeから原告が旧SSTのライセンス取得
H18    原告がSSTG1を完成
H22    原告元開発責任者Bが被告に従業員として勤務
H22    被告が被告プログラム開発
H24    被告が被告プログラムを展示会で展示
H25.02 被告が被告プログラムを販売
H25.03 被告プログラムのソースプログラム等を対象とする証拠保全決定
H25.05 13の被告プログラムのソースプログラムを対象とする証拠保全決定

被告プログラム:「Babel」

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■判決内容

<争点>

1 被告プログラムは原告プログラムを複製又は翻案したものであるか

被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したものであるかについて(11頁以下)、裁判所は、

・原告プログラムのTemplate.mdbのファイルデータを複製したことについては当事者間に争いがない。
また、本件プログラムのバグ(エクセルファイルをxlsx形式で処理する際のエラーメッセージの点)等の類似性から、被告プログラムが原告プログラムを翻案したものであることを弱いながらも一定程度推認させる。

としつつも、

・原告プログラムと被告プログラムそれぞれの具体的表現が不明である。
・両者の機能やユーザーインターフェイスには一定程度の相違点がある。

といった点から、裁判所は、被告プログラムが原告プログラムの表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができる著作物ではない可能性が十分にあると判断。
本件全証拠に照らしても被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したものであることを認めるに足りないとして、原告の主張を認めていません。

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■コメント

原告プログラムは、映画やDVD等の字幕制作ソフトウェア市場において業界標準となっているソフトで、販売価格は基本編集機能が税込29万4000円、高等編集オプションが税込19万9500円といったものでした。これに対して、被告プログラムも原告プログラムと同等の機能を目標として開発され、基本バージョンの販売価格は税込15万7500円といった価格設定となっています(2頁以下)。
本件訴訟は退職従業員も関わる事案なのですが、不正競争防止法は争点となっていません。もっとも、原告プレスリリースによると、別訴で対応しているようです。

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■参考サイト

原告会社プレスリリース
株式会社フェイス(字幕制作ソフト「Babel」開発・販売元)を東京地方裁判所に提訴しました。
(2013年7月11日)
株式会社フェイスとの著作権侵害訴訟第一審判決について(2015年7月6日)

被告会社プレスリリース(2015年6月30日)
株式会社カンバスからの著作権侵害訴訟で勝訴


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■追記(2015.08.18)

企業法務戦士の雑感(2015.08.12)
プログラムをめぐる著作権侵害訴訟の難しさ
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2015年08月14日

不動産実測図事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

不動産実測図事件(控訴審)

知財高裁平成27.8.5平成27(ネ)10072損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2015.08.11
*キーワード:不動産実測図、測量図、図面、著作物性

原審:横浜地裁横須賀支部平成26年(ワ)第371号

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■事案

訴状に添付された不動産の実測図の著作物性が争点となった事案

控訴人(1審原告) :個人
被控訴人(1審被告):個人

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号

1 本件実測図の著作物性

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■事案の概要

『本件は,被控訴人が,控訴人に対する民事訴訟の訴状に添付するために,控訴人の作成した現況実測図(以下「本件実測図」という。)を控訴人に無断で複製し,本件実測図についての控訴人の著作権(複製権)を侵害したとして,控訴人が,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として50万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,本件実測図は著作物に該当するものと認められないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。』(1頁以下)

<経緯>

H26.03 控訴人が本件土地の現況実測図を作成
H26.07 被控訴人が本件土地の賃貸借契約解除、建物収去土地明渡等請求訴訟提起

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■判決内容

<争点>

1 本件実測図の著作物性

控訴人は、本件実測図は万人が一目瞭然に現場の状況の把握等ができるように公知の事実又は一般常識に属する事柄についても具体的に表現したものであり、一般的に他者が本件土地の測量図を作成する場合と対比しても作成者である控訴人の個性が発揮されており、控訴人の思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)であるとして、「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」(10条1項6号)に該当する旨主張しました(4頁以下)。
本件実測図は、本件土地を測量したものでその面積を求積した結果を示した「現況実測図」という名称の縮尺250分の1の測量図であり、本件土地と隣地との筆界点及びその座標、各土地上の建物、構築物等が図示され、また、本件土地の面積が「90.66895平方メートル」、「27.42坪」であること及びその「求積表」などが示されているものでした。
この点について、裁判所は、測量の対象とされた本件土地に係る情報の取捨選択、その作図上の表示方法及び表現内容のいずれにおいてもいかなる点で作成者である控訴人の個性が本件実測図に発揮されているか、控訴人による具体的な主張立証がないとして、控訴人の主張を認めていません。

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■コメント

土地の測量図の著作物性が争点となった事案ですが、本人訴訟ということもあって、争点らしい争点もない事案です。
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2015年08月13日

芸能プロダクション専属契約事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

芸能プロダクション専属契約事件

東京地裁平成27.7.16平成25(ワ)32688損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      藤原典子

*裁判所サイト公表 2015.8.5
*キーワード:芸能プロダクション、専属契約、移籍金

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■事案

芸能プロダクションからタレントが独立する際の移籍金の支払いの要否や衣装の所有権の帰属などが争点となった事案

原告:芸能プロダクション
被告:芸能人、芸能プロダクション

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法415条

1 債務不履行の有無
2 本件衣装の所有権侵害の有無
3 本件譜面の所有権侵害の有無
4 本件衣装の著作権侵害に基づく差止請求の可否
5 本件譜面に係る音楽著作権に基づく差止請求の可否
6 被告X1に対する貸付けの有無
7 被告X1への立替金の有無
8 被告会社に対する貸付けの有無
9 被告会社への立替金の有無

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■事案の概要

『本件は,芸能プロダクションである原告が,(1)芸能人である被告X1と専属的所属契約を締結していたところ,被告X1が同契約を一方的に破棄して独立し,被告会社も被告X1と共同して上記独立を敢行したとして,被告らに対し,債務不履行に基づく損害賠償金(移籍金相当額)1億3554万8125円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の連帯支払,(2)被告らが上記独立に当たり原告の所有する本件衣装及び本件譜面を無断で持ち出し原告の所有権を侵害したとして,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償金(各製作費相当額)合計5170万1928円及びこれに対する不法行為の後の日である平成24年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,(3)原告は本件衣装の著作権者であり,上記無断持出し等の後も被告X1は芸能活動を継続しており被告らによる著作権侵害のおそれが生じているとして,被告らに対し,著作権に基づく侵害予防請求として,本件衣装の複製,展示,譲渡,貸与及び変形の差止め,(4)原告は本件譜面に係る音楽の著作権者であり,上記無断持出し等の後も被告X1は芸能活動を継続しており被告らによる著作権侵害のおそれが生じているとして,被告らに対し,著作権に基づく侵害予防請求として,本件譜面の複製,演奏,展示,譲渡,貸与及び編曲の差止め,(5)被告X1に金員を貸し付け,また,被告X1が支払うべき債務を立替払したとして,被告X1に対し,貸金返還請求として300万円及び立替金返還請求として324万5050円並びにこれらに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(6)被告会社に金員を貸し付けたとして,被告会社に対し,貸金返還請求として1000万円及びこれに対する貸付けの日である平成14年2月27日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払,(7)被告会社が支払うべき債務を立替払したとして,被告会社に対し,立替金返還請求として776万2361円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。
』(2頁以下)

<経緯>

S63.10 原告設立(代表者X2)
H24    出演者報酬未払い
H24.07 3者で本件覚書締結
H24.08 記者会見、ABプロ設立、衣装移動
H24.09 本件所属契約終了

・本件覚書の内容

(1)ABプロは原告及びX2の負債について責任を負わない
(2)X2はABプロの顧問としてABプロの利益となることを全面的に協力
(3)ABプロは原告及びX2に対し必要な調査を行うことができる
(4)ABプロ、原告及びX2は本件に関する情報を他者に漏らさない

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■判決内容

<争点>

1 債務不履行の有無

原告は、芸能人である被告X1が原告の了解なく一方的に独立したものであるとして、本件所属契約の債務不履行に当たる旨主張しました(25頁以下)。

この点について、裁判所は、
(1)新たに設立されるプロダクションの名称が原告の略称と酷似しており、本件事務所を引き続き使用するとされたこと
(2)原告が平成24年7月下旬以降全従業員を退職させ、本件事務所の賃料の支払をやめ、社用車の売却手続を行うなど、原告の廃業に向けた手続が対外的にも見える形で種々進んでいたこと
(3)被告X1は原告の唯一の所属タレントであり、原告の収入は専ら被告X1の出演料だったのであり、原告の財務状況が悪化し従業員給与や被告X1への報酬の未払、本件事務所の賃料支払の遅滞等も生じていた状況下で、被告X1がABプロに移籍してもなお原告を存続させるべき理由は見当たらないこと

といった点から、被告X1がABプロに移籍して原告を廃業することは本件覚書の当事者である原告はもとより、被告らも当然に了解していたと解されるとして、本件独立はこれに従ったものであるとして、原告は被告X1による本件独立に同意していたと判断。
本件所属契約の債務不履行の成立を否定しています。

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2 本件衣装の所有権侵害の有無

本件衣装の保管場所が旧倉庫から新倉庫に移転されており、原告はこれにより原告の所有権が侵害された旨主張しました(27頁以下)。
しかし、裁判所は、原告は本件衣装を旧倉庫から新倉庫へ移動させることを承諾してしており、また、従前被告X1の所属事務所として原告が行っていた本件衣装の管理が、新たな所属プロダクションであるABプロに引き継がれたとみることができると判断。
本件衣装の所有権侵害の成立を否定しています。

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3 本件譜面の所有権侵害の有無

本件譜面は現在も本件事務所に保管されているとして、被告らが本件譜面を持ち出したとは認めらず、本件譜面の所有権侵害の成立が否定されています(27頁以下)。

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4 本件衣装の著作権侵害に基づく差止請求の可否

原告は、本件衣装が美術の著作物に当たること及び原告がその著作権者であることを前提に、被告らに対し本件衣装の複製、展示、譲渡、貸与及び変形の差止めを求めました(28頁)。
この点について、裁判所は、
(1)本件衣装の無断持ち出しではないこと
(2)本件独立が原告の同意に基づくものであること
(3)被告X1が現在も歌手として芸能活動を継続していることは、被告X1が本件衣装を着用する可能性があることは格別、複製、譲渡、貸与又は翻案するおそれがあることを基礎づけるとみることはできないこと
(4)着用が美術の著作物の展示に当たるとみる余地があるとしても、原告はこれを許諾していたといえること

といった点から、本件衣装に著作物性が認められ、原告がその著作権者であるとしても、原告の本件衣装の著作権侵害に基づく差止請求は理由がないと判断しています。

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5 本件譜面に係る音楽著作権に基づく差止請求の可否

原告は、編曲物である別紙譜面目録記載の各音楽について著作権を有する旨主張しましたが、裁判所は、原曲と対比していかなる部分に編曲物としての創作性があるのかについて原告は何ら主張立証をしないとして、原告の本件譜面に係る音楽の著作権に基づく差止請求は理由がないと判断しています(29頁)。

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6 被告X1に対する貸付けの有無

原告は、平成15年3月31日に被告X1に対し300万円を弁済期の定めなく貸し付けた旨主張しましたが、原告の主張は認められていません(29頁以下)。

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7 被告X1への立替金の有無

被告X1の依頼を受けた原告による花代金の立替払いの有無について、裁判所は、原告が負担する旨の合意を認定し、原告の被告X1に対する立替金請求を認めていません(30頁)。

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8 被告会社に対する貸付けの有無

原告は、平成14年2月27日に被告会社に対し1000万円を弁済期の定めなく貸し付けた旨主張しましたが、裁判所は、原告の被告会社に対する貸金返還請求を認めていません(30頁以下)。

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9 被告会社への立替金の有無

原告は、被告会社の依頼を受けて被告会社所有のロールスロイスに係る費用(自動車保険料、修理代金等、駐車場賃料)の立替払をしたとして、被告会社への立替金の請求をしました。
この点について、裁判所は、原告は所属タレントである被告X1が使用する本件ロールスロイスに係る諸費用を被告X1のイメージを高め、あるいは維持するための経費として自ら負担することとして支払っていたと判断。原告の被告会社に対する立替金請求は理由がないと判断しています(31頁以下)。

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■コメント

美川憲一さんの所属事務所変更に伴う移籍金の支払いの要否などが争点となった事案です。
関係者間での覚書の内容として移籍金の件が言及されていなかったという点では、裁判所も合意書面を重視した判断を行っています。
原告芸能事務所の財務状況の悪化をきっかけにした移籍問題ですが、芸能事務所の経営もなかなかにたいへんであることが伝わります。

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■参考サイト

原告会社プレスリリース(2013年12月12日)
美川憲一氏に対する訴訟提起について

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2015年07月31日

1級建築士受験テキスト事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

1級建築士受験テキスト事件

東京地裁平成27.7.16平成26(ワ)26770損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      中嶋邦人

*裁判所サイト公表 2015.7.28
*キーワード:受験テキスト、複製、翻案

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■事案

資格試験予備校が発行する1級建築士受験テキストの複製翻案等が争点となった事案

原告:資格試験予備校運営会社
被告:資格試験予備校運営会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条

1 複製権及び翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,別紙原告書籍目録記載の書籍(以下,それぞれを同別紙の番号により「原告書籍1」などといい,これらを「原告各書籍」と総称する。)の著作権及び著作者人格権を有するところ,被告による被告各書籍の発行が原告各書籍に係る原告の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づく被告各書籍の発行等の差止め,(2)民法709条に基づく損害賠償金7623万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である平成26年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁以下)

原告書籍:「平成25年度 1級建築士設計製図受験テキスト」など
被告書籍:「建築士講座 2013年目標 1級建築士 新体系テキスト 設計製図」など

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■判決内容

<争点>

1 複製権及び翻案権侵害の成否

被告各書籍の各表現が原告各書籍の各表現を複製ないし翻案したものかどうかについて、裁判所は、まず、複製ないし翻案の意義について触れた上で、複製権等の侵害について検討を加えています(5頁以下)。
結論として、23点に及ぶ原告各表現は、いずれも、ありふれているか、アイデア部分、事実部分である(原告表現20については、依拠性を否定)などとして、創作性がある部分での同一性などは認められないと判断。複製権及び翻案権侵害の成立を否定しています。

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2 同一性保持権侵害の成否

被告各表現は原告各表現の複製又は翻案のいずれにも当たらないことから、複製権又は翻案権の侵害を前提とする同一性保持権侵害の主張も認められていません(13頁)。

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■コメント

予備校の一級建築士資格取得講座で使用されたテキストの複製性、翻案性が争点となった事案ですが、オリジナルの一級建築士本試験問題から大きく離れることができない試験問題再現受験対策本制作という制約のなかで、独自の表現、創作といっても(一般不法行為論による保護は別として)著作権での保護は限界があるのではないかと思われるところです。

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2015年07月13日

「サンダーストーム」ゲームソフト原盤使用許諾契約事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「サンダーストーム」ゲームソフト原盤使用許諾契約事件

東京地裁平成27.6.26平成26(ワ)9738損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2015.7.8
*キーワード:ゲーム音楽、原盤譲渡契約、原盤制作契約、原盤使用許諾契約

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■事案

ゲームソフトBGM楽曲使用許諾契約に基づく販売状況等が争点となった事案

原告:作曲家
被告:アニメ制作会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法

1 被告に本件契約の債務不履行があるか
2 被告に争点1以外の債務不履行ないし著作権法違反行為があるか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,原告と被告とは,昭和60年4月10日付けで,原告が作曲し,原盤に録音した別紙著作物目録記載の4曲の楽曲(以下「本件楽曲」という。)について,被告がホームユースゲーム用VHDソフト「サンダーストーム」のバック・グラウンド・ミュージックとして使用することを許諾する旨の使用許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結したが,(1)本件契約においては出庫枚数を3000枚に限定して著作権使用料15万円が支払われたところ,被告は,この枚数を7000枚超えて販売し,その債務不履行に基づき原告に損害を与え,さらに,(2)ホームユース用でない,ゲームセンター用アーケード方式の「サンダーストーム」としても8000台が販売され,(3)「サンダーストーム」の海外版である「Cobra Command」としての販売もされ,(4)さらにレーザーディスク用ゲームにも複製されて販売され,(5)「サンダーストーム」及び「Cobra Command」として多数の違法ダウンロードもされたところ,これら(2)ないし(5)につき,被告には原告との本件契約以外の契約関係に基づく債務不履行,あるいは,著作権ないし著作隣接権侵害行為等があるところ,これら(1)ないし(5)に基づく原告の損害につき,一部請求分を含む原告の請求額はそれぞれ,(1)35万円,(2)2500万円,(3)2500万円,(4)1000万円,(5)500万円であり,これに弁護士費用100万円を加えた合計6635万円及びこれに対する平成26年5月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

S58.06 原告を代表者とするミュージックメイカーズ、原告を実演家代表者とするTAO、ワーナーで原盤譲渡契約(本件原盤譲渡契約)締結
S58.12 被告とデータイーストがビデオディスクゲームソフト基本契約締結
S59.02 ワーナーと被告がTAO原盤使用(アーケード用ボックスゲーム向け)覚書締結
       ミュージックメイカーズ設立登記
       ミュージックメイカーズと被告が原盤制作契約(ビデオディスクゲーム向け)締結
S60.02 被告とデータイーストが「サンダーストーム」覚書(ビデオディスクゲーム向け)締結
       原告がワーナーに対し本件原盤譲渡契約終了通知
S60.04 原被告間で「サンダーストーム」BGM楽曲使用許諾契約(本件契約)締結
H01.12 ミュージックメイカーズ解散
H15    データイースト破産。原告がデータイースト保有知的財産権一式を破産管財人から取得
H22.10 原告が被告に問い合わせ
H22.12 被告が原告に回答
H24.01 原告が被告に通知
H24.08 原告が被告に通知
H24.10 被告が原告に質問通知
H26.04 原告が本訴提起

【楽曲】
(1)サンダーストーム
(2)ビル街
(3)ジャングル
(4)要塞

【ゲーム名称】
「サンダーストーム」
海外版名「Cobra Command」

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■判決内容

<争点>

1 被告に本件契約の債務不履行があるか

原告は、被告が本件契約4条に定められたVHD方式カートリッジ「サンダーストーム」出庫枚数である3000枚を超えて、さらに7000枚を販売したことについて被告には債務不履行が存すると主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、原告は被告により3000枚を超えて出庫されたことについて、何らの証拠を提出しておらず、本件記録を精査してもこれを認めるべき証拠は見当たらないと判断。被告による本件契約の債務不履行に係る原告の主張には理由がないと判断しています。

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2 被告に争点1以外の債務不履行ないし著作権法違反行為があるか

(1)著作権侵害等の成否

原告は、アーケード方式によるサンダーストームの販売やサンダーストームの海外版名「Cobra Command」としての販売、ホームユースゲーム用サンダーストームのレーザーディスクゲーム等への複製、移植、サンダーストームないし「Cobra Command」の違法なダウンロードについて、被告には著作権ないし著作隣接権侵害の不法行為が存すると主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、これらの原告の主張する行為については、被告によりそれら著作権ないし著作隣接権侵害が行われたことを認めるに足る証拠が原告から何ら提出されていないとして、原告の主張を認めていません。
また、これら行為の債務不履行の成否についても、これらの行為につき被告が原告との間で契約上の責任を負うとする何らの根拠もないとして、裁判所は原告の主張を認めていません。

(2)その他の契約関係

原告は、ワーナーとミュージックメイカーズとの間の本件原盤譲渡契約のほか、被告とミュージックメイカーズとの間の原盤制作契約等、本件楽曲に関する契約関係が原告に承継されたとして、これによれば被告は本件楽曲やその原盤について、他の媒体等に使用されないように管理、把握、是正すべき義務を負う旨主張しました。
この点についても、裁判所は、本件原盤譲渡契約、原盤制作契約等、本件楽曲に関する契約について、これら契約上の地位が原告に承継されるとする根拠を欠くとして、原告の主張を認めていません。

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■コメント

アーケードゲーム(ゲームセンター向け業務用機器)からPC向け、家庭用VHDソフト用、レーザーディスク(LD)用にと動画が転用されたゲームソフトで、動画部分を被告が、音を原告が制作しています。
たとえば、「LDゲーム サンダーストーム  Cobra Command (Thunder Storm)」でネット検索すると、LD版、PC版の動画を視聴することができますが、内容としては戦闘ヘリコプターによるゲームとなります。

原被告間で締結された「サンダーストーム」ゲームソフトBGM楽曲使用許諾契約(本件契約)の履行状況が主争点となり、超過販売数について原告側の立証が尽くされていない結果となっています。
また、ワーナーとの関係は原告の契約終了通知によっても不明であり、また原告が代表者だった解散したミュージックメイカーズの契約上の地位は、その事後処置をしていないため、原告が当然に当事者となるわけでもなく、使用媒体違反等の点についても原告の主張が認められていません。

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2015年07月09日

大阪拘置所死刑確定者原稿事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

大阪拘置所死刑確定者原稿事件

大阪地裁平成27.6.11平成26(ワ)7683損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      田原美奈子
裁判官      大川潤子

*裁判所サイト公表 2015.7.1
*キーワード:裁判手続等における複製

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■事案

死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告の原稿について、大阪拘置所による複製行為の違法性などが争点となった事案

原告:死刑確定者
被告:国

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法42条、国家賠償法1条1項

1 本件原稿を提出させて詐取したか
2 著作権侵害性
3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか

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■事案の概要

『本件は,死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告が,(1)大阪拘置所職員等が,信書を発信する手続に際し,原告の著作物である原稿を騙して提出させた行為,(2)同職員が同原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為,(3)同職員が,その写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為,(4)同訟務部職員が同原稿の写し等に基づき書面を作成した行為が,いずれも違法な行為((2),(4)については著作権侵害行為として)であると主張し,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害金300万円及びこれに対する原告が前記原稿を提出した日である平成26年5月26日から本件の判決確定の日まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)

<経緯>

H25.04 原告が大阪拘置所長に対し原稿同封信書送付発信申請
       大阪拘置所長が不許可処分
       原告が別件不許可処分の取消しを求める訴訟を提起
       (大阪地裁平25(行ウ)96発信不許可処分取消請求事件)
H26.05 不許可処分違法取消し判決
       原告が出版社との外部交通を願い出
       大阪拘置所矯正処遇官が本件原稿の写しを作成
H26.06 被告が大阪高裁に控訴(別件控訴事件)
       P10が本件報告書作成
       原告の願意受け入れない旨の告知
       大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に本件報告書写し交付
H26.07 大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書提出

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■判決内容

<争点>

1 本件原稿を提出させて詐取したか

原告は、大阪拘置所矯正処遇官副看守長P22が本件原稿を取得した経緯が犯罪に類する行為であり違法であると主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、P22が大阪拘置所矯正処遇官P10統括の了解を得て原告に本件原稿の提出を求めた行為は、所轄の統括において発受の可否を判断するために本件原稿を必要があると認めて本件原稿を提出させた行為と評価でき、刑事収容施設法139条1項により当然に発受できない信書の発信を求める本件願箋への対処として適法なものであると判断。
原告の主張を認めていません。

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2 著作権侵害性

原告は、大阪拘置所職員等が本件原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為や大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書を作成した行為がいずれも原告が本件原稿について有する著作権を侵害する違法な行為である旨主張しました(14頁以下)。
この点について、裁判所は、P10統括の本件原稿の写しの作成については、著作権法42条1項本文に定める「行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」に該当すると判断。
また、本件原稿の写しを利用した別件控訴理由書の作成については、本件報告書作成行為そのものは判読が困難な自筆のものを簡潔かつ正確に報告するための複製であること、そして、本件報告書は別件控訴事件に提出するために作成されたものであり、その作成のためにした複製行為は著作権法42条1項本文に定める「裁判手続のために必要と認められる場合」に該当すると判断。同項但書も問題とならないとして、原告の主張を認めていません。

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3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか

原告は、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して本件原稿の写しを交付した行為が財産権あるいは信書の秘密を侵すなどとして違法である旨主張しました(17頁以下)。
この点について、裁判所は、大阪拘置所の在監者が国を相手として同拘置所における処分の取消しを求める訴訟を提起した場合、大阪拘置所長が国の指定代理人である大阪法務局訟務部職員に対して同拘置所長が訴えに関する事実関係や背景事情等について意見を述べ、参考となる資料を交付する行為は、自らの所管する事務について訴訟が提起された行政庁として当然なすべき行為であること、また、大阪拘置所も大阪法務局も、いずれも国家行政組織の一機関にすぎないことから、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して資料を交付する行為等は行政庁内部の事務手続にすぎないと判断。
大阪拘置所長が本件原稿の写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為は、適法な職務の一部であって原告の財産権に対する侵害や信書の秘密に対する侵害とはならないと判断しています。

結論として、大阪拘置所職員等の行為が違法な行為であることを理由とする国家賠償法1条1項に基づく原告の損害賠償請求は認められていません。

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■コメント

1984年の京都・大阪連続強盗殺人事件で死刑判決が確定した神宮(旧姓広田)雅晴死刑囚が原告の事案です。
原稿を出版社に送ることを認めなかった大阪拘置所の処分が不当だとして提起した別件訴訟の一審では、不許可処分は違法であるとして取り消す旨の判決が出ていましたが、控訴審では原告の請求が棄却されています。
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2015年07月07日

「プロ野球ドリームナイン」ソーシャルゲーム事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「プロ野球ドリームナイン」ソーシャルゲーム事件(控訴審)

知財高裁平成27.6.24平成26(ネ)10004損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽楼
裁判官      大寄麻代
裁判官      岡田慎吾

*裁判所サイト公表 2015.6.26
*キーワード:著作物性、複製、翻案、一般不法行為論

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■事案

プロ野球トレーディングカードを題材としたSNSゲームの類否が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :エンタテインメントコンテンツ企画制作会社
被控訴人(1審被告):コンテンツ制作配信会社

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、民法709条

1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか
2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか
3 損害額

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■事案の概要

『本件は,「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(以下「控訴人ゲーム」という。)をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供・配信している控訴人が,「大熱狂!!プロ野球カード」というタイトルの原判決別紙ゲーム目録記載のゲーム(以下「被控訴人ゲーム」という。)を提供・配信している被控訴人に対し,主位的には,(1)被控訴人が控訴人ゲームを複製又は翻案して,被控訴人ゲームを自動公衆送信することによって,控訴人の有する著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害していることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求,又は,(2)被控訴人ゲームの影像や構成等は控訴人ゲームの影像や構成と同一又は類似しているから,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争に該当することを理由とする不競法4条に基づく損害賠償請求として,被控訴人に対し,5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに弁護士費用相当額として260万円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,(3)著作権112条1項又は不競法3条の規定に基づき被控訴人ゲームの配信(公衆送信,送信可能化)の差止めを求めるとともに,予備的に,(4)被控訴人ゲームの提供・配信は,控訴人ゲームを提供・配信することによって生じる控訴人の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張して,民法709条に基づく損害賠償請求として1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,原審における上記(1)及び(4)の各請求を棄却した部分を不服として,控訴人が本件控訴をした。控訴人は,上記(2)及び(3)の各請求を棄却した部分については不服を申し立てておらず,したがってこれらの請求については,当審の審理の対象となっていない。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか

(1)選手ガチャにおける著作権侵害の成否について

控訴審は、まず、著作権法2条1項1号の著作物性、同項15号の複製、さらに翻案の意義について言及した上で、個別表現ごとに著作権侵害の成否を検討し、さらに、ゲーム全体について著作権侵害の成否を検討しています(21頁以下)。
まず、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャ(控訴人ゲームが約2.7秒、被控訴人ゲームが約3.2秒の動画)を対比した上で、共通点については、単なる事実の表現にすぎない、あるいは、ありふれた表現にすぎないとして、創作性がないか又は表現上特徴的とはいえない表現にすぎないと判断。
両ゲームの選手ガチャは、一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し、その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものとして、両ゲームの選手ガチャに接する者が、その一連の動画全体から受ける印象は異なるものであり、被控訴人ゲームの選手ガチャから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないと判断しています。
結論として、被控訴人ゲームの「選手ガチャ」は、控訴人ゲームの複製又は翻案に当たらないと判断しています。

(2)選手カードにおける著作権侵害の成否について

控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手(中島選手、ダルビッシュ選手、今江選手、坂本選手)カードの表現について、両ゲームの選手カードで使用された写真は、日本野球機構からそれぞれが提供を受けた複数の写真の中から選択したものを使用していました。

(a)中島選手について

(ア)中島選手の本体写真について、その具体的なポーズ、大きさ及びそのカード上の配置
(イ)本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が、多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置
(ウ)本体写真の下部に本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに、全体の背景としても炎が描かれ、カード中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線(後光)が四方へ向けて描かれている
(エ)カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている

といった点で具体的表現が一致すると判断(28頁以下)。

中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
そして、被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手カードと同一のものとはいえず、別の写真を使用し、全体として金色を基調とした色味に変更することで新たな表現を加えたものといえるから、複製に当たるものとは認められないものの、控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められると判断しています。

(b)ダルビッシュ選手について

ダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
被控訴人ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、中島選手についてと同様に、控訴人ゲームのダルビッシュ選手のカードを翻案したものと認められると判断しています(30頁)。

(c)坂本選手について

控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、選手の二重表示がないため、躍動感や迫力に乏しく、放射線状の閃光もないこととあいまって、他のカードと比較すると全体的に落ち着いている印象を与える。これに対して、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、二重表示及び背景の閃光により、選手写真全体に動きと力強さが与えられており、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(30頁以下)。

(d)今江選手について

控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手がバットを立てて構えており、相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し、被控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手が既にバットを後ろに引き、相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの今江選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(31頁以下)。

その他、依拠性、過失も肯定されています。

以上から、被控訴人ゲームの中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カードは、控訴人の選手カードの翻案権を侵害したものであり、また、被控訴人は、これらの選手カードのデータをインターネットを経由して、利用者の携帯電話に送信し、これに表示させており公衆送信権を侵害したと判断されています。

(3)選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害について

控訴審においても、選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害性否定の原審の判断を維持しています(39頁以下)。
控訴審は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現にすぎないというべきであるし、共通点を全体のまとまりとしてみても、ありふれた表現の域を出ないから、これらの共通点自体が控訴人ゲームの「強化」等における具体的表現における表現上の本質的な特徴とはいえないし、仮にアイデア以外の表現部分の組合せに創作性が認められるとしてもそれ以外の具体的な表現は大きく相違するなどと判断しています。

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2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか

控訴人は、「ガチャ」、「クエスト」、「デッキ」、「バトル」、「合成」の五つの要素を絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて組み合わせている点や、野手、投手ともに能力に関連する情報を三つに絞り、情報を付与することとした点に、ゲームシステムとしての特色があり、そのような控訴人ゲームシステムは、法的保護に値すると主張しました(41頁以下)。
しかし、控訴審は、控訴人が主張するような各ゲームにアレンジして適用することが可能な「控訴人ゲームシステム」とは、ゲームのルールというアイデアというべきところ、各種知的財産権関係の法律で保護の対象とされていないそのような無形のアイデアが、不法行為上保護すべき法益と認められるためには、単に、そのようなゲームシステムと全く同一のものは従前存在せず、それが控訴人に営業上の利益を生み出しているというのみでは足りず、そのような一般に公開されているゲームシステムのルールないしアイデアを他の同業者が採用して独自にゲームを製作することが禁じられるという規範が、法的規範として肯定できるほどに成熟し、明確となっていることが必要であると説示。
この点、控訴人の主張からは、「膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして」という具体的な内容は不明であり、その立証もなく、仮にそのようなものが存在するとしても、控訴人が主張するゲームシステムが、それによって控訴人が利益を得ているということを超えて社会における法的に保護されるべき利益とされるべきような事情は認められず、そのような検討により編み出されたゲームとしての工夫が、著作権法や不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律による保護を超えて、不法行為法上の保護法益として認められるだけの特段の事情があるとは認められないと判断。
控訴人の主張を認めていません。

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3 損害額

(1)著作権法114条2項に基づく損害

114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される額について、
・被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売により被控訴人が得た利益:1541万5312円
・本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益の割合:8%

として、123万3225円(1541万5312円×0.08)と判断。その上で、さらに、114条2項の推定覆滅事由(利用者の被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択に際して選手カードの表現以外の要素が寄与している割合)としてその9割を認定。
結論として、12万3322円(123万3225円×10%)を114条2項に基づく損害として認定してます(42頁以下)。

(2)弁護士費用相当額

不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と認定されています。

結論として、合計32万3322円が損害額として認められています。

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■コメント

原審では全部棄却の判断でしたが、控訴審では一部認容の結果となりました。被控訴人ゲームの選手カードのうち、中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードについては、控訴人ゲームの選手カードの著作権(翻案権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求が認められています。
控訴人ゲームの選手カードに使用された選手の写真は、球団から提供された複数の写真(ダルビッシュ選手については数百枚、中島選手については3枚(36頁))からなので、カードのデザインについては、表現の選択の余地が狭いとも言えますが、判決文末尾にある別紙には「選手カード」の画像が掲載されていて、両社製品の比較をしてみると、一部カードについては確かに類似している印象を受けます。
原告中島選手
控訴人カード(中島選手)
被告中島選手
被控訴人カード(中島選手)

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■過去のブログ記事

原審記事
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2015年06月30日

構造詳細設計用3DCADソフト不正使用事件−著作権 債務不存在確認請求本訴事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

構造詳細設計用3DCADソフト不正使用事件

大阪地裁平成27.6.18平成26(ワ)7351等債務不存在確認請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      田原美奈子
裁判官      中山 知

*裁判所サイト公表 2015.6.24
*キーワード:確認の利益

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■事案

構造詳細設計用3DCADソフトの海賊版使用の際の損害賠償債務に関して確認の利益の有無が争点となった事案

原告:鋼構造物製品製作会社
被告:建築建設業界向けソフト開発会社

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■結論

本訴請求却下、反訴請求棄却

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■争点

1 本訴における確認の利益の有無
2 原告代表者による本訴の提起及び訴訟追行が不法行為といえるか

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■事案の概要

『本件の本訴事件は,原告が被告に対し,原告と被告との間で本件損害賠償債務が存在しないことの確認を求めた事案であり,本件の反訴事件は,原告の本訴事件の訴え提起及び訴訟追行は,原告代表者による不法行為であるとして,会社法600条に基づき損害賠償として100万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年4月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H24.08 原告がの不正コピー品であるインストール用DVDを購入
H26.06 被告担当者が原告に連絡
H26.08 原告が本訴提起
H26.11 原告が訴えの変更

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■判決内容

<争点>

1 本訴における確認の利益の有無

原告は、被告がフィンランド法人であるテクラコーポレーションの100%子会社の日本法人であり、本件ソフトウェアの著作権者であるとの理解のもと、原告の行為が被告に対する不法行為を構成し本件損害賠償債務を負うことを自認した上で、その額が15万1433円を超えて存在しないことの確認を求めて被告に対して本訴を提起しました。

これに対して、被告は、本件損害賠償債務について原告に対する損害賠償請求権を有するのは被告ではなくテクラコーポレーションであるから、本訴請求に係る訴えには確認の利益がない旨の主張をしました。
この点について、裁判所は、『確認の訴えは,その対象が無限定であること等から,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し,これを解消するために,原告と被告間で当該請求について確認判決をすることが必要かつ適切であることが認められる場合に許容される。』(8頁)と説示。

その上で、本訴については、本件ソフトウェアの著作権者がテクラコーポレーションである以上、原告が確認対象としている本件ソフトウェアの不正利用を巡る損害賠償請求権は、テクラコーポレーションに帰属すべきものとなるが、ただ、原告と被告との間では被告が上記損害賠償請求権の行使主体となって本件ソフトウェアの不正利用を巡る損害賠償債務の額について交渉がされており、しかも、上記交渉の間において上記損害賠償請求権は本来テクラコーポレーションに帰属する旨が必ずしも明確に認識されていなかった様子があった。
そして、本訴提起段階においては、被告に対する関係で本件ソフトウェアの不正利用を理由とする損害賠償債務の有無に係る原告の地位について、危険ないし不安定が存していたということができると判断。

もっとも、被告は、原告が本件損害賠償債務を負わないことを一貫して認めており、そのことは反訴提起後も確認されていることから、現在においては、原告において被告から本件ソフトウェアの不正利用に関する本件損害賠償を求められるという危険や不安定が存すると認めることはできない。

また、本件ソフトウェアの著作権者はテクラコーポレーションであり、したがって、原告はその自認する本件ソフトウェアの不正利用を理由とする損害賠償をテクラコーポレーションにしなければならないことが明らかにされている以上、原告と被告との間であえて原告が本件損害賠償債務全部を負わない旨の確認をすることが必要かつ適切であるとも認められないと判断。結論として、原告が被告に対して本件損害賠償債務の不存在の確認を求める本訴請求に係る訴えは、確認の利益がなく不適法であって却下を免れないと判断しています。

   --------------------

2 原告代表者による本訴の提起及び訴訟追行が不法行為といえるか

被告は、原告代表者が本件ソフトウェアの著作権を被告が有していないことを当然承知していた、また、容易に調査可能であったとして、本訴を提起したのは不当訴訟であり、少なくとも過失責任を負う旨主張しました(9頁以下)。

この点について、裁判所は、『訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和60年(オ)第122号損害賠償請求事件昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。』(9頁)と説示。

そして、損賠賠償の交渉において当該損害賠償請求はテクラコーポレーションが原告に対して有する損害賠償請求権に基づくものである旨の積極的説明が被告からなされなかったこと等を考慮すれば、原告が自らの損害賠償請求権を行使していると理解される被告との間で、本件損害賠償債務の額を確定する必要性を認めて本訴を提起したことが裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くとは認められないことは明らかであると裁判所は判断。

原告の本訴の提起及び訴訟追行が、不法行為を構成するとはいえず、そのことを理由とする損害賠償請求には理由がなく棄却すべきであると判断しています。

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■コメント

確認の利益を欠くとの判断で却下の結論となった事案となります。
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2015年06月25日

建築CADソフト海賊版販売事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

建築CADソフト海賊版販売事件(控訴審)

知財高裁平成27.6.18平成27(ネ)10039損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      大鷹一郎
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2015.6.23
*キーワード:損害論、使用料相当額

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■事案

ヤフオクで販売された海賊版建築CADソフトについて損害論が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :建築設計関連プログラム開発会社
被控訴人(1審被告):個人

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法114条3項

1 損害論

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人が控訴人の建築CADソフトウェア製品(製品名「DRA−CAD10」。以下「本件ソフトフェア」という。)のプログラムを一部改変したソフトウェア(以下「本件商品」という。)を本件ソフトフェアであるとしてインターネットオークションサイトに出品し,そのプログラムファイルをウェブサイトにアップロードし,落札者にダウンロードさせた行為が控訴人が有する本件ソフトフェアのプログラムの著作権(複製権,送信可能化権,翻案権)の侵害に当たるなどと主張して,被控訴人に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として1117万2000円及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『原判決は,被控訴人は,適式の呼出しを受けながら,原審の本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないので,被控訴人において控訴人主張の別紙記載の請求原因事実を自白したものとみなした上で,控訴人が著作権法114条3項に基づいて損害賠償を請求することができる控訴人の損害額は,本件ソフトフェアの標準小売価格に相当な実施料率である50パーセントを乗じて算定した558万6000円である旨認定し,同額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を被控訴人に命じる限度で,控訴人の請求を一部認容した。
 これに対し控訴人は,原判決中,控訴人敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 損害論

原審及び控訴審でも擬制自白により控訴人(1審原告)のプログラム著作物の複製権、送信可能化権、著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく損害賠償請求が認められています(7頁)。

損害論について、控訴人は、著作権法114条3項に基づく控訴人の損害額は本件商品の販売数量56本に本件ソフトウェアの標準小売価格19万9500円(消費税込み)を乗じた合計1117万2000円と認定すべきである旨主張しました。

この点について、控訴審では、
(1)業務用パッケージソフトウェア製品として顧客に直接販売等している
(2)使用許諾書の存在
(3)定価を19万9500円(消費税込み)と定めている
(4)営業担当者経由の直接販売又はオンライン販売をする場合は定価から10パーセント値引き
(5)ダウンロード販売は行っていない

といった点から、本件ソフトウェアの定価は本件ソフトウェアの使用許諾料に相当するものであり、控訴人は、顧客(ユーザー)に対し直接販売(オンライン販売を含む。)をする場合の本件ソフトフェアの使用許諾料を定価から10パーセント控除した17万9550円に設定していると判断。
本件ソフトウェアのプログラムに関する著作権の行使について「受けるべき金銭の額に相当する額」(114条3項)は、本件ソフトフェアの定価19万9500円から10パーセントを控除した17万9550円に本件商品の販売数量56本を乗じた1005万4800円と認めるのが相当であると判断しています。

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■コメント

原審では、実施料率を50パーセントとして、19万9500円(標準小売価格)×56回(ダウンロード販売数)×0.5(実施料率)=558万6000円を損害額として認定していました。
これに対して、控訴審では0.9と増額で見直されています。
海賊版販売における損害額について、控訴審では一定の理解を得られましたが、それでも定価満額での認定とはなりませんでした。

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■過去のブログ記事

原審記事

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2015年06月22日

「爆サイ中傷被害者の会(仮」発信者情報開示請求事件−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「爆サイ中傷被害者の会(仮」発信者情報開示請求事件

東京地裁平成27.5.15平成27(ワ)1107発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      本井修平

*裁判所サイト公表 2015.06.11
*キーワード:発信者情報開示、プロバイダ責任制限法

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■事案

ブログに書き込まれた無断転載写真などについて発信者情報を得るためにメールアドレスを管理する経由プロバイダに対して行われた発信者情報開示請求事案

原告:ウェブサイト制作会社
被告:経由プロバイダ事業者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 プロバイダ責任制限法4条1項

1 開示関係役務提供者該当性
2 権利侵害の明白性の有無
3 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無

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■事案の概要

『本件は,別紙記事目録に記載のURLのウェブサイト上に掲載された記事(以下「本件記事」という。)に,原告のロゴマーク(以下「原告ロゴマーク」という。)及び原告の社内風景等を撮影した複数の写真(以下,複数の写真をまとめて「本件写真」といい,原告ロゴマークと本件写真を合わせて「本件写真等」という。)が掲載されたことにより,原告の著作権が侵害されたとして,本件記事の投稿者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のため,本件発信者に係る情報の開示を受ける正当な理由があると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,単に「法」という。)4条1項に基づき,被告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

       本件記事がlivedoorブログ「爆サイ中傷被害者の会(仮」に掲載
H26.07 Line社に対する本件発信者電子メールアドレス開示請求認容判決
H26.08 原告が本件メールアドレスを管理している被告に発信者情報開示請求
H26.10 被告が本件発信者に意見照会書通知

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■判決内容

<争点>

1 開示関係役務提供者該当性

原告は、本件発信者のメールアドレスのドメイン名登録情報から被告が本件メールアドレスを管理していることを特定し、被告に対して発信者情報開示請求を行いました。
被告は、電子メール等の1対1の通信は「特定電気通信」には含まれないとして、被告が「開示関係役務提供者」に該当する余地はないと反論しました(5頁以下)。
この点について、裁判所は、電子掲示板等に係る特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するための当該特定電気通信設備を管理運営するコンテンツプロバイダと本件発信者との間の1対1の通信を媒介する、いわゆる経由プロバイダであっても、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決参照)と説示。
本件についてみると、被告は、本件発信者による本件ブログの開設や本件記事の投稿に係る経由プロバイダであると認められるとして、被告は、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当すると判断しています。

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2 権利侵害の明白性の有無

本件写真の著作物性や著作権の帰属について、裁判所は、原告が平成25年1月頃に新規従業員を募集するに当たって株式会社求人おきなわの運営するウェブサイト上における求人広告を依頼した際、当該求人広告に原告の社内風景等の写真を掲載することになったため、原告従業員が社内風景等を撮影したものであり、原告の特徴や企業としてPRしたいところを表現しようとしたものであって、撮影者である原告従業員の個性が表出されていること、また、原告の発意に基づき、原告名義で公表するため製作されたものであることが認められると判断。
本件写真は、いずれも原告の職務著作(著作権法15条1項)と認められています。
そして、本件記事に掲載された写真は、本件写真をそのまま転載したものであることから、本件記事上に本件写真を掲載されたことにより、少なくとも本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると判断されています(6頁)。

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3 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無

原告は、本件発信者に対して、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示しており、上記損害賠償請求権の行使のためには、被告の保有する別紙「発信者情報目録」記載1の情報及び同目録記載2の情報のうち「発信者の住所」について、それぞれ開示を受けることが必要であると裁判所は判断。
結論として、「発信者の住所」などの開示が認められています(6頁以下)。

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■コメント

ブログ開設者の特定のために、ブログ運営事業者とメールアドレス管理事業者の2社に対して情報開示請求の手続を経ており、原告としては労力が掛かったかと想像します。
ところで、ブログの名称にある「爆サイ」とは、ネット上のローカルコミュニティサイト(http://bakusai.com/)で、「2ちゃんねる」との違いは、地域に特化している点のようです。

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■参考判例

最判平成22.4.8 平成21(受)1049発信者情報開示請求事件

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2010-04-13)
[企業法務]最高裁判決が出した二つの答え

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2015年06月19日

ソフトウェア使用許諾契約事件−著作権 著作権ライセンス契約確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア使用許諾契約事件

東京地裁平成27.5.27平成27(ワ)2946著作権ライセンス契約確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      広瀬 孝

*裁判所サイト公表 2015.06.04
*キーワード:ライセンス契約

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■事案

ソフトウェア使用許諾契約の成否が争点となった事案

原告:ソフトウェア開発会社
被告:通信機器等販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

1 本件契約の締結の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,別紙「著作権ライセンス契約(著作権使用許諾契約)」記載の著作権ライセンス契約(以下「本件契約」という。)を被告との間で締結したと主張して,被告に対し,本件契約が締結されていることの確認と,本件契約に基づく著作権使用料39万4200円の支払を求める事案である。』(1頁)

<経緯>

H26.09 原告が被告に継続契約終了通知
H26.10 被告が原告に回答書送付
       原告が被告にロイヤリティ支払い通知
       被告が原告に回答書送付

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■判決内容

<争点>

1 本件契約の締結の有無

原告は、被告との間でソフトウェアに関する使用許諾契約が成立しているとして、ロイヤリティの支払いを被告に対して求めました。
この点について裁判所は、原告の本件契約の申込みを被告が承諾した事実が認められないことから、契約は成立していないと判断。原告の主張を認めていません(2頁以下)。

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■コメント

原告側が本人訴訟ということもあって、原告の主張がはっきりしませんが、被告から発注を受けて原告が製作し、納品したソフトウェアに付帯するライセンス関係の条件が明確化されていなかったことに起因する紛争となります。

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2015年06月17日

幻想ネーミング辞典事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

幻想ネーミング辞典事件

東京地裁平成27.3.26平成25(ワ)19494著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官      三井大有
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2015.06.04
*キーワード:編集著作物性、翻案権、同一性保持権、氏名表示権

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■事案

出版物の編集著作物性や著作権侵害性が争点となった事案

原告:出版社
被告:出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法12条1項、27条、19条、20条

1 原告書籍の著作物性
2 著作権侵害の成否
3 著作者人格権侵害の成否
4 原告の損害
5 差止めの要否

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告の出版,販売する別紙物件目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)は,原告が出版,販売している「幻想ネーミング辞典」(以下「原告書籍」という。)を複製又は翻案したものであり,被告は原告の著作権(複製権又は翻案権)と著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していると主張して,被告に対し,著作権法(以下「法」という。)112条に基づく被告書籍の印刷,出版,販売及び頒布の差止めと廃棄を求めるとともに,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償として主位的に損害賠償金7248万4686円,予備的に損害賠償金2886万5000円並びにこれらに対する不法行為の後であり訴状送達の日の翌日である平成25年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』
(2頁)

<経緯>

H21.08 原告書籍刊行
H23.06 被告書籍刊行

原告書籍:「幻想ネーミング辞典」
被告書籍:「幻想世界11カ国語ネーミング辞典」

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告書籍の著作物性

被告は、幻想世界等に関するネーミング辞典として他にも類書があり、原告書籍における個々の具体的な単語の選択及び配列は表現の選択の幅が狭い中で、ごくありふれた単語がごくありふれた方法で配列されたものに過ぎないとして、原告書籍の素材の選択と配列には創作性がないと主張しました(13頁以下)。
この点について、裁判所は、編集著作物(著作権法12条1項)における創作性は、素材の選択又は配列に、何らかの形で人間の創作活動の成果が表れ、編集者の個性が表れていることをもって足りると説示。その上で原告書籍を検討しています。

原告書籍は、ネーミング辞典であり、1234語の原告見出し語とこれに対応する10か国語及びその発音のカタカナ表記を主要な素材とするものであって、これを別紙「分類対比表1−1」の「原告書籍」欄のとおり大、中、小のカテゴリー別に配列したものであると認められる。そして、原告従業員らは、こうした素材、とりわけ見出し語の選択及び配列を行うに当たって、幻想世界に強い興味を抱く本件読者層が好みそうな単語を恣意的に採り上げて収録語数1000から1200語程度のコンパクトで廉価なネーミング辞典を編集するという編集方針(以下「原告編集方針」という。)の下、収録語の取捨選択を行い、構成等を適宜修正しつつ自ら構築したカテゴリー別に配列してネーミング辞典として完成させたものであると認定。

結論として、原告書籍は、原告従業員らが素材の選択と配列に創意を凝らして創作した編集著作物に当たると認めています。

そして、原告書籍は、原告の発意に基づき原告従業員らが職務上作成する著作物で、原告の名義の下に公表するものであるとして、その著作者は原告であると判断しています(15条1項)。

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2 著作権侵害の成否

次に、原告書籍と被告書籍とが対比され、被告による著作権侵害の成否が検討されています(19頁以下)。

見出し語について、実質的に同一であるものがそれぞれの見出し語の大半を占めており、

原告見出し語(1234語)のうち原告書籍のみにあるもの:25語
被告見出し語(1213語)のうち被告書籍のみにあるもの:4語

となっており、両者の素材の選択については極めて類似性が高いといわざるを得ず、カテゴリー別の分類においても共通点が多いことも併せれば、被告書籍からは、原告書籍の素材の選択及び配列における表現上の本質的同一性を看取することができるというべきであると裁判所は判断。
また、被告が原告書籍を参照して被告書籍を編集したことからすれば、被告は、原告書籍に依拠して被告書籍を作成したものといわざるを得ないと判断。
結論として、被告書籍は、少なくとも原告書籍の翻案に当たると判断しています。

   --------------------

3 著作者人格権侵害の成否

被告は、原告書籍を翻案するに当たって、題号を変更し、外国語としてポルトガル語を付加したほか、記載の一部に改変を加えたことが認められ、これらの改変は原告の意思に反するものであったと裁判所は判断。
また、被告は被告書籍上に原告の名称を表示していないと認定。
結論として、被告は、少なくとも過失により原告の原告書籍に係る同一性保持権及び氏名表示権を侵害したと裁判所は判断しています(23頁以下)。

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4 原告の損害

著作権侵害に基づく損害に関する損害金のほか、著作者人格権侵害に基づく損害について50万円、弁護士費用相当損害賠償金について250万円が認定されています(24頁以下)。

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5 差止めの要否

そのほか、被告書籍の印刷、出版、販売又は頒布の差止め及び被告書籍の廃棄が認められています。

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■コメント

アマゾンの書評を見てみるとネーミング辞典として原告書籍は一定の評価を受けている一方、被告書籍については、後発書籍として原告書籍との内容の類似性が指摘されているところです。

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■参考判例

言語辞書の見出し語とそれに対応する文例に関して編集著作物性が争点となった事案

「時事英語要語辞典」事件

東京地判昭和59年5月14日昭和50(ワ)480 判決文
別紙1
東京高判昭和60年11月14日昭和59(ネ)1446 判決文

「ところで、言語辞典のような編集物の編集活動は、主として、それ自体特定人の著作権の客体となりえない、社会の文化資産としての言語、発音、語意、文例、語法などの言語的素材を当該辞典の利用目的に即して収集、選択し、これを一定の形に配列し、所要の説明を付加することなどから成り立つものであるが、例えば見出し語に対する文例が多数ありうるものであつて、選択の幅が広いというように、当該素材の性質上、編集者の編集基準に基づく独自の選択を受け容れうるものであり、その選択によつて編集物に創作性を認めることができる場合と例えば見出し語に対する文例選択の幅が狭く、当該編集者と同一の立場にある他の編集者を置き換えてみても、おおむね同様の選択に到達するであろうと考えられ、したがつてその選択によつて編集物に創作性を認めることができない場合がある。そして、後者の場合、先行する辞典の選択を参照して後行の辞典を編集しても、それは共通の素材を、それを処理する慣用的方法によつて取り扱つたにすぎないから、特に問題とするに足りないが、前者の場合において、後行の辞典が先行する辞典の選択した素材をそのまま又は一部修正して採用し、その数量、範囲ないし頻度が社会観念上許容することができない程度に達するときは、その素材の選択に払われた先行する辞典の創造的な精神活動を単純に模倣することによつてその編集著作権を侵害するものというべきである。」(控訴審判決文)
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2015年06月15日

社内管理業務ソフト事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

社内管理業務ソフト事件

大阪地裁平成27.5.28平成25(ワ)10396著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官      松阿彌隆
裁判官      林啓治郎

*裁判所サイト公表 2015.06.02
*キーワード:使用許諾契約

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■事案
勤怠、出張精算といった社内管理業務システムの無断複製などが争点となった事案

原告:ソフトウェア開発会社
被告:ソフトウェア開発会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、会社法356条、365条

1 本件インストールの指示の主体
2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否
3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか
4 原告の許諾の範囲等

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,原告が著作権を有する業務管理のプログラム等につき,被告が無断でインストールして使用するなどして,原告の著作権を侵害したと主張し,著作権法112条により,プログラム等の使用,複製,翻案,公衆送信又は送信可能化の差止め並びにプログラム等及びその複製物の廃棄を求めるとともに,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害の合計額1億0941万9692円及びこれに対する最終のバージョンアップがされた日である平成21年8月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』
(2頁)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件インストールの指示の主体

原告と被告の関係について、被告の設立後は、被告への外注費が原告の外注費全体の約8割を占めるとともに、被告の売上高のほぼ全てが原告からの外注であり、被告の業務によって生じたトラブルに原告の従業員が対応するというように、被告は原告の一部門ともいえるほどの密接な取引上の関係があり、また、被告は、原告の専務取締役であるP2と取締役であるP4が中心となって運営しており、原告の従業員が交替で被告の役員に就任していたほか、システム開発部に所属する社員の出向も行われており、人事面でも原告が被告を掌握する関係にあったということが裁判所において認定されています(21頁以下)。

そして、P5が原告のシステム開発部部長として日常的に原告のシステム開発部マネージャーであるP3に対して指示をする立場にあったことを併せ考慮すると、原告が開発、作成した原告システムに関する業務管理のプログラム等を被告本社内のサーバーにインストールする作業(本件インストール)の方針決定をしたのがP5であったのか否かはともかく、P3に対して本件インストールをするよう指示したのは、P5であったと裁判所は認定しています(21頁以下)。

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2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否

原告は、本件インストールについて取締役会の承認やP1(原告代表者)による決裁を経ていませんでした。
しかし、原告と被告とは得意分野が異なっており、日頃から全社的に一体として事業運営されていた関係にあったことから、本件インストール当時、原被告が業務管理に関するプログラム等を共有することは、原被告間での発注、受注を含む業務を効率化させ、原被告のいずれにとっても有益であったというべきであり、実質的に見て、本件インストールが、取締役会の承認を必要とする(会社法356条1項、365条参照)利益相反取引に当たると認めることはできないと裁判所は判断。
また、P1は少なくとも被告関係の業務について、専務取締役のP2や取締役のP4以下の差配に包括的に委ねていたものと認めるのが相当であるとして、本件インストールがP1の決裁を経るべき事項であったと認めることはできないと裁判所は判断しています(23頁以下)。

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3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか

次に、本件インストールはP5の指示によるものであるとしても、こうした指示が原告の指示といえるかどうかがさらに検討されています。
結論としては、本件インストールについてのP5のP3に対する指示は、原告の総務部長であり社内情報システム管理責任者であったP6の承認の下に、あるいはP6の指示の下にされたものであって、原告において、被告関係の業務については、専務取締役のP2や取締役のP4の差配に包括的に委ねられていたことからすると、同人らの承認又は指示もあったと推認されると裁判所は判断。P5による本件インストールの命令は、原告からの授権によるものであり、本件インストールについて、原告の許諾があったものと判断されています(24頁以下)。

   --------------------

4 原告の許諾の範囲等

本件インストールは、被告が、原告の一部門のような地位にある状況下において、原告と被告において共通のシステムを使うことにより発注業務等を効率化する目的でされたことからすると、原告の許諾はバージョンアップされた本件プログラム等の使用についての許諾も包含するものと認められると裁判所は判断しています(25頁以下)。

結論として、裁判所は、原告は、被告に対して本件インストール(複製)及びその後のバージョンアップ(翻案)及び使用を許諾したと認められるとして、被告による本件プログラム等の利用が原告の著作権を侵害したものとはいえず、被告による過去の著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しています。
また、被告は現在では本件インストール及びその後のバージョンアップに係る本件プログラム等を使用していないことから、本件プログラムを複製、翻案、使用等をするおそれがあるとも認められないとして、原告による本件プログラム等の使用等の差止請求及び廃棄請求についても認められていません。

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■コメント

原告会社代表者と被告会社代表者は兄弟でした。両社は人事交流もあり取引上も密接な関係にあり、被告は原告の一部門のような立ち位置でしたが、原告代表者が原告から被告への種々の取り計らいを業務上横領とみなすなどして被告を敵視する態度をとるようになってしまっています。
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2015年06月12日

「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」出版契約事件(控訴審)−著作権 出版差止等請求控訴事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」出版契約事件(控訴審)

知財高裁平成27.5.28平成26(ネ)10103出版差止等請求控訴事件、出版契約無効確認請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2015.06.02
*キーワード:出版契約、表見代理、確認の利益、職務著作、複製権、同一性保持権、氏名表示権、名誉声望権、一身専属性、名誉権、権利濫用、相殺

   --------------------

■事案

社内手続に違反して締結された出版契約の有効性などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審被告) :出版社
被控訴人(1審原告):新聞社(東京本社)

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、20条、21条、113条6項、59条、民法109条、110条、112条、1条3項、509条

1 確認の利益の有無
2 被控訴人は原書籍1及び2につき著作権を有するか
3 本件出版契約の有効性
4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無
5 名誉権侵害の有無
6 損害の有無及びその額
7 本件著作物に関する控訴人の出版権の有無
8 被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利濫用に当たるか
9 損害賠償請求権による相殺の肯否

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■事案の概要

『本件のうちA事件は,被控訴人が,控訴人に対し,控訴人が行う原判決別紙出版物目録記載の書籍(本件書籍)の発売等頒布は,新潮社から発行された著作者表示を「読売新聞社会部」,書名を「会長はなぜ自殺したか−金融腐敗=呪縛の検証」とする単行本(原書籍1)及びこの単行本が同社から同じ題名で新潮文庫として発行された書籍(原書籍2)について被控訴人が有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等),さらに被控訴人の名誉権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び名誉権に基づき本件書籍の発売等頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金688万円及びこれに対する平成24年11月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,B事件は,被控訴人が,被控訴人と控訴人との間において,平成23年5月9日付けの原書籍1及び2に記載された著作物に関する出版契約書(本件出版契約書)において出版権の設定の対象とされた原判決別紙著作物目録記載の著作物(本件著作物)に関する出版権が控訴人に存在しないことの確認を求める事案である。
 原判決は,被控訴人は原書籍1及び2につき著作権及び著作者人格権を有すると認められるところ,本件出版契約書に係る契約(本件出版契約)が被控訴人と控訴人との間で成立したと認めることはできないから,控訴人が,本文が原書籍1及び2と同一であり,これに「本シリーズにあたってのあとがき」という表題の文章(本件あとがき)を付記した本件書籍を製本して,これを発売等頒布した行為は被控訴人の有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)を侵害し,原書籍1及び2に,本件あとがきを被控訴人に無断で追加した本件書籍を製本した控訴人の行為は,被控訴人の意に反する原書籍1及び2の改変に当たるから,原書籍1及び2について被控訴人が保有する同一性保持権を侵害し,著作者名を「読売社会部C班」として本件書籍を発売等頒布した控訴人の行為は,著作者である被控訴人が決定した著作者名の表示である「読売新聞社会部」を被控訴人の意に反して改変した上,これを公衆へ提供したものであるから,原書籍1及び2について被控訴人が保有する氏名表示権を侵害するものであるところ,本件書籍の発売等頒布に係る差止請求はこれを認める必要性があり,また,控訴人による被控訴人の著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)侵害に係る損害は126万円,控訴人による被控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に係る損害は30万円,弁護士費用相当損害金は15万円であると判示して,A事件については,被控訴人の控訴人に対する請求を,本件書籍の発売等頒布の差止め並びに損害賠償金171万円及びこれに対する平成24年11月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し,その余は理由がないとして棄却し,B事件については,被控訴人と控訴人との間において本件著作物に関する出版権が控訴人に存在しないことを確認するとしてこれを認容したため,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 確認の利益の有無
2 被控訴人は原書籍1及び2につき著作権を有するか
3 本件出版契約の有効性
4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無
5 名誉権侵害の有無
6 損害の有無及びその額
7 本件著作物に関する控訴人の出版権の有無

争点1乃至7について、原審の判断が維持されています(15頁以下)。

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8 被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利濫用に当たるか

控訴審において、控訴人は、被控訴人の被用者であるDの不法行為の結果として控訴人が行った本件書籍の出版について、被控訴人が差止請求及び損害賠償請求をすることは、権利(原書籍1及び2の著作権・著作者人格権)の濫用として許されない旨主張しましたが、裁判所は認めていません(22頁以下)。

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9 損害賠償請求権による相殺の肯否

控訴人は、仮に、控訴人が、被控訴人に対し著作権・著作者人格権侵害を原因として171万円の損害賠償債務を負担するとすれば、控訴人は、被控訴人の被用者であるDの偽計業務妨害行為によって優に1千万円を超える損害を被り、同損害については、Dの使用者である被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償請求権を有するから、同損害賠償請求権を自働債権とし、被控訴人の上記損害賠償請求権を受働債権として、対当額において相殺する旨の意思表示をするところ、双方過失による事故で損害が物的損害の場合には相殺の主張を認めても何ら不都合はなく、民法509条の相殺禁止の原則は適用されない旨主張しました。
しかし、この点について、裁判所は、双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害による損害賠償債権相互間の処理に関する最高裁判例(最判昭和49年6月28日民集28巻5号666頁参照)を踏襲し、控訴人の主張を認めていません(24頁以下)。

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■コメント

原審の結論が控訴審でも維持されています。

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■過去のブログ記事

原審記事

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2015年06月10日

ディスクパブリッシャーソフト事件(別訴)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ディスクパブリッシャーソフト事件(別訴)

知財高裁平成27.3.26平成26(ネ)10089損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2015.06.01
*キーワード:ソフト開発契約、機密保持義務、営業秘密、競業禁止義務、複製、翻案

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■事案

競合ソフトの開発販売に関して機密保持義務違反性や競業禁止義務違反性などが争点となった事案

控訴人(1審原告) :ソフト開発販売会社
被控訴人(1審被告):ソフト開発販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、民法415条

1 被控訴人会社の機密保持義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無
2 被控訴人会社の競業禁止義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無
3 被控訴人Yの不法行為責任の有無
4 被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め並びに複製物の破棄請求権の有無

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,(1)被控訴人新高和ソフトウェア株式会社(以下「被控訴人会社」という。)との間で,業務委託基本契約(甲1の1),システム・エンジニアリング・サービス基本契約(甲1の2)及び秘密保持契約(甲2)を締結して,被控訴人会社に対し,控訴人のソフトウェア「iDupli ver2」(以下「控訴人ソフトウェア」といい,そのプログラムを「控訴人プログラム」という。)の製作を委託し,さらに,控訴人ソフトウェアのエプソンチャイナへの売り込み等中国市場における販売業務を委託したが,被控訴人会社は,業務委託契約上の義務等に違反して,受託業務を遂行する過程で控訴人から開示され又は取得した情報を用いて控訴人ソフトウェアに酷似するソフトウェア「群刻」(以下「被控訴人ソフトウェア」といい,そのプログラムを「被控訴人プログラム」という。)を製作し,エプソンチャイナに売り込むなどの競業行為を行ったなどと主張して,被控訴人会社に対し,上記各契約に基づき,被控訴人ソフトウェアに使用されているプログラムの複製又は譲渡の差止め及びその複製物の破棄を求めるとともに,債務不履行,不法行為又は会社法350条に基づき,エプソンチャイナを含め中国市場において控訴人ソフトウェアを販売する機会を喪失したことによる損害の一部として1512万円(平成24年6月30日までの得べかりし売上相当額)の支払を求め,(2)被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)は,被控訴人会社の代表取締役として,自己の利益を図る目的で被控訴人会社の上記被控訴人ソフトウェアの製作及びエプソンチャイナへの売り込み等の競業行為を行ったとして,被控訴人Yに対し,不法行為に基づき,被控訴人会社と同額の金員の連帯支払を求めた事案である。
 なお,附帯請求は,訴状送達の日の翌日(被控訴人会社につき平成24年12月28日,被控訴人Yにつき同月29日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求である。』

『原判決は,控訴人が主張する「機能チェック票」(甲23)に記載された情報,控訴人プログラムのソースコードとその前提となるアイデアに係る情報,エプソンチャイナからの要望事項に関する情報及び控訴人の事業計画に関する情報は,そもそも機密保持義務の対象とはなり得ないものであるか,あるいは控訴人の主張する情報を被控訴人会社が第三者に提供し,又は被控訴人ソフトウェアの開発等において不正利用したと認めるに足りる証拠はないから,被控訴人会社に機密保持義務違反や善管注意義務違反は認められず,また,被控訴人会社が控訴人に対し,控訴人ソフトウェアと同種の製品を製造又は販売してはならない義務を負っていたとも認められないから,被控訴人会社にかかる義務違反があるとは認められないなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 そこで,原判決を不服として,控訴人が控訴したものである。』
(2頁以下)

<経緯>

H19.10 システム・エンジニアリング・サービス基本契約締結
       秘密保持契約締結
H20.08 業務委託基本契約締結
H21    控訴人が「iDupli ver1」開発、販売
H22.08 開発業務委託契約締結
       被控訴人会社がソフト「群刻」を開発、販売

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人会社の機密保持義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人会社は機密保持義務に違反して控訴人の機密である控訴人プログラムのソースコード及びアイデア、「機能チェック票」に記載された情報などを、控訴人に無断で使用して控訴人ソフトウェアと同一機能を有し、控訴人ソフトウェアに酷似する被控訴人ソフトウェアを製作して控訴人の顧客又はその代理店に売り込んだとして、かかる行為が機密保持義務に違反する債務不履行又は不法行為に該当する旨主張しました(40頁以下)。

裁判所は、控訴人プログラムと被控訴人プログラムとの対比において、控訴人の指摘する点を個別に見ても、また、これらを全体として見ても控訴人プログラムと被控訴人プログラムのソースコードが同一又は類似のものであるとはいえないこと、また、控訴人が挙げる点はいずれも被控訴人プログラムが控訴人プログラムを複製することにより作製されたものであることを直ちに基礎付けるに足りるものではないとして、被控訴人プログラムが控訴人プログラムを使用(複製又は翻案)して作製されたものであるとは認められないと判断。
そして、控訴人プログラムのアイデアが機密に該当するとする情報の具体的内容は判然とせず、また、控訴人プログラムと被控訴人プログラムとのソースコード、画面の構成、ウェブサイトの表記、基本的機能、クラス構造、ログメッセージ、フォルダ階層構造の対比において両者が共通する部分に係る機能(アイデア)それ自体が控訴人の機密であると認めるに足りないなどと判断。
結論として、控訴人プログラムのソースコード及びアイデア等に関して、被控訴人会社に機密保持義務違反がある旨の控訴人の主張は理由がないと判断されています。

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2 被控訴人会社の競業禁止義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人会社は、競業禁止義務に違反して控訴人ソフトウェアと同一機能を有し、控訴人ソフトウェアに酷似する被控訴人ソフトウェアを密かに製作した上で、控訴人からエプソンチャイナへの控訴人ソフトウェアの販売業務の委託を受けていたにもかかわらず、エプソンチャイナ又はその代理店に対して、被控訴人ソフトウェアを売り込むという競業行為を行ったとして、かかる行為が競業禁止義務に違反する債務不履行又は不法行為に該当する旨主張しました(65頁以下)。
しかし、裁判所は、控訴人と被控訴人会社又は被控訴人Yとの間で、エプソンチャイナ向けの控訴人ソフトウェアの販売業務を被控訴人会社又は被控訴人Yに委託する旨の契約書類は一切作成されていないことなどから、本件販売業務委託契約が成立したことを前提とする控訴人の主張は理由がないと判断。
また、本件開発業務委託契約、本件SES基本契約、本件秘密保持契約、本件業務委託基本契約のいずれの契約にも、被控訴人会社に対し、控訴人ソフトウェアと競合する同種のソフトウェア(ディスクパブリッシャー装置を制御するソフトウェア)の開発や販売を禁止する条項は定められていないから、被控訴人会社が、本件開発業務委託契約に基づき、およそ控訴人ソフトウェアと競合する同種のソフトウェアの開発や販売を避止すべき義務を負っていたとは認められないと判断。
その他、控訴人は、控訴人と被控訴人会社との間の契約又は契約関係に内在する信義則、付随的義務、保護義務、善管注意義務、契約締結上の過失、さらに、契約終了後においては契約の余後効に基づいて、被控訴人会社は、控訴人ソフトウェアと酷似する同一の機能のソフトウェアを製作し、販売してはならないという競業禁止義務を負うところ、被控訴人会社は同義務に違反する競合行為を行った旨主張しましたが、裁判所は認めていません。

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3 被控訴人Yの不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人Yは、被控訴人会社の代表取締役として、控訴人ソフトウェアと同一又は類似した被控訴人ソフトウェアを製作して、エプソンチャイナに売込み、これによって被控訴人会社が控訴人に対して納品した控訴人ソフトウェアの価値を意図的に毀損して履行を無意味にしたものであるとして、控訴人に対して不法行為責任を負う旨主張しました。
しかし、裁判所は、被控訴人会社に機密保持義務違反や競業禁止義務違反の債務不履行行為又は不法行為が認められないことから、被控訴人Yが、被控訴人会社の行為について、控訴人に対して不法行為責任を負うことはないと判断しています(69頁)。

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4 被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め並びに複製物の破棄請求権の有無

控訴人は、被控訴人会社は、被控訴人プログラムは、控訴人プログラムのソースコードを使用して製作されたものであり、これと同一又は類似のプログラムであるから、控訴人は、本件秘密保持契約及び本件SES契約に基づき、被控訴人会社に対し、被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め、並びに複製物の破棄を請求する権利を有する旨主張しました。
しかし、裁判所は、被控訴人プログラムが控訴人プログラムと同一又は類似のプログラムであるとは認められないとして、控訴人の主張を認めていません(70頁)。

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■コメント

ディスクパブリッシャーソフト事件の別訴となります。本件訴訟の原審判決文は、裁判所サイトに掲載されていません。
ディスクパブリッシャーソフト事件では、被控訴人ソフトウェア製造販売行為の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害行為性と営業秘密不正使用の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項7号)の有無が争点とされていました。
結論としては、いずれの訴訟でもソフトの類似性が否定されて控訴人の侵害性等の主張は認められていません。

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■過去のブログ記事(別件訴訟)

ディスクパブリッシャーソフト事件
東京地裁平成24.12.18平成24(ワ)5771著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件
原審記事
知財高裁平成26.3.12平成25(ネ)10008著作権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
控訴審記事

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■参考サイト

被控訴人会社プレスリリース
「群刻」の著作権侵害裁判において弊社は日本テクノラボ(株)に対して完全勝訴
記事
written by ootsukahoumu at 06:46|この記事のURLTrackBack(0)