知財判決速報2014

2014年09月19日

漫画「軍鶏」映画製作契約事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

漫画「軍鶏」映画製作契約事件

東京地裁平成26.8.29平成24(ワ)24300損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2014.9.10
*キーワード:漫画、共同著作物、二次的著作物、翻案、映画製作契約、原作使用許諾契約

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■事案

漫画「軍鶏」の実写版映画製作を巡って争われた事案

原告:劇場用映画制作配給会社
被告:脚本家A、映画企画会社(代表A)

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法415条

1 本件使用契約に基づく被告らの債務不履行責任の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が本件映画を製作するに当たり,被告会社は,本件使用契約において,被告Aが本件映画の原作の著作権者であることを保証し,Bから本件映画の上映差止め等の仮処分申立てがされた後も,被告らは,本件念書において,被告Aが本件映画の原作者であることを保証したことから,原告は,これを信じて本件映画の制作等の営業活動を継続したにもかかわらず,後にBから提起された前訴において,上記被告らの保証した内容に反し,原告の意にも反する和解を余儀なくされた結果,本件映画の制作に関する3億1885万4280円の損害と,Bに対し支払った和解金150万円の合計3億2035万4280円の損害を被ったと主張して,本件使用契約第1条及び本件念書の保証内容に違反する債務不履行に基づき,被告会社に対しては本件使用契約第14条を,被告Aに対しても同人は被告会社の代表者であって本件使用契約の実質的当事者であるから,本件使用契約第14条を,それぞれ根拠とする損害賠償請求として,被告らに対し,各自3億2035万4280円及びこれに対する平成24年9月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(4頁)

<経緯>

H10.5 漫画「軍鶏」連載開始
H18.9 映画化について作画者Bの許諾が得られず
H18.10 実写版映画に関して原告被告会社間で原作使用契約書締結
H20.1 映画完成披露試写会開催
H20.4 Bが原告に対して映画上映差止め仮処分
H20.5 Bが本案訴訟提起(前訴 平成20(ワ)11879)
H20.6 被告Aと被告会社が原告に念書を提出
H23.3 B、原告、被告らとの和解成立
H23.6 原告代表が被告Aに「誠意ある対応」を要請。Aは拒否
H24.8 本件提訴

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■判決内容

<争点>

1 本件使用契約に基づく被告らの債務不履行責任の有無

原告は、被告らは作画者Bとの関係を懸念した原告に対して、原作の著作権者は被告Aであることを保証するなどしており、原告がこれを信じた上で本件映画の制作等の営業活動を継続したものの、前訴の和解により本件映画の上映、頒布以外の営業活動が不可能になったことから、原告に損害が生じたものであるとして、被告らには実写による映画化を目的とする原作使用契約(本件使用契約)に違反する債務不履行があると主張しました。

この点について、裁判所は、「本件映画のもともとの原作は,漫画「軍鶏」そのものではなく,漫画「軍鶏」の原画を含むBの創作部分を映画に使用できないことを前提として,被告Aが「アンダードッグ」及び漫画「軍鶏」用の脚本を基に新たに作成した本件映画用の脚本であり,本件使用契約及び本件念書もそれを前提として作成されたものと認められるから,本件使用契約及び本件念書によって,被告Aが本件映画の原作である漫画「軍鶏」の単独の著作権者であることを保証した事実があるとはいえ」ないこと、また、漫画のみに描かれている場面が本件映画のシーンとして存在する点についても、被告Aが提供した本件映画用の脚本に基づくものではなく、原告若しくは映画制作会社における独自の行為によるものであるとして、被告会社及び被告Aが本件使用契約及び本件念書上の債務の不履行として責任を負うべき問題ではないと認めるのが相当である、と判断しています(37頁以下)。

結論として、被告らによる債務不履行の成立が否定されています。

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■コメント

漫画「軍鶏」(作画たなか亜希夫さん、原作橋本以蔵さん)の実写版映画製作契約を巡る原作者と映画企画製作会社との間の契約上の紛争です。
本事案では、映画化について作画者の許諾が得られなかったので、作画からは離れた新たな映画用脚本に基づいて映画製作をする認識が当事者にはあったものの、結果としては、製作の過程で漫画作画部分に依拠したシーンが撮影されてしまったという経緯が認定されています。

本件訴訟の前提には作画者と原作者の漫画作品(共同著作物)を映画作品(二次的著作物)にした場合の権利関係をどう考えるかという争点がありました。
原作者は、作画者との間で訴訟となった前訴において、実写版映画作品は漫画(作画)を基にしたわけではない、と主張しましたが、弁論準備期日で映画作品には漫画作品の表現の流用があり翻案権侵害となる、との裁判所の心証開示を受けて、和解に至っています(28頁以下参照)。

漫画原作者と作画者との間の紛争としては、キャンディ・キャンディ事件(原作者水木杏子さん、作画者いがらしゆみこさん)が有名で、この事件から学ぶべき部分が多いわけですが、いずれにしても、漫画制作にあたっての原作者と作画者の実際の協働関係、また二次的著作物に表現される作画(ヴィジュアル)部分の影響など、単純に「実写映画だから漫画作画は関係ない」とはいえないところですので、作画者を排除して同一漫画作品の企画を進めるには多くのリスクを伴うところです。
本事案の判決文の読みどころとしては、作画者と原作者が和解に至った前訴の経緯部分(28頁以下)になるかと思います。
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2014年09月18日

時計修理サービス利用規約事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

時計修理サービス利用規約事件

東京地裁平成26.7.30平成25(ワ)28434著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2014.9.5
*キーワード:利用規約、著作物性、複製権、翻案権、編集著作物、職務著作

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■事案

利用規約を含めたウェブサイト上の文言やバナー画像の流用の著作権侵害性が争点となった事案

原告:時計修理サービス会社
被告:時計修理サービス会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、12条、15条、21条、27条、112条

1 著作権侵害の成否
2 職務著作の成否
3 損害論、差止請求の可否

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■事案の概要

『本件は,千年堂という屋号で時計修理サービス業を営む原告が,銀座櫻風堂という屋号で時計修理サービス業を営む被告に対し,被告は,被告の管理する銀座櫻風堂のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した文言(修理規約を含む。)及びトップバナー画像を作成し,同ウェブサイトを構成したことにより(以下,文言,トップバナー画像及びサイト構成を「文言等」ということがある。),原告の管理する千年堂のウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)の文言等を複製又は翻案したものであって,原告の著作権を侵害したなどと主張して,(1)不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償金1000万円の支払を求めるとともに,(2)著作権法112条1項に基づき,被告ウェブサイトに掲載された文言等を同サイト上で使用すること(自動公衆送信及び送信可能化の趣旨と解される。)の禁止を求める事案である。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

裁判所は、原告ウェブサイト文言、トップバナー画像、規約文言、サイト構成の複製権侵害性又は翻案権侵害性について、複製、翻案、創作性の意義に関して言及した上で検討を加えています(8頁以下)。

(1)原告ウェブサイト文言1ないし17

他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、いずれも創作的な表現と認めることは困難であると裁判所は判断しています。

(2)原告トップバナー画像

店舗名、電話番号の位置、赤色帯状の図形を設けて修理実績を文字で掲げている点、高級腕時計を二つ並べた写真を掲載している点で共通しているが、店舗名や電話番号の位置、修理実績について目立つように赤色の帯状の図形で囲んで強調して記載することや、高級時計の修理業務という業務内容を宣伝する目的で高級時計を二つ並べることは、いずれもありふれた表現にすぎないものというべきであって、創作的な表現とは認められないと裁判所は判断しています。

(3)原告規約文言

(ア)原告規約文言1ないし59

個別にみる限り、他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、直ちに創作的な表現と認めることは困難というべきであると裁判所は判断しています。

(イ)原告規約文言全体

「規約としての性質上,取り決める事項は,ある程度一般化,定型化されたものであって,これを表現しようとすれば,一般的な表現,定型的な表現になることが多いと解される。このため,その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって,通常の規約であれば,ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。」との一般論を前提に、規約にも著作物性が認められる場合があることについて裁判所は言及しています。

その上で、本事案については、

・疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている

という点に原告の個性が表れているとして規約文言全体としての著作物性(2条1項1号)を肯定。

そして、原被告規約文言の相違点としては、

・「当社」が「当店」にすべて置き換えられている
・助詞の使い方
・記載順序の一部入れ替え
・表現をまとめている部分
・「千年堂オリジナル超音波洗浄」「千年堂オリジナルクリーニング」を「銀座櫻風堂オリジナル超音波洗浄」「銀座櫻風堂オリジナルクリーニング」としている部分

といった極めて些細な相違点にすぎず、被告規約文言全体についてみると見出しの項目、各項目に掲げられた表現、記載順序などは、すべて原告規約文言と同一であるか、実質的に同一であると認められると判断。
依拠性も認められるとして、裁判所は複製権侵害性を肯定しています。

(4)原告サイト構成

裁判所は、編集著作物性(12条)の意義について言及した上で、

「原告サイト構成と被告サイト構成は,トップ画像,困っている例を挙げている点,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンがある点,業務内容を5つないし6つの特徴で説明している点,取り扱っているブランドを紹介している点,概算費用を紹介している点,原告又は被告に修理を依頼した顧客の感想を掲載している点,よくある質問としてQ&A形式で説明している点,修理依頼の流れを説明している点,無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォームが末尾に掲載されている点で共通している」ものの、

「原告ウェブサイトは,時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり,原告のサービス(業務)内容について基本的な説明をする必要があり,広告の対象となるサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用い,項目ごとに見出しを付し,サービスの内容はどのようなものか,他社との違いやアピールポイントなどを原告サイト構成のような順序や表現方法で記載することは広く一般的に行われているものであり,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンを途中に設けて,後に掲げる部分を読まなくても顧客を誘導する方法についても一般的に行われている手法であって(乙3参照),創作的な表現とはいえない。」

として、サイト構成としては、時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり、広く一般的に行われているものであるなどとして、原告サイト構成と被告サイト構成とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎず、被告が被告ウェブサイトの構成を被告サイト構成のとおりとしたことをもって、原告サイト構成の複製又は翻案をしたと認めることはできないと判断しています(13頁以下)。

以上のように裁判所は、規約文言全体の著作物性についてのみ、被告による複製権侵害性を肯定しています。

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2 職務著作の成否

原告規約文言は、原告の代表取締役であるAが原告の業務として作成しており、原告に職務著作(15条1項)の成立が認められています(16頁以下)。

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3 損害論、差止請求の可否

損害論として5万円が認定されています。また、被告規約文言を被告ウェブサイトにおいて使用すること(自動公衆送信し又は送信可能化すること)の禁止が認められています(17頁以下)。

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■コメント

サービス利用規約の全体としての著作物性が認められた事案となります。
本事案の分析については、「企業法務戦士の雑感」さんが、いつものことながらきっちり書かれておいでなので、そちらをご覧頂けたらと思います(後掲サイト参照)。
同業者によるウェブサイトの盗用事案としては、データSOS事件判決(知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件)があって、その判断からすると、サイト上のタブメニューの配置や文章の構成、記述順序といった部分の著作物としての保護の幅が狭いという価値判断の方向性は理解できるところですが、データSOS事件では規約は判断対象となっていなかったため、本判決は規約の著作物性、要保護性判断の先例として参考になります。
サービスの規約を新たに作成する場合、当然、先行業者のサービスやその規約を検討することとなりますが、その規約を丸写ししただけでは芸がないので、それを参考にしつつより良い規約を作ることになるわけですが、本事案では、「当社」を「当店」に変更する程度の、ほぼコピペのような実質があったことから、裁判所の価値判断としては著作権侵害性肯定に傾いたのかと思われます。
(なお、本人訴訟ということもあってか、著作者人格権や一般不法行為論の部分は争点とされていません。)

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■過去のブログ記事

データSOS事件(控訴審)

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2014.9.8)
「規約」の著作権侵害が認められてしまった驚くべき事例。

原告プレスリリース(2014.8.11)
当社のサイト盗用による民事訴訟の判決に関するお知らせ - 千年堂株式会社公式サイト(時計修理の千年堂) 時計修理・オーバーホール

原告利用規約
特定商取引法に関する表示及び修理規約

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2014年09月16日

小動物用プラセンタサプリメント販売代理店契約事件−著作権 著作権侵害損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

小動物用プラセンタサプリメント販売代理店契約事件

東京地裁平成26.8.28平成25(ワ)2695著作権侵害損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.9.5
*キーワード:販売代理店契約、事業提携、許諾、守秘義務

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■事案

小動物用のサプリメント販売代理店契約にあたって販促物の取扱いが争点となった事案

原告:健康食品製造販売会社
被告:サプリメント品企画製作販売会社、被告会社代表取締役

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■結論

請求棄却

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■争点

1 本件各物件の利用許諾の有無について

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らに対し,被告らがインターネットのウェブサイトやチラシ等に原告が著作権や独占的利用権を有する著作物を無断で掲載するなどして原告の著作物の著作権(公衆送信権及び複製権)や独占的利用権を侵害し,これにより損害を受けたと主張して,著作権法112条に基づき,無断掲載部分のウェブサイトへの表示及び紙媒体への印刷,頒布の差止めと無断掲載部分のウェブサイトからの削除及び記載した紙媒体の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づき,主位的に平成24年9月から平成25年2月までの間の使用料相当損害金300万円,予備的に裁判所が相当と認める損害額及びこれらに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H23.10 原被告会社間で「小動物用サプリメント販売協定書」(本件協定書)締結
H23.11 被告らがチラシ、ポスター、パンフレット作成
H23.12 被告らが被告会社のHPに掲載

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■判決内容

<争点>

1 本件各物件の利用許諾の有無について

原告は、被告に対して本件協定書に基づきパンフレットやポスターのデータ、チラシなどの資料(本件各物件)を提供していました。
本件協定書によれば、被告会社が原告から提供された資料を利用する場合には、その都度、原告から事前に許諾を得る必要があったものの、被告会社は、本件各物件の利用について、原告からの許諾を得ていないとして、原告は、原告の著作物の著作権(公衆送信権及び複製権)侵害性などを争点としました(8頁以下)。

本件各物件の利用許諾の有無について、裁判所は、

・本契約は、被告らによる営業活動を全面的に支援する目的である
・複製や加工等が容易なデータで提供されている
・販売市場開拓を行うに際し必要又は有益な情報である
・本件各物件は、パンフレットやチラシ等で一般に公表することが前提のものばかりである
・原告も本件各物件の内容を自らホームページに掲載していた
・被告サイトに本件各物件の複製等を掲載し、原告がこれを認識しながら特に異議を唱えていなかった

といった事情を総合考慮の上、被告会社が本件各物件を複製したりホームページに掲載したりするなどして自由に利用することを当然の前提としていたものと認められるとして、原告は、本件契約を締結するに当たって被告会社に対して、本件契約期間中、本件各物件等を複製したりホームページに掲載したりするなどして、自由に利用することを許諾していたものと認めるのが相当であると判断しています。

結論として、被告会社は包括的な許諾を受けていたとして、原告の著作権等の侵害の主張は認められていません。

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■コメント

犬などの小動物用のサプリメントの販売市場開拓を目的とした販売代理店契約が結ばれましたが、製造元から提供された資料の取扱いについて販売店との間で齟齬が生じました。
判決内容からは、どうして齟齬が生じたのか、また、契約上の信頼関係が破壊されるような違反はなかったのか、本件訴訟に至るまでの経緯も含め、不明なところです。原告としては、提供した情報のノウハウ性や営業秘密的な価値が軽んじられたと捉えたのかもしれませんが、そうであるならば提供資料の取り扱いについて、事前の詳細な取決めをするべきではなかったか、と思われる事案でした。
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2014年09月12日

ソフトウェア提供パートナー契約事件(控訴審)−著作権 損害賠償、同中間確認各請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア提供パートナー契約事件(控訴審)

知財高裁26.8.27平成25(ネ)10085損害賠償、同中間確認各請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官      新谷貴昭
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2014.9.4
*キーワード:プログラム著作物、複製、翻案、債務不履行、確認の利益

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■事案

統合型業務ソフトウェアの提供契約において第三者の著作権を侵害しているソフトウェアが提供されていたかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):ソフトウェア制作会社
被控訴人(一審原告):ソフトウェア制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、21条、27条、民法415条、民訴法145条

1 本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無
2 本件契約の債務不履行による損害額
3 本件中間確認の訴えの当否

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■事案の概要

『(1)原審請求の要旨
本件は,原審において,(1)被控訴人が,控訴人に対し,両名間のパートナー契約に基づいて控訴人が被控訴人に提供したソフトウェアには,第三者が著作権を有するソフトウェア中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり,控訴人において上記第三者の利用許諾を得る見込みもないことから,被控訴人は控訴人が提供したソフトウェアを転売するという上記パートナー契約の目的を達成できなくなったとして,上記パートナー契約の債務不履行に基づき,損害賠償金206万5000円及びこれに対する催告後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(以下「本件損害賠償請求」という。)並びに(2)控訴人が,被控訴人に対し,中間確認の訴えとして,別紙(控訴人の原審平成24年11月21日付け「中間確認の訴状」添付の別紙「プログラム目録」1頁の写し。)中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)がソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)の各著作権を侵害しないことの確認を求めた事案(以下「本件中間確認の訴え」という。)である。
(2)原審の判断
原審は,(1)の本件損害賠償請求について,控訴人は,被控訴人に対し,上記パートナー契約に基づき,著作権上の瑕疵がないソフトウェアを提供する義務を負っていたにもかかわらず,これに反して,第三者が著作権を有するソフトウェアの一部のプログラムを複製したものを含むソフトウェアを提供しており,複製元の上記プログラムにつき著作権者である上記第三者から利用の許諾を得る見込みもなく,給付の追完は不可能である旨認定し,被控訴人は,控訴人の上記パートナー契約の債務不履行により,同契約の前記(1)(1)の目的を達することができなくなったとして,被控訴人の請求をすべて認容した。
他方,原審は,(2)の本件中間確認の訴えについては,その請求の趣旨を,控訴人が上記パートナー契約に基づいて被控訴人に提供したソフトウェアのミドルソフト(ハードロック及びソフトロックに関する部分を除く。)が上記第三者の著作権を侵害しないとして,控訴人の被控訴人に対する上記パートナー契約の債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるものと解し,これは(1)の本件損害賠償請求と重複するので不適法であること(民訴法142条)を理由に却下した。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無

本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無について、本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」に係る著作権上の瑕疵の有無が検討されています(30頁以下)。

(1)「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無について

控訴人は、先行ソフトウェア部品は定型的機能作品であって、著作権法上の保護を与えるべきではないと主張しました。
この点について裁判所は、プログラム著作物(著作権法2条1項10号の2)の意義について言及した上で、先行ソフトウェア部品の指令の表現自体、組合せ、表現順序がそのすべてにおいておよそ定型的、没個性的なものであるとは考え難いなどとして、先行ソフトウェア部品の一部は著作物性を有すると判断しています(30頁以下)。

(2)ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無について

控訴人は、ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したと主張しましたが、裁判所はその事実を認めていません(33頁以下)。

(3)先行ソフトウェア部品の著作権の所在について

先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「部品マイスター」の各著作権はそれぞれ譲渡担保契約や譲渡契約等に基づく移転を経て、現在はいずれも日本電子計算社に属していると裁判所は判断しています(38頁以下)。

(4)複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無について

本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製又は翻案したものを含むものであり、控訴人による作成は、日本電子計算社の著作権を侵害する行為に当たると裁判所は判断しています(52頁以下)。

そして、本件両ソフトには日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中の先行ソフトウェア部品中のプログラムを複製したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり、本件両ソフトの提供をもって本件契約の「債務の本旨に従った履行」(民法415条)ということはできないと裁判所は判断。
控訴人が著作権者である日本電子計算社から先行ソフトウェア部品の利用について許諾を得る可能性は非常に低いとして、前記瑕疵が治癒される見込みは、ほぼないこと、そして、本件ソフトウェア部品は、「部品屋2007」全体のプログラムの相当部分を占めるものと推認できることから、控訴人において、著作権上の瑕疵がない「部品屋2007」のソフトウェアを改めて提供することも事実上は困難なものと推認されると判断。
結論として、控訴人は、その責めに帰すべき事由によって本件契約に基づいて「部品屋2007」のソフトウェアを被控訴人に提供する債務を履行することができなくなったといえるとして、債務不履行責任(民法415条後段)を負うと判断しています。

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2 本件契約の債務不履行による損害額

被控訴人が本件契約に基づいて控訴人に支払った206万5000円全額が控訴人の債務不履行によって生じた損害と認められると裁判所は判断しています(56頁以下)。

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3 本件中間確認の訴えの当否

裁判所は、確認の訴え及び中間確認の訴え(民訴法145条)の意義について言及した上で、原判決の判断を検討。
原判決は、本件中間確認の訴えは、控訴人の被控訴人に対する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める趣旨であると解釈し、民訴法142条に基づき、不適法である旨判断したが、本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨は、本件損害賠償請求と完全に表裏の関係にあるとはいえないとして原判決の判断は誤りである旨説示。
結論としては、先決問題となり得ない、確認の利益を欠くなどとして、中間確認の訴えの要件を欠くとして原判決と同様、不適法と判断しています。
(57頁以下)

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■コメント

原審同様、原告の主張は結論として認められていません。

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■過去のブログ記事

ソフトウェア提供パートナー契約事件


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■関連訴訟(追記2015.7.7)

知財高裁平成27.6.24平成27(ネ)10035証書真否確認請求控訴事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/184/085184_hanrei.pdf
(裁判所サイト公表 2015.6.30)

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2014年09月06日

ファッションショー映像事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ファッションショー映像事件(控訴審)

知財高裁平成26.8.28平成25(ネ)10068損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      西 理香
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2014.9.2
*キーワード:著作物性、応用美術、実演、モデル、スタイリスト、ヘア、メイク、公衆送信権、放送権、実演家人格権

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■事案

ファッションモデルに施された化粧や髪型のスタイリングなどの著作物性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審原告):イベント企画制作会社、イベント運営業者
被控訴人(一審被告):NHK、服飾広告代理店

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、3号、2条2項、23条1項、19条1項、92条1項、90条の2第1項

1 公衆送信権、氏名表示権侵害の成否
2 放送権、実演家としての氏名表示権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,控訴人らが,被控訴人日本放送協会(以下「被控訴人NHK」という。)は,被控訴人株式会社ワグ(以下「被控訴人ワグ」という。)従業員を介して,控訴人らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映像の一部である原判決別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)をそのテレビ番組において放送し,これにより,控訴人有限会社マックスアヴェール(以下「控訴人会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに控訴人X(以下「控訴人X」という。)の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被控訴人らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被控訴人ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,控訴人会社につき943万4790円,控訴人Xにつき110万円(附帯請求として,これらに対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
 原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らがそれぞれ前記裁判を求めて控訴した。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 公衆送信権、氏名表示権侵害の成否

イベント制作会社及びディレクターである控訴人(一審原告)らは、被控訴人(一審被告)NHKの本件映像部分の放送により本件ファッションショーの以下の部分の著作物の著作権(公衆送信権、控訴人Xの氏名表示権)が侵害された旨主張しました。

(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング
(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート
(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け
(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート
(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像

裁判所は、著作権侵害性判断の前提として、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で(7頁以下)、応用美術(2条2項)との区別について述べています(8頁以下)。

・本件ファッションショーで使用されたものは、主として大量生産されるファストファッションのブランドものであり、実用に供されるものである
・本件ファッションショーも実用を想定したショーである

といった、本件ファッションショーの性質から、化粧、髪型、衣服及びアクセサリーを組み合わせたものである(1)、(2)、(3)、(6)については、美的創作物に該当するとしても、応用美術との区別が必要となるとした上で、

「一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである」として、一品制作物のみならず、量産品についても保護の対象となりうることを示し、また、

「実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである」ものの、

「実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,上記2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはできないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解すべきである」(9頁以下)として、実用目的部分との分離評価の視点について説示。

そして、(1)から(7)について、以下のように検討しています。

(ア)(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて

本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服・アクセサリー等はそのほとんどがファストファッションである「Forever21」製作のものを使用しただけであり、控訴人らのデザインに係るものではない。また、シティやリゾートのパーティ等の場面において実用されることを想定するものであって、それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく、また、実用目的のための構成と分離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものでもない(10頁以下)

(イ)(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて

化粧及び髪型について、その美的要素(外観や見栄えの良さ)は、他の者から見られることが想定されるものではあるが、シティやリゾートのパーティ等の場面において実用される衣服やアクセサリーとのコーディネートを想定する実用的なものであって、それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく、また、実用目的のための構成と分離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものでもないから、美術の著作物に当たるともいえない(11頁以下)

(ウ)(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて

各モデルの上記ポーズ又は動作は、そもそも応用美術の問題ではなくて、ファッションショーにおけるポーズ又は動作が著作物として保護されるかどうかとの問題である。しかし、これらのポーズ又は動作は、ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきである。上記ポーズ又は動作において、作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって、これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。また、同様の理由で、これを舞踊の著作物と解することもできない(12頁以下)

(エ)(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネートについて

(1)から(5)の点について、控訴人Xが著作者であると認められないか又は著作物性が認められないところであり、これらの各要素が組み合わされることによって、作成者の個性の表出というべきような新たな印象が生み出されているものとは認められない。前記(1)から(5)の点の組み合わせに著作物性を認めることはできない(14頁)

(オ)(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像について

出演順序に思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。また、背景映像として使用された写真について、控訴人らに各写真の著作権が帰属する根拠も判然としないし、写真の選択に何らかの創作性があるものとも認められない(14頁以下)

結論として、(1)から(7)について、控訴人らが著作権者であるとは認められないか、又は著作物性が認められないとして、控訴人会社の公衆送信権、控訴人Xの氏名表示権侵害性が否定されています。

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2 放送権、実演家としての氏名表示権侵害の成否

裁判所は、実演の意義(2条1項3号)について言及した上で、モデルのポーズと動作の振り付けの演出は、動作等が著作物にあたらないとした認定を踏まえ、著作物を演ずることに当たらず、「実演」に該当しないと判断。また、モデルがヘアメイクや衣類を着用等しながらポーズや動作を取ることを演出した控訴人Xについても実演家の権利は認められないと判断しています(17頁以下)。
さらに、ファッションショー全体についても、「演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること」に「類する行為」にはあたらず、2条1項3号の実演には該当しないと判断しています(17頁以下)。

結論として、本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが、「その実演」を公衆に提供し又は放送する場合に当たるものとは認められず、本件映像部分の放送が、控訴人会社の放送権又は控訴人Xの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められないと判断されています。

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■コメント

結論として、原審同様、ファッションショーにおけるヘアやメイクの著作物性やモデルのポーズの著作物性が否定されています。
原審と比較すると、知財高裁ではファッションショーでの利用であるという点を踏まえ、実用の視点が強く示された印象です。
意匠法と著作権法の棲み分け論にかかわる応用美術論について、裁判例では様々な説示がされていますが、「実用性や機能性を離れて」といった分離評価の点については、過去、ファービー人形事件一審判決(山形地裁平成13.9.26)やニーチェアー事件判決(大阪高裁平成2.2.14)での説示がありますが、多数の裁判例の分析における統一的に理解する視点として、「実用品としての目的・機能による制約を受けているか否か」で判断すべきとする見解があります(小倉秀夫、金井重彦編著「著作権法コンメンタール」(2013)高橋淳190頁、高部後掲書参照)。もっとも、実用性と審美性の分離評価の具体的なあり方を考える場合も様々な課題が出てくるところです(作花文雄「詳解著作権法第4版」(2010)140頁以下参照。また、米国における分離テストについて、奥邨弘司「米国における応用美術の著作権保護」『知財年報2009』(2009)241頁以下参照)。

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■過去のブログ記事

原審記事

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■参考判例

タイプフェイス事件 最高裁平成12.9.7平成10(受)332著作権侵害差止等請求本訴、同反訴事件判決判決文

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■参考文献

高部真規子『実務詳説著作権訴訟』(2012)112頁以下

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■追記(2015.3.23)

TKCローライブラリー 新・判例解説 Watch
知的財産法 No.96(2015.3.20掲載)
本山雅弘「ファッションショーの表現要素に関して応用美術の著作物該当性と実演該当性が争われた事例」
https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-110961193_tkc.pdf
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2014年09月03日

音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件(対ソフトバンクBB)−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件(対ソフトバンクBB)

東京地裁平成26.7.31平成26(ワ)3577発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      高橋 彩
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2014.8.12
*キーワード:レコード製作者、送信可能化権、グヌーテラ、発信者情報開示、プロバイダ責任制限法

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■事案

グヌーテラファイル交換ソフトを利用した音楽原盤の無断送信可能化についてプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否が争点となった事案(対ソフトバンクBB)

原告:レコード製作者ら
被告:プロバイダ事業者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法96条の2、プロバイダ責任制限法4条1項

1 権利侵害の明白性
2 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

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■事案の概要

『本件は,レコード製作会社である原告らが,被告に対し,原告らが送信可能化権を有するレコードに収録された楽曲を氏名不詳者が無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置し,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にすることにより,原告らの送信可能化権が侵害されたと主張して,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 権利侵害の明白性

本件各レコードに録音された楽曲をMP3ファイル形式に変換して複製した本件各音楽ファイルを原告に無断で送信可能化した点について、被告は、「GnutellaなどのいわゆるP2P型ファイル交換ソフトについては,現時点においてIPアドレス等の特定方法の信頼性について具体的な基準を設けることは難しいとされている」(5頁)などとして、原告側の本件各音楽ファイル及び本件各IPアドレスの検出に関するクローリング調査技術の正確性を争点としました。
この点について、裁判所は、調査会社の実験結果などから、検出の正確性を肯定、被告サービスのユーザーである本件各契約者が各原告の本件各レコードに係る送信可能化権を侵害したことは明らかであると判断しています(6頁以下)。

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2 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

裁判所は、各原告は、本件各契約者に対して著作隣接権侵害を理由に損害賠償請求権等を行使し得るところ、本件各契約者の氏名、住所等を覚知する手段が他にあるとうかがわれないとして、被告に対して本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができると判断しています(8頁)。

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■コメント

P2Pネットワーク上の著作権侵害対策調査技術も日進月歩かと思いますが、発信者のプライバシーへの配慮との兼ね合いとはいえ、プロバイダ事業者に対して不明確な点について、1つ1つ訴訟によって明らかにした上で発信者情報開示を求める手間暇を考えると、レコード会社の労力も相当なものかと思われます。

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■過去のブログ記事

音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件(対KDDI)

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2014年09月01日

教育事業合併解消虚偽事実告知事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

教育事業合併解消虚偽事実告知事件

大阪地裁平成26.7.17平成23(ワ)9238等損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      松阿彌隆
裁判官      松川充康

*裁判所サイト公表 2014.8.25
*キーワード:従業員引き抜き、営業誹謗行為

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■事案

会社合併解消に伴う電子教材の使用許諾に関する合意等を巡って争われた事案

【甲事件】

原告:教育事業運営会社
被告:教育事業運営会社ら

【乙事件】

原告:甲事件被告、同親会社(乙事件反訴被告)
被告:甲事件原告(乙事件反訴原告)、同代表者ら

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■結論

甲事件:請求棄却
乙事件:本訴一部認容、反訴請求棄却


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■争点

条文 民法709条、不正競争防止法2条1項14号

【甲事件】

1 原告表現物について、複製、翻案、公衆送信可能化による著作権侵害が成立するか及び被告アドバンの原告表現物の利用が、原告の許諾によるものと認められるか
2 被告P2、同P4が、原告従業員を違法に引き抜いたか

【乙事件】

1 被告ピーシーが、原告アドバンについて虚偽の事実を告知したか及び被告ピーシーが、原告ワールドについて虚偽の事実を告知したか
2 原告アドバンが被った損害額及び原告ワールドが被った損害額
3 本件解約合意に基づき、被告株主らは違約金債務を負担するか
4 被告ピーシーの反訴請求

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■事案の概要

【甲事件】

『原告が,(1)被告らに,原告の著作権を侵害する不法行為があり(請求1,請求の趣旨第1項に対応),また(2)被告P2及び同P4に,原告従業員の違法な引抜行為(不法行為)があり,被告アドバンは使用者責任を負うとして(請求2,請求の趣旨第2項に対応),同被告らに対し,原告の蒙った損害の賠償を求める事案』(2頁)

【乙事件】

乙事件本訴請求
『(1)被告ピーシーの,原告アドバンに対する不正競争防止法違反行為に基づく損害賠償請求(本訴請求1)として,3008万3344円の支払
(2)被告ピーシーの,本件株式譲渡契約上の不作為義務の債務不履行又は被告ピーシーによる原告ワールドの事業に対する不正競争防止法違反(又は選択的に一般不法行為)に基づく損害賠償請求(本訴請求2)の一部請求として,500万円の支払,
(3)原告ワールドと,被告P16,同P17,同P19,同P18及び同P20間で締結された被告ピーシー株式の譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)の解約合意(以下「本件解約合意」という)の債務不履行に基づく損害賠償請求(本訴請求3)として,同被告らに対し1億円の支払,
及びそれらの支払済みまでの遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案』

乙事件反訴請求
『甲事件と同じ事実関係に基づき,原告アドバンの従業員に,
(1)被告ピーシーの著作権を侵害する不法行為(反訴請求1)
(2)被告ピーシー従業員の違法な引抜行為(反訴請求2)
があり,原告ワールドも共同不法行為責任を負うとして,甲事件原告でもある被告ピーシーが,甲事件被告らに対する請求(甲事件請求の趣旨1及び2)と同額について,原告ワールドに対し反訴請求するものである。』(33頁以下)

<経緯>

H03 ピーシー社設立(代表者P16)
H20 P16とワールド社との間で完全子会社化基本合意
H21 P16が株式譲渡契約の解約を申入
    基本合意と株式譲渡契約を合意解約(本件解約合意)
    教育教材の継続利用等に関する合意(本件合意)を締結

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■判決内容

<争点>


1.甲事件

1 原告表現物について、複製、翻案、公衆送信可能化による著作権侵害が成立するか及び被告アドバンの原告表現物の利用が、原告の許諾によるものと認められるか

本件株式譲渡契約の解消が、原告代表者P16の一方的な都合によって申し入れられ、ワールド社においてやむなくこれを受け入れたものと裁判所は認定した上で、本件合意解約とは別に、あえて本件合意を行った目的としては、「将来ワールド社が教育事業に参画する際に,原告との競業によって生ずるリスクを解消するとともに,合意書締結前にされた原告とワールド社の協働事業の成果等を一定程度ワールド社にも帰属させることによって,本件解約合意によりワールド社に生じた損失を填補する趣旨が含まれると解するのが合理的である」と判断。
本件合意は、ワールド社に広汎な権利を付与することを目的としてなされたものというべきであるとして、平成21年8月ころに、被告P1が被告P2から受領した本件バックアップ1や被告P1が閲覧できた原告のグループウェアや本件LMS内の情報、教材、教育事業に関するパンフレット、ちらし等について、ワールド社及びその完全子会社である被告アドバンは、いずれも本件合意による利用権を有するというべきであると判断されています(27頁以下)。

結論として、ワールド社の子会社である被告アドバンは、本件合意に基づき被告アドバン表現物を適法に利用することができるというべきであり、被告アドバンが被告アドバン表現物を利用したことが、原告の著作権を侵害するとの原告の主張は、理由がないと判断されています。

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2 被告P2、同P4が、原告従業員を違法に引き抜いたか

個人被告らの退職経緯によると、個人被告らは個人的に様々な潜在的退職動機を有しており、その意思をそれぞれが顕在化させて退職に至ったにすぎないとして、組織的な引き抜きがあったとは言い難いと裁判所は認定。「幹部従業員ないしその退職者の転職の勧奨が,社会的相当性を逸脱し,極めて背信的な方法でされた場合には,雇用契約上の誠実義務違反や不法行為責任を生ずることはあるが,上記にみたとおりの被告P2及び被告P4の行為が,このような背信的な方法であったとは到底認められない」として、裁判所は、被告P2及び同P4に違法な原告従業員の引き抜きがあったとの原告の主張は理由がない、と判断しています(30頁以下)。

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2.乙事件

1 被告ピーシーが、原告アドバンについて虚偽の事実を告知したか及び被告ピーシーが、原告ワールドについて虚偽の事実を告知したか

裁判所は、被告ピーシーの行為について、「原告アドバンの教材利用行為一切が著作権侵害であることを,取引先,監査法人,証券取引所等に吹聴して回ることにより,原告ワールド及び原告アドバンが教育事業に進出して被告ピーシーと競合することを妨害しようとしたものと解さざるを得ず,その態様は,原告アドバン,原告ワールドに対する敵意,害意を伴う執拗かつ悪質なものというほかない」と判断。不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実を告知し又は流布する行為に当たると判断しています(44頁以下)。

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2 原告アドバンが被った損害額及び原告ワールドが被った損害額

虚偽の事実の告知という被告ピーシーの行為により信用が毀損され営業上の不都合が生じたと認められるとして、裁判所は、本件に現れた一切の事情を考慮して、原告アドバンについては200万円、原告ワールドについては110万円(うち10万円は弁護士費用相当の損害金)が相当因果関係を有する損害と判断しています(45頁)。

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3 本件解約合意に基づき、被告株主らは違約金債務を負担するか

原告ワールドと被告株主ら間の本件解約合意において、被告株主らは、被告ピーシーをして合意書を締結させるようにするものとしているものの、この約定は上記解約合意に伴う原状回復のような契約当事者としての義務ではなくて、あくまでも別の法主体である被告ピーシーにそのような合意をさせる作為義務を定めるものにすぎず、本件解約合意の内容に沿う形で原告ワールドと被告ピーシーが本件合意を締結し、本件合意を遵守する義務が被告ピーシーに生じた以上、被告株主らは、本件解約合意に基づく上記作為義務を尽くしたと評価することができると裁判所は判断。結論として、被告株主らが、本件解約合意に基づく違約金債務を負担するということはできないと判断しています(46頁以下)。

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4 被告ピーシーの反訴請求

原告アドバン従業員の著作権侵害及び違法な引抜行為が認められないことは甲事件の判断の通りであり、原告らが共同不法行為責任を負うことを前提とする被告ピーシーの反訴請求は、すべて理由がないと裁判所は判断しています(47頁)。

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■コメント

総合人材サービス会社とパソコンスクール運営会社の間で社員教育事業での新たな展開を見越して両社で完全子会社化計画が進められたものの、計画が解消となり、その後の取り決め合意について細かく契約したにもかかわらず、紛争になってしまっているという点では、いくら契約書面を作成しても、提訴自体はどうにも防ぎようがない、といった印象の事案です。

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■参考サイト

ワールドインテック PCアシスト株式取得の基本合意書解消:|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース(2009年9月16日記事)
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2014年08月20日

高校授業料収納管理ソフト契約事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

高校授業料収納管理ソフト契約事件

大阪地裁平成26.7.15平成26(ワ)995著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      田原美奈子
裁判官      松阿彌 隆

*裁判所サイト公表 2014.8.18
*キーワード:ソフトウェア使用許諾契約

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■事案

高校で使用される授業料や諸費の収納管理事務効率化ソフトの使用許諾契約の内容が争点となった事案

原告:ソフトウェア開発販売会社
被告:尼崎市

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■結論

請求棄却

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■争点

1 被告主張のプログラム使用許諾契約の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,原告を著作権者とする別紙コンピュータ業務支援システム目録記載の「徴収金事務管理支援システム」という名称のプログラム(以下「本件プログラム」という。)につき,被告との間で,その使用契約を締結して被告の運営する複数の高校のコンピュータにこれをインストールしたが,被告の債務不履行(使用料の不払い)により同契約は解除され終了したと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく本件プログラムの使用差止め(コンピュータからの本件プログラムの削除),(2)本件プログラムを導入した平成19年4月から使用契約解除までの間の,主位的にプログラム使用契約に基づく使用料,予備的に不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払,(3)使用契約解除後から本件プログラムの削除までの間の不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払をそれぞれ求めた事案であり,被告は,原告の主張する契約を否認し,それとは異なる使用許諾を含む契約を締結したと主張して争っている』事案(2頁)

<経緯>

H18 原被告間でソフト導入について検討
H20 本件プログラムを正式稼働、保守管理を継続、研修実施
H23 導入先の高校2校が統合されて1校となる
    原告が契約解除の意思表示

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■判決内容

<争点>

1 被告主張のプログラム使用許諾契約の成否

原告は、以下の概要のプログラム使用許諾契約(本件契約)が原被告間で成立していると主張しました(4頁)。

使用期間:5年間
使用料:導入するコンピュータ1台当たり基本価格385万円
維持管理費:2年目から月額4万円(コンピュータ1台当たり)

しかし、裁判所は、
(1)市長などによる決済を受けた上での契約書が作成されていない
(2)各校の備品として収納管理ソフトを25万円で購入することを前提に経費を概算している
(3)原告が被告に交付した説明文書には、300万といった金額の記載がない
(4)原告が行った修正プログラムの作成や研修、データ移行に対する対価は都度の報酬として支払われている
(5)トラブルとなった以前に本件契約通りの代金の支払を求めたことがなかった

といった諸事情から、原被告間で原告が主張するような本件契約が成立していると認めることはできないと判断しています(12頁以下)。

その上で、裁判所は、原被告間では、
・パッケージプログラムとして購入されている
・代金は備品購入費として一括支払いされている
・本件プログラムの複製物については所有権が移転している
・本件プログラムの使用期限は無期限

といった内容の合意があることを認定。
原告の本件契約を前提とした債務不履行に基づく本件プログラムの使用差止め、使用料相当額の損害金の支払い等の主張を認めていません。

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■コメント

自治体と複数年契約する場合の手間を考えると、備品購入と都度の請負契約ということでうまく調整していけたらというところですが、一旦、契約内容について齟齬が生じると、受託業者側としても当初のもくろみ通りの対価回収が難しくなるため、どのような契約形態にしていくか悩みどころかと思います。また、発注者側としても、こうした事態となってしまうと、今後のメンテナンスにおいて不用意に改良を加えることもできないため、結局使えないソフトとなってしまいかねませんので、注意が必要になってきます。
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2014年08月18日

「韓国TV」テレビ番組配信サービス事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「韓国TV」テレビ番組配信サービス事件

東京地裁平成26.7.16平成25(ワ)23363損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2014.8.14
*キーワード:テレビ番組 放送事業者 配信サービス 

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■事案

韓国KBSテレビ番組を無許諾でインターネット配信するサービスの違法性が争点となった事案

原告:韓国放送事業者
被告:韓国法人

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法21条、98条、99条の2

1 国際裁判管轄及び準拠法
2 著作権侵害性
3 損害論

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■事案の概要

『本件は,被告が,サービスの利用者らに対し,セットトップボックスと称する機器を送付するとともに,平成23年8月12日から同年9月8日までの間に,原告が放送するKBS第1テレビジョン及びKBS第2テレビジョンを受信の上,エンコード(デジタルデータに変換)してサーバーに保存し,保存したデジタルデータを利用者らのセットトップボックスに送信することにより,原告の放送にかかる別紙「侵害番組一覧」記載の49番組(以下「本件番組」という。)を利用者らに視聴させて,原告の著作権(複製権)及び著作隣接権(複製権,送信可能化権)を侵害したとして,民法709条に基づき,利用許諾料相当損害金490万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

<経緯>

H23.2 被告が「韓国TV」の名称でサービス開始

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■判決内容

<争点>

1 国際裁判管轄及び準拠法

国際裁判管轄について、裁判所は、原告及び被告は韓国法人であるが、本件サービスは日本に在住する韓国人に向けられたサービスであり、被告による「不法行為があった地」の少なくとも一部は日本国内にあると認められるとして、本件につき我が国は国際裁判管轄を有すると判断しています(民事訴訟法3条の3第8号)。
また、準拠法については、本件において「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるとして、日本法となると判断しています(法の適用に関する通則法17条 3頁以下)。

   --------------------

2 著作権侵害性

原告が著作権及び放送事業者として著作隣接権を有している映画著作物であるTV番組について、被告がその管理するサーバーに本件番組を複製し、また、本件番組を公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(被告の管理するサーバー)の公衆送信用記録媒体に情報を記録するなどして送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)して、原告の著作権(複製権)及び著作隣接権(複製権、送信可能化権)を侵害したことが認められています(4頁)。

   --------------------

3 損害論

原告がテレビ番組の利用許諾を行う場合、利用許諾料は60分ごとに10万円であること、本件番組はいずれも1時間枠の番組であるとして、49番組について合計490万円の許諾料相当額の損害が認められています(4頁以下)。

   --------------------

■コメント

被告は本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出していないことから、これといった反論もなく請求認容の判断となっています。
本件サービスは、被告において受信したテレビ放送をエンコードして、そのデータを被告が管理するサーバーに保管し、利用者が番組等を指定することで利用者にデータを転送させるシステム環境を提供するものでした。ロクラク2事件最高裁判決(最高裁平成23年1月20日判決平成21(受)788)からしても、複製主体性がデータライブラリーを作成したサービス事業者であるといって問題はないと思われます。

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■参考サイト

「企業法務戦士の雑感」(2013-02-15)
[企業法務][知財]まねき・ロクラク時代の終わり

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2014年07月15日

キャバクラピアノ演奏音楽使用料事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

キャバクラピアノ演奏音楽使用料事件

東京地裁平成26.6.26平成24(ワ)32339著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.7.7
*キーワード:使用料、生演奏、カラオケ、演奏権、侵害主体性

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■事案

キャバクラでのピアノ生演奏やカラオケで使用されたジャスラック管理楽曲の使用料を巡る事案

原告:ジャスラック
被告:キャバクラなど4社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法22条、民法719条1項

1 本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否
2 被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否
3 差止めの必要性の有無
4 原告の受けた損害又は損失の額
5 時効消滅の有無

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■事案の概要

『本件は,音楽著作権等管理事業者である原告が,(1)被告有限会社銀座クラブチック(以下「被告銀座クラブチック」という。)及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティ(以下「被告トゥエンティーワンコミュニティ」という。)に対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害していると主張して,著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止めを求めるとともに,上記著作権の侵害により損害を受けた,又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏して著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金511万5040円(使用料相当損害金426万2470円と弁護士費用相当損害金85万2570円の合計額)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金426万2470円及びこれに対する訴状送達により支払を催告した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,(2)被告有限会社チック(以下「被告チック」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏し,また,カラオケ装置を使用して歌唱するなどして原告の著作権を侵害していると主張して,著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止め,カラオケ装置を使用しての演奏及び上映の差止めとその撤去を求めるとともに,上記著作権の侵害により損害を受けた,又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏し,また,カラオケ装置を使用して歌唱するなどして著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金715万3380円(使用料相当損害金596万1060円と弁護士費用相当損害金119万2320円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金596万1060円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払を求め,(3)被告有限会社グラン(以下「被告グラン」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害し,これにより損害を受けた,又は同被告らが著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金693万0110円(使用料相当損害金577万5000円と弁護士費用相当損害金115万5110円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金577万5000円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求める事案である。』(4頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否

被告トゥエンティーワンコミュニティを親会社とする被告3社が、各店舗においてその営業のために不特定多数の客に直接聞かせる目的で業者から派遣されたピアニストに原告管理楽曲などをピアノで演奏させていたことから、これにより原告の著作権を侵害したことが裁判所に認定されています。
また、被告チックにおいては、カラオケ装置により原告管理楽曲を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として演奏し、また、公に上映したものであるとして、原告の著作権(演奏権及び上映権)を侵害したと認められています(15頁以下)。

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2 被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否

被告3社の親会社である被告トゥエンティーワンコミュニティの著作権侵害主体性について、裁判所は、同被告が本件各店舗におけるピアノ演奏や本件カラオケ装置等を利用した演奏及び上映に関して、これを管理、支配し、また、これによって利益を得ていたと認めるに足りる証拠はないと判断。同被告がこれらの行為の主体であるとは認められないとしています(17頁以下)。

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3 差止めの必要性の有無

本件店舗(1)を経営する被告銀座クラブチック及び本件店舗(2)を経営する被告チックがピアノ演奏や本件カラオケ装置等による著作権侵害を今後も継続するおそれがあるとして、被告銀座クラブチックに対しピアノ演奏の差止め、被告チックに対しピアノ演奏及びカラオケ演奏等の差止めとカラオケ装置の撤去をそれぞれ認める必要があると裁判所は判断しています(18頁以下)。

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4 原告の受けた損害又は損失の額

原告の著作権信託契約約款等に基づき以下の通りの損害額が認定されています(19頁以下)。

(1)ピアノ演奏について

・本件店舗(1):429万8700円
・本件店舗(2):507万6855円
・本件店舗(3):463万5540円

(2)カラオケについて

30万2400円

(3)弁護士費用相当損害金

被告3社(43万円、54万円、46万円)

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5 時効消滅の有無

原告は、本件各店舗にピアノが設置されたことを知って原告管理楽曲の演奏がされていないかどうか従業員に聴取するなどして調査をしていたものの、曖昧な回答ではぐらかされるなどして実態がつかめず、社交場実態調査を行って初めて著作権の侵害が発生していることを認識したといった点から、本件訴訟提起時に平成21年11月14日以前に係る損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過しているということはできないと裁判所は判断。被告らの時効消滅の主張を認めていません(22頁以下)。

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■コメント

キャバクラを経営する3社の親会社については、著作権侵害主体性が否定される結果となっています。
親会社は飲食事業も手掛けていることから店舗での音楽著作物の利用については権利処理が必要であることは当然のことながら認識していると思いますが、子会社の経営にどの程度関与しているのか、単純な資本関係だけだったのか、興味を引く部分ではあります。

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2014年07月11日

音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件

東京地裁平成26.6.25平成26(ワ)3570発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2014.7.4
*キーワード:レコード製作者、送信可能化権、発信者情報開示請求、プロバイダ責任制限法

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■事案

グヌーテラファイル交換ソフトを利用した音楽原盤の無断送信可能化についてプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否が争点となった事案


原告:レコード会社ら
被告:インターネット接続プロバイダ事業者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法96条の2、プロバイダ責任制限法4条1項、2条4号

1 プロバイダ責任制限法2条4号所定の「発信者」該当性
2 明らかな著作権侵害の有無
3 開示を受けるべき正当な理由の有無

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■事案の概要

『本件は,レコード製作会社である原告らが,インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告に対し,原告らが送信可能化権(著作権法96条の2)を有するレコードが氏名不詳者によって原告らに無断で複製され,被告のインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置かれたことにより,原告らの送信可能化権が侵害されたと主張して,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,上記氏名不詳者に係る発信者情報(氏名,住所及び電子メールアドレス)の開示を求める事案である。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 プロバイダ責任制限法2条4号所定の「発信者」該当性

ファイル交換ソフト、ネットワークであるGnutella(グヌーテラ)を利用してユーザーが無断でAKB48が歌唱する楽曲「大声ダイヤモンド」を録音したレコード及び実演家であるGreeeeNが歌唱する楽曲「道」を録音したレコードを送信可能化した点について、被告は、無関係の第三者が契約者のIPアドレスや端末を不正に利用した可能性や契約者の端末が暴露ウィルスに感染した場合など、契約者の意思によらず送信可能になった可能性もあるとして、IPアドレスの割当てを受けた契約者がプロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に該当するとは限らない旨主張しました。
しかし、裁判所は、被告が主張するような事情は飽くまで一般的抽象的な可能性を述べるものにすぎないこと、本件全証拠によってもこれら不正利用や暴露ウイルスへの感染等を疑わせる具体的な事情は認められないことなどから被告の主張を認めていません(14頁以下)。
結論として、プロバイダ責任制限法2条4号所定の「発信者」該当性が肯定されています。

   --------------------

2 明らかな著作権侵害の有無

裁判所は、本件利用者1及び2は、原告レコード1及び2の複製物である本件ファイル1及び2をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上で当該コンピュータを被告のインターネット接続サービスを利用して被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、Gnutella互換ソフトウェアにより本件ファイル1及び2をインターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者(公衆)からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたことが認められるとして、本件利用者1及び2の上記行為は、原告らが原告レコード1及び2について有する送信可能化権を侵害したことが明らかであると認められると判断しています(プロバイダ責任制限法4条1項1号 15頁)。

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3 開示を受けるべき正当な理由の有無

原告らは、原告ら各自が原告レコード1及び2について有する送信可能化権に基づいて本件利用者1及び2に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があり、本件利用者1及び2の氏名・住所等は原告らに不明であるため上記請求を行うことが実際上できない状態にあることから、原告らには、被告から本件利用者1及び2に係る発信者情報(氏名、住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由があると裁判所は判断しています(プロバイダ責任制限法4条1項2号 15頁)。

結論として、インターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスの開示請求が認容されています。

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■コメント

ファイル共有ソフトの利用状況については、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と不正商品対策協議会(ACA)が利用実態調査(クローリング調査)を実施しており、結果が公表されています。

プレスリリース2014年5月14日PDF
クローリング調査報告書PDF

ユーザーは減少傾向にあるようですが、引き続き関係団体、行政等による意欲的な対応が求められるところです。

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2014年06月17日

英語テスト自動作成システム開発委託契約事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

英語テスト自動作成システム開発委託契約事件

大阪地裁平成26.6.12平成26(ワ)845損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松阿彌隆
裁判官      林啓治郎

*裁判所サイト公表 2014.6.13
*キーワード:ソフトウェア、ソースコード、開発委託契約、著作権譲渡、保守、継続的契約

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■事案

英語テスト自動作成システムの開発委託契約において著作権譲渡、ソースコードの引渡しが合意されていたかどうかが争点となった事案

原告:書籍印刷物企画編集制作会社
被告:プログラム制作業者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法61条2項

1 本件委託契約上、被告が本件ソースコードを原告に引き渡すべき義務を負うか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し開発を委託したソフトウェアに関し,当該ソフトウェアのソースコードを引き渡すべき契約上の義務を怠った債務不履行があるとして,債務不履行に基づく損害賠償と,損害賠償の請求の日である本訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。』(1頁)

<経緯>

H10 原告が「エスト自動テスト作成システム」使用
H14 原告が被告にソフト制作を発注
H15 被告が原告にソフトを納品
H22 15年から22年にかけて被告がアップデート
H23 被告が原告に廃業通知
H24 原告が被告にソースコードの引渡しを求める

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■判決内容

<争点>

1 本件委託契約上、被告が本件ソースコードを原告に引き渡すべき義務を負うか

(1)本件委託契約の履行に伴う著作権移転の合意の有無

原告は、本件委託契約に基づいて本件ソフトウェア及び本件ソースコードの著作権の譲渡が合意されており、これに伴って被告のソースコードの引渡義務も発生する旨主張しました(11頁以下)。
しかし、裁判所は、

・ソフト制作者である被告に著作権が原始的に帰属している
・見積書等、原告と被告との間で取り交わされた書面において、本件ソフトウェアや本件ソースコードの著作権の移転について定めたものは何等存在しない
・被告は原告に対して本件ソースコードの開示や引渡しをしたことはない
・原告は平成23年11月に至るまで被告に対して本件ソースコードの提供を求めたことがなかった
・原告担当者は被告に対して本件ソースコードの提供ができるかどうかを問い合わせている

といった点から、被告が原告に対して本件ソースコードの著作権を譲渡したりその引渡しをしたりすることを合意したと認めることはできないと判断しています。

(2)ヘルプファイルにおける著作権表示

原告は、本件パッケージソフトウェアのヘルプファイルに示された英文の原告名の著作権表示等を理由に原告が本件ソースコードに対する権利者である旨主張しましたが、裁判所は認めていません(12頁)。

(3)継続的契約関係の下における損害発生防止(減少)義務

原告は、ソフトウェア開発の当初から本件ソフトウェアを継続的にアップデートすることが予定されており、このような継続的契約関係においては、被告は損害発生防止ないし減少義務の履行として本件ソースコードの引渡義務を負うと主張しました(12頁以下)。しかし、裁判所は、

・一連の取引は発注の都度、原被告間に個別の業務委託契約が成立し、被告の納品した成果物に対して検収を経て原告が報酬を支払うことによって本旨履行が終了したものというべきである
・被告は本件ソフトウェアが最新のオペレーションシステムに対応していないことを言明しており、永続的なアップデートの約束がされたことと相容れない状況となっている

といった点から、本件委託契約は、事実上継続して取引があったにすぎず、継続的契約関係とも認められない。また、保守契約が結ばれたことさえ認められないとして、被告が損害発生防止、軽減義務を負うこともないとして原告の主張を認めていません。

結論として、本件委託契約上、本件ソースコードの原告への引渡しが被告の義務とされていたと認めることはできないとして、原告の主張は退けられています。

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■コメント

本事案のソフトは、原告が出版している高校生向け英語教材をベースに自動的に適度な量と難易度のテスト問題を作成するシステムで、高校教員等において使用されるものでした。個人のプログラマーへのソフト制作発注事案ですが、約8年間、契約関係が続いていました。

ソフトウェア開発では、その後の保守も含めて開発側がOSバージョン対応や発注側の要望などに当初の想定以上に過度の負担を強いられることがあることから、追加開発や保守業務の継続を断念する場面があります。
本件ではWindows7での動作保証をしないといった条件のなかで追加開発を行っていて、最終的には被告業者は廃業していますが、契約終了時に業者がソースの買い取りを求めたものの、価格交渉で折り合わなかった、といった背景があったのかどうかも不明ですが、発注側としても、保守が継続されない場合の他社引き継ぎ事務も含めて契約で終了時の措置を明確にしておく必要がありました。

8年間での取引額が500万円程度ということで、ソースコードが引き渡されないことによる発注側の不都合は甘受すべきレベルとの裁判所の価値判断だったのかもしれませんが、判決では、継続的契約関係や保守業務の側面自体が否定されており、業者の損害発生防止(軽減)義務違反を否定するにしても、その根拠としてそこまで言ってしまうには議論の余地が残ります。

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2014年06月11日

児玉幸雄美術鑑定書事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

児玉幸雄美術鑑定書事件

東京地裁平成26.5.30平成22(ワ)27449著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2014.6.9
*キーワード:美術鑑定書、複製、引用

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■事案

洋画家児玉幸雄の絵画作品などの鑑定証書の裏面に添付された作品複製物の著作権侵害性が争点となった事案

原告:洋画家児玉幸雄相続人ら
被告:東京美術倶楽部

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、32条1項

1 本件行為が複製に当たるか
2 著作権法32条1項適用の可否

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■事案の概要

『本件は,画家である亡D(平成4年2月20日死亡。以下「D」という。)の絵画につき,原告A及び原告Cが,Dの絵画の著作権を相続により取得して各2分の1の割合で共有するとして,被告に対し,絵画の鑑定証書の裏面にDの絵画の複製物を添付している被告の行為は,原告らが共有する著作権(複製権)を侵害するものであると主張して,(1)著作権法112条1項に基づき,Dの制作にかかる別紙文書目録添付にかかる絵画目録記載の絵画(油彩作品566点,水彩作品187点,版画作品106点の合計859点)につき裏面にその複製物を添付した文書である鑑定証書の作成頒布の差止めと(請求の趣旨第1項),(2)民法709条,著作権法114条2項に基づき,複製権侵害による逸失利益として,原告らそれぞれに対し,508万8000円及びうち200万円に対する平成22年8月29日(訴状送達の日の翌日)から,うち308万8000円に対する平成25年7月27日(同月19日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨第2項,第3項),それぞれ求めた事案である』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件行為が複製に当たるか

被告が、「東京美術倶楽部鑑定委員会」名で「鑑定証書」と題する書面を作成し、ホログラムシールが貼付された鑑定証書の裏面に作品のカラーコピーをパウチラミネート加工して添付する行為の複製性について、裁判所は、複製の意義に関して言及した上で、本件鑑定証書に添付された本件コピーは、元の絵画の写真撮影を経て作成された縮小カラーコピーであり、その大きさは縦12.7CM、横17.8CMであって、被告自身が原画との同一性が確認できるよう作成しているとして、原画の表現上の本質的な特徴との同一性を維持し、これに接する者がその表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであることは明らかであると判断。本件コピーを作成することを含め、被告の本件行為は、著作権法上の「複製」に該当すると認めています(23頁以下)。

   --------------------

2 著作権法32条1項適用の可否

次に被告の本件行為が著作権法上の引用としての利用にあたり、適法となるかどうかについて、裁判所は、引用(著作権法32条1項)の意義、判断要素について、『他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であるから,「引用」に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。』等と説示、そして、

(1)利用する目的

カラーコピーの添付は、鑑定証書の鑑定対象となった原画を多数の同種画題が存する可能性のある中で特定し、かつ、当該鑑定証書自体が偽造されるのを防止する目的で行っていると認められる。
そして、その目的達成のためには、鑑定の対象である原画のカラーコピーを添付することが最も確実であることから、これを添付する必要性、有用性が認められる。
著作物の鑑定の結果が適正に保存され、著作物の鑑定業務の適正を担保することは、贋作の存在を排除し、著作物の価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることにもつながる。
こうした点を考慮すると、著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは、著作権法の規定する引用の目的に含まれる。

(2)利用する方法や態様

原画をカラーコピーした部分のみが分離して利用に供されることは考え難い。
鑑定証書自体も絵画の所有者の直接又は間接の依頼に基づき1部ずつ作製されたものであり、絵画と所在を共にすることが想定されている。
その方法ないし態様としてみても、社会通念上、合理的な範囲内にとどまるものというべきである。

(3)当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度

原告らが絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるということも考え難い。

(4)公正な慣行

裁判所による調査嘱託の結果として、日本洋画商協同組合による鑑定では、当該絵画の著作権者(遺族)から鑑定の許諾を得ているものの、北海道絵画商協同組合では得ていないといった鑑定実務であることから(22頁以下参照)、鑑定実務において著作権者である遺族の許諾を得て鑑定証書に本件コピーを添付するといった「公正な慣行」が存在するとは認めることができない。

(5)自己の著作物中での他人の著作物利用の要否

原告らは、「引用」は紹介、参照、論評等の目的で行われるものであり、自己の著作物と利用される他人の著作物との間に紹介、参照、論評等の関係がなければ適法引用には該当しない旨主張する。
しかし、旧著作権法(明治32年法律第39号)30条1項2号「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」とは異なり、現行著作権法32条1項における「引用」として適法とされるためには、利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件ではないと解すべきである。

以上の点を総合考慮して、被告が鑑定証書を作製するに際してその裏面に本件コピーを添付したことは、著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において、その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも正当な範囲内のものであると認めるのが相当であるとして、32条1項の適用を肯定、被告の本件行為は適法と判断しています(24頁以下)。

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■コメント

三岸節子作品を巡って争われた美術鑑定書事件では、原審では遺族側一部勝訴であったものの、知財高裁では引用が認められて遺族側敗訴の結果となっています。

本件でも、三岸節子作品事案の場合と鑑定業務自体は状況的に異なるところはなく、東京地裁の判断は三岸節子事案での知財高裁の判断を踏襲した結果となっています。

もっとも、本件では、同名作品が「パリ−風景」42点、「ムフタール通り」36点、「モンマルトル」14点といったように多数に及ぶ場合であり、作品複製物の鑑定書添付による同定の必要性はさらに高くなるかと思われます。

ところで、インターネットオークションサイトで児玉幸雄作品を検索してみると、添付の鑑定書には、「東京美術倶楽部鑑定委員会」のものと「児玉幸雄の会」のものとがあり、後者が遺族を中心とする鑑定会のもの(事務局長H氏名義)とすれば、背景としては鑑定業務での利益対立の構図があったのかもしれません。

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■過去のブログ記事

三岸節子美術鑑定書事件
三岸節子美術鑑定書事件(控訴審)

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■参考判例

三岸節子美術鑑定書事件(控訴審)
知財高裁平成22.10.13平成22(ネ)10052損害賠償請求控訴事件
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2014年06月10日

自動接触角計プログラム事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自動接触角計プログラム事件

東京地裁平成26.4.24平成23(ワ)36945損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      志賀 勝

*裁判所サイト公表 2014.6.6
*キーワード:プログラム、著作物性、複製、翻案、営業秘密、営業誹謗行為

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■事案

接触角計測装置のプログラムを巡って退職従業員らと著作権侵害性や営業秘密管理性が争点になった事案

原告:理化学機器の開発設計製造会社
被告:測定機器企画設計製造会社、各種機械装置開発製造会社、原告退職従業員

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条6項、2条1項14号

1 原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否か
2 (被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か
3 被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か
4 被告乙Aが原告の営業秘密を不正に開示し、被告会社らがこれを不正取得したか否か
5 原告の受けた損害の額
6 被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否か
7 原告のB事件に係る訴訟提起が被告会社らに対する不法行為を構成するか否か
8 本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否か

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■事案の概要

A事件(平成23(ワ)36945損害賠償等請求事件)
『原告が,(1)被告ニックの製造,販売する自動接触角計に搭載されたプログラムは被告ニックが被告乙Aの担当の下に原告のプログラムを複製又は翻案したもので,被告ニックが自動接触角計を製造,販売することは原告のプログラムの著作物の著作権を侵害する,(2)被告乙Aは原告の営業秘密である上記プログラムやそのアルゴリズムを不正に開示し,被告ニックはこれを不正に取得した,(3)原告の従業員であった被告乙Aは原告の秘密を保持すべき義務を負う秘密情報を開示,漏洩したなどと主張して,被告ニック及び被告乙Aに対し,民法719条又は不正競争防止法4条(被告乙Aについてさらに民法415条)に基づき,損害金994万2000円と弁護士費用相当損害金90万円の合計額1084万2000円及びこれに対する不法行為の後であり,訴状送達の最も遅い日の翌日である平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案』

B事件(平成24(ワ)25059著作権侵害差止等請求事件)
『原告が,被告ニックの上記プログラムの新バージョンも被告ニックが被告乙Aの担当の下に原告プログラムを翻案したもので,これを搭載した自動接触角計を被告ニックが製造,販売し,被告あすみ技研が販売することは原告のプログラムの著作物の著作権を侵害する,(2)被告乙Aは原告の営業秘密である原告のプログラムやそのアルゴリズムを不正に開示し,被告ニック及び被告あすみ技研はこれを不正に取得した,(3)被告乙Aは原告の秘密を保持すべき義務を負う秘密情報を開示,漏洩したなどと主張して,被告ニック及び被告あすみ技研に対し,著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき,被告ニックの上記プログラムの複製,翻案や販売等の差止め及びプログラム等を格納した記憶媒体の廃棄を求め,被告ニック及び被告乙Aに対し,民法719条又は不正競争防止法4条(被告乙Aについてさらに民法415条)に基づき,損害金3750万円と弁護士費用相当損害金300万円の合計額4050万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,原告の従業員であった被告乙B及び被告乙Aには原告在職中に非違行為があったと主張して,被告らに対し,民法703条に基づき,支払済みの退職金188万1350円(被告乙B)又は256万4090円(被告乙A)及びこれらそれぞれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』

C事件(平成25(ワ)9300損害賠償請求反訴事件)
『被告ニック及び被告あすみ技研が,原告がしたB事件の訴訟提起は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く,原告が訴訟提起に関して行ったホームページなどにおける告知行為は虚偽事実の告知又は流布に当たるなどと主張して,原告に対し,民法709条に基づき,被告ニックが損害金1000万円,被告あすみ技研が損害金200万円の各支払を求める事案』(3頁以下)

<経緯>

H07.04 被告乙Aが原告入社
H08.08 被告乙Bが原告入社
H10.12 原告プログラムの開発に着手
H21.04 被告乙Bが原告退社、被告ニックを被告乙Bらが設立
H21.07 原告プログラム完成
H21.08 被告乙Aが原告退社、被告ニックに入社
H21.10 被告ニックが被告製品1、2販売告知
H22.10 被告ニックが新バージョンプログラム完成、被告あすみ技研が販売
H23.01 原告が仮処分申立事件で和解案提示

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■判決内容

<争点>

1 原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否か

原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否かについて、裁判所は、液滴の接触角を計測するという原告プログラムの目的のためには名称や関数等の定義や関数等の種類や内容、変数等への値の引渡しの方法、サブルーティン化の有無やステップ記載の順序等において多様な記載方法があり、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは上記の目的を達成するために工夫を凝らして2000行を超える分量で作成されたものであるとして、原告接触角計算(液滴法)プログラムは全体として創作性があると判断しています(39頁以下)。

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2 (被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か

被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、番号(1)ないし(16)のプログラムがほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応し、各プログラム内のブロックが機能的にも順番的にもほぼ1対1に対応しているといった点などを裁判所は認定。
被告旧バージョン中、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に対応する部分は、ソースコードの記載の大半において記載内容や記載の順序が非常に類似して実質的に同一性を有するものであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に依拠して被告乙Aが主に担当して作成したものであること、そして、上記実質的同一性を有する部分には個性が表出された創作性を有する箇所が含まれることが認められることから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に対応する部分は、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められると判断しています(41頁以下)。

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3 被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か

原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムとではソースコードの記載の方法、内容及び順序等がかなり異なり、ソースコードの記載が類似する部分はいずれも十数行と比較的短く、単純な計算を行う3箇所に限定されるとして、裁判所は、両者のソースコードの記載に実質的同一性があると認めることはできないと判断、翻案性を否定しています(44頁以下)。

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4 被告乙Aが原告の営業秘密を不正に開示し、被告会社らがこれを不正取得したか否か

原告プログラムの旧バージョン(ver1.0.0.0)が開発されてから8年弱もの間、共有フォルダ内に保管されたソースコードに対するアクセス権者の限定がなく、本件アクセス制限がなされる前の平成20年5月28日に原告製品3に対応した時点においても原告プログラムとほぼ同内容を具備するに至っていたと考えられる原告プログラムの旧バージョン(ver2.5.0.0)には、「guest」アカウントを用いるなどして誰でもアクセスすることができた。また、その後も開発担当者のパソコン内での保管に格別の指示がされなかった。さらに、原告アルゴリズムについては、本件ハンドブックにおいてどの部分が秘密であるかを具体的に特定しない態様で記載されていたことなどから、営業担当者が営業活動に際して本件ハンドブックのどの部分の記載内容が秘密であるかを認識することが困難であった、といった点から、原告プログラム及びそれに記述された原告アルゴリズムが秘密として管理(不正競争防止法2条6項)されていたとは認め難いと裁判所は判断しています(45頁以下)。
また、被告乙Aが原告プログラムに関するデータをコピーするなどして原告から持ち出し、被告ニックに開示したと認めるに足りる証拠はないとして、不正競争行為性とともに、本件各誓約書に係る債務不履行も否定されています。

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5 原告の受けた損害の額

被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに係る原告の受けた損害について、裁判所は、著作権法114条1項に基づく損害を算定。また、調査費用については18万2700円、弁護士費用相当損害金については17万円を認定しています(48頁以下)。
結論として、被告旧バージョンの著作権侵害に係る損害賠償として、被告ニック及び被告乙Aに対し190万1258円が認められています。

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6 被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否か

被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否かについて、被告乙Bが、C及び被告乙Aと共謀して原告退職後に原告の自動接触角計製造に関する技術を盗用して商品を発売することを計画し資料を持ち出したことや、被告乙Aと共謀して原告プログラムのデータを不正に取得するように計画したこと、原告在籍中に原告従業員のDに被告ニックへの転職の勧誘をしたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告乙Aが原告プログラムのデータを被告ニックに開示したと認めるに足りないとして、裁判所は、不当利得を理由とする原告の退職金の返還請求はその前提を欠くものであって理由がないと判断しています(52頁)。

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7 原告のB事件に係る訴訟提起が被告会社らに対する不法行為を構成するか否か

原告のB事件に係る訴えの提起は、事実的、法律的根拠を欠くものであり、原告はそのことを知り又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず、この訴えを提起したことを原告のホームページで公開することにより被告製品の信用を毀損して被告ニックの取引を妨害し、顧客や被告あすみ技研に被告製品を買い控えさせようとしてあえてこれを提起したものであるから、被告ニック及び被告あすみ技研に対する不法行為を構成すると被告らは主張しました。
しかし、裁判所は、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムの複製や翻案に当たると認められないものの、原告がこのことを認識していたとは認め難いし、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告プログラムの複製又は翻案に当たると認められること、また、その改良版である被告新接触角計算(液滴法)プログラムの一部には変数や引数の名称が多少異なるが、関数の表現や内容等は同一である部分もあることなどからすると、通常人であれば容易にそのことを知り得たとも認め難い。さらに、原告プログラムや原告アルゴリズムが不正競争防止法上の営業秘密に当たるとは認められないが、同法の定める要件を具備するかはともかくとして、販売する製品に搭載するプログラムやそのアルゴリズムを秘密として取り扱うことは通常あり得べきことなどから、被告らの主張を認めていません(52頁以下)。

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8 本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否か

原告のホームページに掲載した本件告知1及び被告ニックの取引先に送付した本件告知文書Aにおいて原告が記載した内容は、平成23年11月15日に被告ニックが製造、販売した接触角計に関して当裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反で提訴したという事実を摘示するものであるところ、原告が上記年月日に被告旧バージョンに関するA事件に係る訴えを当裁判所に提起したことは真実であるし、「製造販売した」とあることからしても、上記事実をもって被告新バージョンについても提訴したことを公衆等に告知するものであるとはいえず、原告が公衆にその旨誤信させることを意図したと認めるに足りる証拠もないと裁判所は判断。
結論として、販売代理店に宛てて送付した本件告知文書B、原告ホームページへ追加した本件告知2も含め、本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるものではないと判断しています(54頁以下)。

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■コメント

自動車のボディコーティングをすると、コーティング剤の性質によって水滴が玉のようになって撥水するか、親水して濡れたようになるかといった現象がありますが、本件は界面科学としてこの水滴の玉の度合い、「ぬれ」の現象について、水滴の接触角度を自動計測する装置のプログラムを巡って退職従業員らと技術流出に関連して紛争になった事案です。
結論としては、旧バージョンのプログラムについてだけ複製権(又は翻案権)侵害性が肯定されましたが、営業秘密管理性は否定されて、不正競争行為性は認められていません。

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■参考サイト

接触角とは - 研究開発を支援する界面科学測器の専門メーカー:協和界面科学株式会社

協和界面科学株式会社プレスリリース
株式会社ニックに対する損害賠償訴訟の判決、特許無効審判の審決PDF

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2014年06月06日

アンダーカバー猫写真看板事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アンダーカバー猫写真看板事件

東京地裁平成26.5.27平成25(ワ)13369損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      高橋 彩
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2014.6.05
*キーワード:写真、複製、翻案、幇助、同一性保持権、氏名表示権

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■事案

写真家撮影の猫の画像を無断複製してコラージュにして百貨店の店舗にパネル掲出した事案

原告:写真家
被告:服飾品製造販売会社、百貨店

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、27条、19条、20条、114条3項、115条

1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無
2 被告三越伊勢丹の責任の有無
3 原告の損害額
4 名誉回復措置請求の当否

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■事案の概要

『本件は,写真家である原告が,被告三越伊勢丹の店舗内に被告アンダーカバーが設置した猫の写真等を多数並べて貼り付けた看板(以下「本件看板」という。)に原告が撮影した猫の写真又はその複製物を加工したものが使用されていたことについて,被告アンダーカバーについては原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害行為があり,被告三越伊勢丹については被告アンダーカバーの上記侵害行為を幇助し,又は被告アンダーカバーに看板の設置場所を漫然と提供したことに過失があると主張して,被告らに対し,不法行為(民法709条,719条,著作権法114条3項)に基づく損害金1億2150万円及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払並びに著作権法115条に基づく名誉回復措置を求めた事案である。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無

前提として、被告アンダーカバーは、原告写真のコピー使用分について複製権侵害が成立することと、原告写真集の写真現物使用分及びコピー使用分のいずれについても同一性保持権及び氏名表示権の侵害が成立することを争っていません。また、原告においても写真集の写真現物使用分については複製権侵害を主張していません。

原告は、原告写真の現物又はコピーに猫の目の部分をくり抜く加工を施す行為と、これらを並べて本件各パネルを作成し、さらに本件各パネルを組み合わせて本件看板を作成する行為について、原告の翻案権を侵害する旨主張しました。
この点について、裁判所は、これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり、これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできないと判断。また、本件看板に接する者が原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえないとして、本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることもできないと判断。
いずれの行為についても翻案権侵害性を否定しています(10頁以下)。結論として、原告写真集現物使用分90枚とコピー使用分66枚の翻案権侵害性は認められていません。

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2 被告三越伊勢丹の責任の有無

テナントに店舗提供していた百貨店の責任について、裁判所は、作成行為自体に被告三越伊勢丹が関与したことをうかがわせる証拠はなく、また、本件看板を本件売場に設置し、これを訪れた買物客らに見える状態に置くことは、それ自体として原告写真についての原告の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない(著作権法25条参照)と判断。被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権等の侵害行為を幇助したと認めることはできないと判断しています(11頁以下)。
また、被告百貨店のテナントに対する管理監督をする条理上の義務違反の点も認められていません。

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3 原告の損害額

被告アンダーカバーは、コピー使用分の66枚につき原告の複製権を侵害し、現物使用分及びコピー使用分により本件看板を作成した行為について原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものであり、これらの行為につき被告アンダーカバーには少なくとも過失があるとした上で、以下の損害額を裁判所は認定しています(12頁以下)。

(1)著作権侵害(114条3項)

原告写真の使用の態様や本件看板の設置期間が約2か月といった諸事情を総合考慮の上、本件における原告写真の使用料は1枚当たり1回につき1万円と認定されています(66枚×1万円=66万円)。

(2)著作者人格権侵害

同一性を侵害された原告写真が多数に及ぶ上、その改変行為は猫の目の部分をくり抜くという嗜虐的とも解し得るものであって、その性質上、原告の意に大きく反すること、また、原告は専ら猫や犬を被写体として撮影する写真家であり精神的損害は甚大なものであるとして、慰謝料として200万円が認定されています。

(3)弁護士費用

弁護士費用相当額の損害は26万円と認定されています。

結論として、損害額合計292万円が認定されています。

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4 名誉回復措置請求の当否

本件看板を見た者が本件看板に原告写真が使用されていることを認識する可能性は極めて低いことや設置期間が2ヶ月間であること、本件看板の表面の相当部分は被告アンダーカバーの商品(被服等)で覆われ、視認することが困難であったことなどから、本件看板の設置により原告の名誉又は声望が毀損されたと認めるには足りないとして、著作者人格権侵害に基づく謝罪広告の掲載請求は認められていません(15頁)。

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■コメント

パネル看板掲出当時のアンダーカバーのカタログ表紙(あるいはチラシでしょうか)をみてみると、猫のモチーフを利用しているので、店内POPも猫のイメージで統一感を出していたのかもしれません。
事案としてはファッションメーカーの営業現場のお粗末な対応を内容とするもので双方とも複製権侵害自体は争ってはおらず、あとは損害論の前提として写真集現物の切り抜き行為やコラージュ制作が著作物の利用行為を超える翻案行為にあたるかどうかが争点として注目される点といえます。
コラージュの要素として、写真集現物の切り抜き素材を使用してパネルを作成しており翻案性が肯定されてもおかしくないですが、本件では数百枚の画像のうちの一部にすぎないとして、翻案性は認められていません。

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■参考サイト

アンダーカバー、阪急うめだ本店にウィメンズショップ出店 | Fashionsnap.com(2012年11月21日)
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2014年06月04日

パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」事件

東京地裁平成26.4.30平成24(ワ)964著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.5.29
*キーワード:パチンコ、映画、複製、翻案、頒布、商標的使用、独占的利用許諾

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■事案

パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」に使用された映像が、映画会社の映像の著作権を侵害したかどうかなどが争点となった事案

原告:映画製作会社、キャラクター企画制作会社、遊戯用具機械製造会社
被告:広告代理店、遊技機器製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、26条、27条、114条2項、商標法2条3項1号、4条1項7号、38条2項

1 著作権侵害の成否
2 商標権侵害の成否
3 差止請求の可否
4 損害賠償請求の可否及び損害額

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■事案の概要

『本件は,テレビ放映用番組として製作された「遠山の金さんシリーズ」のうち,別紙著作物目録記載の合計3話(以下「原告著作物」という。)の著作権を有し,別紙商標目録記載の「遠山の金さん」の商標権(第4700298号。以下「本件商標権」という。)を有する原告東映が,別紙被告商品目録記載のパチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」(以下「被告商品」という。)を製造販売していた被告らに対し,著作権法112条1項又は商標法36条1項に基づき,被告商品の部品である別紙被告部品目録記載の部品(以下「被告部品」という。)の交換又は提供の差止めを求めるとともに,原告東映,原告東映から原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用許諾を受けたとする原告BFK,原告BFKから原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用再許諾を受けたとする原告大一商会が,原告らの連帯債権として,被告らに対し,連帯して,民法709条,719条,著作権法114条2項又は商標法38条2項に基づき,合計19億8000万円及びこれに対する被告商品の製造販売が終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(3頁)

<経緯>

H20.05 被告サンセイ登録商標「名奉行金さん」に対して原告東映が無効審判請求
H21.11 被告らが「CR松方弘樹の名奉行金さんXX」発売
H21.12 原告東映が被告らに対して仮処分申立て
H22.02 被告らが「CR松方弘樹の名奉行金さんZZ」発売

原告商標:「遠山の金さん」(登録番号4700298)
被告標章:「CR松方弘樹の名奉行金さん」

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

原告の3点の映画著作物(テレビドラマ映像)と被告映像の類否の判断に関して、裁判所はまず創作性や類似性の判断手法について「釣りゲーム」事件(知財高裁平成24.8.8判決)や江差追分事件最高裁判決(最高裁平成13.6.28判決)に言及し(59頁以下)、その上で、構成要素を検討し類否を判断しています。

・被告金さん物語映像の全体のストーリー構成
・立ち回りシーン
・お白州シーン
・被告掛け声演出
・被告くのいちリーチ映像
・被告プロモーション映像
・お白州シーンにおける証人の懇願
・お白州シーンにおける遠山奉行の衣装

以上の諸点について、原著作物である脚本に由来する部分であるとか、ストーリー構成はアイデアにすぎない、創作性のある部分での類似ではない、などの点から類似性を否定する部分がある一方、立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンの表現については表現上の創作性が認められるとして、本件において著作権(複製権)侵害が認められるのは、一まとまりとしての立ち回りでの桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1の0:37:47付近から0:37:56付近まで、被告金さん物語映像のNo.31の00:39付近から00:47付近まで、被告立ち回りリーチ映像の00:33付近から00:40付近まで)及びお白州での桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1(甲52の1)の0:47:50付近から0:48:05付近まで、被告金さん物語映像(甲49の1)のNo.40の00:24付近から00:39付近まで)に限られると認定しています。

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2 商標権侵害の成否

(1)被告標章を商標的に使用したといえるか

被告らは、「名奉行金さん」は遠山金四郎の作品・物語を題材とするタイアップ機であることを表すために用いられたものであり、被告商品には被告標章とともに被告サンセイの商標として著名な「SanseiR&D」の文字が付されている、被告標章は被告商品に内蔵された被告映像の題号というべきである、などとして被告標章は自他識別機能を果たす態様で商標として使用されていないと主張しましたが、商標的に使用(商標法2条3項1号、2号)されていることは明らかであるとして、裁判所は被告らの主張を認めていません(76頁以下)。

(2)原告商標と被告標章の類否

原告商標「遠山の金さん」と被告標章(「CR松方弘樹の」「名奉行金さん」という筆書きの字体が概ね2段にわたって配置)の類否について、裁判所は、原告商標と被告標章とは「金さん」の部分の外観及び称呼において一致するものの、「遠山の金さん」「名奉行金さん」はそれぞれ一体として結合しており、「金さん」の部分を要部と見る余地はなく、原告商標と被告標章は外観及び称呼においては類似しないと判断。
もっとも、原告商標と被告標章は、「歴史上の人物である遠山金四郎」、時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」という観念を生じる点において同一又は類似であると判断しています(70頁以下)。

(3)原告商標の商標法4条1項7号違反の有無

被告らは、原告商標は周知・著名な歴史上の人物である遠山金四郎の著名性に便乗する行為であって、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標であるとして、原告商標は商標法4条1項7号に該当し、46条1項1号又は5号により無効となるべきものであるから、39条、特許法104条の3により原告らは権利を行使することができないと主張しました(80頁以下)。
しかし、本件商標権の登録査定時である平成15年6月27日における著名性には、原告東映が昭和25年から昭和40年にかけて製作してきた映画シリーズ、昭和45年から基準時である平成15年まで放映してきたテレビシリーズが、かなりの程度寄与しているものと認められると裁判所は判断。
結論として、本件商標権の登録査定時においても本件口頭弁論終結時現在においても、原告商標に商標法4条1項7号の無効事由があるとは認められないとしています。

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3 差止請求の可否

原告らは、被告商品の販売が終了した後も被告映像が収載された被告部品が修理等の際に交換又は提供される蓋然性が高いとして、原告東映は著作権法112条1項に基づき被告部品の交換又は提供の差止請求権を有すると主張しました(83頁以下)。
この点について裁判所は、被告商品は平成25年1月27日をもって各都道府県の公安委員会による検定(風営法20条4項)の有効期間が全て終了し、被告商品の補修を行う必要もなくなったため、被告サンセイは平成25年2月19日までに被告部品を全て廃棄したことが認められるとして、被告サンセイが被告映像の収載された被告部品を交換又は提供するおそれは既に失われたものと認められ、差止めの必要性は認められないと判断しています。

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4 損害賠償請求の可否及び損害額

(1)被告らの著作権侵害の故意過失

被告映像は著作物であることが明らかな原告松方映像6−1に依拠したものと認められ、被告らには著作権侵害につき故意又は過失があったことは明らかであると判断されています(84頁)。

(2)原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の可否

被告らによる著作権侵害行為がなかったならば原告著作物をパチンコ機に利用して利益が得られたであろうという事情があったものと認められるとして、原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の余地を裁判所は認めています(84頁以下)。

(3)原告BFKの著作権法114条2項に基づく請求の可否

原告BFKについては、原告東映と本件松方作品について契約書を締結しておらず、原告BFKが原告著作物を含む本件松方作品について、あるいは本件松方作品を含む本件金さんシリーズについて独占的利用許諾を受けていると認めることはできないとして、著作権法114条2項に基づく請求を裁判所は認めていません(86頁以下)。

(4)原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求の可否

原告BFKが原告著作物について独占的利用許諾を受けていると認められない以上、原告大一商会が原告著作物について独占的利用再許諾を受けているとも認められないとして、著作権法114条2項に基づく請求を裁判所は認めていません(87頁以下)。

(5)原告東映の商標法38条2項に基づく請求の可否

被告らは、原告東映は自ら業として原告商標を使用しておらず、競合製品を販売していないとして商標法38条2項の適用を受けることはできないと主張しました(88頁)。
しかし、裁判所は、杉良太郎主演の「遠山の金さん」の著作物の取り扱いを踏まえ、「遠山の金さん」をパチンコ機の名称に商標的に使用することが想定されていたとして、本件商標権について原告東映は通常使用権を黙示に設定していたものと認められると判断。原告東映は、原告BFK、原告大一商会を通じて原告商標をその指定商品である第28類「遊戯用器具」に使用していたとして商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると判断しています。

(6)原告BFKの商標法38条2項に基づく請求の可否

裁判所は、商品化に伴う原告商標の使用について独占的な通常使用権が設定されたと考えるのが自然であるとした上で、商標法38条2項は独占的通常使用権者にも類推適用されると解するのが相当であり、原告BFKは平成23年6月30日までの被告らの利益について、商標法商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると判断しています(88頁以下)。

(7)原告大一商会の商標法38条2項に基づく請求の可否

原告大一商会の原告商標の使用についても原告BFKが原告東映から黙示に付与された独占的通常使用権再設定権に基づき、独占的通常使用権の再設定を受けていたものと認められるとして、原告第一商会は平成23年6月10日までの被告らの利益につき、商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができると裁判所は判断しています(89頁以下)。

(8)被告商品の販売数量及び利益率

販売数量4万2993台、被告商品の売上高は157億9484万6000円であり、被告らが被告商品により得た利益(貢献利益)は、被告商品の売上高から変動費と個別固定費(被告商品の製造販売に直接必要な経費)を控除した金額と認定しています(90頁以下)。

(9)原告著作物の寄与率

被告商品に内蔵されている被告映像のうちの著作権侵害部分、稼働時間、遊技者やパチンコ店にとって被告商品に「遠山の金さん」の映像(被告映像)が内蔵されていることが遊技者やパチンコ店等の需要者にとって重要な要素であること、立ち回りシーン及びお白州シーンでの桜吹雪披露シーンは最も関心の高いシーンであること等を総合考慮した上で裁判所は原告著作物の寄与率を算定。
著作権侵害により原告東映が被告らに請求できる損害賠償の額は1億6664万9166円と認定しています(94頁以下)。

(10)原告商標の寄与率

パチンコ機にいかなるキャラクターが使用されているかが遊技者が遊技するパチンコ機、パチンコ店が購入するパチンコ機を決定するときの重要な要素となっており、遊技者やパチンコ店にとって被告標章「CR松方弘樹の名奉行金さん」は、松方弘樹演じる「遠山の金さん」の映像が内蔵されているパチンコ機であることを一目で表す標章として重要な役割を果たしている、といった事情を総合考慮し、被告商品の貢献利益に対する被告標章の寄与率を算定。
商標権(及びその独占的通常使用権)侵害により原告らが被告らに請求できる損害賠償の額は5億5549万7220円と裁判所は認定しています(95頁以下)。

(11)弁護士費用

原告東映につき1400万円(著作権侵害につき600万円、商標権侵害につき800万円)、原告BFK、原告大一商会につき各800万円と認定されています(90頁以下)。

結論として、被告らの支払総額は合計7億5214万6386円及び遅延損害金と判断されています。

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■コメント

被告パチンコ遊技機メーカーのサイトを拝見すると、被告商品である「CR松方弘樹の名奉行金さん」のためだけのプロモーション映像を制作、松方弘樹さんらを出演させています。
商標を巡る一連の訴訟も踏まえ、結果的に東映を中抜きして、俳優の事務所との契約を根拠にパチンコ機の商品化を断行したものと思われますが、俳優のパブリシティに関する権利処理だけでは足りず、「遠山の金さん」コンテンツの権利処理も必要であるとして、裁判所の理解を得られませんでした。
事務所へ高額の出演料・パブリシティ使用料を支払い済みで、パチンコ機を販売しないわけにはいかないといった背景が、あるいはあったかもしれません。
ただ、結果だけみれば、売上高の5%程度の損害額(著作権侵害部分に限れば1%の1億6664万円余)であり、コンテンツに関する利用許諾を得られないなかでパチンコ機の製造、販売を断行した本事案に限っていえば、「やり得」感があったと言ってしまうのは、言い過ぎでしょうか(今後、コンテンツホルダーからの許諾が得られ難い場面は想定されますが)。

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■参考判例

グリー対DeNA「釣りゲータウン2」事件(控訴審)
知財高裁平成24.8.8平成24(ネ)10027著作権侵害差止等請求控訴事件

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■参考サイト

東映株式会社 プレスリリース(平成26年5月16日)
「CR松方弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求事件について

株式会社サンセイアールアンドディ
製品情報 CR松方弘樹の名奉行金さん

プレスリリース(平成26年5月16日)
「CR松方弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求訴訟について

株式会社大一商会
インフォメーション(平成26年5月16日)
「CR松形弘樹の名奉行金さん」著作権侵害差止等請求事件について

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■追記(2014.8.5)

《WLJ判例コラム》第30号「遠山の金さん」の見得を切る所為は誰のものか?
〜俳優のしぐさに対する著作権の所在が争われた事例〜
北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之(掲載日 2014年8月4日)
文献番号2014WLJCC012
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2014年05月26日

風力発電環境影響評価書事件(控訴審)−著作権 著作権及び出版権侵害差止請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

風力発電環境影響評価書事件(控訴審)

知財高裁平成26.5.21平成25(ネ)10082著作権及び出版権侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      大鷹一郎
裁判官      田中芳樹

*裁判所サイト公表 2014.5.23
*キーワード:著作者性、著作物性、翻案、出版権、著作者人格権、意見書、名誉毀損

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■事案

大型風力発電施設建設に関する環境影響評価書へ掲載した意見書の要約が著作権侵害にあたるかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :環境保護NPO法人
被控訴人(一審被告):風力発電専門会社、福島県

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2号、19条、20条、27条、80条

1 本件意見書の著作者
2 氏名表示権及び同一性保持権侵害の成否
3 翻案権侵害の成否
4 出版権侵害の成否
5 名誉毀損行為等の成否

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■事案の概要

『本件は,控訴人は,本件意見書1ないし7の各著作者から著作権の譲渡又は管理委託を受け,出版権の設定を受け,本件意見書の原稿をまとめて出版を行い,また,本件意見書8の著作者との間で著作権管理委託及び出版権設定契約を締結したところ,原判決別紙のとおり,本件評価書の「表8.2−1(1)〜(9)準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「環境保全上の見地からの意見」欄,「表8.2−2 準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「その他意見」欄において,被控訴人らが,本件意見書の表現の一部を抜粋したり,表現を要約したりするなどして,本件意見書の表現を改変したことが,氏名表示権(著作権法19条),同一性保持権(20条),翻案権(27条),出版権(80条)を侵害し,著作権者の名誉を毀損(パブリックコメントにおける意見者のオリジナリティを侵害・毀損)するなどと主張して,控訴人から被控訴人らに対し,本件評価書の回収及び損害賠償として201万1311円の連帯支払を求める事案である。
 原判決は,控訴人の主張する氏名表示権,同一性保持権,翻案権及び出版権の各侵害並びに著作権者の名誉毀損(パブリックコメントにおける意見者のオリジナリティを侵害・毀損)はいずれも認められないとして,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件意見書の著作者

(1)本件意見書1から8の作成者

裁判所は、著者表記や控訴人と各著者との間の「著作権の管理委託及び出版権設定契約書」の存在などから、本件意見書1はX、2から8はA乃至G等を作成者と認定しています(6頁以下)。

(2)本件意見書の著作物性

本件意見書の著作物性について、裁判所は、思想又は感情が創作的に表現されたものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものといえるとして、著作物(著作権法2条1項1号)であると認めています(8頁)。

(3)控訴人との共同著作物性

控訴人は、本件意見書が各著作者と控訴人との共同著作物であると主張しましたが、控訴人に著作者性が認められず、共同著作物性は否定されています(8頁以下)。

結論として、本件意見書の各作成者が、本件意見書の各著作者であると判断されています。

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2 氏名表示権及び同一性保持権侵害の成否

控訴人は著作者ではなく、氏名表示権及び同一性保持権侵害性を主張することはできないと判断されています(9頁)。

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3 翻案権侵害の成否

控訴人は著作者ではなく、また、各著作者と控訴人との間の翻案権譲渡の事実も認められないとして、翻案権侵害性についても認められていません。

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4 出版権侵害の成否

被控訴人エコ・パワーは、福島県環境影響評価条例に従って本件意見書を含む住民意見を抜粋ないし要約した記載のある本件評価書を作成し、これを福島県知事に送付するとともに、本件評価書を公告し、これを縦覧に供したものであって、被控訴人エコ・パワーは、本件評価書において原著作物である本件意見書を「頒布の目的をもって」(80条1項)複製しているものではなく、「原作のまま」複製したものでもないとして、本件評価書の作成やその縦覧のための複製に関して、本件意見書についての出版権侵害は成立しないと裁判所は判断しています(10頁以下)。

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5 名誉毀損行為等の成否

控訴人は、共同著作権又は著作権の管理権に基づき、「著作権者の名誉毀損(パブリックコメントに於ける意見者のオリジナリティ侵害・毀損行為)」に対する損害賠償を請求しましたが、控訴人は著作権や同一性保持権を有せず、また、著作権者の名誉毀損に基づく損害賠償請求権行使の一身専属性から、控訴人がその毀損による損害賠償を求めることはできないと判断されています(6頁)。

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■コメント

原審同様、知財高裁でも環境アセスメントにおける意見書の著作物性が認められましたが、原告(控訴人)の本件意見書に関する著作者性、著作権者性が否定されています。
なお、原告は控訴審で条例の適用除外を主張しましたが、容れられていません。

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■過去のブログ記事

原審記事

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■参考サイト

NPO風の谷委員会 今月の主張平成26年5月
「悲しみの風」平成26年5月1日
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2014年05月19日

山野草DVD事件(控訴審)−著作権 損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

山野草DVD事件(控訴審)

知財高裁平成26.4.23平成25(ネ)10080損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官      中村 恭
裁判官      中武由紀

*裁判所サイト公表 2014.5.15
*キーワード:映像製作契約、著作権譲渡、写真家、解除、衡平、合理的解釈

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■事案

山野草や高山植物の動画DVDの製作契約について紛争となった事案の控訴審

控訴人・附帯被控訴人(原告・反訴被告):フリーカメラマン
被控訴人・附帯控訴人(被告・反訴原告):デジタルコンテンツ制作販売会社

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■結論

本件控訴一部取消し、本件附帯控訴一部取消し

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■争点

条文 著作権法21条、26条、112条2項、114条3項

1 本件風景映像動画利用の許諾の有無
2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性
3 本件契約の解除の効力発生の有無

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■事案の概要

『(1)原審請求の要旨
 本件は,原審における本訴として,控訴人が被控訴人に対し,(1)被控訴人が販売する後記「本件作品」中の後記「本件風景映像動画」部分が控訴人の著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づいて,損害賠償金225万円及び附帯金の支払と,(2)本件風景映像動画の著作権(複製権)に基づいて,本件作品から本件風景映像動画を削除(廃棄)することを求め,同反訴として,被控訴人が,控訴人に対し,(3)控訴人が販売する後記「本件映像動画1」及び「本件映像動画2」は録音録画物製作委託契約である後記「本件契約」に基づき被控訴人が著作権を取得したとして,著作権に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権確認と,(4)本件契約に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の映像素材の引渡しと,(5)本件契約の解除に基づいて,既払金153万6465円の返還及び附帯金の支払とを求めた事案である。』

『(2)原審の判断
 原審は,上記(1)(1)の本訴損害賠償請求について,損害賠償金23万5935円及びこれに対する不法行為日(本件作品を収録したDVDの発売日)である平成24年3月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第1項),その余の請求を棄却し(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),同(2)の本訴廃棄請求について,控訴人が前提となる差止請求をしていないとしてこれを却下し(原判決主文第5項のうち訴え却下部分),同(3)の反訴著作権確認及び同(4)の反訴原板引渡請求について,全部認容し(原判決主文第2項及び第3項),同(5)の既払金返還請求について,153万6465円及びこれに対する催告の日の翌日である平成25年5月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第4項),その余の請求を棄却した(原判決主文第6項)。
 なお,原判決主文第1項及び第4項には,仮執行宣言が付されている。 』

『(3)不服申立て及び当審請求
 控訴人は,本訴について,原判決が控訴人の上記(1)(1)の請求を棄却した部分のうち(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),132万4065円(新たな算定方法による総損害額156万円から原審が認容した23万5935円を控除した額)及びこれに対する附帯金の支払を求める限度で不服を申し立て(申立て1(1)ウ),反訴について,原判決が被控訴人の上記(1) (3)(4)(5)の各請求を認容した部分(原判決主文第2項から第4項まで)の取消しを求めるとともに(申立て1(1)ア,イ),当審における新たな請求として,本件作品を収録したDVD等の販売等の差止めと本件作品を収録したDVD等の廃棄を求めた(申立て1(2))。
 被控訴人は,本訴について,原判決が本訴損害賠償請求を一部認容した部分(原判決主文第1項)の取消しを求めた(申立て2(1)(2))。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件風景映像動画利用の許諾の有無

1.許諾の有無及び範囲

山野草の映像動画のほかに、風景の映像動画がどの範囲まで納入対象に含まれるのかが争点となっていましたが、メールのやりとりや本件作品の担当者Aの陳述書記載の内容などから、本件契約には風景の映像動画を納入することも含まれていたと裁判所は判断しています(17頁以下)。

2.許諾の点数

控訴人は、風景の映像動画として使用を許諾した点数を問題としましたが、裁判所は、風景の映像動画と風景の映像動画以外の映像動画とが明瞭に区分けできているものではなく、本件契約の当事者間において風景の映像動画として使用を許諾される映像動画の数量を明確に取り決めたと認めることはできないと判断。
結論として、控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することの許諾をしたものと認めるのが相当であるとしています(18頁以下)。

   --------------------

2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性

同一の機会に撮影され、控訴人が動画素材販売サイトを通じて販売した映像動画(本件映像動画1及び本件映像動画2)について、裁判所は、控訴人が撮影場所において目的物を録音録画行為をする過程で生じた未だ編集されない状態の映像素材のすべてが本件成果物に該当することは、契約書面から明らかであるとした上で、本件映像動画1及び本件映像動画2は、これに対応する本件納品映像動画の撮影と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものであるとして、本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件契約書の条項上、本件成果物に該当するといえると判断しています(19頁以下)。

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3 本件契約の解除の効力発生の有無

1.本件契約の解除の有効性

本件映像動画1及び本件映像動画2が本件成果物に該当するところ、控訴人は期限を経過してもこれを納品しておらず、被控訴人が本件映像動画1の引渡しの催告をし、催告期間経過後に本件契約を解除する意思表示をしたことで本契約の解除の効力は有効に発生していると判断しています(20頁以下)。

2.本件契約の解除の効果

裁判所は、本件契約第10条が、被控訴人による解約により契約が終了した場合には被控訴人が控訴人に対して既払金の返還を求めることができるとする定めを置く一方で(1項)、本件契約によって控訴人から被控訴人が取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しているとして(2項)、「被控訴人に片面的に有利な規定となっている」と分析した上で、9条各号の解除事由(10号を除く)については、

「委託者が契約を解約したときには,委託者が既に支払済みの金銭を回収するとともに,責めのない委託者が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし,あるいは,契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防として,受託者から委託者に納入された映像素材の著作権等の権利を引き続き委託者が保有し続けるとしてもやむを得ない」

という場合であり、

「本件契約第10条に定める契約解約後の権利関係の調整規定が全面的に適用されるのは,そのような場合に限られると解される。しかしながら,逆に,本件契約第10条が念頭においていないような場合については,同条の定める契約解除後の権利関係の調整をそのまま適用する前提を欠くことになり,これを当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが,本件契約の合理的解釈といえる。」

として、適用場面を限定。その上で本件を検討すると、

(1)DVDは販売されている
(2)対価は本件作品の作成のために費消された
(3)映像動画1、2の引渡未了や公衆送信化により損害が生じれば別途損害賠償請求が可能
(4)引き渡されなかった映像数が納入された映像数に比して格段に少ない

といった点から、

「本件は,本件契約第10条が本来的に想定する事例とは異なるものであり,契約の合理的解釈として,同条(2)に基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く,その適用はあると解されるものの,同条(1)に基づく既払金の返還の効果は,これを認める必要性は低いだけでなく,その時機も逸していて殊更に大きな負担を控訴人に強いるのであるから,その適用はないと解するのが相当である。」

として、本件では10条1項の適用はないと判断。

結論として、本件契約の解約の結果、被控訴人は控訴人に対して本件作品を返還する必要はなく、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが、既払金の返還を求めることはできないと判断しています。

以上、まとめとして、以下の通りとなりました。

(1)控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することを被控訴人に許諾をしたものであるから、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
(2)本件映像動画1及び2は本件成果物に該当するから、被控訴人は本件映像動画1及び2の著作権を取得し、本件契約に基づいて本件映像動画1及び2の引渡しを求めることができる。
(3)本件契約の解約は有効であるものの、被控訴人は本件契約の解約に基づいて既払金の返還を求めることはできない。
(4)被控訴人の反訴請求は、本件映像動画1及び本件映像動画2について被控訴人が著作権を有することを確認し、これらを収録した映像素材の引渡しを求める限度で理由がある。

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■コメント

著作権侵害性の判断については、原審と控訴審で事実認定で判断が分かれました。
また、原審ではクリエーター側の帰責事由を理由とする映像製作契約解除の効果として、契約書規定通りの既払い報酬の返還が求められましたが、知財高裁では当該規定の適用を制限して、報酬の返還は不要と判断しています。

実務的には以下の2点が重要かと思われます。

1.同一機会の撮影素材

同一の機会に撮影された素材の取り扱いについて、「ロケの費用を出したのだからロケ中の撮影物の権利はすべて発注元に」、というのも発注元の立場からすればそうかもしれませんが、せっかくのロケの機会ですし、同じ機会に別の用途のために素材を撮りためておく、ということもクリエーターとしてはあるかと思います。契約書の文言通り厳密にすべて発注元に権利移転するという解釈をしてしまって良いのかどうかは、報酬額や素材内容、用途などを含めより細かく検討する余地があるものと思われます。
契約書面的には、あまり細かいところでやりとりをする訳にはいかないのが現実かとは思いますが、受託者であるクリエーター側も素材の流用については、商品の市場での競合を含め十分留意する必要があるかと思います。

2.解除の効果

解除(解約)後の権利関係として、受託者側に解除事由がある場合に、譲渡した著作権はそのまま発注者側に帰属し、また、支払われた報酬も返還しなければならないという規定振りの契約書は多いわけですが、知財高裁が衡平の観点から合理的解釈を行い、報酬返還規定について適用場面を限定しました。
クリエーター側に一方的に不利益にならない配慮が働いたものとして、解除後の事後処理条項に関する知財高裁の合理解釈として重要な指針となります。

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■過去のブログ記事

原審記事
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2014年05月14日

ディスクパブリッシャーソフト事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ディスクパブリッシャーソフト事件(控訴審)

知財高裁平成26.3.12平成25(ネ)10008著作権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2014.5.12
*キーワード:著作物性、複製、翻案、営業秘密

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■事案

競合ソフトの開発販売に関して著作権侵害性、営業秘密に係る不正競争行為性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):ソフト開発販売会社
被控訴人(一審原告):ソフト開発販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条1項10号の2、10条1項9号、21条、27条、不正競争防止法2条1項7号、2条6項

1 被控訴人が被控訴人プログラムを製造、販売する行為についての本件プログラムの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害の成否
2 被控訴人が被控訴人プログラムを製造、販売する行為についての不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成否

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■事案の概要

『本件は,被控訴人プログラムを製造,販売する被控訴人が,被控訴人プログラムは控訴人の著作物である本件プログラムを複製又は翻案したものであり,被控訴人が被控訴人プログラムを製造,販売する行為は,控訴人が有する本件プログラムの著作権(複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)及び譲渡権(同法26条の2第1項))侵害に該当するとともに,控訴人の営業秘密である本件プログラム等の不正使用(不正競争防止法2条1項7号)に該当することを理由に,被控訴人に対し,著作権法112条1項及び不正競争防止法3条1項に基づく被控訴人プログラムの製造,販売の差止請求権を有するなどと控訴人が主張しているがそのような請求権は存在しないとして,控訴人の上記各差止請求権の不存在の確認を求めた事案である。』

『原判決は,被控訴人プログラムの具体的記述から本件プログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することができないから,被控訴人プログラムが本件プログラムを複製又は翻案したものと認めることはできない,被控訴人が本件プログラムの表現上の創作性を有する部分を使用して被控訴人プログラムを製造し,販売したものとはいえない以上,被控訴人が控訴人の営業秘密である本件プログラムの表現上の創作性を有する部分を使用して被控訴人プログラムを製造し,販売したものとはいえない,エプソンチャイナ社からの本件要望事項それ自体が控訴人において秘密として管理されていたことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人が本件要望事項を利用し,これを搭載した被控訴人プログラムを製造したことについての具体的な主張立証もないとして,被控訴人の請求をいずれも認容したため,控訴人がこれを不服として本件控訴に及んだ。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人が被控訴人プログラムを製造、販売する行為についての本件プログラムの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害の成否

1.プログラムの著作物性の判断基準(22頁以下)

プログラムの著作物性(2条1項10号の2)の判断基準について、知財高裁は、「プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する」(22頁)と説示。
また、複製(21条、2条1項15号)、翻案(27条)の意義について言及した上で、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であると述べています。
そして、「プログラムの具体的記述自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。」(23頁)旨示しています。

2.本件プログラムの表現上の創作性(23頁以下)

原判決別紙1ないし12の本件プログラムと被控訴人プログラムの対比について、裁判所は、

・マイクロソフト社があらかじめ用意している関数である
・アイデア又は解法部分である
・具体的な表現が異なっている
・ありふれた表現にすぎない
・プログラムの機能(アイデア)である
・オープンソースソフトウェアの部分である
・名称や文法部分である

などの理由から、控訴人の指摘する本件プログラムと被控訴人プログラムとの共通部分において、本件プログラムの表現上の創作性を認めることができないと判断。
結論として、被控訴人プログラムが本件プログラムを複製又は翻案したものということはできないとして、控訴人の主張を認めていません。

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2 被控訴人が被控訴人プログラムを製造、販売する行為についての不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成否

1.本件プログラムに関するアイデアについて

(1)本件プログラムについて

控訴人は、本件プログラム自体が不正競争防止法2条1項7号により保護される営業秘密であると主張しました。
しかし、裁判所は、被控訴人プログラムが本件プログラムを複製又は翻案したものと認めることはできず、被控訴人が本件プログラムの表現上の創作性を有する部分を使用して被控訴人プログラムを製造、販売したものとはいえない以上、その余の点について検討するまでもなく控訴人の上記主張は採用することができないと判断しています(37頁以下)。

(2)本件アイデアについて

控訴人は、控訴人の従業員であるBが本件プログラムの製作を指示する際に開示した情報(乙32添付の表に記載された情報)及び本件プログラム製作の前提となるアイデアが営業秘密に該当すると主張しました(38頁以下)。
しかし、裁判所は、上記各情報が被控訴人プログラムにおいて使用されていることを認めるに足りる的確な証拠はないとして控訴人の主張を認めていません(38頁)。

2.本件要望事項について

本件要望事項は、エプソンチャイナ社から控訴人に対して指摘された本件プログラムの改善に関する要望事項でしたが、控訴人及びエプソンチャイナ社との間で本件要望事項が秘密として管理されていたことを認めるに足りる的確な証拠はないなどとして、裁判所は控訴人の主張を認めていません(38頁以下)。

結論として、著作権法、不正競争防止法いずれの争点についても控訴人の主張が認められず、被控訴人の著作権侵害差止請求権等の不存在確認に係る本訴請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は相当であって本件控訴は理由がないとして、棄却の判断となっています。

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■コメント

プログラム著作物の著作物性や類否、また、営業秘密管理の有無などが争点となった事案の控訴審です。
原審同様、著作権侵害性、不正競争行為性が否定されています。

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■過去のブログ記事

原審記事
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2014年05月07日

簿記検定試験受験誌切り離し式暗記カード模倣事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

簿記検定試験受験誌切り離し式暗記カード模倣事件(控訴審)

知財高裁平成26.4.22平成26(ネ)10009損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2014.4.28
*キーワード:引き抜き行為、編集著作物、商品等表示性

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■事案

従業員の引き抜き行為の違法性や簿記検定試験受験誌に添付された切り離し式暗記カードなどの模倣性が争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :資格取得教育事業社
被控訴人(一審被告):資格取得教育事業社、被告会社出版事業部部長

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、不正競争防止法2条1項1号

1 不法行為請求(1)の成否及び損害額
2 営業権に基づく差止請求の成否
3 不法行為請求(2)の成否及び損害額
4 不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否
5 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否


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■事案の概要

『本件は,控訴人が,(1)被控訴人らによる違法な控訴人従業員の引き抜き行為や控訴人との業務委託契約の相手方に対する契約解消の要求行為があったとして,被控訴人らに対し,(機防塰々坩戮亡陲鼎損害賠償請求(以下「不法行為請求(1)」という。)として各自7137万4238円及びこれに対する遅延損害金の支払,並びに(供鳳超噺△亡陲鼎差止請求として,控訴人従業員及び控訴人と業務委託契約を締結している第三者に対する接触等の禁止を求めるとともに,(2)被控訴人TAC株式会社(以下「被控訴人会社」という。また,被控訴人Yを,以下「被控訴人Y」という。)の発行する簿記検定試験受験誌において,控訴人の発行する簿記検定試験受験誌の形態(切り離し式暗記カードを綴じ込んでいることなど)を模倣していることが,不正競争防止法2条1項1号の周知表示混同惹起行為ないしは編集著作物についての著作権の侵害に当たるとして,(機鉾鏐義平佑蕕紡个掘ど塰々坩戮亡陲鼎損害賠償請求(以下「不法行為請求(2)」という。)として各自458万9500円及びこれに対する遅延損害金の支払,並びに(供鉾鏐義平猷饉劼紡个掘ど埓偽チ菲瓢瀚。馨鬘厩猖瑤話作権法112条1項に基づく差止請求として,被控訴人会社の発行する受験誌に上記模倣をして出版,発売等を行うことの禁止を求める事案である。
 原審は,(1)被控訴人らによる控訴人従業員に対する社会的相当性を逸脱した働きかけや,業務委託契約の相手方に対する社会的相当性を欠く契約解消の要求行為があったとは認められない,(2)控訴人の発行する受験誌の切り離し式暗記カード等は,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護されるものではなく,被控訴人会社の発行する受験誌が控訴人発行の受験誌に係る編集著作権を侵害するとも認められない,として控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 不法行為請求(1)の成否及び損害額
2 営業権に基づく差止請求の成否
3 不法行為請求(2)の成否及び損害額
4 不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否
5 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否


原審における各争点について、控訴審でも原審の判断を維持して不法行為の成立を否定しています(4頁以下)。

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■コメント

受験誌に付された切り離し式の暗記カードの編集著作物性について、原審では問題の選択や配列の内容に相違があることから、前提となる編集著作物性については、「編集著作物性の有無にかかわらず,侵害が成立しないことは明らかである」(原審30頁)として明確な判断はしていませんでしたが、控訴審では、
「暗記カード上に掲載された問題とそれに対する解答の選択や配列についてみるに,控訴人は,従前の簿記検定試験の内容を踏まえた予想問題を反映した重要な仕訳内容を暗記カードの内容に反映させたというのであり,暗記カード部分に掲載された問題と解答の選択や配列には控訴人の独自性が発揮されているといえるから,少なくとも全体として一つの編集著作物に当たると認められる。」(13頁)
として、その編集著作物性を肯定しています(結論としては、一部の問題のテーマに共通するものがあるものの、問題の選択や配列の内容が全体として異なるとして、原審同様、編集著作権侵害性を否定しています)。

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■過去のブログ記事

原審記事

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