知財判決速報2014

2015年03月12日

マンション建築設計図事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンション建築設計図事件

東京地裁平成26.11.7平成25(ワ)2728損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2015.3.6
*キーワード:建築、設計図、著作物性

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■事案

マンション建て替えのための設計図の著作物性が争点となった事案

原告:建築設計会社
被告:マンション区分所有者ら、建設会社、建築設計会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号

1 被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か

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■事案の概要

『本件は,原告が,メゾンAの区分所有者であった被告Aらが,同マンションの建替えに際し,被告日神,被告飛鳥設計及びその代表者である被告Kと共同して,原告が作成した原告図面に依拠して本件建物の設計図である被告図面を制作し,もって原告が有する原告図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して,(1)被告Kに対しては,著作権侵害の不法行為の実行行為者として民法709条に基づき,(2)被告飛鳥設計に対しては,被告Kの著作権侵害の不法行為について会社法350条に基づき,(3)被告Aら及び被告日神に対しては,被告Kの著作権侵害行為の共同不法行為者として民法719条に基づき,連帯して,上記共同不法行為と相当因果関係のある設計料相当額である損害金3285万円及びこれに対する共同不法行為の後の日であるとする平成22年10月6日(被告日神が建築確認済証の交付を受けた日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(3頁以下)

<経緯>

H18.04 メゾンA建替え計画
H21.06 原告が「メゾンA建替え計画」図面提出
H22    被告区分所有者らが被告建設会社に依頼
H23.03 マンション完成

本件建物:「日神パレステージ初台オペラ通り」

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■判決内容

<争点>

1 被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か

原告図面は、等価交換事業として行われる既存のメゾンA建替えのため作成されたもので、「1、2階平面図」「3、4階平面図」「5、6階平面図」「7〜9階平面図」「断面図」という5枚の図面から構成されるものでした。これに対して、被告図面は、「1階平面図」ないし「7階平面図」とする各階平面図のほか、「8・9階平面図」「R階平面図」「南西立面図」「北西側立面図」「北東側立面図」「南東側立面図」「A−A断面図」「B−B断面図」という少なくとも15枚の図面から構成されるものでした。
原告は、原告図面における建物形状や建物配置、柱配置などが被告図面に複製ないし翻案されたとして著作権侵害を主張しました(28頁以下)。
この点について、裁判所は、原告図面における具体的な表現の著作物性(著作権法2条1項1号、10条1項6号)を検討。
「原告図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法10条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,「学術的な性質を有する図面」としての設計図の創作性は,作図の対象である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではなく,作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認められると解すべきであって,設計思想そのものは,アイデアなど表現それ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべきである。」と説示した上で本事案について検討を加えています。
裁判所は、原告が原告図面の創作性として主張する点は、いずれも原告図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎないというべきであると判断。また、
「敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地はほとんどなく,本件におけるメゾンA建替え後のマンションである本件建物も,本件土地の特殊な形状や法令上の規制,メゾンAの原状や被告Aらの要望等に基づいて,自ずとその建物形状等や配置,構造のみならず,その寸法関係の大枠も定まるものであるから,原告図面は,そのような制約の下,ごく普通の表記法に従って作成された設計図にすぎないと認められる。」
として、等価交換事業としてのマンション建て替え事例といった点からも原告図面の著作物性を否定。
さらに、「念のため」として検討された本件建物の創作性を前提とした原告図面の著作物性の点も含め、原告の著作権侵害性の主張を認めていません。

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■コメント

マンション建て替えの際の建築設計図が流用されたとして建築設計図の著作物性が争点となった事案です。2014年11月判決で今年3月公開のものとなります。
物件は京王線初台駅、東京オペラシティに隣接する場所にあり、店舗を含め30戸が入る地上9階建て(敷地面積130坪ほど)の分譲賃貸マンションです。
等価交換事業として行われたマンション建て替えで、各住戸と所有者の対応関係や経費削減のための既存杭の場所も勘案するとなると、一般的なマンションと大きく様相が異なるものになるとも思われず、建築設計図は無論、建物自体についても著作権法上の著作物性を認めるのが難しい事案だったかと思われます。

図面の制作にあたって、原告会社は訴外デベロッパー経由で被告区分所有者らに設計図を提供していますが、他社デベロッパー案もあるなかで、被告区分所有者側としては、コンペのつもりだったのかもしれません。
設計契約の際に制作金額を含めどのような取決めをしたのか、突き詰めると原告会社が正式受注に至らず骨折り損になった分をどこに負わせるか、かと思われますが、デベロッパーとのやりとりや経緯の詳細を知りたいところです。
設計図流用発覚の経緯としては、原告の主張としては、平成24年10月にたまたま本件建物の外観が自らが設計した原告図面に酷似していることを知って調査を行ったということですが、提訴に至った点については金銭以上の思いも、あるいはあったのかもしれません。
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2015年02月20日

ログハウス調木造住宅事件−著作権 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ログハウス調木造住宅事件

東京地裁平成26.10.17平成25(ワ)22468不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      実本 滋
裁判官      足立拓人

*裁判所サイト公表 2015.2.13
*キーワード:建築の著作物、著作物性、写真、翻案、形態、商品等表示

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■事案

ログハウス調木造住宅の著作物性や不競法上の形態の商品等表示性が争点となった事案

原告:一般建築工事請負業及び設計監理等会社
被告:住宅用建築物新築工事及びリフォーム等個人事業者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法10条1項5号、2条1項1号、不正競争防止法2条1項1号

1 原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無
2 原告表現建物の著作物性
3 原告各写真につき被告による著作権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,別紙1原告表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)を付加したログハウス調木造住宅(以下「原告表示の建物」という。)を販売する原告が,別紙2被告表示目録記載の表示を付加したログハウス調木造住宅(以下「被告建物」という。)を販売する被告に対し,(1)原告表示の建物はその形態が周知な商品等表示であり,被告建物はその形態が類似するから,被告による被告建物の販売は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当する,(2)後記第3.4〔原告の主張〕において原告が主張する六つの表現上の特徴を有する建物(以下「原告表現建物」という。)は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当し,職務著作として原告がその著作者となるところ,(顱鉾鏐陲砲茲詒鏐襍物の建築は,原告表現建物について原告が有する著作権(翻案権)を侵害する,(髻鉾鏐襍物の写真は原告表現建物の二次的著作物であるとして,被告による別紙4被告写真目録記載の各写真(以下「被告各写真」という。)を被告のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)に掲載することは,原著作者である原告の著作権(公衆送信権)を侵害する,(鵝鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭魴悩椶靴織僖鵐侫譽奪函憤焚次嵌鏐陬僖鵐侫譽奪函廚箸いΑ)の配布は,原著作者である原告の著作権(譲渡権)を侵害する,さらに,(3)別紙3原告写真目録記載の各写真(以下「原告各写真」という。)は,原告がその著作権を有するところ,(顱鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭鯣鏐陬曄璽爛據璽犬坊悩椶垢襪海箸蓮じ狭陲原告各写真について有する著作権(公衆送信権)を侵害する,(髻鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭魴悩椶靴織僖鵐侫譽奪箸稜柯曚蓮じ狭陲原告各写真について有する著作権(譲渡権)を侵害すると主張して,被告に対し,不競法3条1項,2項,著作権法112条1項,2項に基づき,被告建物の販売等の差止め,被告パンフレット等の配布の差止め,同写真及び同パンフレット等の廃棄,被告写真等の印刷等の差止め,同写真及び同写真を掲載したパンフレット等の廃棄,並びに被告ホームページから同写真の削除を求めるとともに,上記不正競争行為につき不競法4条に基づいて,また上記著作権侵害行為について民法709条に基づいて,損害賠償金及びこれに対する平成25年10月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(2頁以下)

<経緯>

H16 原告建物の展示、販売
H23 被告建物の設計、建築

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■判決内容

<争点>

1 原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無

原告は、原告のログハウス調木造住宅はその形態が周知な商品等表示であり、被告建物はその形態が類似することから、被告による被告建物の販売は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する旨主張しました。

不正競争防止法2条1項1号「商品等表示」の意義について、裁判所は、「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい,商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないから,商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには,(1)商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,(2)その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。」と説示した上で、原告ログハウス調木造住宅の商品等表示性について検討を加えています(30頁以下)。

(1)特別顕著性について

まず、特別顕著性については、一般住宅において客観的にみて他の住宅と異なる顕著な特徴を有するというためには、何らかの具体的に特定された形態であることが、「商品等表示」に該当する前提として必要とされるべきであるとし、原告が主張する6つの特徴は、いずれもその形態を特定するのに必要とされる建物全体の形状並びに屋根、柱、壁、窓、バルコニー、玄関等の具体的な形状、寸法及び位置関係といった構成要素が何ら具体的に特定されておらず、建物の抽象的かつ観念的な構成を示すにとどまると裁判所は判断。
原告表示の建物は、商品の形態の特定に欠けるとして、その形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできないと判断しています。

また、「仮に」として、原告が主張する6つの特徴を全て備えた建物が、原告表示目録記載の写真に具現された原告建物の特徴と相まって「商品の形態」に該当すると認められるとしても、原告表示の建物はその形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとは認めることはできないと判断しています。

(2)周知性について

次に、原告表示の建物について、その周知性を認めることができるかについて検討しています(37頁以下)。

この点に関して原告は、展示場での展示・カタログの配布、広告・特集記事の掲載、グッドデザイン賞の受賞、原告の営業実績、東海地方での重点的な宣伝広告などを理由として、原告表示の建物は遅くとも平成23年3月頃には需要者の間で全国的に広く知られており、特に東海地方では他の地域以上に需要者から原告表示の建物が広く認識されるに至っており、商品等表示性を獲得していた旨主張しました。
しかし、裁判所は、原告の主張する平成23年3月の時点で原告表示の建物について周知性を獲得したと認めることはできないと判断しています。

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2 原告表現建物の著作物性

原告表現建物の著作物性に当たって、建築の著作物(著作権法10条1項5号)の意義に関して裁判所は以下のように説示しています(41頁以下)。

「建築物について,著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に当たるとして同法によって保護されるには,同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして,知的・文化的精神活動の所産であって,美的な表現における創作性,すなわち造形美術としての美術性を有するものであることを要すると解するのが相当である。」
「そして,一般住宅の場合についてみると,通常,その全体構成や屋根,柱,壁,窓,玄関等及びこれらの配置関係等において,実用性や機能性(住み心地,使い勝手や経済性等)のみならず,美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で,設計,建築されるのであり,そのことに照らすと,一般住宅が「建築の著作物」に当たるということができるのは,客観的,外形的に見て,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となり,建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。」

その上で、原告が主張する6つの表現上の特徴は、主に機能性の観点から採用されたものと認められ、いずれも建物の抽象的なコンセプトそのもの、若しくはその実用性・機能性を抽象的に表現したものにすぎず、さらにそれら全てを組み合わせたものとしてみてもその内容をもってアイデアと離れた具体的な表現と認めるのは困難であるというべきであると裁判所は判断。

また、「仮に」として、原告が主張する6つの表現上の特徴が別紙1原告表示目録の写真に具現された原告建物の特徴と相まって具体的な表現であると認められるとしても、それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に独立して美的鑑賞の対象となるものとは認められないというべきである、と判断しています。

結論として、原告表現建物の著作物性は否定されています。

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3 原告各写真につき被告による著作権侵害の成否

原告は、被告各写真は原告が著作権を有する原告各写真を被告が翻案したものであり、これらの被告各写真を被告のホームページに掲載することで自動公衆送信を行い、また、被告各写真を掲載したパンフレットを配布することで譲渡を行っており、原告の原告各写真の公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張しました(48頁以下)。

この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義に関する江差追分事件最高裁判決(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決)に言及した上で、被写体が違うことや原告表現建物の著作物性が否定されていることを前提に、「被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるか」について検討するのが相当であると説示。
そして、

(1)被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしたもの(斜め写真)

構図において原告斜め写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なること、その撮影時期や光量の調整、陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあり、被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。

(2)玄関面を真正面から玄関面全体が大きく見えるようにしたもの(正面写真)

構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なること、その陰影の付け方や背景においても違いがあり、被告正面写真が原告正面写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。

結論として、被告各写真が原告各写真を翻案したものではないとして、著作権侵害性を否定しています。

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■コメント

ログハウス調木造住宅の著作物性などが争点となった事案です。判決文に別紙が添付されているので、どのような建築物であるかがよくわかります。
一般住宅の建築物の著作物性判断の先例としては、積水ハウス事件(大阪地裁平成15年10月30日)がありますが、そこでは、不正競争防止法2条1項3号商品形態模倣性の論点のほか、写真の複製性が検討されています(写真の複製性肯定)。
原告の建物は平成16年度のグッドデザイン賞を受賞していますが、積水ハウス事件で判示されているのと同様に、グッドデザイン賞自体から建物に美術性、芸術性が具備されていると認めることはできない旨本事案でも言及されています。
原告は丁寧に建物の独創性を主張しましたが、著作権法で保護される一般住宅における造形美術としての美術性のハードルは高く、不正競争行為論によっても裁判所の理解を得ることは出来ませんでした。

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■参考判例

積水ハウス事件 大阪地裁平成15.10.30判決
判決PDF

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■参考文献

大森文彦『建築の著作権入門』(2006)52頁以下

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■参考サイト

三浦正広「建築の著作物における著作物性−積水ハウス事件−」『発明』101号(2004)
判例評釈
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2015年01月13日

「つくる会」歴史教科書翻案事件−著作権 書籍出版差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「つくる会」歴史教科書翻案事件

東京地裁平成26.12.19平成25(ワ)9673書籍出版差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      足立拓人

*裁判所サイト公表 2015.1.8
*キーワード:歴史教科書、翻案、著作者人格権

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■事案

中学校用歴史教科書の記述を流用して翻案したかどうかが争点となった事案

原告:「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)元会長
被告:出版社、執筆者ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条

1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か
2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らが制作して出版する別紙書籍目録記載1及び2の各書籍が原告の著作権を有する書籍の記述を流用したものであり,原告の翻案権及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告書籍1の出版等の差止めを求めるとともに,同書籍の発行者である被告育鵬社及び被告扶桑社に対し,同書籍の廃棄を求め,また,共同不法行為に基づき,被告ら各自に対して,翻案権侵害に係る損害賠償金及び著作者人格権侵害に係る慰謝料並びにこれらに対する別紙書籍目録記載2の書籍(以下,同書籍を「被告書籍2」といい,被告書籍1と併せて「被告書籍」という。)の教科書検定の合格日である平成23年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H17.03 原告書籍検定
H23.03 被告書籍2検定
H23.05 被告書籍2を市販本として刊行(被告書籍1)

原告書籍 :「改訂版新しい歴史教科書」
被告書籍1:「こんな教科書で学びたい 新しい日本の歴史」
被告書籍2:「中学社会 新しい日本の歴史」

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■判決内容

<争点>

1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か

原告は、47項目において、表現の視点、事項の選択、表現の順序(論理構成)及び具体的表現内容をそれぞれ挙げて原告各記述に創作性があるとして、それらの創作的部分が被告各記述と共通していることから、被告各記述が原告各記述の翻案に当たると主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、さらに中学校用教科書及びその検定制度について触れています。

その上で、「表現の視点」については、あくまで具体的な記述について検討されること、また、「事項の選択」については、
「歴史教科書については,教科書の検定基準並びに学習指導要領及びその解説において,その記述内容及びその具体的な記述の方法が相当詳細に示されており,そこに記載できる事項は限定的であるというべきであるから,その中で著者の創意工夫が発揮される余地は大きいとはいえない。」
「そこでは,仮に著者が主観的には創意工夫を凝らしたというものであっても,これを具体的な記述として表現するについては,検定基準及び学習指導要領に基づく歴史教科書としての上記制限に従った表現にならざるを得ないのであるから,表現の選択の幅は極めて狭いというべきであり,客観的には,そこに著者の独自性や個性が表われないということもあり得るのであって,その場合には,表現上の創作性があるということはできない。」(14頁)
として、保護の余地が狭いとした上で、一単元において選択された複数の事項の組合せについても個々の事項が一般的な歴史上の事実又は歴史認識にすぎないときは、通常、それらの事項の組合せについて、著者独自の創意工夫が表れているということはできないと説示。

さらに、「表現の順序(論理構成)」についても、歴史教科書の性質上、複数の歴史的事実をどのような順序で配列するかについての選択の幅は限られており、そこに著者の個性が表れていると認められる場合は少ないものといわざるを得ないと判断。

具体的表現内容についても、歴史的事実や歴史認識それ自体であって表現ということができないものであるか、あるいは、事項の選択・配列及びその具体的表現内容のいずれにおいても創作性を認めることができないものであると認められ、他方で、それ以外の点では原告各記述及び被告各記述の文章表現は異なるものとなっており、その具体的な表現内容が共通していないものと認められると判断。

結論として、原告が主張する47項目における被告各記述は、いずれも原告各記述の翻案に当たるものとは認めることができないとされています。

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2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無

翻案性が否定されており、被告書籍によって原告書籍に係る原告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたということもできないと判断されています(22頁)。

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■コメント

原告執筆者と被告出版社との間の「改訂版新しい歴史教科書」(教科書、市販本)に係る著作権使用許諾契約に関する別件訴訟(後掲)で平成24年3月末日までの原告執筆部分の使用が認められていました。その後継となる4年毎の検定、採択のための新装版にあたる被告出版社ら刊行の教科書とその市販本において、原告執筆部分の流用があり、翻案に当たるのではないかが新たに争点となったという事案です。

先の、江戸大目附問答集翻案事件でもそうでしたが、歴史的事実の記述やその解説については、創作性がないか、あってもその幅は狭いものとなります。もちろん、そうしたなかで執筆者は創意工夫をされておいでで、その保護は必要ですが、反面、当該記述を執筆者に独占させることになることの弊害についても、よくよく考えなければならないところで、価値判断的にはデッドコピーのような場面に限定されると考えられます(戦記物著作権侵害事件 東京地裁昭和55.6.23昭和51(ワ)6568 「最新著作権関係判例集」第三巻(1986)28頁以下参照)。

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■関連裁判(別件事件)

東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件
別件事件

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■過去のブログ記事

2015年1月9日記事
江戸大目附問答集翻案事件

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■参考サイト

つくる会プレスリリース(平成26年12月22日)
対育鵬社著作権訴訟・東京地裁不当判決についての声明
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2015年01月09日

江戸大目附問答集翻案事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

江戸大目附問答集翻案事件

東京地裁平成26.12.24平成26(ワ)4088損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2015.1.7
*キーワード:翻案、同一性保持権、氏名表示権

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■事案

学術研究会会報誌に掲載された書評が当該書籍の記述を翻案したものであるかどうかが争点となった事案

原告:大学准教授
被告:大学講師

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条

1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 氏名表示権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件問答集」という。)における「解題」と題する部分(以下「本件解題」という。)を執筆した原告が,「法史学研究会会報15号」(以下「本件会報」という。)に本件問答集の書評(以下「本件書評」という。)を寄稿した被告に対し,本件書評は本件解題の翻案物であり,被告は原告の著作権(翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害した旨主張して,翻案権侵害の不法行為又は氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する平成26年3月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(翻案権侵害の不法行為に基づく請求と氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく請求は,選択的併合の関係にある。なお,以下では,人物その他の固有名詞を中心に,一部の表記を常用漢字で置き換えた箇所がある。)。』(1頁以下)

<経緯>

H22.02 石井良助・服藤弘司ほか編、原告担当「問答集9 大目附問答・町奉行 問合挨拶留・公邊御問合」刊行
H23.06 法史学研究会会報15号刊行

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■判決内容

<争点>

1 翻案権侵害の成否

被告が本件会報に寄稿した書評が、原告が執筆した史料の解説部分(本件解題)の翻案にあたるとして、翻案権侵害性を争点としました(6頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、特に、本件のような歴史的資料の分析を通して歴史的事実を明らかにしようとする場合、「個々の分析結果は,他の方法により表現する余地が小さく,学術的な思想ないし発見された事実それ自体であって,創作的表現とならないことが多いというべきである」(8頁)と、その保護の範囲が狭くなることを説示した上で、27箇所に亘る原被告記述の対照部分について検討を加えています。
結論として、原告各記述部分はいずれも思想又はアイデアにすぎない、あるいは事実それ自体にすぎないなどとして、原告各記述部分の著作物性を否定。被告各記述が表現上の創作性がある部分での翻案であるとはいえないと判断しています。

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2 同一性保持権侵害の成否

被告各記述は、原告各記述の二次的著作物とは認められないとして、同一性保持権侵害は成立しないと裁判所は判断しています(25頁)。

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3 氏名表示権侵害の成否

原告は、本件書評は本件解題の二次的著作物にあたるところ、被告は本件書評に原告の氏名を表示しなかったと主張しました。
この点について、裁判所は、そもそも被告各記述は原告各記述の翻案物とは認められず、本件書籍の表題及び著作者を紹介する部分と被告各記述を併せて検討しても二次的著作物の公衆への提供又は提示(19条1項第2文)には当たらず、氏名表示権侵害は成立しないと判断しています(25頁以下)。

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■コメント

大目附問答、町奉行所問合挨拶留、公邊御問合の3点は、江戸時代の大名や幕府の諸奉行などが施政上のことで疑義が生じた場合に当該事項を管掌する役人にした問い合わせ等の関係諸文書を集めた問答集ということで、いまでいう行政解釈集、疑義照会回答集といったところでしょうか。
会報誌編集委員会のプレスリリースである後掲「小誌15号書評に対する抗議について」を見ると、書評の内容において文献の不適切な引用があったと想像されます。

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■参考サイト

法史学研究会

『法史学研究会会報』編集委員会(第15号)2012年1月18日
小誌15号書評に対する抗議について

『法史学研究会会報』総目次

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2014年12月29日

江戸地図事件−著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

江戸地図事件

東京地裁平成26.12.18平成22(ワ)38369著作権侵害差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      高橋 彩

*裁判所サイト公表 2014.12.24
*キーワード:地図、著作物性、著作権の帰属

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■事案

江戸時代や明治時代の東京と現代の東京の地図を重ね合わせるソフト開発にあたって作成された江戸地図や明治地図の著作権の帰属などが争点となった事案

原告:マルチメディアコンテンツ開発制作会社
被告:アニメーション映像制作会社、イラスト制作者X

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号、114条3項、民法709条

1 本件江戸図の著作権の帰属
2 本件明治図の著作権の帰属
3 本件各地図の著作権侵害の有無等
4 原告に対する事業妨害の不法行為の成否
5 弁護士費用の額

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■事案の概要

『本件は,別紙物件目録記載の各地図(以下,「本件各地図」と総称し,同目録記載1の地図を「本件江戸図」,同2の地図を「本件明治図」という。)の著作権者であると主張する原告が,被告らが本件各地図につき著作権を有すると主張してこれらを複製ないし翻案し,また,被告X(以下「被告X」という。)と被告有限会社菁映社(以下「被告会社」という。)の代表者が原告の事業を妨害したことが不法行為に当たるとして,被告らに対し,(1)原告が本件各地図の著作権を有することの確認,(2)著作権法112条1項及び2項に基づく本件各地図の複製等の差止め及び廃棄,(3)不法行為(民法709条,719条1項,会社法350条)に基づく損害賠償金(本件江戸図の著作権侵害につき50万円,本件明治図の著作権侵害につき100万円,事業妨害行為につき1年当たり200万円,弁護士費用200万円。ただし,請求の趣旨の減縮はない。)及び不法行為の後である平成22年11月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。なお,本件各地図はDVD−ROMに収録されたものであるが,パソコンの画面に表示され,プリントアウトされる地図の著作物(著作権法10条1項6号)としての創作過程及び著作権の帰属等が争われている。』(2ページ以下)

<経緯>

H06.10 朝日新聞社が「復元江戸情報地図」書籍刊行
H11.10 マルチメディアコンテンツ振興協会(MMCA)と被告会社が地図ソフト開発請負契約締結
H12.04 被告会社が地図ソフト納品
H13.07 原告が「江戸東京重ね地図(初版)」発行
H14.11 原告と被告Xが復元江戸図の使用許諾契約締結(本件第1契約)
H14.12 原告と被告Xが復元江戸図の使用許諾契約締結(本件第2契約)
H15.10 原告が「改訂版」発行
H16.03 原告と東京都歴史文化財団が委託契約締結
H16.07 原告が「江戸明治東京重ね地図」ソフト発行
H18.05 原告及び人文社、アルプス社がデータ使用許諾契約締結
H18.12 被告Xがヤフーらに通知書送付
H19.03 被告らが東京都江戸東京博物館(江戸博)に地図を設置
H21.08 被告らが不動産会社にマンション広告目的に地図を提供
H22.09 被告らが書籍「大江戸探見」向けに地図を提供

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■判決内容

<争点>

1 本件江戸図の著作権の帰属

本件江戸図の制作経過について、原告は、原告代表者Yないし原告の従業員が被告会社から受領した地図データを用いて江戸東京重ね地図「初版」及び「改訂版」の江戸図を制作し、更にこれを用いて本件江戸図を制作したと主張しました。
これに対して、被告らは、被告会社が制作したMMCA版地図ソフトの江戸図がそのまま江戸東京重ね地図に収録され、被告Xがこれを基に本件江戸図を制作したものであると反論しました(15頁以下)。
原告は、本件江戸図の著作権の帰属について、
(1)Yないし原告の従業員が、被告会社から受領した地図データに隣接するグリッド間のずれ及び現代図とのずれを補正し、文字情報及びアイコンを選択して掲載するという作業を加えて江戸東京重ね地図の初版の江戸図を作成した。そして、初版の江戸図に変更を加えて改訂版を作成した。さらに、改訂版の江戸図に変更を加えて本件江戸図を完成させた。
(2)原告が本件江戸図に何を掲載し、何を掲載しないかの最終的な決定権限を有していた。
といった点を根拠に原告への著作権の帰属を主張しました。
この点について、裁判所は、上記(1)について、アイコンに関する部分以外は、Yらが行ったと認められるものの、
・隣接するグリッド間のずれ及び現代図とのずれの補正は、より正確な地図を作成するための作業であり、その性質上直ちに創作性のある表現を付加する行為とは認め難い
・文字情報の選択及び掲載については、初版の江戸図のどこに誰がどのような表現方法で何を掲載したかが本件の関係各証拠上明らかではない
・改訂版及び本件江戸図の作成の際の変更について、正確な地図にするために元の地図の地形や地名等を訂正するもので、表現上の創作性を付加するものとは断じ難い
と判断。
上記初版、改訂版及び本件江戸図の制作に際して、Yらが新たに表現上の創作性を付加したとは認められないことから、原告の前記主張(2)についても、仮に原告がそのような決定権限を有していたとしても、そもそも表現上の創作性が付加されたことが認められない以上、この点を著作権取得の根拠とすることはできないと判断。
結論として、原告が本件江戸図の著作権を取得したと認めることはできず、本件江戸図の著作権確認請求は理由がないとしています。

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2 本件明治図の著作権の帰属

原告は、被告X及び人文社が作成した下図を基に、Yないし原告の従業員が創作的な表現を付加して本件明治図を制作したとして原告が著作権を有すると主張しました。
これに対して被告らは、本件明治図は被告Xが作成した地図の複製物にすぎない旨主張しました(20頁以下)。
この点について、裁判所は、
・Yらが行った作業のうち隣接するグリッド間等の補正については、創作的な表現を付加したと認められないことは、前述の本件江戸図と同様である
・地名その他の情報及び地番等の記載については、地図に掲載すべき情報を独自の基準で選択した上でその配置、文字の色、大きさ等にそれなりの工夫をして地図面上に記載したものであり、著作権の発生根拠となる創作的な表現行為に当たるということができる
・Yらの行為については、職務著作が成立すると認められ、原告に著作権が発生する
・人文社の担当従業員らによる成果については、合意により原告に著作権が帰属する
・被告Xの指示等により人文社が被告Xの手足となったわけではない
・制作費は原告側が負担している
・本件第2契約の締結
といった点から、本件明治図についての著作権は、原告に帰属すると判断。確認の利益もあるとして、著作権確認請求は理由があると判断しています。

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3 本件各地図の著作権侵害の有無等

(1)本件江戸図の複製ないし翻案について

前述のように原告が本件江戸図の著作権を有しているとは認められないことから、本件江戸図の著作権侵害の主張は前提を欠くと判断されています(25頁以下)。

(2)本件明治図の複製について

被告らは共同して本件明治図を複製し、江戸博に設置したとして、本件明治図に係る原告の複製権を侵害したものと認められることから、原告は被告らに対して、本件明治図の複製及び公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め並びに本件明治図及びその複製物の廃棄を求めることができると裁判所は判断しています(26頁以下)。
また、損害額については、利用料相当額の50万円が認定されています(114条3項)。

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4 原告に対する事業妨害の不法行為の成否

原告は、被告らが虚偽の内容の通知書を送付したことによりアルプス社らとのデータ使用許諾契約(本件使用許諾契約)が期間満了により終了したため、本件使用許諾契約が継続されていれば原告が受領できたはずの金額相当の損害が発生したと主張しました(27頁以下)。
この点について、裁判所は、上記通知書は少なくともその限度で虚偽の記載を含んでおり、被告Xの送付行為は違法であると解する余地があると判断。
もっとも、本件使用許諾契約が当然に更新されることを前提とする原告の損害に関する主張は、前提を欠くというほかないと判断。
被告Xによる通知書の送付と本件使用許諾契約の終了との間に因果関係があると認めることは困難であり、通知書の送付により原告主張の損害が発生したと認めることはできないと判断しています。

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5 弁護士費用の額

本件事案の内容、本件訴訟の経過を踏まえ、本件における著作権侵害の不法行為と相当因果関係があるものとして、被告らに負担させるべき弁護士費用の額として10万円が認定されています(29頁)。

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■コメント

江戸時代の古地図と現在の東京の地理を重ね併せるウェブサービスがありましたが、いつのまにか無くなっていて、とても残念でした。
判決文によると、ライセンスを受けてヤフーが平成19年当時、3ヶ月ほど「Yahoo!古地図」を展開していたということで、どうしてサービスが無くなってしまったのか、経緯の一端が分かりました。
現在では、明治期以降の地図との重ね併せサービスは、たとえば、「東京都建物における液状化対策ポータルサイト」(http://tokyo-toshiseibi-ekijoka.jp/chireki/chireki_search.html)で自宅の近所の過去の地歴を眺めることができます。また、goo古地図サービスなどもあります(http://map.goo.ne.jp/history/)。
今年7月に開催された、日本文藝家協会文芸トークサロンイベントで山本陽史先生(山形大学)は、藤沢周平作品の舞台を訪ねて江戸期の地理と現代を重ね併せて散策するのが楽しい、とおっしゃっておいででしたが、いま居る土地が、過去どのような場所だったのか、探索するのはとてもワクワクします。
一日も早く紛争が落ち着いて、こうした地図ソフトが利用できるようになって欲しいものです。

ところで、地図の著作物性については、著作権法10条1項6号で学術的、技術的性質を有する著作物として例示されており、裁判例としても、富山市住宅地図事件(富山地裁昭和53.9.22)や史跡ガイドブック事件(東京地裁平成13.1.23)、土地宝典事件(東京地裁平成20.1.31)などで地図の著作物性判断に関して言及されています。また、地図が美術性を有するものであれば、美術の著作物としての保護を考えることもできます(10条1項4号)。

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■参考判例

富山市住宅地図事件
富山地裁昭和53.9.22昭和46(ワ)33

史跡ガイドブック事件
東京地裁平成13.1.23平成11(ワ)13552損害賠償請求事件
別紙1

土地宝典事件(原審)
東京地裁平成20.1.31平成17(ワ)16218損害賠償請求事件

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■参考文献

本山雅弘「地図の著作物性と規範的な侵害主体による不当利得の成否ー土地宝典事件」『L&T』41号(2008)110頁以下
時井 真「法務局から土地宝典の貸出を受け、法務局内の複写機で無断複製を行った利用者の行為につき、国に損害賠償責任等が認められた事例 −土地宝典事件−」『知的財産法政策学研究』31号(2010)163頁以下
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2014年12月18日

スーパーファミコンパッチプログラム発信者情報開示請求事件−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スーパーファミコンパッチプログラム発信者情報開示請求事件

東京地裁平成26.11.26平成26(ワ)7280発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      西村康夫
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2014.12.12
*キーワード:プログラム、著作物性、発信者情報開示、プロバイダ責任制限法

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■事案

スーパーファミコン用ゲームのパッチプログラムが無断でサイトにアップロードされたとして発信者情報開示請求を行った事案

原告:プログラム制作者
被告:プロバイダ事業者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、10条1項9号、プロバイダ責任制限法4条1項

1 本件パッチが「プログラム」に該当するか
2 著作物性の有無
3 発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか
4 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

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■事案の概要

『本件は,原告が,別紙ウェブページ目録記載1のURLにより表示されるウェブページ(以下「本件サイト」という。)において氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がアップロードした同目録記載2のファイルに含まれるプログラムとされる制作物(以下「発信者プログラム」という。)は,原告の創作に係るプログラムとされる制作物(以下「本件パッチ」という。)の複製物ないし翻案物であり,本件発信者の行為は原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであるから,本件発信者に対し損害賠償請求権を行使するために本件発信者に係る発信者情報の開示を受ける正当な理由があると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件パッチが「プログラム」に該当するか

スーパーファミコン用ゲーム「SDガンダム GNEXT」のプログラムに関して、原告がそのバグ等を改善するために作成したパッチプログラムが第三者によってウェブサイトにアップロードされ、だれでもダウンロードできる状態にされました。
発信者情報開示に関するプロバイダ責任制限法4条1項の権利侵害の明白性の有無の判断について、まず、パッチプログラムのプログラム性(著作権法2条1項10号の2)が検討されています(6頁以下)。
この点について、被告は、あくまでプログラムとして動作するのは「SDガンダム GNEXT」プログラムであって、このプログラムとは別個に本件パッチ自体を表現するなら「SDガンダム GNEXT」プログラムを改変するためのデータ列というほかないとして、そもそも本件パッチは「プログラム」に該当しないと反論しました。
しかし、裁判所は、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、複数の指令を組み合わせて電子計算機を機能させ所定の場合には色の切替動作を行い、所定の場合にはこれを行わないという1つのまとまった仕事ができるように構成されているものと認められるとして、「プログラム」に該当すると判断しています。

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2 著作物性の有無

次に、本件パッチの著作物性について、被告は、原告が創意工夫をしたとする箇所の多くが別の著作物である「SDガンダム GNEXT」プログラムを前提として、そのソースコード等を入手することなくそのオブジェクトコードを改変するという、通常であれば無理な作業を行うことから生じているものであって、著作物における制作者の個性の表現ともいわれる創作性とはおよそ異なるものであるとして、その著作物性を欠くと反論しました。
この点について、裁判所は、「プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する」(8頁)とプログラムの著作物性の意義について言及した上で、本件色切替パッチの著作物性を検討しています。
そして、本件色切替パッチは、情報の読み出し、加工、データベースとの照合などの処理を行うものであり、そのために種々のコマンドを組み合わせて表現していると判断。また、本件色切替パッチと同じ目的を達成するためのコマンドやその組み合わせ、その順序にはほかにも多様な選択肢があると認定しています。
その上で、原告は、それだけの選択の余地がある中で工夫を凝らして本件色切替パッチを作成したものであるとして、本件色切替パッチはありふれた表現ではなく、何らかの作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていると裁判所は判断。
結論として、本件パッチのうち、少なくとも本件色切替パッチは、プログラムの著作物であると認定しています。

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3 発信者プログラムが本件パッチの複製物ないし翻案物にあたるか

本件色切替パッチと発信者プログラムの当該部分をオブジェクトコードレベルで対比すると、両プログラムのコードは完全に一致すると認められるなどとして、発信者プログラムのうち、少なくとも本件色切替パッチに対応する部分は、本件パッチの一部である本件色切替パッチの複製物に該当すると裁判所は判断しています(12頁)。

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4 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

前述のとおり本件発信者の行為は原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであり、また、原告は、本件発信者に対して著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するために被告の保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要であると認定。
原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると裁判所は判断しています(12頁以下)。

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■コメント

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求にあたっては、権利侵害の明白性要件の具備が求められますが、その要件の検討に際してマジコンで吸い出したプログラムを改造するパッチの権利性が争点となりました。
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2014年12月17日

CD制作業務委託契約事件−著作権 売掛金請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

CD制作業務委託契約事件

東京地裁平成26.11.28平成25(ワ)14424売掛金請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      西村康夫
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2014.12.12
*キーワード:CD制作、原盤、プロデューサー、業務委託契約

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■事案

CD制作契約にあたってCDの所有権の帰属などが争点となった事案

原告:音楽レーベル
被告:歌手

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法709条、415条

1 CD売買契約等の成否
2 不法行為の成否
3 演奏権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,(1)(1)主位的に,原告は,被告に,原告代表者であるB(以下「B」という。)の作詞に係る第1歌詞及び第2歌詞(以下,これらを併せて「本件歌詞」という。)に旋律を付した音楽(以下,それぞれ「本件第1楽曲」及び「本件第2楽曲」といい,これらを併せて「本件楽曲」という。)を録音収録したコンパクトディスク(以下「本件CD」という。)を売り渡したと主張して,本件CDの売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づき,本件CDの代金144万円及びこれに対する平成23年11月21日(本件CDの引渡し後の日)から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「本件請求(1)(1)」という。),(2)予備的に,本件CDの制作から本件訴訟に至る一連の被告の行為(本件訴訟において,被告が本件請求(1)(1)に関する抗弁として消滅時効の完成を主張し,同時効を援用したことを含む。)が原告に対する不法行為を構成すると主張して,損害賠償金144万円及びこれに対する平成26年3月10日(消滅時効援用の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件請求(1)(2)」という。)とともに,(2)原告は,Bから本件歌詞の著作権の譲渡を受けたところ,被告による本件歌詞の歌唱が本件歌詞について原告の有する演奏権を侵害すると主張して,著作権法112条1項に基づき本件歌詞の歌唱の差止めを求める(以下「本件請求(2)」という。)事案である。』(2頁)

<経緯>

H21.07 原告会社代表Bに対して被告が作詞を依頼
H21.11 BがCに対して作曲を依頼
H21.12 被告がスタジオ使用料などを支払い
H22.01 被告がレコーディング
H22.04 被告がマスタリング費用などを支払い
H22.05 被告がCDジャケット撮影代を支払い
H22.05 原告が業者からCD受け取り。適宜原告から被告へ転送
H22.08 被告がCDシングルデザイン代やフライヤーデザイン代を支払い
H22.09 被告がJASRAC管理著作物使用料を支払い

原告レーベル:オーラソニック・レーベル

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■判決内容

<争点>

1 CD売買契約等の成否

原告は、原被告間でCD制作販売協力業務委託契約(原告主張契約)や被告が本件CDを1枚当たり1200円で原告から買い受ける旨の契約(本件売買契約)が成立している旨主張しました(8頁以下)。
しかし、裁判所は、

・原告主張契約について具体的に話し合われたことが一切ない
・原告ないしBは本件CDの引渡しの際に被告に代金を請求していない
・代金の額や支払期限等についての説明もしていない
・被告が本件CDの制作代金のほとんど全てを出捐している
・BはJASRACを通じて本件歌詞の作詞について印税を受領している
・Bの業務の負担自体は軽微

といった点から、原告主張契約は明示的にも黙示的にも成立しておらず、また、本件売買契約についても当事者の合理的意思の解釈としては、原告ないしBは本件歌詞の作詞等本件CDの制作に当たって提供した労務の対価としてはJASRACを通じた支払を受けられるにとどまり、本件CDは被告の所有に属し、原告は業者から送られてきた被告所有の本件CDを被告に転送したにすぎないものと認めるのが相当であると判断。
原被告間で本件売買契約が成立したとは認められないとして、原告の主張を否定しています。

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2 不法行為の成否

原告主張契約及び本件売買契約は成立しておらず、被告による本件CDの騙し取りという取引的不法行為が成立する旨の原告の主張は認められていません(12頁)。

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3 演奏権侵害の成否

原告は、Bから本件歌詞の著作権の譲渡を受けており、被告による本件歌詞の歌唱が本件歌詞について原告の有する演奏権を侵害する旨主張して、本件歌詞の歌唱の差止めを求めました(12頁以下)。
この点について裁判所は、仮に、原告がBから本件歌詞の著作権の譲渡を受けていたとしても、Bが被告に対して本件歌詞を歌唱することについて許諾を与えていたことそれ自体には争いがなく、Bが原告の代表者であることを考慮すると、同許諾は原告との関係でも効力を有するものと認めるのが相当であるなどとして、結論としては原告の主張を認めていません。

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■コメント

原盤権(レコード製作者隣接権)の帰属が争点となる事案は散見されますが、本件ではCD有体物の所有権の帰属が争点となっています。
楽曲の制作(音楽著作権)や原盤制作(著作隣接権)、CDパッケージ(所有権)の取り扱いについて、細かい取決めがされていなかったことから受発注者間で齟齬が生じています。原告代表者Bは著名楽曲の作詞も手掛けているということで、Bがプロデューサー的な立ち位置として、もう少し原盤制作への関与の度合いがあることが認定されていれば、結論も違っていたのかもしれません。

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2014年12月01日

ソフトウェアリース契約事件−著作権 プログラム著作物使用権不存在確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェアリース契約事件

東京地裁平成26.10.29平成25(ワ)32154プログラム著作物使用権不存在確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      西村康夫
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2014.11.25
*キーワード:リース契約、不当利得、法律上の原因

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■事案

自動車整備業務において売上管理や顧客管理等を行うソフトウェアのリース契約内容が争点となった事案

原告:コンピュータシステム開発販売会社
被告:総合リース業務会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法703条、704条

1 不当利得返還請求について

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■事案の概要

『本件は,別紙物件目録記載のソフトウェアプログラム(以下「本件ソフトウェア」という。)の著作権者である原告が,リース業者である被告に対し,不当利得金68万7750円(被告がユーザーから受領した再リース料相当額)及びこれに対する平成25年12月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H19.04 原告が林兼石油とソフト使用許諾契約(本件直接契約)締結
       原告が住信リースと本件使用許諾権設定契約締結
       住信リースと林兼石油が本件リース契約締結
H22.04 被告が住信リースを吸収合併
H24.04 被告と林兼石油が契約更新
H25.04 被告と林兼石油が契約更新
H26.04 被告と林兼石油の間の本件リース契約終了

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■判決内容

<争点>

1 不当利得返還請求について

被告は本件ソフトウェアに関して林兼石油から再リース料を合計18万2448円(消費税別。消費税込みでは19万1570円。)収受していました。
原告は、被告には原告に何の連絡もなく継続使用料を支払わないで再リースを行う権限はないのであって、被告が本件ソフトウェアに関し再リース料の名目で林兼石油より収受した金員は、被告が法律上の原因なく取得した不当利得にあたると主張しました。
被告が林兼石油に再リースする権限を有していたかどうかについて、裁判所は、本件使用許諾権設定契約は、使用許諾期間に関する記載がなく、再リースの際に被告が原告に追加で支払うべき対価の定めもないといった点などから、被告に対する使用許諾及び再リースの承認の期間を当初の5年間に限ったものとは認められず、原告は被告に対して被告と顧客との間で本件リース契約が更新された場合にはその再リース期間を含めて、あらかじめ被告に対する本件ソフトウェアの使用許諾及び再リースを承認したものと認めるのが相当であると判断。
被告は、原告から再リースの承認を受けて適法に本件ソフトウェアを林兼石油に再リースして再リース料を収受したものであるから、その再リース料が原告との関係で不当利得を構成することはないと判断しています(8頁以下)。

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■コメント

エンドユーザーの契約更新の際の再許諾料について、ライセンシー(リース会社)がライセンサーに支払う必要が契約上あったかどうかが争点となった事案となります。
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2014年11月26日

美容院店舗管理システム契約事件−著作権 貸金等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

美容院店舗管理システム契約事件

大阪地裁平成26.11.13平成25(ワ)8321等貸金等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      田原美奈子
裁判官      松阿彌隆

*裁判所サイト公表 2014.11.21
*キーワード:システム開発契約、消費貸借、業務委託契約、相殺

平成25年(ワ)第8321号貸金等請求事件(甲事件)
平成25年(ワ)第8365号弁済金等請求事件(乙事件)

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■事案

美容院店舗管理システム構築契約に関する未払委託代金の請求(相殺)などが争点となった事案

原告:コンピューターシステム設計開発会社、代表者
被告:コンピューターソフトウェア企画開発会社、代表者

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■結論

甲事件(請求認容)/乙事件(請求一部認容)

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■争点

条文 民法505条

1 被告会社の原告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額
2 被告会社と原告会社との間の本件業務委託契約に基づく未払委託料の有無及びその額
3 乙事件の請求について

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■事案の概要

『本件は,原告P1が,被告会社に対し,消費貸借契約に基づく貸金の返還を,被告P2に対し,保証契約に基づく保証債務の履行(甲事件)を求め,原告会社が,被告会社に対し,請負代金債権を原債権とする債務弁済契約(準消費貸借契約)に基づく弁済金の支払を,被告P2に対し,保証契約に基づく保証債務の履行(乙事件)をそれぞれ求めている事案である。被告らは,(1)甲事件,乙事件双方の請求に対し,被告会社のプログラム著作権の侵害による損害賠償請求を,(2)乙事件の請求に対し,被告会社の業務委託契約に基づく委託金請求権を,それぞれ自働債権とする相殺の抗弁を主張している。』(2頁)

<経緯>

H24.01 原被告会社「デジサロ」開発契約締結。原告会社が成果物を納品。
H24.03 楽天と被告会社が委任基本契約締結
       楽天が楽天サロンの運営を中止
H24.10 原被告会社がビューティーポイント共同事業業務委託契約締結
H25.01 原告P1と被告会社が200万円金銭消費貸借契約。被告P2が連帯保証
H25.03 原被告会社間で債務弁済契約締結。被告P2が連帯保証
H25.10 被告会社が原告会社、P1に相殺の意思表示
H25.11 原告会社がビューティーポイント事業を中止

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■判決内容

<争点>

1 被告会社の原告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額

被告会社は、原告の依頼を受けて制作した美容室店舗管理システム「デジサロ」(本件システム)が被告会社の著作物であることを前提として、本件システムを複製あるいは翻案したビューティーポイント事業を、原告らが被告会社の同意なく使用しているとして不法行為が成立する旨主張し、原告らの請求に対して相殺の抗弁を主張しました(13頁以下)。
裁判所は、被告会社が本件システムの開発のために原告会社以外にも880万円以上の支払を行った事実が認められることなどから、本件システムの開発の主体は被告会社であり、特段の事情のない限りその権利は被告会社に帰属すると考えられると判断。
そして、本件システムとビューティーポイントシステムとの関係については、本件証拠上明らかではないものの、ビューティーポイントシステムの開発主体は原告会社と認められるが、その開発は本件システムに機能を追加する形で行われたこと、また、原告らがビューティーポイントシステムは被告会社と原告会社との共同著作物である旨を陳述していることからすれば、ビューティーポイントシステムに関しては、被告会社の同意なしに原告会社がこれを単独で行使することはできないと解する余地があると判断しています(著作権法65条2項)。
もっとも、原告会社との共同事業としてのビューティーポイント事業から被告会社が脱退を表明した平成25年6月以降も原告会社はその営業活動を継続していたものの、原告会社が美容院等にビューティーポイントの使用を許諾して何らかの利益を得たと認めるに足る証拠はないことから、ビューティーポイントの著作権の帰属にかかわりなく原告らの共同不法行為により被告会社が何らかの損害を被ったと認めることはできないと裁判所は判断。
結論としては、被告会社が原告らに対して複製権侵害等の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとは認められず、これを理由とする相殺の主張は失当であり、原告P1の甲事件における請求には理由があることになると裁判所は判断しています。

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2 被告会社と原告会社との間の本件業務委託契約に基づく未払委託料の有無及びその額

原被告会社間でビューティーポイントの端末において視認可能な画面デザインを変更するなどの作業のために本件業務委託契約が締結され、前月の16日から当月の15日までの作業について毎月末日に99万4000円の定額の報酬を支払うという合意が成立したと裁判所は認定。
平成25年7月にソースコードに多少の変更が加えられているものの、同年6月に被告P2が共同事業からの脱退を決めた後であること、またその回数がわずかであることから、同年6月7日以降の作業については、本件業務委託契約による報酬を発生させるには足りないと判断。
そして、同年5月31日の99万4000円の前記支払は、同月15日までの被告会社の作業に対するものである以上、被告会社が同年5月20日から同年6月7日に行った作業については、本件業務委託契約に基づき1か月分の委託料請求権が発生するものというべきであり、原告会社と被告会社においてその支払が不要である旨の合意が成立したと認めるべき証拠は存在しないと判断。
結論として、被告会社は原告会社に対して6月末を支払期とする99万4000円の委託料請求権を有するというべきであると裁判所は認定しています(14頁以下)。

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3 乙事件の請求について

請負代金債権を原債権とする債務弁済契約(準消費貸借契約)に基づく弁済金の支払請求に対する相殺の抗弁について、被告会社の原告会社に対する未払委託料99万4000円の請求権は平成25年6月30日を支払日とするもので、同じく同日を支払日とする原告会社の被告会社に対する債務弁済契約に基づく338万1000円の支払請求権につき同日の経過により相殺適状となると裁判所は判断。
したがって、被告会社の原告会社に対する相殺の意思表示によって原告会社の被告会社に対する支払請求権元本は、未払委託料99万4000円を差し引いた238万7000円となると判断しています(15頁)。

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■コメント

楽天では美容室予約システムが稼働していますが(楽天サロン)、予約システムの開発、運営を担当した被告会社が関与した当初の楽天サロンは、数ヶ月で楽天が運用を中止しており、被告会社としては思うような成果が出ず、資金繰りが厳しくなり、システム開発に関わった原告会社による資金面での支援や事業化提案などがされたものの、金銭的に事業継続が困難になったという経緯があるようです。
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2014年11月17日

業務用通信カラオケ機器不正開局事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

業務用通信カラオケ機器不正開局事件

東京地裁平成26.10.23平成25(ワ)19107損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      高橋 彩

*裁判所サイト公表 2014.11.12
*キーワード:カラオケリース契約、損害額、原盤、著作隣接権、使用料相当額

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■事案

業務用通信カラオケ機器のリース事業者による不正使用における損害額の算定が争点となった事案

原告:業務用通信カラオケ機器製造販売会社
被告:通信カラオケ機器リース会社、被告会社代表者ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条3項

1 本件不正開局による損害額
2 著作隣接権侵害による損害の有無及び額
3 弁護士費用の損害額

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告株式会社ダイヤ電機(以下「被告会社」という。)とその役員であった被告A(以下「被告A」という。)及び被告B(以下「被告B」という。)に対し,被告らが,(1)原告との契約関係に基づいて飲食店等に設置すべきカラオケ機器につき正規の手続を執らずに飲食店等にカラオケ機器を利用させたことが一般不法行為に,(2)原告がレコード製作者としての権利を有する楽曲データを複製したことが著作隣接権(複製権)侵害に当たるとして,不法行為(民法709条,719条1項)に基づく損害賠償金の支払を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H14.8 原告と被告会社が通信カラオケネットワークシステム契約締結
      被告会社が株式会社ワキタからカラオケ端末を購入
      被告らが不正開局
H25.3 ワキタが損害を填補

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■判決内容

<争点>

1 本件不正開局による損害額

被告らは、原告又は株式会社ワキタから購入したカラオケ端末を利用者にリースする際に、情報利用料の支払を免れるために本来は試用のために各利用者に一度しか認められていないセットアップ開局と解除の申請を途切れることなく繰り返し、これによって情報利用料を支払わずに利用者の利用に供していました。
カラオケ端末は、正規の開局手続を行わないと新しい楽曲データの配信を受けることができないことから、被告らは繰り返し全楽曲データを複製・保存したHDDを作成し(本件複製)、このHDDを不正に利用されている各カラオケ端末のHDDと随時交換していました。
(なお、ワキタは、平成25年3月27日、原告に対して被告会社がワキタから購入したカラオケ端末の本件不正開局による損害の填補として311万2960円を支払っています。)
本件不正開局及び本件複製に関して、被告らが共同不法行為責任を負うこと自体については争いがなく、本件不正開局による損害額(不正利用期間ののべ月数に対応する情報利用料相当額)として裁判所は、合計813万5000円を認定しています(9頁以下)。

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2 著作隣接権侵害による損害の有無及び額

(1)損害の有無

被告らは、本件不正開局による逸失利益についての損害賠償請求と楽曲データの複製権侵害についての損害賠償請求は重複し同一の内容であるから両立せず、また、被告らによる本件複製は正規の開局手続を経ていれば本件契約により許諾される範囲内の行為であるから、前記1の逸失利益のほかに本件複製による損害は発生していないと主張しました(11頁以下)。
しかし、裁判所は、本件不正開局と本件複製は別の行為であり、侵害される利益(前者は契約に基づく情報利用料請求権であり、後者はレコード製作者の著作隣接権)も異なること、また、第三者にリースする際にカラオケ端末に複製をした後、更に他のHDDに全楽曲データを複製することが本件契約の許諾の範囲に含まれていないのは明らかであり、被告らの主張は本件契約の契約条項に反するものであって採用できないと判断。本件不正開局による情報利用料に係る逸失利益による損害のほか、本件複製による損害が発生したと判断しています。

(2)使用料相当額

本件複製による著作隣接権(複製権)侵害に関する損害額(使用料相当額)は、3366万3900円(1曲1回当たり4円×のべ曲数841万5975曲)であると認定されています(12頁以下)。

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3 弁護士費用の損害額

弁護士費用相当額として380万円が損害額として認定されています(14頁)。

結論として、合計4510万9438円が損害額として認められています。

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■コメント

カラオケリース料を免れようとしてリース業者がカラオケ機器に細工をしており、逮捕者も出た悪質な事案となります。
損害額としては、情報使用料のほかに、カラオケ原盤の複製部分についても多額の使用料が認定されています。
なお、JASRACプレスリリースによると、2014年現在で、カラオケリース事業者に対する本案訴訟が全国で8例あったということで、思ったよりもカラオケリース事業者による不適切な取扱い事例があることが分かりました。

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■参考サイト

JASRACプレスリリース
「違法に複製したカラオケ楽曲データを搭載した通信カラオケ機器を店舗等にリースした男性らを逮捕」
2012年5月8日

株式会社ブライナ「知財情報局」
「違法複製楽曲データ搭載の通信カラオケ機器をリース、会社代表逮捕」
2012年5月10日記事

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2014年11月13日

文具シール絵柄事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

文具シール絵柄事件

東京地裁平成26.10.30平成25(ワ)17433損害賠償等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2014.11.7
*キーワード:著作物性、複製

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■事案

文具用品であるシールの図柄の無断複製が争点になった事案

原告:文具デザイン卸販売会社
被告:文房具関連製品企画製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、114条2項

1 複製権侵害の成否
2 差止請求等の当否
3 損害論

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■事案の概要

『本件は,原告代表者から別紙原告著作物目録記載(1)〜(9)の絵柄(以下「原告著作物」と総称し,それぞれを「原告著作物(1)」などという。)の著作権の譲渡を受けた原告が,被告に対し,被告商品の製造及び販売は原告の著作権(複製権)を侵害する行為であると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき被告商品の販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,著作権(複製権)侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求める事案である。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 複製権侵害の成否

被告は、平成24年6月20日頃以降、被告著作物の絵柄のシールを含む1セット32枚のシールセットである被告商品の製造販売をしましたが、被告著作物と原告著作物の類否が争点となっています(6頁以下)。

原告著作物
(1)睡蓮
(2)ひさご
(3)金魚鉢
(4)百合
(5)招き猫
(6)雪うさぎ
(7)ぶどう
(8)千鳥
(9)撫子

被告は、原告著作物がいずれも単色の絵柄であるのに対して、被告著作物はいずれも様々な色彩のヴィベールという特殊な素材に黒箔及び金箔を使用して制作されていること、また、個別の著作物についてみると、原告著作物と被告著作物とでは表現上の特徴に大きな相違があると反論しました。
この点について、裁判所は、複製(著作権法2条1項15号)の意義について言及した上で、
「複製には,表現が完全に一致する場合に限らず,具体的な表現に多少の修正,増減等が加えられていても,表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるが,誰が作成しても似たような表現にしかならない場合や,当該思想又は感情を表現する方法が限られている場合には,同一性の認められる範囲は狭くなると解される。」
そして、
「上記の素材はそれ自体ありふれたものである上(乙7〜9,11〜45),限られたスペースに単純化して描かれることから,事柄の性質上,表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると,本件において複製権侵害(複製物に係る譲渡権侵害とみても同様である。)を認めるためには,同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。」(7頁)
と説示し、その類否について検討しています(なお、色自体は複製の成否の判断に影響しないと判断しています)。

結論としては、(2)線描のひさごの絵柄については複製性を肯定しましたが、その他は「ありふれた表現」、「酷似するものではない」などとして表現上の本質的な特徴部分での再製ではないとして複製性を否定しています。
(2)については、依拠性、過失も認定されて、複製権侵害性が肯定されています。

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2 差止請求等の当否

被告著作物(2)の絵柄のシールを含む被告製品の販売の差止め及び廃棄の主張が認められています(17頁)。

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3 損害論

販売枚数 1万0827枚
販売合計額225万4707円
製造原価 102万7656円
利益率  30%
1セット32枚のうちの1枚が侵害品

利益額67万6412円×1/32=2万1137円

結論として、2万1137円が損害額として認定されています(17頁以下)。

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■コメント

文具製品は個人的にも好きで、10代の頃から被告製品のシールやグリーティングカードを利用してきました。被告製品のイメージにも繋がるかと思われる、シートの素材感や色彩の特徴を被告は強調しましたが、裁判所はその点については類否判断の要素としては認めませんでした。

問題となったシール絵柄(別紙参照)をみてみると、モノトーンと色彩がある絵柄とでは、ずいぶんと印象が異なるものの、複数の作品を全体としてみると、原告デザインに依拠して被告はデザインをしており、個々の図柄も原告デザインの特徴を再製していると感じさせるものがいくつかあります(似せないように、左右を反転させるといった、稚拙な改変がかえって目に留まります)。
もっとも、別紙にあるように、被告は他のデザイン作品(対照図案)について詳細な調査を行っており、結果として「和物柄のデザインアイデアの盗用に過ぎない」といったレベルの裁判所の判断に落ち着いていて、被告側の訴訟対策が功を奏したとも思われます。

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2014年11月06日

統合業務管理ERPソフト事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

統合業務管理ERPソフト事件

知財高裁平成26.10.30平成26(ネ)10042著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      大寄麻代
裁判官      平田晃史

*裁判所サイト公表 2014.11.04
*キーワード:プログラム著作物、氏名表示権、同一性保持権、譲渡契約、事業提携

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■事案

契約終了後の統合業務管理ソフトの販売取扱いの有無が争点となった事案

控訴人 (一審原告):ソフトウェア開発販売会社
被控訴人(一審被告):システム開発設計販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、19条、20条

1 被控訴人による著作者人格権侵害の有無

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,「BSS−PACK」という統合業務管理パッケージのソフトウェア製品(以下「BSS−PACK製品」という。)に含まれる原判決別紙原告営業秘密プログラム目録記載1(1)ないし(7)の7本のプログラム(以下「控訴人各プログラム」という。)の著作者人格権を有するところ,被控訴人が,BSS−PACK製品について,平成18年8月2日から平成25年3月1日までの間に,同目録記載1(2)のプログラム(以下「控訴人プログラム(2)」という。)のソースコードの記述を変更し,「ISS−PACK」という名称を付し,控訴人名を表示せずに販売し,控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したとして,著作権法112条1項及び2項に基づき,(1)BSS−PACK製品につき,著作者名を「株式会社ビーエスエス」と表示すること,(2)BSS−PACK製品に,BSS−PACK以外の名称を使用しないこと,(3)控訴人プログラム(2)の記述を一切変更してはならないことを求めるとともに,(4)著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償金160万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年5月17日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
『原判決は,控訴人各プログラムが「著作物」に当たるということはできないし,仮に著作物に当たるとしても,被控訴人が平成18年8月2日以降にBSS−PACK製品をISS−PACKとの名称で販売したとは認められないから,被控訴人が控訴人の氏名表示権及び同一性保持権を侵害した事実は認められない,として控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人は,原判決中,上記(1)ないし(4)の各請求の敗訴部分を不服として,本件控訴をした(なお,控訴人は,原審においては,上記(1)ないし(4)の各請求のほか,著作権法112条1項及び2項に基づき,(5)控訴人プログラム(2)を被控訴人が変更して譲渡等している場合にはその記述を元に戻し,これを媒体に書き出して被控訴人の責任において全譲渡先に再配付すること,及び(6)同法115条に基づき,謝罪文を日本経済新聞全国版に掲載することも求めていたが,当審において,これらの請求に係る訴えを取り下げた。)。』(2頁以下)

<経緯>

H07 BSS−PACKクライアント著作権登録
H08 BSS−PACKサーバー著作権登録
H09 BSS−PACKサーバー著作権登録
H10 部品マイスター著作権登録
H11 部品ビュー著作権登録
H13 金融機関や被告を譲渡担保権者とする譲渡担保の対象として移転
H18 原告に移転
    原告が株式会社サンライズ・テクノロジーに譲渡
    被告と株式会社サンライズ・テクノロジーが業務提携
    日本電子計算株式会社が保有
H20 原告が株式会社サンライズ・テクノロジーに11億5000万円支払請求反訴提起、棄却確定

・一審原告営業秘密プログラム(控訴人各プログラム)

(1)SSDBaccs
(2)SCtsusin (ハードロックチェック機能)
(3)SCpjktsu
(4)SCbra
(5)SCUSRbra
(6)BPPRINT
(7)SDaemon

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人による著作者人格権侵害の有無

控訴人は、被控訴人が平成18年8月2日以降、BSS−PACK製品について、控訴人プログラム(2)のハードロックチェックプログラムの記述を変更し、ISS−PACKとの名称を付して控訴人名を表示せずに被控訴人製品として販売したことが、控訴人各プログラムの同一性保持権及び氏名表示権の侵害に当たると主張しました(5頁以下)。
結論としては、裁判所は、本件全証拠によっても被控訴人が平成18年8月2日以降も被控訴人製品を販売していた事実は認められないとして、同事実を前提とする被控訴人による著作者人格権侵害の主張は理由がないと判断しています。

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■コメント

原審同様、被控訴人(一審被告)による平成18年8月2日以降の製品販売の事実が認められず、原告の主張は認められていません。
原被告、そしてBSS−PACK製品の著作権の譲渡先である株式会社サンライズ・テクノロジーの三者の関係については、後掲「ソフトウェア提供パートナー契約事件」控訴審判決PDF38頁以下に詳しいですが、仮に被告による製品販売の事実が認められたとして、なおかつ7本のプログラムが著作物であり、また譲渡の対象に含まれているとした場合、原告にとって残る足掛かりは人格権となりますが、株式会社サンライズ・テクノロジーとの譲渡契約の内容や被告との従前の契約関係からすれば人格権不行使合意が推認されるところです。

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■参考判例

東京地裁平成26.3.25平成25(ワ)5210著作権侵害差止等請求事件(原審)
原審PDF

・別件訴訟
ソフトウェア提供パートナー契約事件
ソフトウェア提供パートナー契約事件(控訴審)

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■参考サイト

株式会社サンライズ・テクノロジー プレスリリース(平成18年3月28日)
中堅企業向け統合業務ERP製品『BSS-PACK』取得のお知らせ

株式会社サンライズ・テクノロジー プレスリリース(平成18年4月20日)
インターナショナル・システム・サービス株式会社との業務提携合意のお知らせ

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2014年11月05日

自炊代行サービス事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自炊代行サービス事件(控訴審)

知財高裁平成26.10.22平成25(ネ)10089著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2014.10.24
*キーワード:自炊、複製、主体、スキャン、私的使用

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■事案

自炊代行業者による出版物の電子ファイル化サービスの適法性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):自炊代行業者、代表者
被控訴人(一審原告):小説家、漫画家、漫画原作者ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項15号、21条、30条1項、112条1項

1 控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無
2 著作権法30条1項の適用の可否
3 差止めの必要性
4 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

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■事案の概要

『本件は,小説家,漫画家又は漫画原作者である被控訴人らが,控訴人ドライバレッジは,顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍について,著作権者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。),その電子ファイルを顧客に納品しているところ(以下,このようなサービスを依頼する顧客を「利用者」という場合がある。),注文を受けた書籍には,被控訴人らが著作権を有する原判決別紙作品目録1〜7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれる蓋然性が高いから,被控訴人らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,控訴人ドライバレッジに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,(2)不法行為に基づく損害賠償として,控訴人らに対し,弁護士費用相当額として被控訴人1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔控訴人ドライバレッジにつき平成24年12月2日,控訴人Xにつき同月7日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
 原判決は,控訴人ドライバレッジの行為は被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあり,著作権法30条1項の私的使用のための複製の抗弁も理由がなく,同控訴人に対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらないとして,被控訴人らの控訴人ドライバレッジに対する著作権法112条1項に基づく差止請求を認容するとともに,被控訴人らの控訴人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求を被控訴人1名につき10万円及び遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容したため,控訴人らがこれを不服として控訴したものである。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無

「スキャポン」の名称で控訴人事業者により提供されていた自炊代行サービスに関して、裁断書籍をスキャナーで読み込み電子ファイル化する行為(本件サービス)の複製行為主体性について、裁判所は、複製行為の主体とは、複製の意思をもって自ら複製行為を行う者をいうと説示した上で、控訴人事業者は、利用者と対等な契約主体であり、営利を目的とする独立した事業体として複製の意図をもって自ら複製行為を行っているとして、控訴人事業者が本件サービスにおける複製行為の主体であると認定しています。
控訴人らは、手足論などいくつかの点から反論をしていますが、結論としては、原審同様、「本件サービスにおける複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度や本件サービスの実態,私的領域が拡大した社会的状況の変化等の諸要素を総合考慮しても,控訴人ドライバレッジが本件サービスにおける複製行為の主体ではないとする控訴人らの主張は理由がない。」として、ロクラク2最高裁事件判決で示された判断基準を踏まえた上で控訴人らの主張を認めていません(25頁以下)。

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2 著作権法30条1項の適用の可否

控訴人事業者に対する30条1項の適否について、裁判所は、私的使用目的の点と使用する者による複製の点のいずれの要件も欠くとして、その適用を否定しています(32頁以下)。

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3 差止めの必要性

控訴人事業者は、今後も本件サービスにおいて原告作品をスキャナで読み取って電子ファイルを作成し、被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあるというべきであるとして、控訴人事業者に対して第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することを差し止める必要性があると裁判所は判断しています(35頁以下)。

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4 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額

控訴人事業者及びその代表者には少なくとも過失があるとした上で不法行為に基づく損害賠償請求の成立を肯定。差止請求に係る弁護士費用相当額の損害として、被控訴人1名につき10万円の損害額が認定されています。

結論として、原審の判断が維持されています。

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■コメント

一審で被告だった自炊代行業者のサンドリームは控訴審では外れています。
複製行為の主体性論などについては、後述の「企業法務戦士の雑感」さんの記事をご覧いただけたらと思います。

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■過去のブログ記事

原審記事

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■参考サイト

[企業法務][知財]これが解釈論の限界なのか?〜自炊代行訴訟・知財高裁判決への落胆と失望
企業法務戦士の雑感(2014-10-25)

控訴人事業者プレスリリース
控訴審の判決及び今後の対応についてPDF(平成26年10月22日)

MIAU Presents ネットの羅針盤 メールマガジン(有料配信)
自炊代行訴訟裁判傍聴レポート / 香月啓佑(MIAU事務局長)
【自炊代行裁判控訴審速報】MIAUメールマガジン「ネットの羅針盤」 Vol.14(2014-05-28)

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■追記(2014.11.6)

被告プレスリリース(2014.11.4)
上告のご報告
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2014年11月04日

「生命の實相」著作物利用権確認請求事件(控訴審)−著作権 著作物利用権確認請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「生命の實相」著作物利用権確認請求事件(控訴審)

知財高裁平成26.10.15平成26(ネ)10026著作物利用権確認請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2014.10.23
*キーワード:二重起訴、既判力、出版権、出版使用許諾、更新拒絶、信義則、権利濫用

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■事案

生長の家創始者谷口雅春氏(故人)の著作「生命の實相」などに関する出版使用許諾契約の更新拒絶の有効性が争点となった事案(別訴)の控訴審

控訴人(一審原告) :出版社
被控訴人(一審被告):社会事業団
被控訴人補助参加人 :出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民訴法142条、著作権法79条、63条、民法1条2項、3項

1 本件訴えの適法性
2 本件更新拒絶が手続要件を充足するものであるか否か
3 正当事由の要否
4 本件更新拒絶は信義則違反又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものか否か

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,控訴人と被控訴人との間で締結された原判決別紙書籍目録記載1ないし31の書籍(本件書籍1〜31。本件書籍1〜31を併せて本件書籍)に係る各出版使用許諾契約(本件出版使用許諾契約)の被控訴人による更新拒絶(本件更新拒絶)は,(1)本件出版使用許諾契約においては,契約の更新をしないで契約期間満了により契約を終了させるには,被控訴人の代理人である宗教法人生長の家(生長の家)を含めた文書による通告を必要とする旨約定されていたにもかかわらず,生長の家の意思に反し,被控訴人単独で行ったものであり,約定の要件を欠き無効である,(2)控訴人には本件出版使用許諾契約に基づく何らの債務不履行行為も存しないにもかかわらず,一方的にされたものであり,更新を拒絶するにつき正当な理由を欠くものとして無効である,(3)仮に,更新を拒絶するにつき正当な理由を要しないとしても,信義則に反し,あるいは,権利の濫用にわたるものとして無効であるから,本件出版使用許諾契約は自動更新されている旨主張して,被控訴人に対し,控訴人が本件出版使用許諾契約に基づく著作物利用権を有することの確認を求めた事案である。』
『原判決は,(1)本件出版使用許諾契約に係る契約書の文言上,被控訴人と生長の家との連名で更新拒絶の意思表示を行うことが要求されていると解釈することはできず,被控訴人は単独で更新拒絶の意思表示をすることができ,かつ,(2)控訴人には「初版革表紙 生命の實相 復刻版」(復刻版1)及び「初版革表紙 生命の實相第2巻「久遠の實在」復刻版」(復刻版2。復刻版1と併せて復刻版。なお,両書籍は本件書籍には含まれない。)につき,被控訴人に対する契約(本件昭和49年契約)上の印税支払債務の不履行があり,本件更新拒絶の時点において,控訴人と被控訴人との間の信頼関係は既に破壊されていたものと認められ,被控訴人による更新拒絶の意思表示は権利の濫用にわたるものとはいえないから,本件更新拒絶は有効であるとして,控訴人の請求を棄却した。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件訴えの適法性

被控訴人は、本件訴えは、控訴人が被控訴人に対して本件書籍1ないし31を含む書籍等について出版権を有することの確認を求めた前訴(前訴第3事件)と当事者及び訴訟物を同じくするものであり、重複する訴えの提起の禁止(民訴法142条)に反し不適法である旨主張しました(30頁以下)。
裁判所は、前訴第3事件において確認請求の対象とされたのは、独占的排他的な利用権であり、第三者に対しても直接差止等の請求をすることが可能な「出版権」、すなわち著作権法79条に規定される出版権であったと認定。
一方で、本件訴訟において確認請求の対象とされているのは、その請求の趣旨及び請求原因の記載によれば、著作権法63条に規定される、著作権者から著作物の利用を許諾された者の有する債権的な著作物利用権であるとして、本件訴訟における訴訟物は前訴第3事件における訴訟物とは異なるものであり、本件訴訟が前訴第3事件と重複する訴えであるとはいえず、また、前訴第1審判決の既判力が本件訴訟に及ぶこともないとして、本件訴えは適法であると判断しています。

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2 本件更新拒絶が手続要件を充足するものであるか否か

控訴人は、本件出版使用許諾契約書の約款3条の「甲(代理人を含む)」との文言は、被控訴人による更新拒絶にあっては、代理人である生長の家を関与させ、事前に生長の家と協議し、その意見を聞く必要のあることを規定したものであり、被控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、被控訴人単独ではなく、生長の家とともに意思表示をすべき義務がある。それにもかかわらず、本件更新拒絶は、被控訴人単独でされたものであるから、約款3条に定める要件を欠き、無効である旨主張しました(32頁以下)。
しかし、裁判所は、諸事情を勘案して、約款3条は被控訴人が生長の家以外の第三者に本件書籍についての著作権管理を委任しないことを約するものにすぎず、著作権者である被控訴人の著作物に対する固有の管理権について制限する趣旨までも含む規定であると解することはできないと判断。上記規定があるからといって、本件出版使用許諾契約において、更新拒絶の意思表示を行う際に被控訴人と生長の家との連名で行うことが合意されていたものと認めることはできないとして、本件更新拒絶が、これが被控訴人の単独による意思表示であるからといって無効となることはないと判断しています。

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3 正当事由の要否

控訴人は、約款3条は、自動更新を前提とした規定であって、3年間という契約期間は契約を終了するのもやむを得ないといえる事情が発生した場合に限って契約を終了させることができることを前提に定められたものと解すべきであるとして、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶する場合は、相手方当事者に重大な契約違反があるなど正当な事由を要する旨主張しました(35頁以下)。
この点について、裁判所は、その文言上は、当事者の一方が契約の更新拒絶をする際に、文書をもって通告を要することのほかは、3か月以上の予告期間を設けるのみで、更新拒絶事由を特に定めていないこと、また、本件出版使用許諾契約の内容、本件出版使用許諾契約を締結するまでに至る経緯に照らせば、控訴人と被控訴人との間において、当事者の一方が契約の更新を拒絶する点について、正当事由、すなわち、やむを得ない事由を要すると合意されていたものとは認められず、また、当事者間における合意がないにもかかわわらず、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するには正当事由を要すると解すべきであるともいえないと判断しています。

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4 本件更新拒絶は信義則違反又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものか否か

控訴人は、被控訴人による本件更新拒絶は、信義則に違反するか又は更新拒絶権の濫用にわたるものとして、無効とされるべきである旨主張しました(44頁以下)。
しかし、裁判所は、本件全証拠によっても本件更新拒絶を信義則に違反する、あるいは権利濫用にわたるものとして無効とすべき事情があるとは認められないと判断しています。

結論として、本件出版使用許諾契約は、本件更新拒絶によりいずれも終了したものと認められ、控訴人の主張は認められていません。

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■コメント

原審同様、控訴審でも原告の主張は認められていません。本判決7頁以下では、「生命の實相」を巡る紛争について、前訴の経緯(上告棄却決定等)がまとめられています。

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■過去のブログ記事

原審記事

前訴関連記事
「生命の實相」書籍著作権事件
「生命の實相」書籍著作権事件(控訴審)
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2014年10月30日

テレビ放送用フォント事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

テレビ放送用フォント事件(控訴審)

大阪高裁平成26.9.26平成25(ネ)2494損害賠償等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官      本多久美子
裁判官      高松宏之
*裁判所サイト公表 2014.10.23
*キーワード:タイプフェイス、フォント、使用許諾契約、一般不法行為論、不当利得

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■事案

テレビ放送用のタイプフェイス(ディスプレイフォント)の法的保護のあり方が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審原告):フォントベンダー
被控訴人(一審被告):テレビ放送会社、映像制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法709条、703条

1 本件フォントの保護について
2 被控訴人らによるライセンスビジネス上の利益の侵害性
3 被控訴人らによる不法行為の成否
4 不当利得の成否

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■事案の概要

『本件は,フォントベンダーである控訴人が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,控訴人が使用を許諾した事実がないのに,(1)被控訴人テレビ朝日において,(ア)前記フォントを画面上のテロップに使用した原判決別紙「番組目録」及び同「追加5番組目録」記載の番組を制作・放送し,(イ)同「配給目録」及び同「追加5番組配給目録」記載のとおり配給し,(ウ)同「番組目録」記載の番組を収録した同「DVD目録」記載のDVD及び同「追加5番組目録」記載の番組を収録した同「追加DVD目録」記載のDVDを販売し,(2)被控訴人IMAGICAにおいて,前記フォントを使用して原判決別紙「番組目録」記載の番組の編集を行ったと主張し,これら行為は,(a)主位的に,故意又は過失によりフォントという控訴人の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害した共同不法行為を構成する,(b)予備的に,控訴人の損失において法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであり不当利得を構成するとして,被控訴人らに対し,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,以下の使用料相当額の金員及び各行為後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件フォントの保護について

テレビ放送等で使用することを目的に製作されたディスプレイフォントの法的保護について、裁判所は、
「現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法,意匠法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を設定し,その権利の保護を図っており,一定の場合には不正競争防止法によって保護されることもあるが,その反面として,その使用権の付与等が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,ある創作されたデザインが,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該デザインを独占的に利用する権利は法的保護の対象とならず,当該デザインの利用行為は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」(31頁以下)

と説示し、ギャロップレーサー事件、北朝鮮映画事件に関する最高裁判決を挙げた上で、本件については、

「控訴人は,本件フォントは知的財産であり,法律上保護される利益(民法709条)であると主張している。ここで控訴人が主張する法的利益の内容・実体は必ずしも明らかでないが,不法行為に関する控訴人の主張からすると,他人が本件フォントを無断で使用すれば,本件フォントの法的利益を侵害するものとして直ちに違法行為となり,無断使用について故意又は過失があれば不法行為を構成するという趣旨であると解される。しかし,この主張は,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ本件フォントが多大な努力と費用の下に創作されたものであったとしても,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえず,前記のとおり法的保護の対象とはならないと解される。」(32頁)

として、著作権法や意匠法で保護の対象とならない本件フォントの法的保護を原則として否定しています。

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2 被控訴人らによるライセンスビジネス上の利益の侵害性

控訴人はまた、ライセンスビジネス上の利益も本件での法律上保護される利益(民法709条)に当たると主張しましたが、この点について、裁判所は、

「(控訴人主張の)この趣旨は,控訴人が本件フォントを販売・使用許諾することにより行う営業が被控訴人らによって妨害され,その営業上の利益が侵害されたという趣旨であると解される。そして,その趣旨であれば,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。」

「もっとも,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が侵害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく,他人の行為が,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。」

として、ライセンスビジネス上の利益は法律上保護される利益には直ちに当たらないと説示しています(33頁以下)。

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3 被控訴人らによる不法行為の成否

(1)テレビ放送会社の不法行為の成否

まず、テレビ放送会社の不法行為の成否について、裁判所は、

・フォントを開発して販売又は使用許諾をするという営業活動は広く商社会において受け入れられており、その営業上の利益もフォントが著作物等に該当しないといったことのみをもって要保護性を欠くなどということはできない。
・もっとも、フォントの商用使用に個別に使用料の支払を要するという控訴人のような営業方針が、商慣習になっているとか社会的規範を形成するに至っているとまで認めることはできない。
・控訴人らのフォントについては、トラブルを避けるために自ら契約しないようにするという方針を採ってきている。
・テレビ放送会社は、本件番組のテロップ作成をP1社等のテロップ製作会社に委託し、その成果物の納付を受けて番組を編集したにとどまっており、自ら本件フォントソフトを使用してテロップを作成したとは認められない。
・番組制作会社のAが本件フォントソフトを購入した際も、番組には使用していない。
・社員のEが本件フォントソフトを購入し、番組使用の使用許諾を申し込んだときも、番組制作会社を契約者とし、その制作会社において使用許諾を得た上で番組に使用している。

等といった諸事情から、被控訴人テレビ放送会社は、本件フォントに係る控訴人の営業活動と衝突する事態を回避するという方針を採ってきたということができると認定。
本件番組についても、製作されたテロップ中に本件フォントが使用されていると認識しながらあえてそのようなテロップを使用し続けたとも認められないなどとして、テレビ放送会社がテロップに本件フォントを使用した本件番組を制作、放送、配信し、また、DVDを製作、販売した行為が、自由競争の範囲を逸脱し、営業の自由を濫用したものであると認めることはできないとして、不法行為は成立しないと判断しています(34頁以下)。

(2)映像制作会社の不法行為の成否

次に、被控訴人映像制作会社が本件各番組1のテロップの編集を行った行為に関する不法行為の成否について、裁判所は、

・被控訴人テレビ放送会社がテロップ作成業者に発注して納付を受けたテロップの画像データに基づき、本件編集室で編集機器を操作して映像素材にテロップを挿入したにとどまる。
・本件DVDの製作については全く関与していない。
・持ち込まれたテロップ画像データ中で使用されたフォントが本件フォントであり、控訴人の許諾を得ずに使用されたと認識していたとは認められず、そのことを疑うべき特段の事情があったとも認められない。
・控訴人から本件フォントの無断使用の指摘を受けると、社内調査を実施し、インストールされていた本件フォントソフトを削除した。

といった点などから、被控訴人映像制作会社は、自由競争の範囲を逸脱し、営業の自由を濫用したものということはできないと判断。不法行為の成立を否定しています(41頁以下)。

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4 不当利得の成否

控訴人は、被控訴人らが控訴人に無断で本件フォントを本件番組の制作・放送・配給及び本件DVDの製作・販売等に使用したことが、控訴人に対する不当利得を構成すると主張しました(42頁)。
しかし、裁判所は、

「このように本件フォントを無断使用したことが直ちに不当利得を構成するとした場合には,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいことは,先に不法行為について述べたところと同様である。そして,そのような利益は法的保護の対象とはならないことからすると,被控訴人らが本件フォントを本件番組に使用したからといって,直ちにその使用行為が法律上の原因を欠き,被控訴人らが利得を得,控訴人が損失を受けたということはできない」

などとして、不当利得の成立を否定しています。

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■コメント

一審同様、フォントベンダーである原告の主張は認められていません。
テレビ番組のテロップ製作ついてテロップ製作会社への外注が常態化しているなかで、テレビ局はフォント成果物の使用者にすぎない訳ですが、テレビ局において厳密なフォント管理ができない以上、よりよい番組製作、フォント文化を育むといった大きな視点から、テレビ局には柔軟な対応が求められるという印象です。

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■過去のブログ記事

テレビ放送用フォント事件(原審)

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■参考サイト

視覚デザイン研究所 TVリースフォント

[企業法務][知財]久々に垣間見た「大阪」の意地〜ディスプレイフォント事件控訴審判決が示した創作者救済の道筋
企業法務戦士の雑感(2014-10-28)
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2014年10月27日

リフォーム工事写真事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

リフォーム工事写真事件

大阪地裁平成26.10.21平成25(ワ)6295著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      田原美奈子
裁判官      松阿彌隆

*裁判所サイト公表 2014.10.23
*キーワード:雇用、委託、競業避止義務、職務著作、代理店契約

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■事案

営業代理店が撮影したリフォーム工事施工状況の写真の著作権の帰属などが争われた事案

原告:ソーラーシステム販売会社
被告:リフォーム工事業者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項

1 被告が雇用契約上の競業避止義務違反による損害賠償義務を負うか
2 本件写真について原告が著作権を取得したか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告は原告の従業員であったと主張して,(1)雇用契約上の競業避止義務違反に基づく損害賠償請求として,被告が第三者から受注した建築関係工事の報酬相当額の支払を求め,(2)被告が自己のウェブサイトにおいて使用する写真について,原告が著作権を有するとして,その使用の差止め等を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H16.12 被告が会社設立
H18.4  被告の会社と原告が本件業務委託契約締結
H18.7  本件業務委託契約の内容を変更
H19.3  歩合の変更
H22.8  被告が案件2を工事
H23.9  原告がP5宅のリフォーム工事。被告が仕上がりを撮影
H24.4  被告が案件1の工事を受注

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■判決内容

<争点>

1 被告が雇用契約上の競業避止義務違反による損害賠償義務を負うか

原告と被告が設立した会社との間の業務委託契約について、原告が太陽熱温水器のアフターメンテナンスの顧客を一定数紹介し、被告の会社が原告より紹介を受けた顧客からの利益の一部を原告に配分すること等を内容とする契約でした。その後契約内容を変更しましたが(本件合意)、裁判所は、いずれも法人である原告と被告の会社との間の業務委託契約であり、これにより原被告間に雇用契約が成立するとは解し得ないものであると判断。また、被告の会社において原告が紹介した案件以外にも工事等を受注する場合のあることが予定されていたというべきであると認定。
その上で、被告が雇用契約上の競業避止義務違反による損害賠償義務を負うかについて、本件合意には、被告及びP2が原告の従業員として営業活動に就労する旨の記載があり、給与体制、基本給といった文言が使用されてはいるものの、派遣元となる被告の会社の代表者として原告方で就労していたにすぎず、就労先と雇用関係があるとはいえないこと、また、支払いについても、被告らの営業活動による利益に応じた配当手当のみが支給されるといった点から、雇用契約に基づく給与の支払と評価することはできないと裁判所は判断。
原被告間に競業避止義務を伴う雇用契約が成立したとの前提自体が認められないとして、雇用契約上の競業避止義務違反を理由とする原告の請求は認められていません(12頁以下)。

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2 本件写真について原告が著作権を取得したか

被告が原告の施行した現場においてリフォーム工事の仕上がりを撮影し、本件写真を被告が運営するウェブサイト上で無断使用することは、本件写真についての原告の公衆送信権(著作権法15条1項、23条1項)を侵害するものであると主張しました(14頁)。
この点について、裁判所は、

(1)本件写真を撮影したのは被告である
(2)その撮影は被告の施工した部分を記録に残したいという被告自身の発意に基づくものである
(3)住宅所有者の家人の了解を得て行われている
(4)当該写真の撮影についての原告からの個別の指示等はなかった
(5)原告において受注した物件の工事概要等について、組織的、体系的に写真を撮影し、これを管理していた等の事情が認められない

といった点から、職務著作(15条1項)の成立を否定、原告が著作権者であることを前提とする差止請求及び損害賠償請求は、いずれも理由がないと判断しています。

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■コメント

リフォーム工事施行の代理店契約に関連する紛争となります。中心となる論点は競業制限の範囲であり代理店契約内容の解釈となります。リフォーム工事の施行状況の撮影といった点も、本来であれば、代理店契約の際の取決め内容如何かと思われます。

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2014年10月17日

Eラーニング著作物制作業務委託契約違反事件−著作権 使用許諾料請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

Eラーニング著作物制作業務委託契約違反事件

東京地裁平成26.9.30平成25(ワ)14689使用許諾料請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      藤田 壮
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.10.16
*キーワード:Eラーニング、高校入試問題、使用許諾契約、相殺、訴権の濫用

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■事案

学習支援コンテンツ配信サービスにおいて第三者の編集物を配信したことから、契約違反の事後処理として相殺の範囲が争点となった事案

原告:図書教材制作販売会社
被告:教育ソフト開発販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法505条

1 本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の成否
2 本訴の提起に係る不法行為に基づく損害賠償債権の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間の問題集等の使用許諾契約に基づき,未払使用許諾料の支払を求める事案である。被告は,請求原因事実を全て認め,被告の原告に対する損害賠償債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張して,原告の請求を争っている。』(2頁)

<経緯>

H17.11 原被告間でEラーニング使用許諾契約締結
       原被告間で高校入試問題編集業務委託契約締結
H23.10 被告が訴外アート工房から著作権侵害の指摘を受ける
H24.9  被告がアート工房と電子出版契約締結
H24.10 被告が原告に対して相殺の意思表示

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■判決内容

<争点>

1 本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の成否

(1)債務不履行の成否

原告と被告は、平成17年11月1日に原告が平成15年度以降の全国公立高等学校入試問題の問題及び解答を編集してWordに入力し、Word及びPDFデータとして納品する業務委託契約(本件契約)を締結しましたが、納品物の大部分が訴外アート工房の製品である問題集のデッドコピーでした。
裁判所は、原告が全国公立高校入試問題の問題及び解答、解説を編集してデータ化したとはいえないとして、本件納品物は債務の本旨に従った履行とはいえないと判断。原告は、被告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負うと認定しています(7頁以下)。

(2)損害額について(8頁)

(ア)利用許諾料 582万7500円

被告がアート工房に対して支払った本件問題集の平成17年版から平成22年版までの利用許諾料合計金額全額が損害額として認定されています。

(イ)弁護士費用 52万5000円

アート工房との契約交渉等に係る弁護士費用相当額が損害額として認定されています。

合計 635万2500円

(3)相殺

被告は、原告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権635万2500円を有しており、これを自働債権とする相殺によって同額の教材使用許諾料債権が消滅したと裁判所は認定しています(9頁)。

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2 本訴の提起に係る不法行為に基づく損害賠償債権の成否

被告は、相殺の抗弁に理由があることは明らかであって、原告の主張は事実に反するのみならず、背信的なものと言わざるを得ないとして、原告による本訴の提起は訴権を濫用した不法行為に該当すると主張。少なくとも訴額の10%に当たる63万5250円が不法行為と相当因果関係のある弁護士費用となるとして、被告は、原告に対して本訴の提起に係る不法行為に基づいて63万5250円の損害賠償債権を有すると主張しましたが、裁判所は、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債権の損害額については、原告がこれを争うことに一応の合理性がある点などを踏まえ、本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまではいえないとして、原告の主張を認めていません(9頁以下)。

結論として、原告が被告に対して有するの教材使用許諾料698万7750円のうち、被告が原告に対して有する債務不履行に基づく損害賠償債権635万2500円を対当額で相殺した残額の63万5250円についてのみ、請求が認められています。

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■コメント

小中学校や自治体施設向けの学習支援コンテンツ配信サービスで、コンテンツとして配信される高校入試問題と解答、解説が第三者の編集物であったことから、権利クリアランスのための事後処理が必要となり、許諾料請求と損害賠償請求での相殺額の範囲が争点となった事案となります。
6年にも亘って第三者の著作物を無断流用していたというのも驚きですが、不誠実な取引先が訴訟提起したことに対して、訴権の濫用という反論をするキモチも分からないではないところです。
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2014年10月14日

「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」出版契約事件−著作権 出版差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」出版契約事件

東京地裁平成26.9.12平成24(ワ)29975等出版差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      実本 滋
裁判官      足立拓人

*裁判所サイト公表 2014.10.7
*キーワード:出版契約、表見代理、確認の利益、職務著作、複製権、同一性保持権、氏名表示権、名誉声望権、一身専属性、名誉権

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■事案

社内手続に違反して締結された出版契約の有効性などが争点となった事案

原告:新聞社(東京本社)
被告:出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法15条1項、20条、21条、113条6項、59条、民法109条、110条、112条

1 確認の利益の有無
2 原告は原書籍1及び2につき著作権を有するか
3 本件出版契約の有効性
4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無
5 名誉権侵害の有無
6 差止めの必要性
7 損害の有無及びその額
8 本件著作物に関する被告の出版権の有無

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■事案の概要

『本件のうちA事件は,原告が,被告に対し,被告が行う本件書籍の発売等頒布は,原書籍1及び2について原告が有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等),さらに原告の名誉権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び名誉権に基づき本件書籍の発売等頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金688万円及びこれに対する平成24年11月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,B事件は,原告が,原告と被告との間において,本件著作物に関する出版権が被告に存在しないことの確認を求めた事案である。』(6頁)

<経緯>

H10.9 原書籍1刊行(単行本)
H12.10原書籍2刊行(文庫本)
H14.7 原告グループ再編
H22.12被告が原告に復刻許諾の申入れ
H23.5 原告社会部次長Fと被告の間で復刻版の出版契約
H23.12原告が出版契約解除の申入れ
H24.4 原告がB事件提訴
H24.5 被告が復刻版刊行、原告が仮処分申立
H24.11Cが記者会見

別紙出版物目録(本件書籍):
題名  「会長はなぜ自殺したか−金融腐敗=呪縛の検証」
著者  読売社会部C班
発行所 被告(株式会社七つ森書館)

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■判決内容

<争点>

1 確認の利益の有無

原告と被告との間において、別紙著作物目録記載の著作物に関する出版権が被告に存在しないことを確認することを内容とする請求(B事件)に関して、被告は、A事件のように出版等の差止請求をするほかに有効適切な方法はなく、確認の利益がないと反論しました(23頁以下)。

この点について、裁判所は、確認の利益について、「確定判決の既判力は,訴訟物として主張された法律関係の存否に関する判断の結論そのものについて及ぶだけで,その前提である法律関係の存否にまで及ぶものではなく,当事者間において現に当該法律関係の存否を争い即時確定の利益が認められる限り,確認の利益があるものと認めるのが相当である(昭和33年3月25日第三小法廷判決・民集12巻4号589頁参照)。」と言及した上で、
本件について、仮に出版契約が有効であるとすると、原告は少なくとも平成27年5月31日まで本件著作物の全部又は一部を転載した書籍や本件著作物と明らかに類似すると認められる内容の書籍、さらには本件著作物と同一書名の書籍を自ら出版することはもとより、第三者をして出版させることも許されないことになるという、現在の権利又は法律関係に関する不安が存することとなるが、原告はA事件において本件出版契約が無効であることを前提に本件書籍の発売等頒布の差止めを請求しているものの、仮に審理の結果、本件出版契約が無効であることを理由として本件書籍の発売等頒布の差止めが認められたとしても、出版契約が無効であるとの判断には既判力は及ばず、それとは別途に本件出版契約の無効そのものが確認されない限り原告の上記現在の権利又は法律関係に関する不安は除去されないから、原告が原告と被告との間において被告が本件著作物に関する出版権を有しないことを確認する旨の確認判決を得ることには、即時確定の利益があるというべきであると判断。
B事件における原告の請求には、確認の利益があると認められるのが相当であると認定しています。

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2 原告は原書籍1及び2につき著作権を有するか

原書籍1及び2の著作権の帰属について、被告は執筆した記者9名に帰属していると主張しました。
この点について、裁判所は、著作権法15条1項に基づき、原書籍1及び2の著作者は、読売新聞社であると認められ、同社が原書籍1及び2の著作権を有していた(17条)と認めるのが相当であると判断。
その後、同社が読売新聞グループ本社とその子会社である原告とに会社分割された際、原告が読売新聞社の著作者たる地位を包括承継したものと認められるとして、原告は原書籍1及び2につき著作権を有すると認められるとしています(24頁以下)。

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3 本件出版契約の有効性

本件出版契約は、当時社会部次長であったFが署名捺印していましたが、Fが実際に直属の上司である社会部長やその他の上司の了解をとったり、原告における法務部等の原書籍 1 及び2の著作権に関して所管する部門と協議を行ったりといった行動をとった具体的な形跡は何ら認められず、原告がFに本件出版契約の締結について、原告を代理する権限を授与したとは認めるに足りず、本件全証拠を精査しても原告がFに上記権限を授与したことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないと裁判所は判断。
本件出版契約が原告と被告との間で成立したことを認めることはできないと認定しています(34頁以下)。
なお、被告は表見代理(民法109条、110条、112条)の成立を主張しましたが、裁判所は認めていません(42頁以下)。
結論として、被告が本件書籍を製本し、これを発売等頒布した行為は、原告の有する著作権(複製権、譲渡権、翻案権)を侵害する行為に該当すると判断されています。

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4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無

(1)同一性保持権侵害性

本件書籍は、その本文が原書籍1及び2のものと同一であり、さらに、原書籍1の「あとがき」と原書籍2の「文庫化にあたっての付記」の部分にCが執筆した「本シリーズにあたってのあとがき」(本件あとがき)が追記されたこと、また、本件あとがきは、本件書籍の記述部分全285頁のうちの8頁にわたる記述であるといった体裁のものでした。
裁判所は、上記記述の内容は、本件書籍の本文の内容とは全く関係のないCの読売巨人軍における役職解任に関する記載であり、その記載内容からすれば、原告の意に反していることは明らかであること、また、本文と密接な関係を有するあとがきという文章の性質に鑑みれば、これを本文と一体のものと考えるべきであることから、原書籍1及び2に本件あとがきを原告に無断で追加した本件書籍を製本した被告の行為は、原告の意に反する原書籍1及び2の改変に当たるというべきであると判断。
上記被告の行為は、原書籍1及び2について原告が保有する同一性保持権の侵害行為に該当すると認めるのが相当であると認定しています(43頁以下)。

(2)氏名表示権侵害性

原告は、原書籍1及び2の出版に当たって、その著作者名を「読売新聞社会部」とすることに決定して表示していたところ、本件書籍にあっては、原書籍1及び2の復刻版であるにもかかわらず、その著者名を原書籍 1 及び2のように「読売新聞社会部」とはせず、「読売社会部C班」とするものであること、原告は、本件書籍の著者名を「読売社会部C班」とすることに強く異議を述べていることが認められるとして、著者名を「読売社会部C班」として本件書籍を発売等頒布した被告の行為は、著作者である原告が決定した著作者名の表示を原告の意に反して改変した上、これを公衆へ提供したものと認められるとして、被告の上記行為は原書籍1及び2について原告が保有する氏名表示権の侵害行為に該当すると認めるのが相当であると裁判所は判断しています(44頁)。

(3)名誉・声望権侵害侵害性

著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)該当性について、裁判所は、本件あとがきにはCが読売新聞グループ本社代表取締役会長を名指しで批判する部分が含まれているものの、その内容は原書籍1及び2の著作物とは何ら関係のない事実に対する批判であって、本件書籍は、本文のほか原書籍1及び2にそれぞれ付加されていた「あとがき」及び「文庫化にあたっての付記」も忠実に再現していることからしても、原書籍1及び2の著作者の創作意図や著作物の芸術的価値を害するものではないとして、被告が本件書籍を発売等頒布した行為は、原告の名誉又は声望を害する方法による原書籍1及び2の利用行為には当たらないと認めるのが相当であると判断しています(45頁以下)。

なお、原告が会社分割に際して読売新聞社から原書籍1及び2に係る著作財産権を承継している点について、著作者人格権の一身専属性(59条)は、会社等の法人については、合併・分割を経ても同一性を失うことなく存続していると評価できる場合には、当該法人は著作者たる地位を失わないと解するのが相当であると裁判所は説示。
本件では、原告は、旧商法373条の新設分割による設立会社であり、同法374条の10第1項により読売新聞社の権利義務を承継しており、当該承継は、当該権利に関する読売新聞社の地位を承継する包括承継と解され、原告が原書籍1及び2に関する著作者人格権をも承継したものと認められると判断しています(46頁以下)。

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5 名誉権侵害の有無

原告は、本件書籍の内容が、利益供与・接待汚職事件の事件関係者のプライバシーを侵害するものであることから、一般読者は原告が報道機関であるにもかかわらずプライバシーを侵害する書籍を著作する会社であるとの印象を持つことになり、そうすると、原告の社会的評価は著しく低下することになるのであって、被告による本件書籍の発売等頒布は、原告の名誉を毀損するものであると主張しましたが、裁判所は原告の主張を認めていません(47頁以下)。

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6 差止めの必要性

本件の口頭弁論終結時において、本件書籍の発売等頒布が再開されるおそれが存在するというべきであるとして、本件書籍の発売等頒布に係る差止請求について、それを認める必要性があると認められています(48頁)。

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7 損害の有無及びその額

被告は、原告からFへの本件出版契約の契約締結に係る代理権授与の有無について何らの調査確認もせず、一方的に本件書籍の発売等頒布に踏み切ったことが認められるとして、被告には過失があると裁判所は認定。その上で損害額を以下のように認定しています(48頁以下)。

(1)著作権(複製権、譲渡権及び翻案権)侵害に係る損害(114条2項)

 2100円(販売価格)×2000部×30%(利益率)=126万円

(2)著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に係る損害

 慰謝料 30万円

(3)弁護士費用相当損害 15万円

 合計損害賠償金171万円

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8 本件著作物に関する被告の出版権の有無

本件出版契約は、Fの無権代理行為によるものとして無効であり、表見代理が成立する余地もないとして、裁判所は、被告には本件著作物に関する出版権が存在しないものと認められると判断しています(51頁)。

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■コメント

読売新聞グループ会長渡邉恒雄氏と読売巨人軍代表(当時)の清武英利氏(本件のC)のいざこざは、一時ワイドショーでも話題となっていましたが、清武氏が読売新聞社会部次長当時、記者らと金融汚職事件などに関して取材し出版された書籍の復刻版刊行についても「待った」がかかった事案となります。
このいざこざの件をまったく関わりのない事件のドキュメント復刻版のあとがきに新聞社に無断で追加したとなれば、新聞社としても黙ってはいられないところでしょう。新聞社内での軋轢も相当なものだと想像されます。
また、被告出版社としても、あとがきに含まれる内容の経緯を十分踏まえており、出版が困難である状況を認識し得たでしょうから、判決の結果については仕方がないところです。

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■参考サイト

七つ森書館 | 会長はなぜ自殺したか

読売、清武潰しの実態?損害賠償1億請求、出版妨害、社員尾行疑惑?| ビジネスジャーナル(2013.02.25)

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2014年10月10日

KPIマネジメントツールテンプレート制作業務委託契約事件−著作権 著作権に基づく差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

KPIマネジメントツールテンプレート制作業務委託契約事件

東京地裁平成26.9.30平成24(ワ)24628著作権に基づく差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.10.7
*キーワード:データベース、著作物性、複製権、ロイヤリティ、インセンティブ

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■事案

KPIマネジメントツール(経営可視化支援ソリューション)用のテンプレート制作契約を巡ってロイヤリティ未払い分の有無などが争われた事案

原告:公認会計士
被告:ソフト制作販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10の3号、21条

1 本件テンプレートがデータベースの著作物であるか否か
2 被告が本件書面に係る原告の著作権を侵害したか否か
3 被告にロイヤリティ及びインセンティブの未払があるか否か

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■事案の概要

『原告の請求は,被告が被告製品を販売しながら,本件委託契約に基づく本件テンプレートの販売実績の報告及び本件インセンティブ契約に基づくQPR製品のインセンティブの通知をしなかったとして,(1)著作権(複製権ないしは翻案権)に基づき,被告製品の販売,頒布,広告及び展示の差止めを求めるとともに,(2)著作権侵害による実施料相当額の損害4500万円又は本件委託契約の債務不履行による未払のロイヤリティ相当額の損害3645万2578円,これが認められないときは同額の利得及び本件インセンティブ契約の債務不履行による未払のインセンティブ相当額の損害2641万0399円,これが認められないときは同額の利得の合計7141万0399円又は6286万2977円のうち1000万円(前者と後者との金額の比率は4500万対2641万0399である。)並びにこれに対する不法行為の後であり,支払催告の後である平成24年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。』(5頁以下)

<経緯>

H18.4 原被告間で業務委託契約(本件委託契約)締結
H18.7 原被告間で販売インセンティブ基本契約締結
      被告がソフト「QPR J−SOX」を販売
H22.9 原告が未払い分の支払い請求
H24.2 原告が未払い分の支払い請求、被告が契約解除の意思表示

被告製品名 「日本版SOX法対応ソリューション」又は「QPR J−SOX」

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■判決内容

<争点>

1 本件テンプレートがデータベースの著作物であるか否か

原告が業務委託契約に基づき作成した本件テンプレートは、「販売,購買,在庫,会計及び現金出納の5つの主要プロセスについて,サブプロセスを含めると82の標準的な業務フローが登録されており,各プロセスには関連する勘定科目が定義され,364個の標準的,典型的なリスクがアサーションの定義とともに登録されていて,被告製品を購入したユーザーがこれをサンプルテンプレートとして利用することで必要な情報をデータベースに随時登録し,プロセス記述書,RCM等として引き出すことにより,内部統制に関する情報を容易に利用することが可能となるもの」といった仕様のものでした(11頁以下)。
しかし、裁判所は、本件テンプレートの実体や存在形式が判然とせず、具体的にどのような情報がいかなる体系で構成されているかについてその詳細が判然としないとして、仮に本件テンプレートがデータベースに該当するものであるとしても、その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものであるとは認め難いと判断しています。

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2 被告が本件書面に係る原告の著作権を侵害したか否か

ソフト本体を日本版SOX法(金融商品取引法24条の4の4等)に適応させるため、原告は本件委託契約に基づいて「標準テンプレートおよび文書化モデルサンプル」と題する書面(本件書面)を作成しました。
原告は、被告が被告製品のパンフレットに原告の本件書面及び本件テンプレートを掲載しており、原告の複製権ないし翻案権を侵害していると主張しました。
この点について、裁判所は本件書面と本件パンフレットに掲載された被告製品の画面の表示、業務フローを示したフローチャート、業務処理の名称に符号を付したもの、あるいは短文といったものは、いずれも創作性のある表現ではないとして、著作権侵害性を否定しています(12頁以下)。

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3 被告にロイヤリティ及びインセンティブの未払があるか否か

被告が原告に報告していない被告製品の販売分があるとは認められないと認定されており、裁判所は、ロイヤリティ未払い分の存在を認めていません。また、インセンティブについても未払い分があることを認めていません(14頁以下)。

結論として、原告の請求は認められていません。

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■コメント

KPIマネジメントツール(経営可視化支援ソリューション)用のテンプレートについて、外注により制作した場合の販売ロイヤリティーと追加ライセンス分のインセンティブの支払い状況について、テンプレート制作者と発注者の間で認識に齟齬が生じた事案となります。
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2014年09月22日

「巻くだけダイエット」書籍事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「巻くだけダイエット」書籍事件

東京地裁平成26.8.29平成25(ワ)28859著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2014.9.17
*キーワード:書籍、類否、複製、翻案、題号、商品等表示性

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■事案

ゴムバンドを使用したダイエット法に関する書籍の類否が争点となった事案

原告:カイロプラクター
被告:鍼灸院院長、出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、不正競争防止法2条1項1号、2号

1 著作権・著作者人格権侵害の成否
2 不正競争の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告A鬚著作し,被告会社が出版する被告書籍の発行は,原告の著作した別紙原告著作物目録記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害し,又は不正競争防止法2条1項1号若しくは2号の不正競争に当たると主張して,被告らに対し,(1)原告書籍に係る複製権,翻案権,同一性保持権又は氏名表示権(著作権法21条,27条,20条1項,19条1項,112条1項)に基づき,被告書籍の複製及び頒布の差止め,(2)不正競争防止法2条1項1号,2号,3条1項に基づき,被告書籍の製造,販売,販売のための展示の差止め,(3)著作権法112条2項又は不正競争防止法3条2項に基づき,被告書籍の廃棄,(4)民法709条,719条,著作権法114条1項,不正競争防止法4条,5条1項に基づき,損害賠償金4546万8122円及びこれに対する不法行為開始後の日である平成22年4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,それぞれ求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H21.6 原告が書籍「バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット」(幻冬舎)出版
H21.12被告A鬚被告会社から被告書籍1「巻くだけでやせる! 1日1分から1本のバンドですっきりスリム」出版
H22.3 原告が「スーパーChihiroバンド 巻くだけダイエット」出版
      被告A鬚被告会社から被告書籍2「腰痛・肩こり・ひざ痛 巻くだけで痛みをとる!−バンド1本でスッキリ解消」出版

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■判決内容

<争点>

1 著作権・著作者人格権侵害の成否

裁判所は、複製権、翻案権侵害性について、江差追分事件最高裁判決(平成13年6月28日)に言及した上で、原告が原告書籍と被告書籍とで同一性を有すると主張する部分(侵害を主張する部分)が表現上の創作性がある部分といえるかどうか、創作性のある部分について被告書籍から原告書籍の本質的特徴を直接感得できるどうかに関して検討を加えています(21頁以下)。

(1)表紙画像

■両書籍の類似点(被告書籍1について)

・上半身裸で下半身に白色の着衣をつけた女性モデルが写っている
・女性がピンク色のバンドを斜めに巻き付けている
・背景が白色である
・題号の主要部分を黒色の文字で二段に表示している

■両書籍の相違点(被告書籍1について)

・原告書籍では女性の首から上は写っていないのに対して被告書籍1では女性の鼻から下の部分が写っている
・原告書籍では女性は原告バンドを向かって左上から右下に向けて巻き付けさらに腰部でX字状に巻き付け、左上は画面外に消えているのに対して被告書籍1では女性は被告バンドを向かって右上から左下に向けて巻き付け、右上は右肩から前方に回され、左下は画面外に消えている
・原告書籍の題号の主要部「巻くだけ/ダイエット」(斜線は改行を示す。以下同じ)は書籍の左右寸法一杯に文字を配置しているのに対して被告書籍1の題号の主要部「巻くだけで/やせる!」は左側に寄せ、右側に余白を残している

上記のような相違点を踏まえ、仮に原告が原告書籍の表紙画像や写真について著作権を有していたとしても、原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像が表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。また、被告書籍1の表紙画像からは原告書籍の表紙画像の本質的特徴を直接感得することもできないと裁判所は判断しています(21頁以下)。
さらに、被告書籍2についても同様の判断をしています(22頁)。

(2)付録のゴムバンドの巻き方

原告書籍と被告書籍は、ゴムバンドの巻き方において共通する部分があるが、その具体的な記述文言は異なっている(23頁)。

(3)エクササイズの方法

原告書籍と被告書籍は、エクササイズ方法において共通する部分があるが、その具体的な記述文言は異なっている(23頁)。

結論として、原告書籍と被告書籍は、表現上の創作性ある部分において共通しているとはいえないとして、被告書籍を作成することは、原告書籍の複製とも翻案ともいえず、原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するとはいえないと判断されています。

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2 不正競争の成否

(1)「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(2条1項2号)

書籍の題号の商品等表示性について、裁判所は、『書籍の題号は,普通は,出所の識別表示として用いられるものではなく,その書籍の内容を表示するものとして用いられるものである。そして,需要者も,普通の場合は,書籍の題号を,その書籍の内容を表示するものとして認識するが,出所の識別表示としては認識しないものと解される。
 もっとも,書籍の題号として用いられている表示であっても,使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品又は営業であることを認識することができるような自他識別力又は出所識別機能を備えるに至ったと認められるような特段の事情がある場合については,商品等表示性を認めることができることもあり得ると解される(大阪高裁平成20年(ネ)第1700号・同年10月8日判決[「時効の管理」事件]参照)。』と言及。
その上で、原告による「巻くだけダイエット」の使用については、原告書籍の題号に接した需要者において、「巻くだけダイエット」という表示は、バンドを「巻くだけ」の「ダイエット」であるという原告書籍の内容を表現したものと認識するにすぎず、本件において、それ以上に同表示を原告を示す商品等表示と認識するものと認めるべき特段の事情があるということはできないと判断。結論として、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したものとは認められていません(24頁以下)。

(2)「巻くだけダイエット」の混同惹起行為(2条1項1号)

裁判所は、「巻くだけダイエット」という表示が、自他識別力又は出所識別機能を有する原告の商品等表示であるとは認められないこと、また、原告が主張するところの「巻くだけダイエット」との表示と「巻くだけでやせる」との表示の類似性を認める余地がないことも明らかであるとして、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したものとは認められないと判断しています(27頁)。

(3)折り畳んだバンドを添付する形態の商品等表示性(2条1項1号、2号)

折り畳んだバンドを添付する形態の商品等表示性について、裁判所は、特別顕著性と周知性を備えた例外的場面の判断基準(知財高裁平成24年12月26日判決・平成24(ネ)10069[眼鏡型ルーペ事件(ペアルーペ事件)])について言及した上で、本件のダイエットに使用するバンドを折り畳んだ状態でダイエット本の付録として添付するという書籍の形態について検討。
結論として、原告書籍刊行以前にも見られる形態であり特別顕著性がなく、形態が出所を表示するものとして周知になっているともいえないとして、この形態の商品等表示性を否定しています(27頁以下)。

(4)表紙画像の商品等表示性(2条1項1号、2号)

原告書籍は、被告書籍1の発行日頃で約45万部、被告書籍2の発行日頃で約107万部の売上があったものの、原告書籍の表紙画像が、原告を示す商品等表示として著名であったとは到底認められない。また、被告書籍の表紙画像が原告の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものともいえない、と裁判所は判断しています(28頁以下)。

結論として、著作権、不正競争防止法いずれの争点についても原告の主張は認められていません。

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■コメント

アマゾンで原告書籍を検索すると、2010年3月にこの書籍を購入している履歴が出てきました。すっかり忘れていました(笑)。わたくしも健康関連商品の流行に乗せられる部分もあるかと思いますが、先行商品の成功に続けとばかり、似たコンセプトの商品がすぐに市場に出てくるのは仕方がないところではあります。

類否判断については、ゴムバンドを使用したストレッチ法の解説本という性質からすると、ゴムバンドの巻き方やエクササイズ方法という事項については、表現の幅がそれほど広くないと考えられます。

内科医師が執筆した書籍「お腹が凹む!巻くだけダイエット」(宝島社刊行)についても別訴が提起されています(後掲判例参照)。こちらは不競法の争点だけですが、結論は棄却となっています。

本件訴訟では、表紙のイメージが似通っている印象ですが、宝島社版は、表紙もずいぶんと違うイメージで、その点で本件訴訟のように著作権については類否は争点にされなかったようです。

原告書籍
原告書籍表紙
被告書籍1
被告書籍1表紙
被告書籍2
被告書籍2表紙
宝島社
別訴被告書籍(宝島社)

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■関連判例

「巻くだけダイエット」書籍題号不正競争事件(対宝島社事件)
東京地裁平成26.8.29平成25(ワ)28860不正競争行為差止等請求事件

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■参考判例

江差追分事件(「北の波濤に唄う」事件)

時効の管理事件

ペアルーペ事件

written by ootsukahoumu at 08:43|この記事のURLTrackBack(0)