知財判決速報2013

2013年10月25日

YG性格検査用紙出版契約事件(控訴審)−著作権 著作権に基づく差止請求権不存在確認等請求、著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

YG性格検査用紙出版契約事件(控訴審)

大阪高裁平成25.8.29平成24(ネ)12著作権に基づく差止請求権不存在確認等請求、著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官      遠藤曜子
裁判官      横路朋生

*裁判所サイト公表 2013.10.17
*キーワード:出版契約、共有著作権、正当な理由、訴えの利益

   --------------------

■事案

共有者による出版契約の更新拒絶が「正当な理由」(著作権法65条3項)を有するかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審甲事件被告兼乙事件原告):共有著作権者
控訴人(一審乙事件原告)          :共有著作権者
被控訴人(一審甲事件原告兼乙事件被告):実験心理学器械製作販売会社

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法65条3項

1 本件更新拒絶に正当な理由があるか等について

   --------------------

■事案の概要

『1 被控訴人は,亡Cとの間で,平成12年1月1日に原判決別紙1商品目録記載1ないし4の各検査用紙(以下「本件各検査用紙」という。)について,原判決別紙2の著作物出版販売契約書に係る著作物出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結して本件各検査用紙を出版,販売していたところ,同契約で定められた当初の利用期間が満了したことから,被控訴人及び本件各検査用紙の著作権の相続人ら間で,同契約の存続を巡って紛争が生じた。
2 本件甲事件は,被控訴人,一審甲事件原告D(以下「一審原告D」という。)及び同E(以下「一審原告E」という。)が,主位的には,一審甲事件原告らと控訴人Aとの間で,本件出版契約が存在していることの確認を求め,予備的に,(1)被控訴人が,控訴人Aとの間で,控訴人Aが,Cから相続した著作権の持分権に基づき,被控訴人がする本件出版契約に基づく出版,販売行為に対する差止請求権を有しないことの確認を求め,(2)一審原告D及び同Eが,控訴人Aに対し,著作権法65条3項に基づき,本件出版契約の更新に合意することを求めた事案である。
 本件乙事件は,控訴人らが,本件出版契約が契約期間満了により終了したことを前提として,被控訴人に対し,控訴人らが有する本件各検査用紙の著作権の持分権に基づき,本件各検査用紙の出版,販売の差止等を求めるとともに,不法行為に基づき,それぞれ2200万円の損害賠償及びこれらに対する不法行為の日の後である平成22年3月26日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
3 原審は,被控訴人の甲事件の主位的請求を認容し,一審原告D及び同Eの甲事件の請求については,主位的請求は確認の利益がなく不適法であるとしてその請求に係る訴えをいずれも却下し,予備的請求はいずれも棄却し,控訴人らの乙事件の請求をいずれも棄却したところ,控訴人らが控訴した。』(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件更新拒絶に正当な理由があるか等について

本件出版契約の更新拒絶についての「正当な理由」を基礎付ける事実に関して、控訴審でも原審の判断を維持し、本件更新拒絶に著作権法65条3項にいう正当な理由があるとは認められず、控訴人Aがした本件更新拒絶は有効なものとは認められず、本件出版契約は同契約3条の規定により更新されて存続しているものと認められ、その結果として、被控訴人は本件出版契約に基づき本件各検査用紙を出版、販売する権利を有することが認められると判断しています(3頁以下)。
なお、控訴人らは、本件訴訟の控訴審における和解協議における被控訴人の態度は、本件各検査用紙の出版権者として不適格であることを示すものであり、本件更新拒絶についての正当な理由を基礎付ける事由になる旨を主張しましたが、主張に係る事実が本件訴訟係属後に起きた事実であることや和解協議に全く応じなかったわけではないことなどから、この点についての控訴人らの主張を裁判所は認めていません。

結論として、被控訴人による甲事件主位的請求である控訴人Aとの間において本件各検査用紙の出版、販売に関して本件出版契約が存在することの確認を求める点については認容され、控訴人らの乙事件各請求は、いずれも棄却されています。

   --------------------

■コメント

YG性格検査用紙の出版を巡る紛争の控訴審判決となります。結論としては、原判決の判断が維持されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

2011年12月5日 原審記事
written by ootsukahoumu at 07:00|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月22日

「子連れ狼」実写版映画契約事件−著作権 著作権確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「子連れ狼」実写版映画契約事件

東京地裁平成25.10.10平成24(ワ)16442著作権確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      盒供〆

*裁判所サイト公表 2013.10.18
*キーワード:実写映画化権、翻案権、著作権譲渡登録、ライセンス契約、権利濫用

   --------------------

■事案

漫画原作の実写映画化に関わる契約関係が争点となった事案

原告:映画製作会社(米国法人)
被告:ライセンスビジネス会社

   --------------------

■結論

請求認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法61条、63条、77条、不正競争防止法2条1項14号、民法1条3項

1 本件譲渡担保契約の対象となる著作物について
2 本件譲渡担保契約による本件実写映画化権の取得について
3 権利の濫用の有無
4 不正競争行為の有無

   --------------------

■事案の概要

『原告が,被告に対し,(1)別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件原作」という。)について,平成24年1月16日から平成26年4月19日までの間,その翻案権の一部である実写映画化権(以下「本件実写映画化権」という。)を取得したと主張して,原告が,当該期間,本件実写映画化権を有することの確認を求めるとともに,(2)被告が,本件原作の独占的利用権が被告に帰属する旨並びに本件原作を基に実写映画及びこれに派生した実写テレビドラマシリーズを製作する原告の行為が被告の独占的利用権を侵害する旨を告知したことが不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に当たると主張して,同法3条1項に基づく告知,流布の差止めを求めた事案』
(2頁)

<経緯>

H19.06 被告らが原作者Aに2億円支払い
H20.02 Aと被告間で著作物利用に関する契約公正証書作成
H23.03 原告が1212エンターテイメントに対してAとの交渉を依頼
H23.04 1212エンターテイメントとAがオプション契約締結
        原告が1212エンターテイメントから契約地位譲受
        原告がA側にオプション権の代金35万ドル支払い
H23.05 Aから株式会社A作品普及会に著作権譲渡
H23.09 Aが被告に対して契約解除通知
H24.01 原告、普及会及びAが譲渡担保契約締結
H24.02 原告が著作権譲渡登録

本件原作:題号「子連れ狼」

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件譲渡担保契約の対象となる著作物について

実写映画化権に関する契約書の文言上、本件譲渡担保契約(原告がオプション権を行使した場合に購入することができる権利をAから著作権の譲渡を受けた普及会が原告に譲渡する契約)による移転の対象となる著作物は本件漫画であると解する余地があるところ、本件漫画はAによる本件原作に基づきBが作画をして完成させたものであるから、本件漫画につき実写映画化権等を取得するためには、Aだけでなく作画者Bないしその権利を承継した者の承諾が必要であるとして、被告は、原告がその承諾を得ていないとして本件漫画の実写映画化権等を取得していないと反論しています(14頁以下)。
この点について、裁判所は、

(1)実写映画化に際してBによる作画を利用する必要はない
(2)原告、A、1212エンターテイメントいずれも作画部分の利用の意図を有していない
(3)Bないしその権利承継人とは交渉を行おうとはしなかった
(4)著作権譲渡登録は、本件原作についてされている
(5)本件原作が公表されておらず、他の著作物と区別して契約書に記載し対象物を特定することが困難であった

といった諸事情を総合して、原告、A、普及会及び1212エンターテイメントは、本件漫画の原作(本件原作)についての実写映画化権等を設定するために本件オプション契約及び本件譲渡担保契約を締結したものと認めるのが相当であると判断しています。

   --------------------

2 本件譲渡担保契約による本件実写映画化権の取得について

本件実写映画化権の取得に関わる契約関係について、裁判所は、

(1)原告は平成26年4月19日までの間、本件実写映画化権を購入するオプション権を取得していた
(2)オプション権を行使した時に確実に原告に権利移転ができるようにする目的で本件譲渡担保契約を締結した
(3)本件譲渡担保契約上、上記期間が満了するまで本件実写映画化権を原告に移転してその旨の譲渡登録をする一方、A及び普及会は上記期間中本件原作を利用した作品の開発又は制作をすることができないとされている

これらの事情から、本件譲渡担保契約は原告が将来本件実写映画化権の移転を受けられるという権利を保全するために(原告が本件原作の実写映画を製作することに対してA及び普及会はもとより第三者から一切の権利行使又は妨害行為をされないように)上記の期間中、当該権利を原告に確定的に移転するというものであると解することが相当であると判断。
原告はこの譲渡について登録を経ており、その権利を被告に主張することができるとしています(15頁以下)。

   --------------------

3 権利の濫用の有無

被告は、Aとの間の本件公正証書による契約に基づいて本件原作について独占的利用権を有する事情の下で、原告が被告に対し本件実写映画化権の取得を主張することは権利の濫用に当たると主張しました(16頁以下)。
この点について、裁判所は、

(1)上記契約はAの現在及び将来の全ての著作物に関して独占的利用権を付与するものでありながら、本件公正証書に対価に関する定めがない。また、これ以外にも対価について合意したことをうかがわせる証拠がない
(2)2億円の支払がされたのは本件公正証書作成の約6か月ないし8か月前である

などの点から、被告が本件原作につき独占的利用権を有するとは認め難いと判断。
さらに、
(3)仮に、被告が独占的利用権を有するとしてもその権利は著作権者の利用許諾に基づく債権的権利であって、その後に著作権の全部又は一部の譲渡がされた場合には著作権法上、譲受人に対抗することができない

といった点を前提に、権利濫用の有無について判断しています。

(A)本件オプション契約締結前に我が国及び米国において本件漫画の権利関係についてトラブルがあると報じられたことがあるものの、原告がこのような報道に接していたと認めるに足りる証拠はなく、原告が被告の独占的利用権について知っていたとは認められない
(B)被告又は被告から許諾を受けた者が現に実写映画化に着手したり、その企画がある旨報道されたりした事実があるとはうかがわれず、原告が被告の存在を知らなかったことにつき過失があるともいえない
(C)原告は被告からの権利主張に接するより前にAが著作権者であるとの表明及び保証を信じて35万ドルもの代金を支払ってオプション権を取得した
(D)その後、被告から権利主張を受けたためAに権利関係を確認したところ、被告に独占的利用権はないとの説明を受けたので本件オプション契約上の自らの権利を保全するための手段を講じることにした
(E)本件譲渡担保契約はこのような経緯で締結されたものであり、これにより原告が本件実写映画化権の移転を受けてその旨の登録を経た

このような事情に照らせば、本件公正証書に係る契約の効力にかかわらず、原告の被告に対する本件実写映画化権の主張は正当な権利行使に当たるというべきであって、被告の主張する諸事情を考慮しても原告の権利主張が権利の濫用に当たるということはできないと裁判所は判断しています。

   --------------------

4 不正競争行為の有無

被告が訴外シーエスデヴコ・エルエルシーの代理人C弁護士宛て送付の通知書(2通)に記載した、本件原作の独占的利用権が被告に帰属し、本件原作を基に実写映画及びこれに派生した実写テレビドラマシリーズを製作する原告の行為が被告の独占的利用権を侵害することを意味する内容は、原告が本件原作の実写映画化権等を有することから、本件各記載は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実(不正競争防止法2条1項14号)に該当すると原告は主張しました(18頁以下)。

(1)「虚偽の事実」該当性
この点について、裁判所は、原告が本件原作の実写映画及びこれに派生した実写テレビドラマシリーズを製作する権利を有し、この権利を被告を含む第三者に対抗することができる一方、被告が原告に対抗し得るような本件原作の独占的利用権を有していたとはいえず、原告が本件原作を基に実写映画等を製作する行為が被告の権利を侵害するということはできない。したがって、本件各記載は虚偽の事実に当たると判断。

(2)営業上の信用を害するか
また、シーエスデヴコ・エルエルシーと原告は共に映画の製作等に携わる会社であって、他人の権利を侵害するような映画の製作を試みている旨の事実が告知された場合には、事柄の性質上、映画製作会社としての原告の評価を低下させることになるとして、本件各記載が原告の営業上の信用を害することは明らかであると判断しています。

結論として、原被告間で競争関係にあり、被告のCに対する本件各通知書の送付は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たると裁判所は認めています。

以上から、原告が実写映画化権を有することの確認と原告の行為が被告の独占的利用権を侵害する旨を告知し又は流布してはならない旨の差止めが認められています。

   --------------------

■コメント

小池一夫氏原作の「子連れ狼」作品については、パチンコ遊技機のライセンス契約を巡る裁判例が昨年ありました(後掲ブログ記事参照)。
今回の事案で作品の権利関係の一端が窺えるところで、被告の当時の商号が「小池一夫劇画村塾株式会社」であったことからも原作者と被告の関わりが深いことが分かりますが、どのような経緯でライセンス契約が反故されるに至ったのかは、判決文からは読み解くことはできませんでした。
いずれにしても、コンテンツ管理契約が著作権譲渡を伴わないもので債権契約に留まる限り、現行法では登録による保護の方法もなく、ライセンシーとしては著作権の譲受人に対して弱い立場に立つこととなります。

   --------------------

■過去のブログ記事

2012年7月31日記事
漫画「子連れ狼」パチンコ遊技機ライセンス事件

   --------------------

■参考サイト

株式会社MANGA RAK ライセンス事業のご案内

written by ootsukahoumu at 13:03|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月18日

獄中絵画展示事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

獄中絵画展示事件

知財高裁平成25.9.30平成25(ネ)10040損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      西 理香
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2013.10.8
*キーワード:展示権、複製権、譲渡権、氏名表示権、同一性保持権、プライバシー権

   --------------------

■事案

受刑者が獄中で描いた絵画の展示やパンフレット掲載、氏名表示に関して受刑者の許諾があったかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(一審原告):受刑者
被控訴人兼控訴人(一審被告):被拘禁者支援団体

   --------------------

■結論

一審原告控訴一部変更、一審被告控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法25条、21条、26条の2、19条、20条、113条6項

1 本件展示会で展示したことが展示権を侵害するか
2 パンフレットに本件絵画の複製を掲載頒布したことが複製権及び譲渡権を侵害するか
3 パンフレットに氏名を表示したことが氏名表示権を侵害するか等
4 パンフレット等に氏名を受刑者として記載したことがプライバシーを侵害する不法行為に当たるか
5 絵画を紛失して返還しなかったこと等が債務不履行又は不法行為に当たるか
6 損害論

   --------------------

■事案の概要

『本件は,刑務所に被収容中の第1審原告が,第1審原告制作に係る複数の絵画を第1審被告に預けていたところ,(1)第1審被告が第1審原告の許諾なく,そのうち1枚の絵画(本件絵画)を,第1審被告主催のギャラリーでの展示会(本件展示会)で展示するとともに,同展示会のパンフレット(本件パンフレット)に同絵画の複製を掲載して頒布したことが,第1審原告の同絵画に係る展示権,複製権及び譲渡権等を侵害する不法行為に当たる,(2)本件パンフレットに本件絵画とともに第1審原告の氏名を掲載したことが,第1審原告の同絵画に係る氏名表示権を侵害する不法行為に当たる,(3)本件パンフレット及び本件案内文書(本件パンフレット等)に第1審原告の氏名を受刑者として記載したことが,第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為に当たる,(4)第1審被告が第1審原告から預かった絵画を紛失して返還しなかったことが,債務不履行又は不法行為に当たる,(5)本件訴訟における第1審被告の不当な応訴態度が不法行為に当たる,とそれぞれ主張して,第1審被告に対し,著作権侵害に係る損害として100万円,氏名表示権侵害に係る慰謝料として100万円,プライバシー侵害に係る慰謝料として150万円,絵画の紛失に係る損害として100万円及び不当な応訴態度に係る慰謝料として100万円の,合計550万円並びにこれに対する本件展示会の初日である平成22年9月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,(1)第1審被告が本件絵画を本件展示会で展示したことは第1審原告の本件絵画に係る展示権を侵害しないが,同展示会のパンフレットに同絵画の複製を掲載して頒布したことは第1審原告の本件絵画に係る複製権及び譲渡権を侵害する,(2)本件パンフレットに本件絵画とともに第1審原告の氏名を掲載したことは,第1審原告の本件絵画に係る氏名表示権を侵害しない,(3)本件パンフレット等に第1審原告の氏名を受刑者として記載したことが,第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為に当たる,(4)第1審被告が第1審原告から預かった絵画を紛失して返還しなかったことが,債務不履行又は不法行為に当たる,(5)本件訴訟における第1審被告の応訴態度が不法行為に該当するとはいえない,とした上で,(1)につき損害金9000円,(3)につき損害金20万円,(4)につき損害金合計6万円及びこれらに対する平成22年9月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で第1審原告の請求を認容した。
 これに対し,第1審原告及び第1審被告の双方がその敗訴部分につきそれぞれ控訴した。なお,第1審原告は,当審において,遅延損害金請求の一部につき請求を拡張し,減縮したほか,著作権侵害,著作者人格権侵害及びプライバシー権侵害の点に関する主張を追加した。』(2頁以下)

<経緯>

H22.08 パンフレット頒布、ネット掲載
H22.09 展示会開催、絵画紛失
H23.12 本件訴訟提起

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件展示会で展示したことが展示権を侵害するか

第1審原告は、本件展示会の開催前に第1審原告の絵画がギャラリーで公に展示されることを知りながら展示自体には何ら異議を述べなかったとして、裁判所は第1審被告の行為に第1審原告の本件絵画に係る展示権侵害性はないと判断しています(11頁以下)。

   --------------------

2 パンフレットに本件絵画の複製を掲載頒布したことが複製権及び譲渡権を侵害するか

第1審被告が本件絵画のカラーコピーを本件パンフレットに掲載してこれを頒布したことは、第1審原告の本件絵画に係る複製権及び譲渡権を侵害するものであると判断されています(11頁以下)。

   --------------------

3 パンフレットに氏名を表示したことが氏名表示権を侵害するか等

第1審被告が本件絵画のカラーコピーを掲載した本件パンフレットに著作者として第1審原告の氏名を表示したことは、本件絵画の公衆への提供に際して著作者名を表示しないとすることを内容とする第1審原告の氏名表示権を侵害すると裁判所は判断しています。
なお、パンフレットに転写された本件絵画の下部に記載された「X 有期懲役受刑者 府中刑」が題号であるとの錯覚を与えるものであるとして、第1審原告は同一性保持権侵害性も争点としましたが、他の掲載絵画の状況を勘案して第1審原告の主張を裁判所は認めていません(15頁以下)。
さらに、本件絵画の転写された本件パンフレットの頒布について、著作権法113条6項の著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為として著作者人格権の侵害とみなされる旨の第1審原告の主張についても裁判所は認めていません。

   --------------------

4 パンフレット等に氏名を受刑者として記載したことがプライバシーを侵害する不法行為に当たるか

第1審被告が本件パンフレット等に受刑者として第1審原告の氏名を記載、頒布し、また、ギャラリーのウェブサイトに受刑者として第1審原告の氏名が掲載されたことは第1審原告のプライバシーを侵害する不法行為にあたると判断されています(17頁以下)。

   --------------------

5 絵画を紛失して返還しなかったこと等が債務不履行又は不法行為に当たるか

第1審被告が第1審原告の絵画を紛失したことは不法行為に該当するものの、第1審被告の第1審原告の絵画返却請求等への対応の態様が不法行為を構成するような違法なものであるとまでいうことはできないと判断されています(18頁以下)。

   --------------------

6 損害論

(1)複製権及び譲渡権侵害 9000円
(2)氏名表示権侵害 5万円
(3)プライバシー侵害 20万円
(4)絵画紛失 6万円

合計31万9000円

   --------------------

■コメント

絵画を公表する際に氏名表示や掲載媒体をどうするかの確認が著作者と展示会主催者側との間で詰められておらず、齟齬が生じた事例となります。
原審では、氏名表示権侵害が認定されていませんでしたが、控訴審では侵害を認め、慰謝料5万円が認定されています(21頁)。
written by ootsukahoumu at 08:04|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月15日

「風にそよぐ墓標」事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「風にそよぐ墓標」事件(控訴審)

知財高裁H25.9.30平成25(ネ)10027著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2013.10.08
*キーワード:ノンフィクション、創作性、許諾、複製権、翻案権、譲渡権、出版社

   --------------------

■事案

ノンフィクション作品での参考書籍の転載に関して許諾を得ていたかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審被告) :作家、出版社
被控訴人(一審原告):個人

   --------------------

■結論

控訴棄却、一部変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、15号、21条、27条、26条の2、19条、20条、112条、114条3項

1 被控訴人の著作権の侵害の成否
2 被控訴人の著作者人格権の侵害の成否
3 控訴人らの故意又は過失の有無
4 被控訴人の損害の額

   --------------------

■事案の概要

『本件は,被控訴人が,控訴人Xが著述し,控訴人集英社が発行する原判決別紙書籍目録記載の書籍(以下「控訴人書籍」という。)に被控訴人の著述した書籍の複製又は翻案に当たる部分があり,その複製及び頒布によって被控訴人の著作権及び著作者人格権が侵害されたとして,控訴人らに対し,著作権法112条に基づき,控訴人書籍の複製,頒布の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条及び719条に基づき,著作権侵害による著作権利用料相当損害金として168万円,著作権侵害及び著作者人格権侵害による慰謝料として各150万円,弁護士費用として50万円の合計518万円及びこれに対する不法行為後の日である平成23年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
 原審は,原判決別紙対比表の被告書籍欄記載の各記述(以下「控訴人各記述」といい,個別の記述は同表の記述番号欄記載の番号に従い,順次「控訴人第1記述」などという。)のうち,同表の当裁判所の判断欄に「○」印の付された各記述が,同表の原告書籍欄記載の各記述(以下「被控訴人各記述」といい,個別の記述は同表の記述番号欄記載の番号に従い,順次「被控訴人第1記述」などという。)のうち,当裁判所の判断欄に「○」印の付された各記述の複製又は翻案に当たると認め,控訴人らに対し,複製又は翻案に当たると認められた控訴人各記述のある第3章(113頁ないし160頁)を不可分的に含む控訴人書籍の複製,頒布の差止め及び廃棄,著作権利用料相当損害金2万8560円,慰謝料50万円及び弁護士費用5万2856円の合計58万1416円並びにこれに対する遅延損害金の支払を命じる限度で被控訴人の請求を認容し,被控訴人のその余の請求をいずれも棄却した。
 控訴人らはこれを不服としていずれも控訴し,上記控訴の趣旨記載の判決をそれぞれ求めた。したがって,当審における審理判断の対象は,原審において被控訴人各記述の複製又は翻案に当たると認められた控訴人各記述に関する著作権及び著作者人格権侵害の成否等である。 』(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 被控訴人の著作権の侵害の成否

(1)控訴人各記述は被控訴人各記述を複製又は翻案したものであるか

控訴人(原審被告)各記述が被控訴人(原審原告)各記述を複製又は翻案したものであるか否かについて、控訴審裁判所は、控訴審で審理の対象となった17カ所のうち、3カ所(記述8、15、16)は表現上の創作性がないと判断。
それ以外の部分についても、控訴人Xはいずれも事実の記載であったり、表現がありふれているものであるとして、複製又は翻案にあたらないと反論していましたが、原審同様、控訴審裁判所は複製又は翻案を認めています。
結論として、依拠性並びに複製又は翻案が認められています(6頁以下)。

(2)控訴人Xは複製又は翻案及び譲渡に係る利用の許諾を得たか

原審同様、被控訴人から明示又は黙示の利用許諾を得ていたと認めるに足りる証拠はないと判断されています(26頁)。

結論として、著作権侵害性の判断が維持されています。

   --------------------

2 被控訴人の著作者人格権の侵害の成否

原審同様、著作者人格権侵害性が認められています(26頁以下)

   --------------------

3 控訴人らの故意又は過失の有無

原審同様、控訴人らの過失が認められています(27頁)。

   --------------------

4 被控訴人の損害の額

原審で複製又は翻案されたと認定された部分は、約4.8頁(86行÷18行/1頁 総頁数の1.7%)でしたが、控訴審では3カ所減った(4.38頁分(79行÷18行/1頁 総頁数の1.5%))ことから、弁護士費用を含め損害額が減額されています(58万1416円から57万7720円へ減額)。

結論として、原審同様、控訴人書籍の複製、頒布の差止め及び廃棄並びに損害賠償の判断が維持されています。

   --------------------

■コメント

原審と異なり対比部分のうちの3カ所は表現上の創作性がないと判断されましたが、利用許諾が認められないとする判断は原審と同様となっています。

   --------------------

■過去のブログ記事

原審記事

   --------------------

■参考判例

原審判決文PDF
別紙対比表

   --------------------

■参考サイト

門田隆将オフィシャルサイト kadotaryusho.com
ブログ「夏炉冬扇の記」
裁判官は「日本」を滅ぼす(2013.09.30)
written by ootsukahoumu at 11:13|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月08日

自炊代行サービス事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自炊代行サービス事件(対サンドリームほか)

東京地裁平成25.9.30平成24(ワ)33525著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.10.1
*キーワード:自炊、複製、スキャン、私的使用、権利濫用

   --------------------

■事案

自炊代行業者による出版物の電子ファイル化サービスの適法性が争点となった事案

原告:小説家、漫画家、漫画原作者ら7名
被告:自炊代行業者ら

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項15号、21条、30条1項、112条1項、民法1項3項

1 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否
2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害論

   --------------------

■事案の概要

『小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが,法人被告らは,電子ファイル化の依頼があった書籍について,権利者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。),その電子ファイルを依頼者に納品しているから(以下,このようなサービスの依頼者を「利用者」という場合がある。),注文を受けた書籍には,原告らが著作権を有する別紙作品目録1〜7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして,原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,法人被告らそれぞれに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,(2)不法行為に基づく損害賠償として,(ア)被告サンドリームらに対し,弁護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告サンドリームにつき平成24年12月2日,被告Y1につき同月4日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払,(イ)被告ドライバレッジらに対し,同様に原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告ドライバレッジにつき平成24年12月2日,被告Y2につき同月7日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H23.09 作家、出版社らがスキャン業者に対して質問書送付
H23.10 質問書における質問への回答を再度要請する通知書送付
H24.07 原告らが被告らに対して試験的発注実施

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否

(1)法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか

(ア)複製の主体等

複製の主体性について、裁判所は、「複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である」として、最高裁ロクラク2事件判決に言及した上で本件について検討を加えています(21頁以下)。
この点について、裁判所は、電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容、程度等をみると、複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが、その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり、利用者は同作業には全く関与していないとして、本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは法人被告らであって、利用者ではないと判断。
複製の主体は、法人被告らであると認めるのが相当であるとしています。

これに対して被告らは、あくまで書籍の所有者である利用者が複製の主体であると反論しましたが、電子ファイル化における作業の具体的内容からすれば、有形的再製の中核を為す電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるとして、裁判所はその主張を認めていません。

(イ)著作権を侵害するおそれ

法人被告らによる著作権侵害のおそれがあり、裁判所は差止めの必要があると判断しています(24頁以下)。

(2)法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか

被告らは、法人被告らのスキャニングについて、そのスキャン事業の利用者が複製の主体であって法人被告らはそれを補助したものであるから、30条1項の私的使用のための複製の補助として法人被告ら行為は適法である旨主張しました(26頁以下)。
しかし、裁判所は、本件における書籍の複製の主体は法人被告らであって利用者ではなく、30条1項適用の前提を欠くとしてその主張を認めていません。
また、原告らの差止請求は権利濫用に当たるとの反論についても裁判所はこれを認めていません。

   --------------------

2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害論

原告らは訴訟追行にあたり弁護士に委任せざるを得なかったとして不法行為に基づく損害賠償請求の成立を認め、弁護士費用相当額の損害として原告1名につき10万円が認定されています(27頁以下)。

   --------------------

■コメント

書籍を送付して電子データ化してもらうタイプの自炊代行事業が裁判上明白に違法であることが示されました。
裁判をすれば、シロクロはっきりする訳ですが、一方では蔵書の電子化のニーズを踏まえ、こうした事態を憂慮して話し合いによる妥協点、ルール作りを模索する動きがあり、権利者団体関係者の皆様等がその調整のために日々尽力をされておいでです(後掲MYブック変換協議会サイト及び日本蔵書電子化事業者協会サイト参照)。

   --------------------

■参考サイト

MYブック変換協議会

日本蔵書電子化事業者協会

スキャポン運営事務局 プレスリリース「自炊代行訴訟判決を受けて」

  --------------------

■参考判例

ロクラク2事件 最高裁平成23.1.20平成21(受)788著作権侵害差止等請求事件判決PDF

  --------------------

■追記(2013/11/8)

別件訴訟(対ユープランニング事件 最高裁判所サイト公表日11/8)
東京地裁平成25.10.30平成24(ワ)33533 著作権侵害差止等請求事件

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋
written by ootsukahoumu at 07:38|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月04日

風力発電環境影響評価書事件−著作権 著作権及び出版権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

風力発電環境影響評価書事件

東京地裁平成25.8.30平成24(ワ)26137著作権及び出版権侵害差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫
*裁判所サイト公表 2013.10.01
*キーワード:著作物性、翻案、著作者人格権、意見書

   --------------------

■事案

大型風力発電施設建設に関する環境影響評価書へ掲載した意見書の要約が著作権侵害にあたるかどうかが争点となった事案

原告:環境保護NPO法人
被告:風力発電専門会社、福島県

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、20条、27条、80条

1 同一性保持権侵害等の成否
2 翻案権侵害の成否
3 出版権侵害の成否
4 名誉毀損行為等の成否

   --------------------

■事案の概要

<経緯>

H23.10 被告事業者が「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業」環境影響評価書準備書作成、公告、縦覧
H23.11 被告事業者に意見書提出
H24.06 被告事業者が評価書作成、知事に送付
        原告がNPO法人格取得
H24.08 被告事業者が評価書公告、縦覧

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 同一性保持権侵害等の成否

原告は、被告エコ・パワーが本件意見書(意見書1から8)の表現を改変して本件評価書に掲載した点を捉えて氏名表示権及び同一性保持権侵害性を主張しましたが、裁判所は、本件意見書の著作物性(2条1項1号)は認められるものの、その著作者は本件意見書の作成者である個々の自然人であって原告ではないとして、原告の主張を認めていません(7頁以下)。
また、仮に原告が作成者であるとしても、評価書に意見の「概要」を記載することが福島県環境影響評価条例で義務づけられており、また、意見を述べた者の氏名を表示することも条例で義務づけられていないとして、この観点からも氏名表示権及び同一性保持権侵害性を否定しています。

   --------------------

2 翻案権侵害の成否

本件評価書に本件意見書の表現を一部抜粋したり、要約した記載がされましたが、本件条例で意見の概要を記載することが義務づけられており、事業者に意見書を提出した者は、その意見における表現が評価書において意見の概要を表す限度で改変されることを当然に容認した上で意見書を提出したものとみなされると裁判所は説示しています。
そして、本件意見書の各作成者も、評価書において意見の概要が記載されることを容認した上で本件意見書を被告エコ・パワーに提出したのであるから、意見の概要を表す限度で本件意見書の表現を改変したとしても翻案権侵害にはあたらないと裁判所は判断しています(8頁以下)。

   --------------------

3 出版権侵害の成否

被告エコ・パワーは、本件評価書を「頒布の目的をもって」、また、本件意見書を「原作のまま」で複製している訳ではないとして、本件評価書の作成やその縦覧のための複製についての出版権侵害性(80条)を裁判所は否定しています(9頁)。

   --------------------

4 名誉毀損行為等の成否

著作権者等の名誉毀損(パブリックコメントに於ける意見者のオリジナリティ侵害・毀損行為)に関する損害賠償について、原告は著作権者や著作者ではなく、また、名誉毀損の事実もないとして、裁判所は原告の主張を退けています(9頁)。

   --------------------

■コメント

福島県会津若松市背あぶり山周辺での風力発電施設建設を内容とするいわゆる環境アセスメントの評価書を巡って著作権が争点とされました(評価書手続終了。工事着手は未届出)。
正確性が欠ける資料等の要約や引用があるのであれば、その点を踏まえて評価書の適否自体を問題とすべきで、著作権を争点とする構成には無理があった事案ではないかと思われますが、意見書の類いにも著作物性が認められるとされた点は参考になるところです。

   --------------------

■参考サイト

会津若松ウィンドファーム(仮称)事業

風力発電:エコ・パワー株式会社 EcoPower Co.,Ltd.

特定非営利活動法人 風の谷委員会
written by ootsukahoumu at 11:39|この記事のURLTrackBack(0)

2013年10月03日

ソフトウェア提供パートナー契約事件−著作権 損害賠償、同中間確認各請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア提供パートナー契約事件

東京地裁平成25.9.24平成23(ワ)34126損害賠償、同中間確認各請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      志賀 勝
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.9.27
*キーワード:複製、翻案、債務不履行

   --------------------

■事案

統合型業務ソフトウェアの提供契約において第三者の著作権を侵害しているソフトウェアが提供されていたかどうかが争点となった事案

原告:ソフトウェア制作会社
被告:ソフトウェア制作会社

   --------------------

■結論

請求認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、27条、民法415条

1 本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか
2 原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか

   --------------------

■事案の概要

『原告が,被告との間のパートナー契約において,被告から提供されたソフトウェア中のプログラムにつき,著作権上の瑕疵があるとして,被告に対し,債務不履行に基づき,損害金206万5000円及びこれに対する催告の後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,これに対し,被告が,中間確認の訴えとして,上記プログラムが他のプログラムの著作権を侵害しないことの確認を求める事案』(2頁)

<経緯>

H04    先行ソフト群をビーエスエスが順次開発
H18.04 ビーエスエスがサンライズ・テクノロジーに一部譲渡
H18.12 ビーエスエス、ソフトウェア部品開発が本件ソフト群を順次開発
H21.05 サンライズ・テクノロジーからフロンテック、日本電子計算に複製権が移転
H21.08 被告がソフトウェア部品開発の事業を譲受
H21.10 原被告間でパートナー契約締結
H23.02 原告が解除通知

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか

ソフトウェア「部品屋2007サーバー」、「部品屋2007クライアント」及び「ソフトウェア部品開発ツール」中の各プログラム(本件各プログラム)が、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「部品マイスター」中の各プログラム(先行各プログラム)を複製又は翻案したものかどうかについて、「部品屋2007サーバー」、「部品屋2007クライアント」両ソフト中のプログラム「ソフトウェア部品」に関して、裁判所は、ビーエスエスとソフトウェア部品開発が平成19年までに約1500個の先行ソフトウェア部品に新たに開発した約200個のプログラム「ソフトウェア部品」を加えて約1700個の本件ソフトウェア部品を制作したことが認められると認定。
この点からビーエスエスやソフトウェア部品開発は、先行ソフトウェア部品に依拠し、これと一部が同一の本件ソフトウェア部品を制作したものと認められると判断。本件ソフトウェア部品の一部は、先行ソフトウェア部品を複製したものであると認めています(10頁以下)。

   --------------------

2 原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか

ビーエスエスがサンライズに対して平成18年4月7日に先行ソフトウェア部品を含む先行両ソフトの著作権を、また、同年9月27日に部品マイスターの著作権をそれぞれ譲渡したこと、さらに、先行各プログラムの著作権が平成19年9月19日には株式会社フロンテックに、また、平成21年5月22日には日本電子計算に順次譲渡されたことが認定されています。

その上で、被告は、本件契約において著作権上の瑕疵がない本件ソフト群を提供する義務を負っていたにもかかわらず、原告に対して第三者に著作権が帰属する先行各プログラムに関わる先行ソフトウェア部品を複製した本件ソフトウェア部品を含む本件ソフト群を提供したのであるから、債務の本旨に従った履行をしていないと裁判所は判断。
そして、被告が著作権者である日本電子計算から先行各プログラムの利用の許諾を得る見込みはなく給付の追完は不可能であるとして、原告は被告の債務不履行により本件契約をした目的を達することができなくなったとして、被告に支払った合計206万5000円に相当する額の損害を被ったと認定しています(11頁以下)。

   --------------------

■コメント

問題となったソフトウェア「部品屋2007」シリーズは、企業の基幹業務を一元的に統合して管理するERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアに属する種類のもので、OSなどの環境の変化にも柔軟に対応するためのソフトウエア部品化構造を特徴とするものでした。
ソフトウェアの提供を受けるに際しては、第三者の権利や利益を侵害していないことをライセンサーに保証させるものの、開発経緯や事業譲渡等の経緯によっては、提供を受けたソフトウェアがオリジナルなのか、二次的著作物なのか不分明なこともあって、ライセンシー側としても慎重な対応が迫られる場面があります。
written by ootsukahoumu at 08:00|この記事のURLTrackBack(0)

2013年09月27日

「希望の壁」工作物設置続行禁止仮処分申立事件−著作権 工作物設置続行禁止仮処分申立事件決定(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「希望の壁」工作物設置続行禁止仮処分申立事件

大阪地裁平成25.9.6決定平成25(ヨ)20003工作物設置続行禁止仮処分申立事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      松阿彌隆
裁判官      松川充康

*裁判所サイト公表 2013.9.25
*キーワード:著作物性、著作者性、同一性保持権、意に反する改変、所有権と著作権

   --------------------

■事案

新梅田シティの庭園に工作物を設置することが庭園設計者の同一性保持権を侵害するかどうかが争点となった事案

債権者:造園家
債務者:建設会社

   --------------------

■結論

申立て却下

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、2号、15条1項、20条1項、20条2項2号、4号

1 本件庭園が著作物(著作権法2条1項1号)に当たるか
2 債権者が本件庭園の著作者か
3 著作物の範囲
4 本件工作物を設置することが著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるか
5 本件工作物を設置することが建築物の改変(著作権法20条2項2号)の規定若しくはその類推適用により又はやむを得ないと認められる改変(同4号)に当たり許容されるか

   --------------------

■事案の概要

『本件は,債権者が,大阪市北区に所在する複合施設である「新梅田シティ」内の庭園を設計した著作者であると主張して,著作者人格権(同一性保持権)に基づき,同庭園内に「希望の壁」と称する工作物を設置しようとする債務者に対し,その設置工事の続行の禁止を求める仮の地位を定める仮処分を申し立てた事案』(1頁以下)

<経緯>

S62 新梅田シティ開発協議会発足
S63 環境事業計画研究所が環境デザイン基本構想作成受託
H01 環境事業計画研究所が環境デザイン基本計画仕様書作成
H03 環境事業計画研究所が新梅田シティ環境修景基本設計図作成
H05 新梅田シティ開業
H18 庭園改修
H24 巨大緑化モニュメント設置案検討
H25 巨大緑化モニュメント設置工事開始

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件庭園が著作物(著作権法2条1項1号)に当たるか

まず本件庭園の著作物性(著作権法2条1項1号)について、裁判所は、

『本件庭園は,新梅田シティ全体を一つの都市ととらえ,野生の自然の積極的な再現,あるいは水の循環といった施設全体の環境面の構想(コンセプト)を設定した上で,上記構想を,旧花野,中自然の森,南端の渦巻き噴水,東側道路沿いのカナル,花渦といった具体的施設の配置とそのデザインにより現実化したものであって,設計者の思想,感情が表現されたものといえるから,その著作物性を認めるのが相当である』(20頁)

としてその著作物性を肯定しています。

   --------------------

2 債権者が本件庭園の著作者か

次に本件庭園の著作者(2条1項2号)について、債務者は職務著作(15条1項)の成立により債権者は著作者ではないと反論しました。
しかし、裁判所は、債務者又は開発協議会の契約の相手方や基本設計図等の名義がいずれも債権者が代表者である環境事業計画研究所であるものの、構想の前提となる思想、感情の主体は債権者であり、また、環境事業計画研究所は、債権者がその計画を実現するために設立した小規模な法人であること、本件庭園の設計者として環境事業計画研究所のみが表示された例はないこと、債務者も債権者個人を新梅田シティの環境ディレクターとして表示していること等を総合的に勘案して、本件庭園の著作者は債権者というべきである、と判断しています(20頁以下)。

   --------------------

3 著作物の範囲

著作物の範囲について、債権者は、本件土地から建物の存在部分を除いた本件敷地全体が債権者の著作物である旨主張しました。
この点について、裁判所は、

『債権者が新梅田シティ全体についての環境計画の作成を委託されたことは前述のとおりであるが,必ずしも庭園の一部とはいえない通路や広場までを債権者の著作物とすることは広汎に過ぎるというべきであり,著作物として認めることができるのは,債権者の思想または感情の表現として設置された植栽,樹木,池等からなる庭園部分に加え,水路等の庭園関連施設から構成される本件庭園と,これと密接に関連するものとして配置された施設の範囲に限られるというべきであるが,その範囲では,本件庭園を一体のものとして評価するのが相当である』(21頁)

と判断しています。
そして、本件庭園は一体として評価すべきではなく、通路等で区分される区画ごとに創作性の有無を検討すべきであり、本件工作物が設置される区画には水路等のありふれた要素しかなく、何らの創作性も認められないから同一性保持権の行使は認められない旨の債務者の主張について、裁判所はこれを認めていません。

なお、平成18年の大幅な改修により債権者の著作権が失われた等の反論も債務者はしましたが、裁判所は認めていません(21頁以下)

   --------------------

4 本件工作物を設置することが著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるか

本件工作物が設置されることによりカナルと新里山とが空間的に遮断される形になって、開放されていた花渦の上方が塞がれることになることから、本件庭園の景観、印象、美的感覚等に相当の変化が生じるものとして、本件工作物の設置は、本件庭園に対する改変(20条1項)に該当すると裁判所は判断。
その上で、著作者である債権者の意思については、債務者又は開発協議会と環境事業計画研究所との各契約において著作権については何らの取り決めもされておらず、また、平成18年改修に対する債権者の態度が全体として抗議であったことなどから、将来の改変に対する黙示の承諾が含まれていると解することはできず、本件工作物の設置は、著作者である債権者の意思に反した本件庭園の改変に当たるというべきであると裁判所は判断しています(22頁以下)。

   --------------------

5 本件工作物を設置することが建築物の改変(著作権法20条2項2号)の規定若しくはその類推適用により又はやむを得ないと認められる改変(同4号)に当たり許容されるか

本件庭園は、鑑賞のみを目的とするものではなく、むしろ実際に利用するものとしての側面が強いこと、また、本件土地所有者の権利行使の自由との調整の観点から、建築物の所有権と著作権の調整規定である著作権法20条2項2号(建築物の増改築等)の規定を本件の場合に類推適用することができると裁判所は判断。
本件工作物の設置は、同号の「模様替え」に相当するとし、また、信義則違反といった特段の事情がある場合でもないとして、結論として本件工作物の設置によって本件庭園を改変する行為は、債権者の同一性保持権を侵害するものではないと判断しています(23頁以下)。

   --------------------

■コメント

「散歩道に巨大緑化壁はいらない」という公開空間の環境保護を巡っての争いです。
巨大緑化壁「希望の壁」の発案者は安藤忠雄氏。庭園設計者の造園家吉村元男氏は巨大緑化壁設置による著作者人格権侵害性を争点としましたが、工作物設置工事続行禁止の仮処分申立ては認められませんでした。

決定文別紙図面2や後掲「考える会」図面などを見ると、巨大な構造物の設置で全体の景観が変更されることは想像されますが、所有権と著作権の調整における裁判所の判断として本件は参考になります。

なお、建築の著作物と同一性保持権に関する先例となる「ノグチ・ルーム」移設事件でも庭園部分について20条2項2号の類推適用の余地が示されています。

別紙図面2
別紙図面2

130601yosi
北ヤードとその周辺の環境を考える会

   --------------------

■参考判例

慶應大学三田キャンパスにおけるイサム・ノグチ共同製作「ノグチ・ルーム」等の移設に関する事案として
東京地決平成15年6月11日平成15(ヨ)22031

   --------------------

■参考サイト

安藤忠雄氏「希望の壁」は著作権侵害 設計者が設置差し止めの仮処分申し立て(2013.6.19 21:08 産経デジタル)

巨大緑化モニュメント「希望の壁」 積水ハウス ニュースリリース(2013年6月17日) PDF

北ヤードとその周辺の環境を考える会PDF

   --------------------

■参考文献

才原慶道「建築の著作物と同一性保持権 東京地方裁判所平成15年6月11日決定(判例時報1840号106頁)について」『知的財産法政策学研究』(2004)3号217頁以下
論文PDF
written by ootsukahoumu at 13:06|この記事のURLTrackBack(0)

2013年09月25日

書籍「いのちを語る」翻案事件(控訴審)−著作権 出版差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

書籍「いのちを語る」翻案事件(控訴審)

知財高裁平成25.9.10平成25(ネ)10039出版差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      中村 恭
裁判官      中武由紀

*裁判所サイト公表 2013.9.24
*キーワード:翻案権、複製権、名誉声望毀損行為、一般不法行為

   --------------------

■事案

映画のインタビュー部分を意図しない内容で書籍に掲載されたとして翻案権侵害性、一般不法行為論などが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :ドキュメンタリー映画等製作者
被控訴人(一審被告):大学元教授

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法27条、21条、113条6項、民法709条

1 翻案権侵害ないし複製権侵害
2 名誉声望毀損行為の成否
3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否

   --------------------

■事案の概要

『「A Man of Light」(「光の人」)は,控訴人の修士課程卒業制作作品である(本件映画)。「いのちを語る」と題する原判決別紙書籍目録記載の書籍(被告書籍)は,被控訴人がその著者の一人である。控訴人は,本件映画中の20:00(20分)から21:05(21分5秒)までの原判決別紙1記載の本件インタビュー部分に関する被告書籍の原判決別紙2の記述(被告記述部分)が,控訴人の著作権(翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,被控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づく被告書籍の印刷などの差止めを求めるとともに,(2)著作権侵害,著作者人格権侵害に基づき,損害賠償110万円及び遅延損害金の支払を求め,合わせて(3)著作権法115条に基づく名誉回復等の措置としての謝罪広告を求めた。原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 当審において,控訴人は,侵害された著作権として,翻案権に加え複製権を主張し,さらに,著作者人格権に関し,著作権法113条6項によるみなし侵害の主張を追加するとともに,予備的に,創作活動の内容を第三者によって無断で改変されないことに関する人格的利益侵害の不法行為に基づく損害賠償請求を追加した。』(2頁)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 翻案権侵害ないし複製権侵害

準拠法、著作権の帰属に関する争点に関して、裁判所は原審の判断を維持した上で、翻案権侵害ないし複製権侵害について判断しています。
控訴人製作による本件映画の本件インタビュー部分と被告(被控訴人)書籍の記述部分の比較検討について、裁判所は、複製、翻案の意義に関する最高裁判例(ワン・レイニ―・ナイト・イン・トーキョー事件、江差追分事件)に言及した上で、

(1)本件ナレーション(質問)部分
 被告記述部分のうちの控訴人の質問紹介部分とは表現において共通する部分はなく、別個の創作的表現となっている。
(2)本件字幕部分
 両者はその訳文としての具体的表現において大きく異なっている。
(3)博士回答部分
 博士回答部分を英語で紹介する記載はなく、博士回答部分についての日本語による紹介部分は被控訴人独自の記述表現である。
(4)総体
 被告記述部分を総体としてみた場合も本件インタビュー部分を要約して紹介する記述表現となっている。

として、いずれの点においても控訴人の表現上の本質的な特徴を感得することはできないと判断、被告記述部分の作成による本件インタビュー部分の翻案権ないし複製権侵害性を否定しています(6頁以下)。

   --------------------

2 名誉声望毀損行為の成否

名誉声望毀損行為(著作権法113条6項)の成否について、裁判所は、被告記述部分が控訴人の著作物を利用したとはいえないこと、また、控訴人の社会的評価を低下させるものが含まれているということはできないとしてその成立を否定しています(8頁以下)。

   --------------------

3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否

著作権に基づかない人格的利益侵害を根拠とする一般不法行為論からの控訴人の主張について、裁判所は北朝鮮映画事件最高裁判決に言及した上で、結論として不法行為の成立を認めていません(8頁以下)。

   --------------------

■コメント

控訴審でも原審の結論が維持されています。
不適切な要約引用について、一般不法行為論上の社会的相当性の観点からしてもこれを欠くものではないと判断されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

原審記事
written by ootsukahoumu at 08:23|この記事のURLTrackBack(0)

2013年09月20日

ウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件

東京地裁平成25.9.12平成24(ワ)36678著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官  高野輝久
裁判官       三井大有
裁判官       藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.9.17
*キーワード:著作物性、説明書

   --------------------

■事案

WEB入力支援システムに関する説明資料の著作物性などが争点となった事案

原告:Eマーケティング事業会社
被告:インターネット広告関連ソフトウェア企画開発販売会社

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、112条

1 差止め及び廃棄等の請求について
2 損害賠償の請求について

   --------------------

■事案の概要

『原告が,被告に対し,(1)被告による資料の作成,頒布等が原告の著作物の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,上記資料の複製,頒布等の差止め及びその廃棄等を求め,(2)上記著作権等の侵害とともに,被告による資料の作成,頒布等が原告に対する不法行為を構成すると主張して,民法709条に基づき,損害金1680万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H20.04 原告が資料1を作成
H21.03 原告が資料2を作成
H21.08 被告がサービス開始
H24.05 被告が被告資料を作成、頒布、上映
H25.01 被告が被告資料の使用中止

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 差止め及び廃棄等の請求について

被告資料の複製等の差止めと印刷物等の廃棄について、裁判所は、被告は平成25年1月15日に本件訴状の送達を受けて被告資料の使用を中止し、以後は顧客に対してこれを頒布、上映していないこと、また、被告が被告資料を記録した電磁的記録媒体や被告資料を印刷した印刷物を保有していることを認めるに足りる証拠はないとして、被告が現在、被告資料を作成して顧客に対して頒布、上映しているということはできず、また、将来、被告資料を作成して頒布、上映することがあるということもできないとして差止め及び廃棄等の必要を否定しています(6頁以下)。

   --------------------

2 損害賠償の請求について

(1)著作権侵害の成否

(a)原告各資料の著作物性

原告各資料の著作権侵害の成否に関して、まず原告各資料の著作物性(著作権法2条1項1号)が検討されています。
この点について、裁判所は、
『原告各資料は,いずれも,ウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を効率的に顧客に伝えて購買意欲を喚起することを目的として,「ナビキャスト」の具体的な画面やその機能を説明するために相関図等の図や文章の内容を要領よく選択し,これを顧客に分かりやすいように配置したものであって,この点において表現上の創意工夫がされていると認められる。そうであるから,原告各資料は,全体として筆者の個性が発揮されたもので,創作的な表現を含むから,著作物に当たると認められる』と判断しています(7頁)。

(b)被告各記載が原告各記載を複製、翻案したものか

次に、原告資料と被告資料の対比から、被告各記載は、原告各記載と同一であるなどとして、依拠性も併せて被告の作成、頒布等の行為の著作権(複製権、翻案権、上映権、譲渡権)侵害性を肯定しています(7頁以下)。

(2)被告の故意又は過失の有無

被告の過失が認定されています(8頁以下)。

(3)損害論

原告の損害について、諸事情を勘案して10万円と認定されています(9頁以下)。

   --------------------

■コメント

WEB申込みフォームの使い勝手が悪いと見込み顧客のサイトからの離脱率が高まるわけですが、本件は、こうした不都合を回避してコンバージョンを上げるためのWEB入力支援システムに関する説明資料の著作物性などが争点となった事案です。
別紙(11頁以下)には具体的な記載内容の対比が示されていますが、同じようなサービスであれば、営業用資料として機能などの説明内容も似通うために説明文の著作物性が認められる幅も狭くなると考えられますが、原告各資料約15頁、被告資料18頁という分量のなかでの7頁分のデッドコピーに近い使われ方となると、結論としては著作権侵害性が肯定されてもやむを得ないところかもしれません。
なお、取扱説明書の著作物性判断に関する先例としては、風呂バンス浴湯保温器取扱説明書事件(大阪高裁平成17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件)、また、サービスのウェブ上の説明内容の著作物性については、データSOS事件(知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件)での判断があります。

   --------------------

■過去のブログ記事

風呂バンス浴湯保温器取扱説明書著作権侵害事件

データSOS事件(控訴審)
written by ootsukahoumu at 10:40|この記事のURLTrackBack(0)

2013年09月19日

「麦の会」規約事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「麦の会」規約事件

東京地裁平成25.9.9平成25(ワ)9561損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.9.18
*キーワード:既判力、信義則、却下、濫訴

   --------------------

■事案

グループの名称や規約の著作権の帰属を巡って争われた事案

原告:麦の会元メンバー死刑囚
被告:麦の会事務局代表B、運営委員C

   --------------------

■結論

訴え却下

   --------------------

■争点

条文 民訴法114条、115条

1 前訴判決の既判力
2 被告Cに対する訴えの適法性
3 被告Bに対する訴えの適法性

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,「麦の会」の事務局代表である被告B及び「麦の会」の「獄外運営委員代表」であるとする被告Cに対し,「麦の会」の名称や規約等の改変が原告の著作権を侵害すると主張して,被告らに対し,各10万円の支払を求めるとともに,著作権法112条に基づき「麦の会」の活動の差止めを求める』事案(2頁)

<経緯>

S55 死刑囚らが「麦の会」結成、規約策定
S59 原告が強盗殺人、死刑判決確定
H03 原告が麦の会脱退、「ユニテ」結成
H23 原告が事務局代表D及びBに対して提訴、棄却判決
H25 原告が麦の会代表者Eに対して提訴、取下擬制により終了
H25 原告が本訴提起

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 前訴判決の既判力

原告は、「麦の会」グループの名称や規約等の改変が著作権侵害にあたると主張しましたが、裁判所は被告Bに対しては著作権及び著作者人格権に基づく損害賠償請求権及び差止請求権を有しないことが前訴判決の既判力により確定していると判断しています(4頁)。
また、「念のため」として、本件全証拠によっても原告が「麦の会」の名称や規約について著作権を有するとは認められず、被告Bが原告の著作権を侵害しているとは到底認められないと判断しています。

   --------------------

2 被告Cに対する訴えの適法性

被告Cは前訴の当事者でもその承継人等でもなく前訴判決の既判力が及ぶわけではないものの、後訴が実質的に見て紛争の蒸し返しといえるときは、後訴の提起は信義則に照らして許されないと解するのが相当であると裁判所は説示。
その上で本件では、本訴において原告の主張する著作権侵害の内容が前訴において主張したものとほぼ同様であること、また前訴の被告らと本訴における被告らはいずれも麦の会関係者という点で共通しているとして、本訴は、実質的には前訴の蒸し返しというべきであり、本訴の提起は信義則に照らして許されないものと解するのが相当であると判断しています(4頁以下)。

3 被告Bに対する訴えの適法性

被告Bに対する関係においても本訴の提起は信義則に照らして許されないものと解するのが相当であると判断されています(5頁)。

結論として、本訴提起は被告いずれの関係でも却下されています。

   --------------------

■コメント

著作権侵害に関わる紛争ですが、濫訴と評価されて却下された事案です。
死刑廃止運動を進めている死刑囚のグループ「麦の会」の内紛という様相ですが(信仰の問題を含めた運営方針の問題でしょうか)、すでに20年以上経過した時点での一連の提訴の背景、また、原告が規約改訂にどの程度関与したかなど、規約の内容(著作物性)を含め著作権の争点についての詳しい部分が判決文からは分かりません。

   --------------------

■参考サイト

原告らが新たに結成した団体「ユニテ」について
死刑囚・命と向き合う ユニテ通信「希望」

written by ootsukahoumu at 08:20|この記事のURLTrackBack(0)

2013年09月05日

山野草DVD事件−著作権 損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

山野草DVD事件

東京地裁平成25.8.29平成24(ワ)32409等損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      志賀 勝
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.8.30
*キーワード:映像製作契約、著作権譲渡、写真家

   --------------------

■事案

山野草や高山植物の動画DVDの製作契約について紛争となった事案

原告(反訴被告):フリーカメラマン
被告(反訴原告):デジタルコンテンツ制作販売会社

   --------------------

■結論

請求一部認容(本訴、反訴)

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、26条、112条2項、114条3項

1 本件風景映像動画の削除請求に係る訴えの適否(本訴)
2 原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾したか(本訴)
3 原告の受けた損害(本訴)
4 本件映像動画1及び2が本件契約1条2項にいう本件成果物に当たるか(反訴)
5 被告のした解除が効力を生じたか(反訴)

   --------------------

■事案の概要

『本件は,本訴において,原告が,被告に対し,被告がその販売するDVD商品等に原告に無断で原告の撮影した風景の映像動画を複製して頒布したとして,著作権法112条に基づき,DVD商品等からの映像の削除を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金225万円及びこれに対する平成24年3月21日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,反訴において,被告が,原告に対し,原告が契約の条項に違反したことを理由に,原告との間の製作委嘱契約を解除したとして,上記契約に基づき,原告の撮影した山野草の映像動画について,被告が著作権を有することの確認,これらを収録した映像素材(原版)の引渡し並びに原告に対する既払金合計153万6465円及びこれに対する同年6月12日(解除の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(3頁)

本件作品:「virtual trip 花 Flowers 四季の山野草と高山植物」(DVD/Blu−rayDISC)

<経緯>

H21.11 原被告間で動画製作契約締結
H24.03 被告が本件作品を販売
H24.05 被告が原告に素材利用に関する催告書通知
H24.06 被告が解除通知

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件風景映像動画の削除請求に係る訴えの適否(本訴)

原告は、著作権法112条2項に基づき侵害の停止又は予防に必要な措置として本件作品からの本件風景映像動画((「春」「夏」「秋」「冬」及び「高山植物」との字幕が付されたものを除く風景映像動画)の削除を請求しました。
この点について裁判所は、同項ではこの請求は独立してすることはできず、侵害の停止又は予防の請求に附帯してしなければならないところ、原告は複製、頒布の停止又は予防を請求していないとして、独立して行われた上記請求に係る訴えは不適法であると判断しています(12頁)。

   --------------------

2 原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾したか(本訴)

本件作品に収録された山野草の映像動画等は点数で448点(尺数で58分4秒)、そのなかに挿入されている風景の映像動画となる本件風景映像動画は、点数で52点(尺数で9分8秒)でした。
原告が本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾していたかどうかについて、次に検討されています(12頁以下)。
この点について裁判所は、製作委嘱契約書に風景の映像動画を含むような記載は格別していないこと、原告は、被告担当者に対してかねてから本件作品とは別の企画を提案していたこと、また、原告は、本件作品での「扉」としての使用について、各々の季節を意味するものと理解し、これに4点の風景の映像動画を使用することを承諾したものということができると判断。
他に原告が各々の季節の「扉」に使用するものを除いて風景の映像動画を収録することを承諾して本件契約を締結したことを認めるに足りる証拠はなく、原告がこれを超えて風景の映像動画を使用することを承諾するとは考え難いとして、原告が「扉」に使用するものを除いて風景の映像動画を収録することを承諾したと認めることもできないと認定。
被告は、本件作品に本件風景映像動画を収録することによって、原告の本件風景映像動画に対する著作権(複製権及び頒布権)を侵害するものと認められると判断されています。

   --------------------

3 原告の受けた損害(本訴)

本件風景映像動画に対する著作権侵害に関する損害について、裁判所は、製作委嘱契約で著作権譲渡を含め150万円の対価を原告は被告から得ていたことを基準として、山野草の映像動画1点に対し3348円(円未満切捨て)の支払を受けたことになるため、点数としてみれば52点で計算することになるが(合計17万4096円)、映像動画には長短があるため尺数を基準に算定することが相当であるとした上で、9分8秒分に相当する23万5935円(円未満切捨て)の支払を受けることができたと判断。
原告は、本件風景映像動画の著作権の行使について23万5935円を受けることができたとして、これを自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるとしています(114条3項 15頁以下)。

   --------------------

4 本件映像動画1及び2が本件契約1条2項にいう本件成果物に当たるか(反訴)

原告は、本件納品映像動画と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影した素材を、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」に提供して(本件映像動画1)、上記ライブラリーにおいてこれらを販売し、また、株式会社アマナイメージズが運営する動画素材販売ウェブサイトにおいても素材を販売していました(本件映像動画2)。
これに対して被告は反訴において、本件映像動画1及び2は本件納品映像動画と同様に本件契約に基づいて製作された原版に当たるものと認められる(仮に本件納品映像動画のみが原版に当たるものとしても、本件映像動画1及び2はその原版を製作する過程で生じた中間成果物に当たる)と主張しました(17頁以下)。

製作委嘱契約書 1条(目的)
「前項に基づき製作された原版(全ての収録素材を含む)及び原版を製作する過程で生じた中間成果物(以下,併せて,本件成果物という)に関する所有権並びに著作権法上の一切の権利(著作隣接権,並びに著作権法第27条,28条の権利を含む),産業財産権及びその他一切の権利は甲に帰属するものとする。」(2項)

この点について、裁判所は、製作契約に基づく録音録画物の製作として撮影をした以上、これと同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものは本件契約に基づき制作した録音録画物に当たるといわなければならないとして、本件成果物に当たると判断しています。

   --------------------

5 被告のした解除が効力を生じたか(反訴)

本件映像動画1が本件契約に基づいて製作された原版であるか、又は少なくても原版を製作する過程で生じた中間成果物であることから、その著作権は本件契約1条2項により原告から被告に譲渡され、被告に帰属することとなります。
そして、原告は、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」において本件映像動画1を販売したことから、原告は本件契約1条2項に違反したことになるため、被告のした解除は有効であり、これにより本件契約は終了したと判断されています(18頁以下)。

10条(解約の効果)
「甲が,前条の解約により本契約を終了させたときは,乙はそれまでに甲より受領した金員を甲に返還しなければならない。」(1項)
「甲は,本契約を解約した場合においても,本契約によって取得した著作権,及び乙がそれまで取得した本件成果物の素材の所有権はすべて甲に独占的に帰属するものとする。」(2項)

本件契約10条には、原告帰責事由による解除の際の金員返還義務及び著作権の帰属不変更が規定されており、結論として、反訴については、被告が本件映像動画1及び2の著作権を有することの確認請求及びこれらを収録した映像素材(原版)の引渡請求並びに既払金返還請求には理由があると判断されています。

   --------------------

■コメント

「日本の四季の風景とともに映し出すリラクセーション目的の映像コンテンツ」の制作発注を受けたフリーカメラマンが、同じ撮影機会を利用して類似内容の別素材を制作し、動画素材販売ウェブサイトで販売をしたという事案です。

DVD販促映像はこちらです(音が出ます)。
virtual trip 花 Flowers 〜四季の山野草と高山植物

クライアント側からすれば、制作機会を利用して別素材を受注者が制作しても、それはそれで許す場合もある(たとえば、編プロ発注で旅行ガイドブック制作の際の海外ロケハンでの素材収集、別企画への流用など)反面、クライアントの制作費で交通費その他諸経費などが出ている訳で、少なくとも流用によって他社で販売されることでDVDの販売に影響が生じる可能性がある場合は、契約の趣旨に反することになって認められるところではありません。
双方において、制作費の多少も含めて言い分があるのかもしれませんが、納品した成果物の範囲や何が禁止事項なのかは、それこそ契約で事前に取り決めておくべきこととなります。
そもそも本件契約は成果物の著作権譲渡を内容とする契約ですが、クリエーター側としては全部譲渡の意味(同一あるいは類似の素材を利用できなくなる=自然写真家としての活動の範囲を狭める可能性を持つ)の重さの認識を深める必要があるのではないかと感じる事案です。
written by ootsukahoumu at 06:53|この記事のURLTrackBack(0)

2013年08月13日

テレビ放送用フォント事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

テレビ放送用フォント事件

大阪地裁平成25.7.18平成22(ワ)12214損害賠償等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      松阿彌隆
裁判官      松川充康

*裁判所サイト公表 2013.8.8
*キーワード:タイプフェイス、フォント、契約、一般不法行為論、不当利得

   --------------------

■事案

タイプフェイス(フォント)の使用許諾契約上の利益が侵害されたかどうかが争点となった事案

原告:フォントベンダー
被告:放送会社、映像制作会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 民法709条、703条

1 本件タイプフェイスの保護について
2 被告らによる営業上の利益の侵害性
3 本件DVDに関する不法行為の成否
4 不当利得の成否

   --------------------

■事案の概要

『フォントベンダーである原告が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,原告が使用を許諾した事実がないのに,前記フォントを画面上のテロップに使用した番組が多数制作,放送,配給され,さらにその内容を収録したDVDが販売されたとして,番組の制作,放送,配給及びDVDの販売を行った被告テレビ朝日並びに番組の編集を行った被告IMAGICAに対し,被告らは,故意又は過失により,フォントという原告の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害したものであり,あるいは原告の損失において,法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであると主張して,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,原告の定めた使用料相当額の金員(主位的請求には弁護士費用が加算される。)の支払を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H07  原告が旧フォントソフトを販売
H12  原告が被告テレビ朝日に「ソフトウェア使用に関する同意書」通知
H14  原告が被告テレビ朝日に通知、被告が対応拒否
H15  原告が被告テレビ朝日に無料サービス終了通知
     原告が「VDL TYPE LIBRARYデザイナーズフォント」(本件フォント)販売
H18  被告テレビ朝日下請制作会社従業員がロゴGを購入
H19  被告テレビ朝日従業員がロゴG購入
H21  原告が被告IMAGICAに通知
     被告テレビ朝日が番組をDVD販売

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件タイプフェイスの保護について

原告は、本件タイプフェイスは、データ形式にした本件フォントが一揃いのタイプフェイスとして、さらに、一文字単位でも法的な保護に値する利益を有する旨主張しました(33頁以下)。
しかし、裁判所は、ゴナ書体最高裁判決(最判平成12.9.7平成10(受)332)、北朝鮮映画事件(対フジテレビ)最高裁判決(最判平成23.12.8平成21(受)602)に言及した上で、本件フォントを使用すれば原告の法律上保護される利益を侵害するものとして直ちに不法行為が成立するとすれば、本件タイプフェイスについて排他的権利を認めるに等しいことになるとして、原告の主張を認めていません。

   --------------------

2 被告らによる営業上の利益の侵害性

原告は、さらに本件フォントに係るライセンスビジネスという営業上の利益が侵害された旨主張しました(34頁以下)。
しかし、裁判所は、以下の諸点から不法行為の成立を否定しています。

(1)使用態様
本件フォントが本件番組等のテロップに使用された経緯として、被告テレビ朝日又は被告IMAGICAの担当者が定型的、継続的業務として被告IMAGICAの赤坂ビデオセンター編集室で本件フォントを使用しテロップを製作していたと認めるに足りる証拠はないこと等から、被告らが本件フォントソフト又は本件フォント自体を使用してテロップを製作したとは認められない。

(2)故意
テロップ製作業者等から被告らがフォント成果物を取得する際に本件フォントに由来する文字であることを認識していたとしても当然に原告に対する故意の不法行為が成立するものではない。また、本件使用許諾契約との関係で、少なくとも被告らにおいてフォント成果物の納品元であるテロップ製作業者等が、原告との間で本件フォントの使用に制限を課す本件使用許諾契約を締結しており、かつ、これに違反している旨知っていたことを要するものと解されるところ、こうした事実を認めるに足りる証拠はない。

(3)過失
旧フォントと本件フォントを区別することは困難であること、多数のフォントベンダーによる多数のフォントが流通しており使用権限の確認は困難であること、フォントの性質、制作業務が分担されていること、といった諸点から、フォント成果物であるテロップ画像を取得して本件番組の制作、編集に使用する被告らに、テロップ製作業者等による本件フォントの使用について、原告の正当な許諾があったかを確認して許諾がないのであればその使用を中止すべき義務があったにもかかわらずこれを怠った、との過失を認めることはできない。

(4)違法性
利益の要保護性や使用態様から、違法性が認められない。

    --------------------

3 本件DVDに関する不法行為の成否

原告は、本件DVDにおける本件フォントの使用について、本件番組における本件フォントの使用とは別に不法行為が成立すると主張しました(40頁以下)。
しかし、裁判所は、被告IMAGICAが本件各DVD1における本件フォントの使用に関わったことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告テレビ朝日についても本件DVDにおいて使用された本件フォントは違法性を帯びることなく文字としての流通過程に置かれたものといえるとして、本件DVDに関する不法行為の成立も否定しています。

   --------------------

4 不当利得の成否

原告は、被告らが法律上の原因なく本件フォントの使用利益を利得し、あるいは使用料支払を免れたことが不当利得に当たる旨主張しました(41頁以下)。
しかし、裁判所は、本件タイプフェイスには著作物としての排他的権利性は認められず、本件フォント成果物を取得しこれをテレビ番組等に使用することで被告らが一定の利益を受ける面があったとしても被告らが「他人の財産又は労務によって利益を受け」(民法703条1項)たと評価することはできないこと、また、被告らは、本件使用許諾契約の当事者とは認められず、同契約に基づく債務を負担する立場になく、本件使用許諾契約に基づく使用料が支払われていないことをもって、原告の損失あるいは被告らの利得と評価することもできないなどとして、不当利得の成立を否定しています。

   --------------------

■コメント

顕著な独創性を有する場合は別段、実用書体であるフォント自体に著作物性が認められず著作権法上の保護を受けられない状況のなかで、業界での契約慣行の確立のためにフォントベンダーの皆様は日々尽力されておいでかと思います。
番組制作にあたって「良いモノ」として現場が使っているわけで、価値創造のサイクルを絶やさないためにもフォントの重要性を再認識しなければなりません。
放送事業者にあっては、権利処理が煩雑であればなおさら、フォントの価値を尊重して、率先してライセンス契約を締結していく姿勢が求められるところです。

   --------------------

■参考判例

ゴナ書体事件
最判平成12.9.7平成10(受)332著作権侵害差止等請求本訴、同反訴事件

北朝鮮映画事件(対フジテレビ)
最判平成23.12.8平成21(受)602著作権侵害差止等請求事件

   --------------------

■参考文献

財団法人知的財産研究所『タイプフェイスの保護のあり方に関する調査研究報告書』(平成19年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書)(2008)報告書PDF

財団法人知的財産研究所『諸外国におけるタイプフェイスの保護の現状と問題点に関する調査研究報告書』(平成18年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書)(2007)報告書PDF

大家重夫『タイプフェイスの法的保護と著作権』(2001)
written by ootsukahoumu at 08:46|この記事のURLTrackBack(0)

2013年08月09日

書籍「週刊 ホンダ CB750FOUR」事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

書籍「週刊 ホンダ CB750FOUR」事件

東京地裁平成25.7.19平成23(ワ)785著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.8.6
*キーワード:写真、出版、著作者、職務著作、譲渡、包括許諾、複製権、公衆送信権、著作者人格権、損害論

   --------------------

■事案

バイクエンジン部分の写真についての二次利用に関する包括許諾等の有無が争点となった事案

原告:写真家
被告:出版社
被告補助参加人:制作会社

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項2号、15条1項、21条、23条、61条、63条、18条、19条、20条、114条3項、112条1項、2項

1 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか
2 本件写真の創作が職務著作に当たるか
3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無
4 包括的利用許諾の合意の有無
5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無
6 公表権の侵害の有無
7 氏名表示権の侵害の有無
8 同一性保持権の侵害の有無
9 著作者人格権不行使の合意の有無
10 被告の過失の有無
11 損害額
12 差止の要否

   --------------------

■事案の概要

『職業写真家である原告が,出版社である被告に対し,別紙写真目録1記載の写真(写真番号QP3K4517。以下「本件写真」という。)の著作権が原告に帰属するのに,被告は,原告の承諾なく,別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に本件写真を掲載し,原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,(1)不法行為に基づく損害賠償請求として790万円(附帯請求として本件書籍の発行日である平成22年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,(2)著作権法112条1項に基づく差止請求として,(ア)本件写真の複製,公衆送信又は改変の禁止,(イ)本件写真を複製した本件書籍の出版,販売又は頒布の禁止,(3)同法2項に基づく廃棄請求として,(ア)被告の運営するウェブサイト内のウェブページからの本件写真の削除,(イ)本件書籍の廃棄を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H18.08 補助参加人の依頼で原告が撮影
H20.02 補助参加人が書籍「HONDA CB750Four FILE.」発行
H22.08 被告が「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズ創刊号(本件書籍)発行、ウェブページに掲載

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか

本件写真の著作者(創作者)について、補助参加人は、本件写真における被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っており、原告は補助参加人の指示に従って物理的な撮影行為を行ったのみである旨主張しました(37頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人は写真の創作的内容について具体的指示をしていないとして、原告が著作者(創作者)であると認定しています。

   --------------------

2 本件写真の創作が職務著作に当たるか

補助参加人は、原告が補助参加人の業務に従事する者であって、補助参加人のために本件写真を撮影し、また、本件写真は補助参加人名義のもとに公表するものであるから、本件写真は職務著作に該当し、本件写真の著作者は補助参加人である旨主張しました(39頁以下)。
この点について、裁判所は、職務著作(15条1項)における「法人等の業務に従事する者」の意義について言及した上で、原告と補助参加人との間に雇用関係は認められない本件において、本件写真の撮影当時、原告が補助参加人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価できるかについて検討しています。
そして、撮影機材は原告が自ら準備している点、写真撮影に当たっても自らの判断でその創作的内容を決定していた点や補助参加人は原告に対して報酬を書籍発行後に支払っている点、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日にすぎないといった業務の態様や報酬の支払状況から、本件写真の撮影当時において補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価することは困難であり、また、原告が補助参加人の指揮監督下にあったことを認めるに足りる証拠もないとして、本件写真の創作の職務著作性を否定しています。

   --------------------

3 本件写真に係る著作権の譲渡の有無

補助参加人は、原告に対して撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを説明し、原告はこれを了承していた旨主張しました(40頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人から著作権譲渡について説明があったとはいい難い、第三者への複製物交付の際に承諾を原告に求めていた、契約書を作成することが困難であった事情が見当たらない、といった諸事情から、原告と補助参加人との間で原告撮影の写真について著作権の譲渡の合意があったとは認められないとして、本件写真に係る著作権の譲渡があったとはいえないと判断しています。

   --------------------

4 包括的利用許諾の合意の有無

補助参加人は、補助参加人と原告との間で原告撮影の写真について、他の書籍の内容に合わせて改変した上で掲載することを許諾する旨の包括的利用許諾の合意があった旨主張しました(42頁以下)。
しかし、裁判所は、補助参加人が自社発行の書籍での二次利用に際して書籍を原告に贈呈し、その際に原告が異議を述べたことがなかったという事情があったものの、こうした状況があったとしても補助参加人以外の第三者が二次利用する場合にまで原告が許諾していたと認めることは困難であるとして、包括的利用許諾の合意の成立を否定しています。

   --------------------

5 複製権及び公衆送信権の侵害の有無

本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分についての本件掲載写真の利用行為の複製権(21条)侵害性と被告運営のウェブサイトへの掲載行為の公衆送信権(23条)侵害性が肯定されています(43頁以下)。

   --------------------

6 公表権の侵害の有無

原告の同意を得ることなく未公表の著作物である本件掲載写真を本件書籍に掲載しており、公表権(18条)侵害性が肯定されています(44頁)。

   --------------------

7 氏名表示権の侵害の有無

本件書籍に原告の氏名が表示されておらず氏名表示権(19条)侵害性が肯定されています(44頁以下)。

   --------------------

8 同一性保持権の侵害の有無

本件掲載写真は、本件写真に原告の意に反する改変が加えられているとして同一性保持権(20条)侵害性が肯定されています(45頁)。

   --------------------

9 著作者人格権不行使の合意の有無

補助参加人は、原告に対して著作権「買取り」を説明、合意しており、著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる旨主張しました(45頁以下)。
しかし、裁判所は、「買取り」と説明があったとしても著作者人格権(その不行使)の説明があったとはいえないとして、著作者人格権不行使の合意があったとはいえないと判断しています。

   --------------------

10 被告の過失の有無

裁判所は、被告出版社には、本件写真を利用するに当たって本件写真に係る著作権の帰属等を調査・確認する義務があったと認められると判断。その上で被告は原告の許諾を得ることなく本件写真を利用したとして上記調査・確認義務を怠った過失があると認定しています(46頁以下)。

   --------------------

11 損害額

(1)使用料相当額(114条3項)

本件写真の本件書籍に対する寄与率5%
本件写真の利用料率15%
販売価格690円(税込)
販売数5万7731部

(計算式)690円×5万7731部×5%(寄与率)×15%(利用料率)=29万8757円(1円未満切捨て)

(2)著作者人格権侵害関連

20万円

(3)弁護士費用相当額

10万円

合計 59万8757円

   --------------------

12 差止の要否

本件写真の複製、公衆送信又は改変について差止めの必要があると認められています(50頁)。
また、本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布についても同様に差止めの必要性が認められています(112条1項)。
さらに、本件書籍の廃棄と被告ウェブサイトのウェブページからの本件写真の廃棄についても、その必要があると認められています(112条2項)。

   --------------------

■コメント

制作単価が下げられ、デジタル化で感材費も支払われず、撮影と同程度に重要なレタッチといった作業も負担させられる(別途、レタッチ代が支払われるのであれば良いのですが)厳しい取引環境にある写真家さんにとって、二次使用の範囲まで包括的な無償使用許諾が認められてしまう、とされるのは許されがたい事態です。
ボツとなったショットを含め、著作権譲渡であるならばその旨を事前に明確にしておくこと、また、ライセンスであれば二次使用に関する取決めをして、別途使用料を支払うのが出版社を始め、発注先の下請け制作会社や代理店の責務(下請法等法令遵守は言わずもがなとなります)です。
なお、出版社の過失等が問われた著作権事案で最高裁判所サイトで公表されたものでは、ぐうたら健康法事件(東京地裁平成7.5.31平成5(ワ)2444謝罪広告等請求事件)、江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー事件(東京地裁平成18.5.11平成17(ワ)26020損害賠償請求事件)、共同執筆論文著作権侵害事件(東京地裁平成19.1.18平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件)以外はすべて出版社側の過失あるいは責任が認められています。出版社の外部への制作丸投げの際の安易な責任逃れは、通用しない状況です。

   −−−−−−−−−−−−−−

■追記(2013.12.14)

損害論(被告の利益額に基づく損害(著作権法114条2項))関連(47頁以下)での特許法との調整の要否

特許法102条2項について、知財高裁平成25年2月1日大合議判決(判時2179号36頁、判タ1388号77頁)参照。

・同項を適用するための要件としては、殊更厳格なものとする合理的な理由はない
・特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮すべき。
・特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではない。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130225102808.pdf

written by ootsukahoumu at 07:51|この記事のURLTrackBack(0)

2013年08月02日

ファッションショー映像事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ファッションショー映像事件

東京地裁平成25.7.19平成24(ワ)16694損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.7.26
*キーワード:著作物性、実演、モデル、スタイリスト、ヘア、メイク、公衆送信権、放送権、実演家人格権

   --------------------

■事案

ファッションモデルに施された化粧や髪型のスタイリングなどの著作物性が争点となった事案

原告:イベント企画制作会社、イベント運営業者
被告:NHK、服飾広告代理店

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、3号、23条1項、19条1項、92条1項、90条の2第1項

1 公衆送信権(23条1項)、氏名表示権(19条1項)侵害の成否
2 放送権(92条1項)、実演家としての氏名表示権(90条の2第1項)侵害の成否

   --------------------

■事案の概要

『原告らが,被告日本放送協会(以下「被告NHK」という。)は,被告株式会社ワグ(以下「被告ワグ」という。)従業員を介して,原告らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映像の一部である別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)をそのテレビ番組において放送し,これにより,原告有限会社マックスアヴェール(以下「原告会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに原告A(以下「原告A」という。)の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被告らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被告ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,原告会社につき943万4790円,原告Aにつき110万円(附帯請求として,これらに対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H21.06 原告らが本件ファッションショー開催
        株式会社JFCCが「fashion TV」で映像を放送
        NHKが「特報首都圏」において本件番組を放送

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 公衆送信権(23条1項)、氏名表示権(19条1項)侵害の成否

イベント制作会社及びディレクターである原告らは、被告NHKの本件映像部分の放送により本件ファッションショーの以下の部分の著作物の著作権(公衆送信権、原告Aの氏名表示権)が侵害された旨主張しました(13頁以下)。

(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング
(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート
(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け
(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート
(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像

この点について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義について言及した上で、上記部分の著作物性を検討。

(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング

化粧及び髪型はいずれも一般的なものというべき。
また、創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているとはいえない。

(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート

衣服及びアクセサリーはいずれも既製品であり、かつ、そのほとんどは大量販売が予定されているものであり、通常考えられるところと著しく異なる特殊な組み合わせ方をしているわけでもなく、衣服及びアクセサリーの選択及び組み合わせ方に特徴的な点はない。

(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け

各モデルのポーズ又は動作は、ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段、目新しいものではない。

(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート

(1)から(5)の要素の組み合わせにより新たな印象が生み出されているとはいえない。

(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像

出演順序は、便宜的な要素を考慮して決定されたものにすぎない。また、創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているとはいえない。
背景映像について、具体的内容を看取することが困難である。

以上から、本件ファッションショーのうち、本件映像部分に表れた点に著作物性は認められず、又は本件映像部分においてその創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないとして、本件映像部分を放送することが原告会社の公衆送信権又は原告Aの氏名表示権を侵害するものとは認められないと判断されています。

   −−−−−−−−−−−−−−

2 放送権(92条1項)、実演家としての氏名表示権(90条の2第1項)侵害の成否

裁判所は、モデルの動作やポーズが本件では「著作物を・・・演ずる」(2条1項3号)に当たらないとして、実演性を否定(20頁以下)。
また、ファッションショー自体の実演性も否定しています。
結論として、本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが「その実演」を公衆に提供し又は放送する場合に当たるものとは認められないとして、本件映像部分の放送が原告会社の放送権又は原告Aの実演家としての氏名表示権侵害性が否定されています。

   --------------------

■コメント

ヘアやメイクの著作物性やモデルのポーズの著作物性が争点とされた事例として先例性があります。
バレエ振付(舞踏)の著作物性については先例がありますが(アダージェット事件 東京地裁平成10.11.20)、より一般的形式的な上演が想定されるファッションショーに関わる制作物等の著作物性議論として参考になります。
報道番組での映像使用ですが、引用の要件(出所明示)が揃っていれば、また違っていたのかもしれません。
written by ootsukahoumu at 09:14|この記事のURLTrackBack(0)

2013年07月29日

似顔絵画像無断利用事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

似顔絵画像無断利用事件

東京地裁平成25.7.16平成25(ワ)24571損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2013.7.24
*キーワード:公衆送信権、名誉声望保持権、名誉毀損

   --------------------

■事案

漫画家が制作した似顔絵を許諾の範囲を超えた態様で利用したとして紛争となった事案

原告:漫画家
被告:個人

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法23条、113条

1 本件行為1についての違法性及び責任
2 本件行為2についての違法性及び責任
3 損害額

   --------------------

■事案の概要

『漫画家である原告が,被告に対し,(1)被告が原告の描いた似顔絵を無断で画像投稿サイトに投稿したことは,原告の著作権を侵害し,かつ,その名誉又は声望を害する方法で著作物を利用する行為として原告の著作者人格権を侵害するものであり,また,(2)被告がその削除を求めた原告からあたかも殺害予告を受けたかのような記事をツイッターのサイトに投稿したことは,原告に対する名誉毀損に該当するものであると主張して,不法行為に基づき400万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である平成24年9月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件行為1についての違法性及び責任

原告漫画家は、読者サービスの一環として被告の要望に応じて昭和天皇及び今上天皇の似顔絵各1点を制作し提供しました。被告が、原告の許諾を得ずに画像投稿サイトTwitpicに似顔絵の画像をアップロードした点について、裁判所は公衆送信権(23条)侵害性を認めています(6頁以下)。
また、被告によるツイッターへの投稿内容(文章とともに画像投稿サイトへのリンク先を掲示)が、原告が一定の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴、賛同しているとの評価を一般人が受け得るものであり、原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものといえるとして、原告の著作者人格権を侵害するものとみなされる(113条)と裁判所は判断しています。
結論として、被告による画像投稿及びテキスト投稿(本件行為1)は、原告の公衆送信権及び著作者人格権を侵害するものであると認められています。

   --------------------

2 本件行為2についての違法性及び責任

被告がツイッターに「Aさんにも○害予告されました」とする記事を掲載した行為(本件行為2)について、裁判所は、上記投稿に接した通常のネットユーザーは原告が被告に対して文字どおり殺害予告をし、又は常軌を逸した攻撃的言動ないし危害の告知をしたと受け取るものと考えられると判断。本件行為2は、被告が原告からそのような危害の告知を受けたとの事実を摘示する記事を投稿するものであり、原告の社会的評価を低下させるものであるとして、原告の名誉を毀損する行為であると裁判所は認めています(8頁以下)。

   --------------------

3 損害額

損害論として、裁判所は、公衆送信権侵害部分について20万円、著作者人格権侵害部分について15万円、名誉毀損部分について15万円の合計50万円を認定しています(9頁以下)。

   --------------------

■コメント

漫画家さんが読者サービスとして提供した似顔絵を政治的信条の表現のために流用されるという想定外の事態が起こり、また漫画家さんやそのご家族へ危害が及ぶ恐れもあったということで、単なる著作権侵害事案にとどまらない事件でした。
written by ootsukahoumu at 13:49|この記事のURLTrackBack(0)

2013年07月25日

パンフレットイラスト事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パンフレットイラスト事件

大阪地裁平成25.7.16平成24(ワ)10890損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充康
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2013.07.19
*キーワード:イラスト、許諾、改変、著作者人格権、引用、権利濫用

   --------------------

■事案

岡山県のパンフレットに提供されたイラストの利用許諾内容が争点となった事案

原告:イラストレーター、ストックフォト会社
被告:岡山県、新見市、国際貢献大学校運営機構

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法19条1項、20条1項、32条1項、民法1条3項

1 原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等
2 許諾の有無
3 引用の成否
4 著作者人格権侵害の成否
5 権利濫用の成否

   --------------------

■事案の概要

『(1)主位的請求
ア 原告リーブラの著作権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告リーブラの有する本件イラストの著作権(複製権,公衆送信権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,566万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
イ 原告P1の著作者人格権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,100万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
(2)予備的請求(原告P1の著作権及び著作者人格権侵害に係る請求)
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作権(複製権,公衆送信権,送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,666万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求』(5頁以下)

<経緯>

H08.03 岡山県が「おかやま国際化推進プラン」策定
H10.03 原告P1がコスモ社と作品使用権販売委託契約締結
H11.12 コスモ社が原告リーブラと営業権リース契約締結
H13.03 岡山県が「新おかやま国際化推進プラン」策定
        岡山県がパンフレットを印刷会社に発注
        原告会社がイラスト使用を許諾
H15.08 公設国際貢献大学校(本件大学校)のウェブページに掲載
H16.11 コスモ社が原告リーブラに営業権を譲渡
        原告P1と原告リーブラが使用権設定販売委託契約締結
H24.01 原告リーブラが被告岡山県に通知文送付
       
   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等

被告岡山県のパンフレットの表紙に使われた本件イラストの著作権の帰属について、裁判所は、本件イラストの著作者である原告P1(イラストレーター)と原告リーブラ(ストックフォト会社)との間の契約や訴外コスモ社(ライセンシングエージェント)との間の契約が、いずれも著作権譲渡を含むものではなく、単に著作権の管理に関する業務を委任したものとしか解することができないとして、原告リーブラが本件イラストの著作権者であることを否定しています(16頁以下)。
結論として、原告リーブラは本件イラストの著作者ではなく、また、本件掲載行為当時、本件イラストの著作権者でもなかったとして、原告リーブラによる著作権侵害に係る請求は認められていません。

   --------------------

2 許諾の有無

公設国際貢献大学校(設置者 哲多町)が、平成15年8月に被告岡山県から許諾を受けて本件大学校のウェブページにおいて本件パンフレットの表紙の画像を掲載した行為(本件掲載行為)について、原告らは、被告岡山県とは別法人である本件大学校での利用であるとして、許諾外の行為であると主張しました(18頁以下)。
この点について、裁判所は、本件パンフレットの表紙への利用許諾の対価(5万0050円)の他に、二次利用に関する利用料(2万5480円)が別途支払われていたことから、二次利用の範囲について検討。
原告らが許諾をした二次利用の具体的な態様が必ずしも明らかではない一方で、二次利用の範囲について何らかの限定を付していたような事情がないこと、また、ウェブページ掲載の目的や態様も勘案したうえで、本件掲載行為が原告らによる二次利用に係る許諾の範囲内の行為であると判断しています。

   --------------------

3 引用の成否

被告らは、本件掲載行為が引用(32条1項)に該当すると主張しましたが、裁判所はこれを認めています(20頁以下)。

   --------------------

4 著作者人格権侵害の成否

本件イラストには、表紙掲載にあたって広告コピーと岡山県の所在を示すハート形が挿入されていましたが、裁判所は、これらの改変は原告P1の許諾の範囲内のものであるとして、この点に関する同一性保持権侵害性(20条1項)を認めていません(21頁以下)。
また、原告P1の氏名が表示されていなかった点についても、許諾の範囲内であるとして、氏名表示権侵害性(19条1項)を否定しています(22頁以下)。
結論として、本件イラストへ改変行為、ウェブページへの掲載行為のいずれも原告P1の著作者人格権を侵害しないと判断されています。

   --------------------

5 権利濫用の成否

原告らの各請求が権利濫用に当たるとする被告らの主張が認められています(23頁以下)。

   --------------------

■コメント

genkoku
原告イラスト
panf
本件パンフレット表紙

レンタルイラストの二次利用の範囲が争点となった事案です。
紙媒体のパンフレット表紙に利用されることを一次利用とした場合で、二次利用名目の利用料も別途支払われている際に、他の団体のウェブサイトでこの表紙画像を掲載させることも二次利用の範囲内になるのかどうかが争点となりました。
二次利用料が支払われているのに、その具体的な態様が明確にされていないという意味では、双方にとって曖昧な契約であったといえます。

   --------------------

■参考判例

レンタルポジの契約に関連する事案として、

ドトールレンタルポジ事件(写真家対代理店、クライアント)
大阪地裁平成17.12.8?平成17(ワ)1311損害賠償等請求事件

レンタルポジ委託契約事件(写真家対レンタルポジ会社)
東京地裁平成22.3.30平成21(ワ)6604損害賠償請求事件
written by ootsukahoumu at 07:01|この記事のURLTrackBack(0)

2013年07月22日

自動車用プラスチックデータ図表事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自動車用プラスチックデータ図表事件

東京地裁平成25.7.18平成24(ワ)25843著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      高橋 彩
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2013.7.19
*キーワード:図表、著作物性、アイデア

   --------------------

■事案

自動車用プラスチックのデータ図表の著作物性が争点となった事案

原告:自動車用プラスチック研究開発業者
被告:執筆者、出版社ら

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号

1 本件書籍の各表の著作物性の有無

   --------------------

■事案の概要

『原告が,被告らに対し,被告らが共謀して被告書籍を作成・販売し,インターネット上に掲載している行為が,別紙書籍目録記載1の書籍(以下「本件書籍」という。)に掲載された14個の表(別紙対照表の左側に記載されたもの(ただし,ピンク色及び緑色の着色はされていない。)。以下「本件書籍の各表」と総称する。)についての原告の著作権(複製権,譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していると主張して,(1)著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,84万円及びこれに対する不法行為の後である平成24年10月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,(2)著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告Bに対し100万円,被告リサーチに対し100万円,被告出版に対し50万円及びこれらに対する平成24年10月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,(3)著作権法112条1項に基づき,被告らに対し,被告書籍の複製,譲渡あるいは公衆送信の差止めを,(4)同条2項に基づき,被告らに対し,被告書籍の廃棄及びその電子データを記憶した媒体の廃棄を,(5)同法115条に基づき,被告らに対し,別紙告知文のとおりの告知文の掲載を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H22.03 原告が本件書籍刊行
H22.05 被告書籍刊行

本件書籍:
「プラスチック自動車部品 Plastic Automotive Parts ケーススタディから読み解く現状と近未来」

被告書籍:
「自動車用プラスチック部品のメーカー分析と需要予測 Analysis on The Mfrs. & Demand for Automotive Plastic Parts 世界の完成車・部品メーカー分析/HEV・EV時代のプラスチック需要予測」

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件書籍の各表の著作物性の有無

原告が執筆した書籍は、自動車用プラスチックの20世紀後半から21世紀初頭までの発展の経緯を統計データをもとに振り返り、また近未来を検討する内容でしたが、そこで掲載されいる図表14点の著作物性が争点となっています(11頁以下)。

原告は、図表の著作物性について、本件書籍の各表は自動車に用いられるプラスチック部品につき最適の選択と配列を行い、その採用プラスチックについて原告の実務経験に基づく情報を掲載していることから、他の資料にはない正確かつ詳細な最新情報が記述され、読者に今後の技術開発・市場開発の将来展望を与えるものとして原告の個性と独創性が発揮されていると主張しました。

この点について裁判所は、著作物性(2条1項1号)の意義に関して言及した上で、
「原告の上記主張は,本件書籍の各表を作成するに当たってのアイデアの独創性や,本件各表に記載されている情報そのものの価値を主張するものにすぎず,これらは著作権法による保護の対象となるものではない。」
と判断。原告の主張を認めていません。

また、「同表は,本件書籍の執筆段階において自動車に用いられていたプラスチックの種類,採用部位,成形法等を当該分類項目に従って整理したものであること,このような事項を整理した表は本件書籍の発行以前にも多数みられたことが認められ,この点は本件書籍の各表のうち他のものについても同様ということができる。そうすると,本件書籍の各表は,自動車に採用されているプラスチックに関する事実をごく一般的な表の形式に整理したものにすぎないから,その表現自体は平凡かつありふれたものというべきであって,これに著作物性を認めることはできないと判断するのが相当」であると判断しています。

結論として、各表の著作物性が否定され、被告らによる著作権侵害性が認められず請求は棄却されています。

   --------------------

■コメント

アマゾンで原告書籍を検索して、内容の一部を見てみると、「普通・小型乗用車における原材料構成推移」(表1)が掲載されているのが分かります(3頁)。
そこでは、1973年から2001年までのプラスチック系の原材料、それ以外の高分子材料、その他の非金属材料、金属材料といったものの割合と推移が表でまとめられています。
この表は、本件訴訟で争点となった表(別紙対照表)ではないと思われますが、こうしたデータの図表については、事実やアイデアは保護しないという観点から、過去の裁判例からみても著作権法での保護の対象とはなりにくいものとなります。
図表に関する最近の裁判例としては、住宅ローン商品金利情報図表事件(控訴審)、「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)(控訴審)がありますが、ここでも図表の著作物性は否定されています。
本件訴訟とこれらの先行事例を比較すると、争点として一般不法行為論(民法709条)が挙げられていない点が異なるところです。なお、本件の図が原告単独の制作物ではないことから、著作者性についても、別途争点となる余地があります。

   --------------------

■過去のブログ記事

「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)(控訴審)
知財高裁平成23.3.22平成22(ネ)10059損害賠償請求控訴事件


住宅ローン商品金利情報図表事件(控訴審)
知財高裁平成23.4.19平成23(ネ)10005損害賠償等請求控訴事件

   --------------------

■参考判例

学位請求論文取消事件(控訴審)
知財高裁平成17.5.25平成17(ネ)10038著作権侵害差止等請求控訴事件
written by ootsukahoumu at 06:42|この記事のURLTrackBack(0)

2013年07月16日

弁護士通知書事件−著作権 著作者人格権等侵害行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

弁護士通知書事件

東京地裁平成25.6.28平成24(ワ)13494著作者人格権等侵害行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.7.8
*キーワード:通知書、苦情申告書、著作物性、公衆送信権、引用、公表、公表権、権利濫用

   --------------------

■事案

弁護士が作成した通知書や苦情申告書を無断でブログ記事として掲載したなどとして通知書等の著作物性が争点となった事案

原告:弁護士
被告:行政書士ら

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、32条、4条1項、18条1項

1 原告各文書の著作物性
2 公衆送信権侵害の成否
3 公表権侵害の成否
4 原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか
5 原告の損害及び損害額

   --------------------

■事案の概要

『別紙原告文書目録記載1ないし3の文書(以下,それぞれ「原告文書1」などといい,併せて「原告各文書」という。)の著作者及び著作権者であると主張する原告が,(1)被告Y1は,別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイト(以下,「被告ブログ1」という。)上の別紙掲載記事目録記載1及び2の記事(以下,それぞれ「被告記事1」「被告記事2」という。)において原告文書1を掲載し,また,別紙掲載記事目録記載4及び5の記事(以下,それぞれ「被告記事4」,「被告記事5」という。)において,原告文書3のpdfファイルを掲載した別紙URL目録記載1ないし3のURL(以下,これらを併せて「本件各URL」という。)を掲載し,(2)被告Y2は,別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイト(以下,「被告ブログ2」といい,被告ブログ1と併せて「被告各ブログ」という。)上の別紙掲載記事目録記載3の記事(以下「被告記事3」という。)において原告文書1及び2を掲載し,また,別紙掲載記事目録記載6の記事(以下「被告記事6」といい,被告記事1ないし6を併せて「被告各記事」という。)において原告文書3を掲載しており,これらにより,原告の著作権(公衆送信権〔送信可能化を含む。〕)及び著作者人格権(公表権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各ブログにおいて,被告各記事に含まれる原告各文書及び本件各URLを掲載して使用することの差止めを求めるとともに,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償として,各自150万円(附帯請求として,訴状送達日の翌日である平成24年6月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H23.10 原告が被告Y1に通知書を送付、被告Y1がブログに掲載
       原告が行政書士会会長宛に苦情申告書提出
       被告Y2がブログに掲載
H23.11 被告Y1が東京弁護士会に懲戒請求、原告が答弁書提出
       被告Y1がブログに掲載
       被告Y2がブログに掲載

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告各文書の著作物性

(1)通知書

まず、原告である弁護士が代理人として作成、送付した通知書(原告文書1)の著作物性(著作権法2条1項1号)が争点となっています。

(通知書の内容)
・表題、日付等の記載
・通知人の代理人として通知を行う旨
・被告Y1の作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨
・上記記事のURLを表示
・上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨
・上記記事の削除を求め、削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨
・以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨

以上の内容を記載したもので、URL部分を含め17行の分量(URL部分を除くと13行)のものでした。

この点について、裁判所は、前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で、これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎず、内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであって、文章表現としてありふれたものであると判断。
思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められないとして、通知書の著作物性を否定しています(11頁以下)。

(2)苦情申告書

原告が東京都行政書士会会長宛に提出した苦情申告書(原告文書2)の著作物性について、裁判所は、苦情申告書の性質上、当然に記載すべき項目(日付、申告者等の形式的記載事項、申告すべき苦情の内容、事実関係の記載、上記事実関係の法的評価、非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができるものの、

『苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書2は,上記のとおり表現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表現したものに当たる』

と判断。苦情申告書の著作物性を肯定しています(12頁以下)。

(3)答弁書

被告Y1が東京弁護士会に対して請求した原告の懲戒請求に関する、原告が東京弁護士会綱紀委員会宛に提出した答弁書(原告文書3)について、裁判所は、答弁書の性質上当然に記載すべき項目(表題、日付等の形式的記載事項、懲戒請求理由に対する認否等)を含むものであるということができるとしつつ、

『しかし,これらのうち,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,どのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかにつき様々な可能性があり得ることは原告文書2と同様であるところ,原告文書3は,これらの点について工夫がみられ,特に被調査人(原告)の主張の内容及び表現はこの種文書において一般的なものとはいい難いものというべきである。そうすると,原告文書3には,作成者の個性が表現として表れているものとみることができる。』

と判断。答弁書の著作物性を肯定しています(14頁以下)。

   --------------------

2 公衆送信権侵害の成否

(1)被告Y1の行為

被告Y1が被告ブログに答弁書PDFファイルをアップロードして利用者がこれをダウンロードしている点について、裁判所は、答弁書に係る公衆送信権侵害性を肯定。被告Y1によるURLの掲載、使用の差止めが認められています(15頁以下)。

(2)被告Y2の行為

被告Y2は自身のブログ記事で苦情申告書と答弁書を掲載していました。この点について、被告Y2は、これらの文書の掲載は、引用(32条1項)にあたると反論しました。
しかし、裁判所は、いずれの文書も非公開の審理が予定された手続に提出されたものであり、「発行」(3条1項)されたといえる程度の複製物の作成及び頒布がされたものとは認められず、また、原告又はその許諾を得た者によって公衆に提示されたものとも認められないとして、「公表」(4条1項)されたものにあたらないと判断。引用の要件である「公表された著作物」(32条1項)に当たらないとして、原告の反論を認めていません(16頁以下)。

   --------------------

3 公表権侵害の成否

苦情申告書、答弁書は、いずれも「まだ公表されていないもの」(18条1項)に該当するとして、被告Y1、Y2の行為の公表権侵害性が肯定されています(17頁)。

   --------------------

4 原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか

被告らは、原告の著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用に当たり、また、本件訴訟は不当訴訟の典型であって、本件訴訟の提起は訴権の濫用に当たると反論しましたが、裁判所は認めていません(17頁以下)。

   --------------------

5 原告の損害及び損害額

原告は慰謝料として150万円を主張しました。しかし、裁判所は、原告において被告によるインターネットでの公表を予期しており、また、これを誘引した面もあるとして、慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められないと判断。原告の主張を認めていません(18頁以下)。

結論として、被告Y1、Y2に対するURL掲載や文書掲載の使用の差止めが認められています。

   --------------------

■コメント

法的な内容の通知書の著作物性については、最近でも読売「押し紙」事件判決がありますが、非公開の審理に提出された書面の著作物性や公表性の判断については先例として参考になります。

   --------------------

■過去のブログ記事

新聞社の法務部員が通知した著作権侵害警告書(催告書)の創作性が争点となった事案として、読売「押し紙」著作権事件(控訴審)参照。

知財高裁平成21.9.16平成21(ネ)10030著作権に基づく侵害差止請求控訴事件

   --------------------

■参考サイト

原告ブログ ヲタク弁護士OHオタクんの日常を綴った痛いブログ

被告ブログ かなめ行政書士事務所

被告ブログ NEWS RAGTAG
written by ootsukahoumu at 05:43|この記事のURLTrackBack(0)

2013年07月10日

勝沼ワイナリー案内看板事件(第2事件)−著作権 不正競争防止法、著作権侵害・損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

勝沼ワイナリー案内看板事件(第2事件)

東京地裁平成25.7.2平成24(ワ)9449不正競争防止法、著作権侵害・損害賠償請求事件PDF

別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      高橋 彩

*裁判所サイト公表 2013.7.5
*キーワード:著作物性、美術の著作物、応用美術、純粋美術、誤認混同惹起行為性

   --------------------

■事案

ワイナリーへの案内看板の図柄の著作物性が争点となった事案の別件訴訟

原告:広告看板制作会社
被告:ワイン製造販売会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、不正競争防止法2条1項1号、刑法233条等

1 本件図柄及び本件各原告看板の著作物性
2 被告による不正競争行為の有無
3 被告による刑法に該当する不法行為の有無

   --------------------

■事案の概要

『原告が,(1)別紙原告図柄目録記載の図柄(以下「本件図柄」という。)並びに別紙原告看板目録1及び2記載の各看板(以下総称して「本件各原告看板」といい,それぞれ「本件原告看板1」「本件原告看板2」という。)は原告が著作権を有する著作物であり,被告が別紙被告看板目録1及び2記載の各看板(以下総称して「本件各被告看板」といい,それぞれ「本件被告看板1」「本件被告看板2」という。)を製作した行為は,本件図柄及び本件各原告看板の複製権(著作権法21条),貸与権(同法26条の3),翻案権(同法27条),二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)を侵害する旨,(2)本件図柄及び本件各原告看板は原告の商品等表示に当たり被告が本件各被告看板を利用する行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たる旨,(3)被告の上記各行為は原告に対する不法行為(刑法233条,235条,246条,253条に当たる行為)である旨を主張して,被告に対し,不法行為(民法709条)及び不正競争防止法4条に基づく損害賠償を求めた事案』(1頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件図柄及び本件各原告看板の著作物性

本件図柄及び本件各原告看板の美術の著作物性(著作権法10条1項4号)及び著作物性(2条1項1号)について、裁判所は、いずれも応用美術の領域に属するものであって、純粋美術と同視し得るものではなく、また、広告看板の図柄としてありふれたものにすぎないなどとして、美術の著作物性(10条1項4号)、著作物性(2条1項1号)のいずれの観点からも著作権法上の著作物としての保護が否定されています(7頁以下)。

   −−−−−−−−−−−−−−

2 被告による不正競争行為の有無

原告は、本件図柄及び本件各原告看板が原告の周知の商品等表示に当たるとして、被告に不正競争防止法2条1項1号の周知表示混同惹起行為があると主張しましたが、本件図柄及び本件各原告看板には被告の名称である「シャトー勝沼」の文字が記載されており、原告がこれを自らの商品又は営業を示す表示として用いたことを認めるに足りる証拠はないとして、裁判所は不正競争行為性を否定しています(9頁以下)。

   −−−−−−−−−−−−−−

3 被告による刑法に該当する不法行為の有無

被告による本件各被告看板の製作、設置、使用行為が刑法233条(信用毀損等)等の不法行為にあたると原告は主張しましたが、裁判所は認めていません(10頁)。

   --------------------

■コメント

ワイナリーへの案内看板の図柄の著作物性が争点となった事案の別件訴訟で、本件では先行する訴訟とは看板の所在地が異なる2件が対象となっており、また、争点として不正競争行為性などが追加されています。
先行する訴訟の判決と同様、看板図柄の著作物性が否定されています。著作権法上の争点としては、美術の著作物性についても言及されている点が、先行判決と異なる部分となります。
なお、本判決には、問題となった図柄の画像が別紙として添付、公開されています。

別紙 原告図柄目録より
20130709

別紙 被告看板目録1より
2013


   --------------------

■過去のブログ記事

東京地裁平成25年6月5日平成24(ワ)9468
著作物頒布広告掲載契約に基づく著作物頒布広告掲載料未払請求事件
勝沼ワイナリー案内看板事件
written by ootsukahoumu at 11:14|この記事のURLTrackBack(0)