知財判決速報2012

2013年01月21日

仏画復原模写画事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

仏画復原模写画事件

東京地裁平成24.12.26平成21(ワ)26053著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.01.11
*キーワード:模写、復原、著作物性、複製、翻案、氏名表示権、名誉回復措置、時効

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■事案

東大寺大仏蓮弁毛彫といった仏画を復原模写した作品の著作物性や複製権、翻案権侵害性が争点となった事案

原告:仏画家F相続人ら
被告:仏画家

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、60条、114条2項、115条、116条、民法724条

1 原告仏画1の著作物性
2 被告仏画1は原告仏画1を複製翻案したものか
3 被告仏画2は原告仏画2に依拠したか
4 被告仏画2は原告仏画2を複製翻案したものか
5 許諾の有無
6 差止め及び廃棄請求の可否
7 著作権侵害による損害賠償請求権は消滅時効又は除斥期間の経過により消滅しているか
8 損害論
9 著作権法116条1項に基づく名誉回復等の措置請求の可否

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■事案の概要

『仏画家であるF(雅号はF’。以下「F氏」という。)の相続人である原告らが,被告に対し,別紙被告仏画目録1記載の各仏画(以下,それぞれ「被告仏画1(1)」などといい,これらを併せて「被告仏画1」という。)及び同目録2記載の各仏画(以下,それぞれ「被告仏画2(1)」,「被告仏画2(5)1」などといい,これらを併せて「被告仏画2」という。なお,(3),(4),(8)及び(9)は欠番である。以下,被告仏画1と被告仏画2を併せて「被告各仏画」という。)は,F氏の制作に係る別紙原告仏画目録1記載の各仏画(以下,それぞれ「原告仏画1(1)」などといい,これらを併せて「原告仏画1」という。)及び同目録2記載の各仏画(以下,それぞれ「原告仏画2(1)」などといい,これらを併せて「原告仏画2」という。なお,(3),(4),(8)及び(9)は欠番である。以下,原告仏画1と原告仏画2を併せて「原告各仏画」という。)を複製又は翻案したものであるから,被告各仏画を販売し,頒布し,展示し,又は上記被告各仏画を使用した書籍,パンフレット,塗り絵用下絵,ホームページ画像を制作することは,原告らが相続により取得した原告各仏画の著作権(複製権,譲渡権,展示権又は著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を侵害すると主張し,著作権法112条に基づき,被告各仏画の販売,頒布,展示の差止め,これらの仏画を使用した書籍等の制作の差止め及び同書籍等の廃棄を求めるとともに,原告仏画1及び原告仏画2の著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償として,原告らそれぞれに対し,各922万4500円(4名合計3689万8000円)及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成21年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求め,さらに,被告が,原告各仏画を無断で複製又は改変した上,これを被告の作品であると表示して展示等をした行為は,F氏の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害となるべき行為であると主張し,F氏の死後における人格的利益の保護のための措置(著作権法60条,116条1項,115条)として,謝罪広告の掲載を求める事案』(3頁以下)

<経緯>

S16〜
S44 F氏が原告仏画1、2を制作、書籍に収録発行
S50 被告が被告仏画1、2を制作
S57 被告仏画を収録した書籍が発行
S59 F氏死亡
H07 被告が仏画美術館開設
H21 被告仏画を美術館パンフレット、ホームページに使用

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■判決内容

<争点>

1 原告仏画1の著作物性

F氏が制作した原告仏画1は、国宝又は重要文化財として指定されている仏画又は曼荼羅を原図として、これを復原する意図で制作されたものでしたが、原告仏画1の著作物性について、これが原画の二次的著作物として新たな創作的表現が付与されているかどうかが検討されています(63頁以下)。

裁判所は、「復原過程において,原図の具体的表現に修正,変更,増減等を加えることにより,F氏の思想又は感情が創作的に表現され,これによって,原告仏画1に接する者が,原告仏画1から,各原図の表現上の本質的特徴を直接感得できると同時に,新たに別の創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,原告仏画1は,各原図の二次的著作物として著作物性を有するものと解される。」
「原告仏画1の復原画としての性質上,原告仏画1において,各原図の現在の状態における具体的表現に修正等が加えられているとしても,上記修正等が,各原図の制作当時の状態として当然に推測できる範囲にとどまる場合には,上記修正に係る表現は,各原図の制作者が付与した創作的表現の範囲内のものとみるべきであり,上記修正等をもって,新たな創作性の付与があったとみることはできない。」(64頁)と説示。

結論としては、(1)「大仏蓮弁毛彫」ないし(9)「訶梨帝母像」については、各原画に新たな創作性が付与された点がないとして各原画の二次的著作物としての著作物性が認められませんでしたが、(10)「高雄曼荼羅胎蔵法曼荼羅」についてのみ、新規に描かれた外縁装飾などの諸点から著作物性が認められています。

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2 被告仏画1は原告仏画1を複製翻案したものか

次に、被告仏画1(10)「紺紙金泥画」が原告仏画1(10)を複製翻案したものかどうかが検討されています(83頁以下)。
結論としては、被告仏画1(10)は、原告仏画1(10)と相違しており、原告仏画1(10)において著作物性が認められる部分について、原告仏画1(10)とその表現において実質的に異なるものとなっているというべきであるとして、原告仏画1(10)を有形的に再製したものとは認められないと判断、複製を否定しています。また、原告仏画1(10)の本質的特徴を直接感得することもできないとして、翻案も否定しています。

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3 被告仏画2は原告仏画2に依拠したか

被告仏画2(5)1及び2、2(13)、2(16)ないし(19)については、原告仏画2(5)、2(13)、2(16)ないし(19)に依拠して作成されたものかどうかについて争点となりましたが、作品の類似点の検討などから依拠性が肯定されています(84頁以下)。

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4 被告仏画2は原告仏画2を複製翻案したものか

次に、被告仏画2が原告仏画2を複製又は翻案したものに当たるかどうかについて、裁判所は、複製及び翻案の意義に関して江差追分事件最高裁判決(最判平成13.6.28)を踏まえた上で、仏教絵画(仏画)の著作物性について言及しています。
描かれる菩薩や如来の種類に応じて印相、衣装、装飾品、持物、光背、台座等につき一定のルールが存在するものの、厳格なルールではなく表現に選択の幅があり具体的表現において創作性を認めることができると説示。
そして、「創作性の構成要素としては,(1)絵画の構造的要素(菩薩又は如来とその周辺の台座,光背,背景等の位置関係,菩薩又は如来の姿態,印相,足の組み方・配置,持物の種類・配置,装飾品の形状・配置,着衣・光背・台座の形状等),(2)色彩,(3)菩薩又は如来の顔の表情等が考えられるところであるが,これらの要素のうち,どの点を創作性の要素として重視するかについては,描かれる対象である菩薩又は如来の種類等,個々の絵画の具体的表現の内容によって異なるものと考えられる」(88頁)と示しています。
その上で、原告仏画2の具体的創作的表現の内容を検討。被告仏画2において、原告仏画2と表現上実質的に同一のものが再製されているか、又は、原告仏画2の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物かどうかを検討しています。
結論として、被告仏画2(1)1、2(5)1、2(7)、2(12)、2(13)1、2(14)は、それぞれ原告仏画2(1)、2(5)、(7)、2(12)ないし(14)を翻案したものに当たると判断しています(87頁以下)。

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5 許諾の有無

被告は、被告仏画2(1)1、2(7)及び2(12)については、F氏に師事する中でF氏から原告仏画2(1)、2(7)及び2(12)に基づき描くよう指示を受けて描いたものであるなどとして、著作者、著作権者であるF氏から包括的許諾を受けていたと反論しました(116頁以下)。
しかし、結論としては、F氏からの包括的許諾があったものとは認められていません。

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6 差止め及び廃棄請求の可否

被告侵害仏画の販売、頒布、展示について、差止めの必要が認められています。また、被告侵害仏画を使用した書籍等の制作の差止め及び廃棄の可否については、被告侵害仏画を使用した書籍、パンフレット、ホームページ画像の制作の差止め、そして、被告侵害仏画を使用した別紙被告書籍目録記載の書籍における被告侵害仏画の掲載箇所の抹消及び被告侵害仏画を掲載したパンフレットの廃棄を各求める部分について認められています(118頁以下)。

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7 著作権侵害による損害賠償請求権は消滅時効又は除斥期間の経過により消滅しているか

著作権侵害に関して被告の過失が認められた損害賠償請求権について、被告は消滅時効の援用と除斥期間の経過を主張しました(121頁以下)。
結論としては、起算点から3年経過による時効消滅(民法724条前段)は認められないものの、平成元年7月27日前における行為に関する著作権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償請求権については、除斥期間の経過により行使することができないと判断されています(同条後段)。

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8 損害論

損害論について、結論として損害額が下記のように認定されています(122頁以下)。

(1)著作権法114条3項(使用料相当額)関連

・被告書籍への掲載 相続人ら各5万7000円

・被告美術館のパンフレット掲載 各1万7500円

・被告美術館での展示 各1万4983円

合計 相続人ら各8万9483円

(2)慰謝料 相続人A、B、Cについてのみ各3万円

(3)弁護士費用 A、B、Cについて2万円、Dについて1万円

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9 著作権法116条1項に基づく名誉回復等の措置請求の可否

被告が被告侵害仏画を制作し、F氏の氏名を表示することなく被告各書籍に被告侵害仏画を掲載した行為について、裁判所は、著作者人格権の侵害となるべき行為(60条)にあたり、F氏の子である原告A、B、Cについては、名誉回復措置(115条)を請求する地位にあることを認めたものの、謝罪文掲載の必要性は認めていません(135頁)。

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■コメント

模写図の著作物性については、一連の江戸庶民風俗図絵模写事件に詳しいところですが、今回の事案では曼荼羅といった仏画の模写復原画の翻案が問題となりました。仏教美術での装飾性と著作物性については、仏壇彫刻事件(神戸地裁昭和54.7.9判決)が応用美術論として触れるところですが、本判決は、復原画の性質や仏教絵画の様式性を踏まえた著作物性判断に言及した点が注目されます。

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■参考判例

「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件(控訴審)

知財高裁平成18.11.29平成18(ネ)10057損害賠償請求控訴事件
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2013年01月18日

「夕暮れのナパリ海岸」写真事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「夕暮れのナパリ海岸」写真事件

東京地裁平成24.12.21平成23(ワ)32584損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.1.10
*キーワード:写真、著作物、複製、公衆送信、過失

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■事案

ハワイの風景写真を無許諾でブログに掲載した事案

原告:職業写真家、代理店
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、23条

1 準拠法
2 本件写真の著作物性、著作者及び著作権者
3 被告の過失の有無
4 原告らの損害及び損害額

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■事案の概要

『原告らが,別紙原告著作物(1)及び(2)(以下,順に「本件写真(1)」「本件写真(2)」といい,併せて「本件写真」という。)について,原告Aが著作権を,原告会社が独占的利用許諾権をそれぞれ有していることを前提として,被告は,その運営するブログに無許諾で本件写真を掲載し,著作権(複製権,公衆送信権)を侵害したなどと主張し,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,原告Aにつき30万1731円及び原告会社につき44万6332円(いずれも附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H22.09 原告Aが原告会社に独占的利用許諾権を付与
H23.01 被告がブログに本件写真(2)掲載
H23.02 被告がブログに本件写真(1)掲載
H23.06 原告Aの代理人が被告に警告書を送付
H23.10 本訴提起

本件写真(1)「夕暮れのナパリ海岸(Napali Coast At Sunset)」
本件写真(2)「たそがれ時のサーファー(Picture Of Surfer At Twilight)」

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■判決内容

<争点>

1 準拠法

原告である写真家Aと本件写真のライセンス管理会社である会社は、いずれもアメリカ合衆国国民、あるいはハワイ州設立法人であることから、前提として著作権法6条3号、ベルヌ条約5条(1)により本件写真が我が国においても保護されること、また、原告Aが原告会社に独占的利用許諾権を付与した点について、利用許諾契約の成立及び効力に関するものであるとして、当事者による準拠法の選択(法適用通則法7条)による等、原告らはアメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したとして、アメリカ合衆国著作権法101条や法204条(a)によることが確認されています。
また、著作権侵害を理由とする損害賠償請求は不法行為と法性決定した上で、通則法17条により結果発生地である我が国の法律を準拠法と判断、確認しています(9頁以下)。

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2 本件写真の著作物性、著作者及び著作権者

次に、本件写真の著作物性については、「本件写真は,いずれも,夕暮れ時の太陽光によって照らし出される海岸の光景を,構図,カメラのアングル,シャッタースピード等を工夫して撮影したものと認められ,撮影者の個性が現れており,撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められるから,著作物であるというべきである」として、著作物性(著作権法2条1項1号)が肯定されています。
そして撮影者である原告Aが著作者であり、著作権者であると認められています(17条1項 11頁以下)。

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3 被告の過失の有無

被告は、ウェブ検索により無許諾で本件写真をダウンロードした上で自己の管理するブログに掲載しており、利用権原の有無についての確認を怠っており、本件写真をダウンロードして複製したこと及びアップロードしてブログに掲載し公衆送信したことについて過失があると認められています(12頁以下)。
被告はこの点について、フリー素材、無料であると誤信したと反論しましたが、裁判所は認めていません。

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4 原告らの損害及び損害額

原告A及び原告会社の損害額等は、以下のように認定されています(14頁以下)。

(1)原告A

・写真(1)

2376米ドル(24ヶ月ライセンス料)×5ヶ月(使用期間)/24ヶ月×0.8(Aへの配分率)=396米ドル

・写真(2)

2376×9ヶ月(使用期間)/24×0.8=712.8米ドル

合計1108.8米ドル 8万8704円(1米ドル80円換算 なお、1万円は支払済み)

(2)原告会社

・写真(1)

2376米ドル(24ヶ月ライセンス料)×5ヶ月(使用期間)/24ヶ月×0.2(会社への配分率)=99米ドル

・写真(2)

2376×9ヶ月(使用期間)/24×0.2=178.2米ドル

手数料相当額 合計277.2米ドル 2万2176円

弁護士費用相当額5万円

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■コメント

ネットで拾ってきた写真画像を勝手にブログに転載したという、著作権侵害事案としては単純な内容ですが、プロの写真家の写真でさえ権利者側が代理人を立てて権利保護を訴訟で実現しようとすると、費用倒れになってしまうことがよく分かる事案です。損害論については、外国のかたが日本で権利保護を実現しようとする場合、翻訳費用も掛かるでしょうし、割の合わない結果になってしまいます。

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2013.1.11記事)
これぞ格好の研修素材〜“フリー素材”の怖さ
written by ootsukahoumu at 06:51|この記事のURLTrackBack(0)

2013年01月15日

漢字能力検定対策問題集事件(控訴審)−著作権 著作権確認等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

漢字能力検定対策問題集事件(控訴審)

大阪高裁平成24.12.26平成24(ネ)1019著作権確認等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官      遠藤曜子
裁判官      横路朋生

*裁判所サイト公表 2012.01.07
*キーワード:編集著作権、著作者の推定、法人著作、営業誹謗行為

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■事案

漢字能力検定対策問題集の編集著作権の帰属や営業誹謗行為性が争点となった事案の控訴審

控訴人(一審被告) :教材制作会社、代表者
被控訴人(一審原告):漢字検定実施財団法人

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、不正競争防止法2条1項14号

1 本件対策問題集の編集著作権の帰属
2 不正競争防止法に基づく請求

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■事案の概要

『被控訴人が,本件各書籍の編集著作権は被控訴人に帰属しており,控訴人らの(ア)控訴人オークの取締役が,本件各書籍の印刷会社に対し,本件各書籍の著作権が控訴人オークに帰属しており,被控訴人からの依頼を受けて本件各書籍の印刷を行った場合,著作権侵害に基づき刑事的手続をとると告知した行為,(イ)控訴人らが,被控訴人の理事らや印刷会社等に対し,本件各書籍の著作権が控訴人オークに帰属しており,本件各書籍を印刷する行為はその著作権を侵害すると告知した行為が,不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に当たると主張して,控訴人らに対し,(1)本件対策問題集の編集著作権が被控訴人にあることの確認と,(2)同法3条1項に基づき,本件各書籍の編集著作権が控訴人オークに帰属する旨及び本件各書籍を制作販売する被控訴人の行為が控訴人オークの著作権を侵害している旨の告知・流布行為の禁止を求めた事案である(なお,控訴人らは,原審の弁論準備手続期日において,被控訴人が本件書籍1ないし11の編集著作権を有する旨の確認を求める請求を認諾した。)。』
『原審が被控訴人の請求を,控訴人らに対し,(1)本件対策問題集の編集著作権が被控訴人にあることの確認と,(2)不正競争防止法3条1項に基づき,本件対策問題集の編集著作権が控訴人オークに帰属する旨及び本件対策問題集を制作・販売する被控訴人の行為が控訴人オークの著作権を侵害している旨の告知・流布行為の禁止を求める限度で認容し,その余の請求を棄却したところ,控訴人らが控訴した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件対策問題集の編集著作権の帰属

漢字能力検定の対策問題集の編集著作権の帰属について、控訴審でも原審と同様、著作権法15条1項により被控訴人(一審原告)に帰属すると判断されています(3頁以下)。
問題集の制作、編集には被控訴人の従業員、控訴人教材制作会社、訴外外部編集プロダクションが係わっていましたが、被控訴人の従業員が本件対策問題集について素材の選択・配列について創作性のある作業を行なっており、控訴人教材制作会社、外部編集プロダクションに編集著作権が発生したと認めることはできないと控訴審も判断。
被控訴人の編集著作権の確認請求について理由があるとした原審の判断を是認しています。

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2 不正競争防止法に基づく請求

控訴人らによる営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)の成否について、本件対策問題集の編集著作権は被控訴人に帰属し、控訴人教材制作会社には帰属しないと認められるとして、控訴人らが第三者に対してその編集著作権が控訴人教材制作会社に帰属する旨及び同書籍を制作販売する被控訴人の行為が控訴人教材制作会社の著作権を侵害している旨を告知、流布することは、教材の制作・販売等において競争関係にあると認められる被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布となると判断。
控訴審でも原審と同様、不正競争防止法3条1項に基づき本件対策問題集に関し上記告知・流布行為の禁止を求める被控訴人の請求には理由があると判断しています(10頁以下)。

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■コメント

漢字検定事件の控訴審となります。協会側が事件を受けて取引先との権利関係の明確化処理の一環として提訴した事案で、問題集の編集著作権の帰属について、被告教材制作会社側は創作性のある編集作業の関与の程度に関して反論を重ねましたが、協会側に職務著作が成立するとして控訴審でも原審の判断が維持されています。

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■過去のブログ記事

原審 2012年3月5日記事

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■関連判例

原審 大阪地裁平成24.2.16平成21(ワ)18463著作権確認等請求事件

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■追記(2013/01/23)

商標関係訴訟
大阪地裁平成25.1.17平成23(ワ)3460商標権侵害差止等請求事件
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2013年01月11日

大道芸研究会ウェブサイト事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

大道芸研究会ウェブサイト事件

東京地裁平成24.12.27平成22(ワ)47569著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      高橋 彩
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2013.01.07
*キーワード:ウェブサイト、画面構成、ソースコード、著作物性、一般不法行為論

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■事案

ウェブサイトのレイアウトの著作物性が争点となった事案

原告:研究会元会員
被告:研究会会員

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項9号、民法709条

1 同一性保持権侵害の成否
2 本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否
3 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『「大道芸研究会」と称する団体(以下,単に「大道芸研究会」という。)の元会員である原告が,原告が開設し,管理していた「大道芸研究会」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の別紙原告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「本件各画面」と総称し,それぞれを「本件画面1」,「本件画面2」などという。)及びそのソースコード(HTMLソースコード)は,原告を著作者とする著作物であり,大道芸研究会の会員である被告が,別紙被告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「被告各画面」と総称し,それぞれを「被告画面1」,「被告画面2」などという。)を作成し,自己の管理するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した行為は,上記著作物について原告が保有する同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害する行為に該当し,仮にそうでないとしても,被告の上記掲載に至る一連の行為は原告の法的保護に値する利益を侵害する一般不法行為を構成する旨主張して,被告に対し,損害賠償の支払を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H12    原告が研究会ウェブサイトを開設
H22.01 原告が研究会副会長辞任、休会を表明
H22.02 被告が研究会ウェブサイトを開設

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■判決内容

<争点>

1 同一性保持権侵害の成否

原告がMS社のフロントページエクスプレスで作成した研究会ウェブサイトの7点の画面のデザインレイアウトについて、被告が被告作成の研究会ウェブサイトで無断で改変利用したとして同一性保持権侵害を争点としました(9頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、著作権法で保護される著作物(2条1項1号)の意義に触れ、問題となった研究会のような団体のウェブサイトの性質について以下のように言及しています。
『団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,(1)団体名を画面の上に太文字で配置すること,(2)各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,(3)各記載内容にタイトルを設けること,(4)タイトルを枠や図形の中に配置すること,(5)画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,(6)写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,(7)写真に近接して写真の説明等を配置すること,(8)画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,(9)図柄の背景や単色の背景を使用すること,(10)文字・枠・背景に各種の色や柄を用いることは,いずれも一般的に行われていることであり(乙11ないし15,弁論の全趣旨),ありふれた表現であるといえる』(11頁)
その上で、各画面について検討していますが、いずれも上記諸点のいくつかに該当するもので、一般的なものであってありふれたものであり、表現上の創作性があるものと認めることができないと判断しています。
結論として、本件各画面は原告の著作物と認められず、原告の同一性保持権侵害の主張は認められていません。

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2 本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否

原告は、各画面のソースコードが原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、全体として原告を著作者とするプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に該当する旨主張しました(19頁以下)。
この点について裁判所は、プログラムを著作権法上の著作物として保護するためにはプログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていることが必要であると示した上で、本件ソースコードは、原告がフロントページエクスプレスを使用して本件各画面を作成するに伴ってそのソフトウェアの機能により自動的に生成されたHTMLソースコードであって、原告自らが本件ソースコードそれ自体を記述したものではないことからすると、本件ソースコードの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が表れているものとは認められないと判断。
原告の本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の主張の点も認めていません。

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3 一般不法行為の成否

原告は、ウェブサイト画面等の作成に多大な時間と労力を費やしており、被告が本件各画面及び本件ソースコードをコピーして利用する行為は他人の労力へのただ乗り行為であること、また、大道芸研究会で生じた内紛で対立関係にあった被告には原告はデータを一切使われたくないと強く思っていた点を踏まえ、一般不法行為の成立を主張しました(20頁以下)。
この点について、裁判所は、
『著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である』
として、北朝鮮映画事件最高裁判決(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決)を踏まえた上で検討を加えています。
原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は、著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならず、原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても、被告の上記一連の行為は原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないと判断。
また、仮に原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益が法的保護に値する利益であるとしても、被告が原告に代わって本件ウェブサイトの管理を引き継いだ経緯などからすれば、被告の一連の行為が社会的に許容される限度を超える違法な行為であると認めることはできない、としています。
結論として、一般不法行為の成立についても否定しています。

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■コメント

問題となった研究会のサイトと思われる画面を拝見すると、全体として単純なデザイン、構成で個々のコンテンツの著作権を問題にするのであればともかく、サイトデザイン自体の著作物性を争うには困難であった事案という印象です。

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■過去のブログ記事

ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案について、
SOSデータ事件 知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件
2011年06月03日記事
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2012年12月30日

「これからの吹奏楽 楽器編」DVD事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「これからの吹奏楽 楽器編」DVD事件

東京地裁平成24.12.25平成24(ワ)25483損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2012.12.28
*キーワード:複製

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■事案

吹奏楽楽器別演奏指導法を内容とする映像コンテンツDVDを無断複製した事案

原告:出版社
被告:会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法21条、112条、114条2項

1 複製権侵害性等の成否

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■事案の概要

<経緯>

H13 原告が原告作品を制作
H14 被告が被告商品を販売

原告作品 これからの吹奏楽 楽器編(全16巻)
被告商品 これからの吹奏楽 楽器編(全16巻)

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■判決内容

<争点>

1 複製権侵害性等の成否

原告作品について、被告は原告の許諾を得ずに被告商品を平成14年から平成24年7月にかけて少なくとも163セットを制作、販売したことが認められています。
損害論としては、侵害者利益の損害みなし規定(114条2項)により、(販売額1セット15万円−製造原価1000円)×163セット=2428万7000円、そして、弁護士費用相当額242万8700円の合計2671万5700円の損害額が認定されています。
また、著作権法112条に基づき、被告商品の複製、頒布の差止め並びに被告商品の在庫品及びその原版の廃棄が認められています(1頁以下)。

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■コメント

吹奏楽指導者や生徒向けのDVD教育教材で、収録時間約28時間、NHK交響楽団のソリストといった一流講師陣による楽器別奏法指導を内容とする映像コンテンツでしたが、被告側は無許諾複製して販売していた事案となります。被告側が積極的な主張立証を行っていないため、単なる海賊版販売事案なのか、何らかの契約関係があったのか判決文からは判然としません。

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■参考サイト

これからの吹奏楽|体育・スポーツ|ユニバース オンラインショップ

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2012年12月29日

ディスクパブリッシャーソフト事件−著作権 著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ディスクパブリッシャーソフト事件

東京地裁平成24.12.18平成24(ワ)5771著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      高橋 彩
裁判官      上田真史

*裁判所サイト公表 2012.12.27
*キーワード:著作物性、複製、翻案、営業秘密

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■事案

競合ソフトの開発販売に関して著作権侵害性、営業秘密に係る不正競争行為性が争点となった事案

原告:ソフト開発販売会社
被告:ソフト開発販売会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項9号、不正競争防止法2条1項7号、2条6項

1 本件ソフトウェアのプログラムの著作権侵害の成否
2 不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成否

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■事案の概要

『別紙目録1記載の各ソフトウェア(以下「原告ソフトウェア」と総称する。)を製造,販売する原告が,被告が,原告ソフトウェアのプログラムは,被告の著作物である別紙目録2記載のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)のプログラムを複製又は翻案したものであり,原告が原告ソフトウェアを製造,販売する行為は,被告が保有する本件ソフトウェアのプログラムの著作権(複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)及び譲渡権(同法26条の2第1項))の侵害行為に該当するとともに,被告の営業秘密である本件ソフトウェアのプログラム等の不正使用の不正競争行為(不正競争防止法2条1項7号)に該当することを理由に,原告に対し,著作権法112条1項及び不正競争防止法3条1項に基づく原告ソフトウェアの製造,販売の差止請求権を有するなどと主張しているとして,被告の上記各差止請求権の不存在の確認を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H20.08 原被告間で業務委託基本契約締結
H22.08 ディスクパブリッシャーソフト開発を原告が被告から受託、納品
H23.09 原告ソフトの製造販売
H23.12 被告が原告に契約違反を通知
H24.02 原告が本件訴訟を提起

原告ソフト 「群刻 簡易版」「群刻 標準版」「群刻 究極版」
被告ソフト 「iDupli Bravo with Disk Publisher」

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■判決内容

<争点>

1 本件ソフトウェアのプログラムの著作権侵害の成否

被告の著作物であるソフトウェア(本件ソフトウェア)の著作権を原告の各ソフトウェアが侵害しているかどうかについて、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)及び複製(2条1項15項、21条)、翻案(27条)の意義に言及した上で、複製又は翻案に当たるかどうかを判断するにあたり、本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述とを対比して、原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述から本件ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうかを検討しています(27頁以下)。
被告は、ソースコードの表現の類似性を主張しましたが、
1.表現上の工夫は本件ソフトウェアの機能を述べるものにすぎず、アイデアにすぎない
2.創作性がある部分で表現が一致しているとはいえない
3.共通する箇所は文法上一般的に使用される表現でありふれている
といった点から、そもそも創作性がない部分の記述である、あるいは表現上の本質的な特徴を直接感得できないとして、被告の主張を認めていません。
結論として、原告が原告ソフトウェアを製造、販売する行為が、被告が保有する本件ソフトウェアのプログラムの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)の侵害行為に該当するとの被告の主張は理由がなく、被告が原告に対して著作権法112条1項に基づいて原告ソフトウェアの製造、販売の差止請求権を有するものとは認められないと判断されています。

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2 不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成否

被告は、本件ソフトウェア及び他社との取引事項に関する営業秘密を利用して原告が不正競争行為を行ったと主張しましたが、争点1の通り著作権侵害性が認められず、あるいは秘密管理性を欠くとして、いずれも認められていません(30頁以下)。
結論として、原告の各ソフトウェアの製造、販売について、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に当たることを理由とする同法3条1項に基づく差止請求権を被告が有しないことが確認されています。

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■コメント

100枚といった大量のDVDなどの光ディスクの複製製作機器をサポートするディスクパブリッシャーソフトを巡って争われた事案です。原告サイトなどを拝見すると、原告のソフトは企業データと連携して盤面印刷まで一元管理することができるソリューションで、企業データの長期保存、バックアップに資する内容のものです。
新製品の展開のためにも先手を取って著作権侵害等の不法行為の不存在確認の訴えを提起されていて、スピード感のある対応で訴訟提起が効果的だったという印象を受ける事案です。

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2012年12月25日

eco検定eラーニング講座原稿事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

eco検定eラーニング講座原稿事件

知財高裁平成24.12.11平成24(ネ)10061損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 芝田俊文
裁判官      西 理香
裁判官      知野 明

*裁判所サイト公表 2012.12.20
*キーワード:著作物性、債務不履行、準委任、請負、調査義務、一般不法行為論

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■事案

eco検定eラーニング講座用の学習教材原稿の作成にあたってウィキペディアなどからの転載が制作委託契約違反にあたらないかどうかが争点となった事案

原告(控訴人) :コンサルティング会社ら
被告(被控訴人):土地利用調査研究計画会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、民法709条

1 著作権侵害の存否
2 調査報告義務違反
3 一般不法行為論

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■事案の概要

『原告らは,平成21年1月20日,被告及び株式会社同友館(以下「同友館」という。)との間において,東京商工会議所等が主催するeco検定(環境社会検定試験)対策のためのeラーニング講座「eco検定最短合格講座」(以下「本件商品」という。)の制作・販売事業に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。原告らは,被告が作成した原稿(以下「本件原稿」という。)に第三者の著作権を侵害する記載があり,また,被告が著作権侵害に関する調査及び報告義務を果たさなかったとして,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害金の支払を求めた。これに対し,被告は,納品した原稿の一部に第三者が作成したインターネット上の記事(ウィキペディア等)などを転用した部分はあるものの,これらは著作権侵害に当たらない,また,被告は上記契約において,具体的な調査報告義務を負うものではなく,仮にこれを負うとしても,その義務を果たしていると主張して,争った。』事案(2頁)

<経緯>

H21.01 原被告間で制作販売事業契約締結
H21.05 原告が被告にウィキペディアの取扱いに関して通知
H24.06.26 東京地裁民事23部平成22(ワ)33497判決

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の存否

eco検定(環境社会検定試験)対策のためのeラーニング講座用に制作発注された教育教材原稿に第三者の著作権を侵害する記載があるかどうかについて、原審では、
「ア 本件商品のような教材では,既存の著作物やこれに依拠して創作された著作物と同一性を有する部分が,関連する法令や概念の意味内容,これから当然に導かれる一般的な解釈や知見,実務上の運用,歴史的事実等から当然に導かれる事柄であったり,客観的事実についての摘示・説明にすぎない場合やありふれた表現の場合には,個性を表出することができず,表現上の創作性のない部分というべきであり,創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,これらの説明や解説等が独自の観点からの説明や解説,あるいは整理要約がなされていたり,個性的な表現があるといった場合でないかぎり,既存の著作物の複製権あるいは翻案権侵害には当たらない,
イ 本件原稿の表現についてみると,インターネット上の記事の表現を引用している部分があるものの,いずれも1環境関連法令などの目的・由来や成立の経緯等,2法令の内容や定義,3化学物質等の定義,特性・特質,用途,影響,4統計や数値,客観的な事実,5書籍の著者や概要,6その他環境用語の定義を,図表などを用いることなく簡潔に記載したもので,これらの表現はありふれた表現であり,第三者の著作物の著作権を侵害していると認めることはできない」(2頁以下)
といった内容で著作権侵害性の成立を否定していました。
控訴審では、原告らは、たとえば、原判決別紙著作対比表13、31の「ダイオキシン」に関する記載について、執筆者の主観ないし考えによって結論が異なることが示唆されており、表現の幅が広がることにより創作性が肯定される旨の主張をしました。
この点について、裁判所は、
「用語の解説や,化学物質の特性,人体に対する影響等についての一般的な知見に関する部分であって(上記著作対比表),仮に執筆者の主観ないし考え,あるいはこれに基づく結論に幅があり得るとしても,それ自体は思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でない部分であり,表現自体が創作性のない既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合に著作権侵害が成立しないことに変わりはない」
として、原審同様、その他の部分も含め創作性を否定し著作権侵害性を認めていません(5頁以下)。

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2 調査報告義務違反

原告らは、原稿にウィキペディアなどの記事をそのまま引用することは、何らその信用性について担保されていないことを意味するから、被告が調査義務を懈怠することは本件商品に対する信用性も毀損することになるとして、民法645条あるいは請負契約上の当事者意思解釈に基づく調査義務に違反することを根拠として債務不履行を主張しました(6頁以下)。
しかし、裁判所は、
「本件契約には,被告は,本件商品の原稿データについて,「他の類似物の著作権に関わらないように・・作成しなければならない」(本件契約第6条2項)と規定されているのみであり,本件契約が民法上の準委任契約や請負契約に当たると認めることもできないから,上記契約条項や民法上の規定に基づき,被告が原告らに対し,執筆者がインターネット上の記事をそのまま原稿に記載したか否かについて包括的な調査義務を負っているものと解することはできない。また,本件全証拠によるも,本件原稿の記載自体に誤りがあると認めるに足りる証拠は存在しない。」
として、原告の主張を容れていません。

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3 一般不法行為論

原告らは、予備的主張として、インターネット上の記事をそのままコピー・ペーストしただけの教材を販売することが、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成することとなり、その結果、原告らの信用が毀損されるところ、その責任は本件原稿を作成した被告が負うべきである旨主張しました(7頁)。
しかし、裁判所は、原告らが本件契約を解除したとする時点において、本件商品を販売したことが他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価され、これが公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとなっていた、あるいは、これにより原告らの信用が毀損されたと認めるに足りる証拠は存在しないとして、一般不法行為論(民法709条)についてもその成立を認めていません。

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■コメント

教育教材用原稿の執筆を依頼した際に、その内容にウィキペディアといったネット上の記事からの転載が散見(本事案では31箇所)された場合の原稿の品質について争われた事案です。
客観的なデータや歴史的な事実に関する記述については著作物性がありませんが、発注者としては、正確な内容の執筆を業務委託契約の前提としており、コピー・ペーストは論外として、そもそもウィキペディア等の正確性、信用性を含めフリー事典を出典として利用することが妥当だったのかどうかが問われるところです。
ネット社会の発展で利用者が自由に執筆できるネット上のフリー事典を商用目的でも使う場面は益々増えてくるわけですが、資料収集も楽になる反面、その情報の信頼性が問われ、裏付け作業も必要になります。
今回の判決から学ぶとすれば、細かくなりますが、業務委託契約書にウィキペディア等の利用について、たとえば原典を確認するなどの作業取決め、コピー・ペーストの禁止を明記するといった配慮の必要が出てきます。

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■追記(2012/12/26)

12月25日に最高裁宛に上告受理申立

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2012年12月18日

不動産物件表示プログラム事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

不動産物件表示プログラム事件

東京地裁平成24.11.30平成24(ワ)15034損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.12.14
*キーワード:著作物性、複製、一般不法行為論

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■事案

不動産物件表示プログラムの制作請負契約の成否を巡ってプログラムの複製権侵害性などが争点となった事案

原告:ウェブサイト制作業者
被告:不動産会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、15号、10条1項9号、21条、47条の8、民法709条

1 本案前の主張
2 別件乙3の印刷による複製権侵害による不法行為
3 本件各アクセスによる複製権侵害による不法行為
4 一般不法行為(予備的主張)

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■事案の概要

『プログラムの著作物の著作権を有すると主張する原告が,被告に対し,主位的には複製権侵害及びプログラム著作物の著作権侵害とみなされる行為に基づき,予備的には一般不法行為に基づき,原告が被った損害1120万円の一部請求として280万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年7月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H20 原告が不動産物件表示プログラムを制作
H21 本件プログラムをサーバにアップロード
H21 原告が被告に内容証明書を送付
H21 被告が本件ウェブサイトを閲覧
H21 原告が別件訴訟を提起

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■判決内容

<争点>

1 本案前の主張

原告が被告に対してウェブサイト制作作業等の請負代金の支払いを求めた別件訴訟の1審及び2審の判決が確定して既判力が生じているとして、一事不再理の原則から本件訴えは却下されるべきであると被告は主張しました。
しかし、裁判所は、本件訴訟は当事者を同一にし、事実関係に重なるところがあるとはいえ、著作権侵害(予備的に一般不法行為)に基づき損害賠償金の支払いを求める事案であり、訴訟物も争点も異なるとして一事不再理の原則により不適法であるとはいえないと判断しています(9頁)。

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2 別件乙3の印刷による複製権侵害による不法行為

被告は、別件訴訟での書証としてモニタに表示された画面のスクリーンショットを紙である別紙乙3にプリントアウトして複製しました。原告は、別件乙3の印刷物は原告が著作権を有するプログラムの著作物である本件プログラムを紙に印刷して複製したものであり、複製権侵害に当たると主張しました。
この点について、裁判所は、仮に本件プログラムに原告の創作性(2条1項1号)が認められるとしても、紙である別件乙3に記載されているのは画像であって、その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず、本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできず、複製(2条1項15号)に当たらないと判断。
別件乙3の印刷による複製権侵害との原告の主張を容れていません(9頁以下)。

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3 本件各アクセスによる複製権侵害による不法行為

原告は、被告が平成21年に3回に亘り、原告の承諾なくブラウザを使って本件プログラムにアクセスし、本件プログラムの複製物を被告のコンピュータの(1)メモリ、(2)CPU、(3)I/O及び(4)ハードディスクに保存したことは複製権侵害であり、また、本件プログラムを使用(入力、演算、出力)したことはみなし侵害であるから、不法行為が成立すると主張しました。
この点について、裁判所は、電子計算機器の情報処理過程で生じる複製の違法性判断に関しては、平成22年1月1日施行の著作権法47条の8(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)の趣旨に鑑み、改正前の複製行為については、複製された著作物の内容、複製の態様、複製に至る経緯等を総合的に考慮して判断すべきであると説示。
その上で、複製された著作物の内容がウェブサイトのトップ画面のみであること、複製の態様が一時的なものであること、複製に至る経緯が別件訴訟における訴訟活動との関連がうかがわれること、特段のアクセス制御回避措置が講じられていなかったこと等から、被告による本件各アクセスの際の複製行為をもって違法な行為であると認めることはできないと判断しています(11頁以下)。

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4 一般不法行為(予備的主張)

一般不法行為論(民法709条)について、裁判所は、争点3での認定のように、本件各アクセスの際に一時的に使用された本件プログラムの内容、本件プログラム使用の態様及び利用に至る経緯に照らせば、被告が本件各アクセスの際に本件プログラムの複製物を取得して使用した行為をもって原告の法律上保護された利益を侵害する違法な行為と認めることはできないとして、一般不法行為論に関する予備的主張も認めていません(16頁)。

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■コメント

ウェブサイト制作請負契約の成否については別件訴訟で争われているため、取引の経緯の詳細が不明ですが、違法とまでいえるようなプログラムの利用行為が認められないため、著作権侵害を争点とした損害賠償請求は難しい事案であったと思われます。

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2012年12月17日

学術論文共著者記載事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学術論文共著者記載事件

大阪地裁平成24.12.6平成23(ワ)15588著作権侵害差止等請求事件等PDF

平成23年(ワ)第15588号著作権侵害差止等請求事件(第1事件)
平成24年(ワ)第57号共著名削除等請求事件(第2事件)

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充康
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.12.12
*キーワード:著作者、著作者人格権、複製権、翻案権、一般不法行為論

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■事案

コンピュータハードウェアに関する研究論文の著作者名義の記載などを巡って争われた事案

原告:被告大学元教授
被告:国立大学、同大学准教授、同大学教授

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■結論

訴え却下、請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、14条、21条、27条、19条、20条、民法709条

1 第2事件の1に係る訴えの適法性
2 論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属
3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無
4 著作者人格権侵害の有無
5 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『(第1事件)
 原告は,被告大学が,論文Cの受賞を発表した行為(前記15)について,原告の名誉,声望を侵害する行為であるとして,被告大学に対し,不法行為に基づき,損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払と,著作権法115条に基づき,ウェブサイトに謝罪広告を掲載するよう求め,
(第2事件)
 原告は,被告2名が論文A〜論文Cの共著者に被告P3の氏名を記載した行為(前記14)が,原告の論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権及び公表権)を侵害する行為であるとして,被告2名に対し,著作権法112条に基づき,被告P3の氏名を共著者名から削除する手続等をするよう求め,不法行為に基づき,連帯して,損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
 また,原告は,被告2名の上記行為が,一般不法行為に該当するとして,上記と同様の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めている』事案(8頁以下)

<経緯>

S63 原告が被告大学教授に就任
H02 被告P3が助手に採用、H16教授就任
H12 被告P2が助手に採用、原告の指導を受ける
H18 被告P2が論文颪鯣表
H21 被告P2が論文鬚鯣表。原告が定年退職
H22 被告大学がP2らの受賞発表

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■判決内容

<争点>

1 第2事件の1に係る訴えの適法性

被告らは、出版物からP3の氏名を削除する変更手続等を求める第2事件の1に係る訴えは、法的実現性のないものであるから却下されるべきであると主張しました。
この点について裁判所は、論文からP3氏名の削除を求める第2事件の1予備的請求その2に係る訴えについては、被告2名において負担すべき給付の内容が不特定で、第三者である出版社の行為を介在させざるを得ないもので被告2名に対する判決のみでは実現することができない給付を求めるものであるとして、不適法と判断しています(17頁以下)。

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2 論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属

原告は、「レジスタ指向設計」等についての研究成果を有しているが、論文餤擇嗜席厚鬚呂海譴蕕寮果を記載したものであるから、原告はこれらの著作物に関して著作権(複製権及び翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)を有していると主張しました。
この点について裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚龍γ者として原告の氏名が表示されていることから、著作権法14条により原告は論文餤擇嗜席厚鬚龍γ者と推定される。しかし、原告は上記各論文の執筆に直接関与していないことを自認していると認められ、また、東大大学院情報学環学際情報学府の学生(博士課程を含む)向け解説からすると、当該論文の執筆(創作行為)自体に実質的な関与がなくても指導教員や共同で研究した研究者を当該論文の共著者として表記することがあり得ること、さらに、実質的にみても原告が論文の執筆(創作行為)に関与していないことから、上記推定は覆滅されたというべきであると判断しています(18頁以下)。
結論として、原告の論文餤擇嗜席厚鬚坊犬訝作権、著作者人格権の帰属を否定しています。

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3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無

裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚砲弔い童狭陲肪作権(共同著作権)が帰属することを認めることができず、被告2名の行為について原告の著作権(複製権又は翻案権)の侵害を認めることはできないと判断。また、仮に何らかの著作権(共同著作権)が発生し、原告に帰属したとしても、被告2名の行為によりこれらの権利が侵害されたことを根拠付ける具体的な主張立証はないとして、原告の主張を容れていません(22頁以下)。

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4 著作者人格権侵害の有無

裁判所は、論文餤擇嗜席厚鬚砲弔い童狭陲肪作者人格権が帰属しないことから、公表権、氏名表示権、同一性保持権いずれの点についても侵害性は認められないと判断しています(23頁以下)。

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5 一般不法行為の成否

論文鬚魃冖したり論文馘に実験データを追加した論文A〜Cの作成、公表自体が原告や原告研究室の研究成果を盗用するという原告の主張について、裁判所は、被告P3の氏名を論文A〜Cの共著者として表示したことが不法行為となるという主張であると考えて検討を加えています(24頁以下)。
被告P2は、論文A〜Cを作成、発表するに当たって、原告の承諾を得ることなく被告P3の氏名や原告の氏名を共著者として記載したことが認められるが、このことは、文部科学省科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会作成による「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて−研究活動の不正に関する特別委員会報告書−」や前記学生向け解説の記載に照らすと、不適切な行為であったといわざるを得ないと判断。
もっとも、共著者として自己の氏名が記載されるか否かの問題と他の共著者の氏名が記載されるか否かの問題については必ずしも同様に論じることはできず、論文A〜論文Cの第1著作者である被告P2が共著者として被告P3の氏名を記載することを同じく共著者としてその氏名を記載する予定である原告の同意を得なかったからといって、原告に金銭による慰謝料の支払をもって慰謝しなければならない程度の人格権の侵害があったということは困難であると判断。
結論として、不法行為の成立を否定しています。

以上から、原告の主張はいずれも容れられていません。

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■コメント

「被告P2の執筆した論文の内容が,原告の過去に研究していた分野の応用であったこともあり,被告P2は,原告への感謝の気持ちを込め,原告の退職後も,原告を論文の共著者として表示していた」(判決文13頁参照)という被告らの主張にあるように、所属する研究室の教授に礼を尽くすということでこうした著作者表示を論文にしていたことが問題の発端となります。
東大大学院情報学環学際情報学府学生(博士課程を含む)向け解説「アカデミックマナーの心得」(後掲サイト参照)にあるように、著者、共著者の表示については留意が必要です。
また、原告は研究成果自体の剽窃を問題としたかったようですが(22頁参照)、研究成果自体には著作権は成立しないですし、論文の利用については、引用(著作権法32条)が成立する限り何ら問題にはならないところです(21頁参照)。

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■参考サイト

アカデミックマナーの心得|東京大学大学院 情報学環・学際情報学府
アカデミックマナーの心得

文部科学省研究活動の不正行為に関する特別委員会編『研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて』(2006)
研究活動の不正行為に関する特別委員会 報告書PDF

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2012年12月14日

撹拌造粒装置設計図事件−著作権 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

撹拌造粒装置設計図事件

大阪地裁平成24.12.6平成23(ワ)2283不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充博
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.12.12
*キーワード:設計図面の著作物性、営業秘密性、秘密保持契約

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■事案

撹拌造粒装置設計図の著作物性や営業秘密性が争点となった事案

原告:粉体機器装置開発製造販売会社
被告:板金加工業会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号、不正競争防止法2条1項7号、2条6項

1 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか
2 原告製品図面等の著作物性及び複製権又は翻案権侵害の有無
3 営業秘密性及び開示又は使用の有無
4 本件基本契約上の秘密保持義務違反

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■事案の概要

『原告は,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することから,被告製品又はその構成部品を製造,販売することが,本件特許権を侵害するとともに,原告製品図面に係る複製権又は翻案権を侵害し,さらに被告製品には,原告から被告に示された原告製品図面中の営業秘密が,被告からフロイントに不正に開示された上,使用されており,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に該当するとして,被告に対し,本件特許権,原告製品図面に係る著作権又は不正競争防止法3条に基づき,被告製品及びその構成部品のうち別紙物件目録2記載の部品の製造,販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,本件特許権若しくは原告製品図面に係る著作権侵害の不法行為,不正競争防止法4条又は本件基本契約上の秘密保持義務違反に基づき,1000万円の損害賠償及びこれに対する平成23年3月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている』事案(6頁)

<経緯>

S53  原告が被告に部品等の製作を委託
H16.07原被告間で取引基本契約書を締結
H21.08被告が最後の製品を納入、取引停止
H21.09被告がフロイントと製造委託契約締結
H22.06フロイントが展示会に試作品を出展、原告が試作品を目視確認
H23.04被告がフロイントから委託を受けて製造、GM−25を納入

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■判決内容

<争点>

1 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか

原告は、攪拌造粒装置である被告製品が原告の保有する特許権(第3164600号)の技術的範囲に属することから、被告製品又はその構成部品を製造販売することが本件特許権を侵害すると主張しました。
しかし、裁判所は、被告製品は構成要件AからDのうち、Dの「攪拌羽根の先端部を基端部に対して回転方向に先行させたことを特徴とする攪拌造粒装置」の構成要件を充足しないとして本件特許発明の技術的範囲に属さないと判断。特許権侵害性を否定しています(21頁以下)。

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2 原告製品図面等の著作物性及び複製権又は翻案権侵害の有無

原告は、原告製品図面等が著作物であることを前提に、被告が原告製品図面を使用して被告製品又はその構成部品の製造販売を行っており、原告製品図面に係る原告の複製権又は翻案権を侵害する旨主張しました(27頁以下)。

(1)原告製品図面の著作物性

原告製品図面は通常の作図法に従って記載されているところ、原告は設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか、また、その理由について具体的な主張をしていないとして、裁判所は原告製品図面の著作物性を否定しています。

(2)原告製品図面の複製、翻案

建築物の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除いて、学術的な性質を有する図面(10条1項6号)から製品を製造することは複製や翻案には当たらないとして、裁判所は複製権、翻案権侵害性を否定しています。

そのほか、原告は、原告製品の仕様書等の著作権侵害性を主張しましたが、著作物性の点から否定されています。

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3 営業秘密性及び開示又は使用の有無

原告は、原告製品図面に記載されたノウハウ等が原告の営業秘密に該当する旨主張しました(28頁以下)。
しかし、裁判所は、原告主張のノウハウについては、「別紙ノウハウ一覧表記載のとおり,いずれも原告製品の形状・寸法・構造に関する事項で,原告製品の現物から実測可能なものばかりである。そして,このような形状・寸法・構造を備えた原告製品は,被告がフロイントから攪拌造粒機の製造委託を受けた平成21年9月30日よりも前から,顧客に特段の守秘義務を課すことなく,長期間にわたって販売されており,さらには中古市場でも流通している」などとして、非公知性の要件を欠くと判断。営業秘密該当性(不正競争防止法2条6項)を否定しています。

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4 本件基本契約上の秘密保持義務違反

原告は、被告が原告製品図面をフロイントに開示した行為が本件基本契約35条の規定する秘密保持義務に違反するものである旨主張しました(31頁以下)。
この点について裁判所は、公知のものは明示で除外されており、また、契約終了後も5年間の秘密保持義務が課されることからすると、対象となる秘密は営業秘密の定義(不正競争防止法2条6項)に該当するものと解するのが相当であると判断。争点3と同様、営業秘密該当性が否定されることから、被告の秘密保持義務違反は認められないとしています。

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■コメント

過去に取引があった事業者間での紛争となります。平成16年7月1日に締結された取引基本契約書によると、権利の帰属関係に関して法人著作を規定したり(26条)、他社との取引を大幅に制限したり(36条)と、発注者側の強い立場が透けて見えてきます。
設計図面の著作物性の部分について詳しい主張立証がされていないため、どのような図面であったか判決文からはよく分かりません。
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2012年12月10日

カスタマイズドールボディ素体事件−著作権 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

カスタマイズドールボディ素体事件

東京地裁平成24.11.29平成23(ワ)6621不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      盒供〆
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2012.12.6
*キーワード:商品等表示性、形態模倣性、美術の著作物、一般不法行為論

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■事案

全高50センチ以上のカスタマイズドール用ボディ素体の商品等表示性や形態模倣性、また、美術の著作物性が争点となった事案

原告:玩具、かつら製造販売会社
被告:模型、玩具企画開発製造会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法10条1項4号、不正競争防止法2条1項1号、2号、3号、民法709条

1 不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為の成否
2 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否
3 著作権侵害の成否
4 一般不法行為論

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■事案の概要

『別紙原告商品目録1ないし4記載の各商品(以下「原告各商品」といい,それぞれを「原告商品1」,「原告商品2」,「原告商品3」,「原告商品4」という。)を製造及び販売する原告が,別紙被告商品目録1及び2記載の各商品(以下「被告各商品」といい,それぞれを「被告商品1」,「被告商品2」という。)を製造及び販売する被告に対し,(1)原告各商品に共通する形態は,原告の周知又は著名な「商品等表示」であり,被告各商品の形態は上記形態と類似するから,被告による被告各商品の製造及び販売は,不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当する,(2)被告各商品は,原告商品4の形態を模倣した商品であるから,被告による被告各商品の販売は,同項3号の不正競争行為に該当する,(3)原告各商品は,美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するところ,被告による被告各商品の製造は,原告各商品について原告が有する著作権(複製権(同法21条)又は翻案権(同法27条))の侵害行為に当たる,(4)被告による被告各商品の製造,販売等の一連の行為は,原告の法的保護に値する営業上の利益を侵害する一般不法行為を構成する旨主張して,被告に対し,不正競争防止法3条1項(同法2条1項1号又は2号),2項,著作権法112条1項,2項に基づき,被告各商品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,不正競争防止法4条(同法2条1項1号,2号又は3号),民法709条に基づき,損害賠償を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H14    原被告間で27センチ人形で別件訴訟提起
H15.06 原告商品1を製造販売
H16.10 原告商品2を製造販売
H17.11 原告商品3を製造販売
H20.05 原告商品4を製造販売
H22.05 被告各商品を製造販売

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■判決内容

<争点>

1 不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為の成否

原告は、原告商品1の販売が開始された平成15年6月の時点で、「全高約50センチ以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーの市場において、原告商品共通形態(形態AないしE)を有する商品が存在せず、原告商品共通形態は斬新なものであり、独自の形態上の特徴を有していた。そして、平成16年後半には原告商品共通形態は、原告の商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を獲得するに至った。同年12月ころには原告の商品等表示として周知又は著名となったとして、原告商品共通形態は、そのころ上記商品カテゴリーにおいて原告の周知又は著名な「商品等表示」に該当するに至った旨主張しました(28頁以下)。
裁判所は、原告各商品に共通する形態を分析した上で、本件原告商品形態の商品等表示性を検討。
「商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得した場合には,当該形態は,不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するものと解される。」(30頁)
として、商品形態の商品等表示性の判断基準について言及。
そして、
・均整のとれたプロボーションを有する形態等とすることは、原告が原告商品1の販売を開始した平成15年6月当時、特に目新しいものではなかった
・平成11年2月ころから全高約60センチの大きさのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体が市場に存在していた
・新聞、雑誌の記事等に「全高約50センチ以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて形態上の独自の特徴を有することを述べた記載やこれをうかがわせる記載は存在しない

といった点から、「全高約50センチ以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、15年6月時点において、本件原告商品形態が斬新な形態であったということはできないことはもとより、形態上の独自性を有していたということもできないと判断。
さらに、販売数や雑誌掲載記事の内容などから、平成16年後半あるいは同年12月ころの時点において、本件原告商品形態が原告において長期間継続的・独占的に使用されたということはできないとして、上記時点までに、「全高約50センチ以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得したものと認めることはできないと判断。
結論として、原告商品共通形態は、原告の「商品等表示」に該当しないとして、原告の主張を容れていません。

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2 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否

原告は、被告各商品が、原告商品共通形態に酷似する形態と原告商品4の「需要者に強い印象を与える部分」ないし「需要者の注意が惹き付けられる部分」である胸部、腹部、骨盤部、臀部に係る形態と同一の形態とを有していることから、原告商品4と被告各商品は、商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一である旨主張しました(40頁以下)。
この点について、裁判所は、原告商品4及び被告各商品の形態を分析し、その上で、各商品を比較検討。
眼球パーツの有無やバストのサイズの相違、関節部分の機能の相違、皮膚の縦じわを示すラインの有無、膝の関節部分の露出の有無、磁石の有無、頭身比率の相違といった相違点から、外観上明らかな相違がみられ、これらの相違点により原告商品4及び被告各商品の全体から受ける印象は異なるものとなっていると認定。
結論として、原告商品4と被告各商品は、商品全体の形態が酷似しているとはいえず、その形態が実質的に同一であると認めることはできないとして、形態模倣性を否定しています。

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3 著作権侵害の成否

原告は、原告各商品の形態上の特徴は、原告の個性が表れ、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものということができるとして、原告各商品は「純粋美術」又はこれと同視し得る程度の美的創作性を具備する「応用美術」として著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する旨主張しました(45頁以下)。
この点について裁判所は、
・素体自体は、鑑賞の対象ではない
・販売目的で量産される商品であって、一品制作の美術品とは異なる
・原告各商品の形態上の特徴は、形態上の独自性を認めることはできずありふれたもの

として、美術の著作物性(著作権法10条1項4号)を否定しています。

結論として、不正競争行為性、著作権侵害性のいずれも否定しています。

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4 一般不法行為論

原告はさらに、被告が平成15年から長年にわたり原告各商品の後追いで原告商品共通形態を模倣した商品を製造及び販売することによって、自らが商品開発をする際に要する費用や労力の削減を図り、通常必要となる先行投資をすることもなく、リスクも低い状態で不正な「ただ乗り」行為を行い、これにより原告の営業上の利益を侵害し、かつ、原告の営業上の信用を毀損したものというべきであるから、かかる被告の一連の行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為として、原告に対する一般不法行為(民法709条)を構成する旨主張しました(47頁以下)。

この点について裁判所は、被告の不正競争行為性、著作権侵害性がいずれも否定されており、本件原告商品形態が原告の法的保護に値する利益であるものと認めることはできないこと、また、被告において、本件原告商品形態を備えた商品を開発し、製造及び販売する行為が、原告主張の不正な「ただ乗り」行為に当たるということも公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為に当たるということもできないと判断。
さらに、被告が原告による原告商品1及び2の広告宣伝活動を妨害するような営業妨害行為を行ったことを認めるに足りないとして、一般不法行為の成立を否定しています。

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■コメント

平成14年当時、原被告間で27センチサイズの人形商品を巡って不正競争行為性(営業誹謗行為など)を争点とする別件訴訟が提起されていましたが、今回は50センチサイズの大型人形商品に関する訴訟となります。
フィギアドール分野といったニッチな分野もあってか、双方ともに譲れない拘りがあるのかもしれません。

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■過去のブログ記事

27センチサイズの人形が争点となった別件訴訟

2006年01月27日記事 フィギアドール不正競争行為事件
控訴審
知財高裁平成18.1.25平成17(ネ)10060等
原審
東京地裁平成16.11.24平成14(ワ)22433等

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■参考サイト

原告サイト オビツ製作所

被告サイト ベースボディ|Dollfie Dream(R)|株式会社ボークス
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2012年11月08日

テレビCM原版事件(控訴審)−著作権 各損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

テレビCM原版事件(控訴審)

知財高裁平成24.10.25平成24(ネ)10008各損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      八木貴美子
裁判官      小田真治

*裁判所サイト公表 2012.10.30
*キーワード:映画の著作物、著作者、映画製作者、著作権の帰属、黙示の合意、慣習

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■事案

テレビCM原版の著作権の帰属などが争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :映像企画制作会社
被告(被控訴人):広告代理店、原告元取締役Y

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、2条3項、16条、2条1項10号、29条

1 本件各CM原版の著作権の帰属等
2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害

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■事案の概要

『原告は,被告アドックに対し,株式会社ケーズホールディングス(旧商号はギガスケーズデンキ株式会社。以下「デーズデンキ」という。)の新店舗告知の本件ケーズCM原版及びこれを使用した本件ケーズ旧CM原版を制作したことにより,本件ケーズCM原版の著作権を取得したと主張して,被告アドックの以下の行為,すなわち,本件ケーズCM原版を使用して新たに本件ケーズ新CM原版を制作し,そのプリント(CM原版のコピー)を作成した行為,及び本件ケーズ旧CM原版のプリントを作成した行為が,原告の有する著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づく損害賠償金604万5500円及びこれに対する内金134万3000円に対する不法行為の後の日である平成20年11月1日から,内金470万2500円に対する不法行為の後の日である平成21年1月23日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め』るなどした。

『原審は,原告が本件各CM原版の著作権を有しないとして,原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し,また,被告Yに原告主張の善管注意義務・忠実義務違反があったとはいえないとして,被告Yに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却した。
 原告は,これを不服として,控訴を提起した。また,原告は,当審において,原告と株式会社電通(以下「電通」という。)間の黙示の合意又は慣習法に基づく原告の「プリント業務を独占的に受注できる権利」を被告らが不当に侵害した行為が被告らの不法行為及び被告Yの債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に該当するとの主張を追加した 』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各CM原版の著作権の帰属等

(1)本件ケーズCM原版

本件ケーズCM原版の著作権の帰属について、裁判所は、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(10頁以下)。
なお、原告が広告映像と劇場用映画の相違から、本件ケーズ原版について著作権法29条1項の適用は排除されると主張した点について、裁判所は、本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上、その製作目的が商品の販売促進等であることを理由として、同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は、その主張自体失当であり、採用の余地はないと判断。
また、具体的な製作目的、製作経緯等を検討しても、
『本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること(乙2,3,12),他方,製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。 』
として、29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はないとしています。

さらに、原告が、本件のような広告映像の場合、制作会社がCM原版のプリント(複製)を受注し、その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立しており、本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属する旨主張した点について、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において、原告が、当然にそのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできないと判断しています。

(2)本件ブルボンCM原版

本件ブルボンCM原版の著作権の帰属について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるブルボンであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(12頁以下)。

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2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害

原告は、控訴審で、
『プリント業務は当該CMを制作した制作会社に発注するのが,CM業界の一般的な慣習である。電通では,特段の事情のない限り,プリント業務は制作会社に発注することになっており,電通と原告は,本件各CM原版の制作に関する契約においても,プリント業務は原告に発注することを黙示に合意していた。仮に,個別の合意が認められないとしても,原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在している。
 したがって,原告は,電通との間の合意又は慣習法により,電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していた。しかるに,被告アドックは,電通ないし電通の部長であるE及び被告Yと共謀して,電通からプリント業務を受注し,よって,原告の上記権利を侵害した。この行為は,共同不法行為に該当する。』旨追加して主張しました(8頁)。

しかし、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において電通と原告間に本件各CM原版のプリント業務について、原告に独占的に発注する旨の黙示の合意が成立していたと認めるに足りる証拠はなく、また、原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在すると認めるに足りる証拠もないと判断。原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとは認められないとしています(13頁)。

結論として、原審同様、本件各CM原版の著作権は原告にはなく、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求は認められていません。

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■コメント

業界慣行が法的保護に値する権利や利益を有するものとして裁判所に認定されるには、高いハードがあることがよく分かる事案です。
いわゆる動画であれば、ゲームコンテンツであっても著作権法上、映画の著作物として取り扱われるので、沿革的に劇場用映画を想定して独特の規定を置く著作権法の規定の適用があることに異業界が違和感を持ってもおかしくないところではあります。
なお、広告制作においてスチルカメラマンや制作会社、エージェントは、スチルからムービーへと取り扱う業務内容が変化してきているので、新規分野の広告制作業務にあたっては、権利処理について注意が必要になります。

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■過去のブログ記事

2012年2月1日記事 原審
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2012年11月05日

自衛隊百識図鑑事件−著作権 委託料請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自衛隊百識図鑑事件

東京地裁平成24.10.15平成22(ワ)28318委託料請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2012.10.29
*キーワード:出版編集委託業務、不完全履行、相殺

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■事案

ムック本の出版編集業務に著作権侵害疑義が生じて不完全履行が問題となった事案

原告(反訴被告):雑誌編集請負会社
被告(反訴原告):出版社

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■結論

本訴請求棄却、反訴一部認容

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■争点

条文 民法415条、505条

1 原告の委託手数料請求の可否
2 原告の債務不履行の有無
3 被告の損害の有無及び損害額

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■事案の概要

『本件は,(1)原告が,被告に対し,被告との間で「自衛隊百識図鑑」(以下「本件ムック本」という。)の編集委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結し,本件ムック本が発売されたにもかかわらず,被告が委託手数料を支払わない旨主張して,本件委託契約に基づく委託手数料として残金178万5000円(附帯請求として約定の支払日の翌日である平成21年1月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(本訴)のに対し,(2)被告が,原告に対し,著作権侵害の疑念がある本件ムック本の原稿データを編集・制作した旨主張して,本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償として570万6741円(附帯請求として反訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(反訴)事案』(2頁)

<経緯>

H20.09 原被告間で編集委託契約締結
H20.10 原告が編集データ納品、被告がムック本発売
H21.02 財団法人防衛弘済会が被告に通知書送付
H21.07 弘済会が仮処分命令申し立て
H22.03 弘済会が損害賠償請求訴訟提起、和解

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■判決内容

<争点>

1 原告の委託手数料請求の可否

陸海空の自衛隊を解説するムック本の制作について、原被告間での編集委託契約では、委託手数料を250万円(消費税別)と定め、その支払について契約時に内金80万円を支払い、残額170万円は発売日の属する月の翌々々月25日に支払う旨が定められ、本件ムック本は、平成20年10月30日に発売されました。
裁判所は、被告は原告に対して、平成21年1月25日限り、残額178万5000円(消費税込み)の支払義務があったと判断。原告の本件委託契約に基づく委託手数料請求には理由があると認めています(7頁以下)。

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2 原告の債務不履行の有無

本件ムック本について、防衛弘済会発行書籍「自衛隊100科」に関して防衛弘済会と被告との間で著作権侵害の疑義が生じ紛争となりました。そこで、編集作業を受託した原告の債務不履行の有無が争点となっています(8頁以下)。
本件委託契約において原告と被告の担当者との間で初心者を読者として想定した陸海空の自衛隊が分かるような内容を基本線とし、マニアックな内容も入れたムック本を制作するという基本的な内容についての合意がされていました。
しかし、裁判所は、実際の編集・制作作業は専ら原告によって行われ、参照図書の選択及びその参照方法、本件ムック本の全体の構成、各章の編成方法等は原告によって決定され、校正作業も原告に委ねられたものと認定。
そして、本件ムック本の制作において当然行われるべき類似図書との対比による著作権侵害のおそれの回避作業については、原告が被告から委ねられていることを前提とした作業をしているものと認められ、本件委託契約において原告は、委託者である被告に対し合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍を編集・制作しない義務を負っていたものと認めるのが相当であると判断。
そして、本件ムック本と「自衛隊100科」は、いずれも自衛隊に関する情報を提供することを目的とする出版物であるから、「自衛隊100科」に記載された客観的な情報が本件ムック本において記述されていたとしても、それだけでは直ちに不自然であるとはいえないが、別紙対照表1を検討すると、本件ムック本の記載のうち「自衛隊100科」の著作権侵害と指摘された箇所は多数である上、表現が異なる部分もあるものの、語句を入れ替えた程度にすぎない部分も多く、著作権侵害と指摘された箇所の大部分が客観的な情報に関する記述であることを考慮したとしても、当該箇所は「自衛隊100科」に依拠したものと認めるのが相当であり、本件ムック本は合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であった、と判断しています。
そして、このような合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍については、紛争が生じるおそれがあるために、通常の形態での販売が困難であることは明らかであり、実際に本件ムック本については、防衛弘済会と被告との間で紛争が生じ、被告は本件ムック本の出荷を停止していました。
結論として、本件ムック本については、最終的に表現において類似性が認められないために著作権侵害とされない箇所があるとしても、合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったから、本件ムック本の原稿データを編集・制作した原告は、本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)というべきであると判断しています。

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3 被告の損害の有無及び損害額

被告の損害について、裁判所は、本件ムック本の1部当たりの利益の計算式は、「(搬入正味価格×印刷部数−〔費用合計−広告売上〕)/印刷部数」であり、搬入正味価格836円、費用合計487万1383円(印刷費用222万0593円、デザイン料1万2600円、その他経費1万3190円、本件委託契約に基づく委託手数料262万5000円)、広告売上8万円であり、これらを上記の計算式に当てはめると、本件ムック本の1部当たりの利益は526円(1円未満切捨て)となる。
そして、本件ムック本の販売見込みである印刷部数の60%は9300部であり、実売部数は5068部であるから、その差である4232部に526円を乗じると、222万6032円となると認定。
したがって、被告の損害額は222万6032円であると判断しています(14頁以下)。
さらに、被告は、原告に対し本件弁論準備手続期日において、本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権と原告の委託手数料請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしました。
本訴及び反訴が係属中に反訴請求債権を自働債権とし、本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当であるとして(最高裁平成16年(受)第519号同18年4月14日第二小法廷判決 民集60巻4号1497頁参照)、原告の委託手数料請求権(178万5000円)は相殺により消滅したと認められると判断。
原告の本件委託契約に基づく委託手数料請求に対する相殺の抗弁は理由があるとしています。
結論として、被告の本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求は、相殺後の残額である44万1032円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるとしています。

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■コメント

編集作業を発注した出版社側としては、不完全履行を理由に編集委託業務契約の解除を主張しても良かったかと思われます。弘済会との和解内容やムック本分野での出版事情、訴訟提起に対する意識(本件では受託者側から提訴されています)も含め、出版社側にどのような思惑があったのか、さらに知りたい事案です。

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2012年11月01日

クレジットカード決済承認用ソフト事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

クレジットカード決済承認用ソフト事件(控訴審)

知財高裁平成24.9.26平成24(ネ)10039損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      井上泰人
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2012.10.23
*キーワード:利用許諾契約

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■事案

ソフトをインストールしたサーバを無断譲渡したとして著作権侵害が争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :通信機器開発製造販売会社
被控訴人(一審被告):電気通信事業会社、システム開発会社、クレジットカード決済情報配信会社

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■結論

追加請求棄却

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■争点

条文 著作権法63条

1 許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無
2 被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無
3 控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備
4 被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無
5 予備的請求

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■事案の概要

控訴人は、原審においてサーバコンピュータ用ソフトウェア(本件プログラム)の無断譲渡等を主張して、被控訴人らによる著作権侵害等を根拠とする損害賠償請求を主張した。
『原判決は,本件プログラムが著作物に該当するか否かを判断することなく,(1)第1次請求について,被控訴人NTTコムの被控訴人GPネットに対する本件サーバの譲渡が,公衆に提供する行為には該当せず,本件プログラムに係る譲渡権を侵害するものということはできない,(2)第2次請求,第3次請求及び第5次請求について,本件プログラムがDSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的で本件サーバにインストールされたことを認めることができないから,その前提を欠く,(3)第4次請求について,被控訴人GPネットが本件プログラムを独自の決済認証サービスに使用することができることは当然であり,そのことを控訴人に明示に説明したことがなかったからといって,これが控訴人に対する関係で詐欺に当たるということはできない,と判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。』
『控訴人は,当審において,原審における第1次請求ないし第5次請求について,以下の不法行為に基づく損害賠償請求及び著作権に基づく差止請求並びに不当利得返還請求に,訴えを交換的に変更した。
ア 主位的請求
 控訴人は,本件プログラムについて,著作権者であったKDEから著作権及び損害賠償請求権を譲り受けたところ,(1)被控訴人NTTコムが,被控訴人らの構築する前記クレジットカード決済システムの製品・機能評価のための試験運用という範囲を超えて,平成17年11月30日,控訴人に無断で本件プログラムがインストールされた本件サーバを被控訴人GPネットに譲渡したことが,著作権者が他人に著作物の利用を許諾できるとする著作権法63条1項及び許諾に係る著作物を利用する権利が著作権者の承諾を得ない限り譲渡できないとする同条3項に違反する不法行為に該当すると主張して,同被控訴人に対し,同法114条2項により算出される損害賠償として合計6億2288万円の支払を求め,(2)被控訴人GPネットが,本件プログラムを使用する以上,これに権利制限がかかっていないかどうかを著作権者(KDE)に問い合わせて確認すべき商取引上の義務を負っていたのにこれを怠ったため,許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において著作物を利用することができるとする同法63条2項に違反する不法行為を行い,被控訴人INSソリューションが,当該譲渡に関して被控訴人GPネットに加担したことにより民法719条2項所定の共同不法行為を行ったと主張して,被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対し,著作権法114条2項により算出される損害賠償として合計168億1575万円ないし171億2703万円の一部である8億7712万円の支払を請求するとともに,(3)被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して,同被控訴人らに対し,本件プログラムに係る著作権に基づき,その使用の差止めを求める(著作権法112条1項)。
イ 予備的請求
 控訴人は,仮に,本件プログラムに係る著作権について被控訴人NTTコム及び同GPネットが利用許諾を受けているとしても,控訴人及び被控訴人NTTコムが,平成22年7月14日,被控訴人NTTコムが本件サーバを破壊して以後は本件プログラムを使用しないことを合意したのに,被控訴人NTTコム及び同GPネットが現在も本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して,被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムを使用して法律上の原因を欠く利益を得た(控訴人が当該利益に相当する額の損失を被った)と主張して,不当利得返還請求権に基づき,被控訴人NTTコムに対しては,被控訴人NTTコムが同GPネットから受領した報酬1億1840万円の支払を,被控訴人GPネットに対しては,本件プログラムを使用した利益合計31億9740万円ないし32億5660万円の一部である13億8160万円の支払を請求する』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無

裁判所は、控訴人が、被控訴人NTTコムとの間で本件プログラムの本件サーバへのインストールの時点において、被控訴人NTTコムに対して本件プログラムの利用を有償で許諾する一方、その利用許諾料を含む対価を被控訴人NTTコム、NTT−DCS、被控訴人INSソリューション、岩通SS、東京ソフト及び控訴人の順番で決済して受領することに合意しており、かつ、その段階で、被控訴人GPネットが本件プログラムを利用するものであって、本件プログラムが全ての決済端末に対応できる被控訴人GPネットの標準仕様となることを認識しており、したがって、被控訴人GPネットによる本件プログラムの利用を許諾していた一方、本件プログラムの使用について期限や条件等を観念してはいなかったと認定。
本件プログラムについて著作物性が認められるか否かにかかわらず、また、著作権法63条の解釈について論じるまでもなく、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、控訴人が主張する条件が付されていたとはいえないから、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も、何ら違法なものではないというべきであると判断。
結論として、控訴人の被控訴人NTTコムに対する損害賠償請求を認めていません(40頁以下)。

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2 被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無

裁判所は、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も何ら違法なものではないというべきであるから、被控訴人GPネットは、控訴人に対して何ら損害賠償義務を負わず、被控訴人INSソリューションも本件プログラムに関して何らかの違法行為に及んだと認めるに足りる証拠はないと認定。控訴人に対して何ら損害賠償義務を負うものではないと判断しています。
結論として、控訴人の被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対する損害賠償請求を認めていません(51頁)。

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3 控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備

裁判所は、控訴人が平成19年10月8日にIKLが開発した本件プログラムに関する権利をKDEを経て取得したと認定した上で、被控訴人らはいずれも本件プログラムに関して何らの違法行為も行っていないとして、KDEは控訴人による上記権利取得以前に被控訴人らに対して損害賠償請求権を有していたものとは認められないと判断。
また、仮にKDEが被控訴人らに対して本件プログラムに関して何らかの債権を取得しており、控訴人がその譲渡を受けていたとしても、KDEが被控訴人らに対して当該債権譲渡に関する通知等をしたと認めるに足りる証拠はないと併せて判断しています。
結論として、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求を認めていません(51頁以下)。

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4 被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無

裁判所は、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現時点において本件プログラムを使用しておらず、これを使用するおそれも認め難いと判断しています(52頁以下)。

以上、主位的請求について、いずれも認められていません。

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5 予備的請求

予備的請求に関して、控訴人は被控訴人NTTコムが控訴人との間で平成22年7月14日に本件プログラムを使用しないことについて合意した(本件不使用合意)にもかかわらず、被控訴人NTTコム及び同GPネットが現時点でも本件プログラムを使用している旨を主張しました。
しかし、裁判所は、本件不使用合意を裏付けるに足りる的確な証拠はなく、また、被控訴人NTTコム及び同GPネットが平成22年7月15日以降において本件プログラムを使用していないとして、控訴人の予備的請求を認めていません(54頁)。

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■コメント

クレジットカード決済認証用SSL/GWサーバ・アプリケーションソフトウェアの利用関係について、控訴審でも利用許諾契約に違反する事実は認定されませんでした。

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■過去のブログ記事

2012年04月04日記事 原審
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2012年10月25日

資格試験予備校講師競業避止義務事件−著作権 著作権侵害停止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

資格試験予備校講師競業避止義務事件

東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)14347著作権侵害停止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.10.12
*キーワード:著作権譲渡、著作物性、公序良俗、競業避止義務、一般不法行為論

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■事案

受験予備校と講師との間の講座資料に関する著作権譲渡契約条項の有効性や著作権侵害性、競業規制規定の有効性が争点となった事案

原告:資格試験受験予備校
被告:講師

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、民法709条、90条、独禁法2条9項5号

1 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否
2 原告書籍マーカー部分の著作物性の有無
3 被告事業は本件競業避止義務条項に反し又は不法行為を構成するか

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■事案の概要

『本件は,原告が,
(1)別紙2被告書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)のうち,別紙3対比表の黄色マーカーで特定した部分(以下「被告書籍マーカー部分」という。)は,別紙1原告書籍目録記載1ないし3の書籍(以下,それぞれ「原告書籍1」などといい,これらを併せて「原告書籍」という。)中,別紙3対比表の黄色マーカーで特定した部分(以下「原告書籍マーカー部分」という。)の複製に当たるものであるから,被告が,被告書籍を販売,頒布する行為は,原告の複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害し,かつ,被告が,その管理するインターネットサイト上で被告書籍マーカー部分を表示・配信する行為は,原告の複製権(同法21条),自動公衆送信権及び送信可能化権(同法23条)を侵害するものであると主張して,著作権法112条1項に基づき,被告書籍の販売・頒布及び上記サイト上における被告書籍マーカー部分の複製,自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求めるとともに,(2)侵害の停止又は予防に必要な措置(同条2項)として,被告書籍から,被告書籍マーカー部分を削除するよう求め,
(2)被告が,原告との業務委託契約期間満了後1年以内に,インターネットサイト上における司法書士試験受験対策講義配信等を内容とする事業を開始したことは,上記業務委託契約所定の競業避止義務に違反するものであり,かつ,原被告間の従前の関係も考慮すれば,不法行為にも該当すると主張して,上記(1)の著作権侵害による不法行為責任に加え,競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為責任に基づき,合計1202万円(著作権侵害による損害2万円,競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為による損害〔合計6200万円を下らない。〕のうち1000万円,弁護士費用200万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,
(3)原告の被った損害は金銭で評価できるものではないとして,別紙4謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H7.01 被告が講師業務等に従事
H10   平成10年以降の業務委託契約に著作権譲渡条項
H22.06原告が各講師に対して情報漏洩禁止文書を送付
H22.08原告が被告に契約更改依頼文書送付
       被告は原告に更改辞退をメール通知
H23.03被告が受験対策サイトを開設、被告書籍を配信、販売

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■判決内容

<争点>

1 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否

原告書籍は、被告が平成9年頃から順次作成した講義ノートの一部で、原告書籍は平成22年から23年にかけて原告において開講された講義で使用されたもので、講義は原被告間の業務委託契約に基づいて行われたものでした。
この契約書には、テキスト、レジュメ等の著作権の全部譲渡条項がありましたが、被告は、本条項の有効性や対象となる制作物の範囲を争点としました(39頁以下)。
この点について裁判所は、著作権譲渡条項は、その目的及び内容において不当又は不合理なものであるとは認められず、強行法規に反するものであるとも認められないこと、また、被告が本条項を不当に強制されたなどの事情も認めることができないとして本条項の有効性を肯定。さらに、本条項の対象についても本件講義ノートが含まれると判断。結論として原告書籍に関する著作権譲渡の成立を認めています。

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2 原告書籍マーカー部分の著作物性の有無

被告は、民法の基本的概念を説明する司法書士試験受験者向け書籍を作成し、業務委託契約関係終了後の平成23年3月16日、サイト配信や通信販売事業を開始しました。被告書籍が原告書籍のマーカー部分を抜粋していたことから、その著作物性、著作権侵害性が次に争点となりました(50頁以下)。
この点について裁判所は、創作性(2条1項1号)の意義について言及した上で、
『原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で民法の基本的概念を説明するものであるから,民法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈等を簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避であるというべきであり,その記載内容,表現ぶり,記述の順序等の点において,上記のとおり民法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない,作成者の独自の個性の表れとみることができるような特徴的な点がない限り,創作性がないものとして著作物性が否定されるものと解される』(54頁以下)
として法律資格試験受験対策本に関する解釈指針を提示。
その上で、別紙対比表の各項目を検討。対比表1の部分の著作物性については、
『内容において,該当条文(ここでは民法32条)の規定内容,趣旨,効果等として一般的に理解されるところを記載したものにすぎない。また,表現ぶりにおいても,簡潔かつ平易な表現であるということができるものの,上記イでみた原告書籍の性質上,このような表現ぶりは,ありふれたものであるというべきである』
としてその著作物性を否定しています。

また、原告は、太字、アンダーライン、付点等による強調、枠囲み、矢印の使用、余白の取り方、イラストの使用等に表現上の特徴があると主張しましたが、裁判所は、
『強調のために太字,アンダーライン等を使用し,区切りやまとまりを示すために枠囲みや矢印を使用するということ自体はありふれたものである。また,具体的に強調されている部分等をみても,原告書籍は,「ただし,現存利益で足りるのは善意者のみ」との記述中の「善意者」の部分を強調するなど,作成者において,司法書士試験対策として重要であると考えた記述部分を強調していると思われるものであるところ,どの部分を重要であると考え,強調するかという点は思想又はアイデアに属するものであると考えられる上,これを表現であるとみたとしても,原告書籍の性質上,その記述の一部を強調するということはありふれたものであるというべきである』
として、この点についても原告の主張を容れていません。
結論として、15の対比部分について、いずれもありふれたものであるとかアイデアの部類に属するものであるとして、その著作物性を認めませんでした。

以上から、原告書籍マーカー部分の著作物性が否定され、被告による著作権侵害は成立せず、原告の差止、削除、損害賠償請求はいずれも認められていません。

   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

3 被告事業は本件競業避止義務条項に反し又は不法行為を構成するか

原被告間の業務委託契約には競業避止義務条項が規定されていました。その内容としては、業務委託契約期間終了後1年間は原告と競合関係に立つ企業等への一切の関与及び競業事業の開業を禁ずるものでした。

この点について、裁判所は、被告は原告との間で業務委託関係にあった者にすぎず、業務委託関係終了後は本来、他企業への関与又は事業の実施を自由に行うことができるべきものであるが、本件競業避止義務条項は業務委託関係終了後における被告の職業選択の自由に重大な制約を新たに加えようとするものということができるから、このような条項が有効とされるためには原告が確保しようとする利益の性質及び内容に照らして、競業行為の制約の内容が必要最小限度にとどまっており、かつ、これにより被告が受ける不利益に対して十分な代償措置が執られていることを要するものと解するのが相当であると説示。
その上で、原告の主張するノウハウといった保護利益については、いずれも競業避止義務により保護されるべきものと認めるだけの主張立証がなく、また、制約が広範にすぎ、かつ、被告に対して重大な不利益を課すものであるということができる。それにもかかわらず、被告に対して契約関係終了前後を通じて何らの代償措置も執られていないと判断。
本件競業避止義務条項による制約は、必要最小限度のものとは認められず代償措置も執られていない以上、本件競業避止義務条項は合理的理由なく過大な負担を被告に一方的に課すものとして、公序良俗に反し無効であると認められるとしています(63頁以下)。

また、原告は一般不法行為の成立を主張しましたが、裁判所は、被告の事業が自由競争の範囲を逸脱し、原告に対する不法行為を構成するとみるべきような事情は認められないとして原告の主張を容れていません。

結論として、被告に本件競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為の成立は認められず、原告の損害賠償請求は認められませんでした。

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■コメント

法律制度の解説文書等については、その表現の著作権法上での保護の幅が狭い点については、法律書籍(通勤大学法律コース)事件や過払い金回収マニュアル本事件といった事案で示されています。
講師業をされるかたが、作成資料について著作権全部譲渡条項を含んだ契約を締結すればどのような結果となるかがよく分かる事案です。また、予備校としても講師から提供されたノウハウを保持するための競業規制規定等としてどのような規定を契約書で整備するべきか示唆を与える判決として参考になります。
私事ですが、某予備校の実務研修講師をスポットで担当した際に業務委託契約を締結しましたが、著作権条項については、担当者と数度のやりとりをした経験があります。手間は掛りますが、やはり納得いくまで契約交渉は重ねるべきところです。

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■参考判例

法律書籍事件(控訴審)
知財高裁平成18.3.15判決 平成17(ネ)10095PDF

過払い金回収マニュアル本事件(原審)
名古屋地裁平成23.9.15平成21(ワ)4998PDF

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2012年10月22日

ソフトウェア商品紹介記事事件−著作権 訂正公告掲載請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア商品紹介記事事件

知財高裁平成24.10.10平成24(ネ)10053訂正公告掲載請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      池下 朗
裁判官      古谷健二郎

*裁判所サイト公表 2012.10.15
*キーワード:著作物性

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■事案

週刊誌に掲載された音楽学習ソフトの商品販売記事を巡って著作権侵害性などが争点となった事案

原告:個人
被告:出版社

原審 横浜地方裁判所小田原支部平成23年(ワ)第952号

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号

1 著作権侵害性の成否

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■事案の概要

『控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が週刊アスキーに掲載した記事が控訴人の著作権及び著作者人格権を侵害し,かつ,控訴人の名誉を毀損するものであるとして,訂正公告の掲載及び情報の開示を求めたが,原判決は請求を棄却した』事案(1頁)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害性の成否

一審被告(被控訴人)出版社が発行する週刊誌(平成19年1月30日号)に掲載された音楽学習ソフト「EarMaster5」の商品紹介記事について、一審原告(控訴人)は外国語で作成されたソフトウェアである「EarMaster」の日本語版である本件ソフトウェアの作成に関与したことなどを根拠として、本件記事が原告の著作権や著作者人格権、名誉を毀損すると主張しました(2頁以下)。
しかし、裁判所は、本件記事は多数の新製品紹介記事の一つであって、紹介された製品の発売元や価格、機能について掲載されているが、製品を巡る権利関係についての言及は一切無く、本件ソフトウェアの著作者又は著作権者について事実と異なる表現があったわけではなく、原告の著作権や著作者人格権を侵害したり、名誉を毀損したということはできないと判断。
また、本件記事に本件ソフトウェアの画面レイアウトの例が記載されている点についても、製品紹介として掲載されているのであり、メニューも含めて本件ソフトウェアの機能を普通に表現したにとどまるものであり、原告がメニューの日本語化とヘルプファイルの作成の一部を行ったとしてもメニューの日本語表示は小さく読み取り難く、かろうじて読み取れたとしても日本語化において創作性のあるものとは認められない。また、ヘルプファイルの内容は本件記事には掲載されていないとして、この点についても原告の著作権又は著作者人格権は侵害されていないと判断しています。

結論として、原告の訂正公告掲載と情報開示の主張は認められていません。

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■コメント

原審(横浜地方裁判所小田原支部)の判決内容が確認できていないため、事実関係の詳細が不明です。

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■参考サイト

本件ソフトウェア EarMaster5

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2012年10月11日

「霊言」DVD複製頒布事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「霊言」DVD複製頒布事件

東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)9722損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.10.08
*キーワード:著作物性、映画の著作物、引用、時事の事件の報道、権利濫用

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■事案

宗教法人が製作した動画映像について、その複製頒布が引用等にあたるかどうかが争点となった事案

原告:宗教法人
被告:原告代表役員の配偶者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条3項、16条、2条1項10号、29条1項、32条1項、41条、114条の5、民法1条3項

1 本件各霊言の著作物性の有無
2 本件各霊言の著作権が原告に帰属するか
3 本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるか
4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるか
5 原告の著作権の行使が権利濫用に当たるか
6 差止め請求の成否
7 原告の損害及び損害額

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■事案の概要

『宗教法人である原告が,その代表役員の配偶者である被告に対し,別紙著作物目録記載の各動画映像(以下,同目録記載の番号順に「本件霊言1」「本件霊言2」といい,これらを併せて「本件各霊言」という。また,本件各霊言を収録したDVDを「本件DVD」という場合がある。)について,原告の著作権(複製権,頒布権)が侵害された旨主張して,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,本件DVD,その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止,(2)不法行為に基づく損害賠償請求として1028万3500円の一部である1000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年4月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H23.2 被告が原告らに対して名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟を提起
H23.2 被告が記者会見を開催、出席者全員に本件DVDとCD−Rを送付

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■判決内容

<争点>

1 本件各霊言の著作物性の有無

被告は、本件DVDとその活字起こしのワープロソフトデータファイルが収められたCD−Rを複製し、平成23年2月26日付け書簡を同封した上で宅配便により原告代表役員らに対する名誉毀損訴訟提起の記者会見の出席者全員に対して本件DVDとCD−Rを送付して頒布しました。
原告代表役員らの宗教行為を動画撮影して物に固定した本件各霊言について、その著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています。
裁判所は、題名、主題、列席者及び全体の構成を決定した原告代表役員の個性が表現されているとして、思想又は感情を創作的に表現したものであると認めています。
結論として、本件各霊言は、映画の著作物(2条3項)と認められています(31頁以下)。

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2 本件各霊言の著作権が原告に帰属するか

(1)本件各霊言の著作者

まず、本件各霊言の著作者について、裁判所は、本件各霊言は、原告代表役員が題名、主題、列席者及び全体の構成を決定したのであるから、原告代表役員が本件各霊言の「制作、監督、演出…を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文)であると認めています(36頁以下)。

(2)本件各霊言の映画製作者

そして、本件各霊言の映画製作者(著作権法2条1項10号)については、「映画の著作物を製作する意思を有し,当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者と解するのが相当である」(36頁)とした上で、本件各霊言を製作する意思を有し、本件各霊言の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体は、原告であると認めるのが相当であるから、原告が本件各霊言の映画製作者であると裁判所は判断しています。

(3)本件各霊言の著作権

原告代表役員は、本件各霊言の題名、主題、列席者及び全体の構成を決定し、自ら列席者と対話しているのであるから、原告代表役員が原告に対して本件各霊言の製作に「参加することを約束」(著作権法29条1項)していたと認めるのが相当であると裁判所は判断しています(36頁以下)。

結論として、本件各霊言の著作者は原告代表役員であり、本件各霊言の映画製作者は原告であり、本件各霊言の著作者である原告代表役員は、本件各霊言の映画製作者である原告に対して本件各霊言の製作に参加することを約束しており、本件各霊言の著作権は原告に帰属すると判断されています(著作権法29条1項)。

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3 本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるか

被告は、本件複製頒布行為が32条1項の引用に当たるとして、名誉毀損訴訟の提訴記者会見における説明、批判、反論等(説明資料である「訴状の概要」を含む)が引用表現であり、本件各霊言が被引用著作物であると主張しました(37頁以下)。
この点について、裁判所は、複製頒布物が1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられ、また伝達媒体も異なることから引用に当たらないと解する余地もあるとしながらも、「仮に」として引用の成否を判断しています。
そして、引用が目的上正当な範囲で行われたかどうかについて、裁判所は、被告が名誉毀損と主張する部分が、本件各霊言の一部にすぎないことや、名誉毀損とは関係のない内容も多数含まれていることから、本件各霊言全体を複製・頒布して利用した本件複製頒布行為について、説明、批判、反論等の目的との関係で、社会通念に照らして正当な範囲の利用であると解することはできないと判断、さらに公正な慣行にも合致しないとして引用の成立を認めていません。

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4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるか

被告は、本件各霊言による名誉毀損事件という時事の事件の当事者(被害者)として、事件報道に従事する報道機関等に対し記者会見を開催して事実関係を説明し報道を促すに当たって、当該事件を構成する著作物である本件各霊言を収録した本件DVDを提供したものであるから、自ら報道の目的上正当な範囲内において著作物を複製したものとして、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用を受けると主張しました(44頁以下)。
この点について裁判所は、
『著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は「写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
 そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。』(44頁)
として、41条の適用を否定しています。

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5 原告の著作権の行使が権利濫用に当たるか

被告は、原告の権利主張の目的は、著作権もしくは著作権法が想定する著作物の財産的価値の維持・擁護に向けられたものではなく、もっぱら被告の正当な言論活動、原告が著作権を標榜する名誉毀損的言辞に対する反論を表面上著作権行使に名を借りて抑圧、妨害する目的に出たものであることなどを指摘して、原告の著作権の行使が権利濫用であると主張しました(45頁以下)。
しかし、裁判所は、抑圧、妨害する目的を認めるに足りる証拠もないなどとして、権利濫用の主張を認めていません。

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6 差止め請求の成否

被告による本件複製頒布行為が原告の有する著作権(複製権、頒布権)を侵害するものとされ、本件DVD、その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止を求める著作権法112条1項に基づく差止請求が認められています(46頁)。

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7 原告の損害及び損害額

原告は、被告による複製頒布行為により本件各霊言がインターネット等に流出する危惧を持ち、インターネット監視業者に監視業務を依頼して28万3500円の費用を支払った点で損害があると主張しました。
しかし、裁判所は、被告の違法行為との間に相当因果関係のある損害と認めることはできないと判断しています(47頁以下)。
そして、本件DVDが頒布を予定していなかったことから、著作権法114条の5に基づき相当な損害額として30万円を認定しています。
そのほか、弁護士費用相当額として30万円が認められています。

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■コメント

引用(32条1項)の成否について記者会見当日ではない後日の配布資料について問題となった点や時事の事件の報道(41条)の成否について報道の主体性が判断されている点が参考になる事案です。
報道の自由利用については、著作権法上、39条(時事問題に関する論説の転載等)や40条(政治上の演説等の利用)、また32条でも「報道」目的の引用が規定されていますが、ベルヌ条約や旧法を踏まえた41条の沿革からすれば、41条の自由利用は記者会見する側の者への適用場面ではないと考えられます。

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■参考文献

半田正夫、松田政行編「著作権法コンメンタール2」(2009)337頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)286頁以下
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2012年10月09日

韓流DVD販売契約解除事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

韓流DVD販売契約解除事件

東京地裁平成24.7.11平成22(ワ)44305損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.10.05
*キーワード:二次的著作物、頒布権、ライセンス契約、解除、損害

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■事案

韓流スターが出演するDVD商品についてライセンサーと卸業者間の販売契約解除に伴いサブライセンシーである販売取扱店の販売行為の著作権侵害性が争点となった事案

原告:映像制作会社(韓国法人)
被告:映像音楽ソフト会社(日本法人)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法11条、26条、114条2項、3項、112条1項、民法545条1項但書

1 原告の著作権の有無
2 本件解除の有効性
3 原告の頒布権は消尽しているか
4 被告は解除前の第三者として保護されるか
5 被告の故意過失
6 損害論
7 差止めの成否

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■事案の概要

『別紙物件目録記載1ないし4のDVD商品(以下,パッケージを含めたDVD商品全体を「本件商品1」のようにいい,本件商品1ないし4を合わせて「本件商品」という。)の映像(本件商品のDVDに固定された一連の映像であり,音声・音楽・字幕を含む。以下「本件映像」という。)の著作権を有すると主張する原告が,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件商品の販売,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条,著作権法114条2項又は3項に基づき,損害617万5000円及び弁護士費用61万7500円の合計679万2500円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成23年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H19.6 原告がMBCとテレビプログラム利用契約締結
H19.8 被告と訴外JCIが本件DVD頒布契約締結
H19.9 原告がJCIと本件DVD販売契約締結
H19.9 JCIが原告に代金の一部となる1184万円を支払う
H20.1 原告がJCIに本件DVDを全数引き渡す
H20.2 JCIが原告に不良品の通知
H20.2 被告が本件DVDを販売開始
H20.4 原告がJCIに販売契約の解除の意思表示

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■判決内容

<争点>

1 原告の著作権の有無

(1)準拠法

原告が韓国法人であるため、前提として準拠法が検討されています(10頁以下)。差止請求、損害賠償請求の準拠法については、結論としては日本法が適用されると判断しています(ベルヌ条約5条(2)、法適用通則法17条、7条)。

(2)本件映像の著作権

本件商品であるDVDに収録された映像は、韓流スターが出演した韓国のTVトーク番組「パク・サンウォンの美しいTV顔」(本件プログラム)について、原告が原告の費用において日本語字幕を付け、音楽を差し替えて17名の韓国人俳優・女優の出演した回を選択し、本件映像に収録すべき場面を選択して編集しDVD化したものでした。
裁判所は、結論として、本件映像について本件プログラムの二次的著作物性を肯定し、原告が本件プログラムに新たに加えた創作的部分については、映画の著作物である本件映像の映画製作者であると認められる原告が単独で著作権を有しているが、本件プログラムと共通しその実質を同じくする部分については、原告の著作権は及ばないと判断しています。

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2 本件解除の有効性

本件商品の一部に不良品があったことを契機として訴外JCIは原告に対して販売契約に基づく残代金の支払いをしていませんでしたが、原告がJCIに引渡し済みの本件商品3万7000枚のうち3枚の不良品が認められる以上には瑕疵が認められなかったことから、JCIに債務不履行が認められています(13頁以下)。そして、原告の無催告解除、解除の意思表示が肯定されており、本件販売契約は、平成20年4月17日に原告の解除により無効となったと判断。本件販売契約による原告からJCIへの頒布許諾も無効となったものとされています。

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3 原告の頒布権は消尽しているか

被告は、原告の頒布権は原告からJCIに対する本件商品の譲渡により消尽していると主張しました。しかし、裁判所は、公衆に提示することを目的としない映画著作物の頒布権について、いったん適法に譲渡されるとその目的を達成したものとして消尽し、その後の再譲渡にはもはや著作権の効力は及ばないとする最高裁判例(中古ゲームソフト事件 最判平成14年4月25日)に言及した上で、原告からJCIに対する本件販売契約が債務不履行により有効に解除されており、適法な第一譲渡があったとはいえず、本件において消尽を論ずる余地はないと判断しています(15頁以下)。

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4 被告は解除前の第三者として保護されるか

被告は、民法545条1項ただし書の「第三者」に当たり、原告は本件解除により被告の権利を害することはできず、原告の被告に対する損害賠償請求は認められないと主張しました。
しかし、裁判所は、ここで「第三者」とは、解除前において契約の目的物につき別個の新たな権利関係を取得した者であって、対抗要件を備えた者をいうと示した上で、被告は解除前にJCIから頒布許諾を受けていたが、原告からJCIに対する頒布許諾とJCIから被告に対する頒布許諾とは別個の債権的な法律関係であるとして、被告が解除された本件販売契約の目的物につき新たな権利関係を取得した者ということはできず、また被告の権利は対抗力を備えたものでもないことから、被告は民法545条1項ただし書にいう「第三者」として保護される余地はないと判断しています(16頁)。

結論として、被告は、本件解除によりJCIが頒布権原を失ったことで、JCIから利用許諾に基づく頒布権原を原告に対抗することができなくなり、被告は原告の著作物を無許諾で頒布したことになると判断されています。

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5 被告の故意過失

本件解除前の頒布行為については、被告に過失はなく、解除通知の参照送付を受けた時点(平成20年4月17日)以降は解除の可能性を認識したとしてその後の被告の頒布行為については少なくとも過失があると認められています(16頁以下)。

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6 損害論

損害論について、裁判所は、114条2項に基づき、被告の得た利益を算定してます(17頁以下)。

平成20年4月17日以降の販売枚数 合計2321枚
JCIからの仕入額 1880円(1枚あたり)
直販価格      3800円
卸販売価格     2850円
粗利         970円から1920円
変動経費         不明
被告の利益      190円
原告寄与度     50パーセント(二次的著作物)

2321枚×190円×0.5=22万0495円(税別)

合計 22万0495円

なお、114条3項に基づき使用料相当額を1枚あたり50円としても算定していますが、同条2項での算定額を上回るものではないとの判断です。

そのほか、弁護士費用として、2万2050円(損害額の10パーセント相当額)が認定されています。

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7 差止めの成否

被告の元に本件商品の在庫が存在することから、本件商品の販売、頒布の差止めが112条1項に基づき認められています(19頁以下)。

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■コメント

DVD商品に関する日本国内での独占的販売代理店(サブライセンシー)となった被告にとっては、国内総代理店(マスターライセンシー)の債務不履行によって火の粉を被ってしまったような事案になります。

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■追記(2013/4/19)

『頒布権の消尽を考える場合には、「適法複製物」の譲渡であることが重要であって、その譲渡が法的形式において「有効性」であることが重要な訳ではない』として判旨に疑問を呈する見解として、山本隆司「山本隆司弁護士の著作権談義 第7回頒布権の消尽」『公益社団法人日本複製権センター(JRRC)メールマガジン』(2013/4/19配信第10号)参照
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2012年10月05日

「北朝鮮の極秘文書」損害賠償請求事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求等控訴判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「北朝鮮の極秘文書」損害賠償請求事件(控訴審)

知財高裁平成24.9.10平成24(ネ)10022損害賠償請求、謝罪広告掲載等反訴請求控訴、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      池下 朗
裁判官      古谷健二郎

*裁判所サイト公表 2012.9.28
*キーワード:編集著作物性、複製権、翻案権、譲渡権、侵害みなし行為、消滅時効、名誉毀損

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■事案

朝鮮史資料集の無断掲載書籍の著作権侵害性や名誉毀損の成否が争点となった事案の控訴審

控訴人兼附帯被控訴人:作家
被控訴人兼附帯控訴人:出版社、出版社元代表取締役

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■結論

本訴一部変更・反訴棄却、附帯控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、27条、26条の2、19条、20条、113条1項2号、民法724条

1 原告書籍収録文書の編集著作物該当性、翻案権侵害の有無、著作者人格権侵害の有無
2 被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
3 被告らが著作権等侵害の「情を知って」韓国書籍を販売したか
4 消滅時効の成否
5 原告の損害
6 不当利得の有無
7 反訴請求について

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■事案の概要

『原告は,次の原告書籍につき編集著作物の著作権を有すると主張し,韓国の高麗書林名義で出版された次の韓国書籍について,原告に無断で原告書籍の一部を掲載したものであり,被告らが韓国の高麗書林と共謀して同書籍を製作・販売したことにより著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたなどと主張して,被告会社と,韓国書籍が出版された当時の被告会社の代表取締役であった被告 Y に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得返還を請求する(本訴事件)。』

『これに対し,被告らは,原告の執筆した日刊・大阪日日新聞の記事や,原告が朝鮮史研究会の会場において来場者に配布したビラ等に,被告らが原告書籍を無断で盗用し,著作権侵害の海賊版(韓国書籍)を製作・販売したかのような内容が記載されていることによって,名誉及び信用を毀損されたと主張して,謝罪広告の掲載と不法行為に基づく損害賠償を求めている(反訴事件)。』

『原判決は,本訴につき,多数の文書を収録した部分(原告書籍収録文書)と原告が執筆した解説文(原告書籍解説)からなる原告書籍に関して,原告書籍収録文書が編集著作物であることと,韓国書籍の解説文が原告書籍解説の翻案であることを認めた上で,被告らには韓国書籍を販売したことについて過失があるとして譲渡権侵害の不法行為を認め,30万円の限度で請求を認容した。反訴については,記事等の内容が真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえないとして,損害賠償請求を各33万円の限度で認容し,謝罪広告請求はその必要がないとして棄却した。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 原告書籍収録文書の編集著作物該当性、翻案権侵害の有無、著作者人格権侵害の有無

控訴審でも、原告書籍収録文書は編集著作物であって韓国書籍収録文書は原告書籍収録文書の複製物に当たり、また、韓国書籍解説は原告書籍解説の翻案権、さらに著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するものと判断しています(7頁)。

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2 被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか

被告らと韓国高麗書林との深い関係を示す多数の間接事実が認められるとしながらも、被告らが韓国書籍の製作について、韓国高麗書林と共謀、共同、協力等をしたことに関する具体的な事実を認定するに足りる証拠はないとして、原審同様、控訴審は被告らが共謀して韓国書籍を製作したことを原因としては原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したと認めていません(7頁以下)。

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3 被告らが著作権等侵害の「情を知って」韓国書籍を販売したか

韓国書籍について、韓国高麗書林が他人の著作権及び著作者人格権を侵害する行為によって作成した物であることを被告らは認識した上で、これを輸入・販売していたと認めるべきであるとして、控訴審は、韓国書籍の輸入・販売に係る著作権法113条1項2号(侵害みなし行為)に基づく権利侵害を認めています(11頁以下)。

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4 消滅時効の成否

消滅時効の成否について、控訴審は、著作権法113条1項2号に関しては、単に侵害品を販売したというだけでは侵害とみなされず、「情を知って」販売した場合に初めて侵害とみなされるのであるから、単に侵害品が販売されている事実を認識しただけで権利行使が可能になったということはできないと説示。そして、被告らの主張する平成14年4月4日以後の時点において、被告らが「情を知って」販売したことまで原告が認識し得たことを認めるに足りる証拠はないとして、消滅時効の成立を否定しています(13頁)。

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5 原告の損害

(1)著作権侵害による損害
(ア)逸失利益 312万3759円(114条1項)
(イ)実損、慰謝料 否定
(ウ)弁護士費用 31万円
(2)著作者人格権侵害による慰謝料 20万円

以上の合計として、363万3759円が損害額として認定されています(13頁以下)。

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6 不当利得の有無

原審同様、不当利得の主張は認められていません(15頁)。

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7 反訴請求について

原審同様、控訴審でも本件新聞記事及び本件ビラ等が被告らの名誉ないし信用を毀損するものと判断されています。
もっとも、その内容が真実であると信ずるについて相当の理由があったとして、違法性がないと判断。反訴請求は認められていません(15頁以下)。

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■コメント

原審では、本訴請求について113条1項2号の侵害みなし行為性が否定されて譲渡権侵害性の限りで侵害性が肯定されていましたが、控訴審では侵害みなし行為性が肯定されて著作権侵害だけでなく著作者人格権侵害も肯定されています(なお、控訴審では、譲渡権侵害の請求については、選択的併合関係にあるとして判断されていません)。
また、名誉・信用毀損を争点とする反訴請求についても、原審の判断とは異なりその成立が否定されています。

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■過去のブログ記事

2012年2月23日記事 原審
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2012年09月12日

「今日の治療薬 解説と便覧2007」編集著作物事件−著作権 判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「今日の治療薬 解説と便覧2007」編集著作物事件

東京地裁平成24.8.31平成20(ワ)29705出版差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      高橋 彩
裁判官      上田真史

*裁判所サイト公表 2012.09.10
*キーワード:編集著作物性、選択、配列、創作性

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■事案

薬剤情報に関する書籍の編集著作権を侵害したかどうかが争点となった事案

原告:出版社
被告:医療情報サービス会社

原告書籍:「今日の治療薬 解説と便覧 2007」
被告書籍:「治療薬ハンドブック 2008 薬剤選択と処方のポイント」

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項

1 原告書籍便覧部分の編集著作物性及び被告による著作権侵害の有無

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■事案の概要

『別紙書籍目録1記載の書籍(以下「原告書籍」という。)を発行した原告が,同目録2記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を発行した被告に対し,被告書籍の薬剤便覧部分は,素材を薬剤又は薬剤情報とする原告書籍の編集著作物を複製又は翻案したものであり,被告が被告書籍を印刷及び販売する行為は上記編集著作物について原告が保有する著作権(複製権及び譲渡権(いずれも著作権法28条に基づくものを含む。以下同じ。))の共有持分の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

S52.8 原告書籍初版発行
H19.2 改訂第29版発行
H20.1 被告書籍発行

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■判決内容

<争点>

1 原告書籍便覧部分の編集著作物性及び被告による著作権侵害の有無

原告書籍(本文の総頁数1140頁)は、便覧部分において、漢方薬を除く薬剤(一般薬)については「薬剤名」「組成・剤形・容量」「用量」「備考」の四つの項目欄を設けたものでした。また、漢方薬については「薬剤名」「組成・容量・〔1日用量〕」「備考」の三つの項目欄を設け、各薬剤について一覧表形式により薬剤情報を掲載しているものでした。
この一般薬に係る掲載部分(原告書籍一般薬便覧部分)と漢方薬に係る掲載部分(原告書籍漢方薬便覧部分)の編集著作物性を前提に、原告は被告による被告書籍の出版行為等について編集著作権(著作権法12条1項)の侵害を争点としました。

(1) 原告書籍一般薬便覧部分について

(a)「薬剤」選択の創作性等

原告は、原告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な「薬剤」の選択に当たり、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている全ての薬剤を母集団とし、本件分類体系を前提としてこれに関連付けて当該薬剤が本件分類体系のいずれに分類されるかという観点を考慮し、臨床現場での重要性や使用頻度、原告書籍の執筆者の学識や経験等に基づく意向、読者の要望等の基準に従って選択を行い、かつ、選択された薬剤についてその重要度や使用頻度等に応じて赤丸表記とするもの、小文字表記とするものを決定していること、などを根拠として原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の選択において創作性を有する編集著作物に該当する等を主張しました(41頁以下)。

この点について裁判所は、個々の具体的な薬剤の選択結果や薬剤便覧の分類体系に従って行われた個々の具体的な薬剤の選択結果において、編者の個性が表れていると認めることができる場合があるものといえるとした上で、原告書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果と被告書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果とを対比し、原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているかどうかを検討しています。

結論としては、原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているものと認めることはできないとして、原告書籍一般薬便覧部分の複製又は翻案を否定しています。

(b)「薬剤」配列の創作性等

また、原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の配列の創作性等の点についても、裁判所は、原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の配列において創作性が認められるとしても、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列における表現は、原告書籍一般薬便覧部分の創作的表現と類似しているものと認められないとして、配列の点においても原告書籍一般薬便覧部分の複製又は翻案を否定しています。

(2) 原告書籍漢方薬便覧部分について

裁判所は、原告書籍漢方薬便覧部分における「薬剤」の選択は、ありふれたものであって創作性を認めることができないとし、また、「漢方処方名」の配列の創作性等についても、編集著作物に該当するものと認められないと判断。
さらに「漢方薬薬剤情報」の選択や配列においても創作性を有する編集著作物に該当するものと認められないとして原告書籍漢方薬便覧部分の複製又は翻案を否定しています(55頁以下)。

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■コメント

被告プレスリリースを拝見すると、仮処分の段階では、原告書籍漢方薬便覧部分の漢方3社の商品を優先して選択した部分について著作権侵害性が肯定されていたようです。
薬剤情報のデータベースにフリーライドしているのであれば一般不法行為論の検討余地もあるかと思いますが、控訴審の経緯に注目したいと思います。

なお、原告による別件の著作権関連訴訟としては、「入門漢方医学」書籍表紙デザイン翻案事件(東京地裁平成22.7.8平成21(ワ)23051著作権侵害差止等請求事件)が記憶に新しいところです。

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■参考サイト

株式会社じほう:株式会社南江堂との訴訟に係る東京地方裁判所の判決について(平成24年8月31日 )
プレスリリースPDF

written by ootsukahoumu at 09:49|この記事のURLTrackBack(0)